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215話 投影体
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「それで、貴様は何者だ?」
俺の探知魔法に引っかかることなく突如現れた見知らぬ美女へ、メリティエが握りこぶしを突き出し問いかけると、トトも習ってハルバードの切っ先を向ける。
女へは既に鑑定眼を発動させているが、ジョブやレベルどころか名前すら表示されず、魔力での接触探知も女の体をすり抜けた。
そのことを〈イージスシステム〉を介して皆と共有する。
本当に何者なんだこの女は、体の動きに対して女の周囲の空気すら動いていないってなんだよ。
まるで実体そのものが無いみた……もしかして幽霊とかじゃないよな?
「私はここの管理をしている者。そしてダンジョンコアを手にした方へは、コアに蓄積されたマナを使い魔道具を作成する手助けもしております」
「……我々にとってあまりにも都合が良すぎますにゃ」
「存在が胡散臭くて信用できねぇ」
モーディーンさんとチャドさんが女に裏があるのではと皆に警戒を促す。
「胡散臭いとおっしゃられましても、私はそうするようにと生み出された存在。それにこの身はただの幻影に過ぎず、皆さんに直接危害を加えることなど出来ません」
「直接じゃなければ危害を加えられるんですね?」
例えば完成した魔道具に時限爆弾になるような仕掛けを組み込むとか、直接じゃなくても危害を加える方法などいくらでもある。
「ふふふ、言葉の綾というものです。悪い様に受け取らないでくださいまし」
俺の指摘に女は口元を隠して笑う。
自分でも揚げ足を取るような嫌な言い方だと良心に刺さる。
「一ノ瀬さん、この人ってもしかして、古代魔法人って人たちが作ったAIみたいなものじゃないんですか?」
「あぁなるほど。リベクさんにもらった〈魔導書〉にもダンジョンはトレーニング施設みたいに書かれてたし、ダンジョンコアから魔道具が作れるみたいなことも載ってたから、こんなAIをもったサポート光学映像が用意されててもおかしくはないか」
よしのんの言葉にローザの父親からもらった魔導書に書かれている内容を思い出し、色々と辻褄が合うなと納得する。
「そのえーあいというのはなんですかにゃ?」
「人工的に作られた知能を持つ何かと言いますか、こっちの世界には喋る武器とか、手を離したら独りでに相手を攻撃する武器みたいなアイテムってあります?」
「有名なのだと〈意思を持つ杖〉とか〈踊る剣〉なんかがそれね」
モーディーンさんの疑問に質問で返すと、ヴァルナさんが答えてくれた。
「それの亜種みたいなものです」
「この場合は杖ではなく会話ができる映像ってところかしら?」
「ご理解頂けたようですね」
ヴァルナさんが納得を示すと、映像の女が満足気に頷いた。
映像って理解できるのかなんて思っている俺の近くでは、トトやメリティエなどが未だ訝しんだ様子で首を傾げるが、後でゆっくり説明すればいいだろうと今は放置。
「では早速ですが、どのような魔道具を望まれますか? ダンジョンコアを元の場所に収め直し、ご要望のある能力とアイテムの形状を言って頂ければこちらで作成致しますが」
「どのような、か」
AIに促され言葉に詰まる。
アイヴィナーゼやウィッシュタニアのダンジョンコアが破壊される前からもずっと考えてはいたが、どんな魔道具を作れば対抗できるかいまだに答えが出せていなかったのだ。
6勇者に対抗できるスキル。
大軍を相手にできる力。
求めているのはそんなところだが、いかんせん漠然とし過ぎている。
もっと明確な能力を決めなければ……。
「……さっきコアが爆発したらダンジョンごと吹き飛ぶとか言ってましたよね?」
「はい。お手元のダンジョンコアには魔素を含んだマナが最大限に蓄えられており、ダンジョンコアの爆発に各階層のマナが連鎖爆発する形でダンジョンが吹き飛びます。仮にダンジョンコア単体であったとしても、そのエネルギーは大都市をも消滅させて余りあるものとなるでしょう」
「ダンジョンコアを指定した目標に飛んで着弾と同時に爆発するアイテム(ミサイル)にしてやれば、一都市が消し飛ぶだけの破壊力を持つ物体になります?」
「肯定です」
俺の問いに目の前の女が頷く。
これだと大軍を攻撃するには打ってつけだが、6勇者を相手にするには大軍の中に6勇者が居なければという前提でないと意味をなさない。
大量破壊兵器も悪くないが、広域爆裂魔法〈スルト〉を習得した今の俺には用途がダブるのんだよなぁ。
やはりルージュの〈時間停止〉やトモノリくんの〈スキル奪取〉、もしくは6勇者の1人が持つ〈異能無効化〉が良いかもしれない。
いや待てよ、むしろ――
などと思案していると、フィローラが俺の隣りにまでやって来て映像の美女を見上げた。
「あの、お聞きしたいことがあるのでしゅがよろしいでふか?」
「あら可愛いお嬢さん。何かしら?」
「これまでもダンジョン内で可燃性の魔法を使用したことがありましたが、魔素の連鎖爆発が起きなかっのはなぜでしゅか?」
「それは魔法に魔素を誘爆させる効果があるのではなく、魔素の詰まったダンジョンコアの爆発で押し出された魔素同士がぶつかり合い、〈魔素の共鳴〉が起きることで爆発するのです」
「魔素の共鳴? 〈魔素〉とは一体何なのでしゅか?」
「魔素とは地中深くに封じられた神の呪いとも言うべき負の感情です」
