58 / 86
再会
しおりを挟む
教会に辿り着いたレイナが見たものは、愛する男の両隣で微笑むクラスメイトの姿だった。
ウェディングドレスと呼ぶには豪華さに欠けるが、様々な花の模様が刺繍された白のドレスは、見ている者の心を和ませる。
本当ならばあそこに立っているのは自分のはず、そんな気持ちも湧いてくるが間に割って入る気にはなれなかった。
なぜなら男が幼い赤子を抱きかかえているのが、レイナの瞳に映ったからである。
彼女には一目でそれが、自分とコージの子どもだと分かった。
そして2人のクラスメイトがあの場に居る理由も、女の勘でおおよそ理解する。
(そう……私の子どものために、あなた達はコージのお嫁さんになったのね)
ほんの少しだけ寂しい表情を浮かべながら、レイナは教会に背を向けた。
これ以上ここに居ると、いらぬ騒ぎを起こすかもしれない。
3人と子どもの幸せを願いながら、不死の世界で暮らそう。
そんな彼女のささやかな望みは、予想もしない形で叶えられることとなる。
「紅葉院 玲奈(こうよういん れいな)、死んだはずのお前が何でここにいる?」
「……ディザイア」
レイナの背後に、いつの間にかディザイアが立っていた。
おそらく街の入り口にいたオークが、彼に報告したのだろう。
彼の力を拝借すれば、逃げることも倒すことだって出来る。
けれどもレイナにそんなつもりはない、彼女は既に死んだ身。
本来いるべき場所に戻るのが、正しい選択なのだ。
「もう1度死ぬ前に、少しだけ話をしない? 私が何故ここに居るのか、説明をしておきたいの」
ディザイアは無言で頷くと、レイナを銀鷲亭へと案内したのである。
「……そうか、櫻木は不死の者として蘇っているのか」
「ええ、あとは河合さんや伊勢谷くんも櫻木くんの眷属にされているわ。 ただ2人とも隙を窺っているようだから、本心から付き従う気は無いみたいよ」
レイナから聞かされた情報に、ディザイアはそれほど驚かなかった。
むしろカルマなら櫻木をきっと利用すると、本能的に気付いていたのである。
「それで……、お前はこれからどうするつもりだ?」
「安藤さんや佐々木さんなら、私とコージの子を大切に育ててくれるはず。 4人の生活を邪魔するほど、私は無粋じゃないわ」
本当は今すぐにでも駆け寄って自分の子を抱き上げたいのだと、ディザイアは彼女の気持ちを理解していた。
しかし今の姿がまやかしで骨だけの化け物となっていることを、コージには絶対に知られたくない。
そうなるとレイナが選ぶ道は、1つしかなかった。
「ねえ、ディザイア。 コージ達に見つからない場所で、私を殺してくれない? 私をもう1度、永久に眠らせてほしいの」
「本当にそれでいいのか?」
「あんなに幸せいっぱいの結婚式を間近で見て、私も少しだけどコージと式を挙げた気持ちを味わえたわ。 この気持ちを忘れる前に、静かに眠りたいの」
レイナの願いを叶えるべきだと、ディザイアは考える。
街の外へ行こうと言うと、彼女も大人しく従う。
目立たないように人通りの少ない道を進んでいると、門の前で思いがけない人物が立っていた。
「玲奈さん、私達に何も言わずに子どもを押しつけて逝ってしまうの? ちょっと虫が良すぎると思わない?」
「安藤さん、佐々木さん……」
門の前で安藤 沙織(あんどう さおり)と佐々木 小梅(ささき こうめ)が、2人を待ち構えていたのである。
「お前達、いつから紅葉院が居ることに気付いていた?」
「教会から出てきた時かな? 最初に見た時はビックリしたわよ、でもディザイアが話しかけているのを見てこうなると思ったから、早めに式を切り上げてきたの」
(さすが我らが参謀は先を読んでいる、しかしよくあんな遠い場所から気付けたな)
そこまで考えてディザイアは、沙織に鷹目を与えたままになっているのを思い出し苦笑いを浮かべた。
「あと私達も、もうすぐあなたの子の世話が出来なくなりそうなの。 だから、自分の子どもの世話くらい自分でしてちょうだい」
沙織が手招きすると門の影から、コージがレイを抱いて現れる。
「レイナ……。 君と私の子だ、名前はレイと名付けた。 漢字にすると玲、君の名から1字貰った。 母親が居ないと、この子はきっと寂しがってしまう。 だから私と一緒に、この街で育てよう」
「……無理よ、だって私の本当の姿はコレなのよ」
レイナは、創造で身に付けた生身の部分を解除した。
骨だけで動く彼女を見て、何も知らない住人が悲鳴をあげる。
コージはそれを気にすることもなく、思いきり抱きしめた。
「君がどんな姿になろうとも、私が愛した女性に変わりはない。 だからこれからも私は君を愛し続ける、私の妻は君だけだ!」
「あ~あ、大勢の前で結婚式を挙げておいて言うことがコレだよ? 私達完全に2人の引き立て役だよね、小梅?」
「そうね。 でもこれが、1番良い形だと思う」
沙織と小梅がヤキモチを焼くフリをしながら、再会した2人を温かく見守る。
するとディザイアは、レイナのある変化に気付いた。
「おい、紅葉院。 お前……、俺以上の化け物になりかけているぞ」
「えっ!?」
思わず声をあげたのはコージ、父以上の化け物とはどんな存在になるのだろう?
