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第二部
ミクラとカメイ
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ベールルーベ王国の北基地にやって来たカメイは、正面から訪ねるか迷っていた。するとちょうど良く、知っている飛行機が滑走路に降りてくるのが見えた。
あの飛行機の騎士とは面識があり、カメイの事情も多少知っていると思う。
滑走路を回って止まった緑色の飛行機の鞍から、亜麻色の髪を三つ編みにした少女――エドリーンが飛び降りた。
「よう、俺のこと覚えてるか?」
カメイが声をかけると、エドリーンは悲鳴を上げた。
「きゃああー! あんた、あのときの!」
首を押さえるエドリーン。
前に会ったときに短剣で脅したのを、確かに覚えているようだ。
そこまで怖がられるとは思わず、カメイは慌てる。
申し訳ない気持ちになった。素直に基地の受付に顔を出せばよかった。
「待て、待て! 今日は何もしない。ちょっとミクラに連絡取りたいだけだ」
両手を挙げて無害を主張すると、エドリーンは飛行機の翼に手をかけながら、こちらを見た。
「…………」
「あー、驚かせて悪ぃな。今、飛行機でミクラにだけ連絡できるか? 王女様のことで話がある」
「カーティスに伝えればいい?」
「おう、よろしくなー」
エドリーンは、カメイから目を離さないまま、
「マルヴィナ、カーティスにだけ伝えて。団長に伝言。――カメイが北基地に来ている。団長に、サリヤのことで話があると言っている」
飛行機の身体を光が走ったから、連絡が行ったのだろう。
「返事、待つつもり?」
「そうさせてくれ」
カメイはそのまま距離を保って待つ。
居心地の悪い沈黙を破ったのはエドリーンだった。
「サリヤのことって?」
「ちょっとな」
「…………」
エドリーンが無言で睨むから、飛行機の返信を伝えてもらえないと困ると思ったカメイは、
「王女様、狙われてんだよ」
「また?」
「ははっ、そう! また、なんだよ」
「あんたは、サリヤの味方なの?」
笑うカメイにエドリーンがそう尋ねる。
「今回は、ね。大丈夫、大丈夫。王女様には最強の味方がついてんだろ?」
「確かにベアトリクスは強いけど……」
ミクラのつもりで言ったカメイは、飛行機の名前を出されて「あれ、そっち?」と目を瞬かせる。
『カーティスから伝言です。――ミクラからエドリーンへ。連絡感謝する。通常業務に戻ってくれ。――ミクラからカメイへ。北基地でそのまま待て。すぐに向かう。以上です』
カメイにも飛行機の言葉が聞こえた。
「え? 今、俺にもマルヴィナの声が聞こえたんだが? なんで?」
「なんでって、あんたが飛行騎士だからでしょ?」
「いや、俺は……」
ベールルーベ王国軍の諜報部にいたカメイは、潜入先のメデスディスメ王国で飛行機に選ばれ、不可抗力で飛行騎士になった。ベールルーベ王国に攻め入る命令が出て出動。あっさり追い返されたが、その際に飛行機が尾を怪我して墜落。カメイは鞍の外に投げ出されたのだ。
――そのとき、飛行機との絆は解消されたと思っていたが……。
「俺はまだ飛行騎士なのか?」
「あたしが知るわけないじゃない! マルヴィナ?」
『カメイは飛行騎士です』
「だってさ」
不機嫌ながらも飛行機に確認してくれたエドリーンは善良だ。
これ以上彼女に緊張を強いるつもりはない。
カメイは「助かったよ」と軽く礼を言って、その場から離れた。
::::::::::
カメイが来ていると連絡があり、ミクラはカーティスで北基地に飛んだ。
着陸すると、滑走路の端にカメイが現れた。ミクラはカーティスにそちらまで行ってもらい、鞍から降りる。
