四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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96話 女性型モンスター

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 四十一階層ボス部屋。
 今朝出来なかった様々な実験と検証を行う。
 勇者のスキル〈光刃〉は武器に光属性の付与と攻撃力強化といったもので、防御スキル貫通とかそう言ったたぐいのものではなかった。

 アキヤのエクスカリバー(笑)は俺の知らないスキルっぽいけどなんなんだろうな。
 あいつが使っていたグレーターソードにも、そんな特殊なスキルは付いてないし、結局は分からず終いとなった。

 次にアイシクルスピアを半分の長さにして連射してみたが、ガーディアンの〈ウォールシールド〉で受けたクク曰く――

「弱いと思います」

 とのこと。
 試しにアロー系も打たせてもらうと、

「ブリザードアローよりは強いと思います」

 だそうだ。

 アロー系よりは強いが属性が氷限定の単発射撃魔法にどう価値を見出すか……。
 やはりこれは対非戦闘員or雑魚モンスター用にしかなり得ないので使えないとみなした方が、攻撃の選択しに迷いが生じないという意味で有用だと切り捨てた。
 
「弾速は優秀なんだけどなぁ」

 同じ速度で飛ぶストーンブラストの重ね掛けとかやってみたい。
 弾丸と同等の速度で飛んでくる巨大石柱の質量弾とか、想像しただけでもゾッとする。
 
 次にエンチャンターのマジックウェポンを手放し空中で操作しようと試みたところ、手から離れると消えてしまった。
 無属性射撃魔法の夢破れる。
 魔法戦士にも同じスキルがあるため試してみたが、これもダメだった。

 魔法自体がそういう仕様なのかもしれないが、何だか納得いかないものがある。
 ……けどまぁ無属性攻撃は近接職の特権の様なところもあるし、諦めるか……と思ったら大間違いだ!

 無属性で尚且つ遠隔操作が可能なマジックシールドを出現させ手で掴み、これでもかと勢いをつけて投げてみた。
 そこにアイシクルスピアの弾速をイメージしたところ、アロー系くらいの速度には達した。

 一般人ならともかく、冒険者なら避けられなくもない速度だな。
 しかも魔法自体にダメージが発生しないから、近接職なら余裕で受け止めそう。
 無属性攻撃魔法はひとまず置いといて次々っと。
 
「一ノ瀬さん、まだ行かないのですか?」

 今度は防御魔法の可能性を試そうとしたところ、よしのんが初めてのダンジョンに逸る気持ちを抑えられないと言った様子で尋ねて来た。
 今日はここまでにしておくか。

「そうだね、そろそろ出発しようか」

 皆を呼び昨日のフォーメーションの再確認をすると、四十二階層へと歩みを開始した。
 


 ライシーン第五迷宮四十二階層。
 今は身心共にすこぶる調子が良い。
 そして早速サーチエネミーに反応あり。

「皆さん、その先の角の右から1体来ます」

 ククの注意に皆が注目し、俺の右前方に居るよしのんに緊張が走る。
 そしてククの忠告通り、四十二階層最初の十字路でそのモンスターと遭遇した。


 ゴルゴーンLv42
 属性:なし
 耐性:魔法ダメージ半減。
 弱点:光
 状態異常:なし


 メデューサと言えばわかるだろうか、ある意味お待ちかねの女性型モンスターでもあったゴルゴーンと遭遇したよ!
 やったね皆、家族が――

 右手の通路から出てきたゴルゴーンの顔を目にした瞬間、俺はあまりの衝撃に硬直した。
 その容姿はボロをまとった鬼女といったもので、頭に無数の毒蛇をうねらせ目は白く濁り、病的に青い肌は全身の皮膚の下に透けた血管のせいだと見て取れる。
 青いゼリーの様な謎の涎を垂らした口には吸血鬼のような鋭い牙、背には黒くどろどろに汚れたカラスの翼が生えている。
 そんなのが出来の悪いロボットダンスを踊りながら、緩慢かんまんな動きでのし歩いているのだ。
 サンドワームがモンスター系パニックホラーなら、ゴルゴーンは間違いなくゾンビ系ホラーの類であった。

