四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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64話 殺戮☆猫天使

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 ダンジョンアタック4日目。
 俺達は順調に階層の攻略を重ね、現在二十九階層まで攻略を完了していた。
 二十階層を越えた辺りから一層辺りの面積が広くなり、通路の幅と高さが増すと、出てくる魔物にも大型の物が混ざり、気持ち強くなってきた気がする。

 通路の広がりから圧迫感もかなり減り、気持ち的には楽になった。
 移動距離が少しずつ増えてきているのだけは心配では有るが。

 しかし、俺達の火力過多なのは変わらない上にLvも順調に上がっているため、俺は〈毒耐性Lv2〉〈麻痺耐性Lv2〉〈睡眠耐性Lv2〉〈混乱耐性Lv2〉〈即死体制Lv〉など、ボーナススキルの状態異常耐性系を各種コンプリートした。
 この段階で、全員のセカンドジョブに設定していた基本職もカンストしたため上位職に入れ替える。
 そして今、俺は4日目の朝を自宅の納屋の隙間から漏れる朝日で目を覚ましたところであった。
 
 だって迷宮内でキャンプとか見張り立てなきゃだし面倒くさいですもの。
 初日は十五層までさくさくっクリアし、ワープゲートで納屋に直帰っすわ。
 でも現在迷宮攻略中で現地に居るはずの俺達が街中に出歩くわけにもいかないし、女性陣に母屋を明け渡して俺達は納屋で宿泊してるから、気持ち的にはあまり変わらないな。

 レスティーが母屋で寝ることを勧めてくれたが、野郎が全員納屋で寝ているのに俺一人だけが布団で愛妻に囲まれて寝る訳にもいかないと、こうして雑魚寝している訳である。
 そんな訳で今もレスティーをはじめとする男共が納屋で寝息をたてており、俺の隣りでは普段は部屋の片隅で眠っているミネルバがそばに寄り添って寝てくれているのでほっこりする。

 可愛い。

 彼女の愛らしい寝顔を見ながら朝を迎えられることに、迷宮に入る前に皆に自分の素性を打ち明けておいてホントによかったと思う半面、リシアがそばに居ないことに寂しさを感じずに居られない。



 ローザ主導の下に女性陣で作られた朝食を全員で頂くと、納戸からワープゲートを使って二十九階層と三十階層を繋ぐ下り通路に到着した。
 アレッシオが今朝も朝食を山盛り食らっていたが、彼に付けた称号【食いしん坊】の固有スキル〈食料保存の法則〉により食い溜めが可能なのと、食べた食事の量によって疲労回復効果を継続して発揮するため心配するだけ無駄だった。
 
 アレッシオと言いアーヴィンと言い、どうしてそんなピンポイントな称号が出てるんだよ。
 こんなの絶対おかしいよ。

「最初は第1PTが先頭を受け持つ、後方は任せた」
「わかった」
「頼んだわよ~」

 第2PTにそう告げると、ユーベルトとレスティーが頷き、アーヴィンがリュートでポロ~ンと奏て返事する。
 下り通路を抜けて最初の十字路に到着すると、予め言っていた〝左の通路から索敵して行く〟という指示を守ってカーチェが歩みを進めた。
 迷宮には罠が無いためトラップサーチ系の技能は必要ないが、それでも稀に大量の魔物が固まっている〈モンスターハウス〉状態な場所があるので油断できない。

 二十九階層までは無詠唱フレアストーム一斉射で瞬殺しゅんころだが、三十階層ではどうなる事やら。

「敵よ。獣じみた声がする……数は3。……かなりでかそうだよ」

 カーチェの短い警告と同時に皆の動きが止まると、音で魔物の数を確認してから再び進軍を開始。

 これが二十九階層までの間に俺達が習得した索敵行動である。
 ボーナススキルの〈サーチエネミー〉でも問題はないのだが、万が一俺とはぐれた場合やスキルが使用できなくなったときの事を想定し、カーチェとユーベルトに任せているのがだ、思った以上に才能が開花してくれた。
 そして各階層に降りた直後は敵の正体がわからないため、名前や容姿を確認と同時に全力でしとめ、フィローラとセシルに対策を聞く。
 当然彼女達の知らないモンスターだったりする場合もあるため、容姿からどういった攻撃をしてきそうだと推測しながら戦ったり、明らかに見た目がヤバそうな場合は全て魔法で接近される前に消して行く。

