四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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189話 ウィッシュタニア城攻略戦その4

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・ウィッシュタニア城一階北西:訓練場
 

「ぬおりゃああああああ!」
「えええええええええい!」
「どっせええええええい!」
「せやああああああああ!」
「ふんぬううううううう!」

 5人の斧と拳と鎚がぶつかり合い、激しい火花が室内訓練場を轟音と共に彩った。
 メリティエは先程の失敗を踏まえ、トトテナを起点に相手の死角から強襲する動きにシフトするも、完全に警戒され攻撃が通らなくなる。
 トトテナも装備による防御と持ち前の頑強さ、そしてメリティエとイルミナのフォローもあったが、着実にダメージを受けていた。
 しかし、バルンガルド達は自身の基本ステータスの伸びに慣れ戦いを優勢に進めているものの、内心では焦りが膨らんでいた。
 小柄な少女達が自分達とこうも渡り合っているのは、悪夢以外の何ものでもないのだ。

 勇者を擁しているとはいえ、これが本当に一介の冒険者なのか?
 情報では国の後ろ盾を得ていないというではないか。
 ならばレベルでは明らかに我々が上、ましてや人数と戦闘経験でも勝っているはずがなぜ崩せない!

 などと考えておるのだろうのう。

 そんな男達の内心の焦りを、よわい300に近い美女が見透かしながら魔法での全力支援に回っていた。
 能力と前衛の数的振りな状況に対し、イルミナは様々な補助魔法で娘達の能力を底上げし、相手の手数の多さには小さな魔法の盾を生み出して防ぎ、防御を抜けたダメージも即座に回復魔法で治癒を施す。
 そんな状態だからこそ、トトテナもメリティエも行動不能になるような攻撃を防ぐ動きをしていた。

 されどジリ貧じゃのぅ。
 攻撃魔法で倒せぬ相手を倒す魔法……穴でも掘って埋めるかえ?
 
 だが地面は石敷きな上に強固な防御魔法が城全体に施されており、クリエイトアースをもってしても掘れなくなっている。

「少女一人倒せないとは、俺が今までやってきた筋トレでは不十分だというのか!」
「焦るなナッツァー、あれらを見た目で判断しては足元をすくわれるぞ。それに、血の滲む筋肉努力が我々を裏切ることはない!」
「しかしバルンガルド様……!」
「落ち着けナッツァー、バルンガルド様の言う通りだ。あれは修羅道に足を突っ込んだ者共、我らマッスルラヴァーズの相手として不足無しと肉体的に判断する!」
「そうだったなロナイス、俺としたことがつい筋肉に弱気になってしまっていた」

 仲間の励ましに奮い立つナッツァー。
 戦いや会話の合間にいちいち肉体を誇示するようなポーズを決める彼らを眺めるイルミナが〝筋肉努力? 筋肉に弱気とはなんじゃ?〟と頭をひねる。

「だがこのままでは埒が明かん、そろそろアレを使うぞ」
「なっ、アレをやるのでありますかバルンガルド様!?」
「ぶっつけ本番でアレは危険すぎるのでは!」
「なぁに、隆々なる筋肉の絆で結ばれた我々ならば必ず成し遂げよう!」
「そうだ、今の我々ならば!」
「やれるはず、否、出来るに決まっている! 筋肉もそう告げておるぞ!」

 バルンガルドの全力ポージングからの激に意を決したロナイスとナッツァーが頷くと、バルンガルドから一歩前に出て右にナッツァー、左にロナイスが位置に着く。
 互いを信じあう熱き漢達の信頼と、上下関係を超えた友情がそこにあった。

 我は一体何を見させられておるのだ?

