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197話 剣鬼の帰還
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「小僧、貴様の全力を俺に見せてみろ!」
「言われなくてもそのつもりだ、銀の腕よ!」
バレンティンの握るアーティファクト〈スターセイバー〉に、第二王子が使ったイフリートザッパーを遥かに凌ぐ威圧感を宿した巨大なエネルギー刃となる。
こちらも負けじとMPを総動員し、光の魔法へと転換する。
「我振るうは光の神剣、不敗の魔剣!」
口上と共に膨大な光を集約し一振りの剣と成す。
「ミーティアライト――」
「クラウ――」
互いに光の剣を振りかぶったところで、バレンティンの光刃が城壁のような分厚さに膨れ上がったのを見て悪寒が走る。
同じ光属性でもこちらは消滅エネルギーなのに対し、向こうは純然たる破壊エネルギー。
消滅エネルギーは触れた物体を文字通り消滅させるが、破壊エネルギーは対象物を熱量で削り、余ったエネルギーが膨大なら行き場を失い爆発する。
このままクラウ・ソラスを散弾としてぶつけた場合、圧縮して放つ魔法の性質上、交わった破壊エネルギーを消滅させる自信はある――が、面積的に全てを削るのはどう考えても不可能だ。
あれほど膨大なエネルギーともなると、削り切れなかったエネルギーをエインヘリヤルの魔法装甲で防ぎきれるとは到底思えない。
「――ブレイカー!!!」
「―――ソラス!!!」
バレンティンが技名の如く、隕石をもぶった斬りそうな分厚い光刃を振り下ろした。
それと同時にこちらも振り下ろした光刃を無数の散弾として飛び散らせる。
だが俺が振るうのは不敗の魔剣。
自信があるからこそ、ここぞという時に用いる全力全開の必殺魔法。
クラウ・ソラスと名付けた以上、この魔法を用いての敗北など剣に対する冒涜でしかない。
なら、不敗の不敗たる所以をみせてやる!
精一杯の強がりと共に弾けた無数の光弾はすぐさま軌道を変えると、光の群体は俺を中心に高速周回を開始。
一部の隙も無い光の繭を形成する。
その直後、光の繭はバレンティンから振り下ろされた光の柱にのみ込まれる。
破壊エネルギーの奔流が光弾の繭に触れた途端、〝バジュジュジュジュジュジュジュ!〟と溶接工事の様な音が大音量で轟いた。
防げ……たか?
クラウ・ソラスの防御転用で咄嗟に浮かんだのは、天使戦で行った〈ブリージンガメン〉を用いての全周囲防御だった。
だが物量で阻むための簡易魔法盾とは違い、高密度の消滅エネルギーは砕けることなく恐ろしいまでの鉄壁ぷりで光の柱を寄せ付けなかった。
それでも止まらない攻撃と恐ろし気な接触音のせいで命を握られているような感覚に陥る。
あまりの恐怖に冷や汗で濡れた服が全身に張り付き、発狂して叫びたくなるのを歯を食いしばって必死で堪えた。
「勇者の宝具、聖剣スターセイバーの最大出力を持ってしても尚破れない技、だと……!? 馬鹿な、有り得ん!」
それを目の当たりにしたバレンティンが、絶望感のこもった声を漏らす。
必殺技とは、〝必ず殺す〟と書いて必殺技だ。
それには使用者の絶大な自信と強い意志が込められており、正面から技が破られるということは、繰り出した相手の〝必殺の決意〟その物まで打ち破ることに他ならない。
「まだですバレンティン様!」
「我らの力で今度こそ奴を仕留めるぞ!」
「魔法隊、攻撃の手を緩めるな!」
技がぶつかり合う余波で溶けた氷から出てきた騎士や魔法使いたちが、それぞれ最大出力の攻撃技をぶっ放すも、光の繭が衰える様子はなかった。
やがてウィッシュタニア陣営から放たれていた全ての攻撃が終息を迎えると、こちらも光弾の回転速度を落とし光の繭を解除する。
「まぁこんなものか」
こんなん〝絶対破れない防御壁だ〟って神様に太鼓判押されても二度とごめんだわ。
「我々の全力を受け切っただと!?」
「あの攻撃を受けて無傷というのか!?」
「これが勇者の力」
「化け物め……」
騎士たちは愕然となり立ち尽くし、玉座の付近に居る者たちも目の前で起きたことを信じられないとざわつく。
