四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

文字の大きさ
上 下
126 / 254

118話 尽きない悩み

しおりを挟む
 連絡を取り終えたところでレスティー達が現れ、魔導書を開くことなく迷宮攻略へと向かった。

 四十六階層では、ジャイアントという身長6メートル程の禿頭の巨人が現れた。
 筋肉隆々の人間をそのまま巨大化させたそれは、まさしく名前通りの巨人ジャイアントである。

 いつもの様に1体なら前衛に任せ、複数体なら後衛の魔法で焼き払う戦法で行くか。

 なんてルーチンワークを決め込んでいると、猛然と向かってくる巨人の巨体から繰り出された撃ちおろしの拳が、ククのキャッスルウォールを一撃で粉砕した。

 おおうマジか!?

 だが防御スキルを破られたククは平然としており、宙を浮かぶ2枚のサテライトシールドで巨人を強引に押し戻すと、更に分厚い防壁を展開する。
 その防壁の内側から抜けだしたトトが、猛獣の下半身を躍動させる。
 猛スピードで巨人の足元を駆け抜け様、すねにハルバードによる断撃を叩きこむ。 

「〈くらっしゅうぉーる〉!」

 バッサリと足が断ち切られ、堪らず転倒した巨人の顔が床に落ちると、そこには既に待ち構えていたメリティエが拳を振りかぶっていた。

「〈鬼神瀑布〉!」

 トゲ付きナックルが巨人の顔面を捉え、威力が何倍にも強化された打撃が鼻骨を粉砕。
 しかし、巨人もその巨腕で上からのはたき込みを繰り出し抗う。

「タフだな」

 口元を獰猛に歪めたメリティエが一瞬腰を沈め、そこから一気に全身を伸ばしての鬼神瀑布の乗ったアッパーでカウンターを合わせる。
 俺から見ても小さな少女が、大人ですら掴めてしまう巨人の大きな手の平を爆砕させた。
 その隙に巨人の背にのったトトが槍斧を掲げ、クラッシュウォールを全力で発動させて振り下ろす。
 後は巨人が粒子散乱して消えるまで、一方的にタコ殴った。

 むごい。
 
「この階層は歯応えがあって楽しめそうだな」
「なー」

 返り血で全身を赤く染めた和風美幼女とケモっ娘が、楽し気に談笑して戻って来る。
 ククの横に戻った時には、その返り血も粒子散乱してすっかり消えていたが。
 最初の戦闘以降、ククの防御壁が破られることは無く、その戦闘データをフィードバックさせたレスティー班も、危なげなく戦闘をこなす。
 続くザァラッドさん達ベテラン班は、ザアラッドさんをはじめとし、クサンテよりもさらに一回り以上大きなリザードマン男性のワトキンさんや、短槍使いでヒューム男性のチャドさんが前衛を務め、〝防御スキル? なにそれ美味しいの?〟と言わんばかりに、近接戦闘でパワルフに屠殺とさつしていく様は圧巻だった。

 2体の巨人に対し、グレーターソードを握るザァラッドさんが近接長射程スキル〈オーラスラッシュ〉で先制のまとめ斬り。
 怯んだ手前の巨人に素早く接敵したワトキンさんが、バトルアックスを横から降り抜き、クラッシュウォールを内ももへめり込ませる。
 バトルアックスが引き抜かれ、巨人の太ももから大量の鮮血が噴き出した。
 ワトキンさんが巨体とは思えない軽快なバックステップで鮮血を避け、ザアラッドさんと入れ替わりスイッチ
 同じくクラッシュウォールで反対側の太ももを切断する。
 そこへ駆けるチャドさんが、ワトキンさんの尻尾の付け根を踏み肩を蹴って大きくジャンプ。
 上空から槍を振りかぶり、その勢いのまま投げ放つ。

「マクマレート流投技・千枚穿せんまいうがち」

 バスン!

 投擲された槍が巨人の胸部中央に大穴を開け、迷宮の地面に着弾して宙に跳ねた。
 血を吐いて止まった巨人をワトキンさんがショルダータックルで吹き飛ばし、後続の巨人に押し付ける。

「どうりゃぁ!!」

 後続のジャイアントが吹き飛んだ同族を受け止めたところへ、ザアラッドさんの謎のスキルを込めたドロップキックが炸裂し、2体の巨人が諸共に倒れる。
 1体目の巨人が粒子散乱を開始するも、その巨体はまだ残り、下敷きになった巨人が抜け出せずにいる。

「ほい終わりっと」
 
 無精髭の中年が、跳ねた槍を地面に落ちる前にキャッチすると、逆手に握ったショートパルチザンを巨人の目に突き刺し脳まで押し込んだ。
 巨人はしばらくビクビクと体を震わせていたが、やがて動かなくなり、粒子散乱を開始した。

