四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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98話 火責め

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 さてと、神話級の魔物が居る部屋をどう抜ければいいものか。

 現在の場所はライシーン第五迷宮四十二階層の右端の最奥部。
 これまでの探索での収穫と言えば、道すがら通路などに生えていたそこそこ大きな魔水晶マナクリスタルが3つと小さいのが14個。
 ところどころに落ちているゴルゴーンのドロップ品だ。
 これはまずまずと言うかかなりの収穫ではあるのだが、相変わらずゴルゴーンの数が妙に少なかったのは、例の大広間に集まっていたからであろう。

 ここで一旦状況を整理しよう。
 四十三階層への道は大広間に眠る巨大で高レベルの化け物の後ろにある。
 化け物は部屋のど真ん中で金銀財宝の山で眠っている。
 その周りには眠る化け物を攻撃し続けるゴルゴーンの群れ。
 ゴルゴーンの行動はおそらく異常個体を敵と見なしての排除行動だろう。
 あれ程の化け物だ、何百体ではきかない程の同族殺しを行っていたに違いない。
 それは奴の寝床となっているドロップアイテムの数からしても明らかだ。
 そして俺たちはそんな化け物の居る部屋を抜けて奥の通路に進みたい。
 
「これからどうなさいます?」
「そうだなぁ、先に進むにはあいつの居る部屋を抜けなきゃだけど、問題はどう抜けるかだ」

 リシアの伺いに先へ進むことを前提として話を進める。
 俺がこの世界でやっていくには、何よりもまず力を付けなければならない。
 それにはダンジョンの敵を倒し経験値とアイテムを手に入れ強くなるのが堅実で確実な手段である。
 だが無理をして強敵と戦う必要もないので、奴をスルーして先に進みたい。
 仮に戦うにしても、奴を始末できる手段を身に着けてから挑むべきである。
 
「まずは俺一人でこっそり抜けようと思う。抜けたらワープゲートを開いて皆を呼ぶから」
「何もお前様が行かずとも良いのではないのかえ?」
「いえ、俺が行きます」
「ま、待ってください……あの、私が行くべき、だと、思います……!」

 イルミナさんが明確に名前こそ言わなかったが、よしのんに行けと言っているようなもので、却下させてもらう。
 するとイルミナさんの言葉の意味を汲み取った当の吉乃さんが、言葉を詰まらせながらも俺に待ったをかけて来た。

「なんで?」
「もし、一ノ瀬さんになにかあった、場合、皆さんが悲しみ、ます。……でも、私が死んでも……、一人で済みますから……」

 緊張と不安、それに恐怖で吉乃さんの口元が戦慄わななき、額に大粒の汗を滲ませ始めた。

 大勢が死ぬより一人が死んだ方が損害は少ないと言う損得的な理由をつけてはいるが、結局のところ〝俺より自分の方が皆には必要無いから、要らない人間である自分が行くべき〟と言うイルミナさんの発言の意図と圧力に負けたという訳か。
 だが多数の圧力で一人に犠牲を強いるような、そんなクソのような関係は断じて仲間とは言わない。
 折角ファンタジーな異世界に来てまで、醜く腐臭のするような人間関係なんて俺はごめんだ。
 
「イルミナさん、俺の事を想ってくれるのは有難いのですが、その手の発言は今後二度としないでください。もし彼女の立場にメリティエが居たら同じことが言えますか? それとよしのんも、俺達は仲間であって主従じゃない。ましてや学校のいじめじゃないんだから、変な空気を感じ取って自分を卑下しなくて良い。嫌なことは嫌って言えば良いし、相手に面と向かって言えないのなら俺に言ってくれ。俺が君の代わりに声をあげるから」

 二人にそう言いつけると、イルミナさんは叱られた童の様に肩を竦め、吉乃さんが啜り泣き始めた。
 泣いている彼女の頭を撫でて慰めてあげると、俺にすがり付き胸の中で嗚咽をこぼす。
 彼女が泣き止むまで赤子をあやす様に背中に手を添えて擦り、穏やかに打ち続ける。

 リシアと初めて出会ったあの日の晩の事を思い出すなぁ。
 時間的にはあまり経っていないはずなのに、懐かしさに小さな笑みを浮かべてリシアに目を向けると、同じように微笑んでいるリシアと目が合った。
 
「その、すまなんだ……」

 よしのんが泣き止んだため身を離すと、先程から申し訳なさそうにしていたイルミナさんが直ぐさまよしのんに詫びながら、優しく包み込むような抱きしめた。
 
「ほんにすまなんだ、この通りじゃ……」
「もう……大丈……夫です……か……」

 イルミナさんがその大きな胸に彼女を埋めると、下半身の蛇の部分で自身とよしのんを巻き込んで体を覆っていく。

 ……これは……実に羨ましい……じゃない!?

