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出会いから告白まで
1話 出会い
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今年の春から
高校一年になった犬飼優人は、
代わり映えしない通学路を
歩いていた。
なぜなら俺の通う学校は
幼稚園から大学までの
一貫校だからである。
最初の登校から一週間がたち、
クラスメートともなじみ
普通に過ごしていた。
しかし今日は
少し早めに目が覚め、
学校で本でも読むかと思い、
母親が用意してくれた朝食を食べ家をでた。
母親は
雨でも降るんじゃないかと
笑いながら、
行ってらっしゃいと言った。
いつもより30分ほど
早く出ただけで、
少し新鮮な気持ちだった。
学校までは徒歩で15分ほどだ。
住宅街を
10分ほど歩いた頃だろうか
目の前に、
赤いランドセルを背負った小学生がいる。
この辺りで小学校といえば、
俺と同じ一貫校で間違いない。
軽く挨拶でもするか
悩んでいると、
彼女はふらふらとし、
しゃがみこんでしまった。
慌てて駆けより
「大丈夫か?」
と声をかける。
彼女は、
「大丈夫です・・・」
と青い顔で答える。
しかしここでそうかと
置いていくのも罰が悪いと思い、
「君は幸知学園の生徒だよね?」
そう聞くと彼女は、
「そうです・・・」
「なら僕の学校と一緒だね。
保健室まで連れていってあげるよ」
「そんな・・・悪いです・・・」
彼女は断るが、
「いいから、ほらおぶさって」
彼女の前でしゃがみこむ。
彼女はためらったようだが
その体をあずけてくれた。
「重く・・・ないですか?」
恥ずかしそうに問う。
「大丈夫、大丈夫軽いもんだよ」
強がって言ったものの
自分の荷物を肩にかけ
彼女を背負うのは
なかなかにきつかった。
だがそこは男の意地である。
彼女を背負い、
あと5分で着くはずの道程を
10分かけて校門前に到着する。
朝練のランニングをしている生徒や、
早めに通学する生徒に
ちらちらみられながらも、
小学校に入る。
懐かしさを感じながら
靴を脱ぎ来客用のスリッパで
保健室へ向かう。
途中ばったりと教師と出会う。
昔担任だった小松という30代の男性教師だ。
「えーと?
君は犬飼くんだったかな?」
俺は覚えていてもらった嬉しさを感じながらも事情を説明する。
「そうか大変だったな。
ありがとう」
そのまま一緒に軽く話しながら
保健室へ向かう。
到着し、
扉を開く小松先生。
中からは薬品の香りが漂う中に
一人の保険医がいた。
こちらも代わらず
原田という穏やかな
老女先生だった。
「あらあら、どうしたの?」
柔和な笑みで話しかけてきた。
「彼女の具合が悪いようで
お願いできますか?」
彼女を椅子に座らせランドセルをとる。
原田先生は体温計を取り出し
彼女の脇に挟み込むと
靴を脱がせてあげていた。
ピピピと電子音がなり、
原田先生はそれをみると
「特に熱はないね。
少し横になってもらおうか。
歩けるかい?」
彼女に聞くとコクンとうなずく。
よろよろとベッドに倒れ込む。
その上に布団をかぶせてあげる原田先生。
「これで少し様子をみるよ」
「お願いします」
そういい、
小松先生と保健室を出ようとする。
「ありがとう・・・。
お兄さん・・・」
か細い声でそういう彼女に、
「早く元気になってね」
そして保健室をでた。
小松先生からは、
再度ありがとうと言われ
小学校をでた。
そして
小学校から少し坂を登ると
中学校があり
さらに登ると高校がある。
坂には桜が植えられており
美しい花を咲かせていた。
桜の舞う中、
俺は足をガクガクさせ
坂を登り教室へと向かった。
色々あったため
普段通りの登校になった。
教室に行き、
自分の席につくと
人心地つくことができた。
「おはようー優人」
不意に声をかけられる。
小学校からの友人で
ルックス抜群の城見涼だ。
「おはよう涼」
さらさらな茶色がかった髪に
170を超える身長。
成績優秀、運動神経抜群、
性格も優しいと、
乙女ゲームの設定を
詰め込んだみたいなやつだ。
「どうした?
