四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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88話 大空の覇者

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 さてと、俺もプリン買いに行こっと。
 以前リベクさんへの挨拶の品としてカステラを買いに行った店だ。

 場所は覚えているので迷子になることはないであろう……たぶん。
 てかワープゲートで店の近くの裏道にでも出れば済む話か。
 だが試したいことがあるので、できれば〝徒歩〟で向かいたい。

「ちょっと出かけてくる。リシア、アダマンタイトのグリーヴ貸して。モリーさん、サイズ調整してもらえます?」
「はい。……靴だけでよろしいのですか?」
「うん、ちょっと実験したいことがあるだけだから。ミネルバ、一緒に来てくれる?」
「ちー…」

 リシアからブーツを借り受け土間でモリーさんに調整してもらっていると、すぐそばまで来た幼鳥形態のミネルバが、アイスアローを天井付近に出現させ直ぐに粉砕し、粉雪のように散らして部屋の温度を下げた。

 最近俺がやらなくても部屋を冷却されてたのって、ミーちゃんの仕業だったのか。
 気の利く良い娘である。

「えらいえらい」

 ミネルバをほめながら頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに撫でられるままとなる。
 幼鳥形態だと頭の大きさがルーナルアと同じくらいで撫でやすく、仕草も猫の様で非常に愛らしい。
 とりあえず彼女を連れて庭に出る。

「今日は何をするのですか……?」
「今日は買い物に行くついでに空中歩行の実験を行います」
「空を歩かれますか……!?」

 ミネルバの問に答えると、興味半分驚き半分といった響きの声と表情をこちらに向けてくる。
 今日最初に出会ったオルトロスの挙動と勇者戦でやってのけた跳躍&三角飛び、それと攻撃魔法も意志を込めれば装備にダメージを与えられるという現象、それに加えて〈紫電一閃〉を放った際の爆発移動から生まれた着想だ。
〝あれ程の機動力と跳躍力があれば、町中を走った場合そう易々と俺であると特定されないのでは?〟とチャットしながら思い、脳内で走るイメージをしてみたところ、交差点で馬車などにぶつからないためにも飛び跳ねて避けるなら跳躍力は必要だ。
 しかし、万が一空中でバランスを崩した場合、着地に俺の足が耐えられるか不安でしかない。
 そこで着地前に足場として、攻撃の意志を込めた魔法を使ってみようと言うものだった。

 上手く行けばいいんだけど、正直高所恐怖症の俺としては……いや、今は考えない様にしよう。
 実験する気が失せてしまう。

「うん、なのでミネルバにはもしもの場合、俺を空中で掴むとかのサポートを頼みたい」
「わかりましたお父様……!」

 まぶたで半分近く塞がれた眠た気な瞳に鋭い輝きを宿し、美しい群青色の翼で敬礼を返すミネルバ。

 期待してるよ、ホント頼んだからね?

 下手したら大怪我に繋がりかねない実験なので、安全面を考慮し色々と段階を踏んでいこう。
 まずはジャンプと着地だ。
 こればかりは納屋でやる訳にもいかないので、ワープゲートでクレアル湖へ移動する。

 相変わらず戦いの爪痕が残るその場所で体をぴょんぴょんさせながら垂直に飛び跳ね、その高度を徐々に上げていく。

 2メートル、3メートル、4メートル、5メートル、6メートル……。

 怖っ!?
 人間が飛び跳ねて良い高さじゃない!

 だが着地の方は問題なく出来ている。
 着地がちゃんとできる高さならと、連続してやっていると恐怖心もすぐに収まり、逆に楽しくなってくる。
 俺の高所恐怖症は〝落ちたら死ぬか大怪我する高さ〟が基準なので、喉元過ぎれば的な感覚だ。

 じゃぁ次は足場だな。

 ウィザードスキルの〈属性強化〉をカット。
 さらにボーナススキルの〈魔力ボーナス追加〉をカットし、ステータスの魔力をすべて体力に切り替える。
 これで俺の魔力はマジックキャスター系のスキル〈魔力増加(小)〉〈魔力増加(中)〉〈魔力増加(大)〉だけで60だ。

 また怪我しなきゃいいけどなぁ。

 左足に大けがをしてまだ一時間程しか経っていないのだ、とにかく慎重に、最初はファイヤーボールLv1から試してみよう。

 まぁ足元に出すだけなのでアダマンタイト製のブーツで何とかなるだろ……あ、一応革製の鎧と兜、それと手甲も着ておこう。
 ……やっぱりまだ不安なので、魔力増加(大)もカットしよう。
 では行きます。

 2メートル程飛び跳ねた足元にファイヤーボールを発動。 
 着地すると同時に火球が爆発、確かな反発力と共に炎が俺を包み、ズボンに引火した。

 ぎゃー!?
 熱っ熱っ!?
 ズボンが燃えてるよ!?
 そらそうだ、ズボンも装備みたいなもんなんだから!?

