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220話 4人+1の作戦会議
しおりを挟む敵の6勇者が8人になったり、さらには超広域に魔法無効化領域を展開するバラドリンドの神器とか、こちらの劣勢具合が増々酷くなっていくのはなんなんだか。
影剣さんの話によると、神器は150×150のモノリスタイプ。
馬車にでも積めば戦場に持ち込むことは可能とのこと。
広域爆裂魔法をバラドリンド軍の主力に打ち込んだところで、魔法が発動しない可能性が出てきたわけだ。
頭が痛い。
『だがそれほどの超高性能なアイテムだ、権力者ならば傍に置いておきたいと思うのが心情だろう』
『となると、教皇は神器と一緒に国でお留守番か、軍の大本営にってパターンなヤツやな』
『教皇殿の性格を鑑みるに、大本営にて引きこもる公算が高いでござろうな』
現在自宅のリビングにて、〈チャットルーム〉を用いてのレンさんと大福さんの会話に、俺を介して影剣さんも会話に混ざる。
『戦場に出てくるだけまともだな』
『引きこもってくれた方がねこさんの爆裂魔法で楽勝やったんやがなぁ』
『敵軍は味方の軍に何とかしてもらうとしても、8人の勇者も何とかしないとですよ』
シンくんが敵となった勇者を話題に上げる。
『影剣さん、奴らのレベルはどれくらいなんだ?』
『バラドリンドの6勇者が大体400前半、他2人は250ほどでござった』
レンさんの質問に影剣さんが勇者たちのレベルを明かす。
『あいつらそんなに高いの!? 俺なんて今日やっと300の大台に乗ったばかりなのに!』
『ねこ殿Lv300だったでござるか!? この世界に国の後ろ盾も無く3ヶ月未満でLv300は異常過ぎるでござるぞ。しかもレベルはステータスに反映されるゆえ、そのレベルでLv500に届きそうな拙者と互角に渡り合ったねこ殿には驚かされるばかりでござる』
『いや、ワシら3人ともまだLv100にも到達してないんやが?』
『ねこさんのところは人外魔境か修羅の国なのか?』
影剣さんが驚きの声を上げ、大福さんとレンさんが引き気味の声を出す。
人を化け物みたいに言うな。
『ていうか2人とも、お互いのレベルを知らなかったんですか?』
『俺も影剣さんも妨害魔法を常時発動してるから、鑑定眼じゃ見れないんだよね。いくつかは気になってたけど聞くのもなんか躊躇われて』
『レベルを隠蔽されると〝なんとしても自力で見破ってやらねば!〟と思うのが人情というものでござる』
『まさにソレ!』
シンくんの疑問に2人して変なこだわりで共感し合う俺と影剣さん。
『あ、わかりました、この人たち魔法中毒者だ』
『シンの言う通り、完全に病気だな』
『2人とも、お薬いるか?』
『『なぜに!?』』
人外の次は病気扱いですかそうですか。
『せや、ステの隠蔽と言えば、このまえ冒険者ギルドで妖精猫を肩に乗っけた日本人っぽい女が居ったわ』
大福さんが隠蔽魔法から連想して思い出したことを口にする。
『僕たちみたいな〈流れ人〉か、ねこさんの所の吉乃さんみたく呼び出された国から逃げた人ですかね?』
『あるいは国に飼われたまま物見遊山か、だ』
シンくんとレンさんが仮定を口にする。
これで行き倒れてたらまんまよしのんなのにな。
『まさか〝きにゃこさんまでこっちに来てた〟なんてことないよね?』
『流石にそれはないでござるよ~』
『いやちょぉ待った、これだけネットフレンドが集まったんや、そのまさかは十分あり得る話やないか?』
『確かにそうですね、兄貴が呼び出したぼっちさんはともかく、鬼灯さんと影剣さんがこの世界に居るのは絶対におかしいですもんね』
俺の閃きを冗談と受け取った影剣さんが否定の言葉を口にするも、大福さんとシンくんが神妙な口調で可能性を肯定する。
『よくよく考えると、特におかしいのは俺たち4人だ。しかも都合よく全員に〈チャットルーム〉が備わっているのには、なんらかの意思が働いていると感じずにはおれん。大福さん、至急その女とコンタクトを取ってくれ』
