四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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231話 荒野の待ち伏せ

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~バラドリンド教国大教会・大部屋~

 外では民衆が教皇と勇者たちを出せと大教会に押し寄せ、教団上層部も〝上空に現れた白竜は本物の神の使い〟と〝あれはウィッシュタニアの魔法で神の名をかたる偽物〟とする意見とに分かれて対立中。
 混乱する上層部に僧兵たちも民衆を押しとどめる者、組織から逃げ出す者、上空の竜に祈りをささげる者と、バラドリンド教国は収拾がつかない状況におちいった。
 ウィッシュタニアとアイヴィナーゼによる謎の攻撃で3つの砦を失い、その余波によりバラドリンドの6勇者であった製造したアイテムのグレードをワンランクUPさせるユニークスキルを持つタカキと触れた異能力すべてを打ち消すユニークスキルを持つマサノブが倒れ、エンドウが呼び寄せた同じ大学の仲間も半数を失った。
 その上ハッシュリングとモンテハナムの勇者であるオオグリとカキハタが去り、20人居た勇者も今では半数の10人にまで減少した。

「同盟ぽしゃるわジジィどもは言い争いしかしねぇしよぉ、この国お終わってるなー」
「これからどうするんスか猿藤さん?」

 エンドウが大教会内にある勇者用の大部屋で皆を前にしてぼやくと、大学の後輩であるエイタが今後の予定を問う。

「こうなりゃ大栗たちみたくさっさとこんな国脱出してやろうぜ。まっ、戦争してくれたおかげで俺たちのレベルもまた上がったし、東にある小国家群だっけ? そこに逃げ込んで盗賊でもやりゃぁなんとかなるって」
「なんで盗賊なんスか?」
「そりゃ盗賊王になって金も女も好き放題するからに決まってるだろ!」
「盗賊王に俺はなるって〈バンディット×バンディット〉か懐かしいー、昔見てたわー」
「そうだ、だったら漫画に出てた何とか旅団りょだんみたいなカッコイイ名前付けねぇ?!」
「名前か……」

 エンドウの悪ふざけのような提案に、同じフットサルサークルに籍を置く同級生の七上なながみと佐々木が乗ってくる。

「アレ何旅団つったかーな?」
鮮血せんけつ旅団ですか?」
「そうソレ、鮮血せんけつ旅団! なに、高梨たかなしはそういうの詳しい系?」
「たまたま覚えてただけですよ佐々木先輩、ははは……」
「うっし決まり、今日から俺たちは鮮血旅団だ! じゃ早速鮮血旅団最初の仕事ってことで栄太エイタ、お前は隠密スキルインビジブルで金目の物を物色してこい。他の奴も自分の部屋から適当にかっぱらっておけ」
「「「ウィーッス」」」
「そうだ猿藤、女はどうする?」
「女ってあの宗教女どもか? そりゃ置いて行くに決まってるだろ。さっきあの白竜バケモノが言っていたろ? 俺たちは悪魔だって。そんな悪魔に宗教女どもが付いてくると思うか?」

 ユニークスキル〈絶対防壁〉を持つショウジが思い出したように確認をすると、エンドウは女を連れて行くことを否定した。
 そんな中、自分が抱いた女に情を持つ男が居た。
 6勇者の中で唯一皆に隠れ魔法を習得しているタカナシだ。
 
「でもあれは敵の魔法ですよ、それを実証してちゃんと話せばきっとわかってもらえるはずです!」
「魔法を実証って具体的にどう実証するんだ?」
「そ、それは……でも教皇さんも魔法だって言ってましたし俺たちが誠心誠意で言えば信じてもらえ――」

 言葉を続けようとしたタカナシにエンドウが手で制する。

「あのなぁ高梨、さっきも言ったが俺たちはあいつらにとって悪魔なんだ。宗教狂いが悪魔の言うことを聞く訳ないし、こっちもそんな面倒なことやってる余裕は無ぇんだよ。それに女なんてバラドリンド教国ここを出た後でいくらでも手に入るんだ、わざわざ面倒な宗教女を連れて行く必要がどこにある」
「だよなー」
「つーかさぁ、辛気しんき臭ぇし酒を飲むだけで小言ばっか言う陰キャ女とか、俺マジで無理なんだわ。これから好き勝手に楽しくやろうってのに、そんな鬱陶うっとうしいヤツ連れて行けるかよ。なぁ?」
「美人だからって、最初から・・・・マグロとか無いっしょ? やっぱ飲み会で輪姦まわした女みたいにさぁ、最初は嫌がって抵抗してくんないと燃えねぇんだよなー」
「わかるわかる! 俺の女も声全然出さねぇのとかマジつまんねぇべ」
「それお前が下手なだけじゃね?」
「短小のお前にだけは言われたかねぇよ!」

 男たちが下卑げびた笑顔でゲスな話に興じる。
 勇者たち全員には教団より美しい女が宛てがわれ何度となく夜を共にしてはいるものの、大半の者が彼女たちの信仰しんこう心からくる真面目さ、質素さ、純朴じゅんぼくさを〝辛気臭い〟〝面倒くさい〟〝つまらない〟と感じていた。

「でも猿藤さん」
「でもじゃねぇんだわ、つーかなに? お前、俺の言うことが聞けねっての?」
「……いえ……その……」
「あーはいはいわかったわかった。そんなに今の女が良いってんならお前は無理に付いて来なくていいから。むしろお前も邪魔だわ」
「……っ」

 エンドウの投げ捨てるような言葉にタカナシが押し黙って立ちつくす。

 ……やっぱり俺と猿藤たちこいつらは違う。
 女の子を性欲のけ口としか見ていないこんなやつら、こっちこそ願い下げだ!

