四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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171話 迷宮監獄

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 フリッツ達の後ろをワープゲートの出入り口を移動させながら追従すること30分。
 アネットの生家にて彼女の家族にかけられた奴隷紋を解除し、また人質にされるのも面倒なので俺の別宅へ避難してもらった。
 あそこなら戦闘力のある男性も何人か暮らしているし、宿屋で部屋を借りるよりも安心だ。

「んじゃ、これで俺を襲撃した理由を話してもらえるな?」
「はい!」

 両親を解放したことで信頼を得たのか、アネットは力強く頷き話してくれた。
 足がつかない様に荒事の出来る闇社会の人間を雇って俺を襲撃するよう、自分や家族が奴隷契約を結ばされた者から奴隷紋を通して念話で指示を受けたそうだ。
 彼女の主である者は何者かは知らず、声なら分かるが顔は観たことが無いとのこと。

「彼らは私がエルネスト殿下の私兵であると初めから知っていました」
「妙ですね、私の様な部隊長クラスならば兎も角、彼女の様な下の者が殿下の私兵であると知られることはまず無いはずですが……」
「隊員だとバレていないはずの人間の素性がバレてるって、隊長クラスにもスパイがいる可能性が高いんじゃないのか?」
「いえ、仮にそうだとしても、他の部隊長が彼女を知っている可能性は極めて低いと思われます。何せ彼女をスカウトしたのも隊への配属をお決めになったのも殿下ですから。彼女が殿下の私兵であると知る者は殿下と副官のクロード、私、それと隊の仲間達だけです」
「他の隊員も彼女アネットと同じ感じで入隊したの?」
「はいそうです」
 
 フリッツの説明からして、第三王子はかなり厳重な情報統制がされてことが容易にうかがえる。

「あんたがスカウトしたんじゃないのか」
「隊員は元冒険者がほとんどで、首都の新冒険者ギルドのギルドマスターを通してエルネスト殿下が直々に我が隊に引き入れてますから」
「ほうほう。じゃぁ何にしろ今回のことは第三王子の責任だな。後で請求書を送るから支払いよろしくと伝えておいてくれ」
「ではただちに。――殿下からの返信です。〝私が王権を握ったら、その時は金貨の掴み取りをさせてやる〟とのことです」
「ははははは!」

 金貨のつかみ取りか、なかなか楽しそうな催しだな。
 第三王子が王権を握る機会はなさそうなため、清々しいまでの踏み倒し宣言には笑うしかないが。

「まぁ彼女アネットから情報が漏れたことに関しては今は置いておこう。問題は、襲撃者が何者かだ」
「それは私にも分かりません。奴隷紋超しで直接指示が来ましたから」
「んで、その連絡を寄越したってのはこいつらか?」
「うげっ!?」
「ぐわっ!?」
「ぬおっ!?」

 尋ねながらワープゲートを開き、向こう側から魔法の紐で椅子ごと縛り上げられた男3人を引きずりだした。
 座った姿勢のまま地面に投げ出され、顔や側頭部を床に打ち付けうめき声をあげた。
 3人中2人は20代で名前はラデルトとゼキアス、もう1人は30代で名前はメオリオン。
 鍛えられた肉体かと引き締まった顔立ちは、フリッツと似た雰囲気をしていた。

 軍人か?

「アネット!? これはどういうことだ、説明しろ!」

 縛られた状態で1人の中年男がアネットへ命令を下すも、「今の声、この人が私と奴隷契約を結んでいた人です!」と、〝この人痴漢です!〟みたいな勢いで引きずり出された中年男を指さし叫ぶアネット。

「奴隷紋が働いていないだと!?」
「まぁさっき解除したからな」
「なにっ!?」

 俺のネタバラしに中年男が驚く。
 そして念話で『本部、アイヴィナーゼに居る野良勇者と思しき男に捕まった! 指示を乞う! 本部、どうした本部!? 応答せよ!』『隊長、どうすれば?!』『隊長! ゼキアス! 何か言ってくれ!』などと送り始めるも、残念ながら念話妨害魔法で封じさせてもらう。
 どうやらどこぞの諜報員らしい。 

「通じない念話を送るのって胸キュン?」
「「「!?」」」

 そう尋ねると、一瞬表情を変えるもすぐに真顔に戻り沈黙した。
 だが髪が額に張り付くほどの汗が、男達の焦りを如実に表している。

「彼ら、どうやらウィッシュタニア人ですね」
「わかるの?」
「僅かながら言葉にウィッシュタニア訛りが有りますから。状況からしてウィッシュタニアの諜報員の可能性が高いですね」
「「「………」」」

