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233話 窮猿、猫を噛む
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『前衛抜刀――突撃!!』
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
俺の号令と共にバラドリンドの勇者を閉じ込めたアーヴィンの黒く渦巻く竜巻へと仲間たちが突撃を慣行する。
先頭を防御力の高い亡命の神官騎士ガーランドと対応力のある影剣さんが受け持ち、そのすぐ後ろを他の近接職の仲間が続く。
それを班を指揮する俺やクサンテ、護衛や探査の特異なククやカーチェが後衛職の皆と見守った。
まずは魔法でダメージを与え、運よく生き残っていたとしても攻撃魔法を目くらましにして一気に距離を詰め、接近戦で一気にケリをつける作戦だ。
特にあらゆる攻撃を受け付けないバリアに対しては、これまであらゆるものを叩き割ってきたトトに託す。
頼んだぞトト!
自分が前線に立てず後方から祈るだけなのに歯がゆさを感じていると、妙な違和感に気付く。
……バリア、なんかデカすぎない?
聞いていた無敵バリアの大きさはせいぜい2~3メートルの球状のはず。
魔法を防いでいる範囲が明らかに2~3メートルを範囲でないのは、竜巻の中で荒れ狂う攻撃魔法の膨れ具合でわかる。
無敵バリアでも用いないと防げないほどの魔法攻撃なだけに、それ以外の防御手段で防いでいるとも思えなかった。
だったらやはり敵のバリアは聞いているのよりデカい可能性が高い。
何かあった時のために注視していると、影剣さんとガーランドが竜巻に到達直前で左右に別れ、入れ代わりで先頭に出たトトが大きく飛び上がり黄金色のエネルギーの塊と化した巨大な斧を振り下ろした。
「ん~~やあああああああー!」
渾身の力で真っ直ぐ振り下ろされた一撃は、竜巻の中でゴゥンと鈍い音を響かせて横にズレた。
「え~、防がれたー!」
トトが不満気に結果を口にしたところで、僅かにだが魔法の竜巻が内側から不自然な膨らみを見せた。
『後退しろ!』
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
異変に気付きすぐに命令を出すも、皆が急速後退をかける中でルージュだけが止まることなく攻撃を繰り出した。
あのバカ!?
不自然な膨らみは複数となり大きく膨らんだことで悪寒が背筋を走り、慌てて周囲の魔力に働きかけ回避が間に合わないトトとルージュを掴ん強引に後退させた。
竜巻の中から斬撃が飛び出し、コンマ数秒の差でルージュの居た場所を打ち抜いた。
高密度な魔法攻撃をすり抜けて出て来たことから、十中八九猿藤の防御諸共押し潰すチートスキル《唯我独尊》だ。
引き戻すのがコンマ数秒遅れていたらと思うと……あまり想像もしたくないな。
射出型の斬撃が縦横無尽に暴れ竜巻を散らすと、中から透明なドーム状の膜に覆われた勇者たちが姿を現した。
やはりバリアは聞いていたよりも大きく、全員がすっぽりと収まるほどだった。
ちっ、全員無傷かよ。
しかも展開時間も数秒のはずなのに、なんでまだ張り続けてますん?
「猿藤、今のタイミングで普通外すぅ?」
「ありえねぇべ、マジ受けるわ~」
「いやいやいやいやいや、今のはどう見たって俺悪くねぇって! あんな変な避け方するとか普通思わねぇよ!」
如何にもチャラそうな見た目の男たちがふざけ合い、周りもそれを止めることなく一緒にはしゃぐ。
初手の勢いで仕留められなかったのは痛いな。
「戦場で談笑とはずいぶん余裕でござるな」
「こんな所に出たのはシャドウセイバーのせいか。だがな、お前が何かを仕掛けてくるなんてとっくにお見通しだ」
「あの程度の不意打ちでLv700になった神である俺様を殺れると本気で思っていないよな?」
冷ややかな視線を影剣さんに向ける男を鑑定眼がショウジと表示し、ショウジとは対照的に勝気なドヤ顔を決める男をナオキと教える。
確かナオキってのがこの集団のリーダー格で、苗字が猿藤だったか。
2人ともLv771か、ふざけたレベルになってるな。
先日までLv400だった奴らがLv700ということは、今回の戦争での犠牲者は俺たちが思っていたよりもはるかに多かったようだ。
改めてバラドリンドの勇者たちに視線を向けると、猿藤たちの周りには鑑定眼がミナモ、コウタロウ、ヒサシ、セイ、ジン、タツミといったLv700前半の男たちの名前が表示されるが、殺し合うヤツの名など覚える必要はないかと記憶することを放棄した。
殺した後に顔と一緒に思い出すくらいなら、初めから覚えない方が良いまであるしな。
