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174話 人は誤解なくては分かり合えない
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……はああああああ???
宙に待った少年達の頭が放物線を描き湖に着水する間際、魔念動力で2人の頭と身体を掴んで引き寄せる。
それと同時に足の裏に生み出したファイヤーボールの爆発加速で魔族の男共の目の前に飛び出すと、弾速強化をかけたアースブラストによる高速質量弾を打ち出し2人を吹き飛ばす。
まだだ! まだ間に合う!
魔法で引き寄せた少年達の頭部を身体に繋ぎ、回復魔法を最大出力で発動させる。
「おやおやあ、死体に回復魔法とは面白いことをするではないかぁ。だあが、一度死んだ者が生き返ったりはせんぞお?」
「黙れ!」
吹き飛ばしたはずのミストリックが、5メートル程手前に現れる。
もっとゆっくりと散歩してから戻ってきやがれ!
防御魔法にライトニングウォールを張り巡らせた強力な電磁バリアで、奴との間を遮断する。
人間の首は切り落されてからも十数回は瞬きするだけの時間、意識があるとなにかで聞いた覚えがある。
つまり、彼らはまだ死んではいない! これだけ処置が早ければまだ間に合うはずだ!
例えそれが都市伝説やホラ話の類だとしても、今はそれに賭けるしかない!
絶対に大丈夫だと自分に言い聞かせながらありったけの回復魔法を施し少年達の首を繋げ終わると、呼吸と心臓が止まった彼らに空気の流れを操った人工呼吸と魔法による心臓マッサージを開始する。
戻ってこい、戻ってこい!
器官に詰まった血を排除しながら蘇生行為を続け、増血魔法と体力回復魔法もフルに発動させる。
すると、少年達は口から大量の血を吐き出して咳込み、荒い呼吸と共に身じろいだ。
まだ気を失っているが、蘇生が成功したことを告げてくれる。
何が生き返らないだ、間に合ったじゃねぇか!
今まで何かあるとすぐに思考停止していた俺にしては上出来だ。
勝ち誇っても良い程の上出来だ!
「馬鹿なあっ、死んだ者が生き返るなど有りえぬう!? 蘇生魔法は例えあの御方でも使えぬのだぞおぉぉぉ!?」
「俺も今じゃ〝あのお方〟だ」
ミストリックの言うあのお方とは、恐らく仕えている魔王か古代魔法人のことを指しているはずで、俺のような一都市の闇社会の支配者程度の〝あのお方〟とは全然違い過ぎるだろう。
だがこの場にも居らず、子供1人も救えないようなあの御方とやらなんぞより、今の俺の方がよっぽど上等だ!
怒りと共に、こんなにもあっさりと人を殺すことが出来るのは、魔族も人間も変わらないのかと憤る。
少年達をワープゲートで自宅のリビングに送ると、自宅に戻っていたリシアに彼らの保護を任せてワープゲートを閉じた。
『トシオ様、大丈夫なのですか?!』
『あぁ、直ぐに帰るから心配ない。その子達を頼む』
リシアにそう告げ念話を強制終了すると、電磁結界を解いてミストリックと対峙する。
先程まで心労から萎えていた俺の心が、今は奴の凶行に怒りで煮えたぎっている。
「ミストリック、俺は言ったよな? 礼儀の正しい人には礼を尽くすと。これがお前の礼儀流儀だと言うのなら、俺もそれ相応の礼を持って答えてやる。勇者よ宿れ!」
強化外骨格魔法による漆黒の甲冑が身体を包み、先程とは比べ物にならないくらい力が漲る。
「魔力増加! 魔法強化!」
更に複数の付与魔法を発動させる。
準備完了、当方に報復の用意あり!
……そう言えばもう1人は何処に行った?
「相棒はどうした?」
「彼はなかなかにドン臭い男でねえ、キミの攻撃で遥か彼方まで飛んで行ってしまったさあ」
ミストリックの言葉を聞き流しながら〈フリズスキャールヴ〉で前方に索敵をかけると、バドーラントが遥か先で転がっていることを確認する。
さすがに自分の数倍ものレベルである物体を、同時に相手にするのは分が悪すぎるだけに丁度良い。
まぁワープの類が無いとも限らないので、警戒するに越したことは無いが。
どっちにしろ戻ってこられる前にこいつだけでも仕留めてやる。
「〈ブリューナク〉!」
先手必勝とばかりに超強化されたシャイニングブラストを素早く打ち込むも、攻撃するタイミングを読まれたか、打ち出す前に奴の姿が掻き消えるのを確認した。
いくら最速の光属性魔法を打ち出しても、その初動を見抜かれては避けられてしまう。
高レベルの魔族は伊達じゃないってことか!
