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242話 我振るうは
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『準備は整った。これより魔族化した元勇者の討伐作戦を開始する!』
『『『応!!!』』』
「「「応……」」」
レンさんの念話での呼びかけに念話からは威勢の良い返事が聞こえてくるが、俺やよしのんが精神的疲労からげっそり応える。
既に高梨の巨大化を防ぐために、やつの質量を減らす目的の攻撃班、近接戦闘を支援するためのサポート班、奴の魔力吸収を阻止するための妨害班、その班を守るための防衛班の4つに別れて行動しており、この場には俺とレンさん、そしてよしのんしか残っていない。
先ほどまでとある実験をしていたレンさんと俺以外になぜよしのんだけが戦闘に参加していないでここに残っているかというと、それは今までよしのんが隠していたユニークスキルに関係する。
よしのんのユニークスキルは〈幸運と不運〉、一日毎に運の良い日と悪い日が入れ替わるといったなんとも微妙なモノだった。
そして今日は運が良い日なため、こうして俺の傍に置くこととなったのだ。
要はゲン担ぎだな。
たぶん召喚された日にウィッシュタニアの王宮から逃げおおせたのは運が良かった日で、自宅で俺にお尻を見られた日は運が悪かった日なんだろう。
まぁ召喚された日にレイプされそうになった時点で運が良いのかというツッコミを入れたくなるが。
てか運の良さにもバラつきあるし、本気で微妙だな……。
よしのんらしいっちゃらしいスキルだけど。
「ではねこさん、よしのさん、行くとするか」
「あぁ、うん」
「は、はい!」
げっそりとしたままげっそりと答える俺と緊張気味に答えるよしのん。
だがレンさんがワープゲートを開く時には、俺も気を引き締め足を踏み出していた。
ゲートの先ではバチバチに戦闘が繰り広げられており、メリティエやトトを筆頭にこちらの世界の戦士たちが高梨本体を全力で攻撃。
大福さんや影剣さんが変則的に反撃をする触手を迎撃した。
彼らの体には魔法による様々なバフが掛かっており、その戦闘速度は俺のダブルアクセルをもってしても反応できるか怪しいモノだった。
あの速度で肉弾戦出来るとか近接職怖過んぎ。
「大きいのが来ますわよ!」
全身鎧に身を固めたドワーフの少女が警報を発すると、その場にいた全員が降り上げられた高梨の腕のその射線上から退避する。
よしのんだけが取り残される形で。
「え、あ!?」
「なあああああ!?」
「あのバカ!?」
トトがよしのんの救出に引き返した姿を見て罵りを上げるメリティエ。
虎のような下半身から繰り出すトトの機動力をもってしても間に合わないことは明白だ。
いくら運が良くても本人が動けないんじゃ意味ないだろ!
「真・荷電粒子砲!」
叫ぶメリティエの隣で俺は新たに作った収納袋様の口を開くと、そこから発射された紫電がものすごい速度で高梨の振り下ろす腕に直撃。
腕は根元が消失しその傷口が炭化した。
「魔法が効かないんじゃなかったのかい?!」
「どういうことだ?」
「あー、今のは一応物理現象での攻撃だから」
リザードマンのクサンテ姐さんと俺の槍の師匠であるチャドさんが不思議がる。
レンさんから銅を螺旋状にしたものの中に磁石を入れた〈コイル〉を渡され、これを魔念動力を使い中の磁石を回転させることで物理的に電気を発生。
生み出した電気を収納袋様の中に蓄電させ、たまった電気を取り出し縮退させてから放つ。
こうして魔法を用いて魔法じゃない攻撃魔法を生み出したのだ。
