四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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179話 開戦

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 ちっ、勇者を新たに召喚するかもとは聞いていたが、既に召喚された後か。
 てかベ-ス400って、一体どれだけの魔水晶マナクリスタルをつぎ込んだらそんなレベルになんだか。

 その間にもゴロツキ共が警戒する俺達を取り囲むと、それぞれがニタニタと見下した笑みを浮かべ、手にした得物を見せつけてくれる。
 すぐにフリッツが小声で「第二王子と旧冒険者ギルドの人間達です」と小声で知らせてくれた。
 俺がそれに頷くと、マルケオスがトモノリの肩を叩き念話を開始した。

『トモノリ、奴らのスキルは奪ったか?』
『は、はい!』

 巨漢の第二王子、マルケオスに垢抜けない高校生トモノリが慌てて返事する。
 俺はそのやり取りに背筋が凍りつく。

 スキルを奪う、だと?
 
 慌ててステータス欄を開き確認すると、ボーナススキルからジョブスキルまできれいさっぱり消えていた。
 そこへメリティエとフリッツから〝急に鑑定が機能しなくなった〟と念話で報告が飛んで来る。
 だが俺の複合索敵魔法〈世界を見渡す高座フリズスキャールヴ〉は機能したままなことから、〝ジョブシステムから外れて習得したスキルや魔法までは奪われないんだ〟と直感的に理解し安堵する。

 スキル奪取なんてチートスキル、何の躊躇もなく他人に使うか普通?
 
『でもあの人達、レベルとかが〈鑑定〉に映らないんですよ!』
『勇者の遺品〈アーティファクト〉かなにかで妨害してるんだろ? そのくらいでいちいち騒ぐんじゃあねえ』

 トモノリが百面相で取り乱すと、それをマルケオスが鬱陶し気になだめる。
 
『それより余計なことをされる前に奴らを仕留めるぞ』
『仕留めるって、捕まえるだけじゃなかったんですか……!?』
『トモノリ、あの焼け跡を見ろ』

 マルケオスが非難の声を上げたトモノリの肩を叩き、新冒険者ギルドの焼け跡へ視線を誘導する。
 辺りには焦げ臭さが漂っているため燃えたのは昨日今日なのかもしれないが、つい数分前まで燃えていたって訳でもない。

『これは奴らの仕業だ。焼け跡からは死体も見つかったと報告も受けている』
『そんな……なんて酷いことを……!』

 こともあろうに放火犯の濡れ衣を着せてきやがった。

『ああいった奴らからこの国を守るのにトモノリおまえの勇者としての力が必要なんだ。そのお前がいちいち動揺してると兵達の士気にも影響が出ちまう。しっかりしてくれ』
『ご、ごめんなさい。俺、こういうの初めてだから……』
『気にすんな。お前は俺達が守ってやるから、安心して後ろで構えてな』
『は、はい!』
『アテにしてるぜ』

 マルケオスに再び肩を叩たたかれたトモノリが、キッとこちらを睨みつけてくる。

 はた目からは頼りになる兄貴分に叱咤激励された風だが、建物が燃えたのも街がデストピアしてるのもこいつが原因だと思うぞ。

「言っとくけど、あれ燃やしたの俺達じゃないからな?」

 俺の発言にトモノリが驚きの顔をしたため「燃え跡見ながら露骨に念話してりゃ誰だって察するわ」と誤魔化しておく。

「他国の勇者が深夜にこそこそ人んちの庭を嗅ぎまわっておきながら〝何もしてません〟なんて、そんな言い訳が通るかよ」
「そ、そうですよ、だったら誰が燃やしたって言うんですか!」
「キミの周りの悪人ヅラしてる奴らが最有力候補だけど?」
「いい加減なこと言ってんじゃねえよ」

 マルケオスがトモノリの肩を掴んで後ろに下がらせる。

「いい加減? お前が子飼いにしてる冒険者そいつらが無法者化してるのは、この国の人なら誰もが知ることだろ。新冒険者ギルドが設立された経緯を考えると、犯行動機的に一番疑わしいのはお前らやろが」

