四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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177話 襲撃準備

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 氷水の入ったグラスを冷房の効いたリビングで見詰め、持て余した時間を1人過ごす。
 中の氷をカララント澄んだ音を鳴らし冷水を喉に流し込むと、心地よい清涼感が通り抜ける。
 あれからアイヴィナーゼに避難していた皆と話し合い、単独でのウィッシュタニア報復行動の許可を得られた。
 とはいえ不測の事態を考慮したリシア達が、いつでも出られるようにと戦闘準備に追われていた。
 寝室からの金属音や話し声を聞きながら、定位置で座布団を枕にして横になる。
 すると、テーブルの下に落ちるそれを発見した。

 白い、布……?

 不自然に落ちている白く小さな布を掴むと、その布には紐がついていた。
 落ちていたのは風呂に入る前にリシアと抱き合っていた場所なので、広げるまでもなく容易にその正体に辿り着く。
 だがまだそうだと決まった訳では無い。
 正確な答えを得るために、目視で細部までしっかりと確認をするために、俺は敢えて、そう、敢えてその布を広げて確認する。
 広げた純白の浪漫を目の当たりにし、先程まで湯気が出そうなほど真面目にフル稼働していた俺の思考回路がオーバーフローを起こした。

 ひゃっはー! リシアの脱ぎたておぱんちゅだあああああ!!
 これこそ人類の革新!
 異世界移民独立の御旗!
 あぁ、刻が見える……。

 支離滅裂なセリフが脳内に垂れ流しながらその温度を触感で確かめるも、残念なことに冷房の効いた部屋では体温なんて残ってはいなかった。

 ……確かに暖かさは失われている。
 だが、匂いまで消えたと誰が言い切れる?
 くっくっくっ、そこに気付くとは俺って天才かよ。
 最愛の猫耳美少女妻の脱ぎたておぱんちゅが手元にあって、尚且つそれに気付いてしまったら、その誘惑に抗える者がどこに居ようか?
 いいや居ない(反語)
 抗える奴が居ないということは、これすなわち普通で健全で正常な成人男性の行いなのだよ。
 だが敢えて言おう、変態であると!
 これがよしのんやクラウディアのなら罵られても興ふ――ゲフンゲフン、批難されても仕方がないが、この手にあるのは愛する妻の物なのだ、誰から非難されると言うのかね!
 ――まぁリシア本人からお叱り確定案件だな……。

 流石にこれを嗅いだとバレたら殺される。
 だが男にはそれでもやらなければならない時がある。
 それが今ではないと誰もが口を揃えるだろうが、そんなものは気にしない。
 何故ならここで何もしなければ、リシアが自分に魅力が無いと思い、傷付いてしまうかも知れないからだ。
 彼女の魅力を証明する為にも、俺は自ら修羅の道に足を踏み込む。

 いざ、ぱぁらだぁ~いす!

 上半身を起こし手の中の布を広げようとした時、廊下の方からドアを開閉する音が聞こえた。

 ちっ、もう準備を終えたのか!

 内心で強く舌打ちして咄嗟に白い布を収納袋様の中に放り込むと、廊下の方から金属音が近付いてきた。

 身長と髪型、あと眼鏡の形状からしてよしのんかな?

 マナ感知による空間スキャンで確認すると、予想通り完全武装のよしのんがリビングの入り口に姿を現した。
 よしのんが俺を目視するなり、何故か不安げだった表情を安堵に変える。

「どうしたの?」
「アイヴィナーゼの大きなお屋敷であんなことがあったじゃないですか? あれ以来怖くて……」
「あぁ~」

 確かリシアが霊視し、それをみんなの前で告げた事件のことを言っているのだ。

「いやいや、でもちゃんと除霊したし大丈夫だろ。それに向こうにだって今も人が住んでるんだし」
「そそそうですよね、お化けとかもう居ませんよね!」
「本当に、そうかな?」

 目を見開き口元に半開きな笑みを浮かべると、よしのんをじっと見つめたまま表情を固定した。
 完全に霊の仕業です。

「ひぃっ!?」
「冗談冗談。でも別宅とワープゲートを繋げた場所ってよしのんの隣の部屋なんだよな……何もないと良いよね♪」
「やめてくださいよ! 本当にお化けとか苦手なんですから!」
「安心しろ、俺も苦手だ」

