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236話 鎧3000体
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十数分割した自称神の死体から流れた大量の血が砂利や渇いた土の上に広がる。
このまま放置したら肉片が集まり再生した、なんてこともあり得るファンタジーな世界なため熱線魔法で消し墨にしておく。
死亡確認ヨシ!
黄色のヘルメットをかぶったデフォルメされたネコが妙なポーズで指さし確認する姿が脳内で浮かび、すぐに妄想を振り払う。
「あとは〈ディバイントルーパー〉だな」
ディバイントルーパー、人の魂が入った動く鎧。
猿藤を倒すタイミングを見定めている間に数が3000体にまで膨れ上がっていた。
その出現場所のど真ん中にワープゲートで出たものだから、当然の如く周囲に居た個体が殺到してきた。
俺は手にした呪われた緋色の神剣で応戦。
剣が月光に照らされ赤く煌くたび、重厚な金属鎧が何の抵抗も無く切り裂けた。
バターの様に切れるなんて比喩表現があるが、バターどころか空気を切ってるのと変わらない手応えと視覚や聴覚から得る情報とのギャップに、脳がバグったような感覚に陥る。
このために用意した剣だけあって普通に凄いけどなんか気持ち悪っ。
仲間が殺られてもひるまないこいつらはもっと気持ち悪いけど。
「〈ヴィゾフニル〉!」
あまりの多さにまとめて始末してやろうと光る羽を散弾として全周囲に打ち出すも、魔法は鎧の表面で弾かれた。
予想外の硬さに驚きつつも、足元の〈強欲な宝物庫〉を魔念動力で掴み、一緒にワープゲートでククとユニスの元へと戻る。
「ちょっとぉ、魔法が全然効いてないじゃないのよぉ!?」
帰還早々、俺の心情とレスティーの悲鳴とがシンクロする。
ディバイントルーパーの数に押され、分厚い防御スキルを展開するククのところに逃げ込んできていたのだ。
皆は密集陣形を取っており、ククの防御スキルを削って来る鎧の軍団に対しそれを阻止するために必死の抵抗を行っている。
「こと魔法耐性において、高司祭の付与魔法はウィッシュタニアの魔法技術を凌駕するでござる。さすがはバラドリンド製でござるな」
「のんきに褒めてる場合かよ!」
鎧の大群を前に影剣さんが楽し気な解説をすると、ユーベルトから叫びに近いツッコミが入つつ重装兵の腹部を切り裂く。
その1撃で吹き飛んだディバイントルーパーが後続の鎧を巻き込むも、別の鎧が俺たちを殺しに押し寄せるためそんな穴などすぐに埋まってしまう。
吹き飛ばされたディバイントルーパーも腹部の傷などお構いなしで戦列に復帰するから数が減らない。
夜の荒野には重厚な金属の打ち合わさる音と足音が轟き、ひしめく鎧の群れは見るもの者の心を凍らせるには十分な迫力だ。
「なぁおいトシオ、流石にこの数は無茶じゃないか?」
「僕も逃げた方がいいと思う……」
ユーベルトが額に汗を浮かべ、ぽっちゃり男子のアレッシオが膝を笑わせながら弱気の進言。
俺を含めたこの中の大半が冒険者になって半年もたたない駆け出しも駆け出し、そんなのがこれほどの大群を前にすればこうもなろう。
だが逃げる訳にもいかない理由がある。
「どういう行動原理で動くのか分からん奴らをこのまま野放にして大丈夫だと思うか?」
「こんなのが町や村に来たら全滅確定じゃないのぉ」
「うっわ、言われてみれば確かにそうかも!?」
ユーベルトやレスティーだけでなく、ルージュまでもが顔を引きつらせる。
Lv900を超えた重歩兵が3000体だ、街や村どころか国が滅んでも不思議はない。
「それなら大丈夫でござるぞ、ここで拙者らが逃げたところで散り散りになったディバイントルーパーが各地でバラドリンド人以外を無差別攻撃するはずでござるな。ちな〝バラドリンド人以外〟とはバラドリンド教の宗教シンボルを着けているかどうかで判断するみたいでござるぞ」
「ならここはバラドリンドの国内だし、案外大丈夫か?」
