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61話 本質と資質
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ライシーンを出発して4日後の夕方。
竜車でライシーン第五迷宮の近くにやって来た俺達は、そこで野営を開始した。
夜が明けると、御者のおじさん達は俺達を置いて朝一番に出立した。
元来た道を引き返さず、木を切り倒して開いただけの道をそのまま進んで去っていった。
その方が首都に近いため、森を出るにはそちらが近道だったからだろう。
首都から街道を通ってライシーンに戻った方が、御者のおじさん達にとっても安全である。
竜車を見送ると、俺はレスティー達に自分の素性を打ち明けることにした。
「でも、勇者も異世界から来た人種なんだよね? じゃぁトシオと勇者ってどう違うの?」
「さぁ?」
「勇者様は召喚魔法で異世界より呼び寄せた人を指しゅ言葉でふが、極稀に召喚以外でこちらの世界にやってきてしまう人が居るそうでふ」
「そのような方達を〈流れ人〉と呼ばれていますね」
カーチェの質問に素で反応すると、フィローラが答え、リシアが補足してくれた。
今日もフィローラは口から空気が抜けるような噛み噛みっぷりである。
「異世界から来ただけで勇者って言われるのもなぁ」
「それで、あんたはこれからどうするつもりなんだい?」
「どうすると言われても、当面は普通にレベル上げかな?」
「そのあとは?」
「そのあと?」
クサンテの問いに察しの悪い俺が首をかしげると、リザードマンの女はため息を吐いた。
「……最近王都で勇者が召喚されたって噂が上がっているらしくてね……」
え、勇者居るの?
どんな奴だろ?
良い奴だったらいいんだけどな。
「そして国は兵を集めている」
それは冒険者ギルドの張り紙で見たような気がするな。
「その二つを繋げるだけで、この国がどこかと戦争する気でいるんじゃないかってのは、バカじゃなければすぐに気が付く。そんな情勢で、あんたはその力を使ってどうするのかを聞いてるんだよ」
「あぁ、そういう事か」
クサンテのかみ砕いた説明に、彼女の意図にようやく気付かされる。
俺が普通にコソコソ冒険者家業をしている分には問題はないであろうが、変な野心や野望を持っていた場合、巻き込まれて命を落とす危険は他の冒険者以上に跳ね上がる。
彼女が俺の動向を気にするのはもっともだ。
なので、俺の目的と理由を皆にはきっちり言っておかなければならない。
「実は俺と同じようにこの世界に来た友人が他にも3人居て、彼らと連絡は取れるんだけど……、場所が離れすぎてて合流がかなり厳しい。冒険者として力をつけてから再会しようって方向で皆も動いているし、俺もそのつもり」
「離れてるってどれくらいだ?」
「太陽が昇るところの真下から沈むところの真下。あと俺達の足元の裏側くらい」
今度はユーベルトの質問にそう答えると、リシア、ユニス、フィローラ、レスティー、セシル、以外の全員の頭に〝?〟が浮かんだ。
「も、もしかして〈地球説〉でしょうか……?」
セシルの言葉に言いたいことはわかるので頷き肯定した。
天動説とか地動説の類だ。
「なにそのチキュウセツって?」
「地球説っていうのは、私達の住んでいるこの世界が実は丸い球体だって昔の勇者が持ち込んだ考え方よん」
カーチェが干し肉をかじりながら聞くと、レスティーが地面に円を描き、次に円の外側の上下左右に人らしきものを描いた。
「下の人は落ちないのー?」
「えっと……大きすぎる物体は物を引き寄せる力があるそうで、大地が大きすぎるため、私達の下に居る人も空に落ちたりしないそうです……」
トトの疑問にセシルがそう説明する。
彼女は意外と博識なのかもしれない。
セシルの補足として、俺が「下ってここじゃなくて」とトトから見て円の外の手前を指で突き、次に「ここが下だからね」と円の真ん中を突く。
「んー?」
だがトトには理解できなかった様だ。
そしてカーチェと同じく魔道具袋からお菓子を取り出し、食後のデザートに取り掛かる。
アホの子可愛い。
「んで、太陽が昇るところの真下がここの人で、沈むところの真下がここの人ね」
「勇者ならこれくらいなんとかならんのか?」
仕方がないのでトトを放置して説明を続けと、ユーベルトが口を開く。
「なるかもしれないけど、今の俺達には不可能だ。レベルが上がれば解放されるスキルもあるから、今後どうなるかはまったくわからん」