「イルミナさんストップストップ! それよしのんが息できてない!」
「はっ!? 自身の不甲斐無さに我を見失うてしもうた!?」
「…っはーっはーっはーっ!?」
 
 イルミナさんの巨大すぎる胸から顔を出したよしのんが、夢中になって空気を貪り、窒息の苦しみから再び瞳に涙を浮かべている。
 そんな彼女に只々平謝りする絶世の美女。

 なんだろなぁこの残念美少女と天然美女は。
 二人には申し訳ないがちょっと面白かったのでにやけていると、俺の隣に来ていたリシアが小さく咳払い。
 ニヤケ笑いを浮かべるところではないと言いたいのだろうが、天然すぎる超絶美女とか完全にお笑いポイントじゃないですか。

 だがここで反論しても呆れられてしまいそうなので、先程のよしのん以上に丹念に頭を撫でさせて頂いた。
 
 完全に尻に敷かれてる気がするが気のせいだ。

「さっきの続きだけど、よしのんを行かせない理由は別に〝女の子だから〟なんてフェミな事じゃないってのも言っておくね」
「は、はい」

 泣いたせいで目が赤くなっているよしのんへと、言い聞かせるように目を見て話す。
 彼女を守ってやりたいとは思うが、〝女だから〟って守ると思われても困るので、そこははっきりさせておかなければならない。
 適材適所、任せられるところは任せるつもりだし、任せられないところは出来る人にやってもらうしかない。
 そして今回のこれは他の誰でもなく、俺がすべきことなのだ。

「んで理由って言うかこれは実演した方が早いか、丁度いい具合にまっすぐ伸びた通路だし」

 迷宮の通路に目を向けると、直進して大体40メートル先で右に折れている。

「メリティエ、よしのん、あそこの角の壁まで競争してみて」
「はい…?」
「あてもやりたい!」
「良いよ、トトも一緒に走ってきなさい」

 不思議そうな顔をして俺達の前に出るよしのんに、競争と聞いてやる気満々のトトが名乗りを上げ、メリティエが気合十分とばかりに親指を立てる。

「メリー、負けないよー!」
「受けて立つ」

 我がPTの前衛アタッカーのツートップが鼻息を荒げて位置につくと、3人に見える位置に立ち片手を上げた。

 二人とも張り合うの好きな……。 
 
「よーい、ドン!」

 俺の腕が勢いよく振り下ろされると、トトとメリティエが同時にスタートダッシュ、出遅れたよしのんが慌てて追いかけるも、彼女が15メートルも進まない内に先行した二人は既にゴール。
 勝ったのはトト。

 四足獣の下半身を持つトトにメリティエは良く付いて行けたな、ドワーフっ娘の姿なのに。

 陸上に居るカバですら時速35キロ前後で走るのだ、普通に考えれば陸上生活に特化してるトトが短距離でそれより遅いはずが無い。
 そしてよしのんだが、その後急激な速度UPをするも、精々オリンピック選手並みの速度しか出ていなかった。
 その程度ではクレアル湖の湖畔に居たあのファットなワニの攻撃すら避けられない。

「んじゃ今から俺がそっちに行くから見ててねー! あと危ないから端に寄っててー!」

 俺の最大瞬間速度をここで試しても良いのだが、さすがに距離が足りなさそうなので威力を落とそう。

 右半身を前に出し腰を落として右足に全体重を乗せ、左足をつま先立ちにして身構える。

 何の威力を落とすかって?
 それは左足の裏に出すフレアボールの威力だ。

「よっ…!」

 左足のつま先に一瞬だけ全体重を移して右足を前に押し出すと同時にフレアボールを左足の裏で爆破。
 爆発の威力をアダマンタイトのグリーヴで踏みしめ前へと飛び出すと、一度の跳躍で右足でゴール手前の地面に着陸し、数歩走ってから左足でゴールである壁を蹴りつけ強引な停止に成功した。
 本当は壁に両足で着地するつもりだったのだが、まだこの移動法の感覚を掴みきれていないのと、勢いあまって着地をミスり壁に激突する事を恐れ、フレアボールの威力を落とし過ぎたのが原因だ。

