四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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152話 手の中の妖精猫

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「はぁ、一時はどうなる事かと思いましたよ。ミネルバが潰された際は流石に生きた心地がしませんでしたね」
「ちー……!」 

 リビングで溜息と共にぼやいたのは、ケンタウロス娘のユニスだった。
 折れた前脚は回復し、その背中には復活を遂げたミネルバが饅頭化して陣取っている。
 
 俺がもっとしっかりしていればあんな事態にはならなかっただけに面目ない。

「私も、あの時はダメかと思いましたよー」

 自室から着替えて戻って来たよしのんが、リビングに着くなり床にうつ伏せになる。
 薄布のズボンの上から程々に肉付きの良いお尻が強調される。

「ヨシノ、だらしないわよ」
「あはは」

 冷水の入ったケトルを持ってきたリシアに窘めたれ、笑って誤魔化しながら座り直す。
 
「目覚めても周囲が翼人まみれであったのにはキモを冷やされたえ」
「はい……」
「でしゅね……」

 イルミナさんがセシルとフィローラを両脇にはべらしながら、リシアから受け取った水をゆっくりと飲み下す。
 3人共精神的に疲労困憊だ。

「でしゅが、貴重な話も聞けましたね!」

 フィローラが気を取り直しハツラツと声を上げる。
 そんな彼女のポジティブさに元気をもらった。



 天使達との戦闘のあと、彼女ら(?)が知り得る神の封印のいきさつを聞くことが出来た。
  
 それは遥か神話の時代、女神レイティシアは大地を創り海を創り生命を創り、その過程で自分に似せた姿を持つ人種や獣と人を混ぜた外見の亜人種を作った。
 人族(人や亜人を含めた相称)は女神の庇護のもと、マナの恩恵を受け暮らしていた。
 ある日のこと、マナの扱いに長けた者が北の神殿にて女神はこの星に封印されてしまった。
 女神は愛していた我が子に裏切られ、その悲しみがいつしか怒りに変わり憎悪に変わり世界を呪った。

 とのこと。

 んで、呪いが魔素となって地表へ滲み出し、魔素は野生生物を魔物に変え多くの人々を殺戮した訳だ。
 俺がレンさんに聞いたこの世界の神話では、邪神を封じたって話だった。
 邪神だから封じられたのか封じられたから魔素を垂れ流す邪神となったのか、その真相や如何にといったところだな。

「主に見守られ平穏に暮らして居れば良いものを、マナを独占しようなどと、人の子とはなんと愚かなことよ……!」

 紅の大天使がそうぼやいていたので、彼女の話が正しければ後者の様だ。

 まぁこの辺の話は古代魔法人なら知っているのかもしれないな。
〝実は古代魔法人が封じた〟までありえるが、直接会って話を聞いたところでその真偽までは判断付かないだろう。
 理不尽な理由で封じられたのなら解放してやりたいと思う反面、世界が崩壊しかねない話なため、こればかりは慎重にならざるを得ない。

 ちなみに〝マナの独占〟の部分だが、大気を満たしているマナも神が生み出していたもので、その莫大なマナを己がモノとしようとした結果、マナだけでなく魔素まで垂れ流す世界になってしまったそうだ。
 
 世界を満たす程のマナを生み出し続けるって、流石は神様といったところか。
 ……ん? でも地表のマナは空から来てるんだよな?
 ってことは、封じられた神以外の存在も居るんじゃないのか?
 まぁ考えられるのはアイヴィナーゼ王国の2つ隣の宗教国家が崇拝してるっていう太陽神バラドリンドか。
 もしこの太陽系が地球と同じ規模だと仮定すると、バラドリンド神ってシャレにならないくらい強大なのかも……。

 勝手な想像に畏怖を覚え〝そんなのと関わり合いになりませんように〟と願って考えるのをやめた。

 頭の痛い話しを終え、トトが投げたハルバードを回収し、天使達からの敵意の視線が刺さる中を運搬魔法の〈グリンブルスティ〉で走り抜ける。
 無事中央へと到着した俺達は、ボスモンスターである昆虫人間とも言うべき外見の〈ヘラクレスカブト〉を撃破した。
 頭は地球に居たヘラクレスオオカブトそのもので、身体を硬い昆虫の様な装甲に覆われた2足歩行の人型怪物だ。
 手には巨大な両手剣を持ち凄まじい力で猛威を振うも、最後はザァラッドさんの豪快な振り下ろしで頭を粉砕され絶命した。
 今までの傾向で道中にこれの下位種が階層に出るはずだが、一切見かけなかったことから五十階層での生存競争に勝てなかったとみる。

 異常個体とも言うべき大天使が存在するのだ、まぁあり得る話だ。

 そしてヘラクレスカブトとの戦闘中にチャドさんの短槍が折れてしまい、俺が以前使っていたショートパルチザンを差し上げた。

『おいおい、特殊鋼製にカード差し武器じゃねぇか!? いいのかよ、こんなの貰っちまって。おい、しかも柄の材質はエアレーの角か!?』
『構いませんよ。それに無理を言って来てもらってるのはこっちですし、これくらい受け取っても罰は当たらないでしょ』

 使わなくなった槍一本で凄腕の戦士に恩が売れるのなら安いものだ。
 そんな打算込みの発言も、チャドさんはこちらの内心が見透かしたのか渋い顔で手にした槍を睨む。

「気が引けるなら俺に槍の扱い方を教えてください」
「教えるのは別に構わねぇが……本当にそれだけで良いんだろうな?」
「えぇ、後から代金を寄越せとか体で払え何て言いませんよ。何でしたら契約書でも書きましょうか?」
「………」
「おいおいチャドよ、後輩にここまで言わせるとはとんだ腑抜けになり果てたな」

