四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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239話 ねぇどんな気持ち?

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「行けファントム、ちりも残さず焼き尽くせ!」

 テンション爆上がりな高梨の指示に、8体の炎の魔神が四方八方から包囲の手を伸ばす。
 その動きは素早く、このまま囲まれては一瞬で蒸発させられてしまう。
 俺は効果の乏しい攻撃を止め、180度向きを変えて全てのMPを背中のウイングスラスターへ。
 クリアグリーンの6枚の翼からため込んだ濃緑の魔力粒子を一気に放出して機体をかっ飛ばす。

「ちー……!」

 さらにミネルバが前方に展開させた弾速強化魔法に飛び込むと、空気の壁を破って高梨に背を向け全力でその場から飛び去った。
 機体がグンと前に押し出される感覚に吐きそうになるのをなんとか堪える。

「え……は、逃げたぁ!?」

 まさかの全力逃走に反応が遅れた高梨とは対照的に、8体の全方位攻撃魔法ブレイズファントムは迷いなく音速で追尾してくるが、魔力を噴かせるだけで加速できるリンドヴルムに速度を変化できないファントムでは追い付けない。
 高梨はヴァルガラックの相対速度を乗せてファントムを放つべきだったのだ。
 
「このままだと逃げられる!? ――なるほど!」 

 なにがなるほどなんだとおもった矢先、ファントムが背中から強い炎が噴き出し信じられない速度で真っ直ぐこちらに迫って来た。
 ファントム自身の魔力を放出させやがったのだ。
 速度が上がった反面、ファントムから感じられる魔力の圧が徐々にだが減少していくのが感じ取れる。
 このまま逃げ続ければファントムの魔力が尽き自壊するのは目に見えてはいるが、魔力の残量的には自壊よりも先に追い付かれるのも自明だった。
 けど――

「真っ直ぐ追ってきたらどうなるかなんて……」
「まぁこうなるわな、荷電粒子砲!」

 俺はリンドブルムの右手にプラスとマイナスに分けた電気を大量に生み出し圧縮、そこから洩れるようにあふれ出た高速の雷撃をもってファントムの群れをまとめて撃ち抜いた。

 荷電粒子砲。
 今まで俺がそう呼んでいたのは単純に雷撃魔法を束ねて打ち出していたものに過ぎず、平たく言えばただの超電撃でしかなかい。
 だが今回のは違う。
 魔法で探知魔法スリズスキャールヴの知覚能力を最大にまで上げることで魔力を粒子レベルで認識し、粒子に雷属性を付与することで電荷させる。
 電荷した魔力をプラスとマイナスに分けて圧縮を加えるだけで電気は縮退しゅくたいする。
 そうして放ったものが先ほど放つことでその威力は今までの荷電粒子砲を優に10倍は超えていた。
 しかし、大きなデメリットもまた存在する。

あったまいっっ!?」
「大丈夫……?」
「……大丈夫だ。けど、きつすぎて連発は出来ないなコレ」

 体の痛みは首から下の痛覚を魔法でカットすれば無視できたが、脳で発生した痛みは同じ方法で無視できない。

「荷電粒子砲を使い過ぎ、お父様は廃人と化した……」
「んふっ、こんな時に笑かしに来ないでくれる?」
「こういうときこそ笑いは大事……」

 関西人の魂の器と化した鳥人間がもふもふの羽毛に包まれた胸を張って誇る。

 父さんそんな子に育てた覚えはありません。
 てか前から疑問だったけど、なんで最小サイズの時は体全部が普通の猛禽とりなんだよ……。

 相変わらずこの世界のモンスターは不思議に満ち満ちていた。

「止まれ!」

 ミネルバに心の中だけでツッコミを入れていると、超高速でこちらを追い抜いたヴァルガラックが前方に立ちふさがり、フレアアローをでたらめに放った。
 こちらもリンドヴルムの高度を上げ、フレアアローが地表に向かないように射線を誘導する。
 射線的に都市から離れているとはいえ、流れ弾がどこかの村に着弾したかもと思うと気が気じゃない。

「止まれって言ってるだろ!」
「止まれと言われて止まるバカはいないって、古代から使い古された返しだよな」

 オタクだった両親の保有してた古い漫画にも登場するセリフだなと言ってて思い出していると、高梨が再びブレイズファントムを放つ。
 確かに全方位からの超火力魔法は脅威でしかない。
 だが先ほどのやり取りで既にファントムの欠点は露呈ろていしているため、もう脅威には思えない。

