四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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110話 殺られるま前に殺れ

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「しかし、ずっと同じ風景だと飽きてくるな」

 レスティー達が思いのほか安定したPTプレイを見せてくれた御かげで、周囲を見渡す余裕も出来た。
 だがサーチエネミーが一定範囲に敵の存在を知らせてこない状態では、余裕から要らんことまで考えてしまう。

「そうでふね、でも五十階層より下は階層一つが大きな空間ににゃる――なるみたいでしゅよ」
「地形には起伏があり、岩や木々も生えているそうです……、出てくる魔物も一種類ではなくなるとか……」
「へー」
「生態系が構築されておる故、迷宮と言うよりも広い箱庭と言ったところじゃな」

 知恵袋2人にイルミナさんが自身の知識込みの感想で補足を入れてくれる。

「ちょっと楽しみかも」 
「そう言うてられるのも今の内じゃがな」
「でしょうね」

 不謹慎だと自覚しながらも未知の光景に想いを馳せると、イルミナさんが先をおもんばかりげんなりとした指摘。
 まったくもってその通りなので、それには同意し頷いておく。

「なんでー?」
「どういうことですか?」

 トトとよしのんが疑問の声を上げてきた。

 まぁ簡単な話しだ。

「今まではほぼ一直線の道に一種類の敵を相手に対処すれば済んでいましたが、岩や木々などの複雑な障害物があり、見通しの悪い場所で複数種の魔物からの襲撃を受けるということは、これまで以上に危険が跳ね上がります」

 ユニスが解り易く説明してくれる。

「光属性と闇属性の敵が同時に現れるだけでも大変でしゅもんね」
「魔物が前衛と後衛に別れて攻撃してくることも十分あり得ます」
「サンドワームとデスナイトの集団に開けた場所で襲われたらと思うとゾっとするなぁ」

 フィローラとユニスさんが更に補足を加えると、俺も頷きながら具体的な状況を示唆しさする。
 そして自分の言葉に苦虫を噛み潰したように顔をしかめると、四十階層でサンドワームの襲撃を体験した殆どの者の顔が青ざめ、イルミナさんも顔をしかめ「悪夢じゃな……」と小さくこぼした。
 トトとメリティエはケロッとしているが。

「サンドワーム?」
「よしのんが加入する少し前なんだが、四十階層で体長5メートル以上の陸上に適応したヤツメウナギが通路を埋め尽くす程の大群で襲ってきたんだよ」
「アレにはもう二度と出会いたくありません……」
「勘弁願います……」
「怖かったでしゅ……」
「生きた心地がしませんでした……」
「災難じゃったのぅ……」
「ちー……」

 よしのんの疑問に俺が説明すると、リシアのぼやきから始まりユニスとフィローラとセシルが続いて口々に悲痛な言葉を漏らし、イルミナさんが同情の言葉をかけてくれた。
 最後のミネルバの鳴き声がこれまた悲痛にすぎた。
 リシアがフィローラに寄り添い震える彼女の頭を撫でているので、俺もミネルバの背を撫で、続いてユニスの馬の腰を優しく叩いて慰める。

 あぁ言うのはテレビや映画館のスクリーンの中だけにして欲しい。
 そんな俺達をよそに、説明されているよしのんはというと、なぜか不思議そうな表情を浮かべて口を開いた。

「ヤツメウナギってなんですか?」
ohォゥ、そこからかぁ。円形の口の中にサメの様な歯をびっしりと生やしたウナギに似た魚だ」
「少し気持ち悪いですね」

 と苦笑い程度の顔をしていたよしのんであったが、魚の姿を想像する事に意識が向いて大きさや数が頭から抜け落ちているご様子。

 ならばもっと具体的に言ってやろう。

「今想像したモノを太さ1メートル、体長が俺達が今居る通路の真ん中から5~6メートル離れた側壁まであると脳内で補正してみ? それが数百匹単位で群がってきた」

 槍で真ん中から横の壁までを指し示しながら具体的な大きさを意識させてやると、ようやく実感が持てたのか顔が引きつった。
 そんなものが四方八方から来られては、前回の様に一方を塞いで焼きまくるなんてことが出来なくなる。
 キャッスルウォールを三枚張って三角形を作り、その内側にもるみたいな手段はあるが、それでも攻撃が全方位に分散してしまう。
 だが開けた場所でのサンドワームも脅威なのだが、五十階層の地形で問題なのはそれだけじゃない。

