四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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131話 押しかけ王女

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 クラウディア王女一行に対する救護活動はつつがなく完了した。
 数十人単位の戦士達とアキヤの元情婦なんて場所をとる物体を、家で保護することは当然出来はしない。
 まとめて現在レスティー達が宿泊する表通りの宿屋へと押し込んだ。

 部屋が足りるかとかは知らん。
 足りなきゃ自分達で探せ。

 騎士なんて貴族のボンボンが大半を占めるモヤシの巣窟なイメージがあったのだが、この世界の騎士はそうではないらしい。
 先程フルブライトさんに聞いたところ、騎士の仕事は主に哨戒任務で、国から支給された活動資金を元に自身で部隊員を募り、兵を率いて動かねばならない。
 有事の際は軍隊として召集される。
 そのため頭が良いか魔法でも使えない限りは針金野郎の下に兵士なんて集まらないし、気性の荒い兵だと言うことを聞かせられないのだそうだ。

 自分だけの兵団が組めるのか、なかなか面白いシステムだが効率悪そうだな。
 それに、戦闘のド素人の指揮の下で戦いたい兵なんていやしないし、腕に覚えがあるなら宮仕えなんて面倒な事をせずに冒険者やってるわな。 

 そんな騎士達だが、哨戒任務以外では冒険者が受けない魔物討伐の仕事も回ってくるので、それなりに実践経験も積んでいるのだとか。

 単純な戦闘力では勇者に劣るだろうが、魔物を倒したり国防の面では馬鹿にならないな。

 アウグストのジジイが率いる近衛騎士は、実績を上げた騎士達が取り立てられるので実力は折り紙付き、王宮や要人警護が主な任務なのだが、任務外ではひたすら筋トレや模擬戦で体を鍛えるらしい。

 まんまエリート集団だな。

 ちなみにフルブライトさんはというと、近衛騎士団副団長の騎士時代からの片腕で、その副団長は今は宿屋でグロッキー中だそうだ。

 続いて迷宮での事情を聞くべく、クラウディア王女とその侍女、それにフルブライトさんには家に残ってもらった。
 鬱陶しい事にアウグストのジジイが「姫の身にもしもの事があるやもしれん、ワシも姫のそばを離れんぞ!」と、追い払おうにも引き下がる気配がない。

 アキヤすら止めれないお前が笑わせるなと。

 だが実力で同行するわけにもいかず、仕方なく「これ以上入ったらその姫様の身に全力で何かしてやるから覚悟しろよ」と、俺が線引きをした土間の上がり框あがりかまちに留まらせた。

 奴を家に入れることすら嫌なのに、リビングにまで入られると本気で殺意が湧く。
 非常に心の狭い行いであると分かっているのだが、アキヤ戦では下手をしたらこちらにも死者が出いたので、これが俺の譲歩できる限界だ。

 最大の被害者であるイルミナさんが、先程あれだけ舞い上がっていたのが嘘のように顔に嫌悪感が浮かんでいる。

 直接何かされたか言われたかしたかも知れないが、心の傷に触れそうなので、今はそっとしておこう。

 そんな俺達が毛嫌いしているアウグストだが、俺が止める間もなくローザが出してしまったお茶を一気に飲み干すと、あろうことかおかわりまで要求してきやがった。

「図々しいぞジジイ、まだ飲み足りないなら外にある井戸から勝手に汲んで飲んでろ」
「貴様、それが年長者に対する態度か!」
「たとえ年少者でも尊敬できる奴には敬意を払うが、その逆も発生すると覚えておけ」 

 ありったけの嫌悪感を叩きつけて睨み合っていると、ふと頭に〝争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない〟というネットスラングを思い出し、馬鹿らしくなりアウグストから目を反らす。
 それをガンの飛ばし合いメンチの切り合いで勝ったと思ったのか、ジジイが勝ち誇った顔をしやがった。

 はっらったっつ~~~!!!

 そのクソジジイの後ろでは、土間でローザがリシアやククと共に朝食の準備をしてくれている。
 甲冑を着込んだジジイがそんなところに居ては邪魔以外の何物でもない。

「ただいま戻りました」
 
 そんな険悪な空気の中、ミネルバを背に乗せたユニスが息を切らせなて家に戻ってくる。
 騎士らを宿屋に押し込んでいる間にユニスと連絡を取り、この街に来て最初に寄った治療院に走ってもらったのだ。
 治療院はかなり大きかったので、患者が多人数なら何人か派遣してくれるだろうと踏んでのことだ。
 しかし流石は人馬、速い帰還だ。
 汗に濡れた茶色の髪が朝日を受けて輝き、健康的だが艶めかしい。
 どこかの老害のせいで荒んだ気持ちが一発で吹き飛んだ。

「お疲れ様。久々の朝駆けだったのに悪かったね」
「いえいえ、もう十分な運動になりました」
「そう? なら良いんだけど。それで、治療院はどうだった?」
「直ぐに人を寄越してしてくれるそうです」
「ありがとね。彼女には治療院に走ってもらっていた。これで君の連れも大丈夫だろう」
「何から何まで痛み入ります」