すぐさま俺の真横にぬけぬけと現れたため、魔法装甲で直接殴りつけるも、これを上半身を仰け反らせる動きで躱され間合いを取られる。
「待ちたまえぇ、君はなぁにをそんなに怒っているのかねえ?」
「それだけ長く生きてて何に怒っているかも分からんのなら、さっさと生きるのを止めてしまえ! 〈魔法防御貫通付与〉! 〈フラガラッハ〉!」
大量の魔法剣を頭上から付近一帯豪雨の如く降り注がせ、それを見せ球に奴の足元から『グレイプニル〉による魔法の紐で捕縛を試みる。
避ける場所その物を無くされ、防ぐという選択肢を取らざるを得ないミストリックが防御魔法を展開するも、死角からのグレイプニルが足に絡みつき、その拘束が全身に回る。
魔狼を捕縛する紐の名を関した魔法のロープが魔族の男を縛り上げると、降り注ぐ魔法剣はマジックピアッシングの効果でミストリックの防御魔法を押し退け奴の身体に突き刺さった。
「なんとおお!?」
全身と口から鮮血を飛ばすミストリック。
それでも躊躇なく追撃を打ち込む!
「〈ミョルニル〉!」
セージのバーニングレイとプラズマブリットによる光と雷の複合魔法を発動、高威力の雷光弾を捕縛した魔族に投げつけた。
帯電する極大光弾が直進するも、奴の居た場所から2つに裂け、湖面と森でそれぞれが爆発する。
本来着弾地点となるべき場所では、拘束を解き、右手の手刀に禍々しい紫の光を宿したミストリックが立っていた。
「ふうぅぅぅ、久々に〈斬首〉を抜いてしまったではないかあ」
獰猛な笑みと鋭い眼光でこちらを見据えるミストリック。
あの手刀で雷光弾を切り裂きやがったのか。
称号通り、正に斬鬼だな。
それにしても、未だにサーチエネミーに反応しないとは、俺を敵とすらみなしていないということか?
Lv600オーバーなだけにまったく大した余裕だな……。
ならばと再び大量に生み出した魔法剣による更なる追撃を放ち続ける。
それを右腕1本でことごとく斬り落としていくミストリック。
だがそれも見せ球、本命はこいつだ!
〈タスラム〉!
フラガラッハを撃ち続けながら、魔法の発動と同時に飛翔魔法で後方の空に逃れた。
そこへ、上空から音速に達した巨大な黒曜石の柱が、高速大質量弾としてミストリックごと地面を穿った。
凄まじい轟音と共に運動エネルギーで地面がめくり激震を生み出す。
周囲は土煙に覆われ大量の土砂が巻き上がった。
飛来した土砂と衝撃波をエインヘリヤルの魔法装甲で阻むも、荒れ狂う大気に索敵魔法が機能を失う。
着弾地点を上空から視認すると、大きなクレーターが生まれ、運動エネルギーによって熱せられた場所に湖の水が大量に流れ込み水蒸気が巻き上がる。
紡いだのは先程バドーラントを吹き飛ばしたアースブラストの超強化版。
巨大な石柱に消音魔法と透明化魔法、それに防御魔法をコーティングし強度を高めた物を高高度で生成し、魔法誘導を用いて命中精度を上げ、全力で撃ち落としたのだ。
湖から吹く風が土煙と水蒸気を押し出し、次第に視界がクリアになって来る。
「ほら、生きてるんだろ? 出て来いよ」
なんとなく生きている気がしたので、地面に降り立ち正面を見据えたままそう嘯く。
例え今のセリフが間抜けなものとなっても、死んでいてくれた方が有難い。
だが俺の願いも虚しく、回復した索敵魔法がミストリックを捕らえた。
「んん~、まあさかあぁぁぁ、これ程の魔法の使い手とは思わなかったぞおおおおおおおおお!」
声がするのは石柱の着弾地点、土煙が完全に晴れると、湖の一部となった元湖畔の水面を仰向けで浮かぶミストリックの姿を目視した。
浮き上がった姿はズタボロで、全身からは青い血を流している。
