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186話 ウィッシュタニア城攻略戦その1
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・ウィッシュタニア城3階南東:通路
「「ストームガスト!」」
フィローラとセシルの放つ猛烈な突風がウィッシュタニア兵達を石造りの壁に激突させると、男達は地面に片膝を着く。
そこへ現れた別部隊の男達が剣を振り上げ押し寄せるも、男達の前にこの国で召喚された女勇者が立ちはだかった。
「キャッスルウォール――からの、シールドバッシュ!」
井上吉乃が通路いっぱいに半透明の分厚い盾を生み出し、その盾を男達にぶつけて弾き飛ばす。
吹き飛んだ男達は姿勢を崩していた仲間を巻き込み揉みくちゃとなる。
すかさずセシルとフィローラが魔法の紐で縛って動きを封じ、リシアがワープゲートを男達の足元に開いてライシーン第五迷宮へと落した。
「ククさんのシタデルバッシュを真似てみましたけど、これすごく良いですね!」
「ヨシノさんなのに頼もしく見えます……」
「なのに!?」
セシルのあまりな言い草に吉乃が絶句する。
「ヨシノ、セシルに悪意はないの。ただちょっと言葉を選べないだけだから許してあげて」
「セシルさんは残念な子なので誰にだってこうなのでふ!」
「それはそれでセシルさんに酷くないですか!?」
身も蓋も無いフォローに言われている当のエセエルフは、なぜか照れくさそうに身をくねらせる。
そんなセシルにリシアとフィローラが生暖かく微笑んだ。
4人はウィッシュタニア城の3階フロアで作戦行動中。
作戦内容は内と外とで暴れて敵を攪乱し、混乱に乗じて夫が単身乗り込むといった単純な内容であった。
単純だからこそ実行が容易で、尚且つ効果的だとフリッツやダンクマールら軍務経験者も太鼓判を押した。
だがその作戦を夫は1人で遂行するつもりだったため、〝もし私が1人で行くと言ったら、あなたは聞き入れてくれますか?〟と言って反論を封じ、皆で分担する方向に舵を切らせた。
あの人は放っておくと全部1人で抱え込むのだから……。
それが彼の優しさからくるものだからこそ、また無茶をしない様に自分が目を光らせておかなければいけない。
そう肝に銘じていると、左の角から強い魔力反応を察知する。
「皆気を付けて!」
リシアが前方を指さし注意を促すと、通路の角から白い鎧を纏った金髪の青年が1人、威風堂々と現れた。
女性なら誰もが見惚れる程の美形ではあったが、生憎とこの場に居たのは男の顔には無頓着な既婚者とリアル男性アレルギーなため、見惚れるなんてことは無かった。
それどころか日頃から男同士の絡みを妄想することがライフワークの吉乃が、男の顔を見るなり露骨な嫌悪感を露にした。
「お嬢さん方、淑女がこのような夜更けに他人様の家を御散歩とは、あまり感心しませんな」
「私共も悪漢を差し向ける方々に理解して頂こうだなんて、一切思っておりませんのでお気になさらず」
リシアの返しに男は眉根を寄せて考え込む。
「はて、私には全く心当たりが無いのだが……何かの行き違いがあったのであれば謝罪しよう」
「刺客を差し向けた本人からの謝罪でないなら結構です。それと、紳士を気取られるのでしたらせめて名乗られては如何です?」
きっぱりと謝罪の申し出を拒絶するリシア。
「これは失礼した。私の名はフェンレント・サイラード。ウィッシュタニア近衛騎士序列二位、〈雷光〉のフェンレントといえば巷でも少しは名が知れた剣士。以後お見知りおきください」
「私はリシア、アイヴィナーゼ王国ライシーン領で活動する冒険者です」
フェンレントと名乗る男が恭しく頭を下げたのに対し、未熟を理解しているリシアは頭を下げて隙を見せることはしなかった。
すると、隣に居たフィローラが「あっ」と小さな声を漏らす。
「雷光のフェンレントって、確か〝竜殺しのフェンレント〟って異名もある強い騎士でふよ。ドラゴンを一刀で屠る話が冒険者の間でも噂になる程のしゅごい人でふ」
『私もあの人知ってます! 私がこの世界に来た日に夜這いしてきた人です!』
フィローラが男の武勇を口にした裏で、吉乃が嫌悪感全開の念話を飛ばす。
そのセリフでリシア達の男に対する印象が〝恐ろしい強敵〟から〝凶器を持った性犯罪者〟へと変換されてしまった。
『というか、私の顔を見ても無反応って、あの人絶対私のこと忘れてます!』
『落ち着きなさいヨシノ、今は強敵をおびき寄せる事が出来たのを喜びなさい』
「竜殺しなどと粗野な通り名、私には相応しくないと思いませんか?」
リシアが注意を促していると、フェンレントは優雅な仕草で前髪を払った。
いかにもキザったらしい仕草とキメ顔に、セシルの肩が震えだす。
「あんなにキメ顔なのに……ぷふ……、女勇者に夜這いして失敗した強姦魔……ふふふ……」
セシルの呟きに青年騎士のにこやかな顔が凍り付く。
「なぜそれ――こほん。美しい女性を手にかけるのはあまりにも忍びない。今すぐお引き取り願えるなら見逃しましょう」
仕切り直してさわやかな笑顔と紳士的な態度で撤退を促してきた男に、セシルの肩の揺れが更に大きくなる。
「〝お引き取り願えるなら見逃しましょう〟……、無理……ふひっ……、カッコつければつける程……ふひひひ……」
「ダメでしゅよセシルさん、あれでもこの国1の美丈夫って評判なんでふから、笑っちゃ可哀想でしゅよ」
俯きモノマネ交じりで陰湿に笑うセシルをフィローラが窘めるも、〝この国1の美丈夫〟がツボに入ったセシルは余計に笑いが止まらなくなる。
笑いで震える肩と連動し、分厚いローブの下にある大きな胸も揺れる。
終には床にうずくまりお腹を押さえて笑い始めた。
「セシル、真面目にやりなさい。油断してると大怪我じゃ済まないわよ」
リシアがそれを窘めると、腰の剣を引き抜いた。
・ウィッシュタニア城一階:中央広場
ククテナ、ユニス、ミネルバの3人が広い庭園のど真ん中から、城目掛けて魔法や弓で攻撃を加えていた。
それに気付いた巡回中の兵士達が鎮圧に向かってくるも、ククテナの生み出した分厚い壁がその進行を阻む。
「アローレイン!」
更にケンタウロス娘が夜空に向けて矢を放つと、矢に内包されたエネルギーが弾けて足止めされた兵士達に降り注ぐ。
