四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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190話 ウィッシュタニア城攻略戦その6

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・ウィッシュタニア城:玉座の間


「殿下、賊の討伐に向かわせた者らとの連絡が途絶えました」

 外からの攻撃は未だ止まず、魔法の照明が燈る豪華なシャンデリアが大きく揺れる中、ウィッシュタニアの老将ヴィクトルが恭しい態度でランペール第一王子に報告を上げる。

「フェンレントは何をしているのだ?」
「生存は確認出来てはおりますが、こちらの呼びかけに一切応答致しませぬ。」
「奴め、竜殺しともてはやされ浮ついているのではないか?」
「返す言葉もございません」

 若き精鋭の立て続けの失態にランペールが眉間にしわを寄せて苦言を口にすると、フェンレントの父であり近衛騎士団の団長バレンティンが息子に代わり渋い顔で謝罪する。
 謝罪を受けたところで問題の解決にはならず、苛立ちをぶつけるように今度は現場指揮官を睨んだ。

「ヴィクトル、一騎当千の近衛騎士を討伐に向わせろとは貴様の進言であったな?」
「どうやら侵入者の力量を見誤っており申した」
「どう責任を取るつもりだ?」
くなる上はワシ自ら出向き、狼藉者共を打倒して参りましょう。どうかこの老骨めに出撃の許可を!」
 
 ヴィクトルが片膝を付いて出撃を願い出ると、周囲に居た兵士達が「ついに剣鬼が動くか!?」「ヴィクトル将軍ならば侵入者など一捻りだ!」「侵入者には同情しちまうぜ」と口々に湧き上がる。

「よかろう。行けヴィクトル、行って賊共を始末しろ!」
「はっ、必ずや殿下の御前に奴らの首を持ち帰りましょうぞ!」

 返事と共に老将が力強く立ち上がると、さらに大きな歓声が上がる。
 だがそんな彼の出撃に待ったをかける者が居た。

「お待ちください、ヴィクトル将軍に離れられてはこの場の守りが手薄になります!」

 ヴィクトルの背後から口出ししたのは、第三王子の元副官である黒髪の青年クロードだった。

「陛下の御前であるぞ無礼者! ここにはワシと渡り合える近衛騎士団長のバレンティン、それに鍛え抜かれた猛者達が居るのだ、例え勇者相手であろうと後れなど取らん!」

 ヴィクトルがクロードの顔を強く殴ると、青年は盛大に吹き飛び壁に叩きつけられた。
 国王の近くに立つバレンティンも、侮蔑の視線をクロードに向けている。
 崩れ落ちるクロードにヴィクトルが近付き、その腹目がけて蹴りを入れる。

「それと、貴様のような主君を裏切るクズが我々に意見するなどおこがましい、若造がしゃしゃり出るでないわ!」

 更に2発3発と蹴りを入れると、ヴィクトルは倒れたクロードに唾を吐きかけ玉座の前に戻って来る。
 
「御目汚し失礼致した」
「奴は貴様の預かりであろう、飼い犬の躾くらいしておけ」
「申し訳ございませぬ」
「もうよい、早く行け。だが呼ばれたらすぐに戻ってこい。賊を確実に始末する」
「……なるほど、流石は殿下、キモが据わっておられる」

 老戦士がランペールの意図を察し口角をにやりと上げるも、ランペールは不機嫌そうにふんっと鼻で息を吐く。

「世事は良い。さっさと行け」
「御意」

 だがすぐには出口へと向かわず、壁に手をついて立ち上がるクロードへ鋭い眼光を向けた。

「クロード、貴様も付いて来い」
「私も、でありますか?」
「当然だ。貴様のような裏切り者を殿下のそばになど置いておけるか。信を得たくば賊の1人でも始末してみせろ」

