四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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277話 白竜飛び立つ。

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「それでねこ殿、魔法無効化結界におおわれ数万もの僧兵が集うあの砦をどう攻略するでござる?」

 バラドリンド教国の東のはし、僧兵が集う砦が遠くに見える森の中。
 俺とリシアとイルミナさん、そしてなぜか付いて来たルージュを前に、影剣さんが作戦会議の音頭を取る。

「どうもこうも、まずは砦の結界を何とかせねばこやつに出来る事なんぞあるまい」
「この人は魔法一辺倒だから」

 影剣さんが作戦会議を始めるとイルミナさんからごもっともな指摘を頂き、リシアもそれに同意する。

「ちなみにでござるが、結界は高位の神官たちが砦の最深部で発生させているでござる」
「じゃぁさっさとその最深部ってところに乗り込んでそいつら全員ボコせば良いじゃん」

 鼻息を荒くしたルージュが自身の胸元で握りこぶしをバシっと左の手のひらに打ち合わす。

 こいつは話を聞いてなかったのか?

「意気込んでるところ悪いけど、魔法一辺倒な俺にはその乗り込むのが難しいって話をしてんだよ」
「はぁ? 魔法しか使えないとかマジ不便じゃん。なんでオーラ系鍛えてない訳?」
「オーラ系はSTRストレングスが一定値以上無いと使い辛でござるからな~。ねこ殿はINTインテリジェンス極でござろう?」
AGIアジ多めのINTイント極。オーラ系を使うと妙に疲れる理由はSTRストアー足りてないからか」

 STR不足の近接戦闘能力を補うために、魔法での身体機能と防御力の向上を目的に編み出した魔法外骨格エインヘリヤルは理にかなっていたということか。
 あとINTの数値を伸ばしても俺の知性はこの世界に来る前と全然変わらないポンコツっぷりを鑑みると、INTって知性ではなく魔法適正のことなんだろうなぁ。

「……でも影剣さんは両方使えるよね?」
「拙者はINTとSTRはほぼ均等上げているでござる。どちらも尖った強さではござらんが、両方を組み合わせることで特化型に引けを取らぬでござる」

 影剣さんの黒い布で覆われた口角が上がったのが分かった。
 自分の戦闘スタイルにかなり自信があるようだが、実際強いのでその自信にもうなずける。

「今から能力振り直せば良くない?」
「付け焼刃は大ケガの元でござるぞルージュ殿」
「ここまで戦闘スタイルが確立されてると今更変えるのもあれだしね」

 マクマレート流槍術にオーラ系を組み合わせれば強いだろうが、自分で言うのもなんだが師匠チャドさんと比べたらすさまじく見劣りする。
 一度は勝利したバレンティンとやり合っても勝てる気がしない。

「それに、そもそもあんなところに乗る込むつもりがないから必要ない」
「……はぁ? まさかあんな酷いことした奴らをただで済ます気じゃないでしょうね?」

 ルージュがドスの利いた声音と共にしたから睨み上げてくる。
 普段の軽いギャル口調など見る影もない。

「だからって、爆裂魔法どころか魔法そのものが封じられた場所にのこのこ出て行って数万の兵士を相手に大立ち回りなんてやってられるか」
「それをやったのってどこの誰さ?」
「お前《ルージュ》らとやり合った時とは状況は違う」
「少なくとも魔法を封じられてはおらなんだのぅ」
「そ、そんくらい分かってるし!」

 俺とイルミナさんの反論に、ルージュが先ほどの怒気など無かったかのように愛らしくほほをふくらませる。
 一見すると小柄な美少女だが、数日前までガン黒に目の周りが白なんて何世代前のギャルだと言いたくなる珍妙な見た目をしていただけに、素直に可愛いと思えない。

「それはさておき、ただで済ませる気なんてサラサラないから安心しろ」
「安心できないから言ってんですけど? ……あ、でもさ、敵をあそこに閉じ込めることは出来るんしでょ? それってどうやるのさ?」
「ワープゲートには敵の防御魔法などによって隔絶かくぜつされた場所には使えぬという欠点があるでござる」

 ルージュに影剣さんがワープゲートの欠点を教えた。
 これは俺も知らなかったことなのだが、ダンジョン内でアイヴィナーゼの勇者様御一行とやり合った際にその現象に遭遇そうぐうしている。
 たがいにスキルや魔法で防壁を張り攻撃の応酬をしていたところにワープゲートで相手の背後を付こうとしたのだが、どういう訳だかワープゲートが開かなかったのだ。
 似たような状況でも、アイヴィナーゼの玉座の間でやり合った際に相手の頭上にワープゲートが開けたのは、開いた場所が相手の防壁の外だったことと、玉座に設置されていたのが魔法拒絶効果だったため、スキルであるワープゲートに干渉しなかったのが理由だと推測すいそくしている。

「でも街って壁にも防御魔法を使ってるんでしょ? なのにあいつら街の中から出てきたじゃん。なんであいつらは使えてんのさ?」
「ワープゲートの特性を知っていれば、小学生でも防壁に穴を開け街中にゲートを開くくらいの知恵は回るでござる」
「100レベルもあれば都市の防壁に穴を開けるなど容易たやすかろう」
「あはは、そりゃそうっしょ」

 ややあきれ口調の影剣さんとイルミナさんに、友達と談笑する感じでルージュが返す。

 暗に小学生よりも知恵が回らない奴と言われてんでするけど気付いてますか、ルージュさん?