今でも初めて殺めた男の顔が時折過ぎり、無性に記憶処理したくなることがある。
へばりつくような罪悪感を振り払っていると、奇妙な感触が複合索敵魔法の接触感知に反応した。
正確には周囲を満たした索敵魔法に、急にそこだけは無反応になった感じだ。
その何かは無敵バリアから出て来たような感じだったが目視では確認出来ず、そのままバリアから遠ざかっていく。
この既視感――影剣さんと初めて遭遇した時に似てるな。
「それで、他の勇者はどうしたよ? 見たところそこの小学生しか居ないようだな」
「誰が小学生ですって!?」
激昂するルージュに猿藤とその仲間たちの口角がいやらしく上げた。
腐っても彼女は16歳でとある格闘技のミニマム級タイトル保持者だ、階級の有るプロ格闘技が小学生程度の体格で頂点に立てるほど甘い世界じゃない。
かと言って高校生に見えるかと言われると首を高速で横に振る自信がある。
『落ち着け、今のはお前が勇者かどうかを確かめるためのブラフだ。あんな安い挑発に乗るな』
「うっさい、そんなの分かってるし!」
念話ではなく大声で言っちゃう辺りフルフェイスの外骨格で覆われた顔をさらに覆いたくなる。
「他の奴はどうした? そっちにはまだ何人か勇者が居たはずだが?」
「特殊スキルを持っていたとて、生憎とまともに戦えそうになかったので置いて来たでござる」
「戦えるチート持ちが2人だから、この世界の雑魚どもをかき集めたのかよ」
「ぷっ。レベルは俺たちより低いのに仲間は雑魚の寄せ集めってか? 忍者くんカワイソー、ぎゃはははは!」
大学生らは成人しているとは思えない態度で影剣さんや仲間たちを馬鹿にした。
ルージュを諭しておきながら、こいつらの物言いに殺意しか湧いてこない。
「まぁいい。それよりも忍者野郎、俺たちのワープが使えないのもお前の仕業なんだろ?」
「流石ショウジ殿、ご明察でござるぞ。故に、ここから出たくば拙者を倒して行くでござる」
「おいおい、マヌケは1人しか居ねぇと思ったがお前もかよ」
ショウジの問いに影剣さんがオリハルコン製の忍者刀を逆手に構えたまま挑発で返すと、猿藤が煽りちらす。
「親切から教えたものを、マヌケ呼ばわりとは心外でござる~」
影剣さんが情けない声でぼやくが、当然親切心などではない。
この空間を外と区切っているのは俺だ。
それを馬鹿正直に言って俺に注意を向けないため、影剣さんはあえて自ら囮を買って出てくれているのだ。
「聞いたかお前ら、遊びは終わりだ。あの忍者オタクを殺ってこんな何もない所からおさらばだ」
「そいつはわかり易くて良いぜ!」
「俺たちの邪魔さえしなけりゃ死なずにすんだものをよう!」
仲間をけしかける猿藤にセイとタツミがわかり易い悪役よろしく指を鳴らして答える。
2人がバリアの外へと踏み出した矢先、何も無かったはずの地面に突如現れた大きな物体にタツミが足を取られた。
「っと、なんだぁ?」
「なにやってんだよタッツー、遊びは終わりって言――」
「うギっ……あ”、ア”……!」
「「エイタ!?」」
タツミの足元で蹲る物体の正体を認識した勇者たちが驚きを露わにした。
エイタと呼ばれたそれはうつ伏せで蹲ったまま身じろぎすらせず、胸を押さえて苦し気に呻く。
周囲は複合索敵魔法で常に監視しており、例え姿や気配を消したところでその存在を掴むのは容易だった。
仲間から1人はぐれ「私はこれから悪さします」と看板背負ってコソコソと近付かれても、それを黙って見逃す訳がない。
しかも隠密じょうたいだからなのか防御スキルを使用していないなど、カモ以外の何者でもない。
そんなカモネギに対し、周囲の魔力を固定化し一点に収束させることで対象を爆縮させる〈ニーズホッグ〉の魔法で心臓を握りつぶさせてもらった。
てか心臓潰れたのにまだ生きてるとかびっくりだわ。
まぁニーズホッグで心臓を握りつぶしたままにしておけば自己回復スキルも発動できないだろうし、死ぬまで行動不能でいてもらおう。
……死んだ時点でもう動けないのに死ぬまで行動不能って、日本語的にどうなんだろうな。
「どこが痛いんだエイタ? おいなぁエイタ、お、俺どうしたら良い? なぁ猿藤、俺どうしたら良いよ?!」
タッツーことタツミがその場でしゃがみ、自身が不注意で蹴ってしまった相手に手を伸ばすも、触れていいものかもわからずただ狼狽える。
問われた猿藤も苦しむエイタを見つめ固まっていた。
仲間たちも含めどれほど心配でも手が出せないのは、回復魔法などで対処出来ないからだ。
宗教国家で周囲には神聖魔法の使い手ばかりの環境だ、プリースト系のジョブレベルを上げてこなかった弊害だろう。
