四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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229話 停戦はならず

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 った殺った、殺って殺った……。

 最初の殲滅魔法ラグナロク射出から大型の軍事拠点をさらに2つ吹き飛ばしたところで、俺はアイヴィナーゼの大本営で作戦室と化した玉座の間に呼び戻され、深いため息とともに椅子に腰を下ろした。
 やったことに妙な高揚感と興奮する自分に対する嫌悪感、その他もろもろの感情がない交ぜとなったふわふわした気持ちの中で、明確な罪悪感だけがずっしりと残る。
 そんなぐちゃぐちゃな感情が気持ち悪く、嘔吐しそうになるのを必死で堪えた。

 けど、これでバラドリンド教国内に残る軍隊を運用する上で必要な拠点は首都を含めた大都市のみか。
 逆に言うと、次に攻撃するのは人口密集地なんだよな……。

 軍事拠点を壊滅させただけでこの削られっぷりでは、大都市に壊滅させようものなら本気で精神が病むこと請け合いだ。

 ここまで酷いと精神操作系スキルは使いたくないとか言っている場合じゃないな……。
〈クリアマインド〉

 不安を取り除き感情を落ち着かせる精神操作系スキルを発動させ、強制的に心の安定を取り戻す。

 この短時間で大きな軍事拠点を3つも潰れ、奴らもこちらの停戦勧告を飲まざるを得ないだろう。
 あとは話し合いでの終戦、最低でも休戦になれば……にしても、普通なら浮かれるくらいの大戦果を出したのに、なんで皆暗いんだ?

 一部を除き、卓を囲む人たちは渋い顔で悩んだり落ち込んだり、その周囲も戦地との交信で忙しそうだ。

「ご苦労だったなトシオ。だが戻って来て早々で済まぬが、悪い知らせだ」

 アイヴィナーゼ国王グレアム陛下がいつもの強面こわもてポーカーフェイスでねぎらいの言葉をかけてくると、その視線をウィッシュタニア魔法王国の若き宰相さいしょうクロードへと移す。

「戦地からの報告によりますと、バラドリンド連合からの侵略を受けた都市の穀倉地で放火による大規模な火災が発生。仮にここで停戦となった場合はバラドリンド連合側からの賠償金は支払われず、多くの者が冬を越せなくなるでしょう」
「現在被害の規模と被災地の人口などを元に算出した結果、年を越すまでには餓死者だけでも少なく見積もって10万人は下らないと予想されます」

 クロードに続いて学者風の若い女性が手にした紙を見ながらそう述べた。

「……マジで?」
「予想はあくまで現時点での話であり、戦闘が継続中の場所では鎮火ちんかもままならず、被害は今も増え続けております」
「それってもっといっぱい人が死ぬってことじゃん!?」

 クロードの警告にルージュが憤慨ふんがいする。
〝お前はいつからそんな人道主義に目覚めたんだ?〟などと言いそうになったが、冗談にしても最低過ぎるので口をつぐんだ。

 クリアマインドやべぇな、こんなしょうもない思考まで冷静に自己分析できるんだ。
 この思考のすっきり感、覚醒するヤバイ薬もこんな感じなのかと思うと今後の使用は避けたほうがいいよなぁ。
 後遺症とかホントかんべんだわ。

 などと俺が下らないことを考えている間、ブチギレ状態のルージュをなだめ終えたクロードが話を続ける。

「ただでさえ戦争需要で物価が高騰こうとうしている所に今回のことでさらに作物の値が上がり、貧困層の治安の悪化、果ては暴動も考えられます」
「普通ならば占領した国の作物などを自分たちの物にするのも目的のはずでござる。それを放火するとなると、おそらくこうなるのを見越しての作戦行動でござろう」

