四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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79話 到達者

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「皆お疲れ様。ミネルバのお陰で助かったよ」
「ちー……」

 今回一番の功労者であろうミネルバの赤い髪を丹念に撫でてあげると、嬉しそうに小さく口元を綻ばせる。
 彼女のライトニングアローで柵を出現させるまで、俺は馬鹿正直に全ての犬の相手をするつもりでいた。
 そこに雷の矢を効果的に使いボスを孤立させ、その場に居るだけの死兵を作ってみせたミネルバの機転に便乗する形で戦術的優位を構築出来たのだ。

 この子は本当にスペシャルすぎる。
 魔法の扱いが俺に似ている上に、広い視野で状況に対処する知恵がある。
 ……俺いらなくね?
 悲しくなるから考えるのを止めよ……。
 
「よくあんなのを思いついたね」
「以前お父様がワニのワープゲートを封鎖したのを真似ました……」

 ズワローグが逃亡しそうになった時にやったアレか。
 生後0日の事をよく覚えているもんだな。

 額にくちづけをしてからドロップアイテムの回収作業に向かう。
 落ちているのは魔獣の爪や牙、そして毛皮に……ケルベロスカード。

 何か変なレア来た!?


 ケルベロスカード
 火無効。

 ……強くね?

 今はエンチャンターの防御魔法とククの防壁が機能しているため困っていないが、今後役に立つかもしれない。
 だがモリーさんがこの場に居ないので、今すぐ防具に付与することはできない。
 どうすることもできないため、収納して別の事に目を向ける。

 そう言えばやたらとレベルUPしてたけど、どんな具合かな?

 アイテムを拾いながらPTウィンドウを確認すると、全員のジョブLvがカンストに達していた。

 マジか、マジだ!? 
 しかも俺のベースも5レベルも上がってLv97になってるじゃあないか。
 Lv80を超えたあたりからなかなか上がらなかったが、カンスト目前か……。
 あ、でもズワローグとか100レベルオーバーだったし、100以上になるのかな?
 なんにしろオルトロスおいしいれふウェヒヒ。

 よく考えたら、あれ程の大型魔獣を山盛りしとめて更に〈獲得経験値増加Lv10〉の恩恵込み、普通の冒険者の数ヶ月分、あるいは数年分の経験値を一気に入手したようなものだ。
 こういうところでも勇者の規格外さを改めて思い知らされる。

 シンくんの所の国が勇者のパワーレベリングと言ってたアレ、実は自国の精鋭を更に強化する事が目的じゃないのか?
 精鋭とか言ってるが案外貴族の低レベルお坊ちゃんも混じってたりするかもしれないけど。
 特にに勇者PTに編成された連中やその隣りに居る連中は怪しいところだ。

 アイテム回収後は休憩と称して皆を休ませ、その間にジョブの設定をしなおした。
 まず自分のジョブをウィザードの最上級職であるセージに、エンチャンターをハイエンチャンターにそれぞれセットする。
 続いてリシア達のジョブも再設定。
 リシアのジョブをビショップの最上級職アークビショップへ、サブだったシャーマンをハイシャーマンへと変更した。

「アークビショップともなると、四肢の欠損も完全修復できると聞きましゅね」
「どんな重篤からでも瞬時に健康な状態に回復させる魔法があるそうです……」
「完全修復って、プリーストにすら回復魔法があったのに今までは出来なかったの?」

 PT全体の防御力が高かったせいか、今まで大きな怪我を負うようなことが無かった。
 なのでフィローラとセシルの解説に疑問を投げてみたのだ。

「えーっとでしゅね、切断された手足を繋ぐのではなくてでしゅね、無くなった手足を生やしゅのでふ」
「あぁ、腕まるごととか、完全に失った肉体的部位まで修復するのか」
「でふでふ」

 俺の理解に頷くフィローラ。

 舌足らず可愛い。

 そんな彼女のドルイドの最上級職に聞きなれない名前のジョブが出現していた。

 ……ミュルクヴィズ?