「はぁ~、相手に忍び寄る際は代わりを用意せよと教えたでござろうエイタ殿」
最近までバラドリンドの勇者たちの戦闘訓練を施していた影剣さんが、呆れ交じりにため息を吐く。
「ファックっ、エイタのHPがどんどん減っていきやがる!」
「これもお前の仕業かシャドウセイバー!」
「エイタに何をしやがった?!」
「くふふ、それは忍法・怨霊宿りの術による呪いで多臓器不全を起こしているでござる。呼び出した悪霊に因って効果に差異こそあれ、最終的には死に至らしめる呪術。Lv700のHPでエイタ殿がどこまで生き永らえられるか見ものでござるな」
「なんだよ悪霊って!? そんなのどうすりゃいいんだよ!」
セイとタツミが足元のエイタにオロオロし続けるのを、影剣さんが悪霊の呪いなどと対処法が分からない上に想像しやすい恐怖で更なる焦りを煽る。
口プレイでの精神攻撃が悪魔的すぎる。
「卑怯だぞ忍者野郎、早くエイタの呪いを解きやがれ!」
「なぜ敵であるお主らに手心を加える必要があるでござる? ワープゲート封じの結界共々、解いてほしくば拙者を倒すのでござるな」
「ファックファックファックっ、ふざけやがって!」
「2人とも簡単に挑発に乗せられるな! あいつらはエイタを一瞬でこんなにしやがった相手だ、今は動けないエイタよりも目の前の敵に集中しろ!」
「でもよぉショウジ、エイタはまだ死んでなんかねぇんだぜ!」
「そうだぜショウジ、いくら何でも冷た過ぎんだろ!」
「Lv700なんて関係なくあいつらは俺たちを殺れるんだ、それがどういうことか分からないのか? それにエイタを見捨てるとは言っていない。エイタを助けるにしてもここから脱出するにしても、結局はあいつを倒す以外に俺たちに道は無い。少しは冷静になれ」
ショウジが冷静にセイとタツミを諭すと、2人だけでなく後ろに控えていた奴らも頷き顔が引き締しまる。
俺たちの実力を早々に修正して周囲をまとめる辺り、ショウジって呼ばれるやつは猿藤よりもよっぽどリーダーしてやがる。
こういうヤツは一番に倒しておきたいが、奴の保有するチートスキルが絶対防御なのがネックだった。
「まだ対峙したばかりで早々に1人脱落でござるか。くふふ、乱戦で脅威となりうるエイタ殿がここでリタイアに持って行けたのは幸先が良いでござるな」
「ファック、くだらねぇ挑発だな!」
「お前を殺してエイタを助けここからおさらばだ、最初からフルパワーで行くぜ!」
セイとタツミが覚悟を決め今度こそバリアの外へ踏み出すと、体中に力を漲らせた。
「はああああああ、〈ギガンティック〉!」
「おおおおおおお、〈ザ・ビースト〉!」
2人がスキルを発動と同時に体の各所がモリモリと肥大化してゆく。
セイの手足が数倍に膨れ、身に着けていた衣類も10メートルを超える巨人に適したサイズへ変化した。
タツミは角と尻尾が生え全身を黒いゴムのような質感の分厚い皮膚の魔物の姿へと変貌すると、体高も4メートルを超えてなお伸び続ける。
恐らくステータスなども変身前よりも高くなっているだろう――だが、変身するなら安全なバリアの中でするべきだった。
例え変身することで仲間をバリアの外に押し出すことになっても、だ。
「シャイニングセイバー!」
「ニーズホッグ!」
レスティーの指から伸びた光線を振りぬき超高速の斬撃となって目が6つに増えたタツミの首を跳ね、俺はエイタの心臓に続き巨大化したセイの脳を魔力で握り潰した。
2つの巨体が前のめりに倒れ、大きな音を荒野に響かせる。
「タッツー、セイ!?」
「があ、あ……」
スパッと飛んだタツミの頭が、地面に転がりながら元のサイズに収縮する。
その顔には驚愕の表情が浮かべ、魚の様に口をパクパクと開閉させ仲間に助けを求める視線を向けた。
心臓を潰されたり首を跳ねられても即死しないとか、まったくもってふざけた世界である。
逆に言えば回復魔法が間に合えば助かるのか。
あの魔族の子供たちが助かったのもここが要因かも。
奴隷だった2人の魔族の少年たちにしたように、頭と胴体の切断面を合わせて回復魔法を施せばまだ助かると冷静に思いながら、俺は傍観を決め込んだ。
そのままエイタを含めた3人の命が消えるのを見届けた。
「う、あぁ……」
「あんたたち、私たちへの警戒がお粗末すぎるんじゃなぁい? 他所の世界から来たクセにずいぶんな言いようだったけど、……あたしたちをあんまり舐めてんじゃないわよ?」
情け容赦の無いアゴ割れスキンヘッドオカマからのドスの利いた低い声が、仲間の死に怖気づいた勇者たちにぶつけられる。
彼の恋人であるディオンがなぜか誇らし気なのが非常に解せない。
「な、なんでだよ、2人もLv700を超えているんだぞ!? こんなのおかしいだろぉがよぉ!」
