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 ――それから三年。
 殿下との交際は楽しかった。
 定期的に王城を訪れ、殿下と過ごした。お茶を飲みながらいろいろな話をして、庭を散歩したり温室で珍しい植物を見せてもらったり。兄たち学友との剣の稽古を見学したり、図書室で一緒に本を読んだり。国王陛下や王妃陛下とお茶を飲むこともあった。両陛下とも気さくに私と話してくださった。
 少し前からは「勉強しておいて損にはならないから」と外国語や政治学の教師をつけられ、授業のためにも王城に通っている。
 今日も、授業のあと、私は殿下の居間でお茶を飲んでいた。
「クリフォード様の前世はどういう人なのですか?」
 私がそう尋ねると、お茶を飲んでいた殿下はごほごほと咳き込んだ。
「聞いてはいけないことでしたか?」
「いや、大丈夫だよ。今まで聞かれたことがなかったから、ちょっと驚いただけ」
 自分が思い出せないから、私はあまり人に前世のことを尋ねることはなかった。
 交際を重ねて今の殿下を知って、前世の殿下のことも知りたいと思ったのだ。
「クリフォード様のこと、もっと教えていただきたいと思ったのです」
 素直に伝えると、殿下は目を細めた。
「うれしいことを言ってくれる」
 前世は人によっていろいろで、近い人だと三世代くらい前に生きていた人だったり、遠い人だと別の国、別の文明、別の世界という人もいる。そういう人の中には前世の知識を生かして技術革新を起こしたり、医療を発展させたり、商売や国政で力を発揮したり、なんてこともある。
「僕の前世は農民だったよ」
「え? そうなんですか?」
 私は目を丸くする。
 王太子殿下の前世なのだから、同じように特別な立場の人なのかと思っていた。
「大出世ってわけだ」
 殿下は笑って続ける。
「五百年くらい前かな。もっと気温が高い国で、芋を育てていた」
「まあ!」
「パトリシア、君もだよ?」
 わかってる? と殿下は私の頬をつつく。
 最近よく殿下は私に触れる。
 交際当初は向かい合わせだった椅子は段々と近づいて、今は同じソファに並んでお茶をしている。
「クリフォード様、くすぐったいです」
 それは優しく触られたところだけではなく、胸の奥の方もだ。
 ふわふわして、温かい気持ち。
 私はくすくす笑って殿下の手から逃れると、殿下の耳を軽くひっぱる。
「仕返しです」
 手を離すと、殿下は口元を押さえて震えている。
 私は慌てた。
「そんなに痛かったですか?」
「大丈夫、痛くないから」
「でも、赤くなってます!」
 真っ赤になった耳を撫でようと手を伸ばしたら、殿下に掴まれた。
 体を引き寄せられて、ぎゅっと胸に抱きしめられる。
「クリフォード様?」
「パトリシア、君は僕をどうしたいの?」
「え?」
 凶悪だ、と頭の上で聞こえた。髪に吐息がかかる。
「僕からの仕返しは、婚約、いや結婚したら、思う存分してあげる」
「ええっ?」
「覚悟していて」
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