「ヴァルガラックの他に攻撃魔法8つを同時操作? 人間の頭でそんな処理、出来るもんならやってみせろ!」

 複雑な動きでこちらを包囲しようと迫るファントムの群れ。
 今度はそのど真ん中へ、俺は高梨に向かってリンドヴルムを真っ直ぐ突撃させる。
 そんな単純な行動だけでファントムの動きは途端にぎこちないものとなる。
 阻むものが無くなったヴァルガラックへリンドヴルムの右手をかざす。

「フラガラッハ!」

 生み出したのは大量の魔法剣。
 それを高梨の真正面から雨を浴びせかけた。
 魔法装甲に硬質ガラスで出来たような透明の剣が子気味良い連弾の音を響かせる。

「うあああああああ!?」

 激しい攻撃にさらされた高梨が悲鳴を上げ、ヴァルガラックが逃げ惑う。

 ブレイズファントムの弱点は術者の操作と自動追尾の切り替え式。
 奴が操作すると複雑な動きはするものの突発的な行動に思考が付いていかず反応が遅れ、自動操縦に切り替わると今度は動きが単調になるためとても読み易いと、完全に欠陥魔法と言わざるを得ないお粗末な代物だった。
 引き返してきたファントムの群れを巧みな機体操作で避けながら、俺は弾かれた魔法剣をヴァルガラックに向かわせ攻撃を継続し続ける。
 問題はここからだ。
 この魔法フラガラッハで攻撃を受け続けるプレッシャーこそ与えられるが、ヴァルガラックの装甲を突き抜くことは叶わない。
 どうにかして奴の魔法装甲をはぎ取り、その中の高梨あいつを引きずり出さなければならない。

 やっぱマナバッテリーからのクラウ・ソラスしかないか?

「ああああああ!? そ、そうだけど、メガフレア!」

 ヴァルガラックが腕を振る動作に爆炎が上がり、間断なく攻撃を続けていた魔法剣の群れが一瞬で燃え尽くされる。

 一体高梨あつのそばにどんなが存在やつがアドバイスしてやがるんだか。

 またも誰かの助言を受けたような高梨の口ぶりに、謎の存在を警戒する。
 謎の存在に心当たりがありそうな地母神レイティシアの精神体は、今も俺の隣で真剣なまなざしをヴァルガラックへ向けたまま変わらず言葉を発しない。

「クソっ、本当にこれだけはやりたくなかったのに……あんたが悪いんだからな? ブレイズファントム!」
「またそれか」

 高梨がファントムたちを自身の周囲に呼び戻すのを、俺は冷めた眼差しで注視する。

「扱えいきれない魔法はゴミクズの類だってさっきので学ばなかったのか?」
「学んださ、だから使い方を変えるんだ。……次にあんたが俺の攻撃を避けたら、ファントムを街に落とす!」
「……は?」

 高梨の斜め上な言葉に、俺の口から間抜けな声が漏れる。

「今、なんて?」
「あんたが避けたらこいつを街に落とすって言ったんだよ」

 覚悟を決めた口調できっぱり言い放つ高梨の声に、聞き間違いではなかったのだと嫌でも思い知らされる。
 1体でも街に堕ちれば先ほどの流れ弾なんて比じゃないレベルの被害が出ること請け合いの攻撃魔法が8発分だ、都市が丸ごとマグマになってもおかしくない。

 ファントムが欠陥魔法で避けられるなら避けさせないって思考に行きつくのはわかるけど、だからって〝じゃぁ無関係な人を人質にする〟って発想が悪魔的過ぎなんだよ。

 そしてミネルバが再びこちらを値踏みするような視線を向けてくる。

「……落とせば?」

 内心の焦りを誤魔化すように、〝それが何か?〟と言わんばかりの最大限の虚勢きょせいを張って言い切ってやる。
 言葉の短さに自分の狼狽ろうばいぶりが伺えたが今は無視しておく。
 そして急激に痛くなる俺の胃は状況から来るものなのか、あるいはミネルバからのプレッシャーなのか。

 ……両方だな。

「あんたわかってるいのか!? これを街に落とせば――」
「そりゃ大勢の人が死ぬんだろうね。で、それが俺と関係あんの?」

 そういうバカな考えはやめないか?