 主語の欠けた会話で盛り上がるビルダー達に、イルミナは顔全体にわずらわしさを浮かべる。

「少女たちよ、我らの筋肉から生まれた必殺コンビネーションを受けてもらうぞ!」

 そう宣言したバルンガルドが前傾姿勢を取った次の瞬間、流れるような動きと残像が尾を引くほどの速度で急加速。
 危険を感じたメリティエが咄嗟に回避するも、逃げ遅れ補足されたトトテナの腹部に斧が叩き込まれた。
 吹き飛ばされるトトテナの背後には既に待ち構えていたロナイスが戦鎚で打ち返し、更に飛ばされた先で構えていたナッツァーが拳を振るって弾き飛ばした。
 3人が目まぐるしい速度で位置を変え、されるがままのトトテナで人間キャッチボールをしているかのようだった。

「「「マッスルデッドリィエンドォォォォォォ!」」」

 トドメとばかりに3人同時に繰り出した攻撃の直撃で、トトテナが壁に激突してようやく停止した。

「やりましたぞバルンガルド様!」
「完璧なまでの筋肉の実力を引き出した我らの三位一体攻撃、これならば雷光フェンレントにも決して遅れはとりません!」
「だがコンビネーションを意識しすぎたあまり、威力を抑えてしまったのは今後の課題か」
「つまり、我々の筋肉の伸びしろということでありますな」
「これ以上の威力が出せる、なんとも末恐ろしい肉体ですな」

 3人の男達が勝利のポージングを披露する。

「トト、いつまで寝ている?」

 そんな3人を無視したメリティエが、倒れたトトテナを見ることなく呼びかけると、呼ばれた本人もけろっと顔を上げた。

「痛かったー、でもなー面白かったー!」
「面白いで済ませるな。頑丈なのもそこまで行くと不気味さしかないぞ」
「えー、丈夫なのは良いことだってお姉ちゃん言ってたよ? ――あれ?」

 立ち上がろうとしたトトテナの体が揺れて膝をつき、口から溢れた血で床を汚す。
 
「こほっ、やっぱりすごく痛いかも」
 
 トトテナが自身の体の異変を確かめながら再び立ち上がり、メリティエの元へ戻ってきたころには足取りも確かなものに回復していた。
 そこでイルミナが小さなため息をこぼしたのを、ロナイスが見逃さなかった。

「ピンポイントの精密射撃から攻撃型の魔法使いかと思っていたが、よもや万能型であったか」

 ロナイスの気付きにバルンガルドとナッツァーもイルミナへ目を向けると、男の性でローブの下からでもはっきりとわかる豊満な胸と大きくくびれた腰にどうしても視線が集中してしまう。

「ど、どうやら御婦人を先に打倒せねばならぬようだ」
「そ、そうですな。女性といえど、手荒な真似も致し方ないでしょう」
「紳士として非常に不本意ですが」

 まじめな口調とは裏腹に、鼻の下を伸ばした3人がイルミナを視線でなめ回す。 

 騎士にあるまじき眼差しで我が肢体を汚す貴様らが、どの口でほざきおるや?
 この痴れ者め。

 イルミナが内心で罵ったところで、ふと妙案が思い浮かんだ。

 魅了耐性を持つ者であろうと、異性に魅力を感じるのは我が夫で証明済みじゃ。
 そしてこやつらも我の体に魅力を感じておるのであれば……。

「……おうおう、打倒とはあな恐ろしや。じゃがこの体は夫だけのモノ、ぬしらには指一本たりとも触れさせはせぬぞ」 

 夫を誘う際に使う甘い声色を使い、自身が捕らえられた後の淫靡いんびな展開を想像させるように手で腰から胸へとゆっくり撫で上げる。
 その動きに釣られて男達の視線も動き、最後は大きく膨らんだ胸元で停止して唾を飲んだ。

「されど我もか弱き女子おなご、屈強な男には抗えぬ。捕らえられてしもうては為す術もなく組み伏されてしまうのじゃ」

 ダメ押しとばかりに両腕で自身の体を抱きしめると、腕の隙間から大きすぎる胸がはみ出した。
 触りたくば力尽くで触ってみろと言わんばかりに男たちを挑発すると、母の意図を理解しない娘達が両者の間に割って入った。
 