自ら全力の攻撃魔法を放っていたランペール王太子に至っては、へなへなと地面にへたり込んだ。
「何だその馬鹿げてた魔法は……!」
宝具に力を注ぎ切ったのか、バレンティンが憔悴を露わに息を切らせ、枯れた声を絞り出す。
俺の持つ戦略、物量、魔法の全てをもってしてやっとこれなのだから、お前の方がなんなんだと言いたくなるわ。
こと戦闘力に関してだけは、目の前の男を称賛せざるを得ない。
「大口叩いてたけど、案外大したことなかったな」
内心とは裏腹に、相手の戦意を挫ためく嘲り交じりの強がりを吐き出すも、その必要はなかったように全員の表情がお通夜モードに突入し、俺の周囲で旋回する光弾の群泳を死神の鎌でも見るように震えながら見つめていた。
クラウ・ソラスの維持が解ける前にさっさと〆ておこう。
光弾をバレンティンへ向けようとした次の瞬間、左の壁に無数の斬撃からなる亀裂が走って崩壊。
崩れた壁から巌の如くがっしりとした体格に全身鎧の老人が現れた。
その背には分厚く巨大なグレーターソードを背負っていた。
ちっ、よりにもよってMPが尽きたこのタイミングで戻ってきやがったか。
「ウィッシュタニアの精鋭が、たった1人になんたる様か」
いかつい顔の老人が、瞳に鬼火を宿した鋭い眼光で室内を一瞥し、冷淡に吐き捨てる。
その周囲には硬質ガラスの様な魔法剣が7本浮遊し、背後には50名ほどの騎士たちが続く。
「ヴィクトル将軍!」
「八角の鬼神、ウィッシュタニアの守護神のご帰還だ!」
「剣鬼ヴィクトル様の絶技がついに拝めるのか……!」
絶望から一転、生者たちが歓喜と期待の声で男を迎えると、老将は部下たちを引きつれ軍靴を鳴らして入室した。
醸し出される気迫はバレンティン以上であり、まさに鬼気迫ると形容するしかない底知れない危険さを感じ取る。
クソが。
ここにきてバレンティンと同等かそれ以上の使い手とか冗談も休み休みにしろよ。
最悪のタイミングで現れた真打に、戦況の雲行きが怪しいことを強く意識した。
「言われなくてもそのつもりだ、銀の腕よ!」
バレンティンの握るアーティファクト〈スターセイバー〉に、第二王子が使ったイフリートザッパーを遥かに凌ぐ威圧感を宿した巨大なエネルギー刃となる。
こちらも負けじとMPを総動員し、光の魔法へと転換する。
「我振るうは光の神剣、不敗の魔剣!」
口上と共に膨大な光を集約し一振りの剣と成す。
「ミーティアライト――」
「クラウ――」
互いに光の剣を振りかぶったところで、バレンティンの光刃が城壁のような分厚さに膨れ上がったのを見て悪寒が走る。
同じ光属性でもこちらは消滅エネルギーなのに対し、向こうは純然たる破壊エネルギー。
消滅エネルギーは触れた物体を文字通り消滅させるが、破壊エネルギーは対象物を熱量で削り、余ったエネルギーが膨大なら行き場を失い爆発する。
このままクラウ・ソラスを散弾としてぶつけた場合、圧縮して放つ魔法の性質上、交わった破壊エネルギーを消滅させる自信はある――が、面積的に全てを削るのはどう考えても不可能だ。
あれほど膨大なエネルギーともなると、削り切れなかったエネルギーをエインヘリヤルの魔法装甲で防ぎきれるとは到底思えない。
「――ブレイカー!!!」
「―――ソラス!!!」
バレンティンが技名の如く、隕石をもぶった斬りそうな分厚い光刃を振り下ろした。
それと同時にこちらも振り下ろした光刃を無数の散弾として飛び散らせる。
だが俺が振るうのは不敗の魔剣。
自信があるからこそ、ここぞという時に用いる全力全開の必殺魔法。
クラウ・ソラスと名付けた以上、この魔法を用いての敗北など剣に対する冒涜でしかない。
なら、不敗の不敗たる所以をみせてやる!
精一杯の強がりと共に弾けた無数の光弾はすぐさま軌道を変えると、光の群体は俺を中心に高速周回を開始。
一部の隙も無い光の繭を形成する。
その直後、光の繭はバレンティンから振り下ろされた光の柱にのみ込まれる。
破壊エネルギーの奔流が光弾の繭に触れた途端、〝バジュジュジュジュジュジュジュ!〟と溶接工事の様な音が大音量で轟いた。
防げ……たか?
