四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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187話 ウィッシュタニア城攻略戦その2

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・ウィッシュタニア城3階南東:通路

 青年騎士フェンレントの握る赤き片手半剣バスタードソードが霞む度、リシア達の展開する防御壁をごっそりと刈り取られる。 

「確かに強固な防御魔法だ。だが、それだけで防げるほど、私の力は甘くは無い!」

 幾条もの赤い剣閃が空間を走り、結界が斬りつけられた場所から削られる。
 吉乃とフィローラが必死で防御壁を補修するも、執拗なまでの斬撃はフェンレントの侵攻を遅らせる以上の役目を果たせない。

「やらせるものですか! 業禍剣乱・氷天ひてん!」

 リシアが回転する氷刃を連続で放つも、そのことごとくがフェンレントの華麗な足さばきと深紅の剣で撃ち落される。
 幅3メートル、高さ4メートルの広い通路とはいえ、戦闘するには狭過ぎる空間をものともしないその動きは、その場にいた者達を戦慄させるには十分だった。

「セシル、畳み掛けなさい!」
「フレズヴェルク!」

 セシルが練り上げた魔力で凍結榴弾魔法を発動。
 通路を埋め尽くす白き大鷲が向ってきたのを、フェンレントはすぐ近くの部屋へ逃げ込み扉を閉めた。
 扉の前で炸裂した冷気の魔鳥が、極寒の波頭となって扉を吹き飛ばす。
 白い吹雪が通路を白銀の世界へ変貌させる。
 しかし、フェンレントは何事も無かったかのように隣りの部屋から姿を現した。
 男から発せられた熱で通路の氷を一瞬で溶け、フェンレントの剣の一振りで風となり大量の水蒸気を吹き飛ばす。
 共有された複合索敵魔法フリズスキャールヴで、フェンレントが部屋の窓から外に逃れ窓伝いに隣の部屋へ飛び込んだのを4人は確認している。
 だが瞬きする間に行われたその動きは、まさに神業と称するに値する素早さだった。
 
「なんなんですかあの速さ!?」
「動きに迷いが無いのが怖いわね」

 吉乃のボヤキにリシアが率直な感想を述べる。

「今のは少し肝を冷やされましたよ。氷魔法なだけにね」

 男が得意げな顔での笑えないジョークに4人の背筋が凍り付き、何とも言えない表情となる。
 
「……これは申し訳ない。どうやらアイヴィナーゼのお嬢さん方には、高度な異世界の文化〈ジョーク〉が理解できなかった様だ」

 フェンレントの上からな物言いが、さらに4人を不快にさせる。
 それに気づいているのかいないのか、フェンレントは気にした様子もなく攻撃を再開した。
 吉乃とフィローラが生み出す厚い防壁が、生み出されるそばから破壊される。

『今時あんな寒いジョークなんって、おじいちゃんの世代ですよ!』
『苛烈な攻撃だけでなく言葉による精神攻撃……、確かに今のは高度な戦術なのかも……!』
『なに馬鹿なこと言ってるんでしゅか、真面目にやってくだしゃい!』

 吉乃とセシルにフィローラがツッコミを入れながら、必死にバリアを張り男の進撃を食い止める。

『そんなことよりリシアさん、このままだといじゅれはMPが尽きましゅよ!』
『私はMPよりも体力がヤバイです!』
『ヨシノは防御を魔法に切り替えて。セシル、大技はいいから攻撃の手を緩めないで。私達ではアレに接近を許したら即終了よ』
『『『はい!』』』

 皆のMPが尽きる前に何とかしなければ。

 リシアが皆に指示を出しつつ自身も打開策を模索していると、フェンレントの攻撃が止んでいた。
 傍受した念話から、フェンレントへ『いつまで時間をかけている、さっさと片付けて早く戻ってこい!』との若い男のヒステリックな指示が聞こえてくる。