「いや、一般的にそれは家の祭壇に安置するものだ。聖職者とそれに準ずる冒険者以外で日頃からそれらを身に着けている者などそうは居ない」
影剣さんの陽気な解説にガーランドの表情が自身の髪の毛みたく真っ青になっている。
あ、これ本当にダメなヤツだ。
元バラドリンド教関係者のガーランドが言うんだから間違いなくアカンヤツ。
「それのどの辺が大丈夫なんだ!?」
「行動パテーンが分かるという点では太鼓判ものでござるぞ?」
「そこだけ大丈夫でも意味ねぇだろ!」
素っ頓狂な影剣さんが巨大な手裏剣を投擲しながら嬉々として告げると、ユーベルトがブチギレ気味に目の前の鎧を剣で殴りつけた。
まさか目の前の敵の群れより影剣さんの思考の壊死具合に戦慄を覚える日がこようとは……。
「なぁに、パターンが予測できれば取るべき対応などおのずと決まってくるでござるよ」
「この場合の対応ってのは、やはりそういうことなんだろうねぇ」
「敵が固まっている今の内に倒すしかなさそうですね」
クサンテが上あごの先端にある鼻からため息を漏らしながら暗に示唆すると、それを読み取ったユニスが諦めの境地で矢を放つ。
「皆、聞いての通りだ覚悟を決めろ。迷宮の広間やボス部屋の時と同じことをいつも通りにすればいい」
「なるようになるさ~~いつも通りに~~♪」
「ははっ、そうだな。いつも通りと行こうではないか」
アーヴィンがリュートをポロンと鳴らして石弾を放ち、ディオンが交戦中にも関わらずヤレヤレと苦笑いを浮かべる。
「これがいつも通りとか、あんたたちマジヤバすぎない?」
「そうか?」
ルージュが軽口を叩きながら高速ジャブからの力のこもったストレートと最短合理的な攻撃動作で鎧を吹き飛ばし、メリティエが変幻自在な身のこなしと小さくも重たい一撃で蹴散らしながらそっけなく答える。
同じ立ち技系格闘技でもシュートボクシングスタイルとカンフースタイルな両者の対比はずっと見ていたくなる半面、2人の――いや、皆の攻撃をもってしても鎧を簡単に破壊出来ていないことに気付く。
「戦えるのは良いんだけど、やっぱ硬すぎー!」
腕を鎧にめり込ませたルージュが鎧に脚をかけて引き抜く。
「硬い上にしぶとく、それでいて動きも速い!」
2体と交戦中のディオンが叫ぶ横から別の個体が鈍器で襲い掛かるのを、ユーベルトが剣を頭上に掲げて受けとめる。
その重たい一撃でユーベルトの踏ん張った足が硬い地面に少し沈んだ。
「攻撃力もやたらと高いぞ!」
ユーベルトが押し込まれる鈍器を受けていた剣の力を抜いたことで、鎧がバランスを崩し前のめり。
返す剣で頸椎へと上段から振り下ろし首を跳ねる。
兜が明後日の方に転がり別のディバイントルーパーに蹴られ更にどこかへ。
兜を無くした首無し騎士が起き上がろうとしたのをガーランドが鎧の海へと蹴り飛ばした。
すぐに鎧のおかわりに襲われたガーランドが盾で受け止める。
「剣筋が真っ直ぐで動きは読み易いが、この数ともなると変な動きをしない分余計に厄介だ。こりゃ先ほどの勇者たちより手強いまであるぞ」
俺の神剣だからこそ紙同然に切り裂いているが、神鉄製の武器を振るうディオンですら対処に困るほどの強固さで、それが3000体は厄介極まりない。
「んんんんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
そんな皆が鎧の破壊に四苦八苦している傍ら、トトは黄金に輝く斧を振り回しドカドカと鎧を両断していく。
「つーかトトっちの攻撃力ヤバすぎっしょ。どしたらそんなこと出来るわけ?」
「これなー、んーってやってドーンでやったら出来るよー?」
「へー、うんーってやってドーンね、OKやってみるー」
トトの擬音と身振りだけの説明に、なぜか理解を示したルージュが鎧を相手に試しだす。
なるほど、わからん。
IQって20離れたら会話が成立しないと言うし、きっと2人のかしこさは俺の遥か高みにあるにちがいない。
だがディバイントルーパーにとって致命的な攻撃手段がトトの謎攻撃と俺の持つ神剣しかないのも問題で、神剣を用意するより地道にボコすかトトの攻撃を再現できないか試す方が現実的――なのか?