疲れてるみたいだな?」
ほらこの調子で
少しの違いを見抜いてくる。
涼に今日あったことを説明する。
「大変だったな。
しかし優人は優しいよな」
「いや同じ場面だったら
涼も助けてるだろ」
「そうだと思うけど
他の人だったらどうするか
分からないだろ。
実際に助けてあげた
優人は良い人だよ。
そういうとこ好きだよ」
にっこりと、
笑いながらそういってくる。
こいつは全く恥ずかしいやつだ。
自然にこういう事をいうから困る。
その様子を見ていたクラスの女子たちが羨ましそうに見てくる。
一部はニヤニヤしているようだがあまり考え無いようにしよう。
「ありがとう。
まあ良くなってくれたらいいな。しんどそうだったからな」
「そうだね」
キンコンカンコーン
始業のベルが鳴る。
涼も自分の席にもどる。
同時に教師が入ってくる。
さあ辛い授業の開始だ。
数学の公式、英単語、化学式、政経などの知識を頭に詰め込んで本日の苦行は終了した。
「疲れたー」
机にぐでーと倒れ込む。
「お疲れ優人」
涼が話しかけてくる。
「お疲れ。涼は部活か?」
「そうだね」
「大変だな」
「好きなことだからね」
涼はバスケ部に所属している。
「優人は帰るのかい?」
「そうだな本屋でも覗いて帰るよ」
「相変わらずだな」
「うっせ」
笑いながら話していると
ガラッと扉が開くと、
担任の島田先生が入ってきた。
「ああよかった。
まだいてくれたんですね」
眼鏡をかけた優しい先生だ。
国語の先生でまだ20代後半ということもあり、
色々生徒の相談も聞いてくれるので人気がある。
「どうしたんですか?」
俺はそう聞くと、
「犬飼君にお客様が来てましてね。
応接室まできていただきたいと、
校長先生が呼んでいるんですよ」
「はあ?何故ですか?」
「今日、学園の小学生を助けてくれたんでしょう?
その子と母親がお礼を言いたいということでして」
俺はびっくりしながらも
「わかりました。
涼、それじゃあ」
「ああまた明日」
教室を出て応接室まで向かう。
島田先生の先導で、
扉をノックすると、
「入ってください」
「失礼します」
入室すると中にはテーブルと、
黒いソファーが2つ対面してあり色々なトロフィーや絵が飾られていた。
右側のソファーには、
今日の女の子と
母親らしき人物が座っている。
「私はこれで失礼します」
島田先生が退室していき、
俺はドキドキしながら立ち尽くしていた。
校長先生が、
「よく来てくれたね。
さあ隣に座りなさい」
威厳ある声で
着席をうながされる。
「は、はい」
校長は髪は白くなってはいるが、
ふさふさでまさにロマンスグレーというべき渋いひとだ。
ガクガクとしながら歩いて
校長の隣のソファーに座る。
フワァとした座り心地もあまりよく分からなかった。
「今日は娘を助けていただきありがとうございます」
そういったのは
母親らしきひとだった。
らしきと言ったのは
あまりに若々しく美しい人だったからだ。
長い黒髪にキリッとした目だが、
きつい印象はなく穏やかな雰囲気をまとっている。
「い、えいえ。
当たり前のことをした、
だけですので・・・」
緊張してカミカミになりながら答える。
「ふふっ。
そんなに緊張なさらないでください。
私は司真矢と申します。
娘は優里です」
「あっ、
僕は犬飼優人と申します」
お互いに自己紹介をすると
「君のような生徒がいることは嬉しいよ」
校長がにこりと笑う。
「そこまで言われると照れますよほんと・・」
そこで校長と真矢さんが笑う。
「ほら優里、
お礼をするんでしょう」
対面に座っている優里ちゃんに、
声をかける。