 そらあんなの見たら石化もするわ。

 外見が気持ち悪すぎて正視に耐えない。
 映画のモンスター系パニックホラーは好きなジャンルだが、見るからに嫌悪レベルの人型の化け物が唐突に現れるタイプのホラーはかなり苦手である。

 軽度の先端恐怖症で高所恐怖症にお化けが怖いとか、苦手なモノ多すぎだろ俺。
 ほかにもGやゲジもダメだし。
 
 以前レンさんにお化け屋敷苦手の話をした時のことだが『お化け屋敷か、俺はどこから演者や仕掛けが出てくるのかがわかってしまうせいで純粋に楽しめんな。だがデートには打って付けだぞ。俺は冷静な上に女はパニックになって抱き付いてくるのが素晴らしい。特にレスリングをしていた元カノのリミッターが外れた力で締め付けて来た時は、心底生きていて良かったと実感させられた』とかのたまいやがったのを思い出す。

 奴はどこまでも筋肉至上主義だな。
 てかレスリング女子のリミッター解除の抱擁とか、一般人からしたらただのベアハッグじゃないか!
 生きててよかったとか、どう考えても逝きかけてるだろ!

 それを聞いていた大福さんは『スマンがワシはそもそもお化けとか怖無いから分かってやれんわ。……せやけど、暗がりから突然ヤ〇ザヤーさん日本刀ぽんとうで切りつけてきたら流石にビビるな』とのこと。

 それは確かに驚くけど違うんだよ! そうじゃないんだよ! てかどんだけ武闘派なんだよ大福さん!!

 さらに共通のネトフレでサイクリストの〈鬼灯ほおずき〉さんが『自転車保険に入ってるとは言え、突然車道に飛び出してくるガキとか怖いよな』とつぶやき。
 チャットツールにINはするも、聞き専で音声チャットに参加しない女性ゲーマーの〈きにゃこ〉さんが『私は大きな猫が寄ってきて、お腹とか撫でさせてもらえた時が一番怖いです』と書き込む。
 きにゃこさんの書き込みに『せ、拙者もふたなり娘が怖いでござる……デュフフ』と、キモオタ全開の影剣《えいけん》さんが乗っかる。
 挙句に〈ぼちぼちぼっち〉さんが『休日前の晩に会社から電話がかかってくるのが怖い』とぼやいた。

 鬼灯さんのは物理的な恐怖って意味では種類が大福さんと同じだが、子供を跳ねて死亡させた場合は刑罰を問わず逮捕され全国放送で名前が出て社会的にも抹殺されかねないので確かに怖い。だがそれも違う!
 きにゃこさんのは〈まんじゅうこわい〉だよね? それ俺も怖いし、最後は〝ここらで一匹子猫が怖い〟とかいっちゃうやつだよね?
 影剣さんはチャット内に女性が居るってことを理解しようね。
 ぼっちさんのブラック&社畜っぷりには全米が涙した。

 ……現実逃避はこれくらいにしてゴルゴーンだ。

 俺が苦手なのは対抗手段のない物体と暗闇から突然飛び出してくる系のホラー物。
 確かに見た目だけなら怖いが、対抗手段があるのとサーチエネミーでどこに居るのかわかるので、そういう意味では怖さが薄れる。

 たぶんレンさんが言っていた〝お化け屋敷は相手がどこから飛び出してくるかがわかるから怖くない〟はこういう事なんだろう。
 ならばまだなんとかなる。
 なんとかなりはするが……この階層は早々に抜けよう。
 見た目の気持ち悪さもあるが、ラミア形態のイルミナさんのような〝モンスター美女〟が出てくると信じ切っていた俺の遣る瀬無さが凄まじくて咽び泣きそうになるから。
 ハーピーやスライムの時みたく、いい意味で裏切ってほしかったぞっ。