特にその左半身は、運動エネルギーによる衝撃なのか回避しきれなかった石柱の破片が被弾したか、かなりひどい裂傷を負っていた。
なんだろうか、あれを食らって生きてること自体はすごいんだが、滅茶苦茶大怪我してますやん……。
そこは無傷で「もう遊びは終いかね?」とクールに決める所じゃないのか魔王軍幹部さん。
「やっぱり生きてたんだ、でもさよなら」
「まあ待ちたまええ、キミは何か誤解をしているのではないのかねええええ?!」
トドメの荷電粒子砲を打ち込んでやろうとしたところ、ミストリックが慌てて待ったをかけて来た。
全身ずぶ濡れで電気がよく通りそうだったのになぁ。
「誤解? 責任を持って預かると言った人間が、その責任の下に預かったばかりの子の首を撥ねるのが誤解と言うなら、あんたの存在そのものが人道的に誤解だろ」
止めてやる義理はこれっぽっちも無いのだが、最近の出来事で溜まった鬱憤を晴らすべく、苛立ちをまるっと言葉にしてぶつけてやった。
「んん~? それはどういった比喩なのかねえ?」
湖から浮遊魔法で地面に着地しながら頭に疑問符を浮かべる魔人。
なんとなく〝誤解〟を使った文章をでっちあげたかっただけで比喩ですらない。
傷の修復がなされていないのは、敵意が無いとの意思表示か、はたまた回復魔法が使えないのか。
「そんなことはどうでも良い。誤解ってなんだよ? 冥途の土産に聞いてやる」
「んん~、それもこの状態では我が聞かされる側だと思うのだがあ……まあ良いだろお。我の記憶が確かならばあ、キミは彼らを〝親元へと送り届けてくれ〟と、そお言ったなぁ?」
「あぁそうだが?」
「だがしかぁし、この付近で彼ら程の年の子供が連れ去られた場所は1つしかなくてねえぇ、その村の生存者は残念ながら1人も居らんのだあ。であるからしてえ、既に亡くなっている両親の場所に連れて行くとするならばあ、当然殺すしかないであろおう? 違うかねぇ?」
「……違うわボケえええええええ!」
一瞬頭が真っ白になったが、すぐに立ち直ると、思わず絶叫していた。
大音声の叫びが静けさを取り戻しつつあった湖にこだまする。
もうこいつ何言ってんの?!
「お前どんだけ融通効かんねん! そんな〝死んだ両親にはあの世で再会させてやる〟なんてセリフ回し、物語の悪役だけでええんじゃドアホがあああああああああああ!」
比喩なんて言葉を知っていながら、人の言った言葉を全部そのままに受けるとかどんだけ低能なんだ!?
だがそれって、ただ俺の言われたとおりに実行しただけということになる。
てことは俺が悪いのか!?
けどそれだと魔族と会話するのに一字一句正確に言葉を選んで伝えないといけないってことになるぞ?
いやいやいや、誰だって古代魔法人の子孫であるはずのこいつらなら、自分達以上に頭が良いと思いますやん!
むしろ別ベクトルで頭がキレてたからこんな状況になったのか!?
そんなのどうやって予測するんだよ!
無理ゲーすぎるわ!
「親御さんが亡くなっているなら、その親代わりになって育てる方向にもっていけや! 魔王軍幹部様ならそれくらい察しろや!? それに言ったよな、俺は〝助けたいんだ〟と! まさかあれか? 死が救いとか謎の拗らせ方したとか言わんよな? もしかしてそんな残念なおつむだから外回りをさせられてるんじゃないのか?!」
「そ、その様な訳はぁ無いに決まっておろぉ……?」
更なる罵りに、言葉が尻すぼみとなる上級魔人。
ないわぁ……マジでないわぁ……。
俺が思考停止&諦めていたら少年2人の命が失われてたとかマジで勘弁しろよ……。
何年生きててもバカはバカということか?
もしくは300歳超えともなるとアレか「おじいちゃん、ご飯はさっき食べたでしょ?」的なアレなのかそうなのか?