クラウ・ソラスの防御転用で咄嗟に浮かんだのは、天使戦で行った〈ブリージンガメン〉を用いての全周囲防御だった。
だが物量で阻むための簡易魔法盾とは違い、高密度の消滅エネルギーは砕けることなく恐ろしいまでの鉄壁ぷりで光の柱を寄せ付けなかった。
それでも止まらない攻撃と恐ろし気な接触音のせいで命を握られているような感覚に陥る。
あまりの恐怖に冷や汗で濡れた服が全身に張り付き、発狂して叫びたくなるのを歯を食いしばって必死で堪えた。
「勇者の宝具、聖剣スターセイバーの最大出力を持ってしても尚破れない技、だと……!? 馬鹿な、有り得ん!」
それを目の当たりにしたバレンティンが、絶望感のこもった声を漏らす。
必殺技とは、〝必ず殺す〟と書いて必殺技だ。
それには使用者の絶大な自信と強い意志が込められており、正面から技が破られるということは、繰り出した相手の〝必殺の決意〟その物まで打ち破ることに他ならない。
「まだですバレンティン様!」
「我らの力で今度こそ奴を仕留めるぞ!」
「魔法隊、攻撃の手を緩めるな!」
技がぶつかり合う余波で溶けた氷から出てきた騎士や魔法使いたちが、それぞれ最大出力の攻撃技をぶっ放すも、光の繭が衰える様子はなかった。
やがてウィッシュタニア陣営から放たれていた全ての攻撃が終息を迎えると、こちらも光弾の回転速度を落とし光の繭を解除する。
「まぁこんなものか」
こんなん〝絶対破れない防御壁だ〟って神様に太鼓判押されても二度とごめんだわ。
「我々の全力を受け切っただと!?」
「あの攻撃を受けて無傷というのか!?」
「これが勇者の力」
「化け物め……」
騎士たちは愕然となり立ち尽くし、玉座の付近に居る者たちも目の前で起きたことを信じられないとざわつく。
自ら全力の攻撃魔法を放っていたランペール王太子に至っては、へなへなと地面にへたり込んだ。
「何だその馬鹿げてた魔法は……!」
宝具に力を注ぎ切ったのか、バレンティンが憔悴を露わに息を切らせ、枯れた声を絞り出す。
俺の持つ戦略、物量、魔法の全てをもってしてやっとこれなのだから、お前の方がなんなんだと言いたくなるわ。
こと戦闘力に関してだけは、目の前の男を称賛せざるを得ない。
「大口叩いてたけど、案外大したことなかったな」
内心とは裏腹に、相手の戦意を挫ためく嘲り交じりの強がりを吐き出すも、その必要はなかったように全員の表情がお通夜モードに突入し、俺の周囲で旋回する光弾の群泳を死神の鎌でも見るように震えながら見つめていた。
クラウ・ソラスの維持が解ける前にさっさと〆ておこう。
光弾をバレンティンへ向けようとした次の瞬間、左の壁に無数の斬撃からなる亀裂が走って崩壊。
崩れた壁から巌の如くがっしりとした体格に全身鎧の老人が現れた。
その背には分厚く巨大なグレーターソードを背負っていた。
ちっ、よりにもよってMPが尽きたこのタイミングで戻ってきやがったか。
「ウィッシュタニアの精鋭が、たった1人になんたる様か」
いかつい顔の老人が、瞳に鬼火を宿した鋭い眼光で室内を一瞥し、冷淡に吐き捨てる。
その周囲には硬質ガラスの様な魔法剣が7本浮遊し、背後には50名ほどの騎士たちが続く。
「ヴィクトル将軍!」
「八角の鬼神、ウィッシュタニアの守護神のご帰還だ!」
「剣鬼ヴィクトル様の絶技がついに拝めるのか……!」
絶望から一転、生者たちが歓喜と期待の声で男を迎えると、老将は部下たちを引きつれ軍靴を鳴らして入室した。
醸し出される気迫はバレンティン以上であり、まさに鬼気迫ると形容するしかない底知れない危険さを感じ取る。
クソが。
ここにきてバレンティンと同等かそれ以上の使い手とか冗談も休み休みにしろよ。
最悪のタイミングで現れた真打に、戦況の雲行きが怪しいことを強く意識した。
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