「ねこ殿、もう一度〈強欲な宝物庫〉でこやつらを消せぬでござるか?!」
「あっ、そうか」
影剣さんのヒラメキに足元の宝箱を蹴り上げ収納を試みるも、収納されたのは先ほど切り裂いた残骸のみで動くディバイントルーパーに効果は発動しなかった。
「ダメ臭いね」
「ダメでござるな」
「先ほどまで収まっていたのなら元居た場所へと戻ればよかろうものを!」
そう言いつつ放たれたユニスの矢が、やや突出気味なトトの側面から襲い掛かったディバイントルーパーの脚を打ち抜き転ばせる。
「収納袋様も無生物しか入らないし、動く前は道具度認識されていたけど動いた瞬間から生き物扱いって感じかな? それだと神格化までした剣が収納袋様に入っていたのが謎だけど」
「元々魂が入っていたが目覚めたことにより生物としてカウントしたといったところでござろうか? そういう意味では収納スキル同様凄まじく融通が利くアイテムでござるな」
「考えたところで結局はあの数を全部倒すしか無いってことだな。嬉しすぎて思わず涙が出ちまいそうだぜ」
「嫌なら防壁の中で休んでいろ、その方が私の取り分が増える」
ガーランドのお茶らけた泣き言に、メリティエがディバイントルーパーをデスタッチで太ももの内側を殴り鎧を大きくヘコませた。
ヘコんだことで鎧の歩き方が歪なものとなり、その歪さで生じた攻撃の遅延を逃さず渾身のローキックで片足を飛ばした。
流石に片足を失っては歩くことも困難だろう。
移動が出来なくなった鎧を殴り飛ばし、新たに来た鎧の攻撃を最小の動きで躱してカウンターのデスタッチが鎧の脚を容赦なく襲う。
そこからは同じように脚部を潰してから吹き飛ばし、脚を潰してはまた殴り飛ばすを繰り返す攻略法を確立してしまった。
「そうか、それならば俺にも!」
皆がイージスシステムで共有した攻略法を早速試し始める。
トトのよくわからん攻撃よりこっちの方がよっぽど現実的だわ、なんて考えていた丁度その時。
『トシオ様、大変です!』
バラドリンド教国の首都の上空で待機中のリシアから緊迫した声で連絡が入る。
『リシア、なにがあった?』
『突然――きゃあああああああ!!』
『リシア!?』
『早く来て……!』
悲鳴を上げるリシアに代わり、リシアと行動を共にしていたミネルバが鋭い声で俺を急かす。
マイペースなミネルバとは思えない緊張感に、嫌な予感しかしてこない。
「皆――」
「リシアが危ないんでしょ? 早く行ってあげなさい!」
「ここは拙者たちに任せるでござる」
このタイミングで戦場を離れる申し訳なさに顔をしかめる俺へ、レスティーと影剣さんが背中を押してくれた。
「僕らは君が居ないとこの程度の敵も倒せないと思っているのかい?」
「アーヴィン……」
アーヴィンがリュートをポロンとひと鳴らししてウィンクする。
持ち前の出っ歯のせいでコメディーにしか見えないと思ってしまったのが心苦しい。
「そもそも貴方が居られずとも、アーヴィン様にかかれば勇者の残した悪あがきのバケツ共など物の数ではございませんわ!」
「言い過ぎだよカリオペさん」
「そんなことありませんわ、アーヴィン様の魔法と美しい旋律の前では魔王すら感動のあまり軍門に下るでしょう!」
「ありがとうカリオペさん、だが僕の歌は貴女だけに届けたい」
「アーヴィン様……」
「カリオペさん……」
見つめ合う2人のエルフが手を取り合い自分たちの世界に入ってしまった。
メチャクチャ急いでる時に何してくれてんだか。
ここ戦場な?