だめだ、こいつの感覚が魔族の標準かもと思っただけで、戦慄で真夏にもかかわらず寒気がする。
魔族舐めてた。
こんな斜め上な種族だったとは思わなかった。
「そう怒るでなあいぃ。我も保護をした子供達を、態々我に殺させようとしたことに疑問ではあったのだあ。しかあしぃ、同族の問題は同族で解決せねばと思った次第であってだなあ?」
「疑問に思ったんならまず言えや!」
その思考のあまりのバカっぷりに、俺はミストリックへと近付きその胸倉を掴むと、力任せに殴り飛ばした。
湖面から出たミストリックさんに、〝もう敵対しませんよ〟の意思表示のつもりで回復魔法を発動させ、傷を完治させる。
その頃にはバドーラントさんも怪我1つ無く戻って来ていた。
音速の石柱を至近距離で受けて無傷ってふざけすぎだろ……。
「……ところで、あれだけ一方的に攻撃されながら、なんで反撃しなかったんです? そうすればここまでの怪我を負わな無かったでしょうに」
「それはだなあ、キミが何をそれほど怒っているのか腑に落ちなかったからだあ。それに言ったであろお? 我はキミの事が気に入ったとお。トシオとは敵対するよりもぉ、仲良くした方が面白いと思ったからだあ。なぁバドーよお?」
「………」
ミストリックさんの問いにまたもバドーさんが無言で頷き、彼らがサーチエネミーに反応しなかった理由に納得する。
彼らには初めから悪意も殺意も無かったため、サーチエネミーが認識しなかったのだ。
そして、あれだけ一方的に攻撃をされて反撃もせず、ボロボロに成りながらも凌いで見せたということは、俺は彼に手加減されていたということになる。
……結論、〝こいつは良い奴かもだが、俺を殺しかねない程の力を持った非常識なバカなので、もう二度と関わりたくない〟だ。
その後はミストリックさんとバドーラントの両名を〝連絡用〟と称して、奴隷契約を結ばせると、魔族の少年が成人するまで魔族領で責任を持って保護するよに約束させた。
もう色々な事が起こり過ぎて、頭がどうにかなりそうだ。
魔王軍幹部を名乗る魔族との遭遇と戦闘結果をチャットルームで報告し、クレアル湖から撤収した。
もうやだこの世界……。
憂さ晴らしのつもりで訪れたクレアル湖で、俺の心が更に摩耗した。
宙に待った少年達の頭が放物線を描き湖に着水する間際、魔念動力で2人の頭と身体を掴んで引き寄せる。
それと同時に足の裏に生み出したファイヤーボールの爆発加速で魔族の男共の目の前に飛び出すと、弾速強化をかけたアースブラストによる高速質量弾を打ち出し2人を吹き飛ばす。
まだだ! まだ間に合う!
魔法で引き寄せた少年達の頭部を身体に繋ぎ、回復魔法を最大出力で発動させる。
「おやおやあ、死体に回復魔法とは面白いことをするではないかぁ。だあが、一度死んだ者が生き返ったりはせんぞお?」
「黙れ!」
吹き飛ばしたはずのミストリックが、5メートル程手前に現れる。
もっとゆっくりと散歩してから戻ってきやがれ!
防御魔法にライトニングウォールを張り巡らせた強力な電磁バリアで、奴との間を遮断する。
人間の首は切り落されてからも十数回は瞬きするだけの時間、意識があるとなにかで聞いた覚えがある。
つまり、彼らはまだ死んではいない! これだけ処置が早ければまだ間に合うはずだ!
例えそれが都市伝説やホラ話の類だとしても、今はそれに賭けるしかない!
絶対に大丈夫だと自分に言い聞かせながらありったけの回復魔法を施し少年達の首を繋げ終わると、呼吸と心臓が止まった彼らに空気の流れを操った人工呼吸と魔法による心臓マッサージを開始する。
戻ってこい、戻ってこい!
器官に詰まった血を排除しながら蘇生行為を続け、増血魔法と体力回復魔法もフルに発動させる。
すると、少年達は口から大量の血を吐き出して咳込み、荒い呼吸と共に身じろいだ。
まだ気を失っているが、蘇生が成功したことを告げてくれる。
何が生き返らないだ、間に合ったじゃねぇか!
今まで何かあるとすぐに思考停止していた俺にしては上出来だ。
勝ち誇っても良い程の上出来だ!