「詳細はまた後で」
今は口で説明している時間が無いため言葉を濁す。
「お前本当にトロイのな」
「トシオが居なかったら死んでいたぞ」
「なー?」
「ずびばぜん!」
半泣きでこちらへ逃げてきたよしのんが、トトとメリティエにこき下ろされる。
「トトにも言っている」
「えー?」
メリティエからのよしのんへの流れ弾がトトにも向うが、トトは意味がわかっていない様子で小首をかしげた。
「すっげぇ……! 今の攻撃撃ちまくればもう楽勝じゃん!」
ルージュが興奮して叫ぶが、現実はそんなに甘くはない。
「あー、無理。今ので打ち止めだ」
「はぁ!?」
収納袋様に貯めた電気を用いて放つ特性上、電力生産量が高くないと蓄電速度が上がらず電気が溜まらない。
電力生産量は発電コイルの大きさに直結するため、用意できたコイルでは時間的に先ほどの1発分しか溜まらなかった。
「ちょっ、今のが切り札なんでしょ?! なのに腕吹き飛ばした程度って、あとどうすんのさ!」
「慌てるな、アレが切り札だと誰が言った?」
パニクるルージュにレンさんが冷静に諭す。
『皆、デカいのをぶっ放す! 防御系スキルや魔法が使える者は防壁展開後離脱。あとはこちらに任せて全員下がれ!』
『『『了解!』』』
レンさんの指示に高梨の周囲に円柱状の巨大な壁が形成されると、それぞれが撤退を開始する。
ククのシタデルウォールの大きさは圧巻だな。
「ねこさん、後は任せる」
「お、応よ……」
レンさんが全員の退避を確認すると、自身もワープゲートで去っていく。
「んじゃ、やりますか。勇者よ宿れ!」
俺は魔法装甲を展開すると、そのまま一気に上空へ飛翔。
これなら大丈夫だろうと思える高度に達したところで地表へ振り返った。
足元には荒野で暴れる高梨が、内側をスキルで構築し外側を魔法で補強した防御壁の檻を殴りつけている。
「銀の腕よ」
俺は再生したばかりの右手を眼前で開くと光を生み出した。
「我振るうは光の神剣、不敗の魔剣」
緊張で震える手の中で、一度集めた光を分散させて縦に配列。
分散させた光の粒一粒一粒を防御魔法によってカプセル状に保護されているが、光の眩さで視認し辛く、一振りの光の剣のように見せているのは俺の拘り以外のなにものでもない。
『発射準備完了、いつでも撃てる』
『こちらも撤収を完了した。ねこさんのタイミングで撃ってくれ』
『了解』
レンさんへの最終報告を完了すると、俺は光の剣を振り抜く覚悟を決める。
「……真・クラウ・ソラス!!!」
剣を構成していた光の粒が弾け、降下した光弾が高梨の体に着弾した次の瞬間、大爆発と共に凄まじい光を噴き上げた。
レンさんの実験は主に世界を見渡す高座を用いたもので、拡張された認識を一点に集中させて大気中に漂う元素ほどの小ささの物を捉えることから始まった。
まずは魔念動力を用いて精密な操作で大気中の水分から水素を取り出して集める。
次に真・荷電粒子砲にも使ったコイルで電気を生み出し先ほど集めた水素に付与して荷電させる。
荷電した水素を小さな球状に成形した防御魔法で包み、その内部を真空にして保護。
最後に魔法カプセルの中で光球と化した水素の陽子のプラスと電子のマイナスを逆転させて完成だ。
「……言われた通りのを作ったけど、これ何?」
「おお出来たか!? 反物質まで作ってしまうとは流石はねこさんだな!」
「は……、反物質!?」
なにかもわからず作り出したものがSF作品などでお馴染みのあの反物質であったことに、俺は恐怖からカプセルの中で輝く存在から視線と体が動かせない。
これが光子爆弾ってやつか……。
てか説明も無く核兵器よりヤベーもん作らすなよ!?