 ドルイドはエレメンタラーの上級職で回復補助特化職。
 性質としては低燃費継続回復で、スキルを発動すると効果は低いが広範囲に長時間発動するといったものが殆どである。
 これもPTが優秀なお陰であまり恩恵を得られていないが、長丁場の戦闘にこそ真価を発揮する職業だ。
 その回復&補助職であるドルイドの最上級職であるミュルクヴィズだが、これがかなりの曲者なようだ。

「ミュルクヴィズはドルイドとは性質が真逆な職でしゅね。継続的なダメージや妨害効果が主な能力でふ」
「へー、具体的にはどんなのがあるの?」
「しょうでしゅねぇ……モノが腐る霧を生み出したり茨で捕らえて毒でダメージを負わせたり、あと泥の沼を作って動きを妨害とかでしゅね。他にも相手の体力を奪って近接キルを使えない状態にまで消耗させたり、ネズミやヘビなんかも召喚でたりしまふ」

 どこの沼地の魔女だよ。
 だがコンセプトは理解できる。
 腐敗泥濘ぬかるみよどみが支配する闇の森をそのまま職業にしましたと言ったところだろう。
 面白そうだな。

「……ちょっとまって、近接スキルって体力が消耗していると使えないの?」
「近接職はMPの消費が少ない反面体力も消耗しますから……」

 俺の疑問をセシルが教えてくれた。

 そんな仕組みがあったとは……。
 あとでチャットルームで皆に教えるべきかと思ったが、近接メインの大福さんやレンさんならもうとっくに気付いてるだろうし、シンくんは完全に魔法一辺倒らしいので教えるまでも無かったや。

 それとエレメンタラーの別系統であるリシアのハイシャーマンは、エレメンタラーを純粋に強化発展させたモノで、シャーマンで覚えたサモンエレメンタルも上位精霊が呼び出せるようになり、中位精霊魔法が使い放題となる代物だった。

 殺戮☆猫天使が滅殺☆猫大天使くらいにはなってそう。

 最愛の妻に変な二つ名を更に改悪しつつ、今度はメリティエのジョブを変更する。
 こちらはモンクの上のグラップラーとウォーリアーの上のグラディエーター。

「グラップラーは短射程高火力が売りの近接戦闘職ですね。単体攻撃では隙の無く高打撃のなスキルの他に、防御スキルや回避スキルも揃ってますし、一対一の真っ向勝負なら無類の強さを発揮します。グラディエーターも攻撃特化の近接職です。防御スキルこそありませんが高い攻撃スキルと身体強化スキルを持っており、PTを組んだ時の戦闘力ではグラップラー以上の働きをすると言われてます」

 とはユニスの談。
 聞きながらメリティエに目を向けると、和風美幼女が自信満々な面持ちで親指を立てる。
 自信の意味はよく分からないが、とにかくすごい意気込みだ。
 なので俺も親指を立て返し、ユニスのジョブも変えておく。

「スナイパーとボウナイトか」
「スナイパーの売りは隠密性と単発高火力。ボウナイトは機動性と命中性、そして速射性の高さでしょう。……つい先日までアーチャーだった者がもう到達者級の職とは、流石に駆け足にすぎますね」

 冷静真面目なユニスが気を引き締めろという意図の注意をやんわりと促してくれた。

「そうだね。いくら俺達のレベルが高くても、冒険者としては駆け出しなのに変わりはない。慢心せずに頑張ろう」

 言いたいことは分かってますよという意味を込めて相槌を打つ。

「お父様、私も……」
「はいはい、ミーちゃんもジョブチェンジね」

 次にユニスの背で相変わらずつぶれ饅頭と化しているミネルバのジョブだが、セカンドジョブにはハーピークイーンから派生してハイハーピーが出現していた。
 なのでハイハーピーとウィザードの上のセージに設定する。
 作業終了をしてミネルバに告げようとしたところ、またも愛鳥に変化が起こる。
 群青の羽根が火の粉でも散らすように淡い群青の煌きを発し、光の粒は地面に落ちる直前で消えていく。

「ミネルバ、それ……」
「これはなんでしょう……?」
「ハイハーピー……!?」
「知っているのかセシル?」
「は、はい、ハーピーの上位種は翼と同色の燐光を纏っていると本に書かれています……」
「それなら私も読んだことが有りまふ! 燐光には魔法防御効果を高めるのだそうでしゅよ!」
「風の上位精霊を使役するとか……」
「歌も強力でしゅが、歌わなくても相手を呪えるそうでしゅ!」
「声を聴いた者が突然死んだという逸話もあるそうです……」

 問い返した俺にセシルが教えてくれると、フィローラも負けじと補足を入れ、更にセシルが被せる応酬が続く。
 2人の間に妙なライバル関係が構築されているが、2人共楽しそうなのでほっこりする。
 