ずっとうつむいていた優里ちゃんが顔をあげる。
ここでまた驚いた。
真矢さんをそのまま幼くした容姿の美少女だったからだ。
朝会った時は
全く気づかなかった。
そんな余裕もなかったからだ。
「朝は、
ありがとうございました」
おずおずといい頭をさげる。
「いやいや本当に気にしないでいいから。
体調はもう大丈夫?」
「はい。貧血だったようで少し休んでいたらよくなりました」
「それは良かった。
心配してたんだよ」
また優里ちゃんはうつむくと黙ってしまった。
「ふふっ照れちゃって。
どうしてもお礼がしたいって、
あんなに言ってたのに」
「ママっ!それは言わないでよ」
優里ちゃんはこっちを向くと
真っ赤な顔でうつむいた。
「ははは!犬飼君、君も罪な男だな!」
校長は豪快に笑う。
真矢さんもつられて笑う。
俺は意味も分からずとまどう。
「今度の日曜日にでも、
犬飼さんのお宅に伺いあらためてお礼をしたいのですが、
ご両親の都合はどうでしょうか?」
「いや本当にそこまでしてもらうことでは」
「犬飼君、
ご厚意は素直に受け取りなさい。謙遜のし過ぎは美しくない事だ」
校長にそう言われてしまうと、
どうしようもなかった。
「分かりました。
両親に話しておきます」
「ありがとうございます」
ニコッと笑った真矢さんはそういうと頭を下げた。
「それでは今日はこれでよろしいか?」
「はい。
校長先生もありがとうございます」
そういい席を立つ真矢さん。
「行きますよ、優里」
手を引かれ優里ちゃんも席をたち二人で入り口まで向かう。
入り口前で頭を下げる。
俺も慌てて立ち上がり頭を下げる。
真矢さんと優里ちゃんは静かにドアを開け、
部屋を出ていった。
「ふぅー」
ドスンとソファーに座り込む。
「ははは!
大分緊張したみたいだな!」
笑いながら背中を叩いてくる。
「勘弁してくださいよ・・・」
「君は良い事をした。
そしてお礼が返ってくる。
ただそれだけのことじゃないか」
そう言われるとそういうものかと思った。
「分かりました。
では失礼します」
「今日は疲れただろうから、
ゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます」
といい部屋から出ていく。
外は少し暗くなり始めていた。
「帰るか」
そう呟くと荷物を取り家へと帰った。
「ただいまー」
家の扉を開くと、
「お帰りー」
母さんの声が聞こえた。
そして二階に上がり自分の部屋へと向かう。
ガチャと隣の部屋が開くと妹が出てきた。
「兄ちゃんお帰りー!
ゲームしようよ!」
今年で中学一年になる妹の凜だが小学生のときは、
よく男の子に間違われていた。
ショートカットで、
趣味もスポーツやゲームといった感じだからだ。
しかし中学生になり、
制服をきてスカートを身につけた凜は可愛く思った。(同じ学園だ)
「ふふ。また負けにきたか?」
「あまく見ないでよね!
今日は勝つ!」
「良い覚悟だ。来いよ」
部屋に招き
着替えをしている内に
凜はゲームの準備をしていた。
格闘ゲームで何度か対戦をしていると父さんが帰って来た。
(ゲームは全勝した。凜はしょぼーんとしていたがまあそれも可愛く思える)
父さんは風呂に入り
次に母さんと凜が入り
最後に俺が入る。
そして夕食になり
他愛ない話をしながら食事を終わらせる。
まったりテレビを見ている時に
今日あった事を話す。
父さんも母さんも凜も驚いていたが、皆褒めてくれて日曜日を空けてくれることになった。
その日はそのまま眠りについた。
火曜日の朝
またしても早く目覚めてしまった。
昨日の印象が強く残ったためだろうか?