 胡乱うろんげな眼差しでそう告げると、周囲からも〝我が身可愛さに主人を売った卑怯者〟へ侮蔑の言葉が囁かれる。

「……かしこまりました」

 ばつの悪そうな顔で一礼するクロードから視線を外すと、その分厚い脚を玉座の間の正面扉へと進める。
 そこへ屈強な騎士や兵士数名が駆け寄ってきた。

「閣下、我々もお供します」
「うむ」

 男達へぶっきらぼうな短い返事で了承を告げると、玉座の間を出た時には騎士や兵の数は50を上回った。



 なんてもんは周囲と共有化された複合索敵魔法〈フリズスキャールヴ〉で、会話内容も含め全てマルっとここに居る全員に筒抜けである。

「今頃バトルマスターとマナロードの混成部隊を作ってお出かけか、リシア達の排除と玉座の間に俺が来た時の挟撃を兼ねているとはいえ、それで戦力の分散と逐次投入って馬鹿なの死ぬの?」

 とはいえ50人強の大隊となると脅威でしかない。
 そして50人も抜けてまだ兵や騎士が大勢いる玉座の間の広さと人口密度に辟易する。

 リシア達を引き上げないとだな。

「待ってください、部隊の動きが妙です」

 フリッツに言われヴィクトル率いる別動隊の動きに注視すると、1階に降りた大隊は兵舎前の広場に陣取り腰を据えた。

 ……何がしたいんだ?
 しかも自分で散々蹴りを入れた男の治療まで始めやがった。
 さすがに怪我をしている人間を戦闘に参加させられないってか?

「相手は隣国バラドリンド教国の侵攻を数十年にわたり退け続けた百戦錬磨の英雄ヴィクトル。無策であるはずが無い」

 第三王子の私兵を束ねる大隊長のダンクマールが、いぶかしみながら手で髭の生えた顎を擦る。

 玉座の間の戦力をわざと減らして国王と第一王子を囮にしつつ、俺が玉座の間に現れたところを挟撃する……いや、流石にそれは無いだろ。
 守るべき要人を囮とか正気の沙汰ではない。
 それに現在進行形でリシアやユニス達が暴れているのだ、それを放っておけば兵達の士気にも影響が出る。

「これはトシオ様を待ち構えているのやもしれませんな」
「自らが囮という訳か」

 確かにダンクマールの言う通り、周辺被害を避けるために敢えて開けた場所を選んだとも取れる場所ともいえる。
 要人という守らなければならない対象が居ないのは、足かせが無い状態と同じだ。

「――けど、逆に言えば各個撃破の好機だな」

 別動隊の居座る場所には人質が居ないのだ。
 ピンポイントで爆撃し、別動隊を先に始末してから玉座の間にお邪魔しようか。
 今こそ後衛魔法使いの本領発揮の時である。

 行動を開始する旨を伝えようと立ち上がったその時、フリッツが念話で交信を始めた。
 交信相手は捕まっているエルネスト第三王子だ。

「……トシオ様、エルネスト殿下から再度連絡が来ました。投降も出頭しないのならば今すぐ処刑を開始するとのことです」

 エルネスト経由のランペールによる最後通告だった。

「ちっ、別動隊から始末してやろうと思った矢先にこれか」
「これ以上はさすがに〝応じるそぶり〟での先延ばしは通用しませんな」
「もっと早く行動に移すべきだったか」

 観察に集中しすぎて奇襲するタイミングを逃してしまったと言わざるを得ない。
 そこでふと、ヴィクトルの〝なるほど、流石は殿下、キモが据わっておられる〟の言葉の意味に気が付いた。

 なるほど、あいつら鼻からこれを狙ってやがったのか。
 ヴィクトルを襲撃しても本丸を攻めても予定通りの二段構え。
 状況が筒抜けでもさすがにこれは面倒くさい。
 まぁリシア達のお陰で混乱はしているし、向こうもだいぶカリカリ来ているようだから、それだけでも良しとするか。

 軍服姿で白々しく周囲を伺うふりをする味方の横から恐る恐る下を覗くと、相変わらず兵が慌ただしく動き回り、侵入者探しに躍起になっている。

 ここが見つかるのも時間の問題だな。

「ちょっと行ってくる。レスティー、俺と入れ替わりでリシア達に来て貰うから、敵に見つかったら撤収してくれ」
「はっあ~い。トシオも気を付けなさいよ~」
「おういえー」

 ウィンクするスキンヘッドの顎割れオカマへ軽く返しつつ、俺はワープゲートを開いて城へと侵入した。
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