四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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135話 胡散臭い

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 ではお待ちかね、魔法の実験といこうじゃないか。

 魔法実験の内容だが、マナロードになってからマジックキャスターに風属性魔法が出現した。
 ここに来て漸くの風属性だ。
 マナ感知とマナ操作で繊細な魔法操作が出来るようになったからかなと推測する。
 習得していくと、ウィザードの魔法に空中歩行魔法の〈スカイウォーク〉が追加されていた。

 スカイウォークは空気を圧縮して空中に足場を作る魔法で、これを用いれば360度全方位の空間が足場にすることが可能となる。
 空中に足場が出来るということは、訓練次第で全周囲攻撃などが行えるようになる。
 更に空中走法で獲得したファイヤーボール式爆発加速と組み合わせれば、使い方次第でえぐい機動力が得られ、移動手段の助けにもなる。
 どちらも飛行魔法を組み合わせて使えば、更なる効果が期待できるだけに可能性は無限大である。

 アイヴィナーゼに行く序でに広い空間で試してみよう。
 けどスカイウォークって、何も空気を圧縮しなくてもエンチャンターのマジックシールドで代用可能だよな?
 ものすごい今更感を覚えるが、それに気付かないのも頭が悪い。

 その他にはエンチャンターには浮遊魔法の〈レビテーション〉と飛行魔法の〈フライ〉、セージでは高速飛行魔法〈ゲイルドライヴ〉が追加された。
 浮遊魔法と飛行魔法はマナ操作の派生で、生まれ、スカイウォークとゲイルドライブは浮遊&飛行魔法と風属性魔法からの派生である。
 その浮遊&飛行魔法だが、マナをその身に纏うことで浮力を得た身体を、念じた方へと自在に移動させるというものだった。

 これ飛行魔法というより自分に向けた念動力だろ。
 ……まじかる念動力!

 収納袋様から銅貨を取り出しやってみたところ、銅貨が空中で右へ左へと自在に動いた。
 さらにマナと腕の動きを連動させ、握りしめた銅貨を動かす。

 これが出来るなら戦闘中に相手の体を掴むなんてことも出来るし、掴んだものを握り込めば圧壊だって出来るはず。

 マナの手で掴んだ銅貨を力いっぱい握り込んでみたが、銅貨はひしゃげてくれなかった。

 明らかにマナ操作の精度不足だな。
 でもこれを応用すれば、例え握り込んでの圧壊は無理でも、その辺の武器を手を使わずに操作して相手にぶつける等の無属性物理攻撃も出来るんじゃないかな?
 いや、その前にクリエイトウェポンで生み出した無属性魔法武器をランス系と同じように射出してやれば、無属性魔法攻撃になるだろ。

 クリエイトウエポンを使って実験してみたところ、きっちりマナ操作で形状を維持してやらないとすぐに周囲のマナに溶け込んでしまうのはご愛敬。
 今度はそこに注意してリトライ。
 半透明の魔法剣が眼前に現れた。
 これを更に複数展開すれば、属性に関わらず安定した火力を得られるようになる。
 
 身体はマナで出来ている!
 行くぞ金ピカ、武器の貯蔵は充分か!
 やべぇ、無属性攻撃魔法の時代が来ましたわ!
 来てましたわ!

 だがそれらが出来るのもマナ操作とマナ感知のお陰なため、その有能さを実感する。
 今まで知らずにやっていた魔法の遠隔操作なども、マナ感知により全てがマナによるものだと発覚する。

 知らず知らずにマナ操作をしていたってことか。
 全てがマナで説明できるのなら、これはもうマナ万能説を提唱せねばなるまい。
 若き次代の騎士よ、マナを信じるのじゃ。
 決してマナの暗黒面に踏み込んではならぬ!
 ……マナの暗黒面ってなんだよ?
 あ、魔族化のことか。

 まじかる念動力や無属性魔法剣の練習をしばらくしたところで、次に俺を悩ませる〈マナ消失〉を試みる。
 昨日の内に対抗手段を用意したとは言え、どちらもマナ消失その物を打ち破る手段ではない。
 なので主に性質調査に主眼を置く。

 多分だが、ワープゲートと同じでこれも出す場所や形状を変えられるんじゃないかな?

 ワープゲートや攻撃魔法の要領で試してみたところ、出現場所と大きさや形状は変えられるものの、出現させてからでは伸ばしたり変形させると言った形状変化操作は出来なかった。

 すこし予想が外れたが、出現場所は決められるので、眼前に壁状に発動させて相手の魔法を消しつつ、自分の防御魔法を展開したまま戦うことは可能だな。
 直接相手に打ち込んで、補助魔法などを打ち消すことにも使えそうだし。
 相手にも使われる可能性があるので要注意だけど。
 ついでだし、マナ消失で何が消えて何が消えないのかも試しておこう。

 試した結果、マジックキャスター系の魔法に精霊魔法、それと神聖魔法が消失。
 だがボーナススキルにある〈マナコート〉は消えなかった

 なんだ?
 なんで消えない?
 マナを使った物ならなんでも消えるんじゃなかったのか?
 いや、それよりも消えるものと消えないものの線引きだ。
 どうして魔法は消えるのに、ボーナススキルにある魔法みたいなものは消えないんだ?
 あれらはスキルであって魔法ではないって理屈なのか?

「よろしいですか……?」
「どうしたのセシル?」
「〈ワープゲート〉もそうですが、これ程強力なスキルがMPの消費もなく使えるのはおかしくありませんか……?」

 腕を組みながら首を唸っていると、セシルにおずおずと言われてハッとなる。

 言われてみれば確かにそうだ。
 ボーナススキルがマナを消費しないのに対し、ジョブスキルはステータスを恒常的に上昇させる系統の自動発動パッシブスキルを除き、そのほとんどの能動発動アクティブスキルがMPを必要とする。
 MPを消費せずに使えている事にまず疑問を持つべきであった。

「効果範囲のマナが消えるのは、マナ消失のMPをそこからまかなっているからでしゅかね?」
「つまり、マナ消失の効果性能は〝魔法を含めた周囲のマナを打ち消す〟ではなく〝効果範囲内の魔法を消失させる。MPコストは周囲のマナで支払われる〟が正しいのかもしれないな」

 イルミナさんにしがみ付くフィローラが、レッサーデーモンの影におびえながらもセシルの言葉を元に推測し、更にその推測を元に俺が明文化する。

 トレーディングカードゲームのテキストエラーかよ。
 俺のターン、ドロー!
 俺は手札より、魔法カード〈マナ消失〉を発動! この魔法はあらゆる魔法を打ち消すことが出来る!
 自分それ仕様変更エラッタ出てるで。
 なん…だと……!?
 てな具合か。
 スキルの説明に書かれていない効果があるとは驚きだ。
 ジョブスキルの説明欄も当てにならないなぁ。

「だったら〈ワープゲート〉や他のボーナススキルなんかも、何かしらの方法でMPをどこかから代替えしてるとみるべきか」
「その可能性は大いにありましゅね」
「魔導書に書かれておった〝マナ消失の一定量を超える魔力は消失できん〟とは、大気のマナを用いてマナ消失に転換した分しか消えぬということかえ?」

 フィローラが頷き、人間サイズの超絶美女ラミアが更に疑問を呈する。

「そうかもしれませんね。マナ消失で消えた範囲分のマナを集めると…………だめだ、集めた先から空間にマナが補充される。どれ程のマナがマナ消失のコストになってるのか正確にはわからないなぁ。でもこれで大体ダイヤモンドダスト10発分くらいか?」

 手に集めたマナでダイヤモンドダストを多重展開してフレズヴェルクを生み出すと、停滞しているだけでその周囲の空気を凍てつかせるためマナ消失を発動させて消し去った。
 
 最低でもダイヤモンドダスト10発分のMPがマナ消失に使われていることが確定した。
 つまり、10倍がけのライトニングブラストである荷電粒子砲では、マナ消失の効果を突き抜けられないという証明でもある。
 そして空間のマナを一瞬で全てを消費して生まれるマナ消失は、これだけのコストを瞬時に外部から賄えるところに規格外さを感じる。

