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また櫻井が屋上で勉強していやがったと思ったら、雑誌なんか読んでいやがった。しかも赤文字のファッション雑誌だったから邪魔してやろうと思った。
俺は隣にどかりと座り、奴の肩に頭を預けた。男のくせに平べったい肩をしている。俺の方が肉はあるみたいだったから憎々しい他なかった。
「なあ。お前、本当にオカマなんか?」
「そうよ」
「マジで? 中学生のくせに」
「オカマに年齢制限なんてないわよ」
「ふうん。本当に、女に興味ないわけか」
俺は興味半分でさらに擦り寄ってみた。櫻井は眼鏡の位置を直しながら、俺を横目で見下してきた。
その目だ。汚物を見るような目。正体不明の物体をうかがうように。海洋と同じように。俺を蔑んでいる。
「ビッチじゃあるまいし。もっと別な方法で誘ったらどう?」
「それに関しては否定しないとか」
「別に。あんたみたいなのが男とイチャコラするところなんて、あたしは想像できないし。それとも本当にビッチなの?」
「んな訳ねーだろチンカス野郎」
チンカス野郎は鼻で笑って「読書の邪魔しないでよ」と頭を置いている肩を揺すってきた。
「それで読書とか、幼稚」
「簡単な漢字を間違える方がバカだと思うけど」
「うるせえ、ガリ勉オカマ。ガリ勉ならンなもん読んでんじゃねーよ」
「ガリ勉はキャラ作りなの。別にあんたの前ぐらい自然体でいたっていいじゃない」
「他の奴が来たらどうすんだよ」
「その時は、これはあんたの私物だって言うわ」
「最低だな、マジで」
「その制服は私物なの?」
「はあ?」
「おさがり?」
「何でそうなんだよカス」
「まあいいわ、そんなことより」
メガネオカマは完全に雑誌から顔を逸らし、俺と向き合った。
「遺書は書きなおした?」
メガネオカマはしばしフェンスの上部を指差した。
「あそこまで登ったんだから、てっきり本気なんだと思ってたけど、違うの?」
「そんなに俺に死んで欲しいわけか」
「じゃなきゃあたしがカミングアウトした意味がなくなるじゃない」
狂っていやがる。オカマは男よりも女よりも感覚が違うのだろうとは思っていたが、こいつは格別に頭がいかれていやがるのだ。
「で、死ぬの? 死なないの?」
俺に死を催促してきやがる。もし遺書を書き損じていなければこの野郎は見捨てていたのだ。俺の死にざまに鼻白むことなく、フンとおざなりに笑い捨てるつもりでいたに違いあるまい。そして事件の目撃者として、説得を試みたが間に合わなかった、心を開いてくれなかったと涙ぐませて同情を誘い、人畜無害な心優しいガリ勉を演じ、先公の心証を良くしようという計画だったのだ。なんてクズだ。
俺は死にたかった。自分は一体何者なのか、人間であるのかもわからない。俺は人間の皮をかぶっているだけの、太陽になり損ないの何かだ。死ねば肉体から魂が抜け出る。そうすれば自分の正体がわかるだろう。四足だが、すっぽんですらない、どす黒い何かだ。
俺は死にたかった。生贄を捧げれば、もしかしたら太陽が戻ってくるかもしれない。どこからともなくひょっこりと、写真やビデオ映像通りの調子で帰って来るかもしれない。月が沈めば自然と太陽が昇るものだ。いや、俺は月なんかじゃない。この世界には太陽も月もないのだ。
俺は死にたかったし、その有り様を、謎の物体を学校の奴らに見せつけて、一生脳裏に焼き付けて苦しめてやりたいと思っている。ええかっこしいな××学校の華のイメージをぶち壊し、経営難になればいいと思っている。会長の孫娘は喘ぎ声の汚い男衆の便器になればいいと思っている。そしてこいつは存在自体がいやらしくてクソだから、俺を止められなかったことを永遠悔めばいいと思っていたのに。
命令されるのは鼻につくし癪に障る。
「今はやめとく。くそったれ」
「じゃあいずれ死ぬのね?」
「俺は死にたい時に死ぬ。オカマ野郎に指図されたくない」
オカマ野郎は素っ気ない「そ」の一言で、雑誌に目を落とした。俺は距離を置いた。男とぴったりひっつくなんて愚かだ。汚らしいオカマ菌が移るかもしれないというのに。
ついでに俺も退屈だから雑誌をのぞき込む。背が高いくせにヒールなんか履いて、それ以上高く見せてどうしたいのか理解できない。俺は背の低い女の方が好きだ。見下されなくて済む。
