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第二部
披露目の夜会、ダンス
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サリヤたちは、国王夫妻と王太子が入場する直前に会場に入った。
サリヤの名前が呼ばれたら、場が静まるのが予想できたからだ。
ミクラにエスコートされて、一番前まで進む。ゆっくりと優雅に歩くことを心がけた。
壇の手前にサリヤたちが着くと、国王夫妻と王太子の入場だ。今日は特別な夜会なので、いつもは参加しない王太子も参加する。
壇上の国王ケンザキが口を開いた。
「皆、楽にしてくれ」
頭を下げていた参加者たちが、顔を上げる。
サリヤとミクラは壇を背に、参加者たちに向かい合う立ち位置だ。
「事前に発表があった通り、この度、我がベールルーベ王国は北の隣国メデスディスメ王国と国交を結んだ。友好の証にメデスディスメ王国のサリヤ王女が、王弟ミクラと婚姻することが決まった」
サリヤは深く礼をした。
大歓迎とはいかないまでも、皆拍手をしてくれている。
「サリヤ王女は、『飛行機の女王』と名高いエフ種最上位の飛行機に認められた騎士である。すでに飛行騎士団で活躍している」
これには少なからず驚きの声が上がった。
「今日は国交樹立記念と王弟の婚約発表の夜会である。皆、楽しんでくれ」
ケンザキがグラスを掲げると、参加者も乾杯をし、拍手が起こった。
ケンザキが王妃リンドゥを誘い、ミクラがサリヤを誘って、会場の中心に出る。
最初のダンスはこの二組だった。
――いろいろなことがありすぎて、ミクラとダンスを合わせる時間は全くなかった。
サリヤはミクラと向かい合って構える。
音楽が流れ出し、最初の一歩。次も自然に繋がる。
なめらかにステップを踏みながら、サリヤはミクラを見上げ、少し笑顔を浮かべた。
「団長はお上手ですね」
「サリヤも上手いな」
そう言ってミクラはサリヤをくるりと回す。
ドレスがふわりと広がり、サリヤをきらきらと縁取る。ショールが遅れて軌跡を描いた。
「サリヤは軽いから持ち上げてもいける」
「いや、それはちょっとやめてください」
サリヤが真顔になると、ミクラは笑ったのだった。
一曲踊ったところで、王太子タガミが近づいてきた。
「サリヤ殿、一曲お相手いただけますか?」
タガミにダンスを申し込まれ、サリヤはミクラを見上げた。
「サリヤが疲れていないなら、踊ってきていいぞ」
「はい。それでは、タガミ殿下、よろしくお願いいたします」
サリヤはタガミに手を取られて、中央に出る。
ダンスを始めていた人たちは、王太子とサリヤを見て驚いたように場を空けた。
向き合って構え、タガミのリードで踊り出す。
サリヤは自分より背が低い相手と踊るのは初めてだ。しかし、さほど違和感がない。
「タガミ殿下もお上手ですね」
「そうか? それなら良かった。まだ習い途中で、一曲目と二曲目の定番しか踊れないのだ」
「そんなふうには見えませんよ」
つつがなくダンスを終え、サリヤたちはミクラの元に戻る。そこには国王夫妻もいた。
ミクラと何か話していたケンザキが、今度はサリヤに手を差し出した。
「サリヤ、私と踊る余力はあるか?」
「ええ、全く問題ありません」
だが、いいのか、とその場のミクラやリンドゥを見たが、彼らはうなずき返した。
サリヤはまたダンスの輪に入った。
ケンザキもリードが上手く、血筋なのかもしれない。
「タガミがすまないな。タガミがサリヤと踊る予定はなかったんだ」
「いいえ。ダンスの数曲くらいで疲れたりはしませんので、私は構いません」
サリヤがそう答えると、ケンザキは苦笑した。
「ミクラも気づいていなかったんだが……、サリヤはミクラよりもタガミの方が年が近いだろう? 勘繰られても面倒だからな。私とも踊ることで印象を薄めたい」