 クラウディアが俺達に頭を下げると、それに習って侍女と共にフルブライトも頭を下げた。

 主が頭を下げている状況でもジジイが下げないのは、さすがに人として色々なものを疑うぞ。
 それよりも――

 迷宮で見かけた時から気になっていた侍女のジャクリーンさんへと目を向ける。
 侍女は一見地味だが少し茶色かかった黒髪のふわっとボブカットな愛らしい娘で、先程は死にそうな目に遭い、今も俺達の様な素性のわからない人間に囲まれいる状態にも関わらず、それでもなお大人しく主に付き従っているのはある意味すごい。

 なんらかの訓練を受けた要人警護のプロだったりして。

 こっそり鑑定眼で制度の悪いプロフィール確認すると、ジャクリーン17歳トリックスターLv40と表示される。

 あんたモーディーンさんと同じでファントムシーフの最上位職かよ。
 いやそんなものよりもっとすごいものがを先程から拝めているのだが。
 
 ジャクリーン
 人 女 17歳
 トリックスターLv40
(ジャクリーン
 アラクネ 女 17歳)

 アーラークーネーキタァァァァァァァァ!

 全長で1メートル30センチといったところか。
 下半身は巨大ハエトリグモでふさふさの茶色い体毛が生えており、上半身は蜘蛛の頭の位置から生えた小柄で地味めの美少女が、正座する本体と重なる様に幽体的なものが浮き上がっていた。
 人間の頭部には大きな黒い瞳が額に2つと側頭部に3つずつ、人の目の部分に2つの合計10個。
 とても愛らしい合法ロリッ娘アラクネだ。
 じっくり見たいところではあるが、地味っ娘なメイドさんをガン見していては不自然に思われるので、直ぐに目を離し、視線をクラウディア王女に向けつつ視界に収めた状態で堪能する。

 これだと細部まで観察し辛いな……。
 あとでじっくり拝むためにも、いい加減王女様への事情聴取をしておくか。

「それで、なんでまたあんな所にずっと居たのか聞かせてくれる?」
「それは……」
「良ければ私から話しましょうか?」
「いいえ、これは私からお伝えしなければならないことです」

 クラウディアに問うてみたところ、なにやら口篭る彼女にジャクリーンが横から助け舟を出すも、それを首を横に振って優しい声音でやんわりと断る。

「平民がでしゃばるでないわ」

 何故だかアウグストのジジイが偉そうに叱りつけると、彼女は静かに頭を下げて引き下がった。
 立場上責任者である王女が言わなきゃなのだろうが、何故王女を思いやって口を出した彼女が怒られなきゃならんのか。

 偉そうなジジイをたしなめないってことは、貴族の常識的に照らすとジャクリーンはジジイが言う様な出過ぎた真似をしたってことか。
 貴族の上下関係ってめんどくせぇ……。

 だが、こればかりは俺が口を挟む筋合いではないため何も言わないでおく。
 それでも無駄に偉そうなところが俺の癇に障るので、アウグストへのイライラが止まらない。
 奴に早く出て行ってもらうためにも、クラウデニアへ話しを促す。

「続けてくれる?」
「はい。これは聞くも涙、語るも涙の物語でございます。トシオ様と別れた後、地上へと戻るべく歩みを進めた私達ではありましたが、地図など制作しておらず迷宮の通路で四苦八苦。それでもどうにか三十九階層の出口までたどり着きました。そこで一晩を過ごす事に相成りますれば、手持ちの食料が不足しているではありませんか……!」

 口籠ってたのはなんなんだと思いたくなるほど芝居がかったクラウディアの話しは、その後の展開が容易に想像が出来た。
 出来てしまった。
 おそらく手持ちの食料事情を鑑みても、三十九階層からアイヴィナーゼの首都に辿り着くまでの持た無いと悟った彼女達は、俺を追って戻ってきたのだろう。

 どの辺に涙を流すところがあったのかは分からないけど。
 あくびで出た涙とかかな?

 その後の続きを聞いてみると、まさに想像通りの事情を語ってくれた。

「空腹に耐え、必死の思いでどうにか四十階層のボスの間へ辿り着きました私共一行。しかし安堵するのもつかの間です。なりを潜めていた階層の魔物達が雪崩のごとく押し寄せて来たではありませんか!」

 サンドワームは茶色い土色なのと濁流の様に荒々しく押し寄せてくるので、雪崩というより土石流と言った方がしっくりくるが。

 心の中だけでツッコミを入れるも、妙に乗っている彼女に口を挟むのは申し訳ない気がし、黙って話しを聞いてやる。
 完全無欠の美貌を誇るであろうお姫様が、コロコロとその表情を変えるのは見ていて面白い。

「そうなるともう逃げるに逃げられず、あぁ我々の運命やいかにっ! しかし神は我々を見捨てることはありませんでした、突然私の頭に響き渡る凛々しきお声、そう、それこそがトシオ様だったのです!」

〝ハロハロ、クラウディアさん居る?〟のどこに凛々しさがあったのか問いたい問い正したい。
 あと、見捨てなかったのは神様じゃなくて俺な。

「といった次第です。お恥ずかしい話しですが、帰還などもアキヤさ――こほん。罪人アキヤの勇者としてのスキルに頼り切っていたため、あの様な事態に陥りました」
「それもこれも貴様のせいじゃ!」
「じじいは黙れ。そんな状態の君達を放り出してしまってすまなかったな」

 唐突に素に戻った王女の言葉の終わり、間髪入れず俺を非難してきたアウグストを一瞥すらせず言い放つと、クラウディアに対して素直に謝罪した。

 今の話しで俺が非難される箇所はどこにもなかったと思うのだが?

