王国の飛行騎士

神田柊子

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第一部

メデスディスメ王国の飛行騎士団

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 サリヤは翌日は朝から飛行騎士団の基地に赴いた。
 王城の敷地の端だから、馬車を出してもらう。
 カッラだったころ、一度だけ見学したことがあった。
 馬車を降りると、すぐ前が滑走路だった。
 広さはベールルーベ王国の基地のものと変わらないが、ろくに整備されていないようで中央の道以外は草が生えていた。
 この国では飛行騎士団はあまり重要視されていないのだ。騎士団の建物も、厩舎もどことなく古ぼけていた。
 サリヤが訪ねることは事前に知らせていたため、騎士全員が整列して出迎えてくれた。
「出迎えありがとう」
 すると、端に並んだ男が前に出た。
「飛行騎士団、団長のワーモンです。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく。気楽にしてくれ」
 サリヤはワーモンにうなずく。
「聞いているかもしれないが、私はベールルーベ王国の飛行騎士になった。……先日、私が落としかけた者は?」
 列を見回すと、一人の男がぴしっと一歩前に出た。
「自分であります!」
「ああ、無事だったのだな。良かった」
 サリヤが「あのときはすまなかった。魔法の加減が難しくて」と腕を叩くと、彼は目を白黒させた。
「飛行機の調子は? 緑と白の」
「元気にしております。……お会いになりますか?」
「いいのか? 会えるならぜひ会いたい」
 彼はワーモンから許可を得て、サリヤを厩舎に案内した。ワーモンも、当然ヒルカやマガリもついてくる。他の騎士にはいつも通りに戻ってもらった。
 厩舎は広く、全ての飛行機がいるようだった。
「アントニーと申します」
 騎士が緑と白の飛行機の鼻先に触れる。プロペラがくるくると回った。あのとき折れた左の翼に傷もないのを見て、サリヤはほっとする。
「アントニー、元気そうでよかった」
『こちらはアントニー。エリアナンバー351MD1322所属のシー種上位です』
 飛行機の群れに関係なく、騎士には飛行機の言葉が届くのか。
 サリヤは少し驚きながら、挨拶を返した。
「私はサリヤ。ベールルーベ王国所属のエフ種最上位ベアトリクスの騎士だ。すまないが、エリアナンバーは覚えていないんだ」
『サリヤ、ベアトリクスに伝言してもらえますか?』
「もちろんだ」
『修理してくれてありがとうございます、と伝えてください』
「承知した。必ず伝えよう」
 サリヤが答えると、両の翼で緑の光が数回点滅した。
 そのまま厩舎を案内してもらうことにする。そこで、サリヤは一番端にいた飛行機を目にとめた。
 尻尾の部分が大きく折れている。木の台座を支えにしてなんとか姿勢を保っている状態だ。
「これは……」
 カメイの飛行機では?
 ワーモンが言いにくそうに、
「こちらは、六年前の戦闘で傷を負った飛行機でして……」
「治せないのか?」
「我が国の技術では難しいようです」
「そうか……」
 アントニーの騎士が、
「アントニーのように、ベアトリクス様に治していただけないでしょうか?」
「約束はできないが、国交が結ばれたら、ベアトリクスがこちらに来れるようになるかもしれない。そのときは魔法を試してみよう」
 カメイもミクラも気にしていた。
 治るといいとサリヤも思う。

 飛行機全員に会ってから、サリヤは団長の執務室に通された。
「私は毛織物商の息子で、飛行機にも王城にも縁のない暮らしをしていたのですが、偶然遺跡を見つけてしまいまして……。なんだかんだで一番年長になって、飛行機の位もそこそこ高かったので、十年前から団長を拝命しております」
 ワーモンはサリヤの向かいに恐縮しながら座り、
「騎士のうち、子爵家の出身が一人。貴族は彼だけです。団長の私が平民で、大きな貴族家の後ろ盾もなく、軍でも政府でも飛行騎士団は立場が弱いのですよ」
 活躍の機会もありませんがね、とワーモンは自嘲した。
「アンザイ三世は飛行機を重視していませんでした。ササガキ将軍もですね。我々は、ベールルーベ王国にときどきちょっかいを出すためだけの存在になってしまっております」
 ちょっとお茶でも、と誘われた場が相談室になっていた。
「軍事的な活躍の場は、おそらくこれから先もあまりないだろうな」
 サリヤは首をひねる。ベールルーベ王国とは国交を結ぶし、ウェダは平和路線ではないが無駄に他国に攻めることはないだろうと思う。
「通信を受け持てるほど飛行機がいないか……」
 国境や王城と飛行機を介したやりとりができるのは、ベールルーベ王国にそれだけの飛行機がいるからだ。七機だと、一つの基地に一機ずつしか常駐できず、負担が大きすぎる。
「いっそ軍事活動をやめてしまえばいいのかもしれないな」
「とおっしゃいますと……?」
「鞍を全部二人乗りに変えるんだ」
 サリヤは国内の遺跡の場所を記した地図を出してもらう。
 遺跡はほとんど遺跡のままで、基地として整備されているのは、王城基地と西のトバタ領の基地くらいだった。
「遺跡を整備する必要があるだろうが――ああ、遺跡じゃなくても広い空間があればいいのか。……飛行機が降りられる場所を国内にいくつも作って、人を輸送する仕事をしてはどうだろうか?」
「人を輸送ですか?」
「メデスディスメ王国は広いからな、馬でも時間がかかる。しかし飛行機なら、国の端から端まで一刻もかからない」
「確かに!」
 ワーモンは腕を組む。
「ササガキ将軍は話を聞いてくださると思う。一度提案してみるといい」
 サリヤがそうまとめると、ワーモンは顔を上げた。
「殿下から提案いただくことは可能でしょうか」
「私から?」
「はい。私たち騎士団からよりも殿下からお話いただいたほうが早いかと。お恥ずかしいのですが、私どもは定期の軍会議からも外されておりまして……」
「そうなのか?」
 とことんベールルーベ王国とは違うのだな、とサリヤは眉をひそめる。
「わかった。うまくいくかわからないが、私から話だけはしてみよう」
 そう請け負うと、ワーモンは目に見えてほっとしたように笑った。
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