「当面はレベル上げと言うことか」
「そう言うこと」
ユーベルトは理解力があるので助かる。
そしてユーベルト以上の理解力が欲しいアーヴィンは、俺達の会話を聞いてはいるがリュートで穏やかな旋律を奏でている。
彼なりに気を利かせてくれているのだと信じたい。
是非そうであって欲しい。
あとアレッシオ、朝食のおかわり3食目はやめておいた方がいいと思うぞ。
「正直今のままじゃ、何をするにしてもどうにもならん。その上勇者だ流れ人だからと戦争の道具にされるのは真っ平ごめんだ。魔族がライシーンに攻めて来るなら全力で迎え撃つけど、そうでないならわざわざリシア達を危険な目にあわせるようなことはしたくない」
「魔族を滅ぼす事で結果的にみんなの安全に繋がるとしてもかい?」
「それを異世界に送り込まれた村人その1である俺にやれと?」
クサンテに脊髄反射で返してしまったが、彼女の言ったことはそうなりえる可能性の提示だ。
実際に俺がどうするかであって強制ではない。
「ごめん、今のは俺が悪かった。ただ、俺としてはまだ脅威と判断していない物に対して、自分から藪を突くようなことはしたくない。……でもまぁ、何か手は打っておいた方がいいかもか……」
「妙案が御有りで?」
俺の何気ない呟きをユニスが拾う。
「いや、まだなにも。とりあえずは俺の目的は今伝えた通りだから、攻められない限りは魔族と率先して戦うってことにはならないと思う」
そもそも、よく考えたら俺は魔族がどういうものなのかをわかっていない。
ただ漠然と人族に敵対する魔物程度の想像だけで、実際は何も知らないのだ。
敵を知り己を知ればとは俺が先日セシルに言った言葉だ。
それをするためにも、まずは情報収集をすることが大事であろう。
「この話はこれで終わるとして、次は迷宮攻略の話をしよう。フィローラ、迷宮の地図作成を頼めるか?」
「わ、私はマップとか描くの苦手で……」
フィローラが渋ったため周りを見渡すも、敵と最初に接触する危険性が高い近接職と攻撃魔法の要であるレスティー、それに即射力が強みのユニスにこれを頼む訳にはいかず、回復役のリシアとアレッシオも避けたいところだ。
手そのものが無いミネルバや重装備のククとトトとクサンテは論外。
自然と残るはアーヴィンになるのだが……ダメだな。
正直俺も得意ではないけどやるしかないか……。
とっさの事になるとこの中の誰よりもポンコツだし、一つのことをすると他が見えなくなり片手間が片手間でなくなるため、極力別の作業はしたくないのだが。
「あの、私で良ければやらせてください……」
俺が渋い顔をしていると、セシルが申し出てくれた。
相変わらずオドオドとした態度では有るが、そのエメラルドグリーンの瞳には決意の様な物が感じられた。
「……頼める?」
「はい……!」
小さい声ながらも明確な意思。
もしかして、俺は彼女の性格だけで本質を見た気になっていたが、彼女の資質にまで目を向けていなかったのかもしれない。
そして彼女自身、何かを変えたいと強く願っていたのかもしれない。
もしそうなら、俺はそれを叶えてあげたいと望む。
「わかった、任せたよ」
「ありがとうございます……」
彼女の背中を押す気持ちで筆記用具を渡すと、セシルは小さな笑みを浮かべて受け取った。
それは彼女が初めて見せてくれた笑顔であった。
装備の点検後、メンバーを2PTに分けて編成し、俺はもう一度皆を見回し問題が無いかを確認する。
【鉄壁】ククテナ
セントーラクイーン 女 19歳
メインジョブ:ガーディアンLv5
セカンドジョブ:セントーラクイーンLv3
対物のアダマンタイトのタワーシールド(アダマンタイト)
サブウェポン:鋼鉄のエストック
アダマンタイトのヘルム
アダマンタイトのプレートアーマー
アダマンタイトのガントレット
アダマンタイトのグリーブ
【穿つ者】トトテナ
セントーラクイーン 女 15歳
メインジョブ:ウォーリアーLv5
セカンドジョブ:セントーラクイーンLv3
鋭利なトクルライトのハルバード
アダマンタイトのラウンドシールド
アダマンタイトのヘルム
対物のアダマンタイトのプレートアーマー
アダマンタイトのガントレット
俊敏なアダマンタイトのグリーブ
【小英雄】トシオ
人 男 24歳
ベースLv72
メインジョブ:ウィザードLv6
セカンドジョブ:エンチャンターLv4
アダマンタイトのパルチザン
革のアーマー
アダマンタイトの手甲
鋼鉄グリーヴ
魔道の竜石のネックレス