「もう帰還命令とは、我が主はせっかちで困る」

 青年騎士がやれやれと首を振る。

「お嬢さん方とは今しばらくダンスを楽しみたかった――が、最後に我が秘剣の更なる高みをお見せいたそう」

 フェンレントは右足を引き、立てた剣を両手で引き寄せた〈八相の構え〉を取ると、刀身に赤い稲光を発生させた。



・ウィッシュタニア城一階:中央広場

 目の前に迫りくる炎の渦をククテナがキャッスルウォールで受け止めるも、今まで感じたことのない圧力が防御スキルとリンクした大盾にかかる。

「っ!?」
「ちー……」 

 ミネルバが火中に凍結榴弾魔法を直接生み出し対消滅に持ち込んだ。
 2人が敵の攻撃を防ぐ隙に、ユニスが共有化された索敵魔法に引っかかった透明人間へ矢を放とうとするも、攻撃の直前に敵の存在を見失う。

「私の炎を防ぐなんて、生意気な化け物共ね」

 姿を現さない女が人種至上主義者によく用いられる侮蔑の言葉を吐き捨てると同時に、今度は背後から炎の渦が押し寄せ、再びククテナが防御スキルで防ぐ。
 ミネルバが冷気と水を混ぜた竜巻をぶつけて再び相殺しながら、半人半馬のユニスや、ケンタウロスに似た形状のみならず全身が純白の体毛に覆われたククテナ、極めつけは人頭の鳥であるハーピーな我が身を振り返る。

「見た目だけなら確かに化け物……」
「納得するんじゃない」
 
 ユニスが背後を振り返ること無くツッコミを入れたところで、両サイドから魔力反応を検知。
 ククテナ達を挟む形で巨大な光の刃が飛んできた。
 
「ウォールシールド、サテライトシールド!」

 ククテナが両腕を横に伸ばし、出現させたウォールシールドと浮遊させていたサテライトシールドで巨刃の侵攻を阻止。
 止められた巨刃が消失するも、そこに第二第三の刃が次々と打ち込まれ、〝ダガガガガガガ!〟と激しい打撃音を響かせる。
 刃の群れに壁が押し込まれるのをククテナが両腕を突っ張って堪える。
 しかし、その表情は険しくそれが攻撃の重さを物語っている。

「居場所が分からないならすべてを射抜くまで。続きなさいミネルバ、アローレイン!」
「ちー……!」

 ユニスが再び無差別範囲攻撃を放つと、ミネルバもそれに便乗して光線を放つ光属性魔法の〈レイボウ〉を四方八方に打ちまくる。
 ウィッシュタニア城の広い中庭で矢の雨が降り注ぎ光線が乱舞した。

「――っ!?」
「ちっ、なんて出鱈目なのよ!」
 
 あまりの弾幕にミライアの攻撃の手が止まる。
 どうやら逃げるのに必死の様だ。
 だがそれも一時的なもの、次はどんな攻撃を仕掛けてくるかわからない。
 
「見えない敵からの魔法攻撃とは実に厄介なものですな」
『ユニス、どうやら敵は2人です』

 ユニスがボヤクと、ククテナが念話を飛ばしてきた。

『まことですか?』
『えぇ、微かですが声が2つ聞こえたわ』

 大きな耳を忙しなく動かし周囲の気配を注意深く探る。
 
『――正面と後ろに1人ずつ。どちらも目では視えませんが、地面を伝ってくる砂を踏む足音が消し切れていません』
『精霊魔法の透明インビジブル……、あと消音サイレント……。念話が傍受できないから、ほかの妨害魔法を使ってるかも……』
『それにあの魔法攻撃となると、まるで2人のトシオ殿を同時に相手をしている様な状況ですな』

 ククテナとミネルバからの情報を元に、ユニスが現状の打開案を思案する。

「いったたたた、化け物の癖にやってくれるじゃない。だったらこっちも奥の手よ。サモンエレメンタル・ジン!」

 ミライアの力強い言葉とともに、緑色の肌をした巨大な魔神、ククテナ達の前に出現した。
 魔神の裸の上半身に下半身は荒れ狂う竜巻で、出現と同時に周囲の土や木々を巻き込み猛烈な速度で回転する。

「あの精霊からすごい魔力を感じる……」

 魔神の発する魔力の圧に、ミネルバの全身の羽毛が逆立った。

「ジンよ、あの化け物共をひき肉に変えておやり!」   
「フハハハハハハハハハハハハハ!!」
「させません、シタデルウォール!」

 巨大な魔神がバカ笑いしながら突っ込んでくるのを、ククテナが最大防御スキルで受け止めた。
 先程の比ではない圧力を分厚い防壁を太い脚で踏ん張りどうにか受け止めるも、急激な気圧の変化で強い圧迫感に苛まれる。

