四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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153話 家宅捜査

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 昼食後、アイヴィナーゼ近衛騎士団団長アウグストのスパイ容疑を立証するため、首都に向かう準備をしていた矢先のことだった。
 フリッツが耳に入れてもらいたい緊急の案件があると現れた。
 庭で聞かせてもらうと、バラドリンド教国が兵と集めウィッシュタニア魔法国に進行する準備を整えつつあるとのこと。

 ちっ、動き出したか……。
 バラドリンドがよしのんの逃亡を察知しているかは謎だが、ウィッシュタニアもよしのんの捜索に多くの人員を割いているはずだ、知っていてもおかしくはない。
 そしてアイヴィナーゼの勇者が死亡している情報がアウグスト経由で知らされていると考えると、ここら一帯で唯一勇者を保有しているであろうバラドリンドが動いても不思議ではない。
 不思議ではない処かこのタイミング以外にいつ動くんだって状況だが、出来れば動かずに居て欲しかった。

「そうか、それであんたらはどうすんの?」
「一度ウィッシュタニアへ戻るつもりです」
「ワープゲートで送るくらいはしても構わないけど、どうする?」
「それは助かります。もしよろしければですが、10日後に送って頂けますでしょうか?」
「10日後?」
「10日後であればアイヴィナーゼの首都に居る仲間がこちらに到着します、彼らも一緒に送って頂ければと思いまして」
「なるなる、それくらいなら構わんよ」
「それと、トシオ様にも御同行頂けましたらこれに勝る喜びはありませんが」
「――っ、すまないが、俺は俺のやるべきことがある。その戦争には加担できない」
「こちらこそ無理を言ってしまい申し訳ありません。今のは忘れてください」

 フリッツは爽やかな笑みを浮かべて謝意を述べ、一礼してから去って行った。

 勇者を擁さないウィッシュタニアがバラドリンドと開戦ともなれば、恐らく地獄しかない。
 それをおくびにも出さずに笑みを浮かべて戻ると言うのだから凄まじい。
 短い付き合いとはいえ顔見知り、助けたいという想いはある。
 しかし、彼が彼の大事なモノのために戦地に向かうのと同じで、俺には俺の大事なものがあるので引きずられる訳にはいかない。
 それに、野生下で草食動物が肉食動物に捕らえられても人間が助けてはいけないという鉄則と同様に、こちらの世界のことはこちらの世界の人間が解決すべきである。
 それは勇者召喚も含めてだ。
 逃げ出したよしのんを匿う俺が言うのもなんだが、そもそも呼び出した勇者に逃げられるウィッシュタニア王家不始末である。
 その代償は自分達でどうにかすべきであろう。

 そう思う反面、王族なんて一握りの人間の不始末で命を落とす多くの人々のことを思うと、この持論が本当に正しいのかと疑念がよぎった。
 
 
 フリッツと別れた後、アイヴィナーゼ近衛騎士団副団長のそのまた副官であるフルブライトさんの案内で、アウグスト邸にやって来た。
 これから家主の許可なく家宅捜査しようというのだが、一応クラウディア王女の許可のもとで行うため、決して犯罪ではない。

〝そんな許可は出した覚えはありませんわ!〟なんて後で言われたら犯罪者扱いだが、嘘を言うメリットが彼女には無いので考えるだけ無駄だ。

「あそこだ」
「おー、……結構大きいですね」
 
 場所は王城から程近くの高級住宅街の中、高い石壁に囲まれた大きな屋敷が見えてきた。
 鉄の門で閉ざされており、見るからに厳つい面構えで外からは中を覗き見る事が出来ないが、外壁の長さだけなら我が家の4倍はあろう。
 そこを透明化の魔法をかけた2人が歩いていて通り過ぎる。

「俺はこのままライシーンに戻れば良いんだな?」
「ええ、案内してもらってありがとうございます」
「なに、感謝するのはこっちの方だ。それじゃあ気を付けてな」
「はい」

 物陰に入ってから透明化の魔法を解除すると、彼をワープゲートでライシーンに送り返した。
 屋敷への侵入プランとしては、マナコートの様な全身を包む防御魔法に身体強化魔法と飛行魔法を付与するとあら不思議、お手軽簡単誰でもアメコミヒーローになれちゃう魔法の完成だ。