 奴の称号が変化したタイミングから考えると、罪人になり下がったのは恐らく俺達に対する詐欺行為が原因だ。
 つまり、ウォンテッドカードに書かれた犯罪履歴を思い返すと、あれは元居た世界での罪状で、こっちの世界に来る前は散々やらかしていた事になる。

 お巡りさんアイツです。
 そもそも、俺達との話し合いで自分勝手な言動や常軌を逸した欲望を垂れ流し、挙句には味方であろう騎士達にスキルをぶっパする凶犬っぷりだ、あれを生かしておいても益になることなんて、まずありはしないので死んで正解だろう。

 奴のことを思い出したことで不快となり、人の死を正解だったと思う自分自身に嫌悪が募る。

「いいえ、トシオ様が謝る必要はありません。全てはあの者に頼り切っていた私共の愚かさが招いた事態です」

 気丈にも王女はそう言うも、何を想ってか身を小さくして俯いてしまった。

 一応彼女の婚約者でもあった奴が死んだのだ、悲しみを抱くのも仕方が無いか。
 俺が彼女の立場ならば、そんな汚点は黒歴史として葬りたくなるけどな。

「そういえば君の婚約者だったね、俺を恨んでくれても構わないよ」
「トシオ様を恨むだなんて、そのようなことは決してありません。むしろ謝罪しなければならないのは私共の方です。不用意に勇者召喚など行わなければ、トシオ様や皆さまにご迷惑をおかけすることもありませんでした」

 あ、そこはちゃんと反省してるんだ。
 ウィッシュタニアの第三王子と言い彼女と言い、呼び出した張本人でもない周りの人間が苦労する勇者召喚とか、呪いの一種ではないかと疑ってしまう。
 どうせなら召喚には国王の命が必要とかにすれば、こうもポンポンと勇者を呼び出すなんて事は起きないのにな。

「それに、婚約は父が決めたことで、私が望んだものではありません。そして今の私はトシオ様の奴隷。それもただの奴隷ではありません、雌奴隷なのです!」
「姫!?」

 反省する態度から一変、恥じらいで頬を赤らめながらも言い切った。
 これにはアウグストが慌てふためき、フルブライトさんも驚きを禁じ得ないといったご様子。

 突然何を言い出すんだこの娘は?

 その変わり身の早さに面食らうも、これがリシアと出会う前ならホイホイ釣られていたかもしれないが、今は12人もの妻を抱える身。
 彼女の態度や言動が唐突すぎ、あまりにも不自然なので裏があると容易に察する。

 決して〝ケモっモンむすじゃないから釣られなかった〟とか、そういうんじゃないからね?

 念のため、奴隷契約の〝虚偽の発言に対する罰則〟の項目にチェックが入っているかを確認すると、彼女に関しては何もいじっていないので、当然チェックは外れていない。

 なぜだろう……、奴隷システムの虚偽報告に関する盲点を突いている可能性がぬぐい切れない。
 彼女はなんて言った?

〝トシオ様の奴隷〟

 これは確かに俺の奴隷なので嘘ではない。

〝雌奴隷なのですから〟

 彼女は女性の奴隷なので、これも嘘ではない。
 なんのことはない、どういう意図かは知らないが〝俺の女になりたい〟と態度と言葉で臭わせただけで、〝俺のことが好きだ〟といった具体的な言葉を言っていないではないか。
 つまり、〝嘘ではないが受け取る人によってどうにでもなる解釈の言葉選び〟をやっていたのだ。

 なかなかどうして、したたかじゃないか。
 そこまでして俺に取り入りたい理由は何かと考えると、やはり俺の〝勇者殺しの戦闘力〟が最大の理由だろう。

 確認はとっておくか。

「えっと、それは俺の妻になりたいってことで良いのかな?」
「はいっ!」
「……俺のことは好き?」
「決まっていますわ!」
「んふふふふふふん!」

 こうも潔く言葉を濁されるとは思わなかったため、その清々しさに笑いをかみ殺そうとして失敗した。

〝はい〟でも〝いいえ〟でもない、〝決まっています〟と来たか。

 それは一体どう決まっているのか。
 リシアの様な極限状態からのつり橋効果で好きになったとかなら俺もまだ納得がいくが、正真正銘の一国のお姫様が、いくら命を救われたからとは言え、顔を合わせてまだ二度目のイケメンでもないアジア人の童顔小僧を好きになる訳がない。

 良いなぁこの姫様、肩書通り清楚を具現化しましたと言わんばかりの気品と美しさを併せ持ちながら、内面は見た目とは裏腹に大変たくましくあらせられる。

「あははははははは!」

 やべぇ、ツボにはまって笑いが止まらない!