「よう、ミクラ」
「カメイ、久しぶりだな!」
士官学校時代からの友人を当時と違う名前で呼ぶのは落ち着かないが、本人がカメイと名乗るならそう呼ぶしかない。
「すまない。あまり時間がないんだ。――サリヤのこととは?」
「王女様を狙ってるやつがいる。メデスディスメ王国の反乱組織の中心人物だ。――俺らのとこで暗殺依頼を受けたんだが、絶賛見失い中だ」
「キータというやつか?」
「こっちに来たのか?」
身を乗り出すカメイに、ミクラは手を振る。
「いや、ウェダ王から情報をもらったんだ」
「王様が? なんだよ、俺らに依頼しておきながら、王城も動いてんのか」
「動いているのかどうかはわからん」
ミクラは首を振ってから、
「お前もサリヤの身辺に気をつけろと警告に来てくれたのか」
「まぁな。あと、やつがこっちに来てる可能性も考えて、念のための確認だな。あー、俺もってことは、王様もか? 王様は王女様を大事にしてんだ?」
「ああ、そのようだな」
そう言うと、カメイは眉間に皺を寄せる。
「王様はまだ敵も多い。王の弱点だと思われると、王女様はこれからも狙われるぞ?」
そこまで考えが及んでいなかったミクラは、はっとした。
「心しておく」
「それじゃ、キータのことな。俺が集めた情報だが……」
カメイはキータの現状を話してくれた。
南地方に行くと言って反乱組織の者たちと一緒に東地方の拠点を出発した。同行者は四人。彼らはキータに恨みがあり、道中で殺すつもりだそうだが、首尾は不明。
「仲間が聞いていた道程を辿って追いかけているが、まだ出会えてない。もうフスチャットスフ領まで行っちまってるかもしれん」
「フスチャットスフ領……海か……」
メデスディスメ王国の南西にあるフスチャットスフ領は、ベールルーベ王国の北西の森――森の民が暮らす森――の、国境を挟んですぐ北だ。
森を突っ切るのは難しい。
海からベールルーベ王国に入国しようとして、遭難した?
あり得ない話ではない。
「実はキータに容姿が似た男が西基地で保護されている」
「西で? 捕縛じゃなくて保護?」
「記憶喪失なんだ。海で遭難したようだ」
「ああん? 記憶喪失?」
飛行機から投げ出されて記憶を失ったことがあるカメイは、疑うような声を上げた。
「偽装じゃねぇの?」
「そうは見えんな。怪しい動きも今のところない。――恋人だと名乗り出てきた女がいて、そちらのほうが嘘をついている気がする」
「なんだそれ。面倒なことになってんな」
カメイは呆れたような顔をする。
ミクラは腕を組むと、
「その女が言うには、自分と男は森の民で、駆け落ちして心中したんだそうだ。今、確認をとっているが、森の民だからなぁ。顔を知っている者に会えるかどうかもわからん」
「あー、だなぁ」
「カメイはキータの顔を知っているか?」
ミクラがそう聞くと、カメイは察して、
「いや、俺は見たことはないが、知ってるやつを連れてくるか? 面通しさせたいんだろ?」
「そうだ。頼めるか?」
「連れてくるのはいいが、西基地は遠いな」
カメイは西の空に視線をやる。
「北基地で構わない。その男、今は仮にロビンと呼ばれているんだが、飛行騎士になったんだ」
「飛行騎士? 記憶喪失のまま見初められたってことか?」
「そうだ。だから、飛行機で北基地に来れる」
ミクラはカメイの予定を聞いて、だいたいの計画を立てる。
「しかし、記憶喪失なぁ……」
「お前のときはどうだった? 記憶を忘れている間のことは覚えているのか?」
おかしな表現だな、と思いながらミクラは尋ねる。
