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137話 スキルリスタート
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『ところでねこさん、なんでまた勇者召喚の話しを聞きたかったんですか?』
『ねこさんのところに居るJKの子が帰りたがっとるとかかいな?』
『あー、そういう訳じゃないんだけど――』
シンくんと大福さんの問いに、マナ消失の実験中に思いついた古代魔法人関連の仮説を皆に伝える。
『考えすぎかもしれんが、注意するに越したことはないな』
レンさんがそう言うと、俺達は古代魔法人の思惑を考査し始めた。
『勇者召喚を配り歩いとんのが古代魔法人かもしれんっちゅう話しはさっきも出とったけど、それを配るメリットはなんなんや? そもそもメリットなんかあんのんか? 魔族とは言え自分達の子孫を殺しに来る勇者が管轄外の土地で召喚されんねやろ?』
『勇者召喚を広める目的ってなんなんでしょうかね?』
大福さんの更なる疑問にシンくんが続く。
『目的かぁ……、人族領の魔物は人族領の人間に守らせるためとか、もらう側のメリットなら普通に思い浮かぶんだけど、渡した側の方は思いつかないなぁ』
『では〝勇者が殺しに来るのがメリット〟の可能性はどうだ?』
レンさんがより踏み込んだ問いを提示する。
勇者が殺しに来るメリットってなんだよ?
『「勇者様、早く私を殺しに来て(ドキドキ)」って謎のドMな恋愛脳でもない限り、自分を殺しに来る奴がメリットとして成り立つのん?』
『異世界人がメンヘラな上に日本人萌えってか? ワシらとは逆のパテーンやな』
頭の悪い俺の発想に、大福さんもネットスラング交じりで返す。
仮に俺を殺しに来た相手に絶対負けない状態で対峙した場合を想定してみる。
アキヤとやり合った結果を振り返ると、思い当たることが無くもない。
その反面、古代魔法人にとってメリットになりえるのか疑問ではあるが、一応発言はしておこう。
『レアアイテムを背負ったカモが自ら出向いてくるのか、勇者おいしいです鼻ほじ~』
『勇者とその御一行全員分のアイテムか……。今の俺達ならそれだけでも魅力的に映るかもしれんが、勇者以上の能力やレアアイテムを持っていそうな古代魔法人や魔族からすれば、そこまで魅力的なものとはとても思えんな』
言う前から既にレンさんと同じ認識に達していたからこそ、棒読みでおどけて見せた。
レンさんもそれを分かっていて、状況整理の為に敢えて口にしている。
レンさんが強調した様に、俺達なら十分美味しいと思うが、それ以上のアイテムが生み出せて勇者より強い古代魔法人にとっての旨みとするには理由が弱すぎんだよなぁ。
『じゃぁ経験値ってのはどうです? 軍隊で攻めてくるんですから、きっとすごい量の経験値が手に入りますよ』
『いつ発生するか分からない後天性の魔族を狩りに行くよりも、定期的にまとまって来てくれる勇者御一行+軍隊の方が、よっぽど手っ取り早く大量に経験値が得られるしね』
シンくんの意見がしっくり来たため、納得の理由を挙げる。
ダンジョンコアの魔力が貯まる頃を見越して軍備を整えれば、さぞ迎撃し易かろう。