 ひとしきり涙が出るほど笑わせてもらうと、あまりの馬鹿笑いっぷりに周りの皆がドン引きする。
 こっちに来てからは笑いに飢えていたので、これだけ笑わせてもらえたのなら多少引かれるくらい別に構やしない。
「はっははははははは! ……はぁ……はぁ……あー、面白かった」

 涙をぬぐいながらも笑いが波の様に押し寄せる続け、それが収まってから一息ついた。
 ジジイにキチ〇イでも見るような目をされるのは大変不本意だが。

「急に素に戻ったな」

 メリティエも珍妙なモノでも見る様な目を向けてくる。

 人をそんな目で見るんじゃありません。
 俺もメリティエやトトをそういう目で見ることがあるのでお互い様だけど。

「トシオさんがこれ程笑っている姿、初めて見ました……」
「意外と笑い上戸かえ?」
「いつもは笑いをこらえてるだけで、普段からこんなだよ」

 セシルが驚きイルミナさんも食いつくと、モリーさんが呆れ交じりの声でそう述べる。

「突然吹きだす事もありましゅよ」
「楽しいことがあると猫の様な口になりますしね」

 フィローラにまで突っ込まれ、お茶の入ったガラスのケトルを持ってきたリシアが、モリーさん張りの呆れ口調で告げてまた台所へ。
 大笑いする程の面白い事なんてそう無い世界だし、誰かが突拍子もない変化を起こしても流石に笑うのは失礼だと思って堪えている。
 それを気付かれていないと思っていただけに、言い当てられる恥ずかしさに居たたまれなくなる。

 意外と見られているものだなぁ。
 気を付けよう。

「今のはどこが面白かったのー?」
「さぁ?」
「肯定とも受け取れるが実はそうではない、そんなあいまいな言い回しではぐらかそうとした王女様が笑いのツボに嵌まったといった具合ですね」
「ふむふむ」
「ふむふむ……?」

 ユニスがトトとメリティエの疑問に解説を挟むと、メリティエは納得がいったと頷き、トトも一度はメリティエの真似をして頷くも、すぐに首を横に捻った。
 トトが我が家のお馬鹿っ娘ランキングで単独首位をキープしていることにツッコミを入れたいところだが、今は見なかったことにさせてもらおう。 

 さて、問題のクラウディアだが、一連の行動から彼女がどういった人間なのかだいたい見えてきた。
 勇者や流れ人をアイヴィナーゼそのものに繋ぎ止めるためなら、自身の意思なんて二の次なのだろう。
 勇者に頼った自身の愚かさを自覚しながらも、それでも勇者に頼らなければならない世情が彼女をそうさせているのか……。
 この手の人間は奴隷契約で縛ったところで、国の為なら自分の命を引き換えにしてでも俺を死地に向かわせかねない。
 それだけの覚悟を持っている。

 我が家には居ないタイプの女性だな。

 性質的には興味深いが、それと彼女を受け入れるのはまた別の話である。
 傍に居てもらいたいのは〝喜んで俺の傍に居てくれる人〟だ。
 もし仮にこれがレンさんなら、全てを分かって尚〝お前の一番は俺だと分からせてやる〟くらいは言ってのけるかもしれないが、残念ながら俺にそんな度量は無い。

 ……いや、違うな。

 俺の器の小ささもあるだろうが、態々厄介事を引き受けて迄手に入れたいと思える程の価値を彼女に見いだせないのだ。
 イルミナさんの時みたく、彼女自身が魅力的であったり妻達やその肉親とかならば、俺は諸々を踏まえた上で確保に動こうとするだろう。
 しかし、リシア並みの美少女とは言え、俺自身に好意を持っている訳でもない人間ヒューマンに何の魅力があるのやら。
〝アイヴィナーゼの王女〟の肩書にしても、利用価値はあるかもしれないが、仕事のパートナーとしてなら兎も角、自分の恋人や嫁としてはマイナスにこそなれプラスに働く要素がない。
 因って、俺を惹き付ける何かを彼女自身に示してもらうしかない。

 損得勘定で思考している辺り、嫁や恋人選びとしては終わっているなぁ。

「それで、君は俺に何を提供し、俺に何を求めるの?」
「アイヴィナーゼの王都へ来て頂き、私と婚姻を結んで頂きたく存じます」

 フリッツとの会話の時みたく、わかっている事を敢えて口に出して聞いてみるも、にこやかな表情で更に茶番を続ける王女様。
 残念だが、その茶番を楽しむ段階はもう終わっている。
 なにより、異世界人は美人のお姫様に弱いとでも思っている節が透けて見えるのが気に入らない。

