四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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185話 切られた火ぶた

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 第二王子であるマルケオスが敵の襲来に出向き1刻が過ぎた頃。
 ウィッシュタニア玉座の間では襲撃に備えた兵士達が、未だ訪れない敵へある者は不安を抱え、ある者は功名に胸を躍らせながらも緊張していた。
 だが緊張状態で待ち続けるには1刻という時間は長く、ましてや襲撃が予見され配置についてからは既に4半日が経過している。
 その間もずっと緊張と待機を強いられ続けていた兵士達にとって、勇者襲撃の報で一度は心を引き締められるも、そこからの1刻は心をすり減らし、緊張が弛緩しかんするには十分な時間と言えよう。
 そして〝第二王子の戻らぬ理由〟や、〝襲撃者はもう来ないのでは?〟といった憶測があちらこちらで囁かれ合
った。

「なんだその浮ついた態度は! 敵はいつ攻めて来るかもわからんのだぞ!」

 国の英雄にして軍の支柱とも言うべき老将ヴィクトルが、そんな浮足立った男達を見かねて叱咤する。

「つまんないよー。ランペール様ぁ、本当にそいつ来んのぉ?」

 黒い肌に目と口元を白く塗った異世界の女が、第一王子であるランペールの腕にすがり、甘えた声で尋ねてくる。
 その仕草にランペールが苛立ちから眉間にシワを寄せるも、それを見たヴィクトルに念話で注意され、直ぐに顔から険を隠す。

「あぁ、必ず来るさ。ルージュは敵が来たら直ぐに知らせてくれさえすれば良い」
了解りょ、あーしはそいつとエンカウントエンカしたら魔法で排除リムればいいだけっしょ?」
「あぁその通りだ。頼りにしているよ、私のルージュ」
「え、えへへ……」

 ランペールはこれまでの人生で一度も発したことの無い甘い声で囁き微笑むと、身長差で先程のランペールの顔を見逃した少女が甘えて縋りつく。
 先月呼び出し逃亡した女勇者と違い簡単に懐く少女に、ランペールは扱いの容易さに内心でほくそ笑む。
 しかし、ランペール自身この状況に苛立ちを募らせていた。

「あ、ランペール様の笑顔ヤバっ。良いよきみが深すぎてマジテンション上がるテンアゲー」
「ルージュにそう想われるのは光栄だよ」

 まるで猿の頭を撫でて餌付けしているようだ。
 これが今後毎日続く日課になるのかと思うとウンザリする。
 愚弟二人に愚王にそしてこの猿と、私の周りにはろくでも無い奴が多すぎる。
 
 ドゴォォォォォォン!!

 唐突な爆発音が城を揺らすと、続けざまに何度も音と振動が続く。

「何事だ!?」

 止まる事のない爆発音が響く中、ランペールが周囲に叫ぶ。
 兵や騎士が念話で各所に状況を確認する念話を飛ばしている。

「ルージュ、どうなっている?!」
「わかんないー!? サーチ――なんだっけ? それにもなにも出ないの!」

 役に立たない警報装置にランペールが顔を歪めて舌打ちするが、爆発音に驚く少女にはそれに気付く余裕が無かった。

『伝令! 第一物見の塔の屋上からの法撃を確認!』
『伝令! 1階訓練場にて侵入者が暴れております! 至急増援を願います!』
『伝令! 中庭から城への攻撃を確認! 反撃を開始します!』

 爆発音が20に差し掛かった辺りで、念話での報告が続々と上がる。
 
「何をしている、早くこの爆発を止めよ!」
「殿下、一騎当千の近衛騎士を鎮圧に向かわせましょう」
「わかっている!」

 老将の進言にランペールが苛立ちを言葉でぶつけると、傍に控える近衛騎士団長へ顔を向ける。
 
「バレンティン、人選を行え! 至急鎮圧に当たらせろ!」
「御意」

 白い甲冑の中年男性が、恭しく頭を垂れた。
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