『だが、こちらもねこさんの所と同じで、勇者を攻略不可能な魔族領の領地獲得に向かわせることを諦めている。それもかなり早い段階でだ。余程手痛い歓迎を受けたんだろうな』
『僕の所も人族領内での領地争いが殆どだそうですよ』
『あ、やっぱりそうなんだ』
『ワシの居る大陸もそんな感じやで』
多大な国費を費やして過去何度と周辺諸国と討伐軍を編成し、それでも攻略が無理と分かれば、そういう流れになるのは必然といったところか。
『今の現状ですと、経験値的に美味しくありませんね』
『古代魔法人もそうなることを予想出来ていたとすると、理由は経験値の獲得ではないのかもな』
レンさんが経験値説を切り捨てる。
『せやけど勇者が攻めてくることて、それくらいしか旨味ないやろ?』
『なら更に遡って、勇者召喚そのものにメリットがあると見るのはどうだ?』
大福さんの問いに、レンさんが別の方向性を提示する。
『勇者召喚そのものですか?』
『あぁ。勇者を呼び出してどうこうさせるのではなく、勇者を呼び出す行為そのものが目的とした場合だ』
『呼び出す事が目的かぁ……。勇者を召喚するのには莫大な魔力が必要で、それはダンジョンコアから賄われる……、ならダンジョンコアの魔力を消費することが狙い? だけどそれに何の意味があるんだろ?』
ダンジョンコアの魔力を消費しなければいけない理由……あぁ、そういうことか。
『――せや』
俺が答えにたどり着くのとほぼ同時、大福さんも何かに気付いた様に声を上げる。
『〝ダンジョンコアで集めた魔力は汚染されてる〟て言うとったな?』
『うん、うちの奥さん曰くそうらしいよ』
大福さんの言葉に応えながら、同じ答えに達したのだと思い至る。
『なら汚染されたダンジョンコアの魔力を消費することそのものが目的とちゃうか?』
『おそらくそうだろうな』
大福さんもたどり着いた答えに、レンさんが余裕のある言葉で返す。
俺達よりも早くにその答えが出ていたレンさんが、皆を導いたといったところか。
『どういうことです?』
『魔素で汚染されたマナを消費させるのが目的ってことは、迷宮のモンスターみたく、マネーロンダリングならぬマナロンダリングってことかな』
『そういうことだ。汚染されているということは、放っておくことで何かしらの問題があったのかもしれん。放置出来ないのなら、そう考えるのが自然だろう?』
『けど、迷宮はその魔素を使って自動的に拡張されるんでしょ? だったら態々そんなことをしなくても』
『それが放置できん問題ってやつとちゃうか? 迷宮が無限に拡張されたら、それこそ迷宮内にはえぐいバケモンがウジャウジャ湧きよるで』
大福さんの具体例に、エキドナ級の魔物が地上に出て来た場合のことを想像してゾッとする。
相手の虚を衝く形で作戦が上手くハマったから何とか出来たが、魔法攻撃が通用しない化け物とか、今やり合っても勝てるかどうかだ。
そんなのがワラワラ出てきたら、それこそ人の世が終わってもおかしくはない。
……あっ、あのズワローグもこうして出て来た可能性だってあるのか。
と言うか、大森林内にはいくつもの迷宮が存在するし、場所的にその可能性が極めて高いかも。
クレアル湖で襲撃を受けた巨大ワニの出自が、ここに来て推測に至った。
推測はできたが、今も拡張し続けるダンジョンがあると思うと、対策しなければ人族に未来はない。
案外そのための勇者召喚なのかな?
ダンジョンコアの魔力を消費させるための手段として〈勇者召喚〉という形を取った事が、古代魔法人のヌクモリティなのかもしれない。
――いや、迷宮システムを作ったのは古代魔法人だ。
自分達で構築したシステムの欠陥を異世界人と人族領に丸投げしてる時点で、ヌクモリティとは言い難いな。
『まとめると、〈迷宮〉は古代魔法人が魔族を生まずに自分達を強化する育成システムで、汚染されたマナの浄化も兼ねている。〈勇者召喚〉は汚染されたマナの浄化と拡張し続けるダンジョンの対策のために人族に渡されたけど、人族側が勇者を戦争や国政の道具として開発者の意図しない使用方法を用いている。ってところかな?』
『だろうな』
『せやな』
『そうですね』
これまでのまとめを口にすると、皆も納得を示す。
『せやけど、そもそもダンジョンのマナはなんで魔素で汚染されとんのや?』
『ほんそれ』
大福さんの根本的な疑問に同意する。
だがその理由は魔導書に記されてはいないのでわからない。
『確かにそうですね。……ところで、ダンジョン以外のマナは大丈夫なんですか?』
『どうだろ? 地上のマナは宙から降ってくるんだけど、黄緑色の優しい感じがするから、たぶん安全だとは思う。けど、汚染されたマナがにじみ出てる可能性もあるから試せない』
『容易なレベル上げのデメリットが魔族化だ。うかつに試すべきではないだろう』
シンくんの疑問に答えると、レンさんが注意喚起を行う。
迷宮のマナは凄く幻想的で綺麗だが、どこか冷たく暗い印象を覚える。
それが大気中にどれだけ溶け込んでいるのかまでは流石に分からないので、魔族化の危険性を考慮すると今後も行わないに越したことは無い。
『ダンジョンコアの本来の目的はマナを集めることではなく、汚染物質を集める事なのかもしれんな。マナだけを集めたければ地表のマナを集めれば済むことだ。それをせずにわざわざ地下から汚染されたマナを集めてダンジョンを作るのだ、地下の汚染を集める序にマナも集めていたとみるのが妥当だろう』
『つまり、ダンジョンコアって呼ばれてるけど、その実態は汚染物質集積装置って訳か』
その汚染物質がマナに交じっているから、両方纏めて取り込んでいるだけという事か……。
人が変質して気が触れる程だ、もし仮に地表にまで染み出して、人々に被害が及ぶなんてことにでもなれば、レンさんの言う通り放置して良いはずがない。
なら何かしらの対策をしなければならない。
そのためのダンジョンコアに因る汚染マナ収集。
莫大なマナが集まったなら何かに流用出来ないかと考えるのは、効率厨の発想的には良くあることだ。
『大福さんが言う様に、そこまでしなきゃいけない汚染の原因ってなんなんだろうね?』
『現時点でそこまでは分からんが、ろくでもないモノなのは確かだろう。……少し待て。クリフォード、この世界の地中に何かが封じられたと言った類の話を知らないか?』
レンさんが、突然俺達以外の別の人間に話かけはじめる。
レンさんの国の元第二王子で現国王のクリフォード殿下が傍に居た様だ。
てか前から思ってたけど、レンさんはサイレントモードを細かくON/OFFしないよな。
あと、現国王捕まえてタメ口とかすごい。
まぁ二人は友人、いや親友レベルの同志みたいだし、そうそう変わりはしないか。
『―――やはりそういう事か。あぁすまん、こちらの話だ、お蔭で助かった。皆、汚染原因が分かったぞ』
『マジかよ、はえーよホセ』
『誰がホセだ、冗談は今は措いておけ。それよりもだ、汚染原因は恐らく神だ』
……神、いわゆるGOD。
レンさんに釘を刺されたので心の中だけで茶化しておく。
この世界は多神教なので、ゴッドではなくスピリットだし。
てか神かぁ、神と来ちゃったかぁ。
とりあえずレンさんの話を聞いてみると、この世界の神話で〝大災害を引き起こした悪神を太陽神が大地の奥底に封じこめ、人々は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし〟といったものがあるのだとか。
『魔素=神の怨念、呪い説』
『そうなるな』
『古代魔法人が魔素を吸って魔族になったり狂人になったりするのも納得ですね』
『せやな』
色々と仮説が立ったところで、俺はチャットルームを後にした。
これらの仮説が本当に正しいのかは今の俺達には分からないが、それでもジョブの無効化や対古代魔法人用の対抗手段を用意しておくに越したことはない。
ジョブにある魔法に限らず、ボーナススキルも自力習得を目指すべきだろう。
幸いにも迷宮にはマナが満ちている。
マナ感知とマナ操作を自力習得するには打って付けな環境だ。
俺はジョブスキルをすべてリセットすると、イルミナさんの指導の下にスキルの再習得を開始した。
―――――――――――――――――――――――――――
ダンジョンコアの考査終了。
果たしてこの考査は正しいのか?
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
新年一発目の投稿なのに、戦闘もイチャイチャも無しという暴挙。
本来134話~137話が1つの話だったので、今思うと1話分にしては長い話ですね。
次回の138話は四十八階層攻略のお話です。
『ねこさんのところに居るJKの子が帰りたがっとるとかかいな?』
『あー、そういう訳じゃないんだけど――』
シンくんと大福さんの問いに、マナ消失の実験中に思いついた古代魔法人関連の仮説を皆に伝える。
『考えすぎかもしれんが、注意するに越したことはないな』
レンさんがそう言うと、俺達は古代魔法人の思惑を考査し始めた。
『勇者召喚を配り歩いとんのが古代魔法人かもしれんっちゅう話しはさっきも出とったけど、それを配るメリットはなんなんや? そもそもメリットなんかあんのんか? 魔族とは言え自分達の子孫を殺しに来る勇者が管轄外の土地で召喚されんねやろ?』
『勇者召喚を広める目的ってなんなんでしょうかね?』
大福さんの更なる疑問にシンくんが続く。
『目的かぁ……、人族領の魔物は人族領の人間に守らせるためとか、もらう側のメリットなら普通に思い浮かぶんだけど、渡した側の方は思いつかないなぁ』
『では〝勇者が殺しに来るのがメリット〟の可能性はどうだ?』
レンさんがより踏み込んだ問いを提示する。
勇者が殺しに来るメリットってなんだよ?
『「勇者様、早く私を殺しに来て(ドキドキ)」って謎のドMな恋愛脳でもない限り、自分を殺しに来る奴がメリットとして成り立つのん?』
『異世界人がメンヘラな上に日本人萌えってか? ワシらとは逆のパテーンやな』
頭の悪い俺の発想に、大福さんもネットスラング交じりで返す。
仮に俺を殺しに来た相手に絶対負けない状態で対峙した場合を想定してみる。
アキヤとやり合った結果を振り返ると、思い当たることが無くもない。
その反面、古代魔法人にとってメリットになりえるのか疑問ではあるが、一応発言はしておこう。
『レアアイテムを背負ったカモが自ら出向いてくるのか、勇者おいしいです鼻ほじ~』
『勇者とその御一行全員分のアイテムか……。今の俺達ならそれだけでも魅力的に映るかもしれんが、勇者以上の能力やレアアイテムを持っていそうな古代魔法人や魔族からすれば、そこまで魅力的なものとはとても思えんな』
言う前から既にレンさんと同じ認識に達していたからこそ、棒読みでおどけて見せた。
レンさんもそれを分かっていて、状況整理の為に敢えて口にしている。
レンさんが強調した様に、俺達なら十分美味しいと思うが、それ以上のアイテムが生み出せて勇者より強い古代魔法人にとっての旨みとするには理由が弱すぎんだよなぁ。
『じゃぁ経験値ってのはどうです? 軍隊で攻めてくるんですから、きっとすごい量の経験値が手に入りますよ』
『いつ発生するか分からない後天性の魔族を狩りに行くよりも、定期的にまとまって来てくれる勇者御一行+軍隊の方が、よっぽど手っ取り早く大量に経験値が得られるしね』
シンくんの意見がしっくり来たため、納得の理由を挙げる。
ダンジョンコアの魔力が貯まる頃を見越して軍備を整えれば、さぞ迎撃し易かろう。
『だが、こちらもねこさんの所と同じで、勇者を攻略不可能な魔族領の領地獲得に向かわせることを諦めている。それもかなり早い段階でだ。余程手痛い歓迎を受けたんだろうな』
『僕の所も人族領内での領地争いが殆どだそうですよ』
『あ、やっぱりそうなんだ』
『ワシの居る大陸もそんな感じやで』
多大な国費を費やして過去何度と周辺諸国と討伐軍を編成し、それでも攻略が無理と分かれば、そういう流れになるのは必然といったところか。
『今の現状ですと、経験値的に美味しくありませんね』
『古代魔法人もそうなることを予想出来ていたとすると、理由は経験値の獲得ではないのかもな』
レンさんが経験値説を切り捨てる。
『せやけど勇者が攻めてくることて、それくらいしか旨味ないやろ?』
『なら更に遡って、勇者召喚そのものにメリットがあると見るのはどうだ?』
大福さんの問いに、レンさんが別の方向性を提示する。
『勇者召喚そのものですか?』
『あぁ。勇者を呼び出してどうこうさせるのではなく、勇者を呼び出す行為そのものが目的とした場合だ』
『呼び出す事が目的かぁ……。勇者を召喚するのには莫大な魔力が必要で、それはダンジョンコアから賄われる……、ならダンジョンコアの魔力を消費することが狙い? だけどそれに何の意味があるんだろ?』
ダンジョンコアの魔力を消費しなければいけない理由……あぁ、そういうことか。
『――せや』
俺が答えにたどり着くのとほぼ同時、大福さんも何かに気付いた様に声を上げる。
『〝ダンジョンコアで集めた魔力は汚染されてる〟て言うとったな?』
『うん、うちの奥さん曰くそうらしいよ』
大福さんの言葉に応えながら、同じ答えに達したのだと思い至る。
『なら汚染されたダンジョンコアの魔力を消費することそのものが目的とちゃうか?』
『おそらくそうだろうな』
大福さんもたどり着いた答えに、レンさんが余裕のある言葉で返す。
俺達よりも早くにその答えが出ていたレンさんが、皆を導いたといったところか。
『どういうことです?』
『魔素で汚染されたマナを消費させるのが目的ってことは、迷宮のモンスターみたく、マネーロンダリングならぬマナロンダリングってことかな』
『そういうことだ。汚染されているということは、放っておくことで何かしらの問題があったのかもしれん。放置出来ないのなら、そう考えるのが自然だろう?』
『けど、迷宮はその魔素を使って自動的に拡張されるんでしょ? だったら態々そんなことをしなくても』
『それが放置できん問題ってやつとちゃうか? 迷宮が無限に拡張されたら、それこそ迷宮内にはえぐいバケモンがウジャウジャ湧きよるで』
大福さんの具体例に、エキドナ級の魔物が地上に出て来た場合のことを想像してゾッとする。
相手の虚を衝く形で作戦が上手くハマったから何とか出来たが、魔法攻撃が通用しない化け物とか、今やり合っても勝てるかどうかだ。
そんなのがワラワラ出てきたら、それこそ人の世が終わってもおかしくはない。
……あっ、あのズワローグもこうして出て来た可能性だってあるのか。
と言うか、大森林内にはいくつもの迷宮が存在するし、場所的にその可能性が極めて高いかも。
クレアル湖で襲撃を受けた巨大ワニの出自が、ここに来て推測に至った。
推測はできたが、今も拡張し続けるダンジョンがあると思うと、対策しなければ人族に未来はない。
案外そのための勇者召喚なのかな?