「自身を提供するから国のために働けと?」
「どう捉えて頂いても結構です♪」

 こちらの言葉にまたしても明言を避けるクラウディア王女。

 要らないものを押し付けられても迷惑な上に、更に義務を課すとはなかなか斬新な発想だな。

 彼女が本音を切り出さないので、これ以上は俺の機嫌を損ねるだけだと分からせるために、顔から笑みを消し、今度はかみ砕いて彼女に告げる。

「ひとしきり楽しめたし、君の国に対する忠誠心――いや、君の国だからこの場合は責任感、それとも義務感か? は見せてもらった。だけど、それは君自身が俺に対して魅力があればの話しだが、生憎と君に興味がは無い。これ以上の言葉遊びがしたいなら他所でやってくれ」

 俺の言葉にクラウディアは先程までの乙女モード全開な仕草をやめ、姿勢を正した。
 そして真剣な表情でまっすぐこちらを見据えてから、深々と頭を下げた。

「先程までのご無礼、どうかお許しください。何卒アイヴィナーゼ王国にその力をお貸しください」

 異世界人は美人のお姫様に弱いと踏んでの先程までのあの舐めた言動だ、それを見透かされては素直に要求を述べる以外にない。

 それをわきまえてる辺り、俺的にはポイント高いぞ。
 臣下がそれを分かってないのが実に残念だが。

 横目でジジイを見ながら思っていると、そのアウグストが顔を真っ赤にして口を開く。

「姫、このような下賤の者にこうべを垂れてはなりませんぞ!」
「お黙りなさい、アウグスト。トシオ様の、勇者様の前ですよ」
「いいえ、黙りませんぞ! こやつがまだ勇者と決まった訳ではありますまい! この様な素性のわからん者を姫に近付けたとあっては、ワシに姫を託してくださった陛下に顔向けできません!」
「例え何者であれ、勇者を倒すほどの力を持っているのは事実です。そのトシオ様に対する無礼はわたくしが許しません!」
「ぐぬぅ……」

 王女として毅然とした態度でアウグストを一喝すると、流石に強く出られない老騎士は、額に脂汗を滲ませ呻く事しか出来なくなった。

 はは、良いぞ王女、今ので更に好感度爆上げだ。
 だがその王女のセリフの中に、聞き逃せないモノがあったので聞いておこう。

「力を貸せとは何を指すのかを聞かせてもらえるかな?」
「はい。この度、我が国で勇者召喚を行われたことには訳があります」

 そう切り出した王女がその理由とやらを語ってくれた。

 何のことはない、隣国ウィッシュタニアが勇者召喚を成功させたとの情報を得たアイヴィナーゼ国王とその息子のアルフォンス第一王子が〝このまま何もせずに傍観していては隣国に攻め滅ぼされてしまう〟と勇者召喚を行ったのだそうだ。

 だそうだぞフリッツ! ふりぃぃぃぃぃぃっつ!

 ウィッシュタニアに因るバタフライエフェクト的に迷惑を被った俺としては、その隣国関係者で唯一の知り合いである男の名を心の中で絶叫する。
 すると、玄関の扉をノックする音と共に、外から「早朝から申し訳ありません、フリッツです」と若々しい男前ボイスが聞こえてきた。

「っと、大事……でもないが客が来た、すぐに戻るから待っててくれ!」

 狙いすましたかの様なタイミングで来やがって、リビングに盗聴器的な物でも付けられたか?

 彼の正体を王女に知られる訳にはいかないと、慌てて玄関へと飛んで行き、サンダルを履いて扉を開く。
 そこには土埃にまみれた町人Aな恰好のイケメン軍人が、朝露の様にさわやかな笑顔で現れた。
 玄関を出て扉を後ろ手に閉じる。

「おはようございますトシオ様、昨晩頼まれていた者達をお連れしました」

 その手には黒猫――もとい、黒いケットシーのマルクスが、首根っこをつままれぶら下がっていた。
 フリッツの後ろでは、焼肉パーリィで見かけた男女が4人、それぞれ一匹ずつケットシーを腕にぶら下げている。 
 そのケットシー達はというと、皆〝もうどうにでもしやがれ〟といった様子で目が死んでいた。

 一体なにがあった?

「てか仕事早すぎだろ」
「喜んで頂けたようで恐悦至極。トシオ様と別れたあと直ぐに捜索に出かけ、先程無事確保した次第です」

 フリッツが得意気にそう言うも、後ろの奴らは緊張を隠せない様子で俺を見ていた。
 彼らからすれば昨晩あれだけ緊張を強いられ、さらに一睡もせずにねこ集めだ。
 全くご苦労にも程がある。
 そして5匹ものケットシーを一晩で捕縛してのけたのだから有能&有能だ。
 俺もこんな使える部下が欲しい。

「そうか、それはすまなかったな、こいつらは有難く受け取っておくよ。だが今は立て込んでて手が離せない。理由は表通りのでかい宿を探ってくれとだけ言っておく。それと後ろのあんた達、そっちが俺に危害を加えてこない限り敵対しないと約束するから安心してくれ」

 この様子だと、焼肉パーリィ中も緊張で肉の味とかわからなかったんじゃないか?