「そうはさせんがな」
「なー」

 ここで2人を引き留めては気取られる。
 頭痛を押し殺したイルミナが男達へ妖艶な笑みを浮かべと、男として誘われているのだと察した男達の顔にだらしなく頬が緩む。

「御婦人は我々との取り調べをご所望の様ですな」
「ようやくこの肉体美を理解する御婦人が現れたか」
「それでは、今一度我らが筋肉の極致を披露致しましょうぞ!」
 
 イルミナの色香による淫靡な誘いにまんまと乗せられた3人が、再び前傾姿勢となり肉の弾丸として弾けた。
 残像が尾を引きながら巨漢が向ってくる。

「トト、私達もアレをやるぞ」
「おー、アレな! アレー……ってなんだっけ?」
「良いから突撃して全力でハルバードを横に振りかぶれ、後は私がやる」
「なんだかわかんないけどわかったー!」

 言われるがまま突撃を開始したトトテナの背にメリティエが立ったまま乗り込むと、小さく身をかがめその背に隠れた。
 急速に接敵する両陣営。
 トトテナが迷うことなく黄金色に輝くハルバードを横に振りかぶったが、攻撃が届くのはバルンガルド達が内側に飛び込んだ後になり、タイミング的には遅すぎた。
 案の定それを見越し、必勝の笑みで口角を上げるマッスルラヴァーズが急加速。
 体内のエネルギーを瞬間的に爆発させ、肉体の質量を最強の攻撃スキルに乗せての必殺の一撃を3人同時に繰り出した。
 一度繰り出した攻撃を止めるなど、トトテナにそんな器用なことが出来ず、このままでは直撃は避けられない。
 そんな中、勝ちを確信したもう一人が動く。

「鬼神瀑布!」

 スイング速度が遅いのなら加速してやれば良い。
 メリティエが自分の元に到達したハルバードの柄を、渾身の力を込めて蹴り込んだ。
 迷いなく振りかぶった槍斧が、背後で爆ぜるような衝撃を受けて超加速。
 渾身の打撃によって射出されたハルバードが、男達の予想をはるかに上回る速度で唸りを上げると、超速の断頭となりナッツァーの左側面を強襲。
 その攻撃にナッツァーが全身の毛穴が開くような怖気が駆け巡り、急遽防御行動を取る。
 自身の攻撃を取り止め左腕で飛んできたハルバードをガードしながら内側に潜り込むも、ガードした腕が宙に舞う。
 それでも構わず身体でハルバードの柄を受け、自爆覚悟の防御行動で仲間を守ろうとしたが、その勢いを殺しきれない。
 それに気付いた2人も咄嗟にナッツァーの巨体を背後から支え、そこでようやく断刃の一撃が停止した。
 
「ちっ」

 纏めて仕留め損ねた口惜しさからメリティエが舌打ちする。
 しかし、その瞬間をイルミナは見逃しはしなかった。
 全員が動きを止めたところに魔法で生み出した巨大な球体が、5人をまとめてのみ込んだのだ。
 球体の中は直ぐさま大量の水で満たされ、魔念動力でずぶ濡れとなったメリティエとトトテナを吐き出させる。

「なんがばっ!?」
「おぼぼぼぼ!?」
「ごばあああ!?」

 陸に居ながら唐突な水攻めにパニックを起こす大男達を入れたまま、魔法球の中の水は嵐の海となって大きくうねる。
 バルンガルド達がもがきながらも手にした得物で球体の内側から破壊を試みるも、不安定な態勢と水の抵抗で満足に武器が振るえない。
 それどころか重たい鎧と自身の筋肉が災いし、浮かび上がることすらままならなかった。

「おー、これメリーのかーちゃんがやったの? すごいなー」 
「我が本気を出せばこれくらい他愛もない。じゃが、よもや洗濯機の話がこのように役に立つとはのう」
 
 攻撃魔法が効かぬのであれば、溺れさせてやれば良い。
 魔法で生み出された即席の洗濯機が、激流で男達を洗浄した。


 しばらくして気を失った者から魔法の紐で縛り上げ、迷宮監獄へ放り込むと、イルミナの二日酔いも限界に達した。

「すまぬがそろそろ引き上げるえ」

 頭を抱えながらも時限式の爆裂魔法を周囲にセットすると、夫に帰還の連絡を入れた。 
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