「戦闘の心得として〝大技を使う際は相手に隙を見せるな〟と、これもお主らには教えたでござろう。新顔のお仲間には忠告しなかったのでござるか?」
「奴ら俺たちよりレベルが低いんじゃなかったのか!?」
「――あぁ、そ、うか、そういうこと、か……」
「おっ、どうやらショウジ殿は気付いてしまったでござるな。だが仲間を失ってからでは遅すぎると言わざるを得ぬでござる♪」
取り戻せない失態に歯を噛みしめるショウジに、影剣さんが明るい声で告げる。
先ほどから馬鹿にされていたことへの意趣返しのようだ。
「どういうことだショウジ、なにに気付いたってんだ?」
「ショウジ!」
「ショウジさん!」
「……皆、落ち着いて聞いてくれ。お、俺たちがLv700を超えたのは、今回の戦争で敵が死んだ経験値、だ。だが戦争で死んだのは敵ばかりじゃない、消され砦にはタカたち以外にも待機していた兵が大勢いた……」
「お、おい、それってまさか……」
「そのまさかでござる。大量の兵を集まっていた3つの砦は拙者らの糧になってくれたでござる。くふふ、お主ら知っているでござるか? ベースレベルはLv999でもカンストしないことを」
影剣さんのネタばらしに、つい先ほどまで高レベルであることを誇示していた勇者たち全員の顔が青ざめる。
「それと国に忠誠心のなさそうなお主ら故、脱出してくるであろうとこうして網を張っていたでござるが、先に引っかかったハッシュリングとモンテハナムの者らからお主らの能力やレベルに関する情報提供を頂いていたでござる。それを踏まえ〝例えチートスキルの保有数で劣っていようとも、現地スタッフと共に地力でごり押せば普通に勝てる〟と判断したでござる」
「あいつら、逃げるだけでなく俺様を売りやがったのか!」
バラドリンドから逃げた自分たちを棚上げにした猿藤が恨み言をほざく。
背中に特大ブーメランぶっ刺さってるぞ。
「人間誰しも自分が一番かわいいもんさ」
「お陰で周囲には君らを逃さないための伏兵も布陣してある。我らの包囲を突破したところで後ろに控える者との連戦だ、既に1/3を失った状態で包囲網が突破できると良いな」
「ぐっ……」
ユーベルトが吐き捨て、ディオンも影剣さんの様なハッタリで精神的に追い込みをかけると、状況の悪さを悟ったショウジが唇を噛んで俯いた。
まだ対峙して数分も経っていないのに3名が戦死し、ワープゲートも封じられ残り6人で俺たち以外にも包囲網が敷かれてると聞かされれば頭を抱えたくもなる。
本当にそんな布陣が敷かれているなら普通は教えたりしないけどな。
まぁつい先日まで平和な国で学生やってた人間が、初めて命の危機に直面したらこんなものか。
「それにしても猿藤殿はなかなかの戦略家でござるな。まさか拙者がお主らをこの世界に呼び出した手法をモンテハナムとハッシュリングのダンジョンコアを用いて仲間を追加し、さらには勇者20人に因るワープゲートでの多角的進攻とは盲点でござった。これにはお見事と言うより他にないでござる」
影剣さんの素直な称賛の言葉を贈るも、追い詰められた状況では嫌味と受け取ったのか猿藤の顔に渋みが増しただけだった。
「それでも状況的に完全に詰みでござる。大人しく負けを認めるなら悪いようにはせぬが、どうでござる?」
「いいやまだだ、俺様はなぁ、負けるってのが大っ嫌いなんだ。俺様たちはまだ負けちゃいねぇ。そうだろショウジ?」
「……あぁそうだ、俺の〈絶対領域〉がある限り、俺たちに負けは無い。それに――」
「ショウジの絶対領域を貴様らは突破出来ないが、俺様にはお前らを倒せるチートスキルがあるんだ、だからまだ負けてねぇんだよぉ!〈ゴッドプレッシャー〉!」
猿藤が剣にオーラを宿し特大の斬撃として放つ。
自身の攻撃全てにどんな防御スキルにも阻まれることなく直進する貫通とはまた違った防御不能攻撃。
それを唯一阻めるモノは隣に立つショウジの無敵バリアのみと言うのが始末に負えない。
だが回避は可能だ。
斬撃は影剣さんを狙って直進するも、その車線上に居た全員が横に飛び退き難なく逃れた。
「猿藤殿故、窮鼠ならぬ窮猿と言ったところでござるか? しかし、そのような雑な攻撃で噛まれるほど拙者たちは甘くないでござるぞ?」
「この神の一撃を見ても、まだ余裕ぶっていられるかなぁシャドウセイバぁ?〈心眼・ゴッドプレッシャー〉!」
技名の先に付く〈心眼〉の単語が出た瞬間、最大級の悪寒が走る。
心眼は弓系職業〈スナイパー〉に存在するスキルで、同時に使用したスキルに自動追尾効果を付与するものだ。
俺の横に居るユニスが使い、矢が面白いほど目標に吸い込まれるのを何度も目にしている。
防御不可攻撃に自動追尾なんて親和高すぎるクソコンボをここで見せて来るな!?