 でもハーピーの歌に声か……ミネルバの歌なんて未だに聴いたことないな。

「なんにしろ、問題がないのなら良かった」
「視界に入ると気になるので煩わしいです……」

 ミネルバが眉間にしわを寄せて不満げに言ったところで、燐光が消えもとの状態に戻る。

「あ、消えてくれました……」
「ON/OFFの切り替えが出来るのね」
「はい……」

 ユニスの背から飛び降りると同時に成鳥化するミネルバが後ろを向き、大きな翼を広げながらこちらへ振り返り燐光を発する。
 再び燐光を消しながら後ろを向くと、またも振り返り様に翼を広げ光を放つ謎のミネルバオンステージを開催し始めた。
 翼の角度やポージング変えてポーズをとるミネルバに、リシアをはじめ皆が食い入るように魅入っている。

 まぁ寝るときとか羽根が光ってたら鬱陶しいし消せるなら良いか。

 皆がミネルバオンステージに夢中な間に、次はククとトトのジョブをいじる。
 ククにはガーディアンの最上級職ロイヤルガードをメインに、サブにはセントーラクイーンからの派生であるハイセントーラをセカンドにつける。
 トトもメインをグラディエーターに、セカンドジョブをハイセントーラにジョブチェンジ。
 これで何か変化はあるかなと2人を確認すると、ククの鎧の隙間から、純白の燐光が粉雪の様に降らせていた。
 トトも同様に黄金色の淡い燐光を放っている。

「お姉ちゃん光ってるー!」
「トトも!?」
「二人にハイセントーラってジョブが出てたのでつけてみた」
「おー、かっこいー……。なーなートシオー、かっこいー? あてかっこいー?」
「かっこいいし綺麗だよ」
「かっこ良くて綺麗…!? おぉー……!」

 トトが自分の燐光に興奮しながらもうっとり見惚れ、ククは自身の輝きに困惑の面持ちで見つめている。
 そんな二人が可愛かったので、兜の隙間から手を入れ頬を撫でさせてもらう。

 俺の手に頬を寄せたククが落ち着きを取り戻し目をつむると、白い燐光が収まった。

 ククも消せるのね。

 因みにどの様なスキルを有しているのか聞いてみた。


 ハイセントーラ
〈マキシマイズパワー〉一時的に筋力を2倍にする。 
〈グランドインパクト〉物理範囲攻撃。
〈クラッシュウォール〉物理単体攻撃。
〈セルフカウンター〉物理ダメージの30%を反射。
〈ディフェンスブレイカー〉相手の耐性を30%無視する。
〈ダブルアタック〉攻撃スキルが二重発動する。
〈ダメージ全耐性〉全てのダメージを30%で軽減。
〈状態異常全耐性〉全ての状態異常に耐性を得る。
〈麻痺の魔眼〉視認した相手を状態異常〈麻痺〉を与える。


 戦闘職の様なスキルが増えた。
 マキシマイズパワーって確かグラディエーターのザアラッドさんが使ってた気がするがどうだったか。
 グランドインパクトもグラディエーターのスキルか。
 クラッシュウォールも……。
 そして貫通反射ダメージ軽減と来たか。
 てか魔眼ってなに、脳筋仕様っぽかったセントーラ種がここに来て絡めてとかぐぅ卑怯。
 種族そのものが本気で壊れ性能すぎじゃないか?
 
 今更ながら2人のチートっぷりが羨ましい。
 だが俺にだってお楽しみが待っている!
 さてみなさんお待ちかね、新魔法がいっぱい増えたよ!


 セージ
〈MP自動回復(大)〉MP回復速度が大幅に上昇する。
〈魔力増加(大)〉魔力が大幅に上昇する。
〈ヘルファイヤー〉火属性攻撃魔法。
〈アースブレイド〉土属性攻撃魔法。
〈ハイドロジェット〉水属性攻撃魔法。
〈アイシクルスピア〉氷属性攻撃魔法。
〈プラズマブリット〉雷属性攻撃魔法。
〈レイボウ〉光属性攻撃魔法。
〈ダークハウンド〉闇属性攻撃魔法。
〈ナパームフレア〉火属性範囲攻撃魔法。
〈サンドディザスター〉土属性範囲攻撃魔法。
〈タイダルウェイブ〉水属性範囲攻撃魔法。
〈ダイヤモンドダスト〉氷属性範囲攻撃魔法。
〈ライトニングクラウド〉雷属性範囲攻撃魔法。
〈バーニングレイ〉光属性範囲攻撃魔法。
〈ダークミスト〉闇属性範囲攻撃魔法。