 慌ててクリエイトウォーターを発動させ、燃えた衣類を鎮火する。
 魔法ダメージは入らなかったが、燃えたズボンの影響で軽い火傷を負ってしまった。
 ズボンを着替えに土間から母屋に入ると、燃えたズボンと脚の火傷を見たリシアが、心配顔ですぐに回復魔法をかけてくれた。
 治療が終わるなり、両側の頬を摘まみ引っ張られた。

「トシオ様、先程怪我されたばかりですよね? 何をされているのですか? 私を心配させてそんなに楽しいですか? いくら私でも、我慢の限度というものがあるのですよ? わかってますか?」
「ひゃい、ごめんなひゃい……」

 まるで小さな子供をしかりつける母親のようだ。
 年下の女性に母性を感じる。
 こ、これが、バブみ……。

 先程のイルミナさんとの情事があっただけに、思わずオギャりそうになる。

 バブみでオギャるならローザにもオギャりたい。
 ……何言ってんだ俺は?
 なんにしろ今日はリシアに怒られてばかりだなぁ。
 では実験の続きと行こうか(ォィ)

 再びクレアル湖に移動する。


「まだされるのですか……?」 
「うん、改善すればいけそうだしね」

 まずクリエイトウォーターでズボンを濡らす。
 とりあえず服への引火だけは避けたい。
 次にファイヤーボールを圧縮し、握りこぶし位の大きさに圧縮するイメージで目の前の地面に発動。
 普段の直径1メートルはある火球が、本当に握りこぶしと同じ大きさで出現した。

 ……魔法エネルギーを圧縮してるんだから、これは普通に爆発させるよりヤバくないか?

 少し怖いので上空に移動させて破裂させたところ、先程のに比べて小規模だが大きな爆発音を響かせた。

 やっぱり圧縮爆発の方が攻撃力が増すかも?
 でも今の感じだと足への負担は少なそうだし、あのサイズなら足元ではなく足の裏に出せば服に引火することは無さそうか。

 2メートルほど飛び跳ねたところで右足の裏に火の玉を発動。
 踏み割るのではなく、爆発する方向を下へ向かう様にイメージして弾けさせると、これまた確かな感触が伝わり俺の足の裏を押し上げた。

 いけるな…。 
 いける…。 

 そのまま石畳に飛び移っていくイメージで走り出し、それと同時にファイヤーボールを足の裏に展開、30センチ程の高さを面白いように飛び跳ね続けた。

 おおすげぇ!
 超楽すぃ~!
 低空だけど。 
 けど、空中で踏みしめている感触は確かにある。
 これを〈魔力ガン積み+属性強化〉の状態で使えるなら実用的なのだが……。

 先程の失敗で攻撃対象を装備に限定すれば人体にダメージを受けないのは確認出来たが、アイテムを通して脚に受ける衝撃は計り知れないため、当分はやめておこう。
 それと、アダマンタイトのグリーブが攻撃魔法に耐えられるのかも心配だなぁ。

 そこで、先程手に入れたばかりのオリハルコンの鎧を収納袋様から取り出した。

 たしかこの辺りを斬り付けたんだよな……。

 白を基調とした金縁の豪華な鎧の魔法で切りつけたはずの場所を確認するも、どこにもそれらしき箇所が見当たらない。
 オリハルコン、この世界で神鉄と称される素材を用いた鎧。
 ライトニングランス十発分の斬撃を受けても損傷どころか焦げ跡すら存在していないのは流石である。

 もう二つの神鉄〈アダマンタイト〉と〈ヒヒイロカネ〉、それぞれの金属の性質ってどう違うんだろ?
 これも後でフィローラ達に聞いておかないとだな。
 アダマンタイトの装備もオリハルコンくらいの強度が有るなら実用にも十分耐えられるはずだ。 
 あとでステータスを戻すついでにアダマンタイトの槍を〈紫電一閃〉で切りつけてみよう。

 それからも少し練習し、ほぼほぼ完璧にコツをつかみ、自宅に戻って来た。

「ひとまずは実験終了。ミネルバ、行こうか」
「はい、お父様……!」

 愛鳥を伴い馬車2台がすれ違える程度に広い自宅前の道に出ると、敏捷99+99の機動力で駆けだした。
 一瞬で視界が後方へ流れ、軽く飛び跳ねただけで一回の歩幅が10メートルを優に超える。
 100メートルなんて5秒も掛からない速度で地面を走る。 

 では行ってみようか!

 交差する道に差し掛かり、力を込めて踏みしめ大きく跳躍。
 民家の屋根を飛び越え易々と眼下に置き去りにしてやる。
 遠くには堀に囲まれた大きな城があり、近郊の大きな川から水を引くための小さな川が街の中を流れている。
 街を覆う城壁の内側にももう一重の高い城壁が見える。
 街を覆う城壁の外側にも家屋があり、緑色の田畑が広がっている。
 怖い、けどそれ以上に眼下に広がる壮大な景色が楽しい!
 こんなに爽快感があるならもっと早く試していれば良かったと改めて思う。
 これくらいのことはできると湖の戦いで確信はしていたが、高所恐怖症が邪魔をして出来る事から目を背けてもいた。
 今日の戦いでやって見せた立体機動回避で、8メートル以上の高さから飛び降りても無事に出来たため、その辺の物が吹っ切れたのかもしれない。

 さらにブースターオン!

 アダマンタイトのグリーヴの裏にファイヤーボールを生み出し即席の足場を踏みしめ空を蹴る。

 あははははは! ついに俺は空をも手中に収めたのだ!
 刮目するが良い地虫共!
 大空の覇者が誰かを今教えて――ミネルバ、本気走りの俺をあっさりと追い抜いていくのやめてー!

 完全にやる気モードのミネルバが、その美しい羽根で大気を打ちさらに加速をつけると、明後日の方へと飛んで行ってしまった。

 ホント調子こいてすんませんでした大空の覇者さま、だから戻って来てくださいお願いします!
 こんなところでバランス崩したら間違いなく死ねるから!

 生まれたばかりの大空の覇者は、真夏の日差しに照り付けられ、産声を上げる間もなく死滅し代替わり。
 残ったのは調子に乗っただけの虐めな敗北者であった。

 え、いや全然悔しくなんてないよ?
 猛禽相手に飛行速度で勝てるだなんてぜんっぜん思ってなかったしー。
 むしろ勝てると思う方がどうかしてるしー。

 だからお願い、戻ってきてミネルバ!

 ミネルバアアアアアアアアアアアア!!!
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