「ただの光にしか見えませんけど、これってそんなに凄いんですか?」
「触るな!?」
「ひゃい!?」
よしのんがカプセルに手を伸ばそうとしたので思わず怒気を露わに叫んでしまう。
「なに、反物質というのは触れた物体を同等の質量分対消滅させる程度のものだ。ねこさんに指定したのは0.1グラム、1円玉の十分の一くらいの量だ」
「へー、ってことは、これをいっぱい作って高梨をやっつけるんですね!」
「いや、その必要はない」
無邪気に勝利の方程式を完成させるよしのんに、レンさんは平静で答える。
だが俺は右手の上にあるカプセルの中身がヤバイことを知っているだけに、手には変な汗をかき、膝が少し笑っていた。
「1グラムの反物質と同量の物質が対消滅した際、発生するエネルギーは約180兆ジュールとも言われている」
「えーっと、それってどれくらいなのですか?」
「その辺の島くらいなら軽く消し飛ばせる程度だな」
「……ひっ!?」
反物質のヤバさを理解したよしのんが慌てて飛びのくが、0.1グラムでも反物質の爆発の前では俺と密着してるのと変わらない距離なのは言うまでもなかった。
爆発の圧力に耐えきれなくなった防御壁はあっさりと崩壊し、破壊の威力がこちらまで到達するが、俺は自身を挟む形でワープゲートの出入口を開き爆風から逃れる。
「0.5グラムでこれって、消費MPと威力が全然釣り合ってないんだよ」
全力で反物質作ったら高梨なんて居なくても星が消えるぞ……。
強風で土埃を払うと爆発地点では大きなクレーターを確認するが、パッと見では高梨の残骸は見つからなかった。
……いや、なんかあるな?
クレーターの隅に疑似太陽に照らされ均糸にきらめく物を見つけて降下。
そこにあったのはダンジョンコアと瓜二つの物だった。
「これが核なのか? どう見てもダンジョンコアにしか見えないが」
これを神剣で刺せば良いらしいけど、ダンジョンコアだったらなんかもったいないなぁ。
……そういえばダンジョンは魔族たちがダンジョンコアを用いて魔素の浄化の為に作った代物だったっけ。
魔族のコアをダンジョンに使ったからダンジョンコア……ってこと?
いつもの癖で考え込んでしまうが、今はどうだっていいことかと思考を切り捨てる。
『高梨の核を回収した』
『こちらでも対象の消滅を確認した。帰還してくれ』
『了解』
俺はレンさんの指示に従い皆の元へと向かった。
高梨の討伐後、1時間程遅れて完全武装の魔族の集団が現れた。
その中には見知った顔であるミストリックさんが居り、俺とレンさんが彼と一団を引き連れて来た女性に事情を説明した。
女性は頭部に2本の黄金の角を生やした紫髪に、豊満な体を妖艶な黒いローブで包む、ホンワカした雰囲気を醸した糸目の美女だった。
すごく、好みです……。
「まぁまぁ、それはそれは、なんとお礼を申し上げれば~。ミストリックさん~、彼らにお礼をせねばなりませんね~。城で彼らをもてなすのはどうでしょ~」
「左様でございますなぁ魔王様ぁぁぁ」
「魔王様!?」
人類が勇者と大軍を持って何度となく攻め込むも一切の侵略を許さなかった魔族たち。
そんな魔族たちのトップに君臨するのが72魔王家。
今まさに実質的な世界の支配者である72人の内の1人が目の前にいる事実に緊張が走る。
咄嗟に鑑定眼を発動させるが、ミストリックさん以外は魔王をはじめ誰1人としてデータが読み取れない。
さすがは魔王と上級魔族ってか……。
てかミストリックさんレベル43になってるけど、前は700位あったよな?