また早めに家を出る。
昨日の場所に行ってみると、
そこには優里ちゃんがいた。
「おはよう」
「お、はよう、ございます・・・」
緊張した面持ちで挨拶を返してくれる。
「一緒に行く?」
と聞くと、コクンと頷く。
一緒に歩きだし
優里ちゃんの顔を見て
改めて思ったが
凜より年下とは思えなかった。
「今日は体調大丈夫?」
コクンと頷く。
むー間がもたない。
そうしている内に学園についてしまった。
優里ちゃんは
お辞儀をして小学校へ向かって行った。
なんだか気まずくもあるが
楽しい時間だった。
高校一年になった犬飼優人は、
代わり映えしない通学路を
歩いていた。
なぜなら俺の通う学校は
幼稚園から大学までの
一貫校だからである。
最初の登校から一週間がたち、
クラスメートともなじみ
普通に過ごしていた。
しかし今日は
少し早めに目が覚め、
学校で本でも読むかと思い、
母親が用意してくれた朝食を食べ家をでた。
母親は
雨でも降るんじゃないかと
笑いながら、
行ってらっしゃいと言った。
いつもより30分ほど
早く出ただけで、
少し新鮮な気持ちだった。
学校までは徒歩で15分ほどだ。
住宅街を
10分ほど歩いた頃だろうか
目の前に、
赤いランドセルを背負った小学生がいる。
この辺りで小学校といえば、
俺と同じ一貫校で間違いない。
軽く挨拶でもするか
悩んでいると、
彼女はふらふらとし、
しゃがみこんでしまった。
慌てて駆けより
「大丈夫か?」
と声をかける。
彼女は、
「大丈夫です・・・」
と青い顔で答える。
しかしここでそうかと
置いていくのも罰が悪いと思い、
「君は幸知学園の生徒だよね?」
そう聞くと彼女は、
「そうです・・・」
「なら僕の学校と一緒だね。
保健室まで連れていってあげるよ」
「そんな・・・悪いです・・・」
彼女は断るが、
「いいから、ほらおぶさって」
彼女の前でしゃがみこむ。
彼女はためらったようだが
その体をあずけてくれた。
「重く・・・ないですか?」
恥ずかしそうに問う。
「大丈夫、大丈夫軽いもんだよ」
強がって言ったものの
自分の荷物を肩にかけ
彼女を背負うのは
なかなかにきつかった。
だがそこは男の意地である。
彼女を背負い、
あと5分で着くはずの道程を
10分かけて校門前に到着する。
朝練のランニングをしている生徒や、
早めに通学する生徒に
ちらちらみられながらも、
小学校に入る。
懐かしさを感じながら
靴を脱ぎ来客用のスリッパで
保健室へ向かう。
途中ばったりと教師と出会う。
昔担任だった小松という30代の男性教師だ。
「えーと?
君は犬飼くんだったかな?」
俺は覚えていてもらった嬉しさを感じながらも事情を説明する。
「そうか大変だったな。
ありがとう」
そのまま一緒に軽く話しながら
保健室へ向かう。
到着し、
扉を開く小松先生。
中からは薬品の香りが漂う中に
一人の保険医がいた。
こちらも代わらず
原田という穏やかな
老女先生だった。
「あらあら、どうしたの?」
柔和な笑みで話しかけてきた。
「彼女の具合が悪いようで
お願いできますか?」
彼女を椅子に座らせランドセルをとる。
原田先生は体温計を取り出し
彼女の脇に挟み込むと
靴を脱がせてあげていた。
ピピピと電子音がなり、
原田先生はそれをみると
「特に熱はないね。
少し横になってもらおうか。
歩けるかい?」
彼女に聞くとコクンとうなずく。
よろよろとベッドに倒れ込む。
その上に布団をかぶせてあげる原田先生。
「これで少し様子をみるよ」
「お願いします」
そういい、
小松先生と保健室を出ようとする。
「ありがとう・・・。
お兄さん・・・」
か細い声でそういう彼女に、
「早く元気になってね」
そして保健室をでた。
小松先生からは、
再度ありがとうと言われ
小学校をでた。
そして
小学校から少し坂を登ると
中学校があり
さらに登ると高校がある。
坂には桜が植えられており
美しい花を咲かせていた。
桜の舞う中、
俺は足をガクガクさせ
坂を登り教室へと向かった。
色々あったため
普段通りの登校になった。
教室に行き、
自分の席につくと
人心地つくことができた。
「おはようー優人」
不意に声をかけられる。
小学校からの友人で
ルックス抜群の城見涼だ。
「おはよう涼」
さらさらな茶色がかった髪に
170を超える身長。
成績優秀、運動神経抜群、
性格も優しいと、
乙女ゲームの設定を
詰め込んだみたいなやつだ。
「どうした?