 タナカシが一度だけエンドウをにらむと、荒々しく部屋を飛び出した。
 元々は同じ大学のフットサルサークルの集まりでであったが、その実態はスポーツなど二の次で合コンや飲み会が主な活動のお気楽で自堕落な集団。
 仲間意識も希薄で死んだばかりの学友をいたむ心を持ち合わせない誠実さとは無縁の陽キャグループと、大学デビューを目指したオタクの陰キャと自認するタカナシではソリが合わないのも自然なことだ。

「高梨行っちゃいましたけど良かったんスか?」
「ほっとけあんな根暗野郎、童貞だったから初めての女にご執心しゅうしんなんだろ。前から鬱陶しいと思っていたんだ、居なくなって清々するぜ。……ちっ、どうでもいいことに余計な時間を使っちまったじゃねぇか、お前ら、早く支度しろよ」
「「「ウイ~ッス」」」

 イラ立ちを隠さず皆を急かすエンドウに、青年たちはその矛先から逃れるように軽薄な返事で部屋を物色し始めた。



「だいぶ涼しくなってきたな」

 バラドリンド教国の聖都から10キロほど離れたとある荒野こうや
 夜空の月が青白くかがやき、砂利と岩しかない地表を柔らかく照らす。
 そんな夏から秋への移り変わりを感じさせてくれる荒野の岩陰で、俺は冒険者仲間であるレスティーたちと訪れるであろうその時を待っていた。
〝訪れるであろうその時〟それは敗戦濃厚なバラドリンドから離反りはんするであろう勇者たちが、ワープゲートを用いて出奔しゅっぽんするタイミングだ。

「……飽きた」
「ねー、まだ来ないのー?」
「全然来ないじゃない、マジ暇なんですけどー?」

 地面に座ったままやや強張った声の俺を、メリティエとトトが2人して左右から腕を掴んで揺らし、高い岩の上に座ったルージュがプラプラと足を交互に振りながらグチをもらす。
 全員フル武装なため鬱陶うっとうしいくらいの金属音がガチャガチャと鳴る。
 一方通行の消音魔法で周囲への音漏れを防いではいるが、そばで大きな音を出されると気が散って仕方がない。

 ルージュおまえは上から砂が降ってきそうだから今すぐやめろ。

「ミネルバたちが動いてまだ30分も経ってないだろ? 長くてもあと1時間半くらいだからもうちょっと我慢してくれ」

 バラドリンド上空からの報告を聞く限り、ミネルバが生み出した巨大外骨格魔法リンドヴルムとクラウディア王女による堂々たる演技が刺さったらしく、バラドリンド教国の聖都は大混乱。
 暴徒が大教会に詰め寄ったり略奪行為が横行する中、大半の住民は家財を持って聖都から脱出しているそうだ。

 どさくさに紛れて略奪する奴ってどこの世界にでも居るもんだなぁ。
 日頃から神様がどうたら死後なんたらとか言ってる国の住人なくせに、それを神に見られてるって思考はないのだろうか?
 まぁ俺も脳内の猫神様はともかく、本当に神が実在するなんてつい先日まで思ってなかったけど。

 リシアにりつく大地母神レイティシアの存在を確認するまでは。
 そのリシアやミネルバ、フィローラとセシルがバラドリンド上空で作戦行動中、イルミナさんもよしのんやトモノリと一緒にワープゲートの維持に忙殺され、モーディーンさんたちベテラン冒険者パーティまでもが王都襲撃に備えでそれぞれ不在だ。

「1時間半……うへぇー、あーし我慢とかマジ無理なんですけど~」
「トシオは私に死ねと言っているのか?」

 俺の願いが通じたのかルージュが岩から飛び降りるも背後から覆いかぶさるように抱き着き、メリティエがこちらの顔を真顔で下からのぞき込む。

 死ぬそれほど?
 てかルージュおまえは馴れ馴れしすぎだろ。

 犬耳青年のユーベルトから向けられる嫉妬しっとの視線が視界に入り居心地が悪い。

 お前の好みって巨乳じゃなかったって?