「MAPが広くなるって事は、大型の魔物も自由に動き回られる訳だから厄介だ」
「エキドナの様な巨大な魔物に自由に動かれると危険ですものね」
「うん、それにドラゴンの様な飛行する魔物に襲われるのも怖い」

 リシアに頷きを返し、他の脅威も告げておく。
 エキドナなんてあの狭さだから動きが特定できて罠の設置も容易だったが、襲撃が全方位化されると厄介極まりない。
 そして上空からの襲撃、特に三十階層までの途中で出会ったサンダーバードの様な小型から中型の高速で飛行するモンスターの群れに襲われるのも困る。
 ドラゴンフライの時の様に群れが一つの群体として飛んでくれればまだやり易いが、散兵した集団に魔法で爆撃されると厄介極まりない。

「それに、五十階層ともなると敵の強さがどこまで跳ね上がるのか想像出来ない」

 サンダーバードやデスナイトの最上位種なんてものが出てきたら鬱陶しさ倍増だ。
 ましてや高速飛行能力とデスナイトの耐久力を兼ね備えた魔物が範囲魔法を撃ちまくったらなんて、想像するだけで嫌過ぎる。

 ちなみにサンダーバードの上位種はライトニングホークだったのをボス部屋で確認済み。

 名前の変化が魔法みたいだ。
 更にその上は傾向からしてプラズマイーグルだったりして?
 プラズマブリットを鳥型にして操作するとか……あ、今なんが新魔法の構想が浮かんだ。
 後で〈クラウ・ソラス〉レベルの必殺技を、俺があまり使わない属性で何か考えるとして、今は探索に集中しよう。
 いくらサーチエネミーに敵がかかっていないとはいえ、引っかかった時にも気付かないなんてマヌケっぷりを晒す羽目になる。

「ねぇ」
「ん?」

 思考にのめり込みそうになったため、必殺技開発を強引に打ち切りレスティー班の観察に戻ると、先程からメモを取っていたヴァルナさんが俺に声をかけてきた。
 俺に声をかけて来たにも関わらず、よしのんがビクリと身体を震わせ露骨に彼女から遠ざかると、イルミナさんの影に隠れてしまった。
 恐る恐る顔を出してヴァルナさんを覗き見したので、無言で睨んで叱っておく。

 当然あとで口頭でも叱るけど。

 だが逃げられた当の本人は全く気にした様子もない、というか逃げられた事に気付いていない様子だった。
 歳は25歳、濃緑の波打つ髪が特徴だが、初めて会った時のよしのんと同じで髪型が目を隠していてあまり野暮ったく、パッとしない印象の女性である。
 鑑定眼が彼女の真の姿を映してなければ。

 ヴァルナ
 人 女性 25歳
 メインジョブ:セージLv22
 セカンドジョブ:ハイエンチャンターLv7
 サードジョブ:ビショップLv47
(スキュラ 女性 25歳)

 その真の姿は上半身が人間で、下半身は光沢のあるイルカの様な皮膚に大きな蛸の足を腰から生えていた。
 伝承のスキュラは上半身が人間で下半身が魚、腰に数頭の狂犬が生えている〝海の生き物なのか陸の生き物なのかどっちだよ〟と言いたくなる魔物だが、モンスター娘としては彼女の様な軟体生物の下半身で描かれる事が多い。 

 だからよしのんが彼女から逃げた訳だが、折角よしのんが勇者であると伏せているのにばれたらどうするんだと。

 レスティー班でよしのんが勇者であることを知っているのはレスティーとクサンテ、そしてディオンだけで、それ以外のメンバーには行き倒れになっていた冒険者を拾ったという事にしている。

 よしのんの正体を知った3人も、今のよしのんと同じ表情をしていたな。
 そしてよしのんに頼られてるイルミナさんの嬉しそうな表情ときたら……、てかラミアは大丈夫なんですかねよしのんさん?
 まぁそれはさて置き、何の用だろ?