「馬鹿なあっ、死んだ者が生き返るなど有りえぬう!? 蘇生魔法は例えあの御方でも使えぬのだぞおぉぉぉ!?」
「俺も今じゃ〝あのお方〟だ」
ミストリックの言うあのお方とは、恐らく仕えている魔王か古代魔法人のことを指しているはずで、俺のような一都市の闇社会の支配者程度の〝あのお方〟とは全然違い過ぎるだろう。
だがこの場にも居らず、子供1人も救えないようなあの御方とやらなんぞより、今の俺の方がよっぽど上等だ!
怒りと共に、こんなにもあっさりと人を殺すことが出来るのは、魔族も人間も変わらないのかと憤る。
少年達をワープゲートで自宅のリビングに送ると、自宅に戻っていたリシアに彼らの保護を任せてワープゲートを閉じた。
『トシオ様、大丈夫なのですか?!』
『あぁ、直ぐに帰るから心配ない。その子達を頼む』
リシアにそう告げ念話を強制終了すると、電磁結界を解いてミストリックと対峙する。
先程まで心労から萎えていた俺の心が、今は奴の凶行に怒りで煮えたぎっている。
「ミストリック、俺は言ったよな? 礼儀の正しい人には礼を尽くすと。これがお前の礼儀流儀だと言うのなら、俺もそれ相応の礼を持って答えてやる。勇者よ宿れ!」
強化外骨格魔法による漆黒の甲冑が身体を包み、先程とは比べ物にならないくらい力が漲る。
「魔力増加! 魔法強化!」
更に複数の付与魔法を発動させる。
準備完了、当方に報復の用意あり!
……そう言えばもう1人は何処に行った?
「相棒はどうした?」
「彼はなかなかにドン臭い男でねえ、キミの攻撃で遥か彼方まで飛んで行ってしまったさあ」
ミストリックの言葉を聞き流しながら〈フリズスキャールヴ〉で前方に索敵をかけると、バドーラントが遥か先で転がっていることを確認する。
さすがに自分の数倍ものレベルである物体を、同時に相手にするのは分が悪すぎるだけに丁度良い。
まぁワープの類が無いとも限らないので、警戒するに越したことは無いが。
どっちにしろ戻ってこられる前にこいつだけでも仕留めてやる。
「〈ブリューナク〉!」
先手必勝とばかりに超強化されたシャイニングブラストを素早く打ち込むも、攻撃するタイミングを読まれたか、打ち出す前に奴の姿が掻き消えるのを確認した。
いくら最速の光属性魔法を打ち出しても、その初動を見抜かれては避けられてしまう。
高レベルの魔族は伊達じゃないってことか!
すぐさま俺の真横にぬけぬけと現れたため、魔法装甲で直接殴りつけるも、これを上半身を仰け反らせる動きで躱され間合いを取られる。
「待ちたまえぇ、君はなぁにをそんなに怒っているのかねえ?」
「それだけ長く生きてて何に怒っているかも分からんのなら、さっさと生きるのを止めてしまえ! 〈魔法防御貫通付与〉! 〈フラガラッハ〉!」
大量の魔法剣を頭上から付近一帯豪雨の如く降り注がせ、それを見せ球に奴の足元から『グレイプニル〉による魔法の紐で捕縛を試みる。
避ける場所その物を無くされ、防ぐという選択肢を取らざるを得ないミストリックが防御魔法を展開するも、死角からのグレイプニルが足に絡みつき、その拘束が全身に回る。
魔狼を捕縛する紐の名を関した魔法のロープが魔族の男を縛り上げると、降り注ぐ魔法剣はマジックピアッシングの効果でミストリックの防御魔法を押し退け奴の身体に突き刺さった。
「なんとおお!?」
全身と口から鮮血を飛ばすミストリック。
それでも躊躇なく追撃を打ち込む!
「〈ミョルニル〉!」
セージのバーニングレイとプラズマブリットによる光と雷の複合魔法を発動、高威力の雷光弾を捕縛した魔族に投げつけた。
帯電する極大光弾が直進するも、奴の居た場所から2つに裂け、湖面と森でそれぞれが爆発する。
本来着弾地点となるべき場所では、拘束を解き、右手の手刀に禍々しい紫の光を宿したミストリックが立っていた。
「ふうぅぅぅ、久々に〈斬首〉を抜いてしまったではないかあ」
獰猛な笑みと鋭い眼光でこちらを見据えるミストリック。
あの手刀で雷光弾を切り裂きやがったのか。
称号通り、正に斬鬼だな。
それにしても、未だにサーチエネミーに反応しないとは、俺を敵とすらみなしていないということか?