「私がタガミ殿下にも近づいている、と思われるということでしょうか。考えが足りず申し訳ありません」
「いや。君が謝ることじゃない。誘ったタガミが悪かった。君の立場なら断る方が良くないからな。不仲を疑われても困るから、タガミを避けるのはなしだ」
「わかりました」
それから、とケンザキはサリヤに笑顔を向ける。
「君が王弟と王太子に二股をかけているとは誰も思わないから、安心してくれ。王弟と王太子が可憐な王女を取り合っている、と思われることを懸念したのだ」
「は? 可憐、ですか?」
サリヤが目を丸くすると、ケンザキはうなずく。
「ああ、まだ私は話していませんから、皆さんわからないのですね」
うまくごまかせているようで、サリヤは少しほっとする。
「それで、どうなんだ? 私は君が希望するなら婚約相手を変えてもいいと思っているが」
「いいえ。――王太子殿下の婚約者は次期王妃で、その人が産んだ子がいずれ王になりますよね。メデスディスメ王家の血が入った王子が誕生するのは、歓迎されないと思います。火種になっても困りますし」
サリヤが首を振ると、ケンザキは、
「そういうことを抜きにして、サリヤの気持ちでは、どうだ?」
「気持ちですか?」
帰国中にイキュリークイ国の王太子からも縁談が来た。サリヤはそのときにも考えたのだ。
「王弟殿下がいいです」
きっぱりと言い切るサリヤに、ケンザキはくしゃりと笑った。ミクラと似た笑顔だ。
そうしてダンスが終わる。
サリヤがケンザキと踊る中では王族に声をかけづらかったのか、皆先ほどと同じ場所にいた。
ケンザキにエスコートされて戻ったサリヤに、リンドゥが、
「サリヤはダンスが上手いのね。素敵だったわ」
「ありがとうございます」
サリヤは思いついて、リンドゥに手を差し出す。
「王妃殿下、一曲いかがですか? 私は男性パートも踊れますから」
「まあ! いいの? ぜひお願いしたいわ」
ということで、サリヤは王族全員と踊った。
――数年後には、王城の夜会でサリヤと踊るのが貴族令嬢の憧れになるのだけれど、また別の話だ。
サリヤの名前が呼ばれたら、場が静まるのが予想できたからだ。
ミクラにエスコートされて、一番前まで進む。ゆっくりと優雅に歩くことを心がけた。
壇の手前にサリヤたちが着くと、国王夫妻と王太子の入場だ。今日は特別な夜会なので、いつもは参加しない王太子も参加する。
壇上の国王ケンザキが口を開いた。
「皆、楽にしてくれ」
頭を下げていた参加者たちが、顔を上げる。
サリヤとミクラは壇を背に、参加者たちに向かい合う立ち位置だ。
「事前に発表があった通り、この度、我がベールルーベ王国は北の隣国メデスディスメ王国と国交を結んだ。友好の証にメデスディスメ王国のサリヤ王女が、王弟ミクラと婚姻することが決まった」
サリヤは深く礼をした。
大歓迎とはいかないまでも、皆拍手をしてくれている。
「サリヤ王女は、『飛行機の女王』と名高いエフ種最上位の飛行機に認められた騎士である。すでに飛行騎士団で活躍している」
これには少なからず驚きの声が上がった。
「今日は国交樹立記念と王弟の婚約発表の夜会である。皆、楽しんでくれ」
ケンザキがグラスを掲げると、参加者も乾杯をし、拍手が起こった。
ケンザキが王妃リンドゥを誘い、ミクラがサリヤを誘って、会場の中心に出る。
最初のダンスはこの二組だった。
――いろいろなことがありすぎて、ミクラとダンスを合わせる時間は全くなかった。
サリヤはミクラと向かい合って構える。
音楽が流れ出し、最初の一歩。次も自然に繋がる。
なめらかにステップを踏みながら、サリヤはミクラを見上げ、少し笑顔を浮かべた。
「団長はお上手ですね」
「サリヤも上手いな」
そう言ってミクラはサリヤをくるりと回す。
ドレスがふわりと広がり、サリヤをきらきらと縁取る。ショールが遅れて軌跡を描いた。
「サリヤは軽いから持ち上げてもいける」