なんだそのレベルの振れ幅、絶対偽装じゃないか。
偽装が雑過ぎんだろ。
前の700ってのも怪しいものだな。
「うんむ。このお方こそ我が主にして72魔王家が一柱ぁ、魔王アイム様にあらせられるぅぅぅ。頭が高ぁぁぁぁい!」
「あの~ミストリックさん~? そのような紹介の仕方は~」
「頭が高いのはアンタじゃないの」
「我らに代わり魔化した者を止めた者たちにお主は何を偉そうにしておるか」
「はっはっはぁぁぁぁぁ! いやぁなにぃ、アイム様とトシオを引き合わせたいとずぅっと思っていたものでなぁ、つい舞い上がってしまったわぁぁぁ」
メスガキ感の強い悪魔娘と竜頭の騎士に突っ込まれたミストリックさんだが上機嫌ではしゃいでいる。
「して、奴の核となったダンジョンコアは回収したのかね?」
彼らを置いて話しかけてきたのは、魔法使い風の格好をした骸骨、リッチだった。
ファンタジー作品では定番のアンデッド最上位モンスターだ。
「え、まぁ有りますけど」
「それは~」
「ならば結構。ダンジョンコアは強力な魔道具にも用いられるもの、それはお主らが好きに使うとよい」
「わかりました」
一瞬没収されるのかと警戒したが杞憂だった。
「しかし魔化した者を倒すとはなかなかの腕の様だな」
「人間にしておくには惜しいモノノフだ、ぜひ我々の仲間に迎えたい」
「そうですね~、私も今~」
「魔王軍は良いよ! 日がな一日お菓子食べながらダベってるだけでお仕事完了よ!」
「それは|語弊ごへい》があるぞ、日夜世界の平穏について語り実行するのが我ら魔族の務め。お主のようにお気楽クラブ活動をされては魔王様に迷惑だとなぜわからんのじゃ」
「いえ~私は別に~」
「私はちゃんと平和活動してますー。日々男どもの精気を吸って争いが起きないようにしてますー。くだらない口喧嘩ばかりして会議室から動かない誰かさんとは違いますー」
「その誰かさんとは誰のことだ?」
「そんなのもわかんないとか、脳みそまで干からびたアンデッドってダメねー」
「言わせておけば小娘ぇ!」
「あの~ケンカは~」
「お、やるのかジジイ! つーかそんな干からびた体で何か出来たのかジジイ! シュッシュッ!」
杖を構えて魔法を練るリッチに悪魔娘がファイティングポーズで威嚇。
なんか知らんが俺らも魔王様もそっちのけでケンカ始めたぞ魔王軍幹部らしき2人。
てかさっきから発言力無さすぎだろ魔王様、こんなので魔王とか本当に大丈夫なのか?
さっきの緊張を返してくれ。
だがリッチの練り上げる魔力の圧と悪魔娘の全く見えない速度のジャブに腐っても上級魔族なんだなと思わされる。
自由奔放すぎてマジで腐ってそうだけど。
その後は魔王様御一行から真・クラウ・ソラスの禁呪指定と後日魔王城への御招きを受け、俺は皆を連れてアイヴィナーゼ城へと帰還したのだった。
『『『応!!!』』』
「「「応……」」」
レンさんの念話での呼びかけに念話からは威勢の良い返事が聞こえてくるが、俺やよしのんが精神的疲労からげっそり応える。
既に高梨の巨大化を防ぐために、やつの質量を減らす目的の攻撃班、近接戦闘を支援するためのサポート班、奴の魔力吸収を阻止するための妨害班、その班を守るための防衛班の4つに別れて行動しており、この場には俺とレンさん、そしてよしのんしか残っていない。
先ほどまでとある実験をしていたレンさんと俺以外になぜよしのんだけが戦闘に参加していないでここに残っているかというと、それは今までよしのんが隠していたユニークスキルに関係する。
よしのんのユニークスキルは〈幸運と不運〉、一日毎に運の良い日と悪い日が入れ替わるといったなんとも微妙なモノだった。
そして今日は運が良い日なため、こうして俺の傍に置くこととなったのだ。
要はゲン担ぎだな。
たぶん召喚された日にウィッシュタニアの王宮から逃げおおせたのは運が良かった日で、自宅で俺にお尻を見られた日は運が悪かった日なんだろう。
まぁ召喚された日にレイプされそうになった時点で運が良いのかというツッコミを入れたくなるが。
てか運の良さにもバラつきあるし、本気で微妙だな……。
よしのんらしいっちゃらしいスキルだけど。
「ではねこさん、よしのさん、行くとするか」
「あぁ、うん」
「は、はい!」
げっそりとしたままげっそりと答える俺と緊張気味に答えるよしのん。
だがレンさんがワープゲートを開く時には、俺も気を引き締め足を踏み出していた。
ゲートの先ではバチバチに戦闘が繰り広げられており、メリティエやトトを筆頭にこちらの世界の戦士たちが高梨本体を全力で攻撃。
大福さんや影剣さんが変則的に反撃をする触手を迎撃した。
彼らの体には魔法による様々なバフが掛かっており、その戦闘速度は俺のダブルアクセルをもってしても反応できるか怪しいモノだった。
あの速度で肉弾戦出来るとか近接職怖過んぎ。
「大きいのが来ますわよ!」
全身鎧に身を固めたドワーフの少女が警報を発すると、その場にいた全員が降り上げられた高梨の腕のその射線上から退避する。
よしのんだけが取り残される形で。
「え、あ!?」
「なあああああ!?」
「あのバカ!?」
トトがよしのんの救出に引き返した姿を見て罵りを上げるメリティエ。
虎のような下半身から繰り出すトトの機動力をもってしても間に合わないことは明白だ。
いくら運が良くても本人が動けないんじゃ意味ないだろ!