『これが終わったらすぐ向かうわ』
大福さんがレンさんの指示で予定を定める。
『とりあえずその女の話はここまでとして、次は勇者らにどう対抗するかやな』
『聞いた限りだと、影剣さんと一緒に来た騎士が戦力的にあてになりそうですね』
『ガーランドでござるか、あの者はバラドリンドでも指折りの戦士。しかも義理堅く頼りになるでござるぞ』
『住居を提供したらすごく感謝されたなぁ』
映像での戦闘を観て、先行投資とばかりに便宜を図ったのは正解だったようだ。
『初対面の男にあれほどの豪邸をポンと貸し出せるねこ殿の懐の深さに感服致すでござる』
『ん~、まぁそれほどでもないんだけど……』
影剣さんの感心に心苦しさから言葉を濁す。
提供したのはそのままだとアイヴィナーゼ王国の管理になるはずだった旧別宅である。
グレアム陛下に事情を説明したらすぐに了承されてしまった。
ま、まぁ霊的なモノが出ても神官戦士なら自分で除霊できるやろ……。
いまだ不穏な気配を感じる屋敷なだけに、これからも連絡を取り合う相手に提供する場所としては間違えたと思わざるを得ない。
『個の戦力も大事だが、もう1つの問題はバラドリンド側の連合軍だな。ねこさん、影剣さんをチャットルームに入れた要領で映像も共有出来ないか? 出来るなら開戦予定地の周辺が描かれた地図が見たい』
『やってみる』
テーブルにウィッシュタニアから支給された地図を広げると、見たものをそのままチャットルームに反映出来ないか試みる。
頭の中に映画館のスクリーンを思い浮かべ、そこに見たものをそのまま魔力に乗せて投射するイメージで……。
『これはねこさんの視界が映っているのか?』
『うい』
『ねこ殿の魔法技術は相変わらず壊れているでござるな』
『影剣さんってそんな顔やってんな』
『流石魔法ジャンキーは違いますね!』
『シンくん、それ誉め言葉やないからな?』
興奮気味の声を上げるシンくんに、大福さんの冷静なツッコミが入る。
『これがあれば前線の様子もリアルタイムで知ることが出来るな』
たったいま出来たばかりの技術を、早速レンさんが軍事転用してしまう。
そういう発想がすぐに出てくる所がすごいと感心させられる。
『それで、バラドリンド軍はここかここのどちらかに大本営を布陣するとして――』
俺たちが共有している脳内の映像に、レンさんが赤い光点を付ける。
『――もう2つの国がどこに布陣するかが分からんのが厄介だな。おそらくこの辺りか? ……いや、〈ワープゲート〉を用いて伏兵として運用するのが最も効果的か』
今度は兵法家としての顔を見せるレンさん。
『レン殿の言う通り、モンテハナムとハッシュリングの両軍の動向が分からぬゆえ、アイヴィナーゼ軍が後詰めに回る予定でござる』
『ただでさえ数で劣ってるっちゅうのに、さらに戦力を分散せなあかんのは痛いな』
『唯一の救いは城塞での防衛戦となるところだけだな』
『せやけど、それもナオキっちゅうヤツが出張ったら、城門も一発で粉砕されんねやろ? 難儀な話やで』
『奴を封じることも課題だな。……しかし、俺と同じ名なのがどうも居心地が悪い』
大福さんが6勇者の1人の名を上げると、レンさんがモヤモヤを吐露した。
『では今後は彼の名を名字であるエンドウと呼称するでござる』
『遠藤か』
『ちなみにエンドウのエンは猿でござるぞ。小学生の頃に猿と馬鹿にされた際、そいつを半殺しにしてやったと豪語していたでござる』
『それ実はちょっと小突いて黙らせた程度ってオチや思うで。ワシの同級生にも同じようなことして、去年同窓会で顔面変わるほどどついたとか話盛っとった奴が居ったからな』
大福さんが自身の体験談を交えてエンドウナオキの過去エピソードが嘘だと切って捨てた。
そもそも事実だったとしても、そんな暴力沙汰は他人に誇るようなもんでもないと思うんだが。
『なぜ人はDQN話を盛りたがるのか』
『話がしょぼいと自分をすごいと思ってもらえないからじゃないですか?』