 ハイエンチャンター
〈MP自動回復(大)〉MP回復速度が大幅に上昇する。
〈MP消費軽減(大)〉MP消費量が大幅に軽減する。
〈魔力増加(大)〉魔力が大幅に上昇する。
〈属性強化〉属性魔法のランクを上げる。
〈範囲強化〉範囲魔法の効果範囲を広げる。
〈ハイエンチャントウェポン〉武器強化(大)付与魔法。
〈ハイエンチャントシールド〉盾強化(大)付与魔法。
〈ハイエンチャントアーマー〉全身強化(大)付与魔法。
〈オールレジスト〉全属性ダメージ軽減。
〈バインド〉拘束魔法。
〈マナコート〉防御魔法。


 名前からして強力そうなのが山盛りじゃないかセージスキル!
 けど、各魔法はこれまで通りLv5までなら、普通にやっても全部習得は不可能なのは明らかだ。
 魔力増加とMP回復はハイエンチャンターで習得すれば、まだ少しは緩和されそうだが……。
 てかハイエンチャンターにもボーナススキルにもあった〈マナコート〉があるんかい。
 まぁこれはボーナススキルで獲っておけばいいからなかったものにしておこう。

 次に気になったのが光と闇属性だ。
 マジックキャスターの時点で〈ライト〉という光源魔法があり、エンチャンターの時点で〈ダークネス〉なる視覚妨害魔法はあったが、ここに来てマジックキャスターの〈アロー〉〈ボール〉〈ストーム〉、ウィザードの〈ランス〉〈ブラスト〉などの攻撃魔法にも光と闇の属性が追加された。
 セージの闇属性攻撃魔法の属性名がダークネスから暗黒ダークになってるのが地味に気になる。
 試しにウィザードのスキル〈属性強化〉を外してみると、属性名称の〈ダークネス〉が〈シャドウ〉になった。
 光は〈シャイニング〉で、属性強化前は〈ライト〉である。

 なんにしろスキルポイントが全然足りないな。

 ここで休憩を終えるも、あとはボス部屋を見つけるだけなので、歩きながらでもできる事はやっておく。
 今度こそ魔法の実験をする時なんだろそうなんだろ。
 まずは単体魔法から行ってみよう。

 ジョブチェンジと共に付与された1ポイントを使い、試し打ちをさせてもらう。

〈ヘルファイヤー〉は業火の渦で敵を包んで焼く単体攻撃魔法。
 フレアストームの範囲縮小の威力UPVerと言ったところか。
 MAXレベルはいくつなんだろ?

〈アースブレイド〉は足元から巨大な刃で突き上げる魔法。
 アーススパイクの強化版だろうが、アースランスの方が汎用性が高そうだ。
 大型相手ならこっちの方が有用っぽいけど。

〈ハイドロジェット〉はまんまウォーターカッターを直線に飛ばす水圧魔法。
 なぎ払うと広範囲にも友情じゃないの?

〈アイシクルスピア〉は2メートル程のつららの槍を打ち出す魔法だが、その射出速度が明らかに今までのどの魔法とも一線を画す。
 銃弾の様な速度でこの質量の槍を打ち込むのか、恐ろしいな。

〈プラズマブリット〉はライトニングポールに似た雷球を放つ魔法。
 ライトニングポールより小さいが密度が高いのか、荷電粒子砲の様な帯電音を放っている。
 アイシクルスピア程ではないが、これもかなり弾速が速い。

〈レイボウ〉ハイドロジェットみたいな直進する光線を飛ばす魔法。
 まんまレーザービームである。

〈ダークハウンド〉……暗黒の猟犬か。
 猫じゃないのが気に食わないが、中二心がすごく疼くパワーワードだ。

「ダークハウンド!」

 力ある言葉と共に、先程の通常サイズオルトロスと同じくらいの大きさをした真っ黒な魔法の犬が出現した。
 だが出現しただけで動きゃしない。

 なんでだろ?