兵達は防御スキルを頭上に展開して攻撃を防いで耐え凌いだ。
『総員、この攻撃が終わるタイミングで仕掛けるぞ!』
『『『了解!!!』』』
隊長と思しき男の念話での指示に、周囲の男達がそれぞれが手に持つ武器に力を込めて応えた。
だが、攻撃の雨が止むことは無い。
「アローレイン!」
冒険者なら誰もが持つアイテム収納魔道具〈魔道具袋〉から矢を取り出したユニスが、攻撃が終わる前に第二射を放つ。
「アローレイン!」
そして第二射が終わる前には第三射が放たれたため、迂闊に攻撃を仕掛けられなくなっていた。
「くそっ、このままじゃらちが明かねぇ!」
「バカ止めろ!」
「ウォールクラッシュ!」
「サテライトシールド」
1人の男が破れかぶれの一点突破スキルを放つも、ククテナが宙に浮かぶ半透明の盾を出現させてぶつけ、攻撃の初動を潰す。
攻撃スキルを放った兵士は地面に転がされ、頭上から大量に降り注ぐエネルギーの矢で滅多打ちにされ自滅した。
それを見ていた兵士達は、同じ轍は踏みたくないと余計に動けなくなり、ユニスが4度目のアローレインを発動させるのを悔し気に眺めた。
「楽……これで揺れが無ければ眠れるのに……」
馬の背で人頭の猛禽が潰れ饅頭と化し、あくび交じりにのんきな呟きで異種族の姉を苦笑いさせた。
そう言いながらも索敵魔法で新たな敵の出現や攻撃のそぶりを見せた敵へのマーキングを怠っていない事を、魔法がリンクされ情報を共有している2人は分かっている。
「頭の中に周囲の地形や動体が全て明瞭化される〈世界を見渡す高座〉とは、実に恐ろしい魔法だ。お陰で無差別攻撃の〈アローレイン〉が敵の頭上に狙って落とせる。自分が逆の立場だったらと考えただけでもゾッとしない」
「私達がどこから狙われているのかもわかるから、攻撃を防ぐのがとてもやり易いわ。ありがとうね、ミネルバ」
ククテナがユニスの背に乗るミネルバの頭を優しく撫でる。
「この様な魔法を生み出したご主人様も流石です」
「お父様最高Yeah……!」
自分達の夫を持ち上げるククテナとミネルバ。
そんな魔法を使いこなすミネルバも十分すごいし、今も敵を寄せ付けない防壁を1人で張るククテナも凄まじい。
それに比べて自分は……。
「それに、ユニスのお陰で敵の動きが鈍るのも助かるわ」
「いえいえ、自分は何も。クク殿こそ、その堅牢さには惚れ惚れします」
「私にはそれしか出来ないから……」
称賛を送るユニスに自嘲の笑みを浮かべるククテナ。
それしかできないの〝それ〟がいかに重要で、いかに皆の助けになっているのか、彼女と共に迷宮に潜った者なら知らないはずがない。
思えば初めて出会った時の彼女は、戦闘のせの字も知らないような初心者であり、戦いには非常に消極的だった。
だが今では、PTの前衛を1人で任せられる程の成長を遂げ、守護神と言っても過言ではないほどの存在感を発揮している。
「それを言うなら私こそ。クク殿は立派に務めを果たしているというのに、私は皆ほどお役には立てていない……」
時折後方から矢を射るだけの存在で、果たして自分は彼女達と対等と言えるのであろうか?
ユニスが自身の能力を顧み、不安と居たたまれなさに苛まれた。
「そんなことはないわ。話し合いの場で貴女は自分の意見を主張しているじゃない。それは私では出来ないこと……、だから私は貴女が羨ましい。それに、私は皆を守るどころか逆にご主人様に守られてしまった……」
「クク殿……」
守れなかったとはダンジョンの五十階層で天使達との戦った際、その攻撃を防ぎ切れなかったことを言っているのだろう。
役目を全う出来ない辛さを、ユニスには痛いほど理解出来た。
2人が自身の無力さに沈んでいると、背後で群青の翼がバッと音を立て開かれた。
「ミネルバ?」
「お姉様達は他人を羨んで自分の長所が見えていない……。天使の攻撃を最初に防ぐ人が居なかったら、お父様も防御魔法を発動出来ていなかった……。小姉達が討ち漏らした敵を仕留めてくれる人が居ないと後ろに居る私達が危ない……。出来ることに全力を注ぐいで出来ないことは他人に任せることを覚えた方が良い……。2人とも真面目過ぎ……。あと暗い……」
「「うっ……」」
まだ生後2ヵ月かそこらの幼鳥に痛い所を突かれ、ククテナとユニスは言葉を詰まらせた。
だがミネルバとは彼女が孵化した頃からの付き合いであるため、2人を想うが故の辛辣な言葉であると分かっている。
どれも自分達に当てはまる欠点だ。
だが、欠点が解っているのなら――。
「ミネルバの言う通りね。私達は自分の出来ることをするべきよ」
「ふふっ、そうですね」
ククテナとユニスが自身の欠点を認め、気持ちを前に向かわせる。
「けれど、姉に向かってその物言いは感心できないわ」
「ごめんなさい……」
「よろしい」
ユニスの冗談めいた口調に、ミネルバも甘えた口ぶりでユニスの背中に頬を擦り寄せた。
自分の物であると誇示する様な妹の仕草に、ユニスの胸に暖かさが広がった。
「まるで本当の姉妹の様ね」
「クク殿もミネルバにとっては実の姉では?」
「ちー……」
ユニスの言葉にミネルバが頷き肯定する。
「それに、最近ではメリティエ殿とも仲が良いではありませんか」
「トトとメリティエがミネルバくらい大人しければ……、はぁ……」
ククテナが2人のやんちゃぷりを思い返し、苦悩を滲ませた溜息を漏らす。
ユニスも傍から見ていて、パワフルな2人を力で押さえつけることが出来る唯一の存在なため面倒を見ている感が否めなかった。
「心中お察しします。実家で弟達の面倒を見ていた時は、正に今のクク殿と同じ心境でした……」
「弟さんのお世話はどのようにされていたの?」
「ごく普通ですよ。遊びともなると親類の子も含めて弟5人が好き放題走り回るので、兎に角怪我をする前に捕まえることに必死でしたよ」
「ユニスも苦労していたのね」
ユニスが苦笑いを浮かべながら懐かしみ、聞いていたククも苦笑いと共に労った。
だがミネルバは思った。
下半身が馬の子供が5人も好き勝手に暴れまわる状況など、それをもう普通とは言わない……。
しかしこれは2人による〝苦労共感コミュニケーション〟なんだと察した彼女は、水を差さないようにと突っ込みは心の中だけに留めた。
その間もユニスは上空やおかしなそぶりを見せる敵に弓を放ち、ククテナは浮遊する防御壁を操作し敵を阻み続け、兵達も撤退を開始した。