俺は隣にどかりと座り、奴の肩に頭を預けた。男のくせに平べったい肩をしている。俺の方が肉はあるみたいだったから憎々しい他なかった。
「なあ。お前、本当にオカマなんか?」
「そうよ」
「マジで? 中学生のくせに」
「オカマに年齢制限なんてないわよ」
「ふうん。本当に、女に興味ないわけか」
俺は興味半分でさらに擦り寄ってみた。櫻井は眼鏡の位置を直しながら、俺を横目で見下してきた。
その目だ。汚物を見るような目。正体不明の物体をうかがうように。海洋と同じように。俺を蔑んでいる。
「ビッチじゃあるまいし。もっと別な方法で誘ったらどう?」
「それに関しては否定しないとか」
「別に。あんたみたいなのが男とイチャコラするところなんて、あたしは想像できないし。それとも本当にビッチなの?」
「んな訳ねーだろチンカス野郎」
チンカス野郎は鼻で笑って「読書の邪魔しないでよ」と頭を置いている肩を揺すってきた。
「それで読書とか、幼稚」
「簡単な漢字を間違える方がバカだと思うけど」
「うるせえ、ガリ勉オカマ。ガリ勉ならンなもん読んでんじゃねーよ」
「ガリ勉はキャラ作りなの。別にあんたの前ぐらい自然体でいたっていいじゃない」
「他の奴が来たらどうすんだよ」
「その時は、これはあんたの私物だって言うわ」
「最低だな、マジで」
「その制服は私物なの?」
「はあ?」
「おさがり?」
「何でそうなんだよカス」
「まあいいわ、そんなことより」
メガネオカマは完全に雑誌から顔を逸らし、俺と向き合った。
「遺書は書きなおした?」
メガネオカマはしばしフェンスの上部を指差した。
「あそこまで登ったんだから、てっきり本気なんだと思ってたけど、違うの?」
「そんなに俺に死んで欲しいわけか」
「じゃなきゃあたしがカミングアウトした意味がなくなるじゃない」
狂っていやがる。オカマは男よりも女よりも感覚が違うのだろうとは思っていたが、こいつは格別に頭がいかれていやがるのだ。
「で、死ぬの? 死なないの?」
俺に死を催促してきやがる。もし遺書を書き損じていなければこの野郎は見捨てていたのだ。俺の死にざまに鼻白むことなく、フンとおざなりに笑い捨てるつもりでいたに違いあるまい。そして事件の目撃者として、説得を試みたが間に合わなかった、心を開いてくれなかったと涙ぐませて同情を誘い、人畜無害な心優しいガリ勉を演じ、先公の心証を良くしようという計画だったのだ。なんてクズだ。
俺は死にたかった。自分は一体何者なのか、人間であるのかもわからない。俺は人間の皮をかぶっているだけの、太陽になり損ないの何かだ。死ねば肉体から魂が抜け出る。そうすれば自分の正体がわかるだろう。四足だが、すっぽんですらない、どす黒い何かだ。
俺は死にたかった。生贄を捧げれば、もしかしたら太陽が戻ってくるかもしれない。どこからともなくひょっこりと、写真やビデオ映像通りの調子で帰って来るかもしれない。月が沈めば自然と太陽が昇るものだ。いや、俺は月なんかじゃない。この世界には太陽も月もないのだ。
俺は死にたかったし、その有り様を、謎の物体を学校の奴らに見せつけて、一生脳裏に焼き付けて苦しめてやりたいと思っている。ええかっこしいな××学校の華のイメージをぶち壊し、経営難になればいいと思っている。会長の孫娘は喘ぎ声の汚い男衆の便器になればいいと思っている。そしてこいつは存在自体がいやらしくてクソだから、俺を止められなかったことを永遠悔めばいいと思っていたのに。
命令されるのは鼻につくし癪に障る。
「今はやめとく。くそったれ」
「じゃあいずれ死ぬのね?」
「俺は死にたい時に死ぬ。オカマ野郎に指図されたくない」
オカマ野郎は素っ気ない「そ」の一言で、雑誌に目を落とした。俺は距離を置いた。男とぴったりひっつくなんて愚かだ。汚らしいオカマ菌が移るかもしれないというのに。
ついでに俺も退屈だから雑誌をのぞき込む。背が高いくせにヒールなんか履いて、それ以上高く見せてどうしたいのか理解できない。俺は背の低い女の方が好きだ。見下されなくて済む。
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