以前大福さんたちと立てた仮説が事実であったと、目の前の女が裏付けした。
「その恨みって、古代魔法人たちに因って封印されたことが原因ですか?」
「……肯定です」
人工知能であるはずの女の表情が一瞬だけ険しくなった気がしたが、すぐ元の笑顔に戻った。
だがその一瞬の変化に強い違和感を覚え、この女の笑顔が感情を隠すための造り笑いなのではと疑念が過ぎった。
もし仮にそうだとしたら、ずいぶん感情豊かなAIですこと。
魔法王国と言われたウィッシュタニアですらまともな人工知能が造れないから戦闘用ゴーレムは無理だって話なのに、こんなすごいAI作れちゃう古代魔法人すご過ぎワロタ。
こっちの魔法文明が明らかに地球の科学文明より優れてる定期。
魔道具そっちのけで目の前の女に興味を持っていると、俺たちの中で一番魔法技術に長けたイルミナさんが女に問う。
「何故神は封じられたのじゃ?」
「マナを独占したかったのでしょうね」
「世界中に無尽蔵にあるマナの独占とはどういうことじゃ?」
イルミナさんの言う通り、マナは空気と同じくらい世界中に溢れている。
「古代魔法人も魔族領の奥地に生存しているらしいし、それなのに未だに独占されていないということは、計画が失敗したってことか?」
「……皆さんは〈マナ〉が何から発生し、何故世界中に溢れているのかをご存じですか?」
俺の独り言に立体映像の美女が問うてきたが、その問いに対してここに居る誰もが答えられなかった。
「どうやら皆さんは〈マナ〉が何であるかさえ理解されていないようですね」
まるで出来の悪い生徒を相手にしているような口調だが、問いに答えられない時点で女からすれば実際にそうなのだろう。
言われてみれば、確かにマナとは何かなんて考えたことが無いな。
不思議なことは大体〝ファンタジーだなぁ〟で片付けているのが原因だけど。
「もしよければマナとは何かを教えてくれませんか?」
「マナとは、星を造り生命を誕生させた神々の持つ魂の力〈神霊力〉を人でも扱えるように変質したモノです」
「それって――もしかして、マナの独占は成功していたってこと、なのか……?」
俺は自分の気付きに独りつぶやく。
「あの、誰だって使えるのになんで独占したことになるんですか?」
「古代魔法人たちが神々から力を奪い、大地に封印することでマナを〝人種〟が独占した。そういうことですにゃ」
察しの悪いよしのんにモーディーンさんがの言葉に納得を示し、女も静かに頷いた。
「じゃから人への憎しみが呪いとなり、魔素として今も放出されておるのじゃな?」
「はい。ですが、独占は〈モンスター〉と呼ばれる存在の出現で失われます。モンスターは野生生物が魔素を取り込み変貌してた姿。特に神々に次ぐ力を有した神獣は神々への忠誠から進んで魔素を取り込み、天災と呼ぶにふさわしい力で人々を蹂躙しました」
「それに対抗するために古代魔法人たちも魔素を取り込み、魔族が生まれたと」
「自分たちを呪う力を自ら内に取り込むとは、まったく嘆かわしい限りです」
女は心底呆れたといった様子でため息を吐いた。
「……話の腰を折るようで申し訳ありませんが、口調がまで神さまの側である貴女は本当に古代魔法人によって生み出されたのですか?」
「そこに気付くとはさすがは私の信徒。察しが良いですね」
リシアの何気ない問いと女の言葉に体の奥からゾワリと悪寒がこみ上げ、魔念動力で全員を掴んで強制的に後退させる。
前衛職の皆は俺の魔念動力を振り払い、武器を手に女の前に出る。
メリティエに至っては大蛇の時のフラストレーションもあり、「やっと出番か」と嬉しそうだ。
「え、え? なに、どういうことですか?」
「あんたたちが古代魔法人が生み出したモノみたいに言ってただけで、彼女は自分が何者かなんて一言も言っていないってことよ!」
後方で頭にハテナを浮かべるよしのんにヴァルナさんも苦い顔で女を見つめる。
「でもあいつ、ダンジョンコアを魔道具にしてくれるとか自分で言ってたじゃん!」
「確かに言いましたが、それは自ら定めた役目を告げたに過ぎませんが?」
ルージュのキレ気味な叫びに、あいつ呼ばわりされは女が涼し気にのたまう。
〝嘘は言っていないが肝心の真実を言っていない〟俺も良く使う手口だが、自分がやられると気分の良いものではない。
「ですが、皆さんとは敵対するつもりは毛頭ありませんので、勘違いしないでくださいね?」
「ならばもったいぶらずに早う正体を明かしたらどうじゃ?」
ピリピリとしたイルミナさんが自身の周囲に無数の水の玉を浮かべ、攻撃態勢を取りながら呑気な口調の女に促す。
ソフトボールサイズの水の玉から漂う魔力は、かなりの水量を圧縮した物体であると予想出来る。
「待ってくださいイルミナさん、あの方に敵意が無いのは本当です!」
「リシアは何故そう言い切れるのじゃ?」
「それは、私がそう感じるからとしか……」
根拠のない確信に、リシアの言葉尻が萎む。
「それは彼女が本能的に理解しているからでしょう」
「あんたにリシアの何が分かるんだ?」
リシアに対してまるで慈母のような目を向ける女の態度に、つい語気が荒くなる。
「彼女は私に祈りを捧げ、私は彼女たちを慈しむ存在だからです」
「どういうことだ?」
「ありのままの意味ですよ」
「トシオ様、彼女は――いえ、この御方は、レイティシア様です」
女の存在を察したのであろうリシアがその場で座り、土下座姿勢で平伏する。
リシアだけでなく、フィローラやアレッシオなど他の何人かも同様に習う。
レイティシア、どこかで聞いたこと有るような?