しかも高速で迫る必中防御不可の無慈悲な斬撃が狙う対象は、影剣さんではなく一番人が密集しているクサンテでもなく――俺だった。
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
俺の号令と共にバラドリンドの勇者を閉じ込めたアーヴィンの黒く渦巻く竜巻へと仲間たちが突撃を慣行する。
先頭を防御力の高い亡命の神官騎士ガーランドと対応力のある影剣さんが受け持ち、そのすぐ後ろを他の近接職の仲間が続く。
それを班を指揮する俺やクサンテ、護衛や探査の特異なククやカーチェが後衛職の皆と見守った。
まずは魔法でダメージを与え、運よく生き残っていたとしても攻撃魔法を目くらましにして一気に距離を詰め、接近戦で一気にケリをつける作戦だ。
特にあらゆる攻撃を受け付けないバリアに対しては、これまであらゆるものを叩き割ってきたトトに託す。
頼んだぞトト!
自分が前線に立てず後方から祈るだけなのに歯がゆさを感じていると、妙な違和感に気付く。
……バリア、なんかデカすぎない?
聞いていた無敵バリアの大きさはせいぜい2~3メートルの球状のはず。
魔法を防いでいる範囲が明らかに2~3メートルを範囲でないのは、竜巻の中で荒れ狂う攻撃魔法の膨れ具合でわかる。
無敵バリアでも用いないと防げないほどの魔法攻撃なだけに、それ以外の防御手段で防いでいるとも思えなかった。
だったらやはり敵のバリアは聞いているのよりデカい可能性が高い。
何かあった時のために注視していると、影剣さんとガーランドが竜巻に到達直前で左右に別れ、入れ代わりで先頭に出たトトが大きく飛び上がり黄金色のエネルギーの塊と化した巨大な斧を振り下ろした。
「ん~~やあああああああー!」
渾身の力で真っ直ぐ振り下ろされた一撃は、竜巻の中でゴゥンと鈍い音を響かせて横にズレた。
「え~、防がれたー!」
トトが不満気に結果を口にしたところで、僅かにだが魔法の竜巻が内側から不自然な膨らみを見せた。
『後退しろ!』
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
異変に気付きすぐに命令を出すも、皆が急速後退をかける中でルージュだけが止まることなく攻撃を繰り出した。
あのバカ!?
不自然な膨らみは複数となり大きく膨らんだことで悪寒が背筋を走り、慌てて周囲の魔力に働きかけ回避が間に合わないトトとルージュを掴ん強引に後退させた。
竜巻の中から斬撃が飛び出し、コンマ数秒の差でルージュの居た場所を打ち抜いた。
高密度な魔法攻撃をすり抜けて出て来たことから、十中八九猿藤の防御諸共押し潰すチートスキル《唯我独尊》だ。
引き戻すのがコンマ数秒遅れていたらと思うと……あまり想像もしたくないな。
射出型の斬撃が縦横無尽に暴れ竜巻を散らすと、中から透明なドーム状の膜に覆われた勇者たちが姿を現した。
やはりバリアは聞いていたよりも大きく、全員がすっぽりと収まるほどだった。
ちっ、全員無傷かよ。
しかも展開時間も数秒のはずなのに、なんでまだ張り続けてますん?
「猿藤、今のタイミングで普通外すぅ?」
「ありえねぇべ、マジ受けるわ~」
「いやいやいやいやいや、今のはどう見たって俺悪くねぇって! あんな変な避け方するとか普通思わねぇよ!」
如何にもチャラそうな見た目の男たちがふざけ合い、周りもそれを止めることなく一緒にはしゃぐ。
初手の勢いで仕留められなかったのは痛いな。
「戦場で談笑とはずいぶん余裕でござるな」
「こんな所に出たのはシャドウセイバーのせいか。だがな、お前が何かを仕掛けてくるなんてとっくにお見通しだ」
「あの程度の不意打ちでLv700になった神である俺様を殺れると本気で思っていないよな?」
冷ややかな視線を影剣さんに向ける男を鑑定眼がショウジと表示し、ショウジとは対照的に勝気なドヤ顔を決める男をナオキと教える。
確かナオキってのがこの集団のリーダー格で、苗字が猿藤だったか。
2人ともLv771か、ふざけたレベルになってるな。
先日までLv400だった奴らがLv700ということは、今回の戦争での犠牲者は俺たちが思っていたよりもはるかに多かったようだ。
改めてバラドリンドの勇者たちに視線を向けると、猿藤たちの周りには鑑定眼がミナモ、コウタロウ、ヒサシ、セイ、ジン、タツミといったLv700前半の男たちの名前が表示されるが、殺し合うヤツの名など覚える必要はないかと記憶することを放棄した。
殺した後に顔と一緒に思い出すくらいなら、初めから覚えない方が良いまであるしな。
今でも初めて殺めた男の顔が時折過ぎり、無性に記憶処理したくなることがある。
へばりつくような罪悪感を振り払っていると、奇妙な感触が複合索敵魔法の接触感知に反応した。
