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第二章 結婚披露パーティーをする二人

結婚式に参列する二人

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 よく晴れた空に花火が上がっている。
 ユーグはそれを見上げて目を細めた。
 盛り上がった魔術師たちが祝いだと称していろいろな魔術を放っているらしく、先ほどから花吹雪が舞ったり雲で文字が描かれたりと上空が忙しい。
 ジェシカの上司である王立魔術院魔術陣・呪文研究課の課長、エイプリル伯爵の結婚披露パーティーだ。
 エイプリル伯爵家は代々魔術師を輩出している家柄で、夫人も魔術師のため、客も魔術師ばかりだ。
 伯爵や夫人と面識があることもあって、ユーグはジェシカのエスコート役として参加していた。
 教会で式を挙げたあと、迎賓館を借りてのガーデンパーティーと、なかなか盛大だ。
 ユーグとジェシカは婚姻届を提出しただけで、結婚式も披露パーティーも行わなかった。契約結婚だったから思いつきもしなかったが、ジェシカを着飾らせる貴重な機会だったのにと今では悔やまれる。
 今さらだけれど、結婚一周年で式を挙げるならどうだろう。
 そう考えたユーグは、パーティーの招待状を受け取ったときにジェシカに尋ねた。
「俺たちも結婚式をしないか?」
「どうして? 書類は提出しているのだから婚姻に問題はないでしょ? 知らせるべき人たちには知らせたから、わざわざ披露パーティーを開く必要もないわ」
「まあ、そうだよな……」
 ジェシカの返答はにべもなかった。
「ああ、そういえば、あなたのご家族にご挨拶していないわね」
「確かに! ミナリオ国でなら披露パーティーの意味もあるな!」
「そうねぇ」
「計画してもかまわないか?」
「ええ。ご挨拶しないままってわけにいかないものね」
 ジェシカはうなずいてくれた。
「君はいつごろ、何日くらい休みが取れる? せっかくだから新婚旅行も兼ねよう。ミナリオ国の名所を案内するよ。もちろん、他の国でもいい」
「まずはパーティーの計画を立ててからよ? ご家族のご予定も確認してね? 私の方は、二週間くらいならまとめて休めるはずだから。時期だけ調整させて」
 それからユーグは張り切って計画を立てている。
 ジェシカの論文の締切や研究発表会と、なにやらいろいろあるらしく、半年ほど先になる予定だった。
 結婚一周年より少し先の日程になるが仕方ない。準備期間が長くとれると思えば悪くない。
 両親も姉夫婦もユーグの結婚を歓迎してくれている。姉とジェシカはおそらく気が合うだろうから、実家に滞在しても楽しく過ごしてもらえると思う。
 そんなこともあり、エイプリル伯爵の結婚披露パーティーは参考になると期待していた。主にジェシカの好みを知るために、だ。
「ジェシカさんのところは結婚式やらなかったんすよね?」
 彼女の直属の部下だというミックが聞いた。
 彼の方がジェシカより年上で、魔術院の研究員歴も長いらしい。
「そうね。でも年度末に休みを取ってミナリオ国で披露パーティーをすることになっているわ」
「えー! ミナリオ国っすか。俺たちは?」
「旅費を自分で出すなら招待するわ」
「うーん、いやぁ、全然無理ってこともないすねぇ。うーん……」
 ミックは首をひねり、他の数人は「自分は無理です」「お土産に期待してます」とあきらめた様子だ。
 ユーグはジェシカに顔を寄せる。
「こっちでも披露パーティーした方がいいんじゃないか?」
「考えてみるわ」
 と二人でうなずきあっていると、「そういえば」と声をあげた者がいた。
「ミックの披露パーティーはすごかったよな」
「ああ! あれな!」
「え? すごかったって?」
「そっか。ジェシカさんはまだ魔術院に所属してなかったですもんね」
 首を傾げるジェシカに、周りの部下たちは口々に説明し出した。
「レストランを貸し切りにして、闇籠りの魔術で真っ暗にして、その中に魔術で灯りを入れてたんですけど。それがすごくって」
「キラッキラした灯りがクルックル回ってて」
「木漏れ日の最強版みたいな」
「幻想的っていうより、攻撃的なキラキラでしたね」
「キラキラ? どういうこと? 詳しく教えて」
 身を乗り出すジェシカに、ユーグは驚く。
 アクセサリーにも室内の装飾にも興味がないジェシカはキラキラとは無縁だと思っていた。
 彼女のドレスに宝石を縫い付ける算段を頭の中で繰り広げながら、ユーグも話の続きを見守る。
 すると、ジェシカはわくわくした顔でミックに尋ねた。
「どんな魔術陣なの?」
「鏡の魔術陣で、光を反射させたんすよ。小さい陣をたくさん作って、それを回転シャンデリアの魔道具に仕込んで」
「ふぅん、なるほど」
「大変だったんですよ。ミックは俺たちにまで手伝わせて」
「だって、百近くの魔術陣を描かないとならなかったから! お礼は弾んだだろ」
「ねえ、それ、一つの陣で一つの鏡ってこと? 一つの陣に複数の鏡……いえ、鏡じゃなくてもいいわ、乱反射させるようにすれば……。そもそも反射じゃなくて、多方向に発する光魔術は?」
「まぶしすぎませんか?」
「光に強弱をつけられないかな」
「いいわね、それ。考えてみて」
「はい!」
 予想と違う話の展開にユーグはため息をついた。
 ジェシカの興味の向きはひたすら魔術で、周りの人間も限りなく同じ嗜好だということがわかっただけだった。
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