『これ嫌い……』
『私は、ご主人様が愛してくれる私を化け物呼ばわりするあの者が嫌いです!』
『同感です』

 圧迫感に眉根を寄せるミネルバと、珍しく不快感から怒りを露わにするククテナ。
 だが防壁はじりじりと押され、ククテナの体も連動して後退を強いられる。

「我が豪風を止めるとは何たる不遜。平伏せい!」

 ジンから発せられる風圧が増し、受け止めるククテナが険しさをにじませる。

「上位精霊だからと調子に乗るな、スパイラルショット!」

 ユニスの発射した貫通力の高い弓スキルは、ジンの胸の手前で大気の壁に阻まれ矢が風に飛ばされた。
 ミネルバからもたらされる索敵魔法の情報が、魔神の力の大きさを知らせてくる。
 相手が魔力生命体ともいうべき精霊だからこそ、その純然な力の大きさが窺えた。

「なるほど、スパイラルショット程度で打ち抜けぬわけだ。ならば」

 ユニスが魔道具袋からやじりの根元に小さな魔晶石マナクリスタルが埋め込まれた矢を取り出し弓につがえる。

「オーラアロー!」

 射撃系ジョブにもあるオーラ系攻撃力強化スキルを発動。
 魔力によって生命力を活性化させることで発生したエネルギーを、全身全霊を賭して魔晶石に注ぎ込む!
 
「一射必倒―――〈イチイバル〉!!」

 狙いを定め手元から放たれた矢はククテナの防壁を抜け、暴風をものともせずジンの胸部を通過。
 刺さった矢は実体を持たないジンの背部をすり抜け、暴風に巻かれて粉微塵となってしまった。

「無駄だ無駄だぁ! 矮小な物質界の虫風情に我が――?」

 疲労を滲ませ肩で息をするユニスを見下ろし勝ち誇った魔神だったが、体に異変でも感じたのか自身の胸を手で触って確認していると、その巨体が次第に膨張を開始した。

「なななんだこここれれれれあびゃががががが―――――!?」

 膨大に膨れた緑の風船が、限界を迎え爆散四散。
 風の魔神はマナをまき散らせし消失した。
 ユニスの放った技は、魔晶石に集約させた膨大なエネルギーを対象の内部に置き去りにし、内側から爆発させる。
 爆発を見届けたユニスが生まれたての小鹿の如く足をプルプルと震わせ、立っていられなくなりその場でうずくまる。

「お姉さま……!」
「大丈夫だミネルバ……くっ、全ての力と書いて全力とはよく言ったものだ……!」

 全力を出して生きているのだから、果たしてそれは本当に全力なのか?

 脳裏に浮かんだ自嘲気味の言葉につい口元に笑みが浮かぶ。

「へ~、ジンを倒すなんて生意気な化け物ね」
「どうするミライヤとやら、貴公の奥の手とやらは風となって消えてしまったぞ」

 魔神を退けたユニスが精いっぱいの虚勢を貫くために立ち上がる。

「大人しく投降するのであれば手荒な真似は控えるが?」
「もう勝った気でいるなんて、ホントに生意気な化け物ね!」
「なに?」
「今ので終わりだなんて、誰が言ったのかしら? サモンエレメンタル・ジン!」

 ミライアが再び巨大な緑の魔神を呼び出す。

「8,9、10体だと!? くっ、多重発動スキルマルチプルキャストか」

 1体でも持て余す魔神が群れを成す光景に戦慄が走った。
 普段物静かなミネルバが、背中であたふたと忙しなく体を動かしている。
 マルチプルキャストは勇者が習得できる一度に複数のスキルを同時に発動させることを可能にするスキルで、それはPTメンバーなら誰もがその恩恵にあずかることかできた。
 それは駆け出し冒険者である自分達が、迷宮で格上の魔物とも渡り合うことが出来た極めて優秀なスキルであり、これがあったからこそ幾度となくピンチを乗り越えることが出来た。
 そんな頼りになるスキルが今、ククテナ達の前で牙を剥むいた。