Lv600オーバーなだけにまったく大した余裕だな……。
ならばと再び大量に生み出した魔法剣による更なる追撃を放ち続ける。
それを右腕1本でことごとく斬り落としていくミストリック。
だがそれも見せ球、本命はこいつだ!
〈タスラム〉!
フラガラッハを撃ち続けながら、魔法の発動と同時に飛翔魔法で後方の空に逃れた。
そこへ、上空から音速に達した巨大な黒曜石の柱が、高速大質量弾としてミストリックごと地面を穿った。
凄まじい轟音と共に運動エネルギーで地面がめくり激震を生み出す。
周囲は土煙に覆われ大量の土砂が巻き上がった。
飛来した土砂と衝撃波をエインヘリヤルの魔法装甲で阻むも、荒れ狂う大気に索敵魔法が機能を失う。
着弾地点を上空から視認すると、大きなクレーターが生まれ、運動エネルギーによって熱せられた場所に湖の水が大量に流れ込み水蒸気が巻き上がる。
紡いだのは先程バドーラントを吹き飛ばしたアースブラストの超強化版。
巨大な石柱に消音魔法と透明化魔法、それに防御魔法をコーティングし強度を高めた物を高高度で生成し、魔法誘導を用いて命中精度を上げ、全力で撃ち落としたのだ。
湖から吹く風が土煙と水蒸気を押し出し、次第に視界がクリアになって来る。
「ほら、生きてるんだろ? 出て来いよ」
なんとなく生きている気がしたので、地面に降り立ち正面を見据えたままそう嘯く。
例え今のセリフが間抜けなものとなっても、死んでいてくれた方が有難い。
だが俺の願いも虚しく、回復した索敵魔法がミストリックを捕らえた。
「んん~、まあさかあぁぁぁ、これ程の魔法の使い手とは思わなかったぞおおおおおおおおお!」
声がするのは石柱の着弾地点、土煙が完全に晴れると、湖の一部となった元湖畔の水面を仰向けで浮かぶミストリックの姿を目視した。
浮き上がった姿はズタボロで、全身からは青い血を流している。
特にその左半身は、運動エネルギーによる衝撃なのか回避しきれなかった石柱の破片が被弾したか、かなりひどい裂傷を負っていた。
なんだろうか、あれを食らって生きてること自体はすごいんだが、滅茶苦茶大怪我してますやん……。
そこは無傷で「もう遊びは終いかね?」とクールに決める所じゃないのか魔王軍幹部さん。
「やっぱり生きてたんだ、でもさよなら」
「まあ待ちたまええ、キミは何か誤解をしているのではないのかねええええ?!」
トドメの荷電粒子砲を打ち込んでやろうとしたところ、ミストリックが慌てて待ったをかけて来た。
全身ずぶ濡れで電気がよく通りそうだったのになぁ。
「誤解? 責任を持って預かると言った人間が、その責任の下に預かったばかりの子の首を撥ねるのが誤解と言うなら、あんたの存在そのものが人道的に誤解だろ」
止めてやる義理はこれっぽっちも無いのだが、最近の出来事で溜まった鬱憤を晴らすべく、苛立ちをまるっと言葉にしてぶつけてやった。
「んん~? それはどういった比喩なのかねえ?」
湖から浮遊魔法で地面に着地しながら頭に疑問符を浮かべる魔人。
なんとなく〝誤解〟を使った文章をでっちあげたかっただけで比喩ですらない。
傷の修復がなされていないのは、敵意が無いとの意思表示か、はたまた回復魔法が使えないのか。
「そんなことはどうでも良い。誤解ってなんだよ? 冥途の土産に聞いてやる」
「んん~、それもこの状態では我が聞かされる側だと思うのだがあ……まあ良いだろお。我の記憶が確かならばあ、キミは彼らを〝親元へと送り届けてくれ〟と、そお言ったなぁ?」
「あぁそうだが?」
「だがしかぁし、この付近で彼ら程の年の子供が連れ去られた場所は1つしかなくてねえぇ、その村の生存者は残念ながら1人も居らんのだあ。であるからしてえ、既に亡くなっている両親の場所に連れて行くとするならばあ、当然殺すしかないであろおう? 違うかねぇ?」
「……違うわボケえええええええ!」
一瞬頭が真っ白になったが、すぐに立ち直ると、思わず絶叫していた。
大音声の叫びが静けさを取り戻しつつあった湖にこだまする。
もうこいつ何言ってんの?!