 クロードの今後起こりえる予想に、影剣さんが苦み交じりの言葉を吐いた。

「ここで休戦となろうと、食糧難となった冬にまた攻めて来られては、ひとたまりもないぞ」
「自分たちの懐よりも我らの根絶を最優先か、どこまでイカレた奴らなのだ!」

 鎧姿に兜だけを外した貴族の男たちがいきどおりを吐き出す。
 ウィッシュタニアは前政権の数年にも及ぶ重税により国全体が疲弊ひへいしている。
 アイヴィナーゼは財政的にはまだマシだが今回の戦争に際して国中から食料や物資を集め、そのなけなしの物資も王子バカ2人の逃亡事件のどさくさで爆発四散。
 八方ふさがりここに極まれりである。

「トシオがいない間に降伏勧告を行ったが、そのイカレた者たちの総大将が丁寧な罵りと共に断りおった。ことここに至っては、我々に徹底抗戦以外の道はない。皆、覚悟を決めよ」
「当然じゃ。このまま黙して滅ぶくらいなら、行きつくところまで行ってやろうではないか」 
「いよいよ敵の本拠地に殴り込みですかな?」

 グレアム陛下の怒気を孕んだ宣言に、アイヴィナーゼとウィッシュタニアを代表する2人の老将が獰猛な笑みを浮かべた。
 血の気の多い爺さんたちである。
 だが国を失えばその後は魔法絶対許さないマン共による魔法利用者への粛清しゅくせいだ。
 民間人は殺したくないとか言っている場合ではない、後がないなら前に進むしかない。

 今度こそ民間人を殺すの、か……。

 戦争を仕掛けた側か仕掛けられた側か、守る命がどちらかなど考えるまでもないことだが、それでも憂鬱さで心が重たくなる。

 クリアマインドをもってしても晴れない感情にヤキモキしていると、まさかの人物から連絡が来た。

『聞こえるかあトシオよお?』
『ミストリックさん!?』

 それは世界の半分を支配する72魔王家、そこに名を連ねる魔王に仕える大魔族からだった。
 戦争中というあまりにも間の悪いタイミングに、嫌な予感しかしやがらない。

『な、なんの用でしょうか?』
『お前に至急伝えねばならんことがあ、あるのだあ』
『なにを、です、か?』
『今し方あ、魔王評議会にぃてえ、お前が先刻用いた攻撃魔法の使用を禁止する取り決めがあ、可決されたあ』

 ミストリックさんの言葉に、〝〈殲滅魔法ラグナロク〉終了のお知らせ〟〝使えくなったらこの先どうする?〟〝俺の居ないところで勝手に決めるな〟〝てか魔王評議会ってなんだよ?〟“魔王'sに目を付けられてるとかマジオワタ〟等々、いろいろとツッコミたいことが頭の中を駆け回る。
 そんな中でも〝これでラグナロクなんて魔法を人口密集地に打たなくても良いんだ〟と安堵あんどしたことに、複雑な心境を抱える。

『……えっと、先刻の攻撃魔法と言うと、昼間に砦を吹き飛ばした特大爆弾の奴ですよね?』
『そうだあ。映像を見させてもらったがあ、アレは個人が用いるにはあまりにも大きすぎる破壊の力だあ。今後一切使用してはならんんんんん』

 念のためにと確認してみたが、やはり禁止対象は運動エネルギー爆弾であることはうたがいようのないものだった。

『あぁ、やっぱりアレはダメでしたか』
『なあぁにせえぇ、地軸ちじくがズレてしまいぃ、その修正に魔王様たちが大騒ぎしていてなぁ。あれほど慌てる魔王様方を見たのおはあっ、我も生まれて初めてであぁるうぅぅぅ。ふあーっはっはっはあー!』

 頭の中に響く大魔族の馬鹿笑いに、なにわろとんねんと脳内だけで冷静にツッコむ。

 てか地軸ってそんなに簡単にズレるもんなのか……。

『余談ではあるがあ、その後にはお前を自分たちの軍門に入れたいとトシオ争奪戦のような話になっていたぞお。特に勇猛で知られるモロク様の食いつきがすごくてなぁ』
『は、はぁ』