・ウィッシュタニア城一階北西:訓練場

 はちきれんばかりの筋肉を部分鎧の隙間から見せる巨漢達を前に、アダマンタイト製の全身鎧に身を包んだ四足歩行の猛獣少女トトテナが肉食獣の歩みでゆっくりと向かっていくと、これまたアダマンタイト製の部分鎧とナックルガードに棘が付いたスパイクナックルを装備したの小柄な少女メリティエがそれに並ぶ。
 少女達の後ろではローブ姿に金属製の杖を持った長身の美女イルミナが、5人の動向に注視した。
 ローブの下からでも分かるほどの巨大で豊満な胸が、身動ぎすたびに大きく揺れ動く。
 対峙する男達も、身動ぎするたびその筋肉が張り血管が浮き出る。

「我々は、筋肉を愛し! 筋肉を鍛え! 筋肉に人生を捧げる、ウィッシュタニア騎士団筋肉寵愛同好会〈マッスルラヴァーズ〉である!」
「例え女子供であろうと、狼藉者にはこの筋肉から繰り出す正義の鉄拳を叩きこむ!」
「怪我をしたくなければ今すぐ降伏することをお勧めする!」

 喋りながら巨大な戦斧バトルアックスと共にポージングを決めるバルンガルドに、自慢の拳と戦鎚をこれみよがしに見せるナッツァーとロナイス。

「尚、危険物の所持やどこの誰かを問い正さねばならぬ故、多少の取り調べはさせて貰うがな」

 バルンガルドのセリフに続き巨漢達の視線が、若き夫から魔乳と称された自身の胸に集中していることに、イルミナは激しい嫌悪感が溢れ出す。
 こういう男達の視線に慣れてはいるが、この胸を蹂躙して良いのは最愛の夫のみである。
 それを視姦するなど不愉快極まりない。
 イルミナはこみ上げる怒りに頭痛の苛立ちを上乗せして睨みつけた。

「痴れ者め、我の胸を視姦とは、まったく大した騎士団よのぅ。ぬしらが鉄拳をくれるというのであれば、我もそれ相応の報いをくれてやる故、あの世で一から騎士道を学んでやれ!」

 イルミナが自身の頭上から熱線魔砲フレアブラストを打ち込むと、直進する灼熱のオレンジを3人の男達が飛び退き回避した。
 これが戦闘の合図となる。

「バトルオゥラァ!」
「ブーストパゥワァ!」
「マキシマイズパゥワァ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ん~~なあああああああ!!」

 各々が大きな掛け声に合わせ、各種強化スキルが盛られていく。
 スキルが盛られる度に各自の身体からは大気が揺らぐ程の熱量を宿す。

 先程の威勢など放り出したくなってきたのぅ。

 敵だけでなく自身の家族にすら暑苦しさを感じたイルミナは、先程から患っている頭の鈍痛がより激しさを増した。

「いくぞお!」
「ぬおう!」
「おうりゃぁ!」
「はあっ!」
「とあー!」
 
 マッスルラヴァーズと名乗る3人がそれぞれの武器を携え、一丸となって距離を詰める。
 それに呼応してトトテナとメリリティエも負けじと疾走。
 金色の燐光を発するトトが攻撃スキルを乗せた槍斧ハルバードの一撃を男達に向けて振り下ろすも、単純過ぎた攻撃は易々と回避され何もない床に斧がめり込む。
 回避した3人の巨漢が突出したトトに狙いを定め、戦斧バトルアックス戦鎚バトルハンマーナックルダスターを振り降ろす。
 巨漢とは思えない滑らかな動きから繰り出されたバルンガルドの斧を、トトが左腕の手甲と一体となった小型の盾で力任せに受け止めた。
 残りの2人の攻撃を、トトの間に割って入ったメリティエが、ロナイスのハンマーを横から手の平で叩いて受け流し、ナッツァーの拳の小指側を殴りつけ軌道を変える。
 当然そのどちらにも攻撃スキル〈鬼神瀑布〉の強打撃が乗っていたため、鎚を持っていたロナイスの身体が大きく流れ、殴りつけられたナッツァーの拳が小指から中指にかけて陥没し穴を開けた。