「おいおい、それは本当かよ……」
チャドさんが女に穂先を向けたまま周囲の様子に困惑し、ザァラッドさんがその槍を手で押し下げさせた。
「モーディーンさん、レイティシアって誰なんですか?」
「地母神レイティシア、大地と俺たちの御先祖様を生み出したって言われている女神様ですにゃ」
まだリベクさんの家でお世話になっていた頃、リシアにプリーストのジョブを付けた時に出てきた名前だ。
ルージュのキンキン声を背後に受けるモーディ-ンさんの言葉に、2ヵ月前にその名を耳にした際のことを思い出す。
よく見ると、頭を垂れているのは主にプリースト系のジョブを有している獣人や亜人種の仲間たちだった。
「……マジか?」
「肯定です。人に虚偽を告げる行いは、私共にとって神格を堕とす行為です。神格の穢れは自身の衰退に繋がり、たとえ長き年月に渡り魔素を流し続ける悪神ラートゥースですら行わないでしょう」
この神が本当にレイティシアなる者なのか、また神は本当に嘘を付かないのかを仲間たちに念話で尋ねると、リシアが『神聖魔法の使い手が己の信仰する神様を見誤ることなどあり得ません。目の前の御方は常日頃より私の祈りに応えて奇跡を示してくださるレイティシア様ご本神です』と断言し、イルミナさんからは『〝神が格下の者に嘘をつくことは自身の神格を相手に明け渡すに等しい〟と文献で読んだことがある』と教えてくれた。
プリーストから派生する近接戦闘ジョブであるモンク系であるメリティエもそのことが分かっているのか、話の流れからあからさまにつまらなそうな顔をし親友と雑談に興じる。
出っ歯エルフのアーヴィンに至っては、躊躇うことなくリュートを取り出し奏でだした。
『メリーは戦神を崇めておるゆえ、他所の神に興味がないのじゃろう』
イルミナさんが実の娘の無関心さに呆れてため息を漏らす。
自分の興味が無いモノにはトコトン無関心なのは母娘で似ているなぁ。
「私に偽りが無いことの確認は取れましたか?」
「ええまぁ。……ならなんで最初に名乗らなかったんですか?」
リシアが敬う神様なのだからと一応は敬語に戻す。
「魔素を流しているかもしれない存在が〝魔道具の作成を手伝う〟などと、貴方なら素直に信じますか?」
「確かに、信じる信じないで言えば信じないわなぁ。……って、またはぐらかそうとしてます?」
「勘のいい坊やですこと」
レイティシアはまだ手助けする〝理由〟を言っていない。
彼女の嘘は言えないが本音も言わない話し方には注意が必要だ。
「さっきの今で、いくら何でも馬鹿にしすぎでしょ。理由と目的を明確にしてください」
「私の目的はこの忌まわしき封印から解放されることにあります。そのためには神の力を吸い上げるこの設備をダンジョンの最奥にまで到達しうる実力の持ち主に破壊して頂けたらと思っております」
「でも人間って恨まれてるんですよね?」
「1柱にはですが」
「例のラートゥースって神様ですよね?」
「はい」
「……それで、魔道具を作るのに手を貸す理由ってのはなんなの?」
「恩を売っておけば心象が良くなるかと思いまして♪」
女神様が正直すぎて苦笑いしか出なかった。
力を奪うために封印されたなんてひどい話に同情を禁じ得ず、封印を解いてやりたいのもやまやまではある。
けど万が一神々が報復に乗り出した場合、星を造りだせる程の相手を俺がどうこう出来るはずもない。
申し訳ないがこのまま封印されていてほしいというのが本音ではある。
しかし――
「トシオ様」
リシアが神の願いをかなえてほしいと眼差しで訴えてくる。
猫神様なんてオリジナルマイナー神なるものを信奉している猫原理主義者としては、信奉する神の願いを聞き届けたいというリシアの想いはよくわかる。
話の内容から察するに、封印されているのは〝神々〟なんだよなぁ。
リシアの気持ちはわかるけど、こればかりは……。
2つの国家とそこに住む人々を戦争の被害から守るための手段を得るためにここに来た。
にも拘わらず、この世界に住む人々すべての運命を左右する行動を俺たちで決めるなど、行動原理が矛盾し過ぎている。
自己矛盾極振りはいくら何でもダブルスタンダードに過ぎだ。
手の中の金属球、ダンジョンコアに映る湾曲した自分の顔を見つめながら、ノーリスクで神様を開放する方法はないかと悶々とする。
他の皆も同じように悩み、念話でどうすればよいかと会議を始める。
「それでですね、私としましてはこの封印術式を反転させ、1ヵ所ずつ無力化して頂くのが回り道ながら安全な方法であると提案します」
会議する俺たちに、女神が願望のプレゼンを始めた。
「ちなみに安全じゃない方法ってあったりするんですか?」
「手っ取り早いものですと、ダンジョンコアを用いて魔素を増幅させ、世界中のダンジョンに溜まった全ての魔素を共鳴爆発を引き起こします」