ユーベルトが戦闘中にも関わらず羨ましそうに見てるのホント危ないからイチャコラすんのは後にしろな?
「……と、とりあえずこれを」
神剣を逆手に持ち影剣さんに柄の方から投げて渡すと、受け取ろうとした影剣さんの手が柄に触れかけた瞬間見えない力に弾かれ剣が地面に落ちた。
「あれ?」
「神剣に――拒絶されたでござるか?」
「この子が自身の主をトシオさんに定めたからでしょう」
「うおっ!?」
またも唐突に現れるレイティシアさん。
「つまりこの剣はねこ殿専用装備と言うことでござるか。……専用装備、拙者もそういうの欲しいでござる!」
レイティシアさんの説明に妙なところに感動する影剣さん。
確かに専用装備とか○○専用機みたいなのにはあこがれはあるものの、状況が状況なだけに今はちょっとよろしくない。
「まぁ神剣が無くても鎧の倒し方は心得ているでござる。気にせず行くでござるよ」
「助かる。あとレスティー、索敵魔法をイージスシステムの引継ぎは頼んだから」
「良いわよん、任せなさぁい」
俺は剣を拾うとレスティーたちに後を任せ、ワープゲートでリシアたちの居るバラドリンド教国首都上空で待機する〈巨大外骨格魔法〉の中へ転移した。
このまま放置したら肉片が集まり再生した、なんてこともあり得るファンタジーな世界なため熱線魔法で消し墨にしておく。
死亡確認ヨシ!
黄色のヘルメットをかぶったデフォルメされたネコが妙なポーズで指さし確認する姿が脳内で浮かび、すぐに妄想を振り払う。
「あとは〈ディバイントルーパー〉だな」
ディバイントルーパー、人の魂が入った動く鎧。
猿藤を倒すタイミングを見定めている間に数が3000体にまで膨れ上がっていた。
その出現場所のど真ん中にワープゲートで出たものだから、当然の如く周囲に居た個体が殺到してきた。
俺は手にした呪われた緋色の神剣で応戦。
剣が月光に照らされ赤く煌くたび、重厚な金属鎧が何の抵抗も無く切り裂けた。
バターの様に切れるなんて比喩表現があるが、バターどころか空気を切ってるのと変わらない手応えと視覚や聴覚から得る情報とのギャップに、脳がバグったような感覚に陥る。
このために用意した剣だけあって普通に凄いけどなんか気持ち悪っ。
仲間が殺られてもひるまないこいつらはもっと気持ち悪いけど。
「〈ヴィゾフニル〉!」
あまりの多さにまとめて始末してやろうと光る羽を散弾として全周囲に打ち出すも、魔法は鎧の表面で弾かれた。
予想外の硬さに驚きつつも、足元の〈強欲な宝物庫〉を魔念動力で掴み、一緒にワープゲートでククとユニスの元へと戻る。
「ちょっとぉ、魔法が全然効いてないじゃないのよぉ!?」
帰還早々、俺の心情とレスティーの悲鳴とがシンクロする。
ディバイントルーパーの数に押され、分厚い防御スキルを展開するククのところに逃げ込んできていたのだ。
皆は密集陣形を取っており、ククの防御スキルを削って来る鎧の軍団に対しそれを阻止するために必死の抵抗を行っている。