そんな中、ククテナも登頂に生える大きく長い耳を立ち並ぶ木に向けた。
『ユニス、あそこに並ぶ木の右から3番目!』
「スパイラルショット!」
ククテナの意識が向けられた場所にミネルバがビーコンを打ち、ユニスの速射がビーコンで示された木を貫通する。
しかし仕留めたという手応えは無く、粉砕された木の周辺には負傷させた痕跡も残ってはいない。
「私の気配を察するなんて、なかなかの勘の良さね」
女の声が破壊された木ではなく自分達の背後から聞こえ、3人が振り返るも声はすれども姿はなかった。
「隠れるだけでなく逃げるのも得意な様だが、コソコソとしていないで出てきたらどう?」
ユニスが挑発する裏でミネルバが索敵魔法を集中させて場所を特定するも、女の反応はすぐに消えてしまった。
「私はウィッシュタニア近衛騎士が序列四位、幻影のミライアよ。幻影の名の通り、人前に姿を晒すなんてことはしないわ。だから安心して死になさい♪」
女が軽い口調でそう言うと、ユニス達の前に巨大な炎の竜巻が出現した。
・ウィッシュタニア城一階北西:訓練場
床が石造りの屋内訓練場では、トトテナとメリティエが〝どちらがより多くの敵を倒せるか〟を競っていた。
黒髪美幼女のメリティエが、低い身長を生かして敵の死角になる位置に体を滑り込ませ、拳や蹴りによる重たい一撃で人の山を築いていく。
四足獣の下半身に顔まで体毛に覆われた少女の上半身を持つトトテナは、敵の攻撃を全身鎧と小型の盾で防ぎ、斧槍による真っ向からの断撃で死体の山と血の海を作った。
狩りをして暮らしていたトトテナにとって、生物の命を奪う事に一切の躊躇いが無い。
対峙したウィッシュタニア兵が全身を血に染めた小さな重戦車に震えあがり、そんな動きの鈍った獲物をトトテナが嬉々として屠殺してまわる。
「お、俺は死にたくない!」
後ろを向いて全力で逃げ出した兵士が、剛腕の一握りで頭を掴まれ宙づりとなる。
兵士を掴んだのは身長2メートルを超す深紅の鎧の大男で、その筋肉量は甲冑の外からでも分かる程に分厚かった。
「バルンガルド様!?」
「深紅の鉄人バルンガルド様が来てくれたぞ!」
「それにロメリオ様にハッター様も!」
「兵共よ、敵前逃亡は圧殺刑であぁぁぁぁる!」
大男がそう宣言するや否や、手にした兵士の頭が兜もろとも呆気なく爆ぜた。
心強い援軍に表情を輝かせた兵士達の顔が瞬時に青くなる。
だがそんなものに気も留めず、大男は戦斧を片手に侵入者達に向き直る。
「狼藉者め、貴様らの悪事もここまでごはあ!?」
バルンガルドが大声を張り上げたその顔面へ、イルミナの放つ爆裂火球が炸裂した。
巨漢の横に居た連れの騎士も吹き飛ばされる。
「頭に響くでな、少しそこで眠っておれ」
イルミナが頭痛を堪えながらそう言い放つ。
訳の分からぬままアイヴィナーゼ城に避難させられ、酒を飲んで気持ちよく眠ていたところにこの出撃じゃ。
トシオには後でたっぷりと可愛がってもらわなければ割に合わぬわ。
イルミナが内心でぼやいていると、先程吹き飛ばした大男が立ち上がった。
「ぬお~~ぅ、いきなり魔法攻撃とは何たる卑劣! ――ロメリオ、ハッター!? 」
仲間が隣に居ないことに気が付き呼びかけるも、吹き飛んだ2人の騎士は白目を剥いて床に倒れていた。
「よくも2人を、ウィッシュタニア近衛騎士団序列第二位である〈鉄人〉バルンガルド様が、今すぐ粛清してくれわぼっ!?」
「黙れと言うに」
イルミナの放った爆裂火球が再び巨漢の騎士の顔面を捕らえるも、今度は吹き飛ぶことなくその場で耐えた。
これにはイルミナも驚き目を見開く。
「母の攻撃魔法を受けても無傷とは丈夫だな」
メリティエも思わず感心する。
「女よ、人の口上は最後まで聞くのが礼儀と知れぇい!」
「ほぼほぼ最後まで言うておったであろう……」
辟易とした口調で返すも、この男から漂う不穏な気配を感じ取る。
攻撃は手加減などしなかった。
それを食らって尚も無事なこの男のタフネスは尋常ではないと気を引き締める。
「バルンガルド様、加勢致す!」
「おお、ナッツァー、それにロナイスも来てくれたか!」
更に身長2メートル近いこれまた筋肉質な若騎士が2人追加され、その質量からくる暑苦しさと面倒さの増し増しに、イルミナの顔がしかめられる。
貧乏くじを引かされた気分じゃ……。
イルミナは魔法の盾を複数枚追加し3人の敵に注意を払う。
「メリー、面白そうなのが出て来たなー」
「物足りなかったところだが、今度のは殴り応えがありそうだ」
2人は獰猛な笑みを浮かべ、新たな獲物へと狙いを定めた。
・ウィッシュタニア城北西&南東:物見の塔最上階。
城を挟んで北西と南東の対角線上に位置する二つの塔は、全長約50メートルとかなり高い。
そんな場所で、俺は招集したレスティー達や救出したての第三王子配下の兵と共に、その2ヶ所の屋上をワープゲートで繋いで陣取り、城へ向けて攻撃魔法を打ち込んでいた。
それも妨害魔法をかけた状態でファイヤーボールなどを城の壁付近に出現させて爆発させるものだから、巡回している兵達はこちらの居場所を特定出来ずにいた。
しかもフリッツやダンクマール達軍人には、地下迷宮に送った兵士達からはぎ取った軍服を着用して塔の上に立っているので、下に居る兵士達には普通に見張りをしている同僚にしか見えていない。
そんな彼らの隙間から、同行していたトモノリが顔を覗かせ下の様子を見る。
すぐにリザードマンの大女がトモノリの襟首をつかみ、有無を言わさず後ろに下がらせる。
「精悍さとは対極のぶよぶよ顔を不用意に出すんじゃない、バレたらどうすんだい」
「ご、ごめんなさい!」
怒られたトモノリがオロオロしながら、クサンテ姐さんに頭を下げた。
よくこんな高い場所から下を覗けるなぁ。
怖いもの見たさで俺もつい見ちゃうけど。
最近は飛行魔法の訓練を行っているため飛行中の高所は怖くは無くなったが、魔法無しで高所を見下ろすのは未だに怖い。
なんて考えていたら地面を見たい欲求に駆られ、胸壁から顔を出してすぐに頭を引っ込めた。
「こっわ」
「お前はなにやってんだよ」
「高い所って、怖いもの見たさでつい覗いちゃうんだよなぁ」
「あ、わかるわかるー」
犬耳少年のユーベルトには呆れられながら手にかいた汗をズボンで拭っていると、同じく犬耳の少女カーチェには同意された。