 早い話がビビって日和った結果、とんだチキンっぷりを披露したと言うわけだ。

「……こんなものか」
「トシオかっこいー!」
「昨日よりも速くなったか? トシオもやるな」
「一ノ瀬さんすごすぎですよ!?」

 失敗をクールぶってごまかそうとした俺に、三人から称賛の声が送られた。

 なんだろ、異世界に来て初めて面と向かって間近から〝さすがですご主人様〟された気がする!
 アニメで〝流石です〇〇〟ってセリフを聞く度にバッカじゃねぇのと否定していたが、いざ自分がその立場に立たされると――こっ恥ずかしすぎて死にたくなる。
 しかもビビった結果のこれなので余計に恥ずか死ぬ。

 それに、やろうと思えばファイヤーボールと特殊鉱製のグリーヴが有ってコツさえ掴めば、この世界の人なら誰でもできる事だ。
 褒められても羞恥プレイ以外の何者でもない。

「今見せた通り、このPTの中なら俺が一番瞬発力がある。なので、何かあった時でも逃げられる公算も高い。だから今回は俺が行く。それと、今のはよしのんにも出来ることだから、今度覚えてもらうからね」
「が、頑張ります……!」

 3人を連れて皆の元へ戻ると、よしのんに今すぐにでも出来る敏捷70以上の世界を引き出すやり方を教えておいた。
 ボクシングのウェービングと呼ばれる下半身で重心移動をしつつ上半身を前後上下左右に揺らし続ける防御テクニックを高速で大げさにしたような動きを披露する。
 この手の技術は口だけでなく実演もした方が分かり易いので見せていると、メリティエが真似をし始め、これがもともと防御テクニックだとすぐに気付くと、トトに攻撃してもらいひたすら躱す練習に打ち込み始める。
 すると、攻撃が当たらないことでトトがムキになり、攻撃の鋭さと本気具合が増してきたので怪我をする前に止めさせておいた。

「それじゃ、行動を開始する」

 そう言ってワープゲートを開こうと思ったところで手が止まった。
 どこにゲートを開こうか?
 様子を見るため部屋の手前か?
 でも一度中を見ているので、左右どちらかの端っこに出してエキドナの裏側を覗き込めば奥への通路が見えるんじゃないのか? 
 そこから奥の通路に直接ゲートを開けば、部屋に入るまでもなく抜けられるじゃなかろうか。
 なんだ、それで良いんだ、簡単じゃないか。
 心配して損した。

 くだんの大広間の中、入り口から見て左の端にワープゲートを開いて中を覗き込むと、驚きで心臓をワシ掴みにされる羽目となる。
 目が合ってしまったのだ、目を覚ましていたエキドナと。
 
「に”ゃ!?」

 驚きで目を見開いた俺に、エキドナの白く濁った眼を向け口裂け女も真っ青なほど大きく裂けた口が邪悪な笑みで型取る。
 素早く起き上がるなり、こちらに向けて鋭い爪の生えた指をまっすぐ伸ばして突き入れてきた!

「おおう!?」

 慌てて後退しワープゲートを閉じるが、ねじ込まれたエキドナの指が切断されたにも関わらず、まっすぐ俺の方に飛んできた。
 咄嗟にフレアボールを生み出し爆発反応装甲で防ぐも、指に触れた途端魔法が粒子分解。
 勢いを殺せずあわやという所で横から挿し込まれたククの大盾が弾き飛く。

「……ありがとうクク、お蔭で助かったよ」
「ご主人様にお怪我が無くて良かったです」

 ククにそう言って頭をなでると、優しい光を宿した瞳と共に、安堵の吐息を漏らした。
 そんな神々しさを纏ったククの顔に、今朝の痴態を思い出してしまった不埒さで慌てて目をそらす。
 そして落ちているエキドナの指に目を向けた。
 指は激しくのた打ち回り、一向に動きを止める気配はない。
 指だけなのにすごい生命力である。
 タコも切り離された足の吸盤がしばらく動くと言うしな。
 念のためトトに指の始末を命じておくと、ハルバードで滅多打ちにするもなかなか粒子散乱せず、スキル攻撃でようやく潰れた。