「こと魔法耐性において、高司祭の付与魔法はウィッシュタニアの魔法技術を凌駕するでござる。さすがはバラドリンド製でござるな」
「のんきに褒めてる場合かよ!」
鎧の大群を前に影剣さんが楽し気な解説をすると、ユーベルトから叫びに近いツッコミが入つつ重装兵の腹部を切り裂く。
その1撃で吹き飛んだディバイントルーパーが後続の鎧を巻き込むも、別の鎧が俺たちを殺しに押し寄せるためそんな穴などすぐに埋まってしまう。
吹き飛ばされたディバイントルーパーも腹部の傷などお構いなしで戦列に復帰するから数が減らない。
夜の荒野には重厚な金属の打ち合わさる音と足音が轟き、ひしめく鎧の群れは見るもの者の心を凍らせるには十分な迫力だ。
「なぁおいトシオ、流石にこの数は無茶じゃないか?」
「僕も逃げた方がいいと思う……」
ユーベルトが額に汗を浮かべ、ぽっちゃり男子のアレッシオが膝を笑わせながら弱気の進言。
俺を含めたこの中の大半が冒険者になって半年もたたない駆け出しも駆け出し、そんなのがこれほどの大群を前にすればこうもなろう。
だが逃げる訳にもいかない理由がある。
「どういう行動原理で動くのか分からん奴らをこのまま野放にして大丈夫だと思うか?」
「こんなのが町や村に来たら全滅確定じゃないのぉ」
「うっわ、言われてみれば確かにそうかも!?」
ユーベルトやレスティーだけでなく、ルージュまでもが顔を引きつらせる。
Lv900を超えた重歩兵が3000体だ、街や村どころか国が滅んでも不思議はない。
「それなら大丈夫でござるぞ、ここで拙者らが逃げたところで散り散りになったディバイントルーパーが各地でバラドリンド人以外を無差別攻撃するはずでござるな。ちな〝バラドリンド人以外〟とはバラドリンド教の宗教シンボルを着けているかどうかで判断するみたいでござるぞ」
「ならここはバラドリンドの国内だし、案外大丈夫か?」
「いや、一般的にそれは家の祭壇に安置するものだ。聖職者とそれに準ずる冒険者以外で日頃からそれらを身に着けている者などそうは居ない」
影剣さんの陽気な解説にガーランドの表情が自身の髪の毛みたく真っ青になっている。
あ、これ本当にダメなヤツだ。
元バラドリンド教関係者のガーランドが言うんだから間違いなくアカンヤツ。
「それのどの辺が大丈夫なんだ!?」
「行動パテーンが分かるという点では太鼓判ものでござるぞ?」
「そこだけ大丈夫でも意味ねぇだろ!」
素っ頓狂な影剣さんが巨大な手裏剣を投擲しながら嬉々として告げると、ユーベルトがブチギレ気味に目の前の鎧を剣で殴りつけた。
まさか目の前の敵の群れより影剣さんの思考の壊死具合に戦慄を覚える日がこようとは……。
「なぁに、パターンが予測できれば取るべき対応などおのずと決まってくるでござるよ」
「この場合の対応ってのは、やはりそういうことなんだろうねぇ」
「敵が固まっている今の内に倒すしかなさそうですね」
クサンテが上あごの先端にある鼻からため息を漏らしながら暗に示唆すると、それを読み取ったユニスが諦めの境地で矢を放つ。