「ぐっ!?」
「「ナッツァー!?」」

 右の拳が破壊され苦痛の呻きを漏らすナッツァーに、心配の声を上げるバルンガルドとロナイス。
 そこにトトが突撃の勢いを殺さずそのままロナイスの腹部にダイブし、アダマンタイト製のヘルムに覆われた頭で頭突きを打ち込んだ。
 メリティエによって受け流され、大きく逸れた鉄鎚では防御が間に合わないと諦め、咄嗟に鎚を手放した右手を割り込ませて防ぎ、後ろに吹き飛びそうになった身体を踏ん張り4メートルの後退で踏みとどまる。
 攻撃を受け止めたロナイスが、自身の右腕の骨が砕ける違和感と痛みを感じ取る。
 メリティエも自身の小ささを生かし、バルンガルドの巨体の内側に素早く潜り込むと、強パンチの連打を打ち込んだ。
 バルンガルドが戦斧の腹で受け止めるも、ドラを打ち鳴らした様な轟音が広いフロアに響き渡り、イルミナが顔をしかめて耳を塞ぐ。
 その一発一発が砲弾の如き重さを持ち、戦斧越しであるのもお構いなしに殴りつけられた衝撃は、分厚い腹筋で覆われた内臓を痛めつけられる激痛が荒れ狂う。
 溜まらずバルンガルドが後方に飛んで逃れるも、更なる追撃を掛けようと迫るメリティエ。
 バルンガルドが攻撃スキルによる衝撃波の薙ぎ払いで牽制をすと、黒髪の少女が後退を余儀なくされトトの隣りへ舞い戻る。
 今度はロナイスが反撃に動こうとしたところへ、イルミナのアイシクルスピアの氷槍が飛来し、バルンガルドの防御スキルがそれを阻止。
 防御スキルに氷の槍が突き刺さるも、貫通することなく停止した。
 おまけとばかりに新たな氷槍を追加するが、一向に防御スキルを突破できない。

 魔法があやつに到達する前に威力落ちておるかえ?

 そこでイルミナは先程感じていた疑念を確信に変えた。

 魔法の威力を弱めるなんぞやを使うておるな。
 アイテムか魔法かはたまたスキルか。

 探知魔法と鑑定のハイブリット魔法を走らせると、男達の鎧に魔法減衰効果が付与されていた。

 あの鎧のせいか。
 これでは我の魔法は普段の5割程度しか発揮出来ん。
 忌々しい、これでは牽制にしかならぬではないか。

 体調不良に加えて面倒くささから、イルミナが軽い眩暈めまいよおす。

「バルンガルド様、こやつら見た目以上にやりますぞ」

 ロナイスが折れたはずの腕を動かし感触を確認しながらも、相手から目を放さずに告げる。
 バルンガルドがそれを聞きながら、自身のバトルアックスを確認した。
 幅広で分厚い両刃の大斧に、少女が乱打したスパイクナックルの痕が無数に刻まれている。
 父の形見であり、特殊鋼の中では極めて硬度の高いドラゴンメタル製のバトルアックスがこうも容易く変形させられようとは。
 更に獣少女による最初の一撃で破壊された床に目お向ける。
 この城は古代魔法人の技術で作られた破壊不可能な床であることを思い出し背筋が凍る。
 たった一度の打ち合いだけで、彼女達の実力の底知れなさを感じ取ったバルンガルドが、口から垂れた血を拭い、口内の血を床にプッと吐き捨てる。

「ぐうう、女子供と思って侮っていたが、よもや我らマッスルラヴァーズのトップビルダーと互角に渡り合う剛の者とはな……、だが次こそは仕留めてくれる!」
「例え少女であろうと、相手にとって不足無し!」

 その横にナッツァーが並ぶと、自身の陥没して手に深く食い込んだ手甲を無理やり引き剥がし、ナックルダスターを握り直す。
 見るからに痛そうなその行為を、躊躇うことなくやってのけた。