 フリッツの推測に、男達は表情を変えず沈黙を貫く。

 流石はプロの諜報員といったところか。

「こいつらもアネット観たく痛覚耐性スキルとか持ってたりする?」
「ウィッシュタニアの職業軍人なら、諜報員に限らず誰しもが習得してるメジャーナスキルですので」
「すごいなウィッシュタニアの軍人。てかどうやって習得するんだよそんなスキル。って、今はそんなこと聞いてる場合じゃなかったな」

 痛覚耐性もち相手にならず者に使ったような先程の拷問は意味を成さない。
 肉体的に追い込めないなら、精神的に追い込むしかない。
 だがどうしたものかと部屋中を見回すと、俺と視線が重なったチンピラやアサシン達がビクリと体を震わせた。
 自由を奪われるということは、それだけで恐怖に値する。
 そこにプラスマイナスの付加価値をつけてやれば、更に精神的に追い込めそうだ。

「ん~、部屋も狭いし、広い所に場所を移すか」
「トシオ様、よこしまな顔をされてますよ」
「気のせいじゃない?」

 リシアみたいなツッコミを入れてくるフリッツをとりあえず無視する。

「てな訳で、迷宮へとご案内~♪」

 拘束した全員を魔念動力でワープゲートに放り込み俺も潜り、フリッツとアネットもその後に続く。
 ワープゲートを過労死させる勢いで酷使した先で待ち構えていたものは、体長だけで1メートルはある妖猫カシャ達が織りなす魅惑のパラダイス。
 四十七階層のボス部屋だ。
 そんな俺を目撃したカシャ達が、俺達を出迎えるように集まって来た。
 目の前で鳴く子、足にすり寄る子、飛び掛かってしがみつく子と大変けしからん状態だ。

 やっと俺の猫モテ期キター!
 俺のあふれ出る猫愛がここに来て実を結んだということなんだろそうなんだろ?!

「餌が欲しいと言ってる」

 カシャと一緒にやって来た着物姿の猫耳男、四十七階層のボスモンスターである〈猫仙〉に告げられ、切ない気持ちにさせられる。

 餌目当てなのね……。
 いや、御猫様がこうして俺を頼ってくれているのだから、不満など有ろうはずが無い!
 ささ、どうぞこれをお納めください。

 収納袋様から大量の魚を取り出し与えると、俺の足にすり寄っていた子やしがみついていた子まで、一心不乱に魚へ飛び付いた。

 ……てかお前ら、車輪はどうした?

 ボス部屋の中を見渡すと、部屋の隅っこに大量に投棄された燃え盛る車輪の山を確認する。

 もう火車ちゃいますやん、ただの化け猫ですやん。
 しかも尻尾が二股じゃないから猫又ですらない。
 猫仙も猫仙で着物を着たデブ猫から、少女漫画に出てきそうなキラキラと眩しいイケメンになってやがるし。
 てかそこは猫耳美少女に化けるところだろうが!
 クッソこいつ、俺の期待をどこまで踏みにじれば気が済むんだ!

「いつもご飯の差し入れありがとうご主人、お礼に身体でお返しする」
「脱ぐな脱ぐな、気色悪い。そういうセリフはせめて女に化けてから言え。あと語尾に〝にゃ〟を付けろにゃ」

 着物を脱ぎながらすり寄ってきた猫仙を、魔念動力に因る〈まじかるあいあんくろー〉で顔面を押さえて遠ざける。
 よしのんやモティナが見たらまた変な妄想を拗らせそうだ。

「今から大事な話があるから、お前は向こうに行っててくれ」
「残念無念にゃなり」

 着物姿の美少女に化け直した猫仙が、あくび交じりに返事をする。
 無駄にかわいいが、先程の男Verを見た後だと非常に萎える。

 あと〝にゃ〟の付け方はそうじゃない……。

 ツッコミたいのを堪え、諜報員の男達に向き直る。

「さてお待ちかねの質問タイムだ。ここはライシーン第五迷宮四十七階層、周りは可愛い可愛い迷宮の魔物達、念話は封じられ身動きも取れない。ここからは言葉を選ばないと、死体どころか遺言すら残せず御猫様の養分待ったなし。沈黙も返事と見なすから気を付けてくれ」

 満面の笑みと共に親切に説明してあげると、与えた魚を丸飲みにしたカシャ達が、次の得物に狙いを定めた。



――――――――――――――――――――――――――――――――

 四十七階層はこの後もちょくちょく出てきます。
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