 笑みと共に親指を立てて大丈夫さをアピールするもなんの根拠もないので、よしのんも納得しやしなかった。

「じゃぁなんでさっきみたいなことしたんですか!」
「思い出させてくれたよしのんに仕返し?」
「聞かれたことを答えただけなのに酷くないですか!?」
「すまんすまん。一応クラウディアのお父さんには別の屋敷を用意してくれと頼んでおいたから、それまでは我慢してくれ」
「うぅ……」

 あ、涙ぐむ地味眼鏡美少女可愛い。

 その嗜虐心を誘う表情を見ると、余計に意地悪したくなる。

 俺は小学生の男の子か……。

 自分の幼稚さを誤魔化す様に、グラスに入れた水を口に運ぶ。
 自身を振り返ったところである疑問が浮かんだ。

 彼女はこの家で唯一の男である俺にこそ警戒すべきなんじゃね?
 筋力強化魔法を用いれば近接戦闘をかじった程度のどんくさい女の子なんて軽く押し倒せるんだけど、そのことに気付いていらっしゃいますか吉乃さん?

 変な気を使われても面倒なため、気付かなかったことにする。

「ヨシノ、そこに立たれると邪魔だ」
「ひゃああ!?」

 後ろから完全武装の和風美幼女ドワーフがスっと現れたことに驚いたよしのんが、ダイビングヘッドでリビングの床に倒れ込んだ。
 よしのんの頭部がテーブルの角ギリギリを掠めヒヤリとさせられる。
 最近のメリティエは足音を立てないため、俺ですらマナが動く気配で察知しないと気付けない。

 怖い話をしたばかりであれをされると心臓にくるんだよなぁ。

「トシオ、喉が渇いた」
「これでも飲む?」

 自分の飲みかけの冷水を差し出すと、メリティエは起き上がろうとするよしのんの隣を音もなく通り抜けた。
 そして俺からグラスを受け取り、冷水を飲み干し氷をボリボリと噛み砕く。

「おかわり」
「はいよっ」

 カラのコップを差し出されたのでケトルから冷水を灌ぐも、メリティエはそれも一気に飲み干し、再びカラになったグラスをテーブルに置いた。

「トイレ」
「いってらっしゃい」

 メリティエが短い言葉を発して立ち上がり、そのままリビングを出ていくのかと思いきや、俺の唇にキスをしてから出て行った。
 何事もない風を装ってはいるが、彼女の小さく尖った耳が赤く染まっていたのを見逃さなかった。
 寝室以外では恋人らしい行動を一切行わない彼女の激レア場面である。

 今後は俺から積極的なスキンシップを図るとしよう。 

 一連の流れを見ていたよしのんが、去り行くメリティエに目を向け身悶える。

 小鼻開いてるよ?

「小さな女の子の恥じらいながらのキスとか可愛過ぎます……!」
「よしのん、女の子がして良い顔じゃないよ?」
「ふえっ!?」

 我に返ったよしのんが、慌てて手で顔を覆い隠す。

 無防備さを恥じらう女の子もまた可愛い。
 人前で小鼻を開かせるような子だけど。

 なんとなく小鼻を開く練習をしながら、新しいコップを魔念動力で手元に引き寄せると、冷水をコップに注いでよしのんの目の前に置いた。
 目の前に出された冷水を水を飲むか飲まないかで悩むよしのん。

 もしかして、夜中に1人でトイレに行けないから飲めないとか?

「……トイレなら俺が付き合ってやるから飲んだら? 脱水症状になられても困るし」
「そうですね、じゃぁいただき――って、一ノ瀬さんに来られるのが一番困ります!」

 よしのんが顔を真っ赤にし、ノリツッコミみたいに拒絶された。

「なんだと? 待ってる間はトイレのドアに耳を付けることしかしないよ?」
「そんなことされたら聞かれちゃうじゃないですか!?」
「聞くためにやるんだから当然だろ?」
「当然ってなんですか!? 聞かれるのが恥ずかしいから嫌なんじゃないですか!」
「良いじゃねぇか、減るもんじゃあんめぇし。……まぁ冗談はこれくらいにして、とりあえず廊下の明かりは常時点灯させておけば1人でも行ける?」
「あ、それなら大丈夫です」