「この先……。名前はロックエイプ。4メートルくらいの大猿ね」

 曲がり角を曲がった先をカーチェが確認すると、直ぐに顔を引っ込め小声でそう告げてくる。

 ロックエイプLv30
 属性:
 耐性:
 弱点:なし
 状態異常:なし

 岩の様な斑な灰色をした大猿が3頭。
 大きな牙が覗く口をあけて「ホッホウホウ」とサスカッチの時のように喉を震わせ鳴いているが、コミュニケーションをとっているようには見えない。
 俺も敵を確認すると引っ込み、次にリシアとミネルバに目を向け手を上げると、上げた手をさっと下ろして飛び出した。

「アーシスツイスター!」
「フレアストーム!」
「ちー……」

 シャーマンにジョブチェンジしたリシアの砂の竜巻と、これまたソーサラーにジョブチェンジしたミネルバと俺のフレアストームが重なり熱砂の嵐が巻き起こる。

「ほおおおお!!」

 痛々しいまでの火傷を負った大猿が、こちらに気付いて猛ダッシュで走りこんできた!

 一斉射で仕留め切れなかったためすぐさま二斉射。
 接触を許さず滅ぼした。

 危なっ!?
 まさか一斉射で仕留めきれないとは……。
 レベルだけでなく魔物の質そのものも上がってきているのか。
 Lv20ゴブリンとLv20ドラゴンが同じ強さでは無いように。

 ちなみに俺がスキル名を口にしたのは、毎回無詠唱だと味気無いから。

 中二心的な何かが刺激されて来るなぁ。
 連続アロー以上のすごい必殺技みたいなのが欲しくなってくる。 

「二十九階層と比べて急にタフになりましたね」
「イノシシみたくただ突進してくる奴ならククに任せるてみるんだけど、腕があるやつはそこから何をしてくるかわからないから怖いんだよな」
「この階層も魔法で一気に倒した方が良くありませんか?」
「私もその案に賛成よ。トシオちゃんの言うように、あんなのに捕まったら大変だもの。特に私の様な美女が捕まったら、きっとめちゃくちゃにされちゃうわ! いやぁ~んこわぁ~い♪」

 フィローラの感想に俺が懸念を告げると、ユニスが攻略法を口に出し、レスティーが体をくねくねさせながら馬鹿を言う。
 
 一人で滅茶苦茶にされてしまえ。

 こうしてロックエイプの対策は、話し合うまでもなく〝見つけたら消せサーチ&デストロイ〟に決まった。
 これまで通り〝力こそパゥワー〟なシンプルな攻略法である。

「〈サモンエレメンタル〉、〈ウィル・オ・ウィスプ〉!」

 首脳陣が敵に対してどう攻略するかを相談し終えると、リシアが俺の知らない精霊魔法を発動させた。
 現れたのは青白い火の玉に適当な感じの目と口がついたモノだった。
 それがリシアの周辺でふよふよと浮かんでいる。

 ウィル・オ・ウィスプ。
 鬼火の事だけど、この場合はファンタジー知識でいうところの光の精霊で良いのかな?