ディザイアが見ているレイナの鑑定で、まず最初に変わったのはこれである。
【不死の女王レイナ】→【生殺与奪を得た淫魔 紅葉院 玲奈】
息子を搾り尽くしそうなその肩書きに、ディザイアは一抹の不安を覚えた……。
ウェディングドレスと呼ぶには豪華さに欠けるが、様々な花の模様が刺繍された白のドレスは、見ている者の心を和ませる。
本当ならばあそこに立っているのは自分のはず、そんな気持ちも湧いてくるが間に割って入る気にはなれなかった。
なぜなら男が幼い赤子を抱きかかえているのが、レイナの瞳に映ったからである。
彼女には一目でそれが、自分とコージの子どもだと分かった。
そして2人のクラスメイトがあの場に居る理由も、女の勘でおおよそ理解する。
(そう……私の子どものために、あなた達はコージのお嫁さんになったのね)
ほんの少しだけ寂しい表情を浮かべながら、レイナは教会に背を向けた。
これ以上ここに居ると、いらぬ騒ぎを起こすかもしれない。
3人と子どもの幸せを願いながら、不死の世界で暮らそう。
そんな彼女のささやかな望みは、予想もしない形で叶えられることとなる。
「紅葉院 玲奈(こうよういん れいな)、死んだはずのお前が何でここにいる?」
「……ディザイア」
レイナの背後に、いつの間にかディザイアが立っていた。
おそらく街の入り口にいたオークが、彼に報告したのだろう。
彼の力を拝借すれば、逃げることも倒すことだって出来る。
けれどもレイナにそんなつもりはない、彼女は既に死んだ身。
本来いるべき場所に戻るのが、正しい選択なのだ。
「もう1度死ぬ前に、少しだけ話をしない? 私が何故ここに居るのか、説明をしておきたいの」
ディザイアは無言で頷くと、レイナを銀鷲亭へと案内したのである。
「……そうか、櫻木は不死の者として蘇っているのか」
「ええ、あとは河合さんや伊勢谷くんも櫻木くんの眷属にされているわ。 ただ2人とも隙を窺っているようだから、本心から付き従う気は無いみたいよ」
レイナから聞かされた情報に、ディザイアはそれほど驚かなかった。
むしろカルマなら櫻木をきっと利用すると、本能的に気付いていたのである。
「それで……、お前はこれからどうするつもりだ?」
「安藤さんや佐々木さんなら、私とコージの子を大切に育ててくれるはず。 4人の生活を邪魔するほど、私は無粋じゃないわ」
本当は今すぐにでも駆け寄って自分の子を抱き上げたいのだと、ディザイアは彼女の気持ちを理解していた。
しかし今の姿がまやかしで骨だけの化け物となっていることを、コージには絶対に知られたくない。
そうなるとレイナが選ぶ道は、1つしかなかった。
「ねえ、ディザイア。 コージ達に見つからない場所で、私を殺してくれない? 私をもう1度、永久に眠らせてほしいの」
「本当にそれでいいのか?」
「あんなに幸せいっぱいの結婚式を間近で見て、私も少しだけどコージと式を挙げた気持ちを味わえたわ。 この気持ちを忘れる前に、静かに眠りたいの」
レイナの願いを叶えるべきだと、ディザイアは考える。
街の外へ行こうと言うと、彼女も大人しく従う。
目立たないように人通りの少ない道を進んでいると、門の前で思いがけない人物が立っていた。
「玲奈さん、私達に何も言わずに子どもを押しつけて逝ってしまうの? ちょっと虫が良すぎると思わない?」
「安藤さん、佐々木さん……」
門の前で安藤 沙織(あんどう さおり)と佐々木 小梅(ささき こうめ)が、2人を待ち構えていたのである。
「お前達、いつから紅葉院が居ることに気付いていた?」
「教会から出てきた時かな? 最初に見た時はビックリしたわよ、でもディザイアが話しかけているのを見てこうなると思ったから、早めに式を切り上げてきたの」
(さすが我らが参謀は先を読んでいる、しかしよくあんな遠い場所から気付けたな)
そこまで考えてディザイアは、沙織に鷹目を与えたままになっているのを思い出し苦笑いを浮かべた。
「あと私達も、もうすぐあなたの子の世話が出来なくなりそうなの。 だから、自分の子どもの世話くらい自分でしてちょうだい」
沙織が手招きすると門の影から、コージがレイを抱いて現れる。
「レイナ……。 君と私の子だ、名前はレイと名付けた。 漢字にすると玲、君の名から1字貰った。 母親が居ないと、この子はきっと寂しがってしまう。 だから私と一緒に、この街で育てよう」
「……無理よ、だって私の本当の姿はコレなのよ」
レイナは、創造で身に付けた生身の部分を解除した。
骨だけで動く彼女を見て、何も知らない住人が悲鳴をあげる。
コージはそれを気にすることもなく、思いきり抱きしめた。
「君がどんな姿になろうとも、私が愛した女性に変わりはない。 だからこれからも私は君を愛し続ける、私の妻は君だけだ!」
「あ~あ、大勢の前で結婚式を挙げておいて言うことがコレだよ? 私達完全に2人の引き立て役だよね、小梅?」
「そうね。 でもこれが、1番良い形だと思う」
沙織と小梅がヤキモチを焼くフリをしながら、再会した2人を温かく見守る。
するとディザイアは、レイナのある変化に気付いた。
「おい、紅葉院。 お前……、俺以上の化け物になりかけているぞ」
「えっ!?」
思わず声をあげたのはコージ、父以上の化け物とはどんな存在になるのだろう?
ディザイアが見ているレイナの鑑定で、まず最初に変わったのはこれである。
【不死の女王レイナ】→【生殺与奪を得た淫魔 紅葉院 玲奈】
息子を搾り尽くしそうなその肩書きに、ディザイアは一抹の不安を覚えた……。
0
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(11/21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる