四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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100話 次元の断頭刃

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 対エキドナ戦だが、当然奴が自由に動くことのできない通路内で戦うのが得策だろう。
 場所はまっすぐ伸びる通路、俺の指示に皆がいつものようにククを前にしたいつもの隊列を組み防御陣を敷く。
 ククが再び10倍掛けのキャッスルウォールを〝/〟状に斜めに展開すると、今まで習得した各種防御スキルに加え、ロイヤルガードの〈オーラシールド〉を自身の盾にまとわりつかせた。

〈オーラシールド〉と同じ防御力強化効果のある〈ディフェンダー〉との違いは、ディフェンダーは1回の発動で一定数しか防御力が上がらないのに対し、オーラシールドは使用者の体力とMPを消費すればするほど効果が上がる。
 ディフェンダーは重ね掛けしなければ効果が上がらず、マルチプルキャストを用いても10倍までしかかけられない。
 オーラシールドは1度の発動で出力を自在に変えられるが制御が難しく、全力で発動させるとただ防御力が馬鹿高い盾を持った状態でガス欠を起こし、戦えなくなる。
 
 効果は高いがなんとも厄介なスキルである。

 そこにリシアの神聖魔法やセシルとフィローラ、イルミナさんの防御魔法が10倍掛けで上乗せされていく。
 俺とよしのんも、対エキドナ戦用の秘策を張り巡らせる。

「よしのんは指示がある迄何もしなくていいから。俺の合図で動きを後追いしてくれるだけで良いから気楽にね」
「は、はい……!」
「トト、メリティエ、絶対にククの防御結界から出るなよ。出たら死ぬから」
「はーい」
「わかってる」
「攻撃は長射程の物理系のみで対処、攻撃魔法の援護は無いからそのつもりで」

「クク、奴の動きは?」
「まもなく上の階のボスの部屋に到着します」

 四十三階層の入り口からここまでの最短ルートでなら500メートルにも満たず、エキドナはその最短ルートを迷いなく向かって来れば、あと1分もせずに会敵する。
 それも奴からすれば、このクソ狭いはずのこの通路を爆走しながら。
 俺達にも聞こえる程の移動音と共に、俺の〈サーチエネミー〉に反応が出る。

 上手くいってくれれば良いが、行かなければアキヤの時と同じでこの迷宮の攻略を諦めなければならない。
 ここでの経験もあるし、他の迷宮でもここと同じ深度までは来れるだろうが。

 逃げる算段をしている間にも、憤怒に顔を歪めたエキドナが、手前70メートル程先の曲がり角に姿を現した。

「シャアアアアアアアアアアアア!」

 俺達の姿を確認したエキドナは、顔中に血管が浮き上がり、目がつり上がり、眉間に深いシワを作り、誰が見ても怒り狂っているとしか表現のしようがない。
 そんな憎悪の籠った巨大な物体が、迷宮の通路を窮屈そうに、それでいて高速で滑って来た。
 すぐさま闇属性魔法のダークネスで防御陣と奴との間の通路を。満たす
 

「「「ひっ……」」」

 歪みに歪んだエキドナの形相にセシルとよしのんが思わず小さな悲鳴を上げ、フィローラも傍に居たリシアにしがみついた。
 妨害や攻撃魔法はPTには効果を及ぼさないため、ダークネス下でも若干通路が暗くなった様な視界となっただけで奴の姿が見えなくなった訳ではない。

 ゴルゴーンを半蛇化してバカでっかくした物体が、通路狭しとこちらが逃げる隙間もないく真正面に現れたのだ、そんなもの誰だってビビるわ。
 俺は二度目の大広間で直接攻撃にさらされた経験があるので耐えれたけど。

「こ、これはまた壮絶な光景ですな……」
「嫁いだ翌日にこんなものと戦わされるとは、嫁ぎ先を間違えたかのう」

 ユニスが自分を鼓舞するように、引きつった顔で冗談をくちにすると、それに続けとイルミナさんも自虐的な笑みを浮かべてのたまった。

 ホントさーせん。

 現れたエキドナは体が壁にぶつかるのもお構いなしで猛烈な突進をしてくると、その巨大質量に物を言わせて体当たりを敢行してきた。
 動き辛い通路で有利に働くと思ったが、むしろそれを逆手にとってこちらの回避行動が封じられた形となっている。
 巨大質量による体当たりは単純だが、単純ゆえに有効で、体格に恵まれた者なら誰しもが使う攻撃手段であろう。