「なにそれ?」
 
 マジマジとその光の精霊らしき鬼火を見つめながらリシアに問いかけると、鬼火がアスキーアートで適当に作られたような顔をこちらに向けられ、口元がにへらっと笑った。
 適当な顔だが愛嬌が有って無駄にかわいい。 

「光の精霊ウィル・オ・ウィスプです。小さい頃街で迷子になったのを助けてもらって、それ以来一度も見ることが出来なかったのでこうしてお会いしたかったのです!」

 子供の様に目をきらきらさせてそう告げてくる夢みる女の子リシアちゃん17さい。

 むちゃくちゃかわいいなコンチクショー。

「あの時はありがとうございました」

 リシアが鬼火相手に丁寧にお辞儀をすると、鬼火もそれに応えるようにふよふよと上下に動いた。
 同じ固体ではないかもしれないが、もしかすると本当に〝あの時の鬼火〟なのかもしれない。

 まぁそこは本人の思いようなので、口を出すのは無粋である。

「よかったね」
「はい♪」

 最高にかわいい嫁の頭を撫でてあげると、とびきりの笑顔で返事をしてくれた。
 今すぐ押し倒したくなるほどの笑顔である。

 ただ、その後の展開が酷かった。
 サモンエレメンタルは召喚時と呼び出した精霊の維持にMPが必要だが、その効果は出現した精霊と同じ属性の下位魔法をMP無しで無尽蔵に撃てるというものだった。
 その恒常的に消費されるMPだが、リシアの称号【慈愛】の固有スキルによって、PT全体のHP自動回復速度の向上と自身のMP回復速度の向上に加え、俺のボーナススキル〈MP自動回復量増加Lv10〉&〈MP消費軽減Lv10〉が重複し、精霊の維持コストが保々賄われた。
 そのおかげで、本来なら1~2戦連れまわせば消えてしまう精霊が常に出現している状態となる。

 結果どうなったかと言うと、念願叶って上機嫌のリシアさんによるMPを必要としない無詠唱&クールタイム無しで連射される低級精霊魔法の嵐が片っ端から敵を屠殺していくという殺戮ショーが展開された。
 ネトゲーなら即時メンテで下方修正されるレベルの犯罪っぷりに、思わず〝殺戮☆猫天使〟なる痛々しい単語が脳裏に生まれる。

 しかも俺が必殺技を欲したところにエグい必殺技を生み出すあたり、すごいよリシアさん……。
 
 燃費に優れたエレメンタラーの精霊魔法はマジックキャスター系よりも火力が低いため、殲滅に少し時間がかかると言う欠点がこの時ばかりは無くなってしまうのが特にヤバイ。
 一撃のダメージ自体は低いままなので〝強い敵には効果は薄いが弱い敵にはめっぽう強い〟の典型ともいえるな。

 しかし、完全にMPが賄われている訳ではなく、リシアは第1PTの生命線でもあるため、MPが半減したところで精霊を帰還させるように指示を出す。

「それではまたお願いしますね」

 微笑みと共に別れの挨拶をしたリシアに、鬼火は再びふよふよと上下に揺らいで姿を消した。

「さしゅがリシアさん、次は私がやってみましゅ!」

 同じ精霊使いのフィローラが、鼻息を荒げてリシアに尊敬の眼差しを向けると、リシアが優しい笑顔でフィローラの髪を撫でる。
 
「私一人っ子でしたから、リシアさんみたいな優しいお姉ちゃんが欲しかったでふ……」
「私もフィローラちゃんみたいな可愛い妹が欲しかったの。だから、私の妹になってくれる?」
「良いんですか……?」
「えぇ、もちろんよ♪」
「………はい♪」

 リシアが微笑みながら金髪の眼鏡幼女を抱きしめた。
 麗しい美人姉妹がここに誕生した。

 けどなんでや、ルーナのこと妹みたいな子って言ってましたやん!

 猫原理主義者としては少し納得いかないものがあり、心の中だけでツッコミを入れるも、日頃のルーナルアの行動がまんま猫過ぎて擁護できない。
 おまけにケットシー自身が喋れるせいか、俺の様な猫狂いではない人からすれば、余計にその我がままでいい加減な所が目に付くのだろう。

 信仰は押し付けれはならない。
 性癖も押し付けてはならない。

 この二つを犯せば戦争が起こることは、元の世界の歴史が教え、ネットで学んだ最も大事なことである。

 信仰は押し付けれはならない。
 性癖も押し付けてはならない。

 自身を律するように脳内で二つを念仏の如く唱えながら、俺は皆を先へと促した。
 

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