「皆、聞いての通りだ覚悟を決めろ。迷宮の広間やボス部屋の時と同じことをいつも通りにすればいい」
「なるようになるさ~~いつも通りに~~♪」
「ははっ、そうだな。いつも通りと行こうではないか」
アーヴィンがリュートをポロンと鳴らして石弾を放ち、ディオンが交戦中にも関わらずヤレヤレと苦笑いを浮かべる。
「これがいつも通りとか、あんたたちマジヤバすぎない?」
「そうか?」
ルージュが軽口を叩きながら高速ジャブからの力のこもったストレートと最短合理的な攻撃動作で鎧を吹き飛ばし、メリティエが変幻自在な身のこなしと小さくも重たい一撃で蹴散らしながらそっけなく答える。
同じ立ち技系格闘技でもシュートボクシングスタイルとカンフースタイルな両者の対比はずっと見ていたくなる半面、2人の――いや、皆の攻撃をもってしても鎧を簡単に破壊出来ていないことに気付く。
「戦えるのは良いんだけど、やっぱ硬すぎー!」
腕を鎧にめり込ませたルージュが鎧に脚をかけて引き抜く。
「硬い上にしぶとく、それでいて動きも速い!」
2体と交戦中のディオンが叫ぶ横から別の個体が鈍器で襲い掛かるのを、ユーベルトが剣を頭上に掲げて受けとめる。
その重たい一撃でユーベルトの踏ん張った足が硬い地面に少し沈んだ。
「攻撃力もやたらと高いぞ!」
ユーベルトが押し込まれる鈍器を受けていた剣の力を抜いたことで、鎧がバランスを崩し前のめり。
返す剣で頸椎へと上段から振り下ろし首を跳ねる。
兜が明後日の方に転がり別のディバイントルーパーに蹴られ更にどこかへ。
兜を無くした首無し騎士が起き上がろうとしたのをガーランドが鎧の海へと蹴り飛ばした。
すぐに鎧のおかわりに襲われたガーランドが盾で受け止める。
「剣筋が真っ直ぐで動きは読み易いが、この数ともなると変な動きをしない分余計に厄介だ。こりゃ先ほどの勇者たちより手強いまであるぞ」
俺の神剣だからこそ紙同然に切り裂いているが、神鉄製の武器を振るうディオンですら対処に困るほどの強固さで、それが3000体は厄介極まりない。
「んんんんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
そんな皆が鎧の破壊に四苦八苦している傍ら、トトは黄金に輝く斧を振り回しドカドカと鎧を両断していく。
「つーかトトっちの攻撃力ヤバすぎっしょ。どしたらそんなこと出来るわけ?」
「これなー、んーってやってドーンでやったら出来るよー?」
「へー、うんーってやってドーンね、OKやってみるー」
トトの擬音と身振りだけの説明に、なぜか理解を示したルージュが鎧を相手に試しだす。
なるほど、わからん。
IQって20離れたら会話が成立しないと言うし、きっと2人のかしこさは俺の遥か高みにあるにちがいない。
だがディバイントルーパーにとって致命的な攻撃手段がトトの謎攻撃と俺の持つ神剣しかないのも問題で、神剣を用意するより地道にボコすかトトの攻撃を再現できないか試す方が現実的――なのか?