「真・荷電粒子砲!」
叫ぶメリティエの隣で俺は新たに作った収納袋様の口を開くと、そこから発射された紫電がものすごい速度で高梨の振り下ろす腕に直撃。
腕は根元が消失しその傷口が炭化した。
「魔法が効かないんじゃなかったのかい?!」
「どういうことだ?」
「あー、今のは一応物理現象での攻撃だから」
リザードマンのクサンテ姐さんと俺の槍の師匠であるチャドさんが不思議がる。
レンさんから銅を螺旋状にしたものの中に磁石を入れた〈コイル〉を渡され、これを魔念動力を使い中の磁石を回転させることで物理的に電気を発生。
生み出した電気を収納袋様の中に蓄電させ、たまった電気を取り出し縮退させてから放つ。
こうして魔法を用いて魔法じゃない攻撃魔法を生み出したのだ。
「詳細はまた後で」
今は口で説明している時間が無いため言葉を濁す。
「お前本当にトロイのな」
「トシオが居なかったら死んでいたぞ」
「なー?」
「ずびばぜん!」
半泣きでこちらへ逃げてきたよしのんが、トトとメリティエにこき下ろされる。
「トトにも言っている」
「えー?」
メリティエからのよしのんへの流れ弾がトトにも向うが、トトは意味がわかっていない様子で小首をかしげた。
「すっげぇ……! 今の攻撃撃ちまくればもう楽勝じゃん!」
ルージュが興奮して叫ぶが、現実はそんなに甘くはない。
「あー、無理。今ので打ち止めだ」
「はぁ!?」
収納袋様に貯めた電気を用いて放つ特性上、電力生産量が高くないと蓄電速度が上がらず電気が溜まらない。
電力生産量は発電コイルの大きさに直結するため、用意できたコイルでは時間的に先ほどの1発分しか溜まらなかった。
「ちょっ、今のが切り札なんでしょ?! なのに腕吹き飛ばした程度って、あとどうすんのさ!」
「慌てるな、アレが切り札だと誰が言った?」
パニクるルージュにレンさんが冷静に諭す。
『皆、デカいのをぶっ放す! 防御系スキルや魔法が使える者は防壁展開後離脱。あとはこちらに任せて全員下がれ!』
『『『了解!』』』
レンさんの指示に高梨の周囲に円柱状の巨大な壁が形成されると、それぞれが撤退を開始する。
ククのシタデルウォールの大きさは圧巻だな。
「ねこさん、後は任せる」
「お、応よ……」
レンさんが全員の退避を確認すると、自身もワープゲートで去っていく。
「んじゃ、やりますか。勇者よ宿れ!」
俺は魔法装甲を展開すると、そのまま一気に上空へ飛翔。
これなら大丈夫だろうと思える高度に達したところで地表へ振り返った。
足元には荒野で暴れる高梨が、内側をスキルで構築し外側を魔法で補強した防御壁の檻を殴りつけている。
「銀の腕よ」
俺は再生したばかりの右手を眼前で開くと光を生み出した。
「我振るうは光の神剣、不敗の魔剣」
緊張で震える手の中で、一度集めた光を分散させて縦に配列。
分散させた光の粒一粒一粒を防御魔法によってカプセル状に保護されているが、光の眩さで視認し辛く、一振りの光の剣のように見せているのは俺の拘り以外のなにものでもない。
『発射準備完了、いつでも撃てる』
『こちらも撤収を完了した。ねこさんのタイミングで撃ってくれ』
『了解』
レンさんへの最終報告を完了すると、俺は光の剣を振り抜く覚悟を決める。
「……真・クラウ・ソラス!!!」