 マナ消失が大気のマナを用いてこれだけのことができるなら、練習次第で他の魔法にも転用できるかもしれないな。
 マナ消失の様に周囲からマナの輝きが消えるほど根こそぎかき集められれば、戦闘継続時間が飛躍的に上がるというものだ。

 一瞬で根こそぎ集約するほどの強力なマナ操作、その精度も今後の課題だな。

 マナを瞬時に集める練習をしていると、イルミナさんが手の上に明かりライトの魔法を生み出し、自らそこにマナ消失を発動させた。
 マナと共に洞窟を満たす明かりが消えるも、手の平の上では魔法の光りだけが煌々と白い輝きを放ち続けた。

 消えないのかよ!?

「ほぅ、独自で構築した魔法は消えぬか。マナを用いて発動しておるモノが消えぬのであれば、果たして〈マナ消失〉とは真にマナを消すスキルであろうかのう?」
「マナ消失じゃない? じゃぁどういうスキルなんだろ? でも実際に周囲のマナも魔法も消失しているし」

 マナ消失とは本当にマナを消すだけのモノなのか?
 何かこれを解明するための方法はないものか……。
 ジョブで発動した魔法が消えるのなら、ジョブやボーナススキル以外の魔法はどうなんだ?
 ジョブ以外の魔法、身近なところではイルミナさんの変身魔法がそれに当たるな。

 イルミナさんに了解をとり、彼女だけに有効範囲を絞ったマナ消失を発動する。
 しかし、先程のライトの魔法と同様に、サイズ変化の魔法が解けることはなかった。

 これだ。
 たぶんこれはマナ消失の打開策になるはずだ。
 序に神聖魔法と精霊魔法の両方が消え去ったのも考査しておこう。

「精霊魔法はマナを媒介にして精霊を呼び出す魔法だから、存在が維持できなくなって消えるのはまだわかるんだけど、神聖魔法まで消えるのはどういうことだろ? 神聖魔法は神の奇跡じゃなかったのか?」
「精霊魔法の理屈から言って、同じものではないのかえ? マナがなくなったが故に精霊界に戻る精霊、供物となるマナが切れたが故に効力を消失させる神聖魔法。それに、神聖魔法と言うてもその威力は祈った者の魔力を基準にしておるからのう。そうなれば当然マナ消失の使用者との魔力威力の比べ合いではないのかえ?」
「そうなんですかねぇ?」

 イルミナさんの仮説には前半はまだ納得できるが、後半のは何か釈然としないモノがある。
 俺の中では〝神に祈りを奉げその供物としてMPを消費、祈りを聞き届けた神が術者の身体を媒介に奇跡を起こす〟ってのが神聖魔法のイメージだ。
 なので魔法が具現化した時点でマナなんて関係ないと思ったのだが、どうやらそうではないということか……。

「一応その辺も調べておいた方がいいですね。リシア、神聖魔法のホーリープロテクションを使ってみてくれない?」
「はい。〈ホーリープロテクション〉」

 リシアが発動させた神聖魔法をマナ感知込みでじっくり観察すると、魔法の発動と同時にリシアの体からまとまったマナが放出され、その周囲に光のバリアが発生した。
 そして魔法が発動中も、リシアの体からは極々微小なマナが放出され続けているのが見て取れた。
 
 おかしい。

 マジックキャスター系の魔法はMPを消費した時点で即座に魔法として出現する。
 しかもホーリープロテクションに似た魔法であるエンチャンターのプロテクションならば、一度MPを消失したらその後は集中さえ切らさなければ維持できる。
 なのに今のリシアは僅かとは言えマナを垂れ流し続けている状態なのだ。
 しかもホーリープロテクションが出現した際、術者が構築したのとは違い、突然出現したようにも見えた。

「つまり、〝神聖魔法はMPを供物にして神の奇跡を得る。ただし、継続にもMPは必要〟そして神に捧げ続けるマナがマナ消失で消されるから維持できなくなったって仮説が正しいのかな?」
「なるほど……」
「それなら納得でしゅ」