 さすがに可哀そうなのでそこは指摘せずに話を変える。

「それでだ、これからあの砦を叩き潰す。影剣さん、適当でいいからこれを砦を囲う様に置いてきてくれる?」
「〈魔核〉? いや、ねこ殿が言っていた魔力を蓄えられる〈マナバッテリー〉でござるか。これで何をする気でござる?」
「それを起点に超長距離から防御魔法を砦全体をかこって相手のワープゲートを封じてやる」
「え、それだと相手にすぐばれて防御魔法破られるんじゃね?」
「一度でもワープゲートが封鎖されたらまた張り直さなきゃいけなくなるし、封鎖されたことにすぐ気付いても、原因の特定から復旧までには時間がかかるだろ? そのわずかな時間さえあれば、後は俺が何とかする」
「俺がって、まさか1人で事を成すつもりですか!?」

 隣で大人しかったリシアの唐突な大声に驚き、身体がビクっと震える。
 
「うん、まぁ一応? でも今回は無茶なことはするつもりはないから」
「本当ですか?」
「うん、一応ミネルバも連れて行くつもりだから、1人で行動するなんてことはしないし」
「……それで私に納得すると?」
「うっ」

 最愛の妻からの冷ややかな眼差しに思わず怯んでしまう。
 しかし、これから起こる事態とその結果生まれる光景は誰にも見せたくない。
 たとえそれがリシアでも。
 いや、むしろリシアだからこそ見せたくないのだ。

「で、でも、そもそも戦闘自体が起こらないからホントに危険なんて無いんだよ」
「だったら私が付いていくことに問題はないのでは?
「ごめん、リシアには万が一に備えて家を守ってもらいたいんだ」
「それならイルミナさんやユニスに任せれば」
「あの聞き分けのないメリーやトトの面倒を見るなど、ウィッシュタニアの一件でコリゴリじゃ。それに押しの弱いユニスがあの2人を抑えられると本気で思うておるのかえ?」
「うっ」

 イルミナさんの言葉に今度はリシアが呻きを漏らす。
 2人して眉間にシワを寄せている所に、トトたちの利かん坊さかげんが伺えた。

「結局トシオ以外で我が家をまとめられる者などリシアをいて他に居らんのじゃ、ここはおとなしく引いてやるのが賢明であろう」

 イルミナさんはそう言ってくれるが、あの2人に言うことを利かせるコツなんてせいぜい彼女たちの認識や闘争心の向かう先を示す以外の方法なんて知りはしない。

「……わかりました。ですが、本当に危ないことだけはなさらないでくださいね?」

 イルミナさんの説得にしぶしぶながらも応じたリシアが、小さな子にでも言い聞かすように注意すると、正面から俺の懐に入り抱きついた。
 何物にも代えられない愛おしい温もりが体の前面から心の中にまでじんわりと広がる。

「あなたは無茶ばかりするから……」
「うん、いつも心配かけてごめんね。万に1つもないだろうけど、もし何かあったらすぐに助けを求めるから」
「絶対ですよ?」
「絶対ね」

 別れを惜しんで抱きしめ合うと、短いキスを交わした。
 ルージュが耳まで赤くして「わー、わー」と意味不明な声を上げているが、ツッコむと余計に意識し恥ずかしくなるので無視しておく。

「イルミナさんも、みんなのことをお願いします」
「こっちは任せておぬしはしっかり気張って来やれ」

 イルミナさんがはっぱをかけながらワープゲートでリシアと帰宅した。
 名残惜し気なリシアの視線に、こちらも後ろ髪が引かれる想いだ。

「あとルージュ、お前もアイヴィナーゼの大本営に戻って万が一に備えてくれ」
「えー、あーしもあんたと一緒に行きたいんですけど?」
「連れて行くつもりはないんですけど?」
「真似すんなし!」

 ルージュのローキックをサっと後ろに下がってかわす。

 リシアがダメなのに何でお前がOKだと思えるんだ?
 こいつに以前に見せた爆裂魔法以上の破壊とウン万人って死者を量産する現場だけなら見せても構わないが、それをどういう方法でやるのかを見せる訳にはいかないので却下する。
 
「人間の知識ってのには〝知っていいこと〟と〝知らないといけないこと〟、〝知らなくても良いこと〟と〝知らない方が良いこと〟の4つがある。俺がどうやってあいつらを止めるのか見たいんだろうけど、そこの分別はつけないと取り返しのつかなくなるのは覚えておいた方が良いぞ。ちなみに今回のは〝知らない方が良いこと〟だ」
「ミネルバって鳥の子は良いのに、なんであーしはダメなのさ?」