正確には周囲を満たした索敵魔法に、急にそこだけは無反応になった感じだ。
その何かは無敵バリアから出て来たような感じだったが目視では確認出来ず、そのままバリアから遠ざかっていく。
この既視感――影剣さんと初めて遭遇した時に似てるな。
「それで、他の勇者はどうしたよ? 見たところそこの小学生しか居ないようだな」
「誰が小学生ですって!?」
激昂するルージュに猿藤とその仲間たちの口角がいやらしく上げた。
腐っても彼女は16歳でとある格闘技のミニマム級タイトル保持者だ、階級の有るプロ格闘技が小学生程度の体格で頂点に立てるほど甘い世界じゃない。
かと言って高校生に見えるかと言われると首を高速で横に振る自信がある。
『落ち着け、今のはお前が勇者かどうかを確かめるためのブラフだ。あんな安い挑発に乗るな』
「うっさい、そんなの分かってるし!」
念話ではなく大声で言っちゃう辺りフルフェイスの外骨格で覆われた顔をさらに覆いたくなる。
「他の奴はどうした? そっちにはまだ何人か勇者が居たはずだが?」
「特殊スキルを持っていたとて、生憎とまともに戦えそうになかったので置いて来たでござる」
「戦えるチート持ちが2人だから、この世界の雑魚どもをかき集めたのかよ」
「ぷっ。レベルは俺たちより低いのに仲間は雑魚の寄せ集めってか? 忍者くんカワイソー、ぎゃはははは!」
大学生らは成人しているとは思えない態度で影剣さんや仲間たちを馬鹿にした。
ルージュを諭しておきながら、こいつらの物言いに殺意しか湧いてこない。
「まぁいい。それよりも忍者野郎、俺たちのワープが使えないのもお前の仕業なんだろ?」
「流石ショウジ殿、ご明察でござるぞ。故に、ここから出たくば拙者を倒して行くでござる」
「おいおい、マヌケは1人しか居ねぇと思ったがお前もかよ」
ショウジの問いに影剣さんがオリハルコン製の忍者刀を逆手に構えたまま挑発で返すと、猿藤が煽りちらす。
「親切から教えたものを、マヌケ呼ばわりとは心外でござる~」
影剣さんが情けない声でぼやくが、当然親切心などではない。
この空間を外と区切っているのは俺だ。
それを馬鹿正直に言って俺に注意を向けないため、影剣さんはあえて自ら囮を買って出てくれているのだ。
「聞いたかお前ら、遊びは終わりだ。あの忍者オタクを殺ってこんな何もない所からおさらばだ」
「そいつはわかり易くて良いぜ!」
「俺たちの邪魔さえしなけりゃ死なずにすんだものをよう!」
仲間をけしかける猿藤にセイとタツミがわかり易い悪役よろしく指を鳴らして答える。
2人がバリアの外へと踏み出した矢先、何も無かったはずの地面に突如現れた大きな物体にタツミが足を取られた。
「っと、なんだぁ?」
「なにやってんだよタッツー、遊びは終わりって言――」
「うギっ……あ”、ア”……!」
「「エイタ!?」」
タツミの足元で蹲る物体の正体を認識した勇者たちが驚きを露わにした。
エイタと呼ばれたそれはうつ伏せで蹲ったまま身じろぎすらせず、胸を押さえて苦し気に呻く。
周囲は複合索敵魔法で常に監視しており、例え姿や気配を消したところでその存在を掴むのは容易だった。
仲間から1人はぐれ「私はこれから悪さします」と看板背負ってコソコソと近付かれても、それを黙って見逃す訳がない。
しかも隠密じょうたいだからなのか防御スキルを使用していないなど、カモ以外の何者でもない。
そんなカモネギに対し、周囲の魔力を固定化し一点に収束させることで対象を爆縮させる〈ニーズホッグ〉の魔法で心臓を握りつぶさせてもらった。
てか心臓潰れたのにまだ生きてるとかびっくりだわ。
まぁニーズホッグで心臓を握りつぶしたままにしておけば自己回復スキルも発動できないだろうし、死ぬまで行動不能でいてもらおう。
……死んだ時点でもう動けないのに死ぬまで行動不能って、日本語的にどうなんだろうな。
「どこが痛いんだエイタ? おいなぁエイタ、お、俺どうしたら良い? なぁ猿藤、俺どうしたら良いよ?!」
タッツーことタツミがその場でしゃがみ、自身が不注意で蹴ってしまった相手に手を伸ばすも、触れていいものかもわからずただ狼狽える。
問われた猿藤も苦しむエイタを見つめ固まっていた。
仲間たちも含めどれほど心配でも手が出せないのは、回復魔法などで対処出来ないからだ。
宗教国家で周囲には神聖魔法の使い手ばかりの環境だ、プリースト系のジョブレベルを上げてこなかった弊害だろう。
「はぁ~、相手に忍び寄る際は代わりを用意せよと教えたでござろうエイタ殿」
最近までバラドリンドの勇者たちの戦闘訓練を施していた影剣さんが、呆れ交じりにため息を吐く。
「ファックっ、エイタのHPがどんどん減っていきやがる!」
