奥様はエリート文官

神田柊子

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第二章 「奥様は……?」「エリート文官!」

アニエスと家政婦長、再び

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 フィリップに愛を告げられた翌朝。

 アニエスはいつもと同じ時間に目が覚めた。
 目の前に硬い壁があると思ってぺたぺた触ると、その壁が震えた。
「アニエス、くすぐったいからやめてくれ」
 低い男性の声だ。
「えっ!」
 アニエスは驚いてがばりと身を起こす。ベッドの隣にはフィリップが寝ていた。
「アニエス! すまない、胸元が! 見ていないから!」
「え。きゃっ」
 指摘されて見ると、リボンが解けて襟が大きく開いてしまっている。アニエスは慌ててかき寄せた。
(夜会のドレスに比べたら、こんなの見えてるうちに入らないのに)
 どうしてこんなに恥ずかしいのだろう。
 アニエスとフィリップは朝の挨拶を交わし、お互いに赤面しつつ、それぞれ逆側にベッドを降りた。
「部屋割りはもう決めたのか?」
 ガウンを羽織るアニエスに、後ろからフィリップが聞く。
「いいえ、まだ屋敷の全部の部屋を確かめていません。今日決める予定です」
「君と私の寝室を同じ部屋にしたらダメだろうか?」
「い、いえっ! 問題ないと、思います」
 アニエスは途切れ途切れにそう答える。
「そうか、良かった」
 フィリップは「荷物を騎士団寮に置いたままだから、そちらで支度してくる」と、言い置いて部屋から出て行った。
 アニエスは緊張で疲れて、ソファにへたり込んだ。
「フィリップ様が私のことを好き?」
 しかも、五年前から。
 アニエスの辺境にも恋愛はあったらしい。
「フィリップ様はこの問題は後回しでいいとおっしゃったわ」
 頭の切り替えは、複数の仕事を同時進行する上で重要だ。
 アニエスは、フィリップからの愛の告白を『長期的な課題』の箱に押し込めることにした。
「だから、とりあえず、今日の仕事は部屋割りと採用計画ね」

 今朝の支度はミュラとセシルがやってきた。
「コレット様が、お茶の時間に詳しく、とおっしゃっていました」
 と聞き、アニエスは今から恐ろしい。
 動きやすいワンピースを着せてもらって、アニエスは食堂に急ぐ。フィリップはすでに食卓についていた。定位置にしてしまったのか、今朝も隣同士の席だ。
 今日はナタンが控えていたが、マルゴはいなかった。フィリップがブリスとアンドレを連れてきていたから、少し物々しく感じる。
 フィリップはいつも通り――というほどアニエスは彼の『いつも』を知らないが、少なくとも甘い顔で愛を囁いたりはしない。昨日、騎士団の団長室で報告したときと変わらない態度だ。
 そうされると、頭を切り替えたアニエスも平常心で関われる。
 朝食の献立は昨日とほぼ同じだが、サラダにトマトが載っていた。
 食後の茶を出し、給仕についていたミュラをナタンが下がらせる。フィリップはドアの内側にいたブリスを外に出して廊下を見張らせた。
 室内にはナタン、セシル、アンドレ、あとはフィリップとアニエスが残った。
「何かございましたか?」
 密談の雰囲気にアニエスは紅茶を一口飲んでから、そう尋ねた。
「いや、お互い忙しくなるから朝のうちに報告を済ませておこうと思ってな」
「ええ、そうですね。その方が助かります」
「セザールの報告では、マルゴは昨日は古物商や宝石店なんかをいくつか回って、酒場と飯屋に顔を出したらしい。そこがもしかしたらマルゴにブローチを贈ったやつにつながる場所かもしれない。目当ての人間は捕まらなかったようで、昨日は徒労に終わったようだ。マルゴは今日も朝から出かけている」
 そこでナタンが、アニエスに紙束を差し出した。