「それにしても、あいつら本当に俺達の倍もレベルが高いのか? 走る速さがその辺の奴らとさ程変わらんのだが」
「確かにそうね~」
「あ、あの、僕達が魔水晶を使ってレベルを上げたのが昨日だから、もしかすると急なレベルアップに感覚が追い付いてないのかもしれないです」
顔立ちの整ったホ――もとい、軍服姿のディオンとその恋人でオカマのレスティーの話しに、トモノリが仮説を述べた。
魔水晶でデタラメなレベル上げをしたウィッシュタニア公式チートの言葉なだけに確かな情報だ。
てか無精ひげを生やした顎割れオカマが実に気持ち悪い。
身だしなみを整える時間を与えず呼び出しておいてこの言い草とは、我ながら酷すぎるので反省した。
「なるほど、彼らはまだ力の使い方に慣れていないと」
と、これはフリッツ。
「だが油断は出来ん。戦闘になれば慣れに関係なく全力を振るってくるだろうし、近衛騎士クラスともなれば最上級職のスキルも自在に扱える猛者揃い。力に振り回される様なお粗末な事にはならんだろう」
ナイスミドルのダンクマールさんが、渋い顔で警告してくれた。
となると――
「リシア達は大丈夫かなぁ」
「そんなに心配ならやらせなきゃよかったじゃないのん」
「まぁそうなんだけど……」
レスティーのもっともな意見に生返事を返す。
出来る事なら俺もそうしたかった。
城への突入作戦に際し、レンさん達とも相談した作戦内容は内と外で攪乱し、混乱に乗じて俺が本丸に不意打ちをするといったものだった。
だがこんなことで大事な家族に万が一が有ったらと、レンさんの作戦を1人で行ものに修正してから皆に告げたところ、全てを見透かしたリシアに却下されてしまったのだ。
俺が彼女を想う様に、彼女もまた俺を想ってくれている。
そんな嫁に対して説得できる自信はなく、却下しても夫婦間の間に亀裂が入りかねないのでしぶしぶ了承せざるを得なかった。
この選択で誰か一人でも失うなんてことになれば、俺は一生自分を許せないだろう……。
俺がこの状況に苦悩していると、フリッツが寄って来た。
「トシオ様、殿下から連絡です。〝アイヴィナーゼの勇者よ、今すぐ武装を解除して玉座の間に出頭しなければ、ここに居る女奴隷共を一人ずつ殺す〟とのこと」
「殿下の連絡ってより第一王子からの伝言じゃねぇか」
「ランペールめ、なんと卑劣な!」
俺のツッコミにダンクマールやその部下たちが口々にブチ切れる。
だが今になってのこの要求は、向こうも焦れていることが容易に伺える。
やはり第二王子のマルケオスを仕留めたのが大きいか?
「エルネストにこう伝えてくれ。〝要求はのんでやる。ただし人質に傷一つ付けてみろ、城諸共お前らを必ず殺す。必ずだ〟と」
「わかりました」
「兎に角、皆はこのまま攻撃を続けてくれ」
「まかせたまえ~♪」
「お・ま・か・せ♪」
いけしゃあしゃあと皆に指示を出すと、歌わないと死ぬ病に犯された出っ歯エルフのアーヴィンと割れた顎に不精髭を生やしたレスティーが同時にウインクした。
やはりキモイ。
「おーい、お前達、敵はどこに居るか見えんのかー?!」
そこに城の中庭で右往左往していた兵士の1人が、こちらに向かった大声で叫んできた。
その背後には数名の兵士を引き連れている。
「北東の塔付近だ! そこから攻撃魔法が見えるぞ!」
エルネストの私兵で不精髭のセッツが、下の兵に大声で答える。
北東と南西にもここ程ではないが高い塔があり、咄嗟にワープゲートを開いて北東の城壁から城目掛けて光魔法で砲撃した。
着弾地点で激しい衝撃音が轟き閃光の花が咲く。
城そのものは魔法で強化されかなり強固らしく、こちらの魔法も威力は落としているため、城が壊れることは無かった。
『伝令、敵は城壁北東の塔! 繰り返す、敵は城壁北東の塔! 直ちに急行せよ!』
「俺達は持ち場を離れられんが気を付けろよ!」
「折角レベルが上がったのに見張りとは残念だな、まぁお前らの分も手柄を立てて来るぜ!」
「ぬかしてろ!」
セッツが白々しい会話を堂々とすると、兵士は仲間を引き連れ走って行った。
それを見送ったセッツがこちらに振り返る。
その額には大量の汗が流れていた。
バレたら自分達よりもはるかにレベルの高い兵士達が大量に殺到するのだ、そりゃ緊張もするわな。
「ふぅ、肝が冷えるとはこのことだな」
「ご苦労さん」
「あんたの機転で助かった」
苦笑いでお道化てみせる男に、つられて笑みを浮かべたディオンと俺が労いと称賛を送る。
まだ24歳か、俺と同い年なのにキモ据わってるなぁ。
「なに、これもエルネスト殿下のため、延いてはこの国のためだ」
「エルネスト王子とはそれ程の男なのか?」
「あぁ、殿下は素晴らしい方だ。だが国王や第一王子達が同等、いや、それ以下でもかまわないが、せめてエルネスト殿下の半分でも国や民の事を考えてくれていたら、俺達もここまでの事はしなかっただろうな」
俺の問いかけにセッツがやや複雑な表情で吐露した。
「俺はこの国の地方貴族の次男坊でな。うちの領地は裕福ではないが、額に汗水垂らして働いている分には飢える心配はない程の豊かさはあった」
セッツがそう語り出すと、ウィッシュタニアの現状を教えてくれた。
5年ほど前から国王は政治に関心を示さなくなり、政は全て第一王子とその手下が取り仕切るようになったそうだ。
だが、そこからすべてが狂い始めた。
自身は贅沢をするためだけに一気に税を引き上げた。
当然自分達が収める税収も跳ね上がるため、貴族達がこれに猛反発すると国民の誰もが思った。
しかし、立ち上がる貴族は誰もいなかった。
なぜならランペールが先に手を打っていたからだ。
まだ増税が打ち出されていない6年前の収穫祭でのこと。
毎年国を挙げての一大イベントとも言える祭りで、ウィッシュタニア貴族をその家族ごと城に招くと、当主の隙をついてその妻子に奴隷契約を強引に結ばせた。
さらにそれだけにはとどまらず、妻子を人質に次は当主といった具合で、全ての貴族を奴隷化するというとんでもない行動をやってのけたのだ。
自分達の命を握られては泣き寝入りする他はなく、貴族達は重税を受け入れざるを得なかった。
今では増税に増税が重ねられ、収入の約3分2が国に持っていかれるのだとか。
所得税60%オーバーとかアホなのか……?