「最初のころはぼんやりしてたな。夢の中みたいな。しばらくして状況を理解して、生活し始めたら、意外に不便がなくてな。……俺は、周りに元々知ってるやつがいなくて、誰も俺のことを知らないから逆に良かったのかもな。それから少しずつ、ガキのころや学生時代なんかの体験をぽろっと思い出すようになったな。ふとしたときに、そういえば、って感じで。だんだん開かなかった扉が開いていくようにいろいろ思い出していったんだ」
ミクラは興味深く相槌を打つ。カメイは少し言葉を切ってから続けた。
「飛行機を見たときは、一気にいろいろ思い出した。気にしてたのかもしれん。あいつの尾が折れたのが、落ちるときに見えたんだ」
「それは……」
「もう謝るなよ。めんどくせぇから」
カメイの飛行機を落としたのはミクラだ。
カメイは話を変える。
「そういや、俺、まだ飛行騎士らしいんだが……」
「ああ、ベアトリクスもそう言っていたぞ。修理魔法をかけてやったんだから、あの飛行機に会いに行け、だと」
ベアトリクスの高飛車な物言いを思い出したミクラは苦笑する。
「うーん、今度忍び込むか……」
「復帰しないのか?」
「するわけないだろ。国が違っても飛行騎士団にいたら、王女様に会うかもしれない」
「そうか」
ミクラが考えているより、カメイはサリヤに気を配っているようだ。
意外に思ったのが伝わったのか、カメイは軽く肩をすくめた。
「王女様はどうなんだ? 敵国でいじめられて泣いてんじゃねぇの?」
「そんなことないってわかって聞いてるだろ」
ミクラが笑うと、カメイもにやりと笑った。
ミクラは、披露目の夜会を思い出す。
サリヤが貴族全員から手放しで歓迎されるとは、ミクラも思っていなかった。
何かあれば助けようと隣で身構えていたミクラだったが、サリヤはほとんど一人で乗り切ってしまった。
嫌味や探りに真面目に正論を返し、拍子抜けさせたり評価を見直させたり。この北基地を擁するモリノス伯爵のように、最終的に協力を約束した貴族も何人かいた。
「サリヤは順調に足場を固めている」
災害危険地域の巡回の素案も、ルッボーとマーナベーナを補佐にサリヤが作っている。
文官になりたかったらしく、書類仕事も苦じゃなさそうだ。ルッボーが「サリヤのためにそれらしい役職を作りましょう」とほくそ笑んでいた。ミクラの仕事を手伝ってもらえるならありがたい。
サリヤが憂いなく過ごせるように、キータの問題は速やかに片付けなければならない。
――改めてそう決意したミクラだった。
あの飛行機の騎士とは面識があり、カメイの事情も多少知っていると思う。
滑走路を回って止まった緑色の飛行機の鞍から、亜麻色の髪を三つ編みにした少女――エドリーンが飛び降りた。
「よう、俺のこと覚えてるか?」
カメイが声をかけると、エドリーンは悲鳴を上げた。
「きゃああー! あんた、あのときの!」
首を押さえるエドリーン。
前に会ったときに短剣で脅したのを、確かに覚えているようだ。
そこまで怖がられるとは思わず、カメイは慌てる。
申し訳ない気持ちになった。素直に基地の受付に顔を出せばよかった。
「待て、待て! 今日は何もしない。ちょっとミクラに連絡取りたいだけだ」
両手を挙げて無害を主張すると、エドリーンは飛行機の翼に手をかけながら、こちらを見た。
「…………」
「あー、驚かせて悪ぃな。今、飛行機でミクラにだけ連絡できるか? 王女様のことで話がある」
「カーティスに伝えればいい?」
「おう、よろしくなー」
エドリーンは、カメイから目を離さないまま、
「マルヴィナ、カーティスにだけ伝えて。団長に伝言。――カメイが北基地に来ている。団長に、サリヤのことで話があると言っている」
飛行機の身体を光が走ったから、連絡が行ったのだろう。
「返事、待つつもり?」
「そうさせてくれ」
カメイはそのまま距離を保って待つ。
居心地の悪い沈黙を破ったのはエドリーンだった。
「サリヤのことって?」
「ちょっとな」
「…………」