 ……この魔法も何か名前を付けないとな。
 魔法を示す〝マジックほにゃらら〟なんて入るとチープ感が出そうで却下しよう。
 となると、アーマードスーツ? パワードコート? バトルジャケット?
 あ、バトルジャケットはなんか良いかも。
 けど名前の時点でSF臭くなってしまうなぁ。
 ファンタジーな世界だし、ここは〈クラウ・ソラス〉や〈フレズヴェルク〉〈ブリーシンガメン〉みたく、北欧神話やケルト神話から持ってきてみるか。
 身体に纏うんだから……んー、〈フェンリル〉――はかっこいい名前の鉄板だけど、これは攻撃魔法に取っておこう。
〈ロキ〉――、だと変身系や何かを騙すような魔法にしたいし、〈オーディン〉――はなんか違うな。
〈トール〉……戦神だしマッチョってイメージがあるからぴったりと言えばぴったりなんだが、かっこいいかと言われると、実写アメコミ映画の偉大なのこぎりと被っちゃうのもなぁ。
 トール→ソー→ノコギリと三段変換させちゃう俺の頭もどうかと思うが。
〈バルキリー〉は精霊としているから、読みを変えて〈ワルキューレ〉――いまいち強そうなイメージが湧かない。
 ここは神様や魔物ではないものから持ってくるか……、ワルキューレ繋がりで〈エインヘリヤル〉なんてはどうだろう?

 北欧神話で〝戦死した勇者の魂〟を指す言葉で、ワルキューレ達が死後に彼らをオーディンの宮殿ヴァルハラに連れて行く所から連想してみた。

 おお、何か良いかも、戦死したってのは不吉だけどこれにしよう。
〈身体強化〉〈装甲〉〈飛行〉を組み込み再構築をし直してっと……。

 こうして強化装甲〈エインヘリヤル〉は完成した。

「〈エインヘリヤル〉」
 
 力強い魔力が西洋甲冑風な形を取って全身を包む。
 マナをそのまま装甲にしたため黄緑色。

 カラーリングに関しては、さっき遊んでいた映像魔法を応用して後で設定し直そう。
 鎧のデザインもロボットアニメとかのデザインを取り入れたりしてもっとかっこよくしたいところだが、中身が黄色人種なだけに、かっこいいのよりもポンコツさや装甲騎兵っぽさをだしてむせてもいいかもしれない。
 ファンタジーな世界だし、強殖装甲な感じでクリーチャーっぽくするとかもありか?
 まぁ最終的には体の動きを阻害しない方向に落ち着くだろうとささやくの、俺の効率厨ゴーストが。

 次に透明化と一方通行の消音魔法を発動させる。
 自分では透明になっているのが分からないので怖いところだ。

 光学迷彩とかではなく完全に透明化だ、大丈夫……だよな?
 でもやっぱりこういうのってワクワクするなぁ。

 某大怪盗なアニメを連想する状況に、不覚にも少し興奮してしまう。
 犯罪は好きになれないが、家主は捕らえられていた魔族の少年をレイプしていたクソ野郎だ、罪悪感なんて湧くはずもない。
 しかし、本当に魔族の少年が居るとなると人命にも関わるので失敗は許されない。
 そう思うと急にプレッシャーがのしかかってくるが、こんなところでグズグズしてもいられない。

 男は度胸、なんでもやってみるものさ。

 ベンチで青いツナギを着たいい男が微笑んだ様な気がしたが気のせいだ。
 覚悟を決め物陰から宙に浮き上がり、アウグストの館へと身を乗り出す。
 
「わんわん! わんっわんっ!」

 うおう!?

 いきなり犬が後ろからこちらに向かって吠えてきた。

 なに、もしかして見えてる!?

 恐る恐る振り返ると、そこには宙に浮く俺に向かって吠える小さな犬と、その飼い主らしき中年の奥様が。

「どうしたのペロちゃん、そこに何かいるの?」

 そう言って宙を見上げるおばさんと目が合ってしまった。

 ……終わった。

 犯罪とはバレなきゃ犯罪ではないとどこかの邪神様が言っていたが、バレてしまったのでこれはもう犯罪だ。
 いや、まだ敷地内に入っては居ないからギリギリセーフだ!