完全に狂気の世界である。
だがセッツの話しはここまでが前振りで、これからが本番だった。
その水増し増税はどこにしわ寄せが行くかと言えば、それは当然領民である。
そしてセッツの居た領地はと言えば、重税に耐えきれなくなり、雇用していた兵士を全て解雇してしまった。
〝国家とは国家として維持できるだけの武力があってこそはじめて成り立つ〟
領とは、規模を縮小したとはいえ1つの国その物である。
そんなのが兵を手放せばどうなるか。
魔物や野盗が村の自警団がどうにか出来る範疇を超えた時、頼れるのは冒険者と領主のお抱え戦力だ。
そして、重税の課せられた領民に冒険者を雇う金なんて有るはずもなく、後はもう領主に頼るしかない。
しかし、その領主にもお金や兵が無い場合、もうどうしようもない状況となる。
首都より遠方の領地となると、国に兵を派遣してもらうにも時間がかかりすぎる。
そんな状況に陥ったセッツの父が収める領地は、兵を手放したその瞬間終わりを迎えた。
金の切れ目が縁の切れ目とばかりに、兵はそのまま野盗となり下がり、セッツの暮らしていた屋敷の財を根こそぎ奪って逃亡した。
屋敷の財の根こそぎの部分に、彼の両親と兄夫婦とその子供の命も含まれた。
「俺はたまたま魔物討伐に出ていたから難を逃れたが、たった3日家を空けただけで、俺はすべてを失ったよ……」
男の口から嗚咽が零れた。
「「ストームガスト!」」
フィローラとセシルの放つ猛烈な突風がウィッシュタニア兵達を石造りの壁に激突させると、男達は地面に片膝を着く。
そこへ現れた別部隊の男達が剣を振り上げ押し寄せるも、男達の前にこの国で召喚された女勇者が立ちはだかった。
「キャッスルウォール――からの、シールドバッシュ!」
井上吉乃が通路いっぱいに半透明の分厚い盾を生み出し、その盾を男達にぶつけて弾き飛ばす。
吹き飛んだ男達は姿勢を崩していた仲間を巻き込み揉みくちゃとなる。
すかさずセシルとフィローラが魔法の紐で縛って動きを封じ、リシアがワープゲートを男達の足元に開いてライシーン第五迷宮へと落した。
「ククさんのシタデルバッシュを真似てみましたけど、これすごく良いですね!」
「ヨシノさんなのに頼もしく見えます……」
「なのに!?」
セシルのあまりな言い草に吉乃が絶句する。
「ヨシノ、セシルに悪意はないの。ただちょっと言葉を選べないだけだから許してあげて」
「セシルさんは残念な子なので誰にだってこうなのでふ!」
「それはそれでセシルさんに酷くないですか!?」
身も蓋も無いフォローに言われている当のエセエルフは、なぜか照れくさそうに身をくねらせる。
そんなセシルにリシアとフィローラが生暖かく微笑んだ。
4人はウィッシュタニア城の3階フロアで作戦行動中。
作戦内容は内と外とで暴れて敵を攪乱し、混乱に乗じて夫が単身乗り込むといった単純な内容であった。
単純だからこそ実行が容易で、尚且つ効果的だとフリッツやダンクマールら軍務経験者も太鼓判を押した。
だがその作戦を夫は1人で遂行するつもりだったため、〝もし私が1人で行くと言ったら、あなたは聞き入れてくれますか?〟と言って反論を封じ、皆で分担する方向に舵を切らせた。
あの人は放っておくと全部1人で抱え込むのだから……。
それが彼の優しさからくるものだからこそ、また無茶をしない様に自分が目を光らせておかなければいけない。
そう肝に銘じていると、左の角から強い魔力反応を察知する。
「皆気を付けて!」
リシアが前方を指さし注意を促すと、通路の角から白い鎧を纏った金髪の青年が1人、威風堂々と現れた。
女性なら誰もが見惚れる程の美形ではあったが、生憎とこの場に居たのは男の顔には無頓着な既婚者とリアル男性アレルギーなため、見惚れるなんてことは無かった。
それどころか日頃から男同士の絡みを妄想することがライフワークの吉乃が、男の顔を見るなり露骨な嫌悪感を露にした。
「お嬢さん方、淑女がこのような夜更けに他人様の家を御散歩とは、あまり感心しませんな」
「私共も悪漢を差し向ける方々に理解して頂こうだなんて、一切思っておりませんのでお気になさらず」
リシアの返しに男は眉根を寄せて考え込む。
「はて、私には全く心当たりが無いのだが……何かの行き違いがあったのであれば謝罪しよう」
「刺客を差し向けた本人からの謝罪でないなら結構です。それと、紳士を気取られるのでしたらせめて名乗られては如何です?」
きっぱりと謝罪の申し出を拒絶するリシア。
「これは失礼した。私の名はフェンレント・サイラード。ウィッシュタニア近衛騎士序列二位、〈雷光〉のフェンレントといえば巷でも少しは名が知れた剣士。以後お見知りおきください」
「私はリシア、アイヴィナーゼ王国ライシーン領で活動する冒険者です」
フェンレントと名乗る男が恭しく頭を下げたのに対し、未熟を理解しているリシアは頭を下げて隙を見せることはしなかった。
すると、隣に居たフィローラが「あっ」と小さな声を漏らす。
「雷光のフェンレントって、確か〝竜殺しのフェンレント〟って異名もある強い騎士でふよ。ドラゴンを一刀で屠る話が冒険者の間でも噂になる程のしゅごい人でふ」
『私もあの人知ってます! 私がこの世界に来た日に夜這いしてきた人です!』
フィローラが男の武勇を口にした裏で、吉乃が嫌悪感全開の念話を飛ばす。
そのセリフでリシア達の男に対する印象が〝恐ろしい強敵〟から〝凶器を持った性犯罪者〟へと変換されてしまった。
『というか、私の顔を見ても無反応って、あの人絶対私のこと忘れてます!』
『落ち着きなさいヨシノ、今は強敵をおびき寄せる事が出来たのを喜びなさい』
「竜殺しなどと粗野な通り名、私には相応しくないと思いませんか?」
リシアが注意を促していると、フェンレントは優雅な仕草で前髪を払った。
いかにもキザったらしい仕草とキメ顔に、セシルの肩が震えだす。
「あんなにキメ顔なのに……ぷふ……、女勇者に夜這いして失敗した強姦魔……ふふふ……」
セシルの呟きに青年騎士のにこやかな顔が凍り付く。
「なぜそれ――こほん。美しい女性を手にかけるのはあまりにも忍びない。今すぐお引き取り願えるなら見逃しましょう」
仕切り直してさわやかな笑顔と紳士的な態度で撤退を促してきた男に、セシルの肩の揺れが更に大きくなる。
「〝お引き取り願えるなら見逃しましょう〟……、無理……ふひっ……、カッコつければつける程……ふひひひ……」
「ダメでしゅよセシルさん、あれでもこの国1の美丈夫って評判なんでふから、笑っちゃ可哀想でしゅよ」