疲れてるみたいだな?」
ほらこの調子で
少しの違いを見抜いてくる。
涼に今日あったことを説明する。
「大変だったな。
しかし優人は優しいよな」
「いや同じ場面だったら
涼も助けてるだろ」
「そうだと思うけど
他の人だったらどうするか
分からないだろ。
実際に助けてあげた
優人は良い人だよ。
そういうとこ好きだよ」
にっこりと、
笑いながらそういってくる。
こいつは全く恥ずかしいやつだ。
自然にこういう事をいうから困る。
その様子を見ていたクラスの女子たちが羨ましそうに見てくる。
一部はニヤニヤしているようだがあまり考え無いようにしよう。
「ありがとう。
まあ良くなってくれたらいいな。しんどそうだったからな」
「そうだね」
キンコンカンコーン
始業のベルが鳴る。
涼も自分の席にもどる。
同時に教師が入ってくる。
さあ辛い授業の開始だ。
数学の公式、英単語、化学式、政経などの知識を頭に詰め込んで本日の苦行は終了した。
「疲れたー」
机にぐでーと倒れ込む。
「お疲れ優人」
涼が話しかけてくる。
「お疲れ。涼は部活か?」
「そうだね」
「大変だな」
「好きなことだからね」
涼はバスケ部に所属している。
「優人は帰るのかい?」
「そうだな本屋でも覗いて帰るよ」
「相変わらずだな」
「うっせ」
笑いながら話していると
ガラッと扉が開くと、
担任の島田先生が入ってきた。
「ああよかった。
まだいてくれたんですね」
眼鏡をかけた優しい先生だ。
国語の先生でまだ20代後半ということもあり、
色々生徒の相談も聞いてくれるので人気がある。
「どうしたんですか?」
俺はそう聞くと、
「犬飼君にお客様が来てましてね。
応接室まできていただきたいと、
校長先生が呼んでいるんですよ」
「はあ?何故ですか?」
「今日、学園の小学生を助けてくれたんでしょう?
その子と母親がお礼を言いたいということでして」
俺はびっくりしながらも
「わかりました。
涼、それじゃあ」
「ああまた明日」
教室を出て応接室まで向かう。
島田先生の先導で、
扉をノックすると、
「入ってください」
「失礼します」
入室すると中にはテーブルと、
黒いソファーが2つ対面してあり色々なトロフィーや絵が飾られていた。
右側のソファーには、
今日の女の子と
母親らしき人物が座っている。
「私はこれで失礼します」
島田先生が退室していき、
俺はドキドキしながら立ち尽くしていた。
校長先生が、
「よく来てくれたね。
さあ隣に座りなさい」
威厳ある声で
着席をうながされる。
「は、はい」
校長は髪は白くなってはいるが、
ふさふさでまさにロマンスグレーというべき渋いひとだ。
ガクガクとしながら歩いて
校長の隣のソファーに座る。
フワァとした座り心地もあまりよく分からなかった。
「今日は娘を助けていただきありがとうございます」
そういったのは
母親らしきひとだった。
らしきと言ったのは
あまりに若々しく美しい人だったからだ。
長い黒髪にキリッとした目だが、
きつい印象はなく穏やかな雰囲気をまとっている。
「い、えいえ。
当たり前のことをした、
だけですので・・・」
緊張してカミカミになりながら答える。
「ふふっ。
そんなに緊張なさらないでください。
私は司真矢と申します。
娘は優里です」
「あっ、
僕は犬飼優人と申します」
お互いに自己紹介をすると
「君のような生徒がいることは嬉しいよ」
校長がにこりと笑う。
「そこまで言われると照れますよほんと・・」
そこで校長と真矢さんが笑う。
「ほら優里、
お礼をするんでしょう」
対面に座っている優里ちゃんに、
声をかける。
ずっとうつむいていた優里ちゃんが顔をあげる。
ここでまた驚いた。
真矢さんをそのまま幼くした容姿の美少女だったからだ。
朝会った時は
全く気づかなかった。
そんな余裕もなかったからだ。
「朝は、
ありがとうございました」
おずおずといい頭をさげる。
「いやいや本当に気にしないでいいから。
体調はもう大丈夫?」