一度に全世界の地下で大爆発か、なかなか豪快な解決法だなぁ。
「それを実行するとして、どれほどの被害が予想されますかにゃ?」
「ダンジョンはそれこそ世界中に存在します。それらが同時に吹き飛ぶということは、地表全てが爆発で捲れてしまい、陸地の大半が海に沈むこととなるでしょう」
モーディーンさんの問いにレイティシアがニコニコ顔で恐ろしい可能性を口にした。
「……みんな、今のは今後一切、絶っ対他言無用でお願いします!」
「そ、そうね、世界を滅ぼそうとするヤツが現れ無いとも限らないものね!」
「万が一にも外に漏れては一大事です! 盗聴の危険も考慮し、このようなことは例え念話であろうと話題に出すべきではありません!」
俺の戒厳令にヴァルナさんがその危険性を示唆し、ユニスが隠匿を主張する。
ウィッシュタニア王城襲撃時、念話の盗聴が出来てしまっただけに、ユニスの意見には俺も大賛成だ。
しかし、このダンジョンコアを用いてバラドリンドの6勇者に対抗しうる力を得つつ、封印を解いても問題ない手段は無いものか……。
二頭追う者はという言葉が脳裏に過ぎると、ルージュがレイティシアに近付いていく。
「ねぇ、神様ってさぁ? これに閉じ込められてるんだよね?」
「肯定です」
石碑をぺちぺち叩きながら訪ねるルージュに神が頷く。
「だったらさぁ、なんでいま出てこれちゃってるワケ?」
神を前にして物怖じしない物体の確信を突く発言で戦慄が走る。
「言われてみれば確かに謎だ」
「それはですね、ダンジョンコアに蓄えられるマナの限界を超えていましたので、そこからあふれるマナの僅かな隙間に神格の一部を滑り込ませたからですよ。ですが我々の力を利用した封印術式はあまりにも強力なため、こうして姿を投影するのが限界でした」
つまり、自分の力で自分を押さえつける仕組みだから、大きいな力を持つ存在ほど抜け出せない封印ってことか。
しかも封印されたら力を抜かれる訳だから、どう足掻いても脱出不可能とか、えげつないもん作るなぁ。
「レイティシア様、マナを使って御自身で脱出することは出来ないのでふか?」
「神が扱えぬよう調整された力が〈マナ〉なのです。仮に封印が解かれればマナに干渉する術を見つけられるやもしれませんが、今の私ではこうして姿を投影し、皆さんと語らうのが精いっぱいなのです」
隙の生じぬ二段構えどころか三段構えってか、良く出来た封印ですことっ。
その後はあーでもないこーでもないとひとしきり悩み抜いた末、〝今はバラドリンドの問題に全力で集中し、問題解決後に今回のことを考えよう〟という結論に達してダンジョンを後にした。
「トシオ様? なぜ新しい女性が増えてらっしゃいますの?」
帰宅後、クラウディア王女が開口一番で映像の女神を指を指す。
「他人様を指差すんじゃありません」
なんで付いて来ちゃうかなぁこの女神様は。
てか王女様が一般家庭のお家に居るのも十分おかしいことだからな?
神様を人というのも間違ってるけど。
「ふつつか者ですがどうぞよしなに♪」
「こちらこそよろしくお願いしま――ってそうではありません! トシオ様がそうやってわたくし以外の女性を側室に加えるのでしたら、わたくしにも考えがありますわ!」
美しいお顔の眉間にシワを寄せたクラウディアが謎の宣言と共に踵を返すと、そのままワープゲートで繋がっているアイヴィナーゼ城の自室へと去っていった。
「なにやら誤解が生じておりますが大丈夫ですか?」
「えぇまぁ、ぶっちゃけ彼女はただの客なので気にしなくて大丈夫です」
「トシオ、さすがにそれはあんまりだろ」
俺のぞんざいな言いぐさに珍しくメリティエにツッコまれ、振り返ると他の女性たちも頷き合っていた。
解せぬ……。
「いつまで玄関に留まる気じゃ、早う入らぬか」
「ささ、レイティシア様には窮屈なことと存じますが、どうぞ2階をお使いください」
イルミナさんに促され、リシアが神様を我が家の2階へと案内する。
今は誰も使ってない2階をすぐ案内できる状態に保全されている我が家の行き届きっぷりに少し驚かされた。
それ以前に神様が居る家ってのもどうなんだろうな。
なんだかとんでもない展開に、昼食を前にしてどっと疲れが押し寄せた。
俺の探知魔法に引っかかることなく突如現れた見知らぬ美女へ、メリティエが握りこぶしを突き出し問いかけると、トトも習ってハルバードの切っ先を向ける。
女へは既に鑑定眼を発動させているが、ジョブやレベルどころか名前すら表示されず、魔力での接触探知も女の体をすり抜けた。
そのことを〈イージスシステム〉を介して皆と共有する。
本当に何者なんだこの女は、体の動きに対して女の周囲の空気すら動いていないってなんだよ。
まるで実体そのものが無いみた……もしかして幽霊とかじゃないよな?