「つまんないつまんないつまんない~!」
「だったら家に帰ってオルトロスペスルと遊んでなさい。ただ座ってるように見えてるかもだけど、俺も長距離魔法の行使中で全然暇じゃないんだよ」
「や~だ~」
「はぁ……」
「ベーっだ」

 相手をするのが面倒なので忙しいことをアピールして突き放すも、トトが駄々をこねメリティエが盛大な溜息を吐きルージュが俺の頭上で舌を出してそっぽを向く。
 現在バラドリンド教国の聖都は勇者たちのワープゲートに因る逃亡を阻止するため、リンドヴルム内に居るリシアたちによって防御魔法でおおわれている。
 その防御魔法に交ぜ込む形で張り巡らせた索敵さくてき魔法を使っているためm俺が忙しいのは嘘ではない。
 防御魔法に沿って張られた索敵魔法は毛細管現象みたく伸びてくれているので、何もないところに同じ規模の魔法を使うよりは集中が楽なのも確かだが。
 
 にしても、聖都全域を防御魔法で囲ってるってのに未だにアイヴィナーゼとウィッシュタニア各地を襲撃され続けてるのどうなってんだか。
 聖都や先に滅ぼした3つのとりで以外にも兵の運用をしている拠点くらいあるんだろうけど、ワープゲートとかどうしてるんだ?
 俺みたいに魔法化して複数開いてるとか?
〝魔法絶対許さないマンにそれはない〟ってのを先入観と考えると、やっぱり魔法使ってる奴が居るんじゃないか?
 周囲には影剣さんみたく忍術とか、あるいは神の奇跡とか言いくるめ――。

「逃亡する勇者など居なかった」
「トシオ~もうそいつら来ないよ~帰ろ~よ~」
「じゃぁさじゃぁさ、、あーしもアンタん行って?」

 言い訳ないだろ。
 さっさと護衛の任務に戻れサボリ魔。
 
 まとわりつく3人に無視を決め込むのに限界を迎えた俺が3人をどう引きはがそうかと考えている、重装甲の白い神獣が大楯でわざと音を鳴らして地面に置き立ち上がった。
   
「3人とも、お菓子あるけどこっちに来て食べない?」
「えっ、お菓子?! 食べる食べるー♪」
「あてもー!」
「もらおう」
 
 ククが取り出した焼き菓子の入った布袋を腰を掛けるのに丁度いいサイズの石に広げると、3人は俺を雑に投げ捨てお菓子に群がる。

 俺<<<超えられない壁<<<お菓子

 扱いのぞんざいさに脳内で嫌な構図を浮かべる俺の隣りにククが陣取ると、トトたちを釣るために広げた包みと同じものを差し出した。

「ご主人様もいかがです?」
「頂くよ」

 包みからお菓子を1つ摘まんで口に運ぶと、サクサクの食感にほんのりとした甘みとバターの風味が口いっぱいに広がった。
 素朴だが優しい味に、張っていた緊張が少し和らぐのを感じる。 

「美味しい……。ククはすごいなぁ、短期間で料理が出来るようになって、今じゃこんなに美味しいお菓子まで作れるんだから」
「それはローザやリシアの教え方が良いからですよ。それに、料理を知ったらもうトトと森で暮らしていたあの頃には戻れません……」

 顔に影を落として語るククの過去、その食生活に少し興味が湧く。

「森で暮らしてた頃ってどんなの食べてたの?」
「トトが肉や魚を獲ってくれましたが、手ぶらで帰ってくることがほとんどでして、そういう時などは集めていた虫や木の実で食いつないでおりました。今思い返すと肉や魚を生で食べるなんてどうかしてますね。ですが、あの頃は焼いたり炒めるなんて思いつきもしませんでしたから」
「へ、へぇ~……」

 肉や魚を生でかぁ……生は流石にキツイなぁ。
 虫も揚げればまだワンチャンいける……のか?
 いやいや、見た目アレな物体は流石に無いだろ。
 そもそも甲殻類アレルギーに昆虫食ってどうなんだ? 
 エビと虫の殻って成分似てるとかどこかで聞いたことあるし。

 その後もククから「母が居なくなってからは常に空腹だった」「トトが獲物を追ってる最中に崖から落ちた」や、人馬ケンタウロス嫁のユニスから「弟妹が弓の練習と称して魔物相手に逃げ打ちしていた」話などを聞いていると、肌寒はださむさを感じさせる夜風が吹けた。
 その寒さもまた心地良く感じていると、聖都をおおう俺の探知魔法に感あり。
 検知した空間のゆがみに魔法化したワープゲートの空間湾曲をねじ込むと、荒れ地に小さな空間の歪みを生じさる。
 歪みは徐々に大きくなり、人が通るのに十分な大きさの穴が開く。

「でさぁ猿藤、やっぱ女すぐ欲しいっしょや? 良いの見つかったらさらっちまっても良いよな?」
「これから愉快に生きて行くって決めたんだ、女くらい好きにしろ」

 開かれた空間のひずみから談笑がれ、表情をゆるませた無警戒な男たちが姿をあらす。
 ゆるんだ笑みとは裏腹な胸クソの悪い会話に、俺の体が緊張で強張る。

 こいつらが目を付けた女とやらがリシアたちでない可能性はどこにもない。

 だから俺はまた人を殺す。
 大事なモノを失わないために。
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