エドリーンが無言で睨むから、飛行機の返信を伝えてもらえないと困ると思ったカメイは、
「王女様、狙われてんだよ」
「また?」
「ははっ、そう! また、なんだよ」
「あんたは、サリヤの味方なの?」
笑うカメイにエドリーンがそう尋ねる。
「今回は、ね。大丈夫、大丈夫。王女様には最強の味方がついてんだろ?」
「確かにベアトリクスは強いけど……」
ミクラのつもりで言ったカメイは、飛行機の名前を出されて「あれ、そっち?」と目を瞬かせる。
『カーティスから伝言です。――ミクラからエドリーンへ。連絡感謝する。通常業務に戻ってくれ。――ミクラからカメイへ。北基地でそのまま待て。すぐに向かう。以上です』
カメイにも飛行機の言葉が聞こえた。
「え? 今、俺にもマルヴィナの声が聞こえたんだが? なんで?」
「なんでって、あんたが飛行騎士だからでしょ?」
「いや、俺は……」
ベールルーベ王国軍の諜報部にいたカメイは、潜入先のメデスディスメ王国で飛行機に選ばれ、不可抗力で飛行騎士になった。ベールルーベ王国に攻め入る命令が出て出動。あっさり追い返されたが、その際に飛行機が尾を怪我して墜落。カメイは鞍の外に投げ出されたのだ。
――そのとき、飛行機との絆は解消されたと思っていたが……。
「俺はまだ飛行騎士なのか?」
「あたしが知るわけないじゃない! マルヴィナ?」
『カメイは飛行騎士です』
「だってさ」
不機嫌ながらも飛行機に確認してくれたエドリーンは善良だ。
これ以上彼女に緊張を強いるつもりはない。
カメイは「助かったよ」と軽く礼を言って、その場から離れた。
::::::::::
カメイが来ていると連絡があり、ミクラはカーティスで北基地に飛んだ。
着陸すると、滑走路の端にカメイが現れた。ミクラはカーティスにそちらまで行ってもらい、鞍から降りる。
「よう、ミクラ」
「カメイ、久しぶりだな!」
士官学校時代からの友人を当時と違う名前で呼ぶのは落ち着かないが、本人がカメイと名乗るならそう呼ぶしかない。
「すまない。あまり時間がないんだ。――サリヤのこととは?」
「王女様を狙ってるやつがいる。メデスディスメ王国の反乱組織の中心人物だ。――俺らのとこで暗殺依頼を受けたんだが、絶賛見失い中だ」
「キータというやつか?」
「こっちに来たのか?」
身を乗り出すカメイに、ミクラは手を振る。
「いや、ウェダ王から情報をもらったんだ」
「王様が? なんだよ、俺らに依頼しておきながら、王城も動いてんのか」
「動いているのかどうかはわからん」
ミクラは首を振ってから、
「お前もサリヤの身辺に気をつけろと警告に来てくれたのか」
「まぁな。あと、やつがこっちに来てる可能性も考えて、念のための確認だな。あー、俺もってことは、王様もか? 王様は王女様を大事にしてんだ?」
「ああ、そのようだな」
そう言うと、カメイは眉間に皺を寄せる。
「王様はまだ敵も多い。王の弱点だと思われると、王女様はこれからも狙われるぞ?」
そこまで考えが及んでいなかったミクラは、はっとした。
「心しておく」
「それじゃ、キータのことな。俺が集めた情報だが……」
カメイはキータの現状を話してくれた。
南地方に行くと言って反乱組織の者たちと一緒に東地方の拠点を出発した。同行者は四人。彼らはキータに恨みがあり、道中で殺すつもりだそうだが、首尾は不明。
「仲間が聞いていた道程を辿って追いかけているが、まだ出会えてない。もうフスチャットスフ領まで行っちまってるかもしれん」
「フスチャットスフ領……海か……」
メデスディスメ王国の南西にあるフスチャットスフ領は、ベールルーベ王国の北西の森――森の民が暮らす森――の、国境を挟んですぐ北だ。
森を突っ切るのは難しい。
海からベールルーベ王国に入国しようとして、遭難した?