竜石のブローチ
【慈愛】リシア
獣人 女 17歳
メインジョブ:ビショップLv5
セカンドジョブ:エレメンタラーLv46
ミスリルのロッド
対物のミルトライトのシールド
アダマンタイトのヘルム
ミルトライトのブレスプレート
アダマンタイトのガントレット
アダマンタイトのグリーブ
業火の竜石のブローチ
【疾風】ミネルバ
ハーピークイーン 女 0歳
メインジョブ:ハーピークイーンLv5
セカンドジョブ:マジックキャスターLv12
【探求者】フィローラ
マルモル 女 15歳
メインジョブ:ドルイドLv5
セカンドジョブ:マジックキャスタスターLv10
ミスリルのロッド
ミスリル糸のローブ
ミスリル糸の手袋
革のブーツ
【探求者】セシル
エルフ 女 27歳
メインジョブ:エンチャンターLv5
セカンドジョブ:プリーストLv10
ミスリルのロッド
ミスリル糸のローブ
ミスリル糸のグローブ
革のブーツ
リング
【狙撃手】ユニス・フォン・アーマライト・ミ・リアルデ・セルゲイ・マルチアナ・ティテルト・ラ・トバリュト・リトバルスキー
ケンタウロス 女 17歳
メインジョブ:ハンターLv5
セカンドジョブ:ボウライダーLv3
アダマンタイトのショートラピッドボウ
アダマンタイトのチェインメイル
革のグローブ
革のグリーブ
《拳闘士》メリティエ
ドワーフ 女 16歳
メインジョブ:モンクLv5
セカンドジョブ:ファイターLv10
鋼鉄のナックル
革のアーマー
鋼鉄のグリーブ
カーチェ
獣人 女 17歳
メインジョブ:ファントムシーフLv5
セカンドジョブ:ファイターLv10
鋼鉄のレイピア
革のシールド
革のヘルム
革のアーマー
革のグローブ
革のブーツ
【穿つ者】ユーベルト
獣人 男 16歳
メインジョブ:ナイトLv5
セカンドジョブ:アサシンLv3
鋭利なミルトライトのバスタードソード
ミルトライトのシールド
ベリルライトのヘルム
ベリルライトのブレスプレート
ベリルライトのガントレッド
ベリルライトのグリーブ
【吟遊詩人】アーヴィン
エルフ 男 68歳
メインジョブ:ウィザードLv5
セカンドジョブ:エンチャンターLv3
リュート
革ベスト
革ブーツ
【魔道士】ゴンザレス(レスティー)
人 男 23歳
メインジョブ:ウィザードLv5
セカンドジョブ:ソーサラーLv3
ミスリルのロッド
革のジャケット
革のグローブ
革のブーツ
【食いしん坊】アレッシオ
ドワーフ 男 19歳
メインジョブ:ビショップLv5
セカンドジョブ:ガーディアンLv3
鉄のモーニングスター
鉄のシールド
睡眠混乱無効の鋼鉄のヘルム
革のプレートアーマー
革グローブ
毒麻痺無効の鋼鉄のグリーヴ
【指導者」クサンテ
リザードマン 女 19歳
メインジョブ:ナイトLv5
セカンドジョブ:リザードマンLv34
ミルトライトのパルチザン
ミルトライトのシールド
鋼鉄のヘルム
鋼鉄のプレートアーマー
鋼鉄のグローブ
鋼鉄のグリーブ
称号に一部おかしな物が混じっているが、出来る限りのことはしておいたのでこれで良いだろう。
装備の方は、新たに新調したアダマンタイト製の防具にはライトウェイトが付与されているので、ククが鋼鉄製の装備と比べて軽すぎることに困惑し、トトは素直に喜んでいた。
モリーが一晩でやってくれました。
鍛冶師と言っても金属の加工はMPを消費して行うため、ビショップのMP回復魔法〈マナチャージ〉と併用することで、おかしなほど作業効率が向上するのだ。
それと、ククとトトの名前の最後の一文字が変わっているのに今更ながら気が付く。
「集落の慣わしで、契りを交わしたメスは名前の最後が変わりますので……」
「わ、私の家一族も、婚姻を結んだ女は最後から3つ目の〝デ〟が〝ラ〟に変わるので、6日前に変わっているはずです……」
喜んでいるのか恥ずかしがっているのか、あるいはその両方なのか、ククがそう言って大盾で顔を隠すと、ユニスも耳まで真っ赤に染めて告げてきた。
恥じらう女性も可愛いが、ユニスに至っては名前が長すぎて全く気付きませんでしたごめんなさい。
「なにっ、ユニスは結婚したのか!?」
「いや、この前言いましたやん」
「俺は聞いてないぞ!」
ユーベルトが寝耳に水とばかりに驚き否定する。
ズワローグの討伐報酬を渡しに行った時のユニスの言葉を、やはり分かっていなかったようだ。
俺が言うのもなんだが、お前はなんで色恋に関してだけはそんなに鈍感なんだ?