 俺はワープゲートで自宅の空き部屋に繋ぎ、妖精猫を放り込んでもらう。
 そのワープゲートに戦々恐々といった面持ちで近付くフリッツの仲間たち。
 そんな彼らを纏めるフリッツはと言えば、ワープゲートを見る目が興味深々といったご様子だ。

「これが伝説にあるワープゲートですか、まさかこの目で拝見できる日が来ようとは感無量です」

 図太い上に好奇心旺盛だな。

「それでは我々はこれで失礼致します」
「あぁ、ありがとう。態々すまなかったな」
「いえいえ、御用があればまたいつでもお声がけください。では」

 仲間達を連れて颯爽と去っていくと、庭を出たところで仲間達に指示を出し、自宅に向かう仲間達と別れて自身は表通りに続く道へと歩き出した。
 これからアイヴィナーゼの騎士達を預けた宿屋に向かう気だ。
 そのすべてが様になっており、やはり出来る男は違うなぁと思いながら、俺はリビングに戻ってきた。

「ローザ、食事が終わったらで良いからルーナと同じ食べ物を5匹分余計に用意してくれる? 訳は後で話すから」
「えぇ、わかりましたわ」

 火の近くに居るため汗だくのローザが、俺の頼みに笑顔で答えてくれた。
 その後ろ姿はテキパキと機敏に動き、体中のお肉が揺れまくって目を楽しませてくれる。

 視界の片隅にジジイが居さえしなければ最高なのに。
 それはさておき、今はクラウディア王女だ。

 先程座っていた場所に腰を下ろし、再び彼女と向かい合った。

「腰を折って悪かった、話の続きをしよう」
 
 とは言ったものの、彼女の頼み事は既に杞憂に終わっている。
 何故なら、この家には彼女が問題にしているウィッシュタニアの勇者であらせられるよしのん様が御座おわすからだ。
 そして勇者の居ないウィッシュタニアは、バラドリンド教国に攻められることを恐れて動くに動けない状況にある。
 なので、アイヴィナーゼとウィッシュタニアの間に戦争なんて起こりえない。
 よしのんがこの家に居るのはウィッシュタニアとバラドリンドしか知りえない情報なので、ここはあえて黙っていよう。

「ウィッシュタニアの勇者に関しては、確かにアイヴィナーゼ王国からすれば最も恐れる懸念事項だろうな。だがそれの対価が君では話しにならない。アキヤの時みたく争いともなれば命がけだ。ましてや魔法王国なんて大層な肩書を持つ大国の勇者だ、装備や支援体制を考えると、とてもじゃないが太刀打ちできる気がしない。そんなのとやり合うかもしれない以上、今のこの生活を秤にかける価値がある程の物を提示してくれ」

〝嘘は言ってないがそうとられかねない言動〟でお返ししておく。
 王女もまさかこの場面でやり返されるとは思うまい。

 そんな俺の脳内では、果てしない青空とどこまでも続く草原が広がると、麦わら帽子にワンピース姿のよしのんが魔法で作った虫網を手に、「わ~い、一ノ瀬さ~ん、あんなところにブリットビートルがいますよ~。あははははは、うふふふふ♪」と、頭お花畑状態で走り回る光景が浮かんできた。

 堪えろ、今笑ったら色々と台無しだ。

 歯を食いしばり顔をしかめ、必死に笑いを抑えにかかる。
 先ほどの馬鹿笑いで普段以上に笑いに対する耐性が低下しているが、ここはぐっと我慢である。

「ほら、アレのことだよ」
「確かに。アレは絶対に笑いを堪えている顔ですね」
「きっとよくない想像をしてましゅよ」
「トシオさんの沸点は意外と低いのかもしれません……」
「咳をするフリして下を向いた時は大体笑ってるよ?」

 モリーさんの指摘にユニスとフィローラ、それにセシルとモティナによる超小声の内緒話を、ボーナススキルの聴覚強化が拾い上げる。

 ははっ、バレてーら。
 気を付けようと先程戒めたばかりでこれである。
 ならもう気にしない、気にしないよー!
 そういえば、当のよしのんの姿が無いな。
 まぁこれも想像は容易なので放っておこう。

 笑いをこらえる表情を〝苦渋に満ちた険しい顔〟のていで話を続ける。

「それが出来ないのならこの話しはこれでお終い。君に渡したウォンテッドカードと君達の救助に対する礼金をもらった後、君との主従契約を解いて後腐れなく終了だ。その後もし変なちょっかいをかけてくる様なら、ウィッシュタニアに駆け込むだけだ」

 とりあえずこう言っておけば、それなりの条件を提示してくるか、手切れ金をもらった後に余計な干渉はしてこなくないはずだ。
 後者ならコネが作れないので少し残念ではあるが、どちらに転んでも俺が損することはない――と思いたい。