「いや、それはちょっとやめてください」
サリヤが真顔になると、ミクラは笑ったのだった。
一曲踊ったところで、王太子タガミが近づいてきた。
「サリヤ殿、一曲お相手いただけますか?」
タガミにダンスを申し込まれ、サリヤはミクラを見上げた。
「サリヤが疲れていないなら、踊ってきていいぞ」
「はい。それでは、タガミ殿下、よろしくお願いいたします」
サリヤはタガミに手を取られて、中央に出る。
ダンスを始めていた人たちは、王太子とサリヤを見て驚いたように場を空けた。
向き合って構え、タガミのリードで踊り出す。
サリヤは自分より背が低い相手と踊るのは初めてだ。しかし、さほど違和感がない。
「タガミ殿下もお上手ですね」
「そうか? それなら良かった。まだ習い途中で、一曲目と二曲目の定番しか踊れないのだ」
「そんなふうには見えませんよ」
つつがなくダンスを終え、サリヤたちはミクラの元に戻る。そこには国王夫妻もいた。
ミクラと何か話していたケンザキが、今度はサリヤに手を差し出した。
「サリヤ、私と踊る余力はあるか?」
「ええ、全く問題ありません」
だが、いいのか、とその場のミクラやリンドゥを見たが、彼らはうなずき返した。
サリヤはまたダンスの輪に入った。
ケンザキもリードが上手く、血筋なのかもしれない。
「タガミがすまないな。タガミがサリヤと踊る予定はなかったんだ」
「いいえ。ダンスの数曲くらいで疲れたりはしませんので、私は構いません」
サリヤがそう答えると、ケンザキは苦笑した。
「ミクラも気づいていなかったんだが……、サリヤはミクラよりもタガミの方が年が近いだろう? 勘繰られても面倒だからな。私とも踊ることで印象を薄めたい」
「私がタガミ殿下にも近づいている、と思われるということでしょうか。考えが足りず申し訳ありません」
「いや。君が謝ることじゃない。誘ったタガミが悪かった。君の立場なら断る方が良くないからな。不仲を疑われても困るから、タガミを避けるのはなしだ」
「わかりました」
それから、とケンザキはサリヤに笑顔を向ける。
「君が王弟と王太子に二股をかけているとは誰も思わないから、安心してくれ。王弟と王太子が可憐な王女を取り合っている、と思われることを懸念したのだ」
「は? 可憐、ですか?」
サリヤが目を丸くすると、ケンザキはうなずく。
「ああ、まだ私は話していませんから、皆さんわからないのですね」
うまくごまかせているようで、サリヤは少しほっとする。
「それで、どうなんだ? 私は君が希望するなら婚約相手を変えてもいいと思っているが」
「いいえ。――王太子殿下の婚約者は次期王妃で、その人が産んだ子がいずれ王になりますよね。メデスディスメ王家の血が入った王子が誕生するのは、歓迎されないと思います。火種になっても困りますし」
サリヤが首を振ると、ケンザキは、
「そういうことを抜きにして、サリヤの気持ちでは、どうだ?」
「気持ちですか?」
帰国中にイキュリークイ国の王太子からも縁談が来た。サリヤはそのときにも考えたのだ。
「王弟殿下がいいです」
きっぱりと言い切るサリヤに、ケンザキはくしゃりと笑った。ミクラと似た笑顔だ。
そうしてダンスが終わる。
サリヤがケンザキと踊る中では王族に声をかけづらかったのか、皆先ほどと同じ場所にいた。
ケンザキにエスコートされて戻ったサリヤに、リンドゥが、
「サリヤはダンスが上手いのね。素敵だったわ」
「ありがとうございます」
サリヤは思いついて、リンドゥに手を差し出す。
「王妃殿下、一曲いかがですか? 私は男性パートも踊れますから」
「まあ! いいの? ぜひお願いしたいわ」
ということで、サリヤは王族全員と踊った。
――数年後には、王城の夜会でサリヤと踊るのが貴族令嬢の憧れになるのだけれど、また別の話だ。
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