「これまでどんな敵と戦った事が有るのか聞かせてもらえる?」
「今ですか?」
「彼女の書いた記録は冒険者ギルドで販売され、他の冒険者の助けにもなりますにゃ。出来れば協力して頂けますかにゃ?」
 
 気のない返事を返しながらモーディーンさんに視線を送るも、協力要請までされてしまった。
 軽口を叩いてる程度ならまだレスティー班の方に集中出来ていたが、説明ともなると正確さが求められるので思い出す事に集中しなければいけなくなる。
 そして先程の様に一つの事に集中していると他の事が疎かになるポンコツ脳のため断りたかったのだが、モーディーンさんに頼まれては仕方がない。
 それに冒険者ギルドは相互扶助組織。
 俺の経験が他の人の為になるのなら、引き受ける以外の選択肢はない。

 決して、彼女とお近付きになりたいなんて決っっっして思っていませんよ?
 ましてや下半身の構造とか、あわよくばその中とか見てみたいとかなんて決して全然これっぽっちも全く1ミリも見たいだなんてホントは思ってますごめんなさい。

「クク、よしのん、警戒を頼む。リシアとユニス、ミネルバ~……とイルミナさんも、レスティー班のバックアップをお願い」

 今の俺達は3つの班の真ん中である為、戦闘時以外は気楽に付いて行くだけだが、それも仕事の内なので疎かにする訳にも行かない。
 疎かにしないための最低限の指示を出してから、フィローラの補足を交えつつ、これまでの経験を話し始めた。
 その間、先程から彼女が書いているメモを覗き込むと、デスナイトに関する対処法などが事細かに書かれていた。
 これ程の攻略法の書かれた書物が出回るなら、ちゃんと話さなければいけないな。
 だが話を十二階層でマンドリルみたいなサルに糞を投げられた所までとなり、ボス部屋にたどり着いた。

「ここのボスって何か分かる?」
「イビルデスナイトよ」
邪悪なイビルデスナイト?」
「そう」

 今まで静かだったマルグリットさんが後ろから声をかけてきたので振り返る。

 邪悪な死の騎士。
 デスナイトの時点でも十分邪悪そうではあるが。
 その内イビルデーモンダークデスパラディンロードマジックナイトストライクフリーダムルプスレクスなんて、ユニスのフルネームみたいなのが出てきたりしてな。
 ユニスのフルネームってどんなのだっけ?

 ユニス・フォン・アーマライト・ミ・リアルデ・セルゲイ・マルチアナ・ティテルト・ラ・トバリュト・リトバルスキー
 ケンタウロス 女 17歳

 あぁそんな名前だ。

 全く覚えられないので鑑定眼を発動させて確認すると、長々とした彼女の名が浮かび上がる。

 確かケンタウロスの未婚者は、ティテルト・ラ・トバリュトの間の『ラ』が何か違う文字だったとか。
 それも覚えていないので思い出せないけど。

 奥さんのフルネームくらい覚えろよと思わなくも無いが、意味が分からない単語ほど覚えにくい物は無い。

 セルゲイとかロシアの名前にありそうだし、リトバルスキーなんて明らかにドイツ名だもんな。
 元居た世界で仲のよくない国同士の名前が混じってるのが可笑しく思え、笑わないようにと歯を食いしばって堪えるも、若干口元が強張っているため、リシアからの怪訝な視線を感じるので見抜かれてる節がある。

 そんな頭の悪い事を考えている間も、イビルデスナイトの話しは続いている。

「身体機能はこれまで以上、腕が四本に増えて上下の腕に剣と盾を持つ厄介さよ。油断してると首が飛ぶから気を抜かないでね」
「スキルによる遠距離攻撃もしてきますぞ」

 マルグリットさんに続いて、禿頭のレナルドルさんが自身の拡張された額を摩りながら告げてくる。

デスナイトあれよりもまだ強い上に飛び道具まであるのは厄介だなぁ。ボスが出現する前に魔方陣に攻撃魔法やキャッスルウォールなんかで封じたいんだけど」

 以前思いついた作戦を実行すべく簡単な打ち合わせをしたのだが、俺の案は通らなかった。

「それは無理と言うものですにゃ」
「出来ないのですか?」
「ええ、魔方陣の周りでは攻撃魔法やスキルの類はボスが出現するまで効果が発揮されませんの」

 モーディーンさんの指摘に問い返すとビアンカさんが理由を教えてくれた。
『出現するまで攻撃してはいけません』とか、『変身し終わるまで攻撃してはいけない様式美』に通ずる物がある。
 一体どこの変身ヒーローだよ。