「ギヨーム様がマルゴに贈った物の一覧です」
「ありがとう。先にフィリップ様にお渡しして」
 アニエスが譲るとフィリップはパラパラと一読してから、アニエスに回してくれる。
「やはりオパールはないですね……。それにしてもけっこうな数ですわね。ドレスもありますし、ギヨーム様はマルゴを連れて夜会に出かけたりしていたの?」
 アニエスはナタンに聞く。彼は首を振った。
「いいえ。ギヨーム様はそもそも夜会は最低限で、王城の大夜会だけしか参加しておりませんでした」
「マルゴは後妻を狙っていたのかしら……」
「そうかもしれません。でもギヨーム様は亡くなった奥様を寵愛してらしたので、それだけは許さなかったでしょう」
「まあ……」
(後妻はダメで愛人ならいい、なんて理屈は、全く理解できないわ)
 呆れがそのまま声に出たのか、フィリップがアニエスを振り返った。
「私は、後妻も愛人も要らない」
「はい。私もまだ死ぬつもりはありませんわ」
「あ、ああ、そうしてくれ……? あー、俺はアニエスを愛しているから、という意味だが……伝わっているか?」
「ああ、なるほど! えっと、はい。理解いたしました……」
 アニエスは顔を赤くしてうつむく。
 それを見たフィリップも照れて、顔を片手で覆った。
 一歩後ろでセシルが「コレット様に報告しなきゃ」と拳を握り、アンドレは「やっと伝わったのか……」と何度もうなずいていたが、当のふたりには聞こえていない。
 微笑んでいるナタンが目に入ったアニエスは、気持ちを書類に戻す。
(愛については『長期的な課題』!)
「あら? これは? ギヨーム様は管理官に指輪を贈ったの?」
 マルゴへの贈り物一覧の最後に、行を空けて補足的に書かれてた。
「晩年のギヨーム様が他者に何か贈ったのが、マルゴ以外はシェーシズ氏だけだったもので、お伝えすべき事項かと思いました」
「ありがとう。この指輪はどういった品かしら?」
「先々代が人に勧められて購入された一品で、たまたま処分せずに残っていたものです。ギヨーム様も思い入れはなかったと思います」
「褒賞かしら? 贈った時期はおととしの秋……」
「シェーシズ氏が何か訴えに来られて、追い返す際にギヨーム様が渡しておられました」
 私は席を外すように言われたので会話を聞いておりません、とナタンは頭を下げる。
「ありがとう。これはシェーシズ氏に確認してみます」
 アニエスはフィリップに向き直る。
「やはり管理官とは早めに話をしたいです」
「うーん。君の部下はいつごろこちらに来れる?」
「準備はしておくと言っていたので、一番かかるのが移動時間ではないでしょうか」
「それなら、最速で移動できるようにこちらで手配する。君が管理官に会うのは、部下が来てから、私も同席できるときだ」
 譲らなそうなフィリップの強い言葉に、アニエスは素直に従った。
 アニエスがうなずくのを見て、フィリップは話題を変える。
「オパールが前辺境伯からの贈り物でないなら、マルゴが盗賊――盗掘団と関わりがあるのは間違いなさそうだ。そうなってくると彼女をこの家に置いたままにできない」
「捕まえるのですか?」
「いや、追い出して監視しようと思う」
 フィリップは「もともとの騎士団員からも人員を確保した」と続ける。
「我々がオパールに気づいたことは、遅かれ早かれマルゴから盗掘団にも伝わる」
「申し訳ありません。私が余計なことを言ったから……」
「いや、それは問題ない。君がいたから事態が動いたのだ」
 フィリップはアニエスを安心させるように笑顔を浮かべる。
「状況を説明して、第三騎士団の派遣を早めてもらうことにする。それで一掃できるだろう」
「わかりました」
「マルゴは君の判断で追い出してくれ」
 アニエスはしっかりとうなずいたのだった。
 ――そして、その機会はすぐに訪れた。

