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第一部
同じころ、メデスディスメ王国で
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マスモットとアガツマを倒して、ウェダは早々に即位した。
現在はマスモットの後始末に皆で奔走している状態だ。
潜伏中の報告会が効率がいいと気づいたウェダは、主要な人物を集めて皆で昼食を取ることにしていた。落ち着いたら頻度を減らすことも考えているが、目下は毎日集まっていた。
「そういえば」
雑談の体で口を開いたのは、エリーカワだった。
ウェダの弟たちは王弟ということで、それぞれ公爵位に封じられた。――そういった手続きがマスモットの政権下では全く進まなかったのだから、笑えるやら笑えないやら、だ。
エリーカワはにやりと笑うと、
「飛行騎士団で、第四側妃の幽霊を見たって騎士がいるんですよ」
「幽霊?」
「第四側妃はそりゃあ化けて出たくもなるでしょうけれど……」
「そもそも一介の騎士が側妃の顔を知ってるのか?」
皆の反応に気をよくしたエリーカワは続ける。
「それがなんと、ベールルーベ王国に侵攻した際に、敵機に乗っていたのを見たんですって」
「飛行機に乗っていた? まさか……」
「カッラじゃないかと思うんです」
そこで宰相が疑問を呈した。
「公式行事にあまり参加されなかった第四側妃は、私も数回しかお会いしたことがないんですが、その騎士はどうして側妃だと?」
「フスチャットスフ領の出身で、うちが攻め込む前、側妃が街の酒場で歌を歌っていたころの常連なんだそうです。……つまり、飛行機に乗っていたのは十代のころの側妃に似ている人物ってことになります」
宰相は「なるほど」と唸った。
「陛下、マガリ卿から連絡はありましたか?」
イーノヴェが尋ねた。
ウェダは首を振る。
「いや、ないな」
ベールルーベ王国の飛行機に乗っていたなら、カッラには飛行騎士の素質があったのか。
「早急に正式な使者を送ろう」
:::::::
「この国も落ち着くところに落ち着いたって感じかね」
森の木々に囲まれた一軒家。そのテラスでくつろぎながら、女はつぶやいた。
優雅にティーカップを持った指は浅黒く、しわがれている。
一口飲んだ彼女は、
「渋すぎる!」
と大声を張り上げた。
ティーポットを持っていた若い男が跳ね上がるのを、「ポットを割ったら、ラルリッカ山の頂上の氷を採ってくる刑だよ!」と追撃し、男に悲鳴を上げさせる。
――傭兵組織モルイワイルモの隠れ家である。
「女将さん」
「なんだい」
お前が淹れた方がまだましだ、と女将と呼ばれた女首領は現れた壮年の男にカップを差し出す。
彼はそれを受け取ってテーブルに置き、ティーポットを持った若者に顎をしゃくって追い出した。
「後で淹れ直しますから」
「それで? どうだった?」
「ベップ侯爵はすでに消されていました」
「処刑じゃないのかい?」
「どさくさ紛れですね」
よほど悪いことでもしてたんじゃないですか、と男は喉の奥で笑った。
「まあ、王子殺しを依頼するくらいだからね。悪いやつだろうさ」
女将も笑ってから、
「先代の借りはあれで返したってことでいいかねぇ」
先代のモルイワイルモ首領が危ういところを先代のベップ侯爵に助けられたとかで――女将がいくら聞いても先代は詳細を教えてくれなかったから賭け事で負けただけかもしれない――、一度だけ無償で傭兵を貸す権利を与えていた。先代ベップ侯爵はそれなりの人物だったらしく傭兵の助けを借りることはなかったが、今代は証書を見つけるなりすぐに連絡を取ってきた。
父はなぜ教えてくれなかった、だとか、借りがあるならそちらから接触してくるべきだ、だとか、いろいろ文句をつけていた今代侯爵を思い出す。
「新王は、カッラ王子の死亡を取り消さないみたいですね。アンザイ三世とイトウ王子と同時に、国葬を行うようです」
「へぇ」
女将は足を組み替える。
「まあ、どうでもいいさね」
国になんて興味はない。
「それじゃ、カメイを呼び戻してくれ」