ダンジョンコアの魔力を消費させるための手段として〈勇者召喚〉という形を取った事が、古代魔法人のヌクモリティなのかもしれない。
――いや、迷宮システムを作ったのは古代魔法人だ。
自分達で構築したシステムの欠陥を異世界人と人族領に丸投げしてる時点で、ヌクモリティとは言い難いな。
『まとめると、〈迷宮〉は古代魔法人が魔族を生まずに自分達を強化する育成システムで、汚染されたマナの浄化も兼ねている。〈勇者召喚〉は汚染されたマナの浄化と拡張し続けるダンジョンの対策のために人族に渡されたけど、人族側が勇者を戦争や国政の道具として開発者の意図しない使用方法を用いている。ってところかな?』
『だろうな』
『せやな』
『そうですね』
これまでのまとめを口にすると、皆も納得を示す。
『せやけど、そもそもダンジョンのマナはなんで魔素で汚染されとんのや?』
『ほんそれ』
大福さんの根本的な疑問に同意する。
だがその理由は魔導書に記されてはいないのでわからない。
『確かにそうですね。……ところで、ダンジョン以外のマナは大丈夫なんですか?』
『どうだろ? 地上のマナは宙から降ってくるんだけど、黄緑色の優しい感じがするから、たぶん安全だとは思う。けど、汚染されたマナがにじみ出てる可能性もあるから試せない』
『容易なレベル上げのデメリットが魔族化だ。うかつに試すべきではないだろう』
シンくんの疑問に答えると、レンさんが注意喚起を行う。
迷宮のマナは凄く幻想的で綺麗だが、どこか冷たく暗い印象を覚える。
それが大気中にどれだけ溶け込んでいるのかまでは流石に分からないので、魔族化の危険性を考慮すると今後も行わないに越したことは無い。
『ダンジョンコアの本来の目的はマナを集めることではなく、汚染物質を集める事なのかもしれんな。マナだけを集めたければ地表のマナを集めれば済むことだ。それをせずにわざわざ地下から汚染されたマナを集めてダンジョンを作るのだ、地下の汚染を集める序にマナも集めていたとみるのが妥当だろう』
『つまり、ダンジョンコアって呼ばれてるけど、その実態は汚染物質集積装置って訳か』
その汚染物質がマナに交じっているから、両方纏めて取り込んでいるだけという事か……。
人が変質して気が触れる程だ、もし仮に地表にまで染み出して、人々に被害が及ぶなんてことにでもなれば、レンさんの言う通り放置して良いはずがない。
なら何かしらの対策をしなければならない。
そのためのダンジョンコアに因る汚染マナ収集。
莫大なマナが集まったなら何かに流用出来ないかと考えるのは、効率厨の発想的には良くあることだ。
『大福さんが言う様に、そこまでしなきゃいけない汚染の原因ってなんなんだろうね?』
『現時点でそこまでは分からんが、ろくでもないモノなのは確かだろう。……少し待て。クリフォード、この世界の地中に何かが封じられたと言った類の話を知らないか?』
レンさんが、突然俺達以外の別の人間に話かけはじめる。
レンさんの国の元第二王子で現国王のクリフォード殿下が傍に居た様だ。
てか前から思ってたけど、レンさんはサイレントモードを細かくON/OFFしないよな。
あと、現国王捕まえてタメ口とかすごい。
まぁ二人は友人、いや親友レベルの同志みたいだし、そうそう変わりはしないか。
『―――やはりそういう事か。あぁすまん、こちらの話だ、お蔭で助かった。皆、汚染原因が分かったぞ』
『マジかよ、はえーよホセ』
『誰がホセだ、冗談は今は措いておけ。それよりもだ、汚染原因は恐らく神だ』
……神、いわゆるGOD。
レンさんに釘を刺されたので心の中だけで茶化しておく。
この世界は多神教なので、ゴッドではなくスピリットだし。
てか神かぁ、神と来ちゃったかぁ。
とりあえずレンさんの話を聞いてみると、この世界の神話で〝大災害を引き起こした悪神を太陽神が大地の奥底に封じこめ、人々は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし〟といったものがあるのだとか。
『魔素=神の怨念、呪い説』
『そうなるな』
『古代魔法人が魔素を吸って魔族になったり狂人になったりするのも納得ですね』
『せやな』
色々と仮説が立ったところで、俺はチャットルームを後にした。
これらの仮説が本当に正しいのかは今の俺達には分からないが、それでもジョブの無効化や対古代魔法人用の対抗手段を用意しておくに越したことはない。
ジョブにある魔法に限らず、ボーナススキルも自力習得を目指すべきだろう。
幸いにも迷宮にはマナが満ちている。
マナ感知とマナ操作を自力習得するには打って付けな環境だ。
俺はジョブスキルをすべてリセットすると、イルミナさんの指導の下にスキルの再習得を開始した。
―――――――――――――――――――――――――――
ダンジョンコアの考査終了。
果たしてこの考査は正しいのか?
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
新年一発目の投稿なのに、戦闘もイチャイチャも無しという暴挙。
本来134話~137話が1つの話だったので、今思うと1話分にしては長い話ですね。
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