四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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149話 神の御使い

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~ライシーン第五迷宮五十階層大草原~

 五十階層に広がる草原を抜ける案として採用されたのは、巨大な〈マジックシールド〉による魔法の絨毯に〈プロテクション〉で覆ったものにみんなで乗り込んでの移動だった。
 はたからでは半透明な殻に覆われた皆が宙に浮いてるだけにしか見えないためマヌケだが、今は透明化で全員の姿は外からでは見えないのでセーフだと信じたい。
 地面スレスレを疾走する〈グリンブルスティ〉と命名した魔法の乗り物は振動など一切なく、乗り物酔いしやすく高所恐怖症の俺でも快適な乗り心地を提供してくれた。
 敵に見つかるまでは。


 エンジェル Lv64
 属性:聖。
 耐性:聖ダメージ無効。魔法ダメージ半減。
 弱点:闇ダメージ倍。
 状態異常:なし。


 人間に大きな鳥の翼が生えたいへん美しい生物は、白く質素で丈の長いローブはとても清潔感があり、胸には緩やかな膨らみがあった。 
 おまけに股間にも服の上からでも分かる膨らみがある。

 そりゃ天使だし、両性具有だから付いてるわな。
 好事家に受けそうだ。
 いやだがまて、直接確かめた訳では無いのだ、あの中には黄色くてもこもこの羽毛に包まれたひよこが入ってる可能性も捨てきれない。
 なかなかに苦しい言い訳を実証する気なんてさらさらないが。
 てか何気にLvが階層と違うのな。

 そんな天使だが、一応会話を試みたが言葉が分かる以前に理性知性の類が一切働いてないといった様子。
 現在では何百体もの天使がクレアル湖のドラゴンフライを彷彿とする群れとなり、上空から光属性の攻撃魔法をバカスカと打ち込んできたのだ。
 透明化の魔法も発動させたが、そんなものなど無いかの様に俺達の動きを的確に捉えている。

「「「〈ダークネスブラスト〉!」」」
「「「〈ダークネスアロー〉!」」」

 上空を飛び回る人型の魔物に向け闇属性魔法で迎撃するも、お返しのお返しとばかりに〈シャイニングランス〉が雨の様に降り注ぐ。
 それを防壁スキルや防御魔法で耐え凌ぎ、乗り物を左右に振り回避する。

「なんで透明化を施してるのに的確に狙えるんだ!?」
「エンジェルには嘘や幻を見抜く能力があるって本に書いてまふ!」
「マジか!?」
「マジでふ!」

 俺の問いにフィローラが元気よく肯定する。

 なんだよその謎の便利能力!
 鑑定眼仕事しろよ!
 てかなんで鑑定眼にもその能力が無いんだよ! 

 MPの無駄なので透明化を解除する。

「エンジェルはとても好戦的で……、人を見ると必ず襲ってぅぅっ……」

 セシルが青ざめた表情で更に補足を入れてくれるも、言い切ることが出来ずに口元を押さえる。
 
 車って、運転してる人より隣に乗ってる人の方が酔い易いっていうしな。

「トシオ様、前からも魔法が来ます!」 

 リシアの声前方に目を向けると天使達が大勢で立ち塞がり、白く輝く魔砲撃が放たれる。

「お任せください、〈シタデルウォール〉!」

 それをククの出現させた防壁スキルでシャットアウトすると、それを利用する様にそのまま前方の群れに猛スピードで突っ込んだ。
 シタデルウォールにぶつかり肉がつぶれ四肢や首や羽がもげる天使達。
 絵面が完全に人身事故で、はねた瞬間のグロさときたらトラウマものである。

 絶対に夢に出る奴や……。  

 だがこちらも止まる訳にはいかず、腹をくくってね飛ばす。

「あははははは、楽しーい!」
「これは面白いな。トシオ、運転を代われ」
「出来るかそんなこと!」

 トトとメリティエはこんな状況でも全力で楽しんだ。

 魔物とは言え一応人型の物体を跳ねているのにどうして楽しめるんだよ!?
 自分の嫁のサイコパスっぷりにビックリだわ!?
 いやまぁメリティエの正体は半魔半蛇で人間とは明らかに異なる外見だし、トトに至ってはミネルバ同様一応分類は魔物だから感覚的にこんなもんか。
 
 その間も疾走するまじかるかーぺっとは天使達を挽きまくり、レベルアップのポップは止まらない。
 何やらドロップアイテムも出ているが、拾ってる余裕なんて在りはしない。
 
「お、卵だ」

 メリティエが乗り物の床に右手を突っ込み、前方に跳ね飛ばされた天使から出現した卵を拾い上げる。

「余裕だな」
「トシオに余裕が無さ過ぎるんだ」
「なー?」

 同じ要領で前方から流れてくるドロップアイテムを拾い続けるトトとメリティエ。

「メリー、どっちが多く拾えるか競争な?」
「望むところだ」

 2人はすることが無いからか、遂にはそれを遊びにしてしまった。
 
 有り難いけど真面目にやってるのが馬鹿らしくなってくるのはなんなんだぜ?