俯きモノマネ交じりで陰湿に笑うセシルをフィローラが窘めるも、〝この国1の美丈夫〟がツボに入ったセシルは余計に笑いが止まらなくなる。
笑いで震える肩と連動し、分厚いローブの下にある大きな胸も揺れる。
終には床にうずくまりお腹を押さえて笑い始めた。
「セシル、真面目にやりなさい。油断してると大怪我じゃ済まないわよ」
リシアがそれを窘めると、腰の剣を引き抜いた。
・ウィッシュタニア城一階:中央広場
ククテナ、ユニス、ミネルバの3人が広い庭園のど真ん中から、城目掛けて魔法や弓で攻撃を加えていた。
それに気付いた巡回中の兵士達が鎮圧に向かってくるも、ククテナの生み出した分厚い壁がその進行を阻む。
「アローレイン!」
更にケンタウロス娘が夜空に向けて矢を放つと、矢に内包されたエネルギーが弾けて足止めされた兵士達に降り注ぐ。
兵達は防御スキルを頭上に展開して攻撃を防いで耐え凌いだ。
『総員、この攻撃が終わるタイミングで仕掛けるぞ!』
『『『了解!!!』』』
隊長と思しき男の念話での指示に、周囲の男達がそれぞれが手に持つ武器に力を込めて応えた。
だが、攻撃の雨が止むことは無い。
「アローレイン!」
冒険者なら誰もが持つアイテム収納魔道具〈魔道具袋〉から矢を取り出したユニスが、攻撃が終わる前に第二射を放つ。
「アローレイン!」
そして第二射が終わる前には第三射が放たれたため、迂闊に攻撃を仕掛けられなくなっていた。
「くそっ、このままじゃらちが明かねぇ!」
「バカ止めろ!」
「ウォールクラッシュ!」
「サテライトシールド」
1人の男が破れかぶれの一点突破スキルを放つも、ククテナが宙に浮かぶ半透明の盾を出現させてぶつけ、攻撃の初動を潰す。
攻撃スキルを放った兵士は地面に転がされ、頭上から大量に降り注ぐエネルギーの矢で滅多打ちにされ自滅した。
それを見ていた兵士達は、同じ轍は踏みたくないと余計に動けなくなり、ユニスが4度目のアローレインを発動させるのを悔し気に眺めた。
「楽……これで揺れが無ければ眠れるのに……」
馬の背で人頭の猛禽が潰れ饅頭と化し、あくび交じりにのんきな呟きで異種族の姉を苦笑いさせた。
そう言いながらも索敵魔法で新たな敵の出現や攻撃のそぶりを見せた敵へのマーキングを怠っていない事を、魔法がリンクされ情報を共有している2人は分かっている。
「頭の中に周囲の地形や動体が全て明瞭化される〈世界を見渡す高座〉とは、実に恐ろしい魔法だ。お陰で無差別攻撃の〈アローレイン〉が敵の頭上に狙って落とせる。自分が逆の立場だったらと考えただけでもゾッとしない」
「私達がどこから狙われているのかもわかるから、攻撃を防ぐのがとてもやり易いわ。ありがとうね、ミネルバ」
ククテナがユニスの背に乗るミネルバの頭を優しく撫でる。
「この様な魔法を生み出したご主人様も流石です」
「お父様最高Yeah……!」
自分達の夫を持ち上げるククテナとミネルバ。
そんな魔法を使いこなすミネルバも十分すごいし、今も敵を寄せ付けない防壁を1人で張るククテナも凄まじい。
それに比べて自分は……。
「それに、ユニスのお陰で敵の動きが鈍るのも助かるわ」
「いえいえ、自分は何も。クク殿こそ、その堅牢さには惚れ惚れします」
「私にはそれしか出来ないから……」
称賛を送るユニスに自嘲の笑みを浮かべるククテナ。
それしかできないの〝それ〟がいかに重要で、いかに皆の助けになっているのか、彼女と共に迷宮に潜った者なら知らないはずがない。
思えば初めて出会った時の彼女は、戦闘のせの字も知らないような初心者であり、戦いには非常に消極的だった。
だが今では、PTの前衛を1人で任せられる程の成長を遂げ、守護神と言っても過言ではないほどの存在感を発揮している。
「それを言うなら私こそ。クク殿は立派に務めを果たしているというのに、私は皆ほどお役には立てていない……」
時折後方から矢を射るだけの存在で、果たして自分は彼女達と対等と言えるのであろうか?
ユニスが自身の能力を顧み、不安と居たたまれなさに苛まれた。
「そんなことはないわ。話し合いの場で貴女は自分の意見を主張しているじゃない。それは私では出来ないこと……、だから私は貴女が羨ましい。それに、私は皆を守るどころか逆にご主人様に守られてしまった……」
「クク殿……」
守れなかったとはダンジョンの五十階層で天使達との戦った際、その攻撃を防ぎ切れなかったことを言っているのだろう。
役目を全う出来ない辛さを、ユニスには痛いほど理解出来た。
2人が自身の無力さに沈んでいると、背後で群青の翼がバッと音を立て開かれた。
「ミネルバ?」
「お姉様達は他人を羨んで自分の長所が見えていない……。天使の攻撃を最初に防ぐ人が居なかったら、お父様も防御魔法を発動出来ていなかった……。小姉達が討ち漏らした敵を仕留めてくれる人が居ないと後ろに居る私達が危ない……。出来ることに全力を注ぐいで出来ないことは他人に任せることを覚えた方が良い……。2人とも真面目過ぎ……。あと暗い……」
「「うっ……」」
まだ生後2ヵ月かそこらの幼鳥に痛い所を突かれ、ククテナとユニスは言葉を詰まらせた。
だがミネルバとは彼女が孵化した頃からの付き合いであるため、2人を想うが故の辛辣な言葉であると分かっている。
どれも自分達に当てはまる欠点だ。
だが、欠点が解っているのなら――。
「ミネルバの言う通りね。私達は自分の出来ることをするべきよ」
「ふふっ、そうですね」
ククテナとユニスが自身の欠点を認め、気持ちを前に向かわせる。
「けれど、姉に向かってその物言いは感心できないわ」
「ごめんなさい……」
「よろしい」
ユニスの冗談めいた口調に、ミネルバも甘えた口ぶりでユニスの背中に頬を擦り寄せた。
自分の物であると誇示する様な妹の仕草に、ユニスの胸に暖かさが広がった。
「まるで本当の姉妹の様ね」
「クク殿もミネルバにとっては実の姉では?」
「ちー……」
ユニスの言葉にミネルバが頷き肯定する。
「それに、最近ではメリティエ殿とも仲が良いではありませんか」
「トトとメリティエがミネルバくらい大人しければ……、はぁ……」
ククテナが2人のやんちゃぷりを思い返し、苦悩を滲ませた溜息を漏らす。
ユニスも傍から見ていて、パワフルな2人を力で押さえつけることが出来る唯一の存在なため面倒を見ている感が否めなかった。
「心中お察しします。実家で弟達の面倒を見ていた時は、正に今のクク殿と同じ心境でした……」
「弟さんのお世話はどのようにされていたの?」