「あの、これは一体……?」
「あぁ、セージの魔法にある闇属性魔法。なんかかっこよさそうだったので出してみたけど……」
「かっこいー! でも全然動かないね?」

 驚きで目を見開くユニスが尋ねてきたので答えると、トトが興味津々とばかりに近付いてハルバードで突くも変化は無い。

「動きませんね」
「だねぇ」

 ユニスも黒い犬を観察し始めると、その背に乗ったミネルバもユニスの肩に顎を置いて覗き込む。

 最初こそトトと同じように瞳にトキメキを宿していたミネルバだったが、動かない犬を見て思案するも、すぐに首を横に振った。
 どう言う挙動をする魔法なのかわからないから戦力として見れないんだろうな。

「ダークハウンドは対象物が居ないと動かないと読んだことがあります……」

 セシルの補足で理由が判明。

「そうなんだ、余裕があったら試してみるか。ありがとね」

 セシルに例を述べると、次に範囲魔法を試してみる。

〈ナパームフレア〉広域に可燃性の燃料をぶちまけ燃え上がる燃焼魔法。
 以前俺とミネルバで言ってた〝エアロツイスターにガソリン乗せて火を放てば~〟をそのまま体現してくれてる。

〈サンドディザスター〉大砂嵐。
 ごっちゃんです。
 実態は鉱物を混ぜた竜巻で相手を削る魔法の様だが、これは風属性ではなく土属性。
 土を回転させてるから風が起きてるだけっぽい。
 むしろ土を回転させてる原理の方が知りたいぞっ。

〈タイダルウェイブ〉大津波。
 消火ついでに家まで流しそうな大波が発生した。
 迷宮の様な狭い場所で使うと綺麗にすっきり水洗トイレの出来上がり。
 厄介な敵から逃げるのには使えそうだ。

〈ダイヤモンドダスト〉指定空間の温度を急激に低下させ、空間諸共相手を凍結させる魔法。
 相手は死ぬ。
 まぁ実際は魔法防御とかでそう上手くはいかないと思うけど。

〈ライトニングクラウド〉発動しなかったのでわからないけど、恐らく空に雷雲を生み出して雷降らすとかじゃないかな?

「ライトニングクラウドは野外でしか使えないそうでしゅよ」

 とはフィローラの教え。

 意味ないなぁ。

〈バーニングレイ〉マジックユーザーのボール系の威力&範囲強化版。
 爆発と言うより高熱が膨れ上がる感じなので、反応装甲としては使えなさそう。 
 ただ光もそれなりにあるため、タイトと併用すればフラッシュグレネード代わりにはなりそうだ。

〈ダークミスト〉発動させると眼前に黒い霧が生まれた。
 これに触れた敵はダメージを受けるみたいな?
 これも攻撃対象が居ないので試しようがない。

 一通り試したので、今朝の続きである必殺技の開発に取り掛かる。

 ブラスト系はアレで良いとして、次はランス系だな。

 ライトニングランスを1本眼前に発現。 
 これを空中に飛ばしたりくるくる回してみたり、再び自身の近くに引き寄せてみたりと操作する。
 だいぶ慣れてきたので自在に操ってはいるものの、槍の操作で手一杯になるのがいかんともし難い。
 大量に生み出したところで精密に動かせるのは精々2本まで。
 3本めになると精彩に欠くか周囲の状況が見えなくなる。
 そして身体を動かしてどうこうとなると2本ですらも怪しいところだ。

「そのおっきな剣かっこいーよね」
「ん? そうだね。俺も気に入ってる」

 目の前にライトニングランスを浮遊させながらどうした物かと思案していると、トトが俺の横にまで来て瞳を輝かせていた。

 剣じゃなくて槍なのだが、それを正して水を差す必要もないだろう。
 実際剣に見えなくも無いし。
 剣……。
 ……剣か。

 立ち止まり思考に耽る。

「トシオ様?」
「ごめん、ちょっと待って」

 急に立ち止まった俺にリシアが心配そうに声をかけてくれるが、今は思考に没頭したいので制止させてもらう。
 皆もそれに気が付き行軍が止まる。
 不思議そうな顔をこちらに向ける皆をよそに、ライトニングランスの穂先とは反対側、剣や槍を柄に挿す部分にあたるなかごに目を向けると、左手でおもむろに掴んでみた。
 硬質の確かな感触こそ無いものの、何かスポンジでも握るような手触りが伝わってくる。

 剣。
 これは剣だ。
 
 掴んだ稲妻の剣を振り上げると、腕の動きに連動して紫電の刃も振り上がり、そのまま壁に向かって切りつけられた雷刃がバジュっ!と大きな声で鳴いた。
 それが俺の新たな攻撃手段の産声となった。