 負けた気になりながらも必至に魔法を操作する俺の隣に、よしのんが四つ這いになってやって来た。

「一ノ瀬さん、もっとゆっくエレエレエレエレエレ!」
「に”ゃー!? わざわざ隣に来て吐くなよ!」

 乗り物酔いを起こしたよしのんのゲロが俺のズボンに吐瀉され、臭いで危うくもらいゲロしそうになる。
 粒子散乱される幻想的な汚物に美を感じてしまった自分が腹立たしい。

「嬢ちゃんは休んでろ! トシオ、あの岩場まで行けば何とかなる、其れまで飛ばし続けろ!」
「了解!」

 チャドさんが指さす先には、次の階層への入り口があるとされる岩の丘のふもとの岩場だ。
 身を隠すには打ってつけの大きな岩がゴロゴロと転がっている。
 まだ数キロ先だがそこを目指し、回避行動を続けながらも天使を轢きまくる。
 
 あれは魔物あれは魔物あれは魔物!

「私達、今すごい残酷なことしてますよね……」
「問答無用で襲ってくる化け物にまで気を使えるか!」
 
 よしのんが真っ青な顔で呻きを漏らしたので怒鳴り返す。
 だがその言葉は自分に言い聞かせるためのものなのだと、冷静な部分で理解する。
 
 例え人型でも理性の無い生き物は人じゃない。
 例え人型でも知性の無い生き物は人じゃない。

 心の中で呪文のように繰り返す。
 後方では苛烈な射撃戦が繰り広げられ、一方的に被害を与える。
 今は動き回っているから砲火の半分以上を回避出来ているが、これが徒歩での行軍だったら飽和攻撃でこちらの防壁が崩壊していた。 
 だが時折防壁を抜けて来た攻撃がマジックシールドの床に突き刺さり、このままではいずれこちらにも被害が――

「ぐはっ!?」

 言ってる傍からユーベルトの腹部に光の刃が刺さり貫通した。
 本来ならば死んでもおかしくない見た目だが、世界を支配するゲームの様なシステムの影響でHPが0にならない限りよっぽどのことが無ければ即死はしない。

「しっかりしろボウズ!」

 ザァラッドさんが両手大剣グレーターソードでユーベルトに刺さった光刃を粉砕し、素早く取り出したポーションを腹部にかけると傷口が蒸気を発して回復する。
 後方で起きていることだがこれらはマナ感知の応用で、周囲のマナを接触感知の様に使うことで把握できるようになった。
 まだ短距離限定なのがもどかしい。

「助かる!」
「気を抜くな! 頭をやられればいかな冒険者と言えどひとたまりも無いのだからな!」
「あぁわかってる!」
 
 ザァラッドさんの手を掴んで起き上がったユーベルトが剣を構え、上からのシャイニングランスを魔法の宿った剣で叩き落とす。

 今の注意、うちの嫁2人にも言ってくれませんかね?

 メリティエは飛んできた矢を確認するまでも無いと神回避でひらりと躱すが、反応できないトトは背中に魔法の直撃を受ける。
 にも拘らず全身の重装甲が攻撃を阻み、本人は直撃を受けた事にすら気付かず地面を流れるアイテム拾いに御就寝だ。
 
「トシオ、俺にもアダマンタイトの鎧をくれ!」
「軽戦士なら全ぶ避けろ、剣で叩き落とせ! お前もモーディーンさんの訓練受けてんだろ!」

 先程腹をぶち抜かれたユーベルトがトトを指さして叫び、こちらも大声で怒鳴り返す。
 強度が低い材質とはいえ特殊鋼の鎧のど真ん中に大穴をあけられているだけに、必死になるのも頷ける。
 しかし、その分革鎧並みに軽いのがユーベルトの着る金属鎧である。
 後は技量でどうにかしてもらいたい。

 てか身軽さが売りの軽戦士が、重たい金属鎧を着てどうするんだと。 

「会いたかったぞ人の子よ!」

 ユーベルトの間違った方向性に内心でもツッコミを入れていると、どこからともなく良く通る女の声が耳に入る。

「トシオ様、あちらです!」

 いち早く気付いたリシアの指さす方角には、白ローブ姿の天使たちの中にあって異彩を放つ紅い甲冑かっちゅうを着こんだ天使が、槍と盾を携え飛来してきた。


 アークエンジェル Lv172
 属性:聖。
 耐性:聖ダメージ無効。光ダメージ半減。魔法ダメージ半減。
 弱点:闇ダメージ増加。
 状態異常:なし。


 この階層で初めて出会う言葉を話す天使の表情は憎悪で歪み、その眼差しは俺達を殺したくて殺したくてたまらないと言わんばかりにギラついている。
 ここにきて大天使アークエンジェルの登場とレベルの高さに悪寒が走る。

「異常個体か!? ユニス、撃ち落とせ!」
「はっ! 〈心眼・流星弓〉!」

 ユニスの放った矢が多弾頭の光弾となって迎撃する。
 しかしそのことごとくが盾に阻まれ、勢いを殺すどころか傷すら負わすことが出来ない。
 大天使が槍を突き出し真正面から突っ込んでくる。
 
「そのまま撥ねてしまえ!」
「いっけええええええええええええ!!」
 
 相手が殺る気ならこちらも殺る気だ。
 ザァラッドさんの指示に前方へプロテクションを集中し、高速運搬魔法〈グリンブルスティ〉を加速させる。

「滅びよ、愚かで矮小な失敗作ども!」

 真正面から急速に迫る大天使の顔は、禍々まがまがしく歪んでいた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 遅くなって申し訳ありません。
 もうしばらく書き下ろしが続きますので投稿が遅れます。
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