「ごく普通ですよ。遊びともなると親類の子も含めて弟5人が好き放題走り回るので、兎に角怪我をする前に捕まえることに必死でしたよ」
「ユニスも苦労していたのね」
ユニスが苦笑いを浮かべながら懐かしみ、聞いていたククも苦笑いと共に労った。
だがミネルバは思った。
下半身が馬の子供が5人も好き勝手に暴れまわる状況など、それをもう普通とは言わない……。
しかしこれは2人による〝苦労共感コミュニケーション〟なんだと察した彼女は、水を差さないようにと突っ込みは心の中だけに留めた。
その間もユニスは上空やおかしなそぶりを見せる敵に弓を放ち、ククテナは浮遊する防御壁を操作し敵を阻み続け、兵達も撤退を開始した。
そんな中、ククテナも登頂に生える大きく長い耳を立ち並ぶ木に向けた。
『ユニス、あそこに並ぶ木の右から3番目!』
「スパイラルショット!」
ククテナの意識が向けられた場所にミネルバがビーコンを打ち、ユニスの速射がビーコンで示された木を貫通する。
しかし仕留めたという手応えは無く、粉砕された木の周辺には負傷させた痕跡も残ってはいない。
「私の気配を察するなんて、なかなかの勘の良さね」
女の声が破壊された木ではなく自分達の背後から聞こえ、3人が振り返るも声はすれども姿はなかった。
「隠れるだけでなく逃げるのも得意な様だが、コソコソとしていないで出てきたらどう?」
ユニスが挑発する裏でミネルバが索敵魔法を集中させて場所を特定するも、女の反応はすぐに消えてしまった。
「私はウィッシュタニア近衛騎士が序列四位、幻影のミライアよ。幻影の名の通り、人前に姿を晒すなんてことはしないわ。だから安心して死になさい♪」
女が軽い口調でそう言うと、ユニス達の前に巨大な炎の竜巻が出現した。
・ウィッシュタニア城一階北西:訓練場
床が石造りの屋内訓練場では、トトテナとメリティエが〝どちらがより多くの敵を倒せるか〟を競っていた。
黒髪美幼女のメリティエが、低い身長を生かして敵の死角になる位置に体を滑り込ませ、拳や蹴りによる重たい一撃で人の山を築いていく。
四足獣の下半身に顔まで体毛に覆われた少女の上半身を持つトトテナは、敵の攻撃を全身鎧と小型の盾で防ぎ、斧槍による真っ向からの断撃で死体の山と血の海を作った。
狩りをして暮らしていたトトテナにとって、生物の命を奪う事に一切の躊躇いが無い。
対峙したウィッシュタニア兵が全身を血に染めた小さな重戦車に震えあがり、そんな動きの鈍った獲物をトトテナが嬉々として屠殺してまわる。
「お、俺は死にたくない!」
後ろを向いて全力で逃げ出した兵士が、剛腕の一握りで頭を掴まれ宙づりとなる。
兵士を掴んだのは身長2メートルを超す深紅の鎧の大男で、その筋肉量は甲冑の外からでも分かる程に分厚かった。
「バルンガルド様!?」
「深紅の鉄人バルンガルド様が来てくれたぞ!」
「それにロメリオ様にハッター様も!」
「兵共よ、敵前逃亡は圧殺刑であぁぁぁぁる!」
大男がそう宣言するや否や、手にした兵士の頭が兜もろとも呆気なく爆ぜた。
心強い援軍に表情を輝かせた兵士達の顔が瞬時に青くなる。
だがそんなものに気も留めず、大男は戦斧を片手に侵入者達に向き直る。
「狼藉者め、貴様らの悪事もここまでごはあ!?」
バルンガルドが大声を張り上げたその顔面へ、イルミナの放つ爆裂火球が炸裂した。
巨漢の横に居た連れの騎士も吹き飛ばされる。
「頭に響くでな、少しそこで眠っておれ」
イルミナが頭痛を堪えながらそう言い放つ。
訳の分からぬままアイヴィナーゼ城に避難させられ、酒を飲んで気持ちよく眠ていたところにこの出撃じゃ。
トシオには後でたっぷりと可愛がってもらわなければ割に合わぬわ。
イルミナが内心でぼやいていると、先程吹き飛ばした大男が立ち上がった。
「ぬお~~ぅ、いきなり魔法攻撃とは何たる卑劣! ――ロメリオ、ハッター!? 」
仲間が隣に居ないことに気が付き呼びかけるも、吹き飛んだ2人の騎士は白目を剥いて床に倒れていた。
「よくも2人を、ウィッシュタニア近衛騎士団序列第二位である〈鉄人〉バルンガルド様が、今すぐ粛清してくれわぼっ!?」
「黙れと言うに」
イルミナの放った爆裂火球が再び巨漢の騎士の顔面を捕らえるも、今度は吹き飛ぶことなくその場で耐えた。
これにはイルミナも驚き目を見開く。
「母の攻撃魔法を受けても無傷とは丈夫だな」
メリティエも思わず感心する。
「女よ、人の口上は最後まで聞くのが礼儀と知れぇい!」
「ほぼほぼ最後まで言うておったであろう……」
辟易とした口調で返すも、この男から漂う不穏な気配を感じ取る。
攻撃は手加減などしなかった。
それを食らって尚も無事なこの男のタフネスは尋常ではないと気を引き締める。
「バルンガルド様、加勢致す!」
「おお、ナッツァー、それにロナイスも来てくれたか!」
更に身長2メートル近いこれまた筋肉質な若騎士が2人追加され、その質量からくる暑苦しさと面倒さの増し増しに、イルミナの顔がしかめられる。
貧乏くじを引かされた気分じゃ……。
イルミナは魔法の盾を複数枚追加し3人の敵に注意を払う。
「メリー、面白そうなのが出て来たなー」
「物足りなかったところだが、今度のは殴り応えがありそうだ」
2人は獰猛な笑みを浮かべ、新たな獲物へと狙いを定めた。
・ウィッシュタニア城北西&南東:物見の塔最上階。
城を挟んで北西と南東の対角線上に位置する二つの塔は、全長約50メートルとかなり高い。
そんな場所で、俺は招集したレスティー達や救出したての第三王子配下の兵と共に、その2ヶ所の屋上をワープゲートで繋いで陣取り、城へ向けて攻撃魔法を打ち込んでいた。
それも妨害魔法をかけた状態でファイヤーボールなどを城の壁付近に出現させて爆発させるものだから、巡回している兵達はこちらの居場所を特定出来ずにいた。
しかもフリッツやダンクマール達軍人には、地下迷宮に送った兵士達からはぎ取った軍服を着用して塔の上に立っているので、下に居る兵士達には普通に見張りをしている同僚にしか見えていない。
そんな彼らの隙間から、同行していたトモノリが顔を覗かせ下の様子を見る。
すぐにリザードマンの大女がトモノリの襟首をつかみ、有無を言わさず後ろに下がらせる。
「精悍さとは対極のぶよぶよ顔を不用意に出すんじゃない、バレたらどうすんだい」
「ご、ごめんなさい!」
怒られたトモノリがオロオロしながら、クサンテ姐さんに頭を下げた。
よくこんな高い場所から下を覗けるなぁ。
怖いもの見たさで俺もつい見ちゃうけど。