 しみじみと聞こえてくる声に、魔王って案外暇なのではとぼんやりと思うも、こちらは暇ではないので早急に話を切り上げたい。

『なんにしろ要件は承りました。魔王様方には今後は使用しませんとお伝えください』
『ううむう、賢明な判断だあ。早速報告しておこうう』
『すみませんがよろしくお願いします』

 ミストリックさんとの通信を終えると、ラグナロクが封じられたむねをその場に居た全員に告げた。

「くそっ、反撃の希望をこのような形で封じられようとは!」
「おのれ魔族め、なぜこのタイミングで邪魔をしてくる!」
「魔族は我々に恨みでもあるのか!」

 貴族の男たちが口々に怒りを吐き出すのを、最低でも2人は恨みを抱いてるだろうなぁと以前ミストリックさんに託した少年たちの顔が思い浮かべながら眺めた。

「ねぇ、他にまとめて敵を倒せる魔法とかってないわけ?」
「無い。それにあったとしても怖くて使えない」

 ルージュの問いかけに否定を述べる。

「はぁ? なんでさ?」お前さっきの話聞いてなかったのか?
「せっかく魔王警告で済ませてくれたのに、舌の根かわかない内にまた大規模破壊魔法なんて使おうものなら、今度は警告無しで即粛清しゅくせいだってありえるだろ」
「人間同士の戦でさえ尻に火が付いてテンヤワンヤの状態でござる。そんなところに魔族とも事を荒立てるなど、自殺志願者かうつけでござるぞ」
「あ、そっか。そんなナメたマネしたら、あーしでもブチギレだわ」

 俺と影剣さんの指摘にルージュがハッとする。

 今さらっと頭おかしい子呼ばわりされたのには気づかないのな……。
 
「しかし、ヨワリメニタタリメとは正にこのことだな」
「どうしたもんですかねぇ?」

 ウィッシュタニア国王エルネストのぼやきに、故郷を捨て俺たちと共に戦うこととなった元バラドリンドの神官騎士ガーランドが腕組み首をかしげながらうなった。

「では、この戦争を早期に終結させる方向で話をしましょうか」

 悩める周囲とは裏腹に、クロードが涼しい顔で話を進める。

「トシオ殿の大火力が封じられ、兵站へいたん枯渇こかつ寸前。このような状況から戦況を覆す策があるのか?」
「もしあるなら聞かせてくれ、私はなんだってやってやるぞ!」

 貴族の男たちがわらにもすがるような面持ちでクロードの言葉に食いついた。

「ではこれより説明させて頂きます。確かに我々は危機的状況に陥ってはおりますが、悪いことばかりではありません。その最たる例がトシオ様の敵拠点の破壊により敵の動きが停滞し、次の作戦までの時間が稼げたことです」

 クロードがそう言うと、老将2人が口を開く。

「次の作戦までの時間と言っても、それはあくまでも兵を効率運用するための砦を破壊しただけで、総戦力そのもので言えば未だ向こうさんの方が上であろう?」
「おそらくだが敵はもう我々の首都への直接攻撃が可能なはず。軍の再編成も大都市でやればすぐに攻めて来おるぞ」
「俺なら今日の深夜にでも攻勢に出るな」
「奇遇だな剣鬼よ、ワシもそれくらいだと睨んでおったとこよ」

 ヴィクトルの不敵な顔に、マクシミリアンさんも楽し気に応える。
 2人の豪気さに会議参加者たちの口角が上がる。
 
「御二方の意見を参考にするならば、タイムリミットは早くて今晩。それまでに三ヵ国同盟の主軸であるバラドリンド教国を、今度こそ、完全に、徹底的に、完膚なきまでに、崩壊させて差し上げましょう」

 クロードが気楽な口調でそう告げると、自身が考案した作戦を俺たちに披露ひろうした。
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