 内心のお道化なんぞ1ミリたりとも声に出さずにそう告げると、王女は息をのみ、フルブライトさんも驚きを見せるとなる。
 王女の隣で大人しくしていたジャクリーンも、目を大きく見開き驚いて驚愕していた。
 そして横目で見たアウグストはというと、手で口元を隠してこちらを見ている。
 おそらく手で覆われた口元には、さぞ大きな笑みを浮かべていることだろう。
 折角手に入れた王女と言う切り札をこうもアッサリと手放すというのだ、奴にとっては願ったり叶ったりのはず。
 王女の思惑を除いて。
 確かに奴隷契約を持ち掛けたのは俺の方だ。
 しかし、これだけ強かな王女の事、異世界人と言う超人的な戦力を手に入れるために、俺との奴隷契約に飛び付いたに違いない。
 あの時の状況なら拒否することもできたのだから。
 恐らく俺の行動や言動を見て、分の良い賭けだと思ったに違いない。
 だが彼女の誤算として、俺が王女を女性としてあまり魅力的に思っていない所である。

「……わかりました。父に頼んで城の宝物庫を開放して頂きましょう。そこには歴代の勇者様達が所持していた装備などが保管されています。宝物庫の中のモノは好きなだけお持ち頂いて構いません。きっとトシオ様の御眼鏡に適う物があることでしょう。それと領地と爵位もお約束します。ただし、私との奴隷契約は今後もこのまま継続という条件を付けさせて頂きますが」
「姫っ!?」

 アウグストが大慌てで止めに入るも、クラウディアは取り合わない。

 宝物庫の開放、だと…?
 なにそのトキメキを感じさせてくれる単語!
 一国の宝物庫か、これだけ勇者召喚が横行している世界のそこそこ大きい国で、しかもその国の王女が自信に満ちた言い切りっぷり。
 これは期待せざるを得ないな。
 けど領地と爵位か、領地経営は少し面白そうだが俺に出来るか非常に怪しい。

 確かに楽しそうではあるがどう考えても罠でしかない。
 そして最後の一文〝奴隷契約の継続〟と併せると、彼女はなにがなんでも俺をこの国に縛り付けたい様だ。
 王女の意図が理解できていないアウグストには、保身的な意味で悲痛な表情が刻まれる。

 奴からすれば悪夢のように思えるだろう。
 俺がレンさんみたく王族の仲間入りでもしようものなら、顎でこき使える立場になるんだもんな。
 ……くっだらないなぁ。
 そんなくだらないことをしてる暇があったら、さっさと左遷かクビにして視界の外に退けてやる。 
 あとアレだ、ウィッシュタニアの宝物庫も凄いお宝が眠っているかもしれないのか。
 なんたってよしのんは着の身着のままでウィッシュタニアを出奔しゅっぽんしているんだ、今代の勇者に渡すはずだった装備が手付かずで残っているはず。
 そういう意味ではアイヴィナーゼの宝物庫の魅力は半減だが、アイヴィナーゼの方は行けば貰えるのに対し、ウィッシュタニアは絵に描いた餅なので自重しよう。

「わかった。ただし領地と爵位は結構だ。それと活動資金と諸々な情報の開示、国内で活動する上で国の施設や民間の組合に便宜を図れる国王名義の指示書みたいなのを発行してくれ」
「それも父に掛け合いましょう。ですが、元勇者に使用した魔晶石の仕入れに国防費に、国費に余裕は在りません。資金援助の方はあまり期待なさらないでくださいませ」

 どこまで本当かは分からないが、もともとたいした期待はしていない。
 ここらが妥協点といったところか。

「勇者召喚なんて国の命運がかかった一大政策だもんな。そら全力で支援するわな。それに、この情勢なら国防に国庫を使うのもしかたがないか」
「トシオ様が話しの分かる御方で助かります」

 棒読み口調で納得してやると、王女も芝居でもしているかのような丁寧な口調で頭を下げる。
 その仕草が互いに白々しい。
 だがここに来て話がトントン拍子に進んでいくと、最後に顔を上げたクラウディアが、一瞬遠くを見るような目と共に自虐的な笑みを口元に浮かべたのを見逃さなかった。

 今アキヤと比べただろ……。
 あんなのと比べたらこの世の大半の人間は理解力のある聖人になるぞ。

「話も済んだことだし、君はこれからどうする? 首都に戻るにしても直ぐにとはいかないだろうし、それまではこの街の領主の元にでも居る?」

 確かリベクさんがここの領主とは顔見知りのはずなので、取次ぎを頼めば良い――と思ったが、王女が回復した騎士達を連れて直接向かえば済む事だな。

「いいえ、私はここに居ます。なにせ私は本日この時より貴方の妻ですから、片時たりとも夫と離れたり致しませんわ」

 王女が再び恭しく頭を下げ、愁傷な新妻を演じてみせた。

 うわぁ、また言い切りやがりましたよ。
 正直こんな押しかけ女房、ありがた迷惑以外の何物でもない。

 なのでここはきっちり拒否しておかねばならない。

「いや、そう言うのは困るからやめてもらえますか、クラウディアおうじょさま」
「まぁ、そのような他人行儀な物言いをされるなんて嫌ですわ。それに、今なら私だけでなくジャクリーンも付いてきますよ?」
「す、末永くよろしくお願い致します、ご主人様」