 アダマンタイトの斧でこれとかめちゃくちゃ固いな。
 しかし、奴が起きてしまっているのなら仕方がない。
 殺せるかどうかはわからないが、試せることは試してみよう。
 最低でもゴルゴーンの経験値くらいはもらっておきたいし。
 
 ワープゲートオープン。
 今度は胸元辺りに数センチ程の穴を水平に開くと、注意しつつ上から覗き込む。
 ゲートの出現先は先程の大広間の天井ど真ん中。 
 下の様子を見ると、先程俺を襲った部屋の隅に居座っているエキドナが、群がるゴルゴーンを掴んで頭から丸のみにし咀嚼している場面を目撃した。

 いくら化け物でも人型の物体が食われるシーンは見たくなかった……。
 この部屋の広さでは手持ちの小麦粉の量での粉塵爆発なんて不可能だが、それでも室内の酸素を消し飛ばす僅かな足しにはなるか?

 迷ってる間にもゴルゴーンがまた一匹食われた。
 早くしないと経験値の取り分が減ってしまう。
 ワープゲートを地面の高さに移動させ、口を大きく開く。

「よしのんも同じようにワープゲートを開いてくれ」
「は、はい!」

 収納袋様から10キロ入りの小麦粉12袋取り出す。

「ミネルバ、フィローラ、エアロツイスターを穴から下に打ち込んでくれ」
「はい!」
「ちー……」

 風の刃を内包した竜巻が打ち込まれるのを確認すると、トト達に命じ小麦粉袋を次々と二つの穴に落としていく。
 エアロツイスターで小麦粉をぶちまけてからフレアストームで広場の出入口を塞ぎ、ナパームフレアをエキドナとそれに群がるゴルゴーンに撃ち込みまくってからゲートの入り口を親指程の大きさに絞る。

 狂ったように左端のシステムメッセージがレベルUPをポップし、それが止まったことでゴルゴーン達の殲滅の完了を知る。
 さて、問題のエキドナはと言うと、ファイヤーストームが消え去った部屋から俺たちが奴を発見した最初の場所にして出口となる通路へと大きな体を無理やり押し込み出ていくところだった。

 ちっ、やはり死ななかったか。

 だが入り口の方へ逃げてくれたので、戻ってこない限りは奴とやり合わずに済みそうだ。
 そしてレベルが上がりまくったのはイルミナさんとよしのんだ。
 イルミナさんのラミアクイーンとよしのんに付けている上位職のジョブがカンストしているので、この部屋にどれだけのゴルゴーンが集まっていたかが知れるというものだ。
 後でそれぞれの最上級職に変えておこう。

「エキドナは倒し損ねたけど何とかなったみたい。ミネルバ、ここから風の魔法で換気してくれ。リシアも空気作成魔法クリエイトエアを頼む」

 皆にそう告げ二人にお仕事を与えると、ワープゲートを大広間の入り口付近に再度出現させた。
 リシアとミネルバが風の上位エレメンタルであるジンを呼び出し、一気に風を巻き起こす。
 空気が循環するまで部屋の中央に目を向けると、エキドナの寝床には大量のアイテムが積み上げられているので鑑定眼を発動。

 ゴルゴーンの牙 ミスリル鉱 ヘタイト鉱 金 銀 黒曜石 ゴルゴーンカード 

 今まで見たことが無い程のお宝の山が視界いっぱいに広がっていた。
 間近で見ると、その量の多さと積まれた高さはちょっとした丘である。

 うんうん、迷宮探索、冒険者はこうでないとな!
 おそらく一生遊んで暮らせるだけの金額だ。
 一攫千金を狙う冒険者なら、テンションが上がらない方がどうかしている!

