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3 妖犬と冬
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「あちー!ココ、どこか涼しい所に行こうよー」
風花と妖狐が出会って6回目の夏がやってきた
毎年のように決まった時期にやってくる風花
は身長も高くなり、女の特徴である体の膨らみも出てきた
それでも、どこかガサツで男勝りな所があるショートカットの髪型にパンツスタイルは変わらなかった
「風花は軟弱なんだよ。ここだって十分涼しい所だ」
妖狐は大きな葉っぱで作った団扇を風花に向けて扇ぐ
優しい風が風花に当たり、ふいーっと幸せそうな顔をしていた
がさ……
祠の脇にある藪から音が聞こえ、妖狐は瞬時に警戒し、風花の前に出る
「……これが例の人間か?」
現れたのは犬の姿の妖犬だった
黒いぼさぼさ髪に犬耳
瞳は少したれ目だけどくっきりしていて背丈は妖狐より少し大きい
黒い尻尾をゆっくりと上下させていた
「妖犬、なんの用「ワンコだ!!」
妖狐の言葉を風花が遮る
相変わらずのマイペースだ…
風花は目を輝かせ、妖犬を見て手を広げた
「追いで!ワンコ!!」
太陽のような笑顔で妖犬をおびき寄せる風花に対して、妖犬はいきなりのフレンドリーな扱いに顔を赤くした
「い、行くかよ!バカ!!」
そういいながら黒い尻尾を左右にパタパタ振っている
妖狐は目を細め風花の肩に手をのせた
「風花、ダメだよ?あの犬はバカだから……」
(風花を触らせたくない……)
「なに!?」
妖犬はさらに顔を真っ赤にして怒り出す
風花は口を尖らせ遊びたかったのにーっとブツクサ言っていた
その日から何故か妖犬もやってくるようになり、妖狐は嫌で堪らなかったが風花はウエルカムだ
そして、風花が帰る前日の事だった
「ふふー良かった~」
安心した表情を浮かべる風花
「なにが?」
「だって、ココ友達いなさそうだったもん。ちゃんといるんだー安心した」
友達じゃない……そう思ったが妖狐は言わなかった
風花の笑顔を崩したくない
「ココ、また来年会おうね!」
太陽のような笑顔の風花に妖狐は笑顔で頷いた
しかし、予定とは違い風花は冬にやってきた
妖狐はいるはずのない風花の姿を見てその表情に絶句した
あの太陽の笑顔が消えて、瞳に涙を溜めている
どこを見ているのかわからない視線
何が起こったのだ……
風花の母親が慰霊を持ち、兄が遺灰を持っている
あの写真、父親だ
風花は抜け殻の様になっていた
近くに行って励ましてあげたい
助けてあげたい
しかし、妖狐の自分にはそれが出来ないことに苛立ちを感じる
風花は次の日の朝、祠に現れた
妖狐は何も言わずに座って待っていた
「…ココ…」
俯き小さく震える風花
妖狐は近くに歩み寄りソッと肩を抱く
「うわぁーーーーー」
風花は大粒の涙を流し妖狐の懐で泣いた
妖狐は黙って瞳を閉じて風花を抱き寄せていた
この時、風花は12歳だった
しばらくすると風花が落ち着きを取り戻し妖狐の隣に座っていた
「あースッキリした…」
目を腫らしている風花が苦笑いをする
妖狐はそんな姿がいたたまれなく感じた
「お父さん、病気だったんだ。だから毎年里帰りしてたの。いつ亡くなってもいいようにって…お父さん此処が大好きだったんだよ」
「そうか……」
「私も大好き!自然がいっぱいで静かでココもいて……」
その言葉が体を熱くさせる
嬉しいと思ってしまう
「でも……もうあまり来れなくなっちゃうんだ」
「え?」
風花の瞳が悲しい色に染まる
妖狐は呆然としてしまった
来れなくなる?