 なかなかいい判断をしやがるな。

 巨体の突撃を俺達が張り巡らせた防御結界で受け止めるも、5メートル程押し込まれるように後退した。
 制御していた俺達にその衝撃圧が加わるも、何とか受け止めてみせた。
 そこにエキドナの右ストレートが打ちおろされるも、ククのキャッスルウォールがその侵入を阻み、近距離から放たれたストーンブラストによる石柱を弾く。

 おお、傾斜装甲けいしゃそうこうが機能してる!

 厚さ10センチの鉄板があるとして、それを垂直にして敵の攻撃を正面から受けた場合、その鉄板は厚さ10センチの装甲厚でしかない。
 だが、この鉄板を45度斜めにして受けることで、装甲厚が物理的に3割ほど増す。
 これを避弾経始ひだんけいし、俗に傾斜装甲という。
 その傾斜装甲を用いているとはいえ、エキドナの攻撃を防ぎきる防御性能は確かにすごい。
 しかし、その攻撃を一番近い場所で真正面から晒されているククが、一切怯むことなくどっしりと構えていることに感心する。
 強敵と戦う度に、彼女の成長には感心させられる。

 本当に頼もしくなってくれたものだ。

 だがこの防御陣も長くは続かないことを知ら閉められた。
 エキドナが防御結界に爪を立て力強く握り絞めると、徐々にだが爪が防御結界を突き破り侵入し始めたのだ。
 こうなると傾斜装甲も意味を成さず、その膂力により、結界と共に俺達も後退を余儀なくされた。
 自身の巨体と怪力をよく理解した、実に的確で合理的な攻めである。

 だが、それが貴様の命取りだ!

「今だよしのん!」
「は、はい!」

 更に押し込まれ、エキドナの体がもともと防御結界があった場所にまで押し込んできたのを見計らい、俺とよしのんが発動していたスキルを解除。
 ただ解除しただけで、巨大な鬼女を何の抵抗も無く5つのパーツに分割した。

「―――――――――――――????」

 エキドナには何が起こったのか分からないと言った表情で、地面に転がる自分の全身パーツを、これまた地面に転がった生首が見ていた。
 
「物理攻撃開始! 頭を狙え!」
「流星弓!」
「くらっしゅうぉーる!」
「鬼神瀑布!」
「シールドバッシュ!」
「ちー……!」

 俺の指示に物理攻撃が一斉に打ち込まれ、頭部を刺突断撃撲殺により、鬼女の頭が潰される。

 俺とよしのんの仕掛けた種明かしはこんな感じだ。

 最初にエキドナの攻撃を受けた時、ワープゲートで指を切り飛ばせた。
 これにより、ワープゲートが攻撃に転用可能であると知った俺は、これを軸に罠を張ることにした。 

 罠と言っても何のことは無い、ククの張ったキャッスルウォールの少し後方に、1センチにも満たない超超短距離に設定したワープゲートを通路いっぱいに広げ、更に2つ目のワープゲートを間隔を開け設置すると、その縁と空間のほんの僅かな違和感を隠すため、視界封じの初級魔法〈ダークネス〉を展開した。 
 エキドナの耐性に〈魔法ダメージ無効〉とあるが魔法無効とは出ていなかったのと、〈状態異常無効〉とあるが以前〈沈黙無効〉でも空間まるごと音声を消された際に声が出せくなった経験から、〝光そのものを消してしまえば目による光学探知ができず状態異常に当たらないかも〟と、ダークネスが有効なのではと推測。
 あとは奴の攻撃に合わせてククにキャッスルウォールを後退してもらえばご覧のあり様という寸法だ。