「これもお前の仕業かシャドウセイバー!」
「エイタに何をしやがった?!」
「くふふ、それは忍法・怨霊宿りの術による呪いで多臓器不全を起こしているでござる。呼び出した悪霊に因って効果に差異こそあれ、最終的には死に至らしめる呪術。Lv700のHPでエイタ殿がどこまで生き永らえられるか見ものでござるな」
「なんだよ悪霊って!? そんなのどうすりゃいいんだよ!」
セイとタツミが足元のエイタにオロオロし続けるのを、影剣さんが悪霊の呪いなどと対処法が分からない上に想像しやすい恐怖で更なる焦りを煽る。
口プレイでの精神攻撃が悪魔的すぎる。
「卑怯だぞ忍者野郎、早くエイタの呪いを解きやがれ!」
「なぜ敵であるお主らに手心を加える必要があるでござる? ワープゲート封じの結界共々、解いてほしくば拙者を倒すのでござるな」
「ファックファックファックっ、ふざけやがって!」
「2人とも簡単に挑発に乗せられるな! あいつらはエイタを一瞬でこんなにしやがった相手だ、今は動けないエイタよりも目の前の敵に集中しろ!」
「でもよぉショウジ、エイタはまだ死んでなんかねぇんだぜ!」
「そうだぜショウジ、いくら何でも冷た過ぎんだろ!」
「Lv700なんて関係なくあいつらは俺たちを殺れるんだ、それがどういうことか分からないのか? それにエイタを見捨てるとは言っていない。エイタを助けるにしてもここから脱出するにしても、結局はあいつを倒す以外に俺たちに道は無い。少しは冷静になれ」
ショウジが冷静にセイとタツミを諭すと、2人だけでなく後ろに控えていた奴らも頷き顔が引き締しまる。
俺たちの実力を早々に修正して周囲をまとめる辺り、ショウジって呼ばれるやつは猿藤よりもよっぽどリーダーしてやがる。
こういうヤツは一番に倒しておきたいが、奴の保有するチートスキルが絶対防御なのがネックだった。
「まだ対峙したばかりで早々に1人脱落でござるか。くふふ、乱戦で脅威となりうるエイタ殿がここでリタイアに持って行けたのは幸先が良いでござるな」
「ファック、くだらねぇ挑発だな!」
「お前を殺してエイタを助けここからおさらばだ、最初からフルパワーで行くぜ!」
セイとタツミが覚悟を決め今度こそバリアの外へ踏み出すと、体中に力を漲らせた。
「はああああああ、〈ギガンティック〉!」
「おおおおおおお、〈ザ・ビースト〉!」
2人がスキルを発動と同時に体の各所がモリモリと肥大化してゆく。
セイの手足が数倍に膨れ、身に着けていた衣類も10メートルを超える巨人に適したサイズへ変化した。
タツミは角と尻尾が生え全身を黒いゴムのような質感の分厚い皮膚の魔物の姿へと変貌すると、体高も4メートルを超えてなお伸び続ける。
恐らくステータスなども変身前よりも高くなっているだろう――だが、変身するなら安全なバリアの中でするべきだった。
例え変身することで仲間をバリアの外に押し出すことになっても、だ。
「シャイニングセイバー!」
「ニーズホッグ!」
レスティーの指から伸びた光線を振りぬき超高速の斬撃となって目が6つに増えたタツミの首を跳ね、俺はエイタの心臓に続き巨大化したセイの脳を魔力で握り潰した。
2つの巨体が前のめりに倒れ、大きな音を荒野に響かせる。
「タッツー、セイ!?」
「があ、あ……」
スパッと飛んだタツミの頭が、地面に転がりながら元のサイズに収縮する。
その顔には驚愕の表情が浮かべ、魚の様に口をパクパクと開閉させ仲間に助けを求める視線を向けた。
心臓を潰されたり首を跳ねられても即死しないとか、まったくもってふざけた世界である。
逆に言えば回復魔法が間に合えば助かるのか。
あの魔族の子供たちが助かったのもここが要因かも。
奴隷だった2人の魔族の少年たちにしたように、頭と胴体の切断面を合わせて回復魔法を施せばまだ助かると冷静に思いながら、俺は傍観を決め込んだ。
そのままエイタを含めた3人の命が消えるのを見届けた。
「う、あぁ……」
「あんたたち、私たちへの警戒がお粗末すぎるんじゃなぁい? 他所の世界から来たクセにずいぶんな言いようだったけど、……あたしたちをあんまり舐めてんじゃないわよ?」
情け容赦の無いアゴ割れスキンヘッドオカマからのドスの利いた低い声が、仲間の死に怖気づいた勇者たちにぶつけられる。
彼の恋人であるディオンがなぜか誇らし気なのが非常に解せない。
「な、なんでだよ、2人もLv700を超えているんだぞ!? こんなのおかしいだろぉがよぉ!」
「戦闘の心得として〝大技を使う際は相手に隙を見せるな〟と、これもお主らには教えたでござろう。新顔のお仲間には忠告しなかったのでござるか?」
「奴ら俺たちよりレベルが低いんじゃなかったのか!?」
「――あぁ、そ、うか、そういうこと、か……」
