王国の飛行騎士

神田柊子

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第一部

メデスディスメ王国、隠れ家にて

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 ウェダは日課のように中庭に出ていた。
 政変から半月を越えた。
 そろそろ動かなくてはならない。
 ――何かきっかけが欲しいところだが。
「そういえば、マガリ卿は谷越えで隣国へ?」
 ウェダに付き合っているイーノヴェがそう尋ねた。
「他に道があったか?」
「谷にも道はないですけどね」
 イーノヴェは明るく笑ってから、
「マガリ卿ならラルリッカ山も越えそうだな、と」
 ウェダは南の空を仰ぎ見る。
 そちらがマガリが向かったベールルーベ王国だ。
 第七王子カッラ――もとい第六王女がいるかもしれない国だった。
「ああ、飛行機が」
 イーノヴェが空を指さす。
 二機の飛行機が、東から西へウェダの視界を横切るように飛んでいく。
「毎日、ああして巡回しているのか?」
「街で聞いてきたんですが、以前は数日に一度飛ぶかだったようです。今は、一日に二度三度。……こちらの政変から増えたようです」
「まあ、当然と言えば当然か」
 前を行く機体は黄色、後ろが白い機体だ。傾きかけた日を反射させている。
「白は最高位だったか」
「ええ。ベールルーベ王国の白は、飛行騎士団の団長の絆の飛行機だったはずです」
 団長といえば、王弟ミクラだ。
 ウェダは面識がない。
 団長自ら巡回とはご苦労なことだなと思い、そうさせているのは我が国なのだと自嘲する。
 王位についたあとベールルーベ王国と国交を結ぶことは視野に入れていた。カッラがベールルーベ王国に保護されているなら、その状況を加味して考えないとならないだろう。
「ああ。これは使えるか……」
 ウェダは思いつきを吟味してから、イーノヴェに指示を出した。
「ベールルーベ王国の飛行騎士団が頻繁に国境を飛んでいる。攻めてくるのではないか、と王宮を煽ってくれ」
「はっ! 承知いたしました」
「その前に将軍と詰めた方がいいか」
「館の中にいるのですぐにでも会議をしましょう」
 笑顔でうなずくイーノヴェに、ウェダは「待たせたな」と返す。
 きっかけは自分で作れば良いだけだった。
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