 俺の更なる仮説にセシルとフィローラも理解を示す。

「ようもこう細々と考えおるのう。この手の検証はどうにも性に合わぬ」

 俺達の中では魔法研究の第一人者で知識人であるイルミナさんが、立場上言ってはならないことを吐き捨てる。

 いやまぁ彼女は面倒くさがりな上にかなりおおざっばなので、イルミナさんらしいと言えばらしいんだけど。

「これはもうジョブに頼らず魔法を習得することが、マナ消失に対抗する手段なんじゃね?」
「魔導書の〝マナ消失を過信してはいけない〟とはそういう事かもしれません……」
「1からの習得となると大変そうでしゅね」
「マナ感知やマナ操作の感覚を一度体感したのじゃ、案外習得は容易じゃろう。なぁに、我が手取り足取り教えてやるから任せるがよい♪」

 イルミナさんがセシルとフィローラの頭を撫でながらにこにこと告げる。
 そのイルミナさんが昨日言っていた、魔法作成スキルマジッククリエイトを使わずとも魔法を生み出すこは可能だと。

 クラウ・ソラスも1から構築しておくか。
 てことは、その元でもあるランス系もか。
 いやもうそれなら全て最初からやり直すのが根本的な解決に繋がるか。
 しかし、なんでジョブで覚えた魔法が消えて、ボーナススキルや自身が覚えた魔法は消えないんだろうな?

 そこでふと〈ジョブ〉の出処が気になった。
 ジョブとは古代魔法人が作り出したシステムだとイルミナさんが教えてくれた。
 そして魔族は古代魔法人から派生した人種で、狂人と化した者達の子孫。
 その子孫が暮らす魔族領に古代魔法人も引きこもっている。
 これだけ勇者召喚が行われて未だに魔族が滅んでいない理由は、ジョブに関係しているのでは……。
 魔族イコール古代魔法人と言っても過言ではないのだから、自分達を殺しに来かねない勇者がジョブシステムで強化することを良しとするのだろうか?
 システムの根幹に手を加えられるのなら、魔族領に攻めて来た勇者のジョブを取り上げてやれば、勇者はただの一般人となり下がり、抗う術を失った状態で捻りつぶせば済む話だ。
 マナ消失で近接スキルは消せないと魔導書には書いてあったが、発動した近接スキルをマナ消失で消せないというだけで、ジョブその物を無くす様なスキルが有れば、スキル自体が打てなくなる。

 その考えに至ると、もう古代魔法人が関わったモノすべてがうさん臭く思えてくる。
 勇者召喚にダンジョンコアが必要というところも、うさん臭さを加速させる。
 ダンジョンコアが古代魔法人が生み出したものなら、それを利用した勇者召喚も彼らが構築したシステムじゃないのか?
 確証が無いので誰かに聞いてみよう。

「誰か、勇者召喚について詳しく知ってることってある?」

 皆に問いかけるも、以前聞いた『ダンジョンコアが必要』ということ以上の情報は得られなかった。

「クラウディア王女に聞いてみてはいかがです?」
「あぁ、確かにそうだね」

 隣を歩くリシアの頭を撫でる。

 彼女は王族で第一王女だ。
 勇者召喚について詳しく知っている可能性がある。

 その彼女だが、残念ながら今ここに居ない。
 しかもレスティー達が迎えに来る前に熱を出して倒れてしまった。
 彼女は俺が迷宮から救出するまで、ずっと命の危機に晒されていたにもかかわらず、俺をアイヴィナーゼ王国に繋ぎ止めるために、疲れたそぶりすら見せず交渉に挑んでいたのだから無理もない。
 実に健気だとは思う反面、その頑張りが俺へと向けられたものではないため、素直に感動も出来ないが。

 まぁ彼女に関しては後で何とかするとして、今は古代魔法人に関する思考を進めよう。

 再び現れたレッサーデーモンに、又も橙色の丸鋸スペシャルを撃ち終えると、今度こそ後方警戒もリシア達に丸投げした。

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