 急に振られ慌てて頭を下げるジャクリーン。
 それにつられて鑑定眼の方もアラクネ姿の彼女が連動する。

 超かわいい。

「え、マジで、それなら――っていやいやいや、頷くと思ったら大間違いだからね?」

 小柄なアラクネの魅力につい転びかけたが、すぐに我に返って首を横に振る。

 おまけの方がメインとか食玩かよ。
 クラウディア王女には悪いが、ジャクリーンだけなら喜んで受け入れたい。

「これ程可愛い子が貴方に尽くすというのに何が不満なのですか?」

 王女は横に座るジャクリーンの後に回ると髪を撫で、その手が頬に移動し首を通って胸に辿り着き、メイド服の下にある意外と大きな胸を掴んで強調する。

「おやめください姫様……」

 ジャクリーンが羞恥に耐えながら言葉だけの拒絶を繰り出す。

 なにこの王女様とアラクネコの百合プレイクソエロい。
 それがアイヴィナーゼ第一王女クラウディア様のすることか!?
 なかなか茶目っ気があって面白いなこの王女、ジャクリーンだけでなく彼女も傍に置きたくなってきた。
 明らかに気の迷いなので置かないけど。

「いくら2人が可愛いからって、これ以上嫁は要らん」
「……これ以上? トシオ様の奥方様はそちらのエルフさんだけではありませんの?」

 クラウディアが俺の右隣、フィローラを挟んだセシルに目を向け問うてくる。

 あぁ、フィローラは見た目がロリエルフと名高いマルモル種、こうしてみると俺とエルフのセシルとの子供にしか見えないから余計に夫婦に見えるのか。

「いや、ここに居る女性全員が俺の奥さんだ。この子もエルフじゃなくてマルモルだ。序に言えば、あそこで朝食の準備をしてくれている3人が第一から第三夫人だ」
「「「「……」」」」

 これには家人以外の四人が絶句した。

 そらそうだ、ローザは人間とは言えかなりの肥満体だし、ユニスの下半身は馬であるケンタウロス。
 極めつけとも言うべきククやトトなんて、上半身は人型とは言え、全身体毛に覆われた獣そのもの。
 更にはユニスの背でつぶれ饅頭と化したミネルバを王女たちが女性とカウントしてるかは怪しいが、それを考慮しても11人である。

 普通は呆れるわな。
 しかし、これで諦めてくれるだろう。

 だが俺の思惑なんてシュガーよりもスイートな考えだった。

「つまり、これ程幅広い女性に対応していらっしゃると?」
「……あ」
「そうですか……。では、まだわたくしにも勝算はありますわね……」

 そう言ったクラウディアの目に怪しい光が燈り、その視線はセシルを捕らえ、流れる動作で台所で鼻歌交じりで料理に打ち込むリシアへと向かう。

 しまったやらかした……。

 2人はエルフ耳と猫耳だが、服を着てい今の彼女達は女性として極めてノーマルに近い存在だ。
 これほど多くの女性を娶っている俺ならば、自分もその中に加われると結論付けるのは容易なことだ。
 事実、自分の美貌を理解しているクラウディアは、付け込むチャンスが十分にあると踏みやがった。

 迂闊にも程があるぞ俺ぇぇぇぇぇ!

「それではジャクリーン共々よろしくお願いしますね、ア・ナ・タ♪」

 こうして、クラウディア王女は侍女ジャクリーンと共に我が家に滞在する運びとなり、フルブライトさんは朝食を共にしてから宿の方に向かった。

 アウグストのジジイ?
 そんなモノ、朝食前に追い出したから知らん。
 大方表通りの宿屋で飯でも食ってんだろ。

 俺は食後の一時をリビングでのんびりと過ごす振りをして、レンさん達にこの押しかけ王女様をどうにかできないかと相談していると、思いがけない人物が思いがけない情報をもって再びやってきた。
 現れたのは、先程ケットシーを連れて来たフリッツだった。

「どうかしたのか?」
「先程こちらから出てきた甲冑姿の初老の男性、アイヴィナーゼ近衛騎士団団長アウグスト殿で間違いありませんか?」
「そこまで調べ上げたのか、流石だな」
「お褒め頂き恐縮です」
「それで、あのジジイが何かやらかした?」

 自分の地位を笠に着てどこかの若い子の尻でも触ったとか?
 いくら何でもそんな事せんやろ。

 くだらない予想をしながらフリッツの次の言葉を待つ。

「そうですね、確かにやらかしたと表現するのが正しいでしょう」
「ん?」

 俺が小首をかしげると、フリッツがとんでもない言葉を口から紡いだ。

「彼の御仁ですが、ここを出た後宿に向かいませんでした。気になった部下に後を付けさせたところ、その向かった先が昨晩トシオ様が仰っていた〈光の福音亭〉でして」
「うわぁ~い……」

 あまりの突拍子のない報告に、思わず頭の悪い呻きを漏らしてしまった。
 アイヴィナーゼ近衛騎士団長様が、バラドリンドのスパイなんて疑惑がここに来て急浮上である。

 それにしても、フリッツこいつには昨日からとんでもない事ばかり聞かされるのなんなんだぜ?
 
 全く、きな臭くなって参りました。



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 ぶつ切りにする箇所が見いだせなかったので、長文のまま掲載しました。
  
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