 壁の上に半分身を乗り出しているので苦しい言い訳だが、そんな内心の焦りも杞憂だった。

「もう、何もないじゃないの、変な子ねぇ。ほらペロちゃん、お家に入るわよ」

 そう言ってペロちゃんの飼い主さんは小型犬を抱えて自宅へと戻って行った。

 ……はぁぁぁぁ、こっわぁ!?
 心臓止まるところだったぞっ!
 動物の勘なのか、臭いか何かで犬にはわかるってことか?
 ならククやトト、ペスルなんかにはバレる可能性がある。
 隠密モードももっと改良しなきゃだな。

 気を取り直し敷地を囲う石壁を飛び越える。
 敷地内は一面が砂利で覆われており、正門から玄関先に続く石畳の通路がある。
 母屋の右手には屋敷と繋がった馬車が入る納屋があり、一見すると質実剛健と言った印象を受ける。
 屋敷は二階建てで、大きさ的には我が家の3倍と個人の邸宅としてはかなりデカいのではなかろうか。
 質実剛健とは聞こえはいいが、貴族の館にしては庭に遊び心が無く面白みに欠ける。
 さっきのおばさんの家は庭に噴水があり、花壇には綺麗な花が咲いている。
 我が家の庭も最近では何かと置かれていたりする。

 それにしてもこの家の庭、全然手入れしてないなぁ。

 庭の砂利や石畳の隙間のあちらこちらで雑草が生えている。
 そこに気付いてしまうと、もうデカいだけでみすぼらしいく思えてくる。
 とりあえず庭に誰も居ないことを確認して、二階の窓の中を覗き込みながら屋敷の中を確認する。
 屋敷の中を外から覗くと、一人の美少年が執事服を来て家の清掃作業に従事していた。


 ジャン
 マルモル 男 12歳


 ロリエルフならぬショタエルフだ。
 マナ感知でも屋敷内を確認したが、どうやら屋敷には彼1人のようだ。
 こんなデカい屋敷なら、少年1人では掃除も家の中に限定したとしても行き届くことはないだろう。
 しかも種族がマルモルなので、見た目だけなら小学2~3年生と言っても通じる程の小柄さだからなおのこと。
 少年を観察していると、死んだような目でひたすら何かをつぶやきながら床にモップをかけている

 とりあえず聴覚強化っと。

「死ね死ね死ね殺す死ね死ね殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺す殺す殺す殺す殺す……!」

 うわぁ……。
 12歳の少年が人を呪いながらモップかけとかどんな闇の深さだよ。

 少年に何があったのかは想像だけなら容易にできるが、彼の苦しみまでは理解してあげることなど出来はしない。
 とりあえず目撃されては困るので、彼には眠ってもらうことにした。
 覚えたての魔法〈睡眠スリープ〉を発動し、徐々にその濃度を上げていく。

「殺す殺す殺す……あれ……?」

 眠気に襲われた少年はふらふらとした足つきで壁にもたれかかり、ゆっくりと床に崩れていった。

 いきなりバッタリ倒れて頭を強打されると危ないからね。
 まぁいきなり倒れたとしても、魔法念動力で受け止めるんだけど。
 言い辛いから魔念動力と名付けておくか。
 その魔念動力で窓にかかっている鍵を開けると、手で触れることなく窓を開け……開けっ――、窓が開かない!?
 なんでや!?
 あ、そうだ〈アナライズ〉、オン。

 初めて使うボーナススキルの〈アナライズ〉で物体の構造を解明する。

 おおうなんてこった、窓枠が錆と汚れで開かなくなってやがる!?
 どんだけ手入れしてないんだよ!

 とりあえず開けた鍵をかけなおし、玄関に回って同じ要領で鍵を開けて侵入すると、一旦ここでエインヘリヤルを解除しておく。
 まだ使い慣れていない魔法なため、何かの拍子でモノを壊してしまうかもしれないからだ。

 さぁて、証拠物は出てくるかなー。

 最悪魔族の少年なんて出てこないに越したことは無いけど、探しているモノはバラドリンドから送られて来たかもしれないその魔族の少年だ。
 一階から上には居ないようだが、果たして本当に居ないのか。