「私はここの管理をしている者。そしてダンジョンコアを手にした方へは、コアに蓄積されたマナを使い魔道具を作成する手助けもしております」
「……我々にとってあまりにも都合が良すぎますにゃ」
「存在が胡散臭くて信用できねぇ」
モーディーンさんとチャドさんが女に裏があるのではと皆に警戒を促す。
「胡散臭いとおっしゃられましても、私はそうするようにと生み出された存在。それにこの身はただの幻影に過ぎず、皆さんに直接危害を加えることなど出来ません」
「直接じゃなければ危害を加えられるんですね?」
例えば完成した魔道具に時限爆弾になるような仕掛けを組み込むとか、直接じゃなくても危害を加える方法などいくらでもある。
「ふふふ、言葉の綾というものです。悪い様に受け取らないでくださいまし」
俺の指摘に女は口元を隠して笑う。
自分でも揚げ足を取るような嫌な言い方だと良心に刺さる。
「一ノ瀬さん、この人ってもしかして、古代魔法人って人たちが作ったAIみたいなものじゃないんですか?」
「あぁなるほど。リベクさんにもらった〈魔導書〉にもダンジョンはトレーニング施設みたいに書かれてたし、ダンジョンコアから魔道具が作れるみたいなことも載ってたから、こんなAIをもったサポート光学映像が用意されててもおかしくはないか」
よしのんの言葉にローザの父親からもらった魔導書に書かれている内容を思い出し、色々と辻褄が合うなと納得する。
「そのえーあいというのはなんですかにゃ?」
「人工的に作られた知能を持つ何かと言いますか、こっちの世界には喋る武器とか、手を離したら独りでに相手を攻撃する武器みたいなアイテムってあります?」
「有名なのだと〈意思を持つ杖〉とか〈踊る剣〉なんかがそれね」
モーディーンさんの疑問に質問で返すと、ヴァルナさんが答えてくれた。
「それの亜種みたいなものです」
「この場合は杖ではなく会話ができる映像ってところかしら?」
「ご理解頂けたようですね」
ヴァルナさんが納得を示すと、映像の女が満足気に頷いた。
映像って理解できるのかなんて思っている俺の近くでは、トトやメリティエなどが未だ訝しんだ様子で首を傾げるが、後でゆっくり説明すればいいだろうと今は放置。
「では早速ですが、どのような魔道具を望まれますか? ダンジョンコアを元の場所に収め直し、ご要望のある能力とアイテムの形状を言って頂ければこちらで作成致しますが」
「どのような、か」
AIに促され言葉に詰まる。
アイヴィナーゼやウィッシュタニアのダンジョンコアが破壊される前からもずっと考えてはいたが、どんな魔道具を作れば対抗できるかいまだに答えが出せていなかったのだ。
6勇者に対抗できるスキル。
大軍を相手にできる力。
求めているのはそんなところだが、いかんせん漠然とし過ぎている。
もっと明確な能力を決めなければ……。
「……さっきコアが爆発したらダンジョンごと吹き飛ぶとか言ってましたよね?」
「はい。お手元のダンジョンコアには魔素を含んだマナが最大限に蓄えられており、ダンジョンコアの爆発に各階層のマナが連鎖爆発する形でダンジョンが吹き飛びます。仮にダンジョンコア単体であったとしても、そのエネルギーは大都市をも消滅させて余りあるものとなるでしょう」
「ダンジョンコアを指定した目標に飛んで着弾と同時に爆発するアイテム(ミサイル)にしてやれば、一都市が消し飛ぶだけの破壊力を持つ物体になります?」
「肯定です」
俺の問いに目の前の女が頷く。
これだと大軍を攻撃するには打ってつけだが、6勇者を相手にするには大軍の中に6勇者が居なければという前提でないと意味をなさない。
大量破壊兵器も悪くないが、広域爆裂魔法〈スルト〉を習得した今の俺には用途がダブるのんだよなぁ。
やはりルージュの〈時間停止〉やトモノリくんの〈スキル奪取〉、もしくは6勇者の1人が持つ〈異能無効化〉が良いかもしれない。
いや待てよ、むしろ――
などと思案していると、フィローラが俺の隣りにまでやって来て映像の美女を見上げた。
「あの、お聞きしたいことがあるのでしゅがよろしいでふか?」
「あら可愛いお嬢さん。何かしら?」
「これまでもダンジョン内で可燃性の魔法を使用したことがありましたが、魔素の連鎖爆発が起きなかっのはなぜでしゅか?」
「それは魔法に魔素を誘爆させる効果があるのではなく、魔素の詰まったダンジョンコアの爆発で押し出された魔素同士がぶつかり合い、〈魔素の共鳴〉が起きることで爆発するのです」
「魔素の共鳴? 〈魔素〉とは一体何なのでしゅか?」
「魔素とは地中深くに封じられた神の呪いとも言うべき負の感情です」
以前大福さんたちと立てた仮説が事実であったと、目の前の女が裏付けした。
「その恨みって、古代魔法人たちに因って封印されたことが原因ですか?」
「……肯定です」
人工知能であるはずの女の表情が一瞬だけ険しくなった気がしたが、すぐ元の笑顔に戻った。
だがその一瞬の変化に強い違和感を覚え、この女の笑顔が感情を隠すための造り笑いなのではと疑念が過ぎった。
もし仮にそうだとしたら、ずいぶん感情豊かなAIですこと。