『その心理が既にしょぼいという二段オチでござるな。くふふ』
俺の虚空へのツッコミにシンくんが心理を予想し影剣さんが話を落とした。
『話の腰を折ってすまんな、名前の件は忘れてくれ。それで戦力差だが、無人化させた城塞に敵兵を引き込み、城塞もろとも爆破してやるのはどうだ? 敵陣からの距離を鑑みても、それならば神器の影響を受けずに爆裂魔法が使えるはずだ』
『なるほど、さすがに安全も確認せんと兵よりも先に神器を運び込まんやろうしな』
『確かにそれは名案でござる。早速軍の上層部に提案してみるでござるぞ』
影剣さんがチャットルームに居ながら、両陣営の将軍であるマクシミリアンさんとヴィクトルに念話を飛ばす。
『本来ならば相手の兵站を断つことを考えるところだが、勇者の収納スキルとワープゲートがそれを許さんだろうな』
『逆にねこさんとこの食料貯蔵庫が燃やされたんは痛すぎやな』
レンさんと大福さんが真面目に議論。
これに関してはウィッシュタニアがクーデター直後でゴタゴタしていたせいなのと、アイヴィナーゼに勇者が居なくなったため、安全面などの話が詰められなかったから起きたことだ。
まぁ根本の原因は裏切った王太子どもが、そんな重要拠点の情報をバラドリンド側に流したせいだけど。
『でも本陣が敷かれた後なら、数万人分の炊き出しをするのに毎回勇者の収納スキルからってのは不自然ですよね?』
『シンの言う通り、兵站は必ず収納スキルから外に出されるだろう。そこを狙って燃やしてやるのは有効やもしれん。だが奴らも馬鹿ではない、一度にすべての物資を表に出しはしないはずだ。そうなった場合、燃やしたのが全体の1/6で結果的にただの嫌がらせに終わる可能性が極めて高い』
『仮に成功したとしても、全ての物資を燃やすのに最低でも6回は繰り返すのか。そう考えると現実的じゃないなぁ」
『賊に何度もかいくぐられるほど、バラドリンドのセキュリティーは甘くはござらんぞ』
シンくんの提案にレンさんが理詰めで否定し、俺も影剣さんも賛成を示さなかった。
魔法も無しに重要拠点に侵入して破壊工作を成せる程の貴重な人材を、成功しても被害が嫌がらせレベルな任務で失うリスクは負いたくない。
『もはや短期決戦しかないのは上もわかっていることだろう』
『そうなると、さっきの城塞誘い込み爆破作戦の後の合戦場も新しく選定しといた方が良いね』
『当然だな。あと中途半端に吹き飛ばした場合も想定した方が、いざという時に混乱せずに済む』
『撤退戦の要所などは会議でも散々話し合っていたので問題はござらぬ』
「あなた、影剣さん、準備が整いましたよ」
影剣さんの太鼓判を頂いたところで、リシアに呼ばれそちらに目を向けると、脳内スクリーンにリシアと背後霊の様に同行していたレイティシアさんの姿が映される。
「今行くー」
『すまぬがこれから食事ゆえ、一旦失礼するでござる』
『また後でね』
俺と影剣さんがチャットルームを抜ける間際、チャット内が騒然となる。
『誰や今の美少女は!?』
『アレがねこさんが言っていた猫耳の嫁だというのか!?』
『美人過ぎません!?』
『あんな美人そう居らんで!』
『よもや実在していたとは……!』
『正直なところ、僕も存在を疑っていました……』
ピロン
トシオがチャットルームを退出しました。
「……あいつら酷い、酷くない?」
「まぁまぁねこ殿、それだけリシア殿が美しかったということでござる」
皆の冗談だとわかっていながらも仏頂面でぼやくと、影剣さんに宥められる。
「拙者もリシア殿を始めて目にした際、ねこ殿が奴隷を連れているのだと思ったでござるよ」
ここにも酷い奴がいたわ!?
余りの信用の無さに抗議の声を上げようとしたが、経緯はどうであれリシアとは奴隷契約で結ばれているのを思い出す。
ククやトトに至っては、本当に奴隷として買ったので言い返せないわと口を閉じざるを得なかった。
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