「〈石化耐性ストーンレジスト〉、〈毒耐性ポイズンレジスト〉……」
「〈フィールドプロテクション〉、〈対地属性防御アースプロテクション〉」
「〈流星弓〉!」

 セシルとフィローラの耐性強化と防御強化の魔法が展開されると、人馬のユニスが馬の前足を高く上げ、打ち下ろし気味に矢を放つ。
 弓から放たれた煌く無数の光が一度外に膨らみ、突然金縛りにかかったように固まったゴルゴーンに全ての光が殺到し、次々と蛇髪の鬼女に突き刺さり粒子散乱させてしまった。

〈流星弓〉はボウライダーの最上級職であるボウナイトのスキルで、矢をホーミング性能のある無数の光弾として放ち目標に多段ヒットさせる攻撃だ。
 俺のファンタジー知識で言えば、モンスターとは言え女神でもあるゴルゴーンを多重発動もせず消し飛ばしたのだから、結構シャレにならない威力である。
 
「おー、トシオみたい!」
「お姉さまステキです……」
「ユニスさんマジカッケー」
「いえいえ、それ程でもありません……ふふっ」

 トトとミネルバと俺の称賛の声に頭をかいて謙遜するも、やはり褒められると嬉しいようで、照れながらも笑みがこぼれた。 

「次はあてが行くー!」
「私もやるぞ」
「うん、敵が一体だけなら2人で行ってくれ。ユニスと代わり番こね」
「はーい」
「わかった」
「承知しました」
 
 俺の指示にトトとメリティエとユニスの3人がはっきりとした返事をすると、横に居たイルミナさんが優しい顔で自分の娘を見つめていた。
 イルミナさんのジョブはメインをウィザード、サブをラミアクイーンに設定してある。
 そのラミアクイーン、ジョブスキルに状態異常を引き起こす魔眼を各種備え、石化や麻痺などで相手を拘束することができるそうだ。

 魅了に混乱に麻痺に石化、聞いてるとなんだか面白そう。
 ……あ、さっきゴルゴーンが動きを止めたのはこの視線系が原因かな?
 複数状態異常とかまるでモル〇ルだな。
 確かハイセントーラも麻痺の魔眼持ってたし、ハイハーピーの言霊シリーズもあるしで、完全にモ〇ボルPTだ。

 更に探索を続けていると、本日2体目のゴルゴーンが左への通路を挟んだ正面から向かってきた。
 すぐさまトトとメリティエが駆け出したところでゴルゴーンの足元に赤い光を発した魔法陣が浮かび上がり、ストーンアロー10本をトトとメリティエに射出してきた。
 それをトトがアダマンタイトの槍斧ハルバードで粉砕し、メリティエもアダマンタイト製のナックルで易々と弾き受け流す。
 
「〈くらっしゅうぉーる〉!」
「〈鬼神瀑布きしんばくふ〉」

 足を止めることなく突進した2人が間合いに入ると、トトの袈裟切りとメリティエの後ろ回し蹴りがスキル攻撃となって放たれ、頭を断ち腹を吹き飛ばした。
〈クラッシュウォール〉はグラディエーターの単体攻撃スキルで、〈鬼神瀑布〉はグラップラーの単体攻撃スキル。
 攻撃の着弾と同時に破壊エネルギーを打ち込むことで、外部から相手を叩き潰す。
 スキル火力的には鬼神瀑布の方が高いと言われているみたいだが、攻撃力の地力がトトの方が高いようなので、トータルの火力で見ればトントンくらい。
 どちらも相手にとっては致命傷となる攻撃なため、オーバーキルにも程がある。

「トシオー見てたー?」
「やったぞ」
「2人ともよくやった、早くアイテム拾って戻っておいで」

 粒子散乱するゴルゴーンを背にし、こちらに手を振るトトと親指を立ててドヤ顔のメリティエを誉めながら注意を促す。
 まぁこの調子ならこの階層も問題はないな。

 ゴルゴーンのドロップアイテムである牙や黒い羽を回収させると、左の通路に曲がって進軍を再開した。
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