 うん、これは良いかもしれない。
 魔法職でありながら近接戦闘にも耐え得る火力と攻撃範囲。
 なにより武器として軽く扱いやすい。
 問題は前に出すぎてまた視野が狭まり、状況判断を鈍らせかねないところか。
 折角編み出したがこれは極力使わない方向だな。
 でもまぁ何かかっこいい名前でも考えておくか……。
 っと、まだ完全にこの階層をクリアした訳じゃない、技名よりも他にやるべき事がある。

「フィローラ、セシル、この階層のボスってやっぱり……」
「キングオルトロスですね」
「でふでふ」

 あ、ケルベロスじゃないのね。

「火のブレスだけでなく、魔法も使ってくるそうです……」
「オルトロス以上の巨体でオルトロスよりも素早く動くそうなので要注意です!」
「ケルベロスではないのですね」
 
 フィローラとセシルの解説に俺が思っていた事をユニスが口にした。

 確かに多頭の犬型モンスターで兄弟だし似てるけど、別の魔物だしそりゃそうか。

 だったらさっき倒したケルベロスは何なんだと説明を求めたいが、突然変異かキングオルトロスの更に上に種族って扱いか、わからないのでいつもの〝ファンタジーだし〟で片づけた。

 ……キングオルトロス?
 オルトロスって古代ギリシア語かラテン語じゃなかったっけ?
 それに英語のキングを混ぜるとかこのなんとも気持ちの悪いもやもや感!
 ……気にしたら負けだな。
 ハーピーだってそうだったはずだし。

「ケルベロスの時もそうだったし、あの身体能力で魔法を使われるのは厄介だ。速攻で沈めよう」

 開幕荷電粒子砲で決着をつけてやる。

 ボスからしたら完全に初見殺しである。

 道中出現したはぐれオルトロスを処理しつつ、俺達は行軍を再開する。



「ご主人様、戦闘音が聞こえてきます」
「んん? 詳しく頼む」

 しばらく歩いていると、思いがけないククの警告に足を止めて聞き直す。

「この先の通路から……大勢の人が居て……戦っている音がしますがなんだか変な感じです……」
「変?」
「申し訳ありません、向こうの騒音が酷く正確には分かりません。ですが、大勢の人の怒鳴り声が混ざっています」
「怒鳴り声……」

 ロックエイプに壊滅させられたあの冒険者PTの例もあるし、誰かが来ていたとしても不思議ではないか。

「今女性の悲鳴が聞こえました」

 耳をそばだてているククが更に状況を告げてくる。

 もしかして苦戦しているのか?
 ならば助けに行かなければならないか。

「行ってみよう。念のため補助をかけておいて」

 みんなに指示を出すと、俺達はククの案内で先を急いだ。
 そして現場に到着した俺は、心底胸糞が悪くなるものを見る羽目となった。





 ボス部屋に到着した俺が見たものは、怒号を飛ばす男女の集団。
 その先では、既に出現していたキングオルトロスとボロ布に粗末な剣と盾を身に着けた黒髪の大女が戦っている姿だった。
 女の方は顔や腕や肩幅など、骨格の大きさがそもそも普通の人間の1.5倍は優にある。
 一瞬巨人かと思ったが、そうではないことを彼女の下半身を見て理解する。
 艶の無い青黒い皮で覆われた太い蛇の胴体が生えていたからだ。
 下半身を会わせると長さ20メートルに達しそうなその姿は、さながら大女の下半身に蛇が食いついた様だった。

 ラミアだ。

 大きなラミアは体中に傷を作り、手にしたボロボロの剣や盾で巨獣に挑んでいる。
 巨獣を相手にするには役不足な装備を補うように、下半身を暴れさせ、時折強烈な横薙ぎで巨獣の侵攻を阻んでいる。
 だが、誰の目にも明らかに劣勢だ。
 その1人と1頭を囲って観戦を楽しむ薄ら笑いを浮かべた数十人の男女。

「ははは、なにやってるんだ、胸だけデカくてもクソの役にも立ちはしねぇな!」

 その人だかりの中心で、下卑た笑みを浮かべてはやし立てる、金髪にエラの張ったアジア人顔の男が1人。
 白に金縁の煌びやかな鎧を身に纏った男へ鑑定眼を起動させた俺は、思わず息をのんだ。


〈勇者〉アキヤ
 人 男 20歳
 ベースLv99
 グラディエーターLv49
 ロイヤルガードLv46
 

 俺がこの世界でもっとも出会いたくない称号を持つ人間がそこに居た。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 何とか今日も更新出来ましたが、自分的には本当の地獄はこれからです……。
 もしかすると数日滞るかもですが、出来るだけ更新できるよう頑張ります。
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