「ざっとこんなもんじゃい!」
「声デケぇよおっさん」
「こいつぁすまんな、がはははは!」

 起き上がったザアラッドさんのバカデカい勝どきに、チャドさんが顔をしかめてぼやく。

「………」
「ワトキン、目だけで〝お前もおっさんだ〟って訴えかけるのはやめろ」

 巨漢のリザードマンが視線を逸らしながら、ふっと鼻がなる。

「おい、いま鼻で笑ったろ!」

 チャドさんが更に食って掛かるも、ワトキンさんは明後日を向いたまま取り合わない。
 それを見てザアラッドさんまた「がはは!」と笑う。

 ……しゅごい。
 あれが近接パワー型のスタンげふんげふん、近接職の戦い方か。

 一つ一つの攻撃は豪快だが、その連携は淀みなく、まるで上質なプロレスを観戦しているかのようだった。
 現在最後尾に付いているトトやメリティエなど、興奮で目をキラキラとさせている。

 勉強になるなぁ。
 てかチャドさんもモーディーンさんと同じくマクマレート流の使い手か。

 身長は170センチにギリ足りていない俺より頭半分ほど背が高いその中年男性は、革鎧に薄い鉄板を張り付けた鎧を着ており、一応全身金属装備だが軽戦士といった出で立ちだ。
 そして鎧の下から覗くよれよれのシャツ、傷んだ靴や無精ひげなど、清潔感などお世辞にもあるとは言えなかった。
 しかもベテランなのに装備が全て鋼や鉄製、普通の金属装備で身を固めている。
 ザアラッドさんやワトキンさんは全身特殊鋼装備なだけに、装備ランクの見劣り具合がすさまじい。 
 それ以前に技量と装備が釣り合っていない気がする。

 一体どういった人なんだ……。
 
 同じ短槍使いである謎の人物チャドさんに興味を持ちつつ、進軍を再開したベテランPTの後を付いて行った。



 それから進軍を続けること2時間程。
 道順には愛されず、俺達がボス部屋に到着したのと四十六階層のMAPが完成したのは同時であった。

「ここのボスって何が出るのかわかる?」
太古の巨人エンシェントジャイアントでしゅかね?」
「巨人族は数も多く、どれがどの上位種に当たるのか全くわかっていません……」

 フィローラが首を傾げながらセシルに尋ねるも、尋ねられたエルフも金色の髪を揺らす。
 他の同行者に目を向けるも、彼ら彼女達も分からない様子だ。
 層階層ボスとして出現したのは、鎧を着こんだアンタイオスという巨人だった。

 ……だれ?
 古代ローマ人みたいな名前だけど、聞いたことないなぁ。
 忘れてるだけかもだけど。
 
 だがやる事は変わらず、これまたいつもの様に皆で囲み、全力でフルボッコにして終了した。
 
 一旦休憩を挟んでの四十七階層、そこにはこれまでで一番厄介な相手が現れてしまった。


 カシャ Lv47
 属性:火。
 耐性:火ダメージ吸収。
 弱点:なし。
 状態異常:なし。


 火車と書いてカシャ。
 葬式の場に現れ死体を奪っていくといわれる日本の妖怪。
 猫の妖怪、化け猫火車。
 体長1メートル位の大きな家猫で、燃え盛る木製の車輪を繋ぐシャフトの部分に、サーカスの曲芸猫さながらに鎮座する。
 カシャは俺達と遭遇すると、敵愾心てきがいしんを露わにしてこちらを睨み牙を剥いた。

 どれ程敵意を向けられていようがこれはだめだ、戦えない。
 だって猫ですよ?
 魔物がとか妖怪だとか敵だとかそんなのは関係ない。
 たとえなんであれ、猫と戦うなんて俺に出来るわけないだろ……。

 殺さなくてもいいのなら、当然殺さない道を模索したい。
 魔法で防壁を張りひとまず四十六階層のボス部屋に退散。
 協議の結果、相手の戦意喪失させて、魔物契約で片っ端から使役魔物に変えていく、無理なら殺すということになった。
 これが想像以上に苦労させられた。
 まずカシャの鎮座する大八車の車輪とシャフトを完膚なきまでに破壊すると、拘束魔法で封じ込み、魔物使役の契約を飛ばした状態でアイスランスを突き付け、戦意が折れるまで睨み続けた。
 そしてやっとの想いで契約できたのだが、その後もずっと敵意剥き出しの状態で後を付いて来た。
 幸いにも、このフロアのボス部屋は直ぐにたどり着けが。
 階層ボスは猫仙びょうせんなる中国テイストな着物を着た直立歩行する太ましい猫だったが、こちらの人数と背後の十数匹のカシャに怖気づき、直ぐに幸福を示してくれた。
 同行者全員にひたすら謝った。
 今回は俺一人でもどうにかなるレベルの強さだったので我侭を通させてもらえたが、その内とんでもなく強力な猫型モンスターが現れた場合〝戦いたくない〟なんて甘えが通るはずが無い。

 残念だがここらで割り切るべきか……。
 いや、折角マナロードになったんだ、どんな敵が来ても屈服させるだけの強さを目指すのもありなのではないだろうか?
 問題はやはり魔法を全て消してしまうスキル〈マナ消失〉だが。
 ジョブにあるってことは、魔物が使ってくることも十分あり得る訳だしなぁ。

 マナ消失に周辺国の不穏な政治情勢、そしてよしのんへの追手と、不安要素は山積みである。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

処理中です...