これから迷宮に挑むというのに、なんとも緊張感の無いPTであった。
竜車でライシーン第五迷宮の近くにやって来た俺達は、そこで野営を開始した。
夜が明けると、御者のおじさん達は俺達を置いて朝一番に出立した。
元来た道を引き返さず、木を切り倒して開いただけの道をそのまま進んで去っていった。
その方が首都に近いため、森を出るにはそちらが近道だったからだろう。
首都から街道を通ってライシーンに戻った方が、御者のおじさん達にとっても安全である。
竜車を見送ると、俺はレスティー達に自分の素性を打ち明けることにした。
「でも、勇者も異世界から来た人種なんだよね? じゃぁトシオと勇者ってどう違うの?」
「さぁ?」
「勇者様は召喚魔法で異世界より呼び寄せた人を指しゅ言葉でふが、極稀に召喚以外でこちらの世界にやってきてしまう人が居るそうでふ」
「そのような方達を〈流れ人〉と呼ばれていますね」
カーチェの質問に素で反応すると、フィローラが答え、リシアが補足してくれた。
今日もフィローラは口から空気が抜けるような噛み噛みっぷりである。
「異世界から来ただけで勇者って言われるのもなぁ」
「それで、あんたはこれからどうするつもりなんだい?」
「どうすると言われても、当面は普通にレベル上げかな?」
「そのあとは?」
「そのあと?」
クサンテの問いに察しの悪い俺が首をかしげると、リザードマンの女はため息を吐いた。
「……最近王都で勇者が召喚されたって噂が上がっているらしくてね……」
え、勇者居るの?
どんな奴だろ?
良い奴だったらいいんだけどな。
「そして国は兵を集めている」
それは冒険者ギルドの張り紙で見たような気がするな。
「その二つを繋げるだけで、この国がどこかと戦争する気でいるんじゃないかってのは、バカじゃなければすぐに気が付く。そんな情勢で、あんたはその力を使ってどうするのかを聞いてるんだよ」
「あぁ、そういう事か」
クサンテのかみ砕いた説明に、彼女の意図にようやく気付かされる。
俺が普通にコソコソ冒険者家業をしている分には問題はないであろうが、変な野心や野望を持っていた場合、巻き込まれて命を落とす危険は他の冒険者以上に跳ね上がる。
彼女が俺の動向を気にするのはもっともだ。
なので、俺の目的と理由を皆にはきっちり言っておかなければならない。
「実は俺と同じようにこの世界に来た友人が他にも3人居て、彼らと連絡は取れるんだけど……、場所が離れすぎてて合流がかなり厳しい。冒険者として力をつけてから再会しようって方向で皆も動いているし、俺もそのつもり」
「離れてるってどれくらいだ?」
「太陽が昇るところの真下から沈むところの真下。あと俺達の足元の裏側くらい」
今度はユーベルトの質問にそう答えると、リシア、ユニス、フィローラ、レスティー、セシル、以外の全員の頭に〝?〟が浮かんだ。
「も、もしかして〈地球説〉でしょうか……?」
セシルの言葉に言いたいことはわかるので頷き肯定した。
天動説とか地動説の類だ。
「なにそのチキュウセツって?」
「地球説っていうのは、私達の住んでいるこの世界が実は丸い球体だって昔の勇者が持ち込んだ考え方よん」
カーチェが干し肉をかじりながら聞くと、レスティーが地面に円を描き、次に円の外側