魔法王国と言われたウィッシュタニアですらまともな人工知能が造れないから戦闘用ゴーレムは無理だって話なのに、こんなすごいAI作れちゃう古代魔法人すご過ぎワロタ。
こっちの魔法文明が明らかに地球の科学文明より優れてる定期。
魔道具そっちのけで目の前の女に興味を持っていると、俺たちの中で一番魔法技術に長けたイルミナさんが女に問う。
「何故神は封じられたのじゃ?」
「マナを独占したかったのでしょうね」
「世界中に無尽蔵にあるマナの独占とはどういうことじゃ?」
イルミナさんの言う通り、マナは空気と同じくらい世界中に溢れている。
「古代魔法人も魔族領の奥地に生存しているらしいし、それなのに未だに独占されていないということは、計画が失敗したってことか?」
「……皆さんは〈マナ〉が何から発生し、何故世界中に溢れているのかをご存じですか?」
俺の独り言に立体映像の美女が問うてきたが、その問いに対してここに居る誰もが答えられなかった。
「どうやら皆さんは〈マナ〉が何であるかさえ理解されていないようですね」
まるで出来の悪い生徒を相手にしているような口調だが、問いに答えられない時点で女からすれば実際にそうなのだろう。
言われてみれば、確かにマナとは何かなんて考えたことが無いな。
不思議なことは大体〝ファンタジーだなぁ〟で片付けているのが原因だけど。
「もしよければマナとは何かを教えてくれませんか?」
「マナとは、星を造り生命を誕生させた神々の持つ魂の力〈神霊力〉を人でも扱えるように変質したモノです」
「それって――もしかして、マナの独占は成功していたってこと、なのか……?」
俺は自分の気付きに独りつぶやく。
「あの、誰だって使えるのになんで独占したことになるんですか?」
「古代魔法人たちが神々から力を奪い、大地に封印することでマナを〝人種〟が独占した。そういうことですにゃ」
察しの悪いよしのんにモーディーンさんがの言葉に納得を示し、女も静かに頷いた。
「じゃから人への憎しみが呪いとなり、魔素として今も放出されておるのじゃな?」
「はい。ですが、独占は〈モンスター〉と呼ばれる存在の出現で失われます。モンスターは野生生物が魔素を取り込み変貌してた姿。特に神々に次ぐ力を有した神獣は神々への忠誠から進んで魔素を取り込み、天災と呼ぶにふさわしい力で人々を蹂躙しました」
「それに対抗するために古代魔法人たちも魔素を取り込み、魔族が生まれたと」
「自分たちを呪う力を自ら内に取り込むとは、まったく嘆かわしい限りです」
女は心底呆れたといった様子でため息を吐いた。
「……話の腰を折るようで申し訳ありませんが、口調がまで神さまの側である貴女は本当に古代魔法人によって生み出されたのですか?」
「そこに気付くとはさすがは私の信徒。察しが良いですね」
リシアの何気ない問いと女の言葉に体の奥からゾワリと悪寒がこみ上げ、魔念動力で全員を掴んで強制的に後退させる。
前衛職の皆は俺の魔念動力を振り払い、武器を手に女の前に出る。
メリティエに至っては大蛇の時のフラストレーションもあり、「やっと出番か」と嬉しそうだ。
「え、え? なに、どういうことですか?」
「あんたたちが古代魔法人が生み出したモノみたいに言ってただけで、彼女は自分が何者かなんて一言も言っていないってことよ!」
後方で頭にハテナを浮かべるよしのんにヴァルナさんも苦い顔で女を見つめる。
「でもあいつ、ダンジョンコアを魔道具にしてくれるとか自分で言ってたじゃん!」
「確かに言いましたが、それは自ら定めた役目を告げたに過ぎませんが?」
ルージュのキレ気味な叫びに、あいつ呼ばわりされは女が涼し気にのたまう。
〝嘘は言っていないが肝心の真実を言っていない〟俺も良く使う手口だが、自分がやられると気分の良いものではない。
「ですが、皆さんとは敵対するつもりは毛頭ありませんので、勘違いしないでくださいね?」
「ならばもったいぶらずに早う正体を明かしたらどうじゃ?」
ピリピリとしたイルミナさんが自身の周囲に無数の水の玉を浮かべ、攻撃態勢を取りながら呑気な口調の女に促す。
ソフトボールサイズの水の玉から漂う魔力は、かなりの水量を圧縮した物体であると予想出来る。
「待ってくださいイルミナさん、あの方に敵意が無いのは本当です!」
「リシアは何故そう言い切れるのじゃ?」
「それは、私がそう感じるからとしか……」
根拠のない確信に、リシアの言葉尻が萎む。
「それは彼女が本能的に理解しているからでしょう」
「あんたにリシアの何が分かるんだ?」
リシアに対してまるで慈母のような目を向ける女の態度に、つい語気が荒くなる。
「彼女は私に祈りを捧げ、私は彼女たちを慈しむ存在だからです」
「どういうことだ?」
「ありのままの意味ですよ」
「トシオ様、彼女は――いえ、この御方は、レイティシア様です」
女の存在を察したのであろうリシアがその場で座り、土下座姿勢で平伏する。
リシアだけでなく、フィローラやアレッシオなど他の何人かも同様に習う。
レイティシア、どこかで聞いたこと有るような?