「はい。貧血だったようで少し休んでいたらよくなりました」
「それは良かった。
心配してたんだよ」
また優里ちゃんはうつむくと黙ってしまった。
「ふふっ照れちゃって。
どうしてもお礼がしたいって、
あんなに言ってたのに」
「ママっ!それは言わないでよ」
優里ちゃんはこっちを向くと
真っ赤な顔でうつむいた。
「ははは!犬飼君、君も罪な男だな!」
校長は豪快に笑う。
真矢さんもつられて笑う。
俺は意味も分からずとまどう。
「今度の日曜日にでも、
犬飼さんのお宅に伺いあらためてお礼をしたいのですが、
ご両親の都合はどうでしょうか?」
「いや本当にそこまでしてもらうことでは」
「犬飼君、
ご厚意は素直に受け取りなさい。謙遜のし過ぎは美しくない事だ」
校長にそう言われてしまうと、
どうしようもなかった。
「分かりました。
両親に話しておきます」
「ありがとうございます」
ニコッと笑った真矢さんはそういうと頭を下げた。
「それでは今日はこれでよろしいか?」
「はい。
校長先生もありがとうございます」
そういい席を立つ真矢さん。
「行きますよ、優里」
手を引かれ優里ちゃんも席をたち二人で入り口まで向かう。
入り口前で頭を下げる。
俺も慌てて立ち上がり頭を下げる。
真矢さんと優里ちゃんは静かにドアを開け、
部屋を出ていった。
「ふぅー」
ドスンとソファーに座り込む。
「ははは!
大分緊張したみたいだな!」
笑いながら背中を叩いてくる。
「勘弁してくださいよ・・・」
「君は良い事をした。
そしてお礼が返ってくる。
ただそれだけのことじゃないか」
そう言われるとそういうものかと思った。
「分かりました。
では失礼します」
「今日は疲れただろうから、
ゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます」
といい部屋から出ていく。
外は少し暗くなり始めていた。
「帰るか」
そう呟くと荷物を取り家へと帰った。
「ただいまー」
家の扉を開くと、
「お帰りー」
母さんの声が聞こえた。
そして二階に上がり自分の部屋へと向かう。
ガチャと隣の部屋が開くと妹が出てきた。
「兄ちゃんお帰りー!
ゲームしようよ!」
今年で中学一年になる妹の凜だが小学生のときは、
よく男の子に間違われていた。
ショートカットで、
趣味もスポーツやゲームといった感じだからだ。
しかし中学生になり、
制服をきてスカートを身につけた凜は可愛く思った。(同じ学園だ)
「ふふ。また負けにきたか?」
「あまく見ないでよね!
今日は勝つ!」
「良い覚悟だ。来いよ」
部屋に招き
着替えをしている内に
凜はゲームの準備をしていた。
格闘ゲームで何度か対戦をしていると父さんが帰って来た。
(ゲームは全勝した。凜はしょぼーんとしていたがまあそれも可愛く思える)
父さんは風呂に入り
次に母さんと凜が入り
最後に俺が入る。
そして夕食になり
他愛ない話をしながら食事を終わらせる。
まったりテレビを見ている時に
今日あった事を話す。
父さんも母さんも凜も驚いていたが、皆褒めてくれて日曜日を空けてくれることになった。
その日はそのまま眠りについた。
火曜日の朝
またしても早く目覚めてしまった。
昨日の印象が強く残ったためだろうか?
また早めに家を出る。
昨日の場所に行ってみると、
そこには優里ちゃんがいた。
「おはよう」
「お、はよう、ございます・・・」
緊張した面持ちで挨拶を返してくれる。
「一緒に行く?」
と聞くと、コクンと頷く。
一緒に歩きだし
優里ちゃんの顔を見て
改めて思ったが
凜より年下とは思えなかった。
「今日は体調大丈夫?」
コクンと頷く。
むー間がもたない。
そうしている内に学園についてしまった。
優里ちゃんは
お辞儀をして小学校へ向かって行った。
なんだか気まずくもあるが
楽しい時間だった。
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