「主寝室はやっぱりここしかないわね」
 アニエスは朝食後、セシルとコレットと一緒にナタンに屋敷を案内してもらっていた。
 建物はギヨームの祖父の代に建てられたそうだ。主家の人間はギヨームだけ、客も来ない時代が長かったため、長年使われていない部屋ばかりだ。
 ギヨームが使っていた主人の部屋、亡き妻が使っていた女主人の部屋、その間にある夫婦の主寝室を見て回る。
「家具は一新したいわね。さすがに」
 主寝室のベッドを見て、アニエスは言う。
「壁紙も絨毯も、全部換えたらいいわよ。お金はあるんでしょ?」
 コレットがカーテンを開けながら言う。
 東向きの部屋からの眺めは、国境の山脈が一望できる。山頂にわずかに雪が残っているが、新緑の色が濃い。
「ええ。陛下から祝い金をいただいたってフィリップ様がおっしゃっていたわ」
「うちで揃える? 安くしておくわよ」
 コレットの実家は王都で百貨店を経営している。
「ここはやっぱり、領地で揃えるべきでしょうね」
「そうよね」
 コレットも冗談で提案していたから、すぐに賛成した。
 主寝室からは、主人の部屋と女主人の部屋に直接入れる。
 アニエスは女主人の部屋に入った。
 ギヨームの妻が亡くなったのは二十年前だそうだが、部屋はそのままになっていた。
 鏡台に昔に流行した香水の瓶が並ぶのが、悲しいような恐ろしいような。
「そのままにしているのね」
「はい。旦那様はここにはマルゴを絶対に入れませんでした」
 ナタンは美談のようにそう言うけれど、アニエスは彼に気づかれないように眉を寄せた。
(でも、愛人にはするのね……。それとこれとは別ってこと? やっぱり理解できないわ)
「前辺境伯家の方々の遺品はどうしたらいいかしら?」
 金銭価値のあるものは領地や爵位と一緒に、王家に返上される。それをもって家系断絶となる。
 管理官が派遣されていたため、返上の手続きをしたのも管理官ジャコブ・シェーシズだ。
(収支報告書と合わせて、返上手続きもチェックした方がいいかしら)
 土地家屋など、書類の処理だけで済ませてそのまま次の領主に引き渡されるものもあるが、金や宝飾品は大体一度城に納められる。
 今この家に残っているものは、価値がないと判断されたもので、フィリップやアニエスが自由に処分していいことになっている。
「旦那様と奥様のお好きになさってよろしいかと思います」
「一応は、ギヨーム様の奥様のご実家だとか、交流があった家があるのよね?」
「旦那様方の交流はあまりおすすめいたしません。……ギヨーム様が領地を立て直した際に手のひらを返してきた方々ですので、向こうから連絡してくる可能性もございますが」
「そういう感じの方々なのね」
 フィリップは国王の甥で、アニエスも元王太子筆頭補佐官。権力志向の者にすり寄られても面倒くさい。
「わかりました。気づかなかったことにしましょう」
「承知いたしました」
「ナタンや料理長、元騎士団長はどうかしら? 辞めてしまった使用人とか、領民でも、旧辺境伯家に愛着がある方はいるでしょ? ナタンの知る範囲で構わないから、処分前に連絡をとってちょうだい。欲しいものがあれば譲りますって」
「ありがとうございます。長く勤めていた使用人は皆喜ぶと思います」
 アニエスの提案にナタンが頭を下げる。
 遺品をどこかの部屋に移してから、内装を一新して家具を買い換える手順に決める。
 それまでは今の客室を使うなどと話しながら部屋を出て、階段を降りていくと、玄関ホールでマルゴと行き会った。
「まあ、マルゴ。どこに行っていたの?」
「奥様に関係のない場所です」
 それはそうだろうけれど。
「あなたは今仕事中でしょう? 勝手に出歩いていいと思っているの?」
 マルゴは今日はオパールのブローチではなく、オニキスのペンダントを身に着けていた。
 アニエスの目がペンダントに向いたことに気づいたのか、マルゴは胸を張る。アニエスを上から下まで眺めて、鼻で笑った。
 今日のアニエスは動きやすいワンピースで、装飾品も着けておらず、文官時代と同じひっつめ髪だ。
「そんなので、旦那様の興味がいつまでもつのかしら。貧相な小娘が、いくら若くったって、それだけじゃ男はすぐに飽きるのよ」
 後半はさすがに小声だったけれど、アニエスにも後ろにいたコレットたちにもしっかり聞こえた。
「まあ!」
(都合よく喧嘩をふっかけてくれるなんて……)
 文官時代のように手帳を取り出して小道具にしようとしたら、すかさずコレットが扇を持たせてくれた。
 義母クリステルの教えだろう。
 アニエスは渡された扇をぱらっと開くと、口元を隠す。
「あなた、誰に向かってものを言っているの?」
 自分より背の高いマルゴをにらみつける。
「ギヨーム様のころは女主人がいなかったから、好き勝手にメイドを辞めさせることができたかもしれないけれど、今は違うわよ。あなたは単なる家政婦長。私は辺境伯夫人」
「だから、あんたなんてすぐに飽きられるって言っているのよ!」
「まあ、おかしなこと! 愛されるかどうかなんて、何も関係ないのよ。あなたの人事権は私が握っているのだもの」
「あっ……」
「まさか、今気づいたの? 旦那様に取り入るために女主人の味方のふりをして近づく……なんてロマンス小説の悪女の常識でしょ」
(そんな常識があるかどうかなんて知らないけれど)
 マルゴは唇をかみしめている。
「今すぐにこの家から出ていきなさい。誰か騎士を呼んで」
「はい。ここに」
 アニエスが言うなり、玄関ドアが外から開いて、ブリスが入ってきた。彼は言動は気さくだが、見た目は厳ついため、黙っていれば迫力がある。
「情けで街への出入りは許してあげるわ。でも、辺境伯家の敷地へは立ち入り禁止。二度と私とフィリップ様の前に顔を見せないでちょうだい」
「くっ……。なんなのよ。私はギヨーム様に愛されていて……!」
 マルゴが言うのに、アニエスは首をかしげる。
「それが私にはわからないのよ。ギヨーム様は亡くなった奥様を愛していて後妻は娶らなかったし、女主人の部屋はずっと生前のまま残していた。……あなた本当に愛されていたの? 寂しさを紛らわすための道具にされただけじゃなくて?」
「うぐっ。あ、ああ、あんたに何がわかるのよ! あんたなんかにぃ!」
 叫びだしたマルゴをブリスが捕まえて、外に引っ張り出す。
 ナタンがドアを閉めると、マルゴの叫びはだんだんと遠ざかっていった。
「ええと、やりすぎだったかしら?」
 コレットを振り返ると、彼女は深くため息をついた。
「とどめを刺したうえで、傷口に大量の塩を塗りこんだような感じかしら」
「お見事でした!」
 一方、セシルは拍手をしてくれた。
 アニエスは「純粋に疑問に思っただけだったのに」と扇をぱちぱち閉じたり開いたりして、コレットの視線をごまかした。
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