「おいおい、それは本当かよ……」
チャドさんが女に穂先を向けたまま周囲の様子に困惑し、ザァラッドさんがその槍を手で押し下げさせた。
「モーディーンさん、レイティシアって誰なんですか?」
「地母神レイティシア、大地と俺たちの御先祖様を生み出したって言われている女神様ですにゃ」
まだリベクさんの家でお世話になっていた頃、リシアにプリーストのジョブを付けた時に出てきた名前だ。
ルージュのキンキン声を背後に受けるモーディ-ンさんの言葉に、2ヵ月前にその名を耳にした際のことを思い出す。
よく見ると、頭を垂れているのは主にプリースト系のジョブを有している獣人や亜人種の仲間たちだった。
「……マジか?」
「肯定です。人に虚偽を告げる行いは、私共にとって神格を堕とす行為です。神格の穢れは自身の衰退に繋がり、たとえ長き年月に渡り魔素を流し続ける悪神ラートゥースですら行わないでしょう」
この神が本当にレイティシアなる者なのか、また神は本当に嘘を付かないのかを仲間たちに念話で尋ねると、リシアが『神聖魔法の使い手が己の信仰する神様を見誤ることなどあり得ません。目の前の御方は常日頃より私の祈りに応えて奇跡を示してくださるレイティシア様ご本神です』と断言し、イルミナさんからは『〝神が格下の者に嘘をつくことは自身の神格を相手に明け渡すに等しい〟と文献で読んだことがある』と教えてくれた。
プリーストから派生する近接戦闘ジョブであるモンク系であるメリティエもそのことが分かっているのか、話の流れからあからさまにつまらなそうな顔をし親友と雑談に興じる。
出っ歯エルフのアーヴィンに至っては、躊躇うことなくリュートを取り出し奏でだした。
『メリーは戦神を崇めておるゆえ、他所の神に興味がないのじゃろう』
イルミナさんが実の娘の無関心さに呆れてため息を漏らす。
自分の興味が無いモノにはトコトン無関心なのは母娘で似ているなぁ。
「私に偽りが無いことの確認は取れましたか?」
「ええまぁ。……ならなんで最初に名乗らなかったんですか?」
リシアが敬う神様なのだからと一応は敬語に戻す。
「魔素を流しているかもしれない存在が〝魔道具の作成を手伝う〟などと、貴方なら素直に信じますか?」
「確かに、信じる信じないで言えば信じないわなぁ。……って、またはぐらかそうとしてます?」
「勘のいい坊やですこと」
レイティシアはまだ手助けする〝理由〟を言っていない。
彼女の嘘は言えないが本音も言わない話し方には注意が必要だ。
「さっきの今で、いくら何でも馬鹿にしすぎでしょ。理由と目的を明確にしてください」
「私の目的はこの忌まわしき封印から解放されることにあります。そのためには神の力を吸い上げるこの設備をダンジョンの最奥にまで到達しうる実力の持ち主に破壊して頂けたらと思っております」
「でも人間って恨まれてるんですよね?」
「1柱にはですが」
「例のラートゥースって神様ですよね?」
「はい」
「……それで、魔道具を作るのに手を貸す理由ってのはなんなの?」
「恩を売っておけば心象が良くなるかと思いまして♪」
女神様が正直すぎて苦笑いしか出なかった。
力を奪うために封印されたなんてひどい話に同情を禁じ得ず、封印を解いてやりたいのもやまやまではある。
けど万が一神々が報復に乗り出した場合、星を造りだせる程の相手を俺がどうこう出来るはずもない。
申し訳ないがこのまま封印されていてほしいというのが本音ではある。
しかし――
「トシオ様」
リシアが神の願いをかなえてほしいと眼差しで訴えてくる。
猫神様なんてオリジナルマイナー神なるものを信奉している猫原理主義者としては、信奉する神の願いを聞き届けたいというリシアの想いはよくわかる。
話の内容から察するに、封印されているのは〝神々〟なんだよなぁ。
リシアの気持ちはわかるけど、こればかりは……。
2つの国家とそこに住む人々を戦争の被害から守るための手段を得るためにここに来た。
にも拘わらず、この世界に住む人々すべての運命を左右する行動を俺たちで決めるなど、行動原理が矛盾し過ぎている。
自己矛盾極振りはいくら何でもダブルスタンダードに過ぎだ。
手の中の金属球、ダンジョンコアに映る湾曲した自分の顔を見つめながら、ノーリスクで神様を開放する方法はないかと悶々とする。
他の皆も同じように悩み、念話でどうすればよいかと会議を始める。
「それでですね、私としましてはこの封印術式を反転させ、1ヵ所ずつ無力化して頂くのが回り道ながら安全な方法であると提案します」
会議する俺たちに、女神が願望のプレゼンを始めた。