 事実この場に居る全員の眼に〝\〟マークが浮かんでいるのが見て取れる。
 こっち世界の人だから、通貨単位的にCカパーが正しいか。

 あ、全員は言い過ぎたな、ククとトト、それにメリティエも言うほど興味無さそうなので。

「もう入って大丈夫ですよ」

 リシアの許可が出たのでみんなで大広間に入る。

「クク、入り口をキャッスルウォールの重ね掛けで塞いでおいて」
「畏まりました」
「他のみんなはアイテム回収。戻って来る前に済ませてしまおう」

 ククに入り口をスキルで塞ぐように頼み、皆にアイテム回収の指示を出す。

 しっかしこの量はゴルゴーン何体分なんだ?

 もしかしたら卵とかあったりしてと思ったが、見た限りでは一つも無い。

 元々ドロップしないのか、あるいはエキドナが食ったかだな。
 目玉と羽は無いけど牙はあるのは、一体どういう基準何だか。
 異常個体のゴルゴーンが何十年だか何百年だかの歳月を重ねひたすら共食いをし、食べられそうなドロップアイテムも食らったか、消えるドロップ品も存在するとかかな?
 いや、そもそも丸のみにされているのだから、奴の腹で消化された可能性も微レ存だ。
 それを踏まえても、この量は凄まじいな。

 ファンタジー物によくある『ドラゴンの巣には大量の金銀財宝が』ってのはこんな感じに生まれるのではと一瞬頭に浮かんだが、この世界の迷宮システムが原因なのでそんなことは無いか。
 
 だがこれだけのドロップアイテムがあれば、皆と山分けしたって全員分の白金の指輪を買ってもおつりがくる!

 袋に入れるのが面倒になり、ワープゲートを地面に展開し出口を納屋の天井に設定すると、次々とアイテムを蹴り落としていく。
 それを見ていたよしのんもワープゲートを同じように開くと、オリハルコンの盾をシャベルの様に使ってすくい穴に入れた。
 袋に詰めるよりそちらの方が早いので、皆も一緒になってアイテムを落とす作業を開始した。

「これだけあったらプリン何個食べられるかなー?」
「ふふっ、財宝の山を前にプリンとは、トト殿の欲は愛らしいですな」
「でもプリンすごく美味しいよー?」
「トトは子供だな」

 微笑むユニスの前でトトが昨日食べたプリンに想いを馳せると、メリティエが何故か勝ち誇った顔でトトを挑発する。

「子供じゃないもん」
「子供だ」
「子供じゃないもん、おっぱいだってメリーより大きいもん」
「ぬっ、確かに今は小さいが、いずれ母と同じくらい大きくなる」
「あてだっておねーちゃんみたいに大きくなるもん。6つとも!」
「二人とも、喧嘩はらめれしゅよ」

 トトとメリティエが胸の大きさや数で張り合い始め、作業が止まっていたためフィローラが仲裁に入る。
 幼女と愛獣の口喧嘩は確かに微笑ましいが、今はそんなことをしている場合では無い。

 ナイスだフィローラ。

「嘘んこのおっぱいが来た」
「疑乳」
「はう!?」

 フィローラの通常形態は美乳の幼女。
 ジャンルとしてはロリ巨乳と言っても差し支えのないほどには大きい。
 しかし、その本性はトトと同じくらいの胸の大きさをした複乳獣人っ娘。
 つまり、スキルで化けている状態でのバストサイズUPなため、こんな言われ方をしているのだろう。

 ドンマイ。
 
「ほらほら、遊んでないで今は真面目にやってくれ、いつエキドナが戻ってくるかわからないんだから」
「はーい」
「了解」
「フィローラは仲裁ありがとね」
 
 善意で動いたにも拘らず嫌な想いをしただけでは可哀そすぎる。

 傷ついた面持ちのフィローラの頭を撫で、頬にキスしてさしあげた。
 照れながらこちらに笑みを浮かべてくれたので、上書きは成功したようだ。
 それを見ていたよしのんがまた身悶えするも、迂闊にもワープゲートに片足を突っ込み納屋の中に落ちた。
 下はある程度財宝が積まれていたおかげで大事には至らなかったが。

 もうほんとなにやってるんだか……。

「……メリーはお金が有ったら何買うの?」
「ん~……」

 トトが前足を動かしながら再び口を開くとメリティエがしばらく考えこみ、名案が浮かんだとばかりに手の平を打った。

「クマのぬいぐるみ」

 この子も十分子供だった。
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