「ねこ殿、もう一度〈強欲な宝物庫〉でこやつらを消せぬでござるか?!」
「あっ、そうか」
影剣さんのヒラメキに足元の宝箱を蹴り上げ収納を試みるも、収納されたのは先ほど切り裂いた残骸のみで動くディバイントルーパーに効果は発動しなかった。
「ダメ臭いね」
「ダメでござるな」
「先ほどまで収まっていたのなら元居た場所へと戻ればよかろうものを!」
そう言いつつ放たれたユニスの矢が、やや突出気味なトトの側面から襲い掛かったディバイントルーパーの脚を打ち抜き転ばせる。
「収納袋様も無生物しか入らないし、動く前は道具度認識されていたけど動いた瞬間から生き物扱いって感じかな? それだと神格化までした剣が収納袋様に入っていたのが謎だけど」
「元々魂が入っていたが目覚めたことにより生物としてカウントしたといったところでござろうか? そういう意味では収納スキル同様凄まじく融通が利くアイテムでござるな」
「考えたところで結局はあの数を全部倒すしか無いってことだな。嬉しすぎて思わず涙が出ちまいそうだぜ」
「嫌なら防壁の中で休んでいろ、その方が私の取り分が増える」
ガーランドのお茶らけた泣き言に、メリティエがディバイントルーパーをデスタッチで太ももの内側を殴り鎧を大きくヘコませた。
ヘコんだことで鎧の歩き方が歪なものとなり、その歪さで生じた攻撃の遅延を逃さず渾身のローキックで片足を飛ばした。
流石に片足を失っては歩くことも困難だろう。
移動が出来なくなった鎧を殴り飛ばし、新たに来た鎧の攻撃を最小の動きで躱してカウンターのデスタッチが鎧の脚を容赦なく襲う。
そこからは同じように脚部を潰してから吹き飛ばし、脚を潰してはまた殴り飛ばすを繰り返す攻略法を確立してしまった。
「そうか、それならば俺にも!」
皆がイージスシステムで共有した攻略法を早速試し始める。
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『トシオ様、大変です!』
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『リシア!?』
『早く来て……!』
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「皆――」
「リシアが危ないんでしょ? 早く行ってあげなさい!」
「ここは拙者たちに任せるでござる」
このタイミングで戦場を離れる申し訳なさに顔をしかめる俺へ、レスティーと影剣さんが背中を押してくれた。
「僕らは君が居ないとこの程度の敵も倒せないと思っているのかい?」
「アーヴィン……」
アーヴィンがリュートをポロンとひと鳴らししてウィンクする。
持ち前の出っ歯のせいでコメディーにしか見えないと思ってしまったのが心苦しい。
「そもそも貴方が居られずとも、アーヴィン様にかかれば勇者の残した悪あがきのバケツ共など物の数ではございませんわ!」
「言い過ぎだよカリオペさん」
「そんなことありませんわ、アーヴィン様の魔法と美しい旋律の前では魔王すら感動のあまり軍門に下るでしょう!」
「ありがとうカリオペさん、だが僕の歌は貴女だけに届けたい」
「アーヴィン様……」
「カリオペさん……」
見つめ合う2人のエルフが手を取り合い自分たちの世界に入ってしまった。
メチャクチャ急いでる時に何してくれてんだか。
ここ戦場な?
ユーベルトが戦闘中にも関わらず羨ましそうに見てるのホント危ないからイチャコラすんのは後にしろな?
「……と、とりあえずこれを」
神剣を逆手に持ち影剣さんに柄の方から投げて渡すと、受け取ろうとした影剣さんの手が柄に触れかけた瞬間見えない力に弾かれ剣が地面に落ちた。
「あれ?」
「神剣に――拒絶されたでござるか?」
「この子が自身の主をトシオさんに定めたからでしょう」
「うおっ!?」
またも唐突に現れるレイティシアさん。
「つまりこの剣はねこ殿専用装備と言うことでござるか。……専用装備、拙者もそういうの欲しいでござる!」
レイティシアさんの説明に妙なところに感動する影剣さん。
確かに専用装備とか○○専用機みたいなのにはあこがれはあるものの、状況が状況なだけに今はちょっとよろしくない。
「まぁ神剣が無くても鎧の倒し方は心得ているでござる。気にせず行くでござるよ」
「助かる。あとレスティー、索敵魔法をイージスシステムの引継ぎは頼んだから」
「良いわよん、任せなさぁい」
俺は剣を拾うとレスティーたちに後を任せ、ワープゲートでリシアたちの居るバラドリンド教国首都上空で待機する〈巨大外骨格魔法〉の中へ転移した。
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マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
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