 ダークネスが効果を発揮したのかどうかは、死んだ神のみぞ知ると言うやつだ。

 もしこれが失敗しても、物理火力の10倍掛けでごり押しする〝隙を生じぬ二段構え〟だったが、ほぼ一段目で終わってしまった。

 物理攻撃でミンチに変えられた巨大な鬼女は、思っていた以上にあっさりと駆逐されると、光の粒子となって迷宮に取り込まれるように消え去った。
 視界の端に吐き出された大量のレベルUPのポップで奴の確実な死亡を知らされると、粒子が消えた後には装備一式と盾と大きな槍が出現した。

 柱槍パルテノン アイギスの盾 戦女神のヘルム・アーマー・ガントレット・グリーヴ
 
 レアだ、しかも8つも!?
 いや、手と靴は2つで1セットだから6つかか。
 槍は……槍と言うより馬上槍ランスっぽい柱だな。

 鎧は鈍く輝く白金に鳥の羽や宝石が散りばめられており、腰の辺りには上品な布に巻かれ、怖いくらいの美しさを宿していた。
 鏡面加工の様なキラキラしたものではないが、その鈍い白金の輝きは、装飾の青い宝石と合わさり実に見事だ。
 
「こ、これもしかしてレア装備ですか!?」
「きれー」
「そうねえ」
「とっても美しいでふ」
「素敵です……」

 よしのんが興奮して俺の肩を揺さぶり、ククがトトのつぶやきに頷き、フィローラとセシルまで目を輝かす。
 鑑定眼で確認をすると、状態異常耐性や魔法耐性ではアダマンタイトを上回っており、後衛に着せてあげたい。

 でもユニスはダメだな、脚が一足分しかないし。
 イルミナさんも人間形態なら兎も角、迷宮ではラミア形態なので靴が余る。 
 こういうのは一式セットで装備させてこそ映えるというものだ。
 槍は置いといて。

「鎧一式と盾はリシアに使ってもらうか」
「私がですか?」
「うん、ククやトトはもう既に最強装備みたいなものだし、装備的にはリシアが使うべきだと思う」
「ではありがたく使わせて頂きますね」

 帰ったらモリーさんにサイズ調整をしてもらおう。

 一旦休憩を挟んで探索を再開する。
 通路に落ちている大量のアイテムを回収しながら、時々出くわす巨大牛を倒し、牛から牛肉も回収する。
 妖獣〈キ〉との遭遇頻度こそ少ないが、落とす肉はことごとくでかい。
 1体の巨牛から通常の牛がまるまる1頭分みたいな量である。
 そしてレアは霜降り肉の塊だった。

 今晩は肉祭りだぜ!

 そんな四十三階層をくまなく回り、エキドナの食べ残しであろうドロップアイテムを全て回収する。
 四十二階層はドロップアイテムが一か所に固まっていたのでまだ楽だったが、四十三階層は階層全体に落ちていたため回収にはかなりの時間を要するも、それに見合った懐具合になると思われる量だった。
 回収中に〝ワープゲートを移動させながら歩けば、勝手に回収できるのでは?〟と掃除機でもかける感覚で回収していったので歩くだけで自動回収できるお手軽さではあったが。
 ワープゲートを納屋ではなく収納袋様にしたところ、またも飽和したのでボーナススキル〈アイテム収納空間〉のレベルを引き上げてなんとか無事収納が完了となった。

 フロア全体にドロップアイテムの絨毯が広がっているのだから笑うしかない。

 残念ながら落ちているものがゴルゴーンと違い、金銀などの通貨に直結する貴金属は無く、牛の角やら菫青石アイオライト、それに属性鉱物が殆どの割合を占めていた。

 宝石や鉱物をこのまま全部纏め売りとか、大暴落しそうなのでさばくにしても何か考えないといけないな。

 四十三階層を全て回ってMAPを完成させ、扉が開け放たれているボス部屋に向かう。
 やはりというか、ここのボスも出てはこなかった。

 あんなグロテスクな鬼女よりも、牛の方が美味しそうですもんね。

 エキドナの身になってそう考えながら、俺は四十三階層の踏破を完了した。


――――――――――――――――――――――

 またも大幅改修してました。
 もう2~3話は少量更新になるかもです。
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