「承知しました」
「あれの紅茶が一番うまいからね」
いないと不便でしかたない、と女将は笑った。
現在はマスモットの後始末に皆で奔走している状態だ。
潜伏中の報告会が効率がいいと気づいたウェダは、主要な人物を集めて皆で昼食を取ることにしていた。落ち着いたら頻度を減らすことも考えているが、目下は毎日集まっていた。
「そういえば」
雑談の体で口を開いたのは、エリーカワだった。
ウェダの弟たちは王弟ということで、それぞれ公爵位に封じられた。――そういった手続きがマスモットの政権下では全く進まなかったのだから、笑えるやら笑えないやら、だ。
エリーカワはにやりと笑うと、
「飛行騎士団で、第四側妃の幽霊を見たって騎士がいるんですよ」
「幽霊?」
「第四側妃はそりゃあ化けて出たくもなるでしょうけれど……」
「そもそも一介の騎士が側妃の顔を知ってるのか?」
皆の反応に気をよくしたエリーカワは続ける。
「それがなんと、ベールルーベ王国に侵攻した際に、敵機に乗っていたのを見たんですって」
「飛行機に乗っていた? まさか……」
「カッラじゃないかと思うんです」
そこで宰相が疑問を呈した。
「公式行事にあまり参加されなかった第四側妃は、私も数回しかお会いしたことがないんですが、その騎士はどうして側妃だと?」
「フスチャットスフ領の出身で、うちが攻め込む前、側妃が街の酒場で歌を歌っていたころの常連なんだそうです。……つまり、飛行機に乗っていたのは十代のころの側妃に似ている人物ってことになります」
宰相は「なるほど」と唸った。
「陛下、マガリ卿から連絡はありましたか?」
イーノヴェが尋ねた。
ウェダは首を振る。
「いや、ないな」
ベールルーベ王国の飛行機に乗っていたなら、カッラには飛行騎士の素質があったのか。
「早急に正式な使者を送ろう」
:::::::
「この国も落ち着くところに落ち着いたって感じかね」
森の木々に囲まれた一軒家。そのテラスでくつろぎながら、女はつぶやいた。
優雅にティーカップを持った指は浅黒く、しわがれている。
一口飲んだ彼女は、
「渋すぎる!」
と大声を張り上げた。
ティーポットを持っていた若い男が跳ね上がるのを、「ポットを割ったら、ラルリッカ山の頂上の氷を採ってくる刑だよ!」と追撃し、男に悲鳴を上げさせる。
――傭兵組織モルイワイルモの隠れ家である。
「女将さん」
「なんだい」
お前が淹れた方がまだましだ、と女将と呼ばれた女首領は現れた壮年の男にカップを差し出す。
彼はそれを受け取ってテーブルに置き、ティーポットを持った若者に顎をしゃくって追い出した。
「後で淹れ直しますから」
「それで? どうだった?」
「ベップ侯爵はすでに消されていました」
「処刑じゃないのかい?」
「どさくさ紛れですね」
よほど悪いことでもしてたんじゃないですか、と男は喉の奥で笑った。
「まあ、王子殺しを依頼するくらいだからね。悪いやつだろうさ」
女将も笑ってから、
「先代の借りはあれで返したってことでいいかねぇ」
先代のモルイワイルモ首領が危ういところを先代のベップ侯爵に助けられたとかで――女将がいくら聞いても先代は詳細を教えてくれなかったから賭け事で負けただけかもしれない――、一度だけ無償で傭兵を貸す権利を与えていた。先代ベップ侯爵はそれなりの人物だったらしく傭兵の助けを借りることはなかったが、今代は証書を見つけるなりすぐに連絡を取ってきた。
父はなぜ教えてくれなかった、だとか、借りがあるならそちらから接触してくるべきだ、だとか、いろいろ文句をつけていた今代侯爵を思い出す。
「新王は、カッラ王子の死亡を取り消さないみたいですね。アンザイ三世とイトウ王子と同時に、国葬を行うようです」
「へぇ」
女将は足を組み替える。
「まあ、どうでもいいさね」
国になんて興味はない。
「それじゃ、カメイを呼び戻してくれ」
「承知しました」
「あれの紅茶が一番うまいからね」
いないと不便でしかたない、と女将は笑った。
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