剣を構成していた光の粒が弾け、降下した光弾が高梨の体に着弾した次の瞬間、大爆発と共に凄まじい光を噴き上げた。
レンさんの実験は主に世界を見渡す高座を用いたもので、拡張された認識を一点に集中させて大気中に漂う元素ほどの小ささの物を捉えることから始まった。
まずは魔念動力を用いて精密な操作で大気中の水分から水素を取り出して集める。
次に真・荷電粒子砲にも使ったコイルで電気を生み出し先ほど集めた水素に付与して荷電させる。
荷電した水素を小さな球状に成形した防御魔法で包み、その内部を真空にして保護。
最後に魔法カプセルの中で光球と化した水素の陽子のプラスと電子のマイナスを逆転させて完成だ。
「……言われた通りのを作ったけど、これ何?」
「おお出来たか!? 反物質まで作ってしまうとは流石はねこさんだな!」
「は……、反物質!?」
なにかもわからず作り出したものがSF作品などでお馴染みのあの反物質であったことに、俺は恐怖からカプセルの中で輝く存在から視線と体が動かせない。
これが光子爆弾ってやつか……。
てか説明も無く核兵器よりヤベーもん作らすなよ!?
「ただの光にしか見えませんけど、これってそんなに凄いんですか?」
「触るな!?」
「ひゃい!?」
よしのんがカプセルに手を伸ばそうとしたので思わず怒気を露わに叫んでしまう。
「なに、反物質というのは触れた物体を同等の質量分対消滅させる程度のものだ。ねこさんに指定したのは0.1グラム、1円玉の十分の一くらいの量だ」
「へー、ってことは、これをいっぱい作って高梨をやっつけるんですね!」
「いや、その必要はない」
無邪気に勝利の方程式を完成させるよしのんに、レンさんは平静で答える。
だが俺は右手の上にあるカプセルの中身がヤバイことを知っているだけに、手には変な汗をかき、膝が少し笑っていた。
「1グラムの反物質と同量の物質が対消滅した際、発生するエネルギーは約180兆ジュールとも言われている」
「えーっと、それってどれくらいなのですか?」
「その辺の島くらいなら軽く消し飛ばせる程度だな」
「……ひっ!?」
反物質のヤバさを理解したよしのんが慌てて飛びのくが、0.1グラムでも反物質の爆発の前では俺と密着してるのと変わらない距離なのは言うまでもなかった。
爆発の圧力に耐えきれなくなった防御壁はあっさりと崩壊し、破壊の威力がこちらまで到達するが、俺は自身を挟む形でワープゲートの出入口を開き爆風から逃れる。
「0.5グラムでこれって、消費MPと威力が全然釣り合ってないんだよ」
全力で反物質作ったら高梨なんて居なくても星が消えるぞ……。
強風で土埃を払うと爆発地点では大きなクレーターを確認するが、パッと見では高梨の残骸は見つからなかった。
……いや、なんかあるな?
クレーターの隅に疑似太陽に照らされ均糸にきらめく物を見つけて降下。
そこにあったのはダンジョンコアと瓜二つの物だった。
「これが核なのか? どう見てもダンジョンコアにしか見えないが」
これを神剣で刺せば良いらしいけど、ダンジョンコアだったらなんかもったいないなぁ。
……そういえばダンジョンは魔族たちがダンジョンコアを用いて魔素の浄化の為に作った代物だったっけ。
魔族のコアをダンジョンに使ったからダンジョンコア……ってこと?