 痛い所を突いたつもりだが、トモノリに目を向けられた全員が一様に〝俺は何も知らない〟って顔で首を横に振る。
 マルケオスも念話で『あいつはお前を惑わせるための嘘を言っているだけだ』とトモノリに告げる。

「他国の勇者だこんな夜更けによそ様の庭でコソコソとしておいて、そんな言い訳が通用するとでも思ってるのか? てめえらがここに来た目的が城を攻めることだってのはもうバレてんだよ」

 今度はマルケオスがこちらの痛い所を突くと、肉厚な剣の切っ先をこちらに向けた。

 ちっ、そこはお見通しか。
 いや、こうして報復に来ることも見越して俺の家に襲撃したんだろう。

 それに乗っかってしまった自分の浅慮せんりょさに嫌気がさす。

「見ろトモノリ、奴の顔を。〝犯人は私です〟って顔してるだろ?」
「まさか同じ日本人なのにこんなことをするなんて……!」

 鬼の首を獲った様に告げるマルケオスも、それを鵜呑みにして信じてしまうトモノリも控えめに言ってクソだが、こんな場面でポーカーフェイスの1つも出来ない俺はこの場の誰よりもマヌケであったろう。
 自身への腹立たしさが怒りに変わり、怒りで殺意を呼び戻す。

 ……面白い、そんなに俺を敵に回したいってんなら徹底的にやってやろうじゃないか。
 こっちは元々家を襲撃されたことにはらわた煮えくり返っているんだ、お前等がケンカを売った相手がいかに危険な存在かを、深層心理――いや、魂にまで刻み付けてやる!

 躊躇ためらいを殺意で塗り替え、地面に魔力を浸透させる。

「〈ヨルムンガンド〉」

 小さな呟きと共に俺達を包囲していた奴らの足元が微かな鳴動が起きた次の瞬間、地面から2メートルを超える土の棘が高速で飛び出すと、ごろつき共の串刺しオブジェクトを完成させた。
 わざと外したマルケオスとトモノリ、回避してみせた眼帯のヒストールの3人の顔が凍り付く。
 貫かれた者達からはおびただしい鮮血が闇夜の空に吹き上げ、白い月明かりが一瞬で朱に染まった。
 周りはせ返る程の血臭で満ち、血風となって闇夜に流れる。
 世界蛇の名を冠した魔法はアーススパイクの改良型で、指定範囲の土を無数の針に変え高速で射出する土属性魔法。
 サメ系パニックホラーみたく巨大ザメが海の真下から船以上の大顎で飲み込もうとするイメージで、地面を怪物の口に見立てた魔法だ。
 大地が牙を収めると、ある者は頭を失いある者は胸に大きな穴を開けている無残な死体が転がった。
 その攻撃を受けた者全員に言えるのは、貫かれた瞬間即死しているということだ。
 なるべく苦痛を与えず、それでいて死に様は惨たらしく。
 その光景に初めて人を殺した時以上の嫌悪感が胸に淀むが、歯を食いしばって自分の感情を踏み付ける。
 
「ばかな、スキルは奪ったはず……!?」
「魔法……なのですかい……?」
「……………」

 驚きながらも警戒して武器を構えるマルケオスとヒストール。
 トモノリは放心して地面に腰を落とした場所は、血と臓物でぬかるんでいた。

「嘘だ、こんなの……」

 ウィッシュタニアの勇者は手に付着した血肉を凝視するも、それがなんであるかが理解できない――否、理解したくないと言わんばかりに目を見開き固まっている。

「スキルを奪い、大勢で取り囲んでるから安心してたのか? まさか、人殺しの道具をチラつかせて自分は殺されませんなんて思っていたのか? だったら当てが外れて残念だったな……」

 俺は氷点下の眼差しでそう告げてた。

 先に暗殺集団をけしかけたのはウィッシュタニアだ。
 その手先であるこいつらを殺すことになんの迷いがある。
 これは正当な報復行為だ。

 ダカラオレハマチガッテナイ

 罪悪感に押しつぶされないための言い訳を、心の中で唱え続けた。



―――――――――――――――――――
遅くなって申し訳ありません。
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