 反抗的なルージュに対し、俺は出来るだけ柔らかい口調を心がける。

「お前この前の爆裂魔法でドン引きしてただろ? ミネルバは平気そうだったけど。だから、これ以上お前にあんな想いはさせたくないと思って連れて行かないの」

 それにミネルバとは既に打ち合わせ済みだしな。

「それって……あーしのためってこと?」
「そうだよ」

 夢見る少女のような瞳を向けてきたルージュに優しく微笑みながら頭をぽんぽんと叩く。

「あの時はホントごめんな? トラウマになってないかと少し心配してたんだ」
「別にっ! ぜ、全然余裕だったし、ちょっと驚いただけで別にあれくらい大したことないし……」
「そうか? なら良いんだけど」
「うん……」
 
 この間もずっと頭を撫でてやっていると、言葉が尻すぼみになった少女は耳まで真っ赤にしてうつむいた。

「あと、リシアにはああ言ったけど、ホントはヤバイことになるかもしれないんだ。だから王様たちの居る安全な場所で万が一に備えてくれないか?」
「………」
「そうだ、これが終わったら美味しいプリンが食べられる店に連れてったるわ」
「え、マジで!?」
「マジマジ。財布も俺持ちだから好きなだけ食べてくれて構わないよ」
「あーし、こう見えても結構イケちゃうけどマジ大丈夫? 後から謝っても止めないからね?」
「あ、でも店からストップがかかったら流石にやめてくれよな? 出禁にはなりたくないから」
「そんなの知らねーし、困るのはあんたっしょ! あははははー、約束破んなよー!」
 
 ルージュがケラケラと笑いながらワープゲートでこの場から消えた。

「……約束は守る。ただし、2人きりで行くとは言っていない」
「ねこ殿は完全にジゴロでござるな」
「うん、俺も途中からそう思った」

 家には13人も嫁が居るのだ、いくら鈍い俺でも流石に今のルージュの反応を見たら気を許しかけていることくらい気付く。
 ただ追い込んだ後に優しくするそのやり口が、完全にDV野郎のソレなので心が痛い。

 暴力は振るってないだけ――だめだ、この発想がすでにクズいぞ。

「てかあいつ、なんで俺に懐きだしたんだろ? こっちの世界って顔面偏差値高いしあいつの周りにもイケメンいっぱい居るのにね?」
「あれでござろう、ルージュ殿の傍仕そばづかえをしているフェンレント殿がかなりのナルシストで自分語りが多く、その上女子おなごにも見境が無いと聞くでござる。その点ねこ殿は周りに適度な気遣いが出来でき、話も聞いてくれる上に所帯持ちゆえにガッついてもおらず、女子からすれば安心するのではないでござるか?」
「13人も嫁をかかえてる男に安心って、頭大丈夫かな?」
「まぁ女子と付き合ったことのない拙者の感想故、あまり当てにはならぬでござる。それと頭については、異世界だからと13人も奥方おくがたを持つねこ殿の頭が一番はっちゃけている説を提唱ていしょうせざるを得ないでござる」
「ホントそれな」
「くふふふふふふふ!」
「あははははははは!」

 他に人の居ない森の中、男2人でひとしきり笑い合うと、どちらからともなく真顔に戻る。

「さてと、行くとするか」
「リシア殿ではござらぬが、気を付けるでござるぞ」
「ういうい、影剣さんもマナバッテリーの配置は任せたよ」
「配置が終わり次第そちらへ連絡するでござる」
「了解。ミネルバ」
「ちー……!」

 地面に開いたワープゲートから呼び出したミネルバが一度だけ力強い羽ばたき、俺の左肩にふわりと着地する。
 
「魔物が光る六芒星からせり上がると、召喚魔法みたいでカッコイイでござるな」
「でしょ?」 
「この件が片付いたらサクラちゃんにも七色の光で魔法少女みたくやってみるでござる」
「急に変な死亡フラグを立てんなと」
「くふふ、言ってみたくなったでござる。ではのちほど!」

 影剣さんがその場から忽然こつぜんと居なくなる。
 
「……俺たちも行こうか」
「ちー……」
「〈リンドヴルム〉!」

 力強い言葉と共に全身に魔力をみなぎらせると、膨張した魔力で全長18メートルの白を基調に青い差し色をしたヒロイックな魔法外骨格の鎧を成形する。

 完全にロボットです、本当にありがとうございました。

 デザインはこの世界に来る前に作ったプラモデルを元にしているため、具現化のイメージは容易だった。
 
「ミネルバ、隠蔽隠蔽魔法展開」
「ちー!」

 肩に止まったミネルバが群青の翼を大きく広げる。
 
一ノ瀬敏夫いちのせとしお、リンドヴルム、リフトオフ!」

 腰にあるマナを凝縮ぎょうしゅくし板状に伸ばしたクリアイエローグリーンの6枚の羽が展開と同時に発光すると、翼から放出された魔力が白い巨体を空へと押し上げた。

 今起きている虐殺ぎゃくさつを根元から止めてやる!

 この反攻作戦が後に〝白竜の怒り〟と呼ばれバラドリンド教で語られることになるなど、今の俺に想像する余裕はなかった。
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