いつもの癖で考え込んでしまうが、今はどうだっていいことかと思考を切り捨てる。
『高梨の核を回収した』
『こちらでも対象の消滅を確認した。帰還してくれ』
『了解』
俺はレンさんの指示に従い皆の元へと向かった。
高梨の討伐後、1時間程遅れて完全武装の魔族の集団が現れた。
その中には見知った顔であるミストリックさんが居り、俺とレンさんが彼と一団を引き連れて来た女性に事情を説明した。
女性は頭部に2本の黄金の角を生やした紫髪に、豊満な体を妖艶な黒いローブで包む、ホンワカした雰囲気を醸した糸目の美女だった。
すごく、好みです……。
「まぁまぁ、それはそれは、なんとお礼を申し上げれば~。ミストリックさん~、彼らにお礼をせねばなりませんね~。城で彼らをもてなすのはどうでしょ~」
「左様でございますなぁ魔王様ぁぁぁ」
「魔王様!?」
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そんな魔族たちのトップに君臨するのが72魔王家。
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咄嗟に鑑定眼を発動させるが、ミストリックさん以外は魔王をはじめ誰1人としてデータが読み取れない。
さすがは魔王と上級魔族ってか……。
てかミストリックさんレベル43になってるけど、前は700位あったよな?
なんだそのレベルの振れ幅、絶対偽装じゃないか。
偽装が雑過ぎんだろ。
前の700ってのも怪しいものだな。
「うんむ。このお方こそ我が主にして72魔王家が一柱ぁ、魔王アイム様にあらせられるぅぅぅ。頭が高ぁぁぁぁい!」
「あの~ミストリックさん~? そのような紹介の仕方は~」
「頭が高いのはアンタじゃないの」
「我らに代わり魔化した者を止めた者たちにお主は何を偉そうにしておるか」
「はっはっはぁぁぁぁぁ! いやぁなにぃ、アイム様とトシオを引き合わせたいとずぅっと思っていたものでなぁ、つい舞い上がってしまったわぁぁぁ」
メスガキ感の強い悪魔娘と竜頭の騎士に突っ込まれたミストリックさんだが上機嫌ではしゃいでいる。
「して、奴の核となったダンジョンコアは回収したのかね?」
彼らを置いて話しかけてきたのは、魔法使い風の格好をした骸骨、リッチだった。
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「え、まぁ有りますけど」
「それは~」
「ならば結構。ダンジョンコアは強力な魔道具にも用いられるもの、それはお主らが好きに使うとよい」
「わかりました」
一瞬没収されるのかと警戒したが杞憂だった。
「しかし魔化した者を倒すとはなかなかの腕の様だな」
「人間にしておくには惜しいモノノフだ、ぜひ我々の仲間に迎えたい」
「そうですね~、私も今~」
「魔王軍は良いよ! 日がな一日お菓子食べながらダベってるだけでお仕事完了よ!」
「それは|語弊ごへい》があるぞ、日夜世界の平穏について語り実行するのが我ら魔族の務め。お主のようにお気楽クラブ活動をされては魔王様に迷惑だとなぜわからんのじゃ」
「いえ~私は別に~」
「私はちゃんと平和活動してますー。日々男どもの精気を吸って争いが起きないようにしてますー。くだらない口喧嘩ばかりして会議室から動かない誰かさんとは違いますー」
「その誰かさんとは誰のことだ?」
「そんなのもわかんないとか、脳みそまで干からびたアンデッドってダメねー」
「言わせておけば小娘ぇ!」
「あの~ケンカは~」
「お、やるのかジジイ! つーかそんな干からびた体で何か出来たのかジジイ! シュッシュッ!」
杖を構えて魔法を練るリッチに悪魔娘がファイティングポーズで威嚇。
なんか知らんが俺らも魔王様もそっちのけでケンカ始めたぞ魔王軍幹部らしき2人。
てかさっきから発言力無さすぎだろ魔王様、こんなので魔王とか本当に大丈夫なのか?
さっきの緊張を返してくれ。
だがリッチの練り上げる魔力の圧と悪魔娘の全く見えない速度のジャブに腐っても上級魔族なんだなと思わされる。
自由奔放すぎてマジで腐ってそうだけど。
その後は魔王様御一行から真・クラウ・ソラスの禁呪指定と後日魔王城への御招きを受け、俺は皆を連れてアイヴィナーゼ城へと帰還したのだった。
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海夏世もみじ
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月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
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アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

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突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
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次で終わりでしたっけ?皆んなで仲良く暮らすのか?🤔
大福さん何処ろか、まさかのフルメンバーとは、大盤振舞いですなぁ(^ω^)