 ここで弱音を吐く訳にもいかず、高梨が意味不明な説得をしてくるのを食い気味にかぶせる様に真逆の言葉を口にする。

「むしろ攻撃が街に向いた分、反撃がやり易くなる……」
「ホントそれな」
「大勢の人を見殺しにするなんて、なんて奴らだ!?」
 
 ミネルバの援護射撃の言葉に余計なことをと思いつつも仕方なく同意すると、大量虐殺をほのめかす張本人から批判の声が上げた。

「おま言う……」
「どう考えても見捨てようとしてる俺よりも一般人を攻撃するお前のほうが悪いだろ。さっきも街に被害出しておいて自分のせいじゃないとか責任を擦り付けやがるのクソクソのクソ」
「……なるほど、俺がやらないと思ってワザと強がっている、と。いいよやってやるよ、後悔してももう遅いからなぁ!」

 あきれ口調のミネルバに追従するも、こちらの内心は見抜いた高梨が覚悟を発表してくれた。

 いや、それも奴のアドバイザーが吹き込んでいるのか。

 敵の傍らに冷静な奴がいるのはやり辛い。

「普通の感性してたらそんな発想にはなんないんだよサイコパス野郎」
「はは、強がっても無駄だ! あぁ、これがNDKエヌディーケーってヤツぅ!?」

 ヤクでもキメてそうな叫ぶ高梨がヴァルガラックの腕を振り下ろさせると、ファントムが動き出すそぶりを見せた。

「ダブルアクセル!」

 ファントムが行動を開始するのと同時に俺は自身に加速魔法を2重かけで発動、時の流れが停滞するほど精神を加速させる。
 俺の目には7体のファントムがこちらに向かい、残りの1体がバラドリンドの首都へ向かうのが超スローで再生されている。
 今ここで何とかしなければ、街は灼熱地獄と化し多く人が死ぬ。
 だが脳に負荷のかかり過ぎるダブルアクセル中に先ほどの荷電粒子砲を使おうものなら、それこそミネルバの廃人発言が現実化してしまう。
 荷電粒子砲を使わずまとめてファントムを潰し、高梨をヴァルガラックから引きずり出す方法……。
 
 灼熱地獄……。
 そうだ、ファントムアレって超熱源だったな。
 なら!

「〈エーギル〉!」

 海神の名と共に迫るファントムの先頭の1体へ向け、俺は自動追尾式の水弾を放った。
 水弾の大きさは直径1メートルほど。
 だが超圧縮された水の塊がファントムに触れた瞬間、信じられないほどの大爆発を起こした。

 水蒸気爆発。
 液体は高温で熱せられ気化することで一瞬でその体積を1700倍にまで膨張する。
 わずか1メートルの水玉でも、高圧縮されたそれは見た目ほど水量は少なくはない。

 俺の眼前では8体のファントムすべてが水蒸気爆発に巻き込まれその灯をかき消す。
 高梨を中心に大量の水蒸気が広がり視界不良を起こしているが、俺は索敵魔法フリズスキャールヴのおかげで奴の姿をはっきりと確認できていた。

「なんだよ今の爆発、前も見えないしどうなってる!?」
「このまま魔法装甲ヴァルガラックもはぎ取ってやる!」

 俺は間髪入れず一直線にヴァルガラックへと肉薄し、既に発現させていた純白に輝く不敗の神剣を振り下ろした。 

「クラウ・ソラス!!」

 霧に覆われていたヴァルガラックに迫る光弾の群れ。
 光の奔流がヴァルガラックを呑み込まんとしたまさにその時、消え去るはずだった魔法装甲が俺の目の前で爆発した。

「――――!?」

 爆発は先ほどの水蒸気爆発なんて生易しいと思えるほど激しいもので、俺の視界が天地がわからないほどぐるぐると回る。
 
 自爆か!?

 リンドヴルムの姿勢をどうにか制御し空中で静止する。
 機体が妙に軽く感じたことから、その損傷具合を何となく理解する。

「被害甚大……」
「だな……」

 ミネルバの言葉で損壊状況をチェックする。
 右腕と胴体の外装はボロボロ、6枚あった羽根はすべてもげ、その他の部位もすべて消失。
 クラウ・ソラスが爆風を相殺していなければ右腕も失い、コックピット回りもどうなっていたか分からないと思うと背筋が凍る。

「タイミングが良すぎる。多分狙ってたと思う……」
「完全にしてやられたな」

 でも俺は見逃さなかった。
 ヴァルガラックが自爆する寸前、ヤツがワープゲートを使い脱出したのを。

「リンドヴルムは放棄する」
「ちー……」

 そう言ってリンドヴルムを霧散させると、形を失った魔力をかき集めてMPとして2人で分けた。
 その量は微々たるものだが無いよりはましだ。
 ミネルバが自由落下を始めた俺の足元で巨大化してくれたため、その背に着地させてもらう。

「ミネルバ、あそこに飛んでくれ。次は直接あいつを叩く」
「ちー……!」

 情報共有魔法イージスシステムで意識をリンクさせ、俺はミネルバと共に奴が逃げた場所へと向かった。
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