「魔方陣周辺への魔法やスキルが全て吸収されてしまい、魔物が余計に強くなる恐れがあるそうです……」
「精々魔法陣から離れて攻撃の準備をするか、自分達への補助を忘れぬようにするしかありませんぞ」
「楽をさせてはもらえぬようじゃな」

 セシルの言葉にレナルドルさんが助言し、下半身でとぐろを巻いて休んでいるイルミナさんが腕を組んで溜め息を吐く。
 その溜め息があまりにも艶っぽく、組んだ腕が胸を押し上げ強調されたため、ユーベルトとレナルドルさんが見惚れている。

「人の奥さんをそんな目で見るんじゃありません」
「べ、別に、蛇女もデカすぎるのも興味はないから見てなどいない!」
「ははは、これは失敬失敬」

 ユーベルトの一言多い強がりにイルミナさんの表情が険しくなり、生臭坊主が笑ってごまかす。

 人間サイズの今のイルミナさんがデカいって、見る所ってもうそこしかないじゃないか。
 てか体の大きさが人間サイズなら、イルミナさんはラミア形態でも案外モテるんじゃなかろうか?
 俺はどっちも受け入れられるけど。
 
 機嫌を損ねたイルミナさんを気遣い蛇の体に触れて宥めると、にこりと笑って頭を撫でてくれた。
 その笑顔が美しく、青黒く光沢のある蛇皮が実に艶めかしい。

 しかし、折角楽に攻略できると思ったのに残念極まりない話しだ。
 仕方が無いので作戦を一部変更し、補助魔法やスキルを重ねがけしてもらってからボス部屋に入ると、すぐに赤黒い魔方陣が四十五階層へと続く扉の前に浮かび上がった。

「急げ、出現前に型にはめるぞ!」

 俺の掛け声を合図にモーディーンさんの班を中心にして俺の班が右側に移動、左にはレスティー達が展開し、各班が三方向に別れて魔法陣を取り囲む。
 魔方陣から現れたのは体長5メートルの髑髏の騎士だ。
 兜の側頭部から前方に伸びる鋭い角、左右の肩と脇腹に太い腕を生やし、肩の腕には大きく分厚い盾、脇腹の腕にも両方に大剣を握り締められている。
 窪んだ眼窩には赤く禍々しい光を宿し、猛獣の様な犬歯見せる口からは得体の知れない黒いオーラを吐いているため、デスナイトが可愛く見える程の威圧感を醸し出してやがる。

 だが負ける気はしない。

 奴が動き出す前にそれぞれのPTのロイヤルガードがキャッスルウォールを重ねがけで展開すると、更にその上から防御魔法を重ねて盾を強化し押し込んだ。
 巨大な壁が三方向からイビルデスナイトを囲い込み、ピラミッド型の檻を作って押さえ込む。
 デスナイトよりも二回りも大きな髑髏の騎士がキャッスルウォールを跳ね除けようと窮屈な囲いの中で暴れているが、狭い空間の中では思うように勢いのある攻撃も繰り出せず、ただせわしなく身動ぎするだけに終わっている。
 そこへ魔法職の全員がレイボウをこれでもかと情け容赦なく打ち込みまくり、蜂の巣にされたイビルデスナイトはあっけないほど容易く粒子散乱してしまった。 
 跡には一振りのツーハンドソードと二枚の大盾、それに握り拳程のミルトライト鉱石の塊が落ちていた。

 油断はしないし容赦もしない。
 強敵なら尚の事、一気に押し込んで実力を出させないで終わらせる。
 例えデスナイトの上位種といえども、それ以上の化け物であったエキドナのぶちかましにも耐えてみせた防御スキルが奴如きに破れるはずがないのだから。
 情緒もクソも無い戦法であったが、犠牲を出すくらいなら情緒なんてゴブリンにでも食わせてしまえ。

 皆に休憩を提案し、ゴザを敷いて腰を下ろす。 
 本日最初の階層だというのになかなかにハードな出だしである。

「お疲れ様ですトシオ様」
「リシアもお疲れさん」

 傍に来てくれたリシアの髪を撫でながら一息つくと、彼女から差し出された水を受け取り口に運んだ。
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