最近は飛行魔法の訓練を行っているため飛行中の高所は怖くは無くなったが、魔法無しで高所を見下ろすのは未だに怖い。
なんて考えていたら地面を見たい欲求に駆られ、胸壁から顔を出してすぐに頭を引っ込めた。
「こっわ」
「お前はなにやってんだよ」
「高い所って、怖いもの見たさでつい覗いちゃうんだよなぁ」
「あ、わかるわかるー」
犬耳少年のユーベルトには呆れられながら手にかいた汗をズボンで拭っていると、同じく犬耳の少女カーチェには同意された。
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「あ、あの、僕達が魔水晶を使ってレベルを上げたのが昨日だから、もしかすると急なレベルアップに感覚が追い付いてないのかもしれないです」
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俺がこの状況に苦悩していると、フリッツが寄って来た。
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「殿下の連絡ってより第一王子からの伝言じゃねぇか」
「ランペールめ、なんと卑劣な!」
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「エルネストにこう伝えてくれ。〝要求はのんでやる。ただし人質に傷一つ付けてみろ、城諸共お前らを必ず殺す。必ずだ〟と」
「わかりました」
「兎に角、皆はこのまま攻撃を続けてくれ」
「まかせたまえ~♪」
「お・ま・か・せ♪」
いけしゃあしゃあと皆に指示を出すと、歌わないと死ぬ病に犯された出っ歯エルフのアーヴィンと割れた顎に不精髭を生やしたレスティーが同時にウインクした。
やはりキモイ。
「おーい、お前達、敵はどこに居るか見えんのかー?!」
そこに城の中庭で右往左往していた兵士の1人が、こちらに向かった大声で叫んできた。
その背後には数名の兵士を引き連れている。
「北東の塔付近だ! そこから攻撃魔法が見えるぞ!」
エルネストの私兵で不精髭のセッツが、下の兵に大声で答える。
北東と南西にもここ程ではないが高い塔があり、咄嗟にワープゲートを開いて北東の城壁から城目掛けて光魔法で砲撃した。
着弾地点で激しい衝撃音が轟き閃光の花が咲く。
城そのものは魔法で強化されかなり強固らしく、こちらの魔法も威力は落としているため、城が壊れることは無かった。
『伝令、敵は城壁北東の塔! 繰り返す、敵は城壁北東の塔! 直ちに急行せよ!』
「俺達は持ち場を離れられんが気を付けろよ!」
「折角レベルが上がったのに見張りとは残念だな、まぁお前らの分も手柄を立てて来るぜ!」
「ぬかしてろ!」
セッツが白々しい会話を堂々とすると、兵士は仲間を引き連れ走って行った。
それを見送ったセッツがこちらに振り返る。
その額には大量の汗が流れていた。
バレたら自分達よりもはるかにレベルの高い兵士達が大量に殺到するのだ、そりゃ緊張もするわな。
「ふぅ、肝が冷えるとはこのことだな」
「ご苦労さん」
「あんたの機転で助かった」
苦笑いでお道化てみせる男に、つられて笑みを浮かべたディオンと俺が労いと称賛を送る。
まだ24歳か、俺と同い年なのにキモ据わってるなぁ。
「なに、これもエルネスト殿下のため、延いてはこの国のためだ」
「エルネスト王子とはそれ程の男なのか?」
「あぁ、殿下は素晴らしい方だ。だが国王や第一王子達が同等、いや、それ以下でもかまわないが、せめてエルネスト殿下の半分でも国や民の事を考えてくれていたら、俺達もここまでの事はしなかっただろうな」
俺の問いかけにセッツがやや複雑な表情で吐露した。
「俺はこの国の地方貴族の次男坊でな。うちの領地は裕福ではないが、額に汗水垂らして働いている分には飢える心配はない程の豊かさはあった」
セッツがそう語り出すと、ウィッシュタニアの現状を教えてくれた。
5年ほど前から国王は政治に関心を示さなくなり、政は全て第一王子とその手下が取り仕切るようになったそうだ。
だが、そこからすべてが狂い始めた。
自身は贅沢をするためだけに一気に税を引き上げた。
当然自分達が収める税収も跳ね上がるため、貴族達がこれに猛反発すると国民の誰もが思った。
しかし、立ち上がる貴族は誰もいなかった。
なぜならランペールが先に手を打っていたからだ。
まだ増税が打ち出されていない6年前の収穫祭でのこと。
毎年国を挙げての一大イベントとも言える祭りで、ウィッシュタニア貴族をその家族ごと城に招くと、当主の隙をついてその妻子に奴隷契約を強引に結ばせた。
さらにそれだけにはとどまらず、妻子を人質に次は当主といった具合で、全ての貴族を奴隷化するというとんでもない行動をやってのけたのだ。
自分達の命を握られては泣き寝入りする他はなく、貴族達は重税を受け入れざるを得なかった。
今では増税に増税が重ねられ、収入の約3分2が国に持っていかれるのだとか。
所得税60%オーバーとかアホなのか……?
完全に狂気の世界である。
だがセッツの話しはここまでが前振りで、これからが本番だった。
その水増し増税はどこにしわ寄せが行くかと言えば、それは当然領民である。
そしてセッツの居た領地はと言えば、重税に耐えきれなくなり、雇用していた兵士を全て解雇してしまった。
〝国家とは国家として維持できるだけの武力があってこそはじめて成り立つ〟
領とは、規模を縮小したとはいえ1つの国その物である。
そんなのが兵を手放せばどうなるか。
魔物や野盗が村の自警団がどうにか出来る範疇を超えた時、頼れるのは冒険者と領主のお抱え戦力だ。
そして、重税の課せられた領民に冒険者を雇う金なんて有るはずもなく、後はもう領主に頼るしかない。
しかし、その領主にもお金や兵が無い場合、もうどうしようもない状況となる。
首都より遠方の領地となると、国に兵を派遣してもらうにも時間がかかりすぎる。
そんな状況に陥ったセッツの父が収める領地は、兵を手放したその瞬間終わりを迎えた。
金の切れ目が縁の切れ目とばかりに、兵はそのまま野盗となり下がり、セッツの暮らしていた屋敷の財を根こそぎ奪って逃亡した。
屋敷の財の根こそぎの部分に、彼の両親と兄夫婦とその子供の命も含まれた。
「俺はたまたま魔物討伐に出ていたから難を逃れたが、たった3日家を空けただけで、俺はすべてを失ったよ……」
男の口から嗚咽が零れた。
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