「ナッツァー、やれるか?」
「少し骨がずれただけであります。これしきの怪我ならば……はっ!」

 骨を元の位置に戻してから力を籠めると、潰された拳が元の形状に戻り、肉がうごめきながら傷が再生を開始した。
 ちょっと骨がずれただけでは済まされない怪我が、目に見えて修復されていく。
 余りにも異質な回復力に、イルミナが目を細めて注視する。
 自分達の魔法やスキルがジョブシステムの枠を超えたように、彼らもまたジョブ以外で回復スキルを習得しているのであろう。

 早めにケリを付けた方が良さそうじゃ。

 だがイルミナの心境とは裏腹に、娘達は明らかにこの状況を楽しんでいた。

「見ろメリー、あいつらすげーなー!」
「増々壊し甲斐がある」

 けもの娘と黒髪の少娘が、少女とはかけ離れた獰猛な笑みを浮かべて目を光らせる。
 さながら魑魅魍魎ちみもうりょう悪鬼羅刹あっきらせつの類であった。
 互いに再突撃の心構えが完了すると、5人は再び走り出す。
 トトテナがまたも突撃からの振り下ろし攻撃。
 男達が散開して躱したが、それを見越していたトトテナの斧が直角に軌道を変化、薙ぎ払いがトトテナの右に飛んで避けたバルンガルドを強襲する。
 この攻撃は回避行動中で躱すに躱せない。
 まともに受けてはいけない類の攻撃だと断定したバルンガルドは、バトルアックスでトトテナのハルバードを下から上に弾き、自身は足で自重を支えるのをやめ床に倒れた。
 トトテナの槍斧は特殊鋼最高硬度の鉱物でできたバトルアックスの一部を欠けさせるも、軌道をずらされ大きく空ぶった。

「ハードクラッシュ!」

 空振りで出来た大きな隙にナッツァーが飛び込み、トトテナ目がけて全力パンチ。
 それをトトテナの背後から飛び出したメリティエが顔面に飛び蹴りを食らわせ迎撃するも、ロナイスが空中のメリティエにバトルハンマーを打ち下ろす。
 回避不可能なタイミングの戦鎚を両手でガードするも、小さな体が強い衝撃で床を跳ねた。
 背中から叩きつけられ肺の空気が一気に押し出されたメリティエの動きが止まってしまう。

「ダイナミックバスター!」

 追撃とばかりにロナイスが得物を振り上げたが、今度はトトテナが間に入り小型の盾で受け止める。

「ダイナミックバスター! ダイナミックバスター! ダイナミックダイナミックバスタァァァ!」

 執拗な振り下ろしを繰り返すロナイスに乗じ、ナッツァーが横に回り込んで加撃に加わろうと距離を詰めるも、トトテナは強烈な打撃を防ぐのが精いっぱい。
 右ストレートがトトテナの頭部にヒットする直前、イルミナの生み出した小型の爆裂魔法がナッツァーの至近で爆発し巨体が吹き飛んだ。
 更にトトテナの足元からはメリティエが飛び出し、尚も狂ったようにスキル名を連呼し続けるロナイスへ足払い。
 足払いとは思えない凶悪な一撃が大男の太い足首をへし折ると、倒れた巨体の腹に追撃で足の裏をめり込ませて蹴り飛ばす。
 バルンガルドが斧を握り直して立ち上がったところへ、盾を体に密着させて突撃してきたトトテナのシンプルな体当たりに合いねられた。
 激しい金属音が広く薄暗い訓練場に大きな音となって反響すると、頭痛を発症しているイルミナを更に苦しめる。

「なかなかやるではないか」
「やはり戦いとはこうでなくては」
「強者と巡り会えた喜びに、筋肉が打ち震えておるぞ!」
 
 マッスルラヴァーズがそれぞれビルドポージングをキメながら、鎧の隙間から覗く盛り上がった肉を見せつける。
 ロナイスに至っては折れた足首から煙が上がり、修復されていた。

 これは本当に早くケリを付けねば、頭の痛みと吐き気とで我が真っ先にくたばりかねん。

 頭痛や吐き気が単にアルコール摂取後の水分補給不足による脱水症状が原因であると気付いていない彼女は、相手の防御力や再生能力を無視する魔法の模索にとりかかった。



――――――――――――――――――――
 お待たせしました。
 投稿頻度を上げるつもりが、逆にどんどんと遅くなってしまい申し訳ありません。
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