「お父さん亡くなって、色々大変だからってお母さん言ってた」
「……」
「でもね、ココ。私を忘れないで!私もココを忘れない!」
風花の瞳は悲しい色に染まりながらも微笑みかける
妖狐はショックすぎて何も考えられなくなった
その日の昼に風花は自分の街に帰った
妖狐は森の巨木の上から風花が乗っている車を見送った
次の夏、風花は来なかった……
風花と妖狐が出会って6回目の夏がやってきた
毎年のように決まった時期にやってくる風花
は身長も高くなり、女の特徴である体の膨らみも出てきた
それでも、どこかガサツで男勝りな所があるショートカットの髪型にパンツスタイルは変わらなかった
「風花は軟弱なんだよ。ここだって十分涼しい所だ」
妖狐は大きな葉っぱで作った団扇を風花に向けて扇ぐ
優しい風が風花に当たり、ふいーっと幸せそうな顔をしていた
がさ……
祠の脇にある藪から音が聞こえ、妖狐は瞬時に警戒し、風花の前に出る
「……これが例の人間か?」
現れたのは犬の姿の妖犬だった
黒いぼさぼさ髪に犬耳
瞳は少したれ目だけどくっきりしていて背丈は妖狐より少し大きい
黒い尻尾をゆっくりと上下させていた
「妖犬、なんの用「ワンコだ!!」
妖狐の言葉を風花が遮る
相変わらずのマイペースだ…
風花は目を輝かせ、妖犬を見て手を広げた
「追いで!ワンコ!!」
太陽のような笑顔で妖犬をおびき寄せる風花に対して、妖犬はいきなりのフレンドリーな扱いに顔を赤くした
「い、行くかよ!バカ!!」
そういいながら黒い尻尾を左右にパタパタ振っている
妖狐は目を細め風花の肩に手をのせた
「風花、ダメだよ?あの犬はバカだから……」
(風花を触らせたくない……)
「なに!?」
妖犬はさらに顔を真っ赤にして怒り出す
風花は口を尖らせ遊びたかったのにーっとブツクサ言っていた
その日から何故か妖犬もやってくるようになり、妖狐は嫌で堪らなかったが風花はウエルカムだ
そして、風花が帰る前日の事だった
「ふふー良かった~」
安心した表情を浮かべる風花
「なにが?」
「だって、ココ友達いなさそうだったもん。ちゃんといるんだー安心した」
友達じゃない……そう思ったが妖狐は言わなかった
風花の笑顔を崩したくない
「ココ、また来年会おうね!」
太陽のような笑顔の風花に妖狐は笑顔で頷いた
しかし、予定とは違い風花は冬にやってきた
妖狐はいるはずのない風花の姿を見てその表情に絶句した
あの太陽の笑顔が消えて、瞳に涙を溜めている
どこを見ているのかわからない視線
何が起こったのだ……
風花の母親が慰霊を持ち、兄が遺灰を持っている
あの写真、父親だ
風花は抜け殻の様になっていた
近くに行って励ましてあげたい
助けてあげたい
しかし、妖狐の自分にはそれが出来ないことに苛立ちを感じる
風花は次の日の朝、祠に現れた
妖狐は何も言わずに座って待っていた
「…ココ…」
俯き小さく震える風花
妖狐は近くに歩み寄りソッと肩を抱く
「うわぁーーーーー」
風花は大粒の涙を流し妖狐の懐で泣いた
妖狐は黙って瞳を閉じて風花を抱き寄せていた
この時、風花は12歳だった
しばらくすると風花が落ち着きを取り戻し妖狐の隣に座っていた
「あースッキリした…」
目を腫らしている風花が苦笑いをする
妖狐はそんな姿がいたたまれなく感じた
「お父さん、病気だったんだ。だから毎年里帰りしてたの。いつ亡くなってもいいようにって…お父さん此処が大好きだったんだよ」
「そうか……」
「私も大好き!自然がいっぱいで静かでココもいて……」
その言葉が体を熱くさせる
嬉しいと思ってしまう
「でも……もうあまり来れなくなっちゃうんだ」
「え?」
風花の瞳が悲しい色に染まる
妖狐は呆然としてしまった
来れなくなる?
「お父さん亡くなって、色々大変だからってお母さん言ってた」
「……」
「でもね、ココ。私を忘れないで!私もココを忘れない!」
風花の瞳は悲しい色に染まりながらも微笑みかける
妖狐はショックすぎて何も考えられなくなった
その日の昼に風花は自分の街に帰った
妖狐は森の巨木の上から風花が乗っている車を見送った
次の夏、風花は来なかった……
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