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死闘の幕開け

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 ある日の夕刻、ブレサの街から120人ほどの武装した兵士が出立した。
 兵士達を率いているのは、こちらの世界とはあきらかに違う技術によって作られた服を着た若い男女4人。

 4人の内の1人、金髪に染めた長い髪の娘が居丈高な態度で急に命令し始めた。

「街に忍び込んで若い女の子を犯すような奴、街まで連れてかえる必要無いわ。 首だけ持ち帰って、わたし達も勇者の仲間入りを宣言するのよ」

「例の母親は『目の前で裁かれる姿を見たい』と言っていたが、その願いを叶えないつもりなのか? 稲原」

「あんたバカ? あのいじめられっ子がわたし達と同郷だってことが知られたら一体どうなるか、わたし達にも復讐の矛先が向くかもしれないのよ? バレる前に殺しておくのが、1番安心なの。 あと、もう1度言っておくけど……」

 稲原と呼ばれた金髪の娘は軽く深呼吸すると、街を出る際に伊勢谷から聞かされた情報を仲間3人に思い出させる。

「アイツは校長のくそやろうと陰険ババァの手平を既に殺しているの、油断しているとわたし達も同じ目に遭うから気を引き締めなさい!」

 伊勢谷がもたらした情報は、宿に集まっていたクラスメイト全員を戦慄させた。

 勝手に自殺した元クラスメイトが、異形の豚の化け物として転生している。
 そして逆恨みから校長と担任にその牙を向け、尊い命を奪った。

 人間ではなくなった化け物を、このまま野放しにしておくことは出来ない。
 そう考えた稲原達4人は討伐に出ようとしていた兵士達と合流して、ディザイアの居る拠点を目指して出発したのである。

 これらがすべて櫻木によって植え付けられた偽の記憶だということに、気付いた者は誰もいなかった。
 こちらの世界に喚ばれた際に与えられた力、その強さを過信していたのである。
 その結果が自我を持った彼の言いなりとなる人形の出来上がり、つまり今回の4人は櫻木からディザイアに贈られた新たな貢ぎ物なのだ。

 何も知らない彼女らは復讐に燃える兵士達と共に、オークの拠点がある山を目指し行軍を開始したのである。



 野営しているところを襲撃されたのは、その日の深夜のことだった。
 移動の疲れからかオーク達を舐めきっていたのか、周囲から火の手が上がった時にはすでに、見張りの兵士達はオークに始末されていたのである。

「みんな、落ち着いて! あわてずに周囲に水をまき延焼を防いで、木を切り倒して防火帯を作るのも効果的よ」

 そう指示を与えていたのは4人の中の1人、水尾 舞(みなお まい)。
 リーダー格の稲原 聡美(いねはら さとみ)は寝間着だった為、陣幕の中でまだ着替えていた。

(街を出て早々に夜襲を受けるだなんて、間抜けすぎるわ。 おそらく佐伯君は街の近くに、見張りを潜ませていたにちがいない)

 水尾は夜襲された理由を分析し始めたが、この場合必要なのは理由の分析ではなく夜襲に対する反撃である。
 彼女の部下となった兵士達は指揮系統の遅れから逃げ場を失い、燃えさかる炎の中で生きたまま焼かれていった。

 次々と焼け死んでいく兵士達を見て水尾が硬直していると、背後にいた護衛の兵士が断末魔の叫び声をあげる。
 振り返るとそこには、こちらの世界にきて初めて遭遇するオークの姿があった。

「まさかコイツらを率いていたのがお前だったとはな、水尾 舞。 お前には色々と聞いておきたいことがあるから、無駄な抵抗はやめて大人しくするんだな」

「佐伯君!?」

 水尾は叫びながら、胸元から数枚の紙を取り出す。
 それをディザイアに向けて投げるとそれらは瞬く間に紙飛行機となり、その紙の翼は鋭利な刃物となって彼に襲いかかった。

「どう? その紙飛行機はカミソリよりも切れ味が良く、そして鉄のように硬い。 校長先生や手平先生を殺したことを悔いながら、命をもって償いなさい!」

 自信ありげに語る彼女を見ながら、ディザイアはある確信を得る。

(やはりあのドローンを使って、俺達を監視していたみたいだな)

 その確信を裏付けるように、上空では1台のドローンが夜襲の様子をモニタリングしていた。

「あちゃ~! こりゃ稲原達でもダメっぽいな。 とりあえず4人の生死を見届けてから、この場を離れるとするか」

 宿の一室から監視していた伊勢谷は、返り討ちにあっている同級生達の様子を見て呆れながら呟く。

 すると地上の木々の間から、小さい火の玉が操縦しているドローンめがけて飛んでくるのが目に入った。

「そんな攻撃で、俺のドローンを落とせるわけないっしょ! 無駄な攻撃ご苦労様」

 伊勢谷はその攻撃を紙一重でかわそうとした、しかしドローンの真横を通り過ぎる瞬間火の玉は軌道を直角に変え、直撃されたドローンは火に包まれて地上へと落ちていったのである!



「そんなバカな!? 急に軌道を変えるなんてありえない、いったい誰がこんな真似をしやがる」

 後方で待機させておいた予備の監視用ドローン数機を飛ばして、攻撃してきた者の顔を確認しに向かわせた。
 暗い木々の間を華麗に舞いながら飛ぶドローン、しかしその動きすら無視するように新たに放たれた火の玉が、1機また1機とドローンを落としていく。

 最後の1機が落とされる刹那、伊勢谷の瞳に映ったのは同級生の山田が手に入れたはずの杖を握る安藤 沙織の姿だった。

「あ、安藤、てめえが俺のドローンを落としやがったのか!? 佐伯の味方になったのなら、もう容赦はしねえ。 その身体、ミンチにしてやるから覚悟しろ!」

 逆上した伊勢谷は最終手段として残しておいた、戦闘用ドローンを起動させる。
 プロペラは水尾の紙飛行機のように鋭利な刃物となっており、監視用カメラの下部には小型のガトリンクガンを装備。
 さらには小型の爆薬まで内蔵して、自爆攻撃すら可能となっている。

「いくらお前でも、これだけのドローンを一度に攻撃することは出来ない。 あの世で精々後悔するんだな!」

 死神の鎌をたずさえて、100機のドローンが空へと羽ばたいた。
 こうしてクラスメイト同士の、生死をかけた攻防が幕を開けたのである。
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