「ちなみに安全じゃない方法ってあったりするんですか?」
「手っ取り早いものですと、ダンジョンコアを用いて魔素を増幅させ、世界中のダンジョンに溜まった全ての魔素を共鳴爆発を引き起こします」
一度に全世界の地下で大爆発か、なかなか豪快な解決法だなぁ。
「それを実行するとして、どれほどの被害が予想されますかにゃ?」
「ダンジョンはそれこそ世界中に存在します。それらが同時に吹き飛ぶということは、地表全てが爆発で捲れてしまい、陸地の大半が海に沈むこととなるでしょう」
モーディーンさんの問いにレイティシアがニコニコ顔で恐ろしい可能性を口にした。
「……みんな、今のは今後一切、絶っ対他言無用でお願いします!」
「そ、そうね、世界を滅ぼそうとするヤツが現れ無いとも限らないものね!」
「万が一にも外に漏れては一大事です! 盗聴の危険も考慮し、このようなことは例え念話であろうと話題に出すべきではありません!」
俺の戒厳令にヴァルナさんがその危険性を示唆し、ユニスが隠匿を主張する。
ウィッシュタニア王城襲撃時、念話の盗聴が出来てしまっただけに、ユニスの意見には俺も大賛成だ。
しかし、このダンジョンコアを用いてバラドリンドの6勇者に対抗しうる力を得つつ、封印を解いても問題ない手段は無いものか……。
二頭追う者はという言葉が脳裏に過ぎると、ルージュがレイティシアに近付いていく。
「ねぇ、神様ってさぁ? これに閉じ込められてるんだよね?」
「肯定です」
石碑をぺちぺち叩きながら訪ねるルージュに神が頷く。
「だったらさぁ、なんでいま出てこれちゃってるワケ?」
神を前にして物怖じしない物体の確信を突く発言で戦慄が走る。
「言われてみれば確かに謎だ」
「それはですね、ダンジョンコアに蓄えられるマナの限界を超えていましたので、そこからあふれるマナの僅かな隙間に神格の一部を滑り込ませたからですよ。ですが我々の力を利用した封印術式はあまりにも強力なため、こうして姿を投影するのが限界でした」
つまり、自分の力で自分を押さえつける仕組みだから、大きいな力を持つ存在ほど抜け出せない封印ってことか。
しかも封印されたら力を抜かれる訳だから、どう足掻いても脱出不可能とか、えげつないもん作るなぁ。
「レイティシア様、マナを使って御自身で脱出することは出来ないのでふか?」
「神が扱えぬよう調整された力が〈マナ〉なのです。仮に封印が解かれればマナに干渉する術を見つけられるやもしれませんが、今の私ではこうして姿を投影し、皆さんと語らうのが精いっぱいなのです」
隙の生じぬ二段構えどころか三段構えってか、良く出来た封印ですことっ。
その後はあーでもないこーでもないとひとしきり悩み抜いた末、〝今はバラドリンドの問題に全力で集中し、問題解決後に今回のことを考えよう〟という結論に達してダンジョンを後にした。
「トシオ様? なぜ新しい女性が増えてらっしゃいますの?」
帰宅後、クラウディア王女が開口一番で映像の女神を指を指す。
「他人様を指差すんじゃありません」
なんで付いて来ちゃうかなぁこの女神様は。
てか王女様が一般家庭のお家に居るのも十分おかしいことだからな?
神様を人というのも間違ってるけど。
「ふつつか者ですがどうぞよしなに♪」
「こちらこそよろしくお願いしま――ってそうではありません! トシオ様がそうやってわたくし以外の女性を側室に加えるのでしたら、わたくしにも考えがありますわ!」
美しいお顔の眉間にシワを寄せたクラウディアが謎の宣言と共に踵を返すと、そのままワープゲートで繋がっているアイヴィナーゼ城の自室へと去っていった。
「なにやら誤解が生じておりますが大丈夫ですか?」
「えぇまぁ、ぶっちゃけ彼女はただの客なので気にしなくて大丈夫です」
「トシオ、さすがにそれはあんまりだろ」
俺のぞんざいな言いぐさに珍しくメリティエにツッコまれ、振り返ると他の女性たちも頷き合っていた。
解せぬ……。
「いつまで玄関に留まる気じゃ、早う入らぬか」
「ささ、レイティシア様には窮屈なことと存じますが、どうぞ2階をお使いください」
イルミナさんに促され、リシアが神様を我が家の2階へと案内する。
今は誰も使ってない2階をすぐ案内できる状態に保全されている我が家の行き届きっぷりに少し驚かされた。
それ以前に神様が居る家ってのもどうなんだろうな。
なんだかとんでもない展開に、昼食を前にしてどっと疲れが押し寄せた。
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