 魔力バッテリー化した魔核に明かりライトの魔法を宿し、半永久的に光を放つ魔道具を即興で作ると、よしのんに向かって投げて寄こす。
 短距離をゆっくりと放物線を描いた球体を捕り落とす辺り、この子のどんくささは筋金入りだ。

「それでも怖いときはルーナかペスルでも連れ込んでくれ。もしくはモティナと同室にしても構わないよ、夜更かしさせなければだけど」
「ん~、モティナちゃんには悪いし、でもペスルちゃんは大き過ぎるのでちょっと怖いです」
 
 顔はアホ柴でも、ライオンサイズの黒犬は流石に怖いようだ。

 大き過ぎて怖いとか、初めての時のフィローラにしか言われたことないなぁ。

 金髪眼鏡美幼女との初夜を思い出し、ニヤケが顔に出たのを自覚し直ぐに歯を食いしばり抑え込む。

「……今、変なこと考えませんでした?」
「気のせいでしょ?」
「ホントですかぁ?」
「ホントホント」

 そういうところだけは鋭いのな……。

「てか今の内にトイレに行って来たら? 今ならメリーに頼めば待っててくれるっしょ」
「そうですね、行ってきます。あ、コップ洗わなきゃ」
「俺が洗っとくからそこに置いといて」
「いいんですか?」
「1つも2つも同じだからね」
「それじゃ、お言葉に甘えますね。……一ノ瀬さんって意地悪だけど良い人ですよね」

 よしのんがそう言い残してリビングを出ていった。
 いつもおもちゃにされ雑用を押し付けているのに、ちょっと優しくしたらこれである。

 JKちょろすぎワロタ。
 変な男に捕まるとろくなことにならないので、やはり保護しておいて正解だったな。

 空のコップを台所で手洗いすると、魔法で水気を飛ばし食器棚に戻したところで、勝手口からコンコンっとノックが2回鳴った。
 勝手口を開いた先には、ウィッシュタニアの水先案内人として呼んでいたフリッツの姿を確認する。

「夜分に悪いな」
「いえ、お気になさらず。しかし、襲撃を受けたその日に報復とは大胆ですね」
「こういうのは早い方がより奇襲性が増すからなぁ。そういう意味では遅いくらいだ」
「なるほど」

 フリッツが感心してるのか呆れているのか判断のつかないクソ真面目顔で相槌を打つと、廊下の方からにぎやかな声が。
 完全武装の嫁達が入って来たので、今度こそ準備が整ったようだ。
 そんな準備、無駄に終わるに越したことは無いが。

「それじゃ、作戦はさっき話した通り、俺とフリッツで城内に潜入。報復後はすぐに帰宅するから、皆は別命有るまで待機でよろしく」
「やはり私も行こう」

 作戦内容の確認のためそう告げると、トイレから戻っていたメリティエが名乗りを上げた。
 先程の無音移動を考えると、隠密行動には適している。
 それに近接職で回避力にも優れた彼女を連れて行くのは極めて有効かもしれない。

「ん~……じゃあメリティエには付いてきてもらおうかな」
「任せろ」
「えー、メリーが行くならあても行くー!」

 いつものように親指を立てるメリティエを見たトトが、獣の前脚をぴょんぴょんと跳ねさせ同行を申し出た。
 身体が弾む度に全身鎧がガチャガチャと大きな音を立てる。

「今回は静かに忍び込むのが目的だから、悪いけど皆とお留守番しててくれ」
「やーだー、つまんないー!」
「トトはペスルのお姉ちゃんなんだから、我がまま言わないの」
「……はぁい……」

 窘める姉に抱き着きブー垂れるも、トトはそれ以上食い下がることは無かった。
 末っ子我がまま気質だったトトが素直に言うことを聞いたことに、彼女の成長が垣間見え感心させられた。

「ごめんなトト。それじゃぁ行ってくる」
「いってらっしゃい」

 寄って来たリシアと抱擁を交わすと、ワープゲートをウィッシュタニアの王都へと開いた。



――――――――――――――――――――

 ウィッシュタニア襲撃戦スタートです。
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