「おっ、どうやらショウジ殿は気付いてしまったでござるな。だが仲間を失ってからでは遅すぎると言わざるを得ぬでござる♪」
取り戻せない失態に歯を噛みしめるショウジに、影剣さんが明るい声で告げる。
先ほどから馬鹿にされていたことへの意趣返しのようだ。
「どういうことだショウジ、なにに気付いたってんだ?」
「ショウジ!」
「ショウジさん!」
「……皆、落ち着いて聞いてくれ。お、俺たちがLv700を超えたのは、今回の戦争で敵が死んだ経験値、だ。だが戦争で死んだのは敵ばかりじゃない、消され砦にはタカたち以外にも待機していた兵が大勢いた……」
「お、おい、それってまさか……」
「そのまさかでござる。大量の兵を集まっていた3つの砦は拙者らの糧になってくれたでござる。くふふ、お主ら知っているでござるか? ベースレベルはLv999でもカンストしないことを」
影剣さんのネタばらしに、つい先ほどまで高レベルであることを誇示していた勇者たち全員の顔が青ざめる。
「それと国に忠誠心のなさそうなお主ら故、脱出してくるであろうとこうして網を張っていたでござるが、先に引っかかったハッシュリングとモンテハナムの者らからお主らの能力やレベルに関する情報提供を頂いていたでござる。それを踏まえ〝例えチートスキルの保有数で劣っていようとも、現地スタッフと共に地力でごり押せば普通に勝てる〟と判断したでござる」
「あいつら、逃げるだけでなく俺様を売りやがったのか!」
バラドリンドから逃げた自分たちを棚上げにした猿藤が恨み言をほざく。
背中に特大ブーメランぶっ刺さってるぞ。
「人間誰しも自分が一番かわいいもんさ」
「お陰で周囲には君らを逃さないための伏兵も布陣してある。我らの包囲を突破したところで後ろに控える者との連戦だ、既に1/3を失った状態で包囲網が突破できると良いな」
「ぐっ……」
ユーベルトが吐き捨て、ディオンも影剣さんの様なハッタリで精神的に追い込みをかけると、状況の悪さを悟ったショウジが唇を噛んで俯いた。
まだ対峙して数分も経っていないのに3名が戦死し、ワープゲートも封じられ残り6人で俺たち以外にも包囲網が敷かれてると聞かされれば頭を抱えたくもなる。
本当にそんな布陣が敷かれているなら普通は教えたりしないけどな。
まぁつい先日まで平和な国で学生やってた人間が、初めて命の危機に直面したらこんなものか。
「それにしても猿藤殿はなかなかの戦略家でござるな。まさか拙者がお主らをこの世界に呼び出した手法をモンテハナムとハッシュリングのダンジョンコアを用いて仲間を追加し、さらには勇者20人に因るワープゲートでの多角的進攻とは盲点でござった。これにはお見事と言うより他にないでござる」
影剣さんの素直な称賛の言葉を贈るも、追い詰められた状況では嫌味と受け取ったのか猿藤の顔に渋みが増しただけだった。
「それでも状況的に完全に詰みでござる。大人しく負けを認めるなら悪いようにはせぬが、どうでござる?」
「いいやまだだ、俺様はなぁ、負けるってのが大っ嫌いなんだ。俺様たちはまだ負けちゃいねぇ。そうだろショウジ?」
「……あぁそうだ、俺の〈絶対領域〉がある限り、俺たちに負けは無い。それに――」
「ショウジの絶対領域を貴様らは突破出来ないが、俺様にはお前らを倒せるチートスキルがあるんだ、だからまだ負けてねぇんだよぉ!〈ゴッドプレッシャー〉!」
猿藤が剣にオーラを宿し特大の斬撃として放つ。
自身の攻撃全てにどんな防御スキルにも阻まれることなく直進する貫通とはまた違った防御不能攻撃。
それを唯一阻めるモノは隣に立つショウジの無敵バリアのみと言うのが始末に負えない。
だが回避は可能だ。
斬撃は影剣さんを狙って直進するも、その車線上に居た全員が横に飛び退き難なく逃れた。
「猿藤殿故、窮鼠ならぬ窮猿と言ったところでござるか? しかし、そのような雑な攻撃で噛まれるほど拙者たちは甘くないでござるぞ?」
「この神の一撃を見ても、まだ余裕ぶっていられるかなぁシャドウセイバぁ?〈心眼・ゴッドプレッシャー〉!」
技名の先に付く〈心眼〉の単語が出た瞬間、最大級の悪寒が走る。
心眼は弓系職業〈スナイパー〉に存在するスキルで、同時に使用したスキルに自動追尾効果を付与するものだ。
俺の横に居るユニスが使い、矢が面白いほど目標に吸い込まれるのを何度も目にしている。
防御不可攻撃に自動追尾なんて親和高すぎるクソコンボをここで見せて来るな!?
しかも高速で迫る必中防御不可の無慈悲な斬撃が狙う対象は、影剣さんではなく一番人が密集しているクサンテでもなく――俺だった。
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