「お前どんだけ融通効かんねん! そんな〝死んだ両親にはあの世で再会させてやる〟なんてセリフ回し、物語の悪役だけでええんじゃドアホがあああああああああああ!」
比喩なんて言葉を知っていながら、人の言った言葉を全部そのままに受けるとかどんだけ低能なんだ!?
だがそれって、ただ俺の言われたとおりに実行しただけということになる。
てことは俺が悪いのか!?
けどそれだと魔族と会話するのに一字一句正確に言葉を選んで伝えないといけないってことになるぞ?
いやいやいや、誰だって古代魔法人の子孫であるはずのこいつらなら、自分達以上に頭が良いと思いますやん!
むしろ別ベクトルで頭がキレてたからこんな状況になったのか!?
そんなのどうやって予測するんだよ!
無理ゲーすぎるわ!
「親御さんが亡くなっているなら、その親代わりになって育てる方向にもっていけや! 魔王軍幹部様ならそれくらい察しろや!? それに言ったよな、俺は〝助けたいんだ〟と! まさかあれか? 死が救いとか謎の拗らせ方したとか言わんよな? もしかしてそんな残念なおつむだから外回りをさせられてるんじゃないのか?!」
「そ、その様な訳はぁ無いに決まっておろぉ……?」
更なる罵りに、言葉が尻すぼみとなる上級魔人。
ないわぁ……マジでないわぁ……。
俺が思考停止&諦めていたら少年2人の命が失われてたとかマジで勘弁しろよ……。
何年生きててもバカはバカということか?
もしくは300歳超えともなるとアレか「おじいちゃん、ご飯はさっき食べたでしょ?」的なアレなのかそうなのか?
だめだ、こいつの感覚が魔族の標準かもと思っただけで、戦慄で真夏にもかかわらず寒気がする。
魔族舐めてた。
こんな斜め上な種族だったとは思わなかった。
「そう怒るでなあいぃ。我も保護をした子供達を、態々我に殺させようとしたことに疑問ではあったのだあ。しかあしぃ、同族の問題は同族で解決せねばと思った次第であってだなあ?」
「疑問に思ったんならまず言えや!」
その思考のあまりのバカっぷりに、俺はミストリックへと近付きその胸倉を掴むと、力任せに殴り飛ばした。
湖面から出たミストリックさんに、〝もう敵対しませんよ〟の意思表示のつもりで回復魔法を発動させ、傷を完治させる。
その頃にはバドーラントさんも怪我1つ無く戻って来ていた。
音速の石柱を至近距離で受けて無傷ってふざけすぎだろ……。
「……ところで、あれだけ一方的に攻撃されながら、なんで反撃しなかったんです? そうすればここまでの怪我を負わな無かったでしょうに」
「それはだなあ、キミが何をそれほど怒っているのか腑に落ちなかったからだあ。それに言ったであろお? 我はキミの事が気に入ったとお。トシオとは敵対するよりもぉ、仲良くした方が面白いと思ったからだあ。なぁバドーよお?」
「………」
ミストリックさんの問いにまたもバドーさんが無言で頷き、彼らがサーチエネミーに反応しなかった理由に納得する。
彼らには初めから悪意も殺意も無かったため、サーチエネミーが認識しなかったのだ。
そして、あれだけ一方的に攻撃をされて反撃もせず、ボロボロに成りながらも凌いで見せたということは、俺は彼に手加減されていたということになる。
……結論、〝こいつは良い奴かもだが、俺を殺しかねない程の力を持った非常識なバカなので、もう二度と関わりたくない〟だ。
その後はミストリックさんとバドーラントの両名を〝連絡用〟と称して、奴隷契約を結ばせると、魔族の少年が成人するまで魔族領で責任を持って保護するよに約束させた。
もう色々な事が起こり過ぎて、頭がどうにかなりそうだ。
魔王軍幹部を名乗る魔族との遭遇と戦闘結果をチャットルームで報告し、クレアル湖から撤収した。
もうやだこの世界……。
憂さ晴らしのつもりで訪れたクレアル湖で、俺の心が更に摩耗した。
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『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
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ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
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※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
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森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
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月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
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勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
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男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
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突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
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