あり得ない話ではない。
「実はキータに容姿が似た男が西基地で保護されている」
「西で? 捕縛じゃなくて保護?」
「記憶喪失なんだ。海で遭難したようだ」
「ああん? 記憶喪失?」
飛行機から投げ出されて記憶を失ったことがあるカメイは、疑うような声を上げた。
「偽装じゃねぇの?」
「そうは見えんな。怪しい動きも今のところない。――恋人だと名乗り出てきた女がいて、そちらのほうが嘘をついている気がする」
「なんだそれ。面倒なことになってんな」
カメイは呆れたような顔をする。
ミクラは腕を組むと、
「その女が言うには、自分と男は森の民で、駆け落ちして心中したんだそうだ。今、確認をとっているが、森の民だからなぁ。顔を知っている者に会えるかどうかもわからん」
「あー、だなぁ」
「カメイはキータの顔を知っているか?」
ミクラがそう聞くと、カメイは察して、
「いや、俺は見たことはないが、知ってるやつを連れてくるか? 面通しさせたいんだろ?」
「そうだ。頼めるか?」
「連れてくるのはいいが、西基地は遠いな」
カメイは西の空に視線をやる。
「北基地で構わない。その男、今は仮にロビンと呼ばれているんだが、飛行騎士になったんだ」
「飛行騎士? 記憶喪失のまま見初められたってことか?」
「そうだ。だから、飛行機で北基地に来れる」
ミクラはカメイの予定を聞いて、だいたいの計画を立てる。
「しかし、記憶喪失なぁ……」
「お前のときはどうだった? 記憶を忘れている間のことは覚えているのか?」
おかしな表現だな、と思いながらミクラは尋ねる。
「最初のころはぼんやりしてたな。夢の中みたいな。しばらくして状況を理解して、生活し始めたら、意外に不便がなくてな。……俺は、周りに元々知ってるやつがいなくて、誰も俺のことを知らないから逆に良かったのかもな。それから少しずつ、ガキのころや学生時代なんかの体験をぽろっと思い出すようになったな。ふとしたときに、そういえば、って感じで。だんだん開かなかった扉が開いていくようにいろいろ思い出していったんだ」
ミクラは興味深く相槌を打つ。カメイは少し言葉を切ってから続けた。
「飛行機を見たときは、一気にいろいろ思い出した。気にしてたのかもしれん。あいつの尾が折れたのが、落ちるときに見えたんだ」
「それは……」
「もう謝るなよ。めんどくせぇから」
カメイの飛行機を落としたのはミクラだ。
カメイは話を変える。
「そういや、俺、まだ飛行騎士らしいんだが……」
「ああ、ベアトリクスもそう言っていたぞ。修理魔法をかけてやったんだから、あの飛行機に会いに行け、だと」
ベアトリクスの高飛車な物言いを思い出したミクラは苦笑する。
「うーん、今度忍び込むか……」
「復帰しないのか?」
「するわけないだろ。国が違っても飛行騎士団にいたら、王女様に会うかもしれない」
「そうか」
ミクラが考えているより、カメイはサリヤに気を配っているようだ。
意外に思ったのが伝わったのか、カメイは軽く肩をすくめた。
「王女様はどうなんだ? 敵国でいじめられて泣いてんじゃねぇの?」
「そんなことないってわかって聞いてるだろ」
ミクラが笑うと、カメイもにやりと笑った。
ミクラは、披露目の夜会を思い出す。
サリヤが貴族全員から手放しで歓迎されるとは、ミクラも思っていなかった。
何かあれば助けようと隣で身構えていたミクラだったが、サリヤはほとんど一人で乗り切ってしまった。
嫌味や探りに真面目に正論を返し、拍子抜けさせたり評価を見直させたり。この北基地を擁するモリノス伯爵のように、最終的に協力を約束した貴族も何人かいた。
「サリヤは順調に足場を固めている」
災害危険地域の巡回の素案も、ルッボーとマーナベーナを補佐にサリヤが作っている。
文官になりたかったらしく、書類仕事も苦じゃなさそうだ。ルッボーが「サリヤのためにそれらしい役職を作りましょう」とほくそ笑んでいた。ミクラの仕事を手伝ってもらえるならありがたい。
サリヤが憂いなく過ごせるように、キータの問題は速やかに片付けなければならない。
――改めてそう決意したミクラだった。
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