 納得しかねるといった表情を浮かべるチャドさんに、ザァラッドさんが呆れ交じりの言葉を吐く。

「わーったよ! ったく……、俺は厳しいから覚悟しろよ?」

 こうして俺は槍の師匠を得たものの、中高と帰宅部であったため、ヘタレにも頼んだことを少し後悔してしまった。
 
 その後は五十階層と五十一階層とを繋ぐ下り坂で探索を打ち切り、ワープゲートで自宅へと帰還した。



 結局五十階層でワープゲートが使えなかったのは謎のままなんだよな。
 今後もああいったことが起きないとは限らない、ワープゲートでの緊急脱出が使えない可能性も考慮しないと。
 あと運搬魔法の〈グリンブルスティ〉、アレも乗車席を魔力で満たすとかして衝撃緩和機能を追加しておこう。

「しかし、いつの間にあんな魔法を習得しておったのじゃ?」
「あんな魔法?」
「ほれ、名はなんと言うたか、皆を運ぶ魔法やマジックシールドを大量に生み出した防御魔法の」
「あぁ、あれですか」

 イルミナさんが興味津々とばかりに身を乗り出し聞いてきた。
 この人の魔法に関する知識欲は相当なものだ。

「まぁご存じの通り、どちらもマジックシールドの発展型ですね。乗り物の方は馬車の荷台に動力をつけたものを想像して作りました。防御魔法の方は俺の世界にある創作物語に出てくる物を参考にしてます」
「なにかのアニメですか?」
「うん、〈機甲兵争Dヴァルガラック〉に出てくるインフィニティシールド」
「アニメの名前だけは知ってます。Aヴァルなら見てましたよ」
「あー、わかる」

 よしのんがアニメの話に目を輝かせるも、予想できる答えが返って来たので同意だけしておく。
 機甲兵装ヴァルガラックとは古くからある戦記物ロボットアニメで、名前や世界観を変えて今も尚新作が出るアニメシリーズだ。
 その中でもエンジェリックヴァルガラックは敵も味方も美形男子ばかりが出るため、腐女子には大人気。
 今までにシリーズを見て来たおっさんオタクには『泥臭さが足りない』と酷評。
 どちらでもないアニメ好きオタクである俺的には程々に楽しめた。
 と、評価が分かれる作品である。

「いいですよね、主人公のアイクが捕まったミクリアのために単身乗り込むあのシーンとか最高に胸熱ですよね!」
「そうだねー。けどその話はまた今度ね」

 だがここでアニメ談義をしても2人以外会話についていけないため、そちらに話が流れるのを避ける。
 
「俺の居た世界では物語が動く映像として作られるので、この手のアイデアには事欠かないんですよ」

 試しに手の平の上でケットシーのルーナを模した映像を魔法で生み出してみると、3Dホログラムの妖精猫が出現した。

 あ、これが出来るならこれの頭身を下げてあーしてこーして――。

 更に手中の映像に手を加えると、メイド服を着た3頭身のリシア(ケットシーVer)が爆誕してしまう。
 ミルクティー色をした折れ猫耳のスコティッシュソマリな姿を目にした俺に戦慄が走る。

 何だこの最高に可愛いもこもこは、天才かよ俺!?
 絵が描けなくても魔法なら直接脳から抽出できるため、想像したものがそのまま再現できるのがすばらし。

 素晴らしすぎるので映像のリシアにモンキーダンスを踊らせる。
 腕を上下に振りながら腰をくねらせて踊る姿が超絶可愛い。

「なんですかこれ、可愛すぎませんか?!」

 心の中で自画自賛していると、可愛い物好きな当の本人が真っ先に食いつく。
 どうやら自分を模しているとはお気付きで無いご様子。

「なんですかも何も、どう見てもこれはリシアであろう?」
「イエスマム」
「私ですか!?」
「そうだよ」
 
 イルミナさんのツッコミに頷く。
 そこに昼食の品を持ってきたローザがやってきた。
 
「あらあら、可愛いですね。リシアちゃんは元が良いですから羨ましいですわ~」
「ローザも負けてないよ?」

 手元の映像をローザベースで構築すると、丸々と太った青髪マヌルネコのデフォルメケットシーとなって現れた。
 相変わらずの仏の笑みを浮かべているので可愛さマシマシである。

「これはこれで……!」
「でしょ?」

 食い入るように見つめるリシアに悪い顔で頷くと、似たような笑みを浮かべた共犯者リシアが俺の映像魔法を模倣し、自らの手に寸分違わない映像を構築する。
 恐らくマナ感知に因るスキャニングで瞬時に解析したのだろうが、彼女が何気なくやった行為に危険が内包していると直感する。

 魔法を身内に模倣される分には構わないが、万が一これを敵にやられると危険極まりない。
 オリジナル魔法にはコピーガード的な防衛手段を用意しないといけないな。

「それにしても可愛いな」
「最高に可愛すぎますね」
「2人とも、恥ずかしいのでやめてください」

 2人して手の上の猫ローザをゴロゴロと転がしたりして遊んでいると、羞恥で赤面したローザに窘められたので程々にしておく。
 
 いつもニコニコしているローザのレアな反応に少し得した気分だ。

「トシオー、あてもあてもー!」
「私のも作れ」
「ちー!」
「はいはい、お昼ご飯が終わったらね」

 トトとメリティエ、おまけにミネルバまで大興奮で押し寄せて来たが、それと同時にククが巨大な中華鍋を持ってリビングに戻って来たのが目に入る。

 鍋からは食欲を刺激する香ばしい匂いが立ち込め、トトのお腹からぐ~っと大きな音が聞こえた。
 

 
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