 今度は敷地全体にアナライズをかけて構造を確認すると、一階の物置らしき場所にある隠し扉から地下へ続く階段とその先に部屋がある事を把握する。
 そこに大気に満ちたマナを掌握して接触感知の要領で空間内を認識すると、頭に角があり耳の尖った塊を2つ検知してしまう。
 上半身の動きで呼吸と鼓動を刻んでいるのが分かる。
 先程眠らせたマルモルの少年といい、出来れば見つけたくないものを見つけてしまったせいで心に暗い感情が生まれる。
 直ぐにでも救出してやりたい所ではあるが、その部屋には体長5センチ程の虫が何匹も床や壁を這いまわっているのも確認できた。

 部屋には入りたくないでござる……。
 てかよくこんな虫の居る部屋で行為に及べるな。

 とりあえず、100%魔族の少年とは言い切れないので、目視で確認に行くにしても虫は排除したいところだ。
 だがもし彼らが獣人の類であった場合、アウグストを追い詰める証拠になり得ない。
 奴が黒と断定できるの決定的な証拠が無い内は、侵入がばれる行いは避けておきたい。

 もどかしい……。
 彼らのことは後回しにするとして、他の物的証拠がないかを探してみよう。

 発動しっぱなしのアナライズでアウグストの執務室っぽい場所を探り当て二階に向かうと、部屋は鍵がかけられていた。
 そして扉の間には髪の毛らしき白い糸が挟まっている。

 ほうほう、中々用心深いですな。
 これはさぞ見られたくないものがあると思われる。

 魔念動力で髪の毛を抑えたまま再び鍵を開けて中に入ると、扉を閉ざして髪を挟みなおす。
 部屋には窓が無く真っ暗で、魔法の明かりで部屋を照らした。
 部屋の中は、入り口の正面には本棚と豪華な机と椅子が有り、入り口に面した壁際には鎧を飾るためのマネキンっぽいものが置かれている。
 そして左側には裸体の少年をモチーフにした絵と右手の壁にはクローゼット。

 とりあえず机からだな。

 中に入ると、柔らかな感触が靴の上からでも伝わってくる。

 流石腐っても近衛騎士団団長様、良い絨毯使ってやがるな。

 絨毯1つにイラっとしながら、クローゼットの中にある隠し扉に近付く。
 部屋の入口と同じ髪を使った細工が施されていたので、扉の時と同じ手法を用いて隠し扉を開き、中の物を見せてもらう。
 出てくるのは国王からの命令書やどこかの店の領収書、土地の権利書等々だ。

 領収証は……なんだよ90万カパーの剣って、こっちは120万カパーの鎧かよ!?
 領収書に書かれた日付を見るとここ最近の物なため、近衛騎士団長とは高給取りなのか、はたまた元々この家が金持ちなのか。
 あ、奴隷の権利書だ、こんなのもあるんだ。
 リシアの権利書を貰ってないことを考えると、所有物として扱わせないためと言うか扱う必要が無いから、リベクさんが発行しなかったんだろう。

 なんて思いながら奴隷権利書の枚数を数えると7枚あった。
 書かれている内容を確認すると、先程俺が眠らせたジャン(マルモル)は購入日は3ヶ月前で、他は2~15年前とかなりバラけている、
 他の6枚は人間2人とエルフが4枚で全員男、魔族のものは1枚もない。

 この6人、屋敷には居ないのか?
 権利書がここにあるという事は、売られた訳ではないだろう。

 俺はそこで嫌なことに気が付いてしまった。
 権利書がここにあり、屋敷に奴隷の姿が無いということは、つまりはそう言うことなんだ。

 イヤ、デモ、モシカスルト、オ使イニ出テイルダケカモシレナイ。
 屋敷の主が出張中なのに?
 ハハ、だからこそお使いに出してるんだろ?
 だよな……?
 そうに違いないに違いない!

 無理矢理自分に言い聞かせていると、背後に視線を感じて振り返る。
 当然そこには誰も居ない。
 マナ感知にも反応が無いのだから居るはずがない。

 はい、いつもの〝背後にお化けが立っているかもしれない〟妄想でしたー!
 妄想だと分かっているのだが、この怖さは未だに治らないのなんなの?
 もう24なんですけど?
 三十路になれば治るものなの?
 けどプリーストの派生ジョブにビショップとモンクの他にエクソシストってのが有ったはず。
 もしかして本当に霊的な存在が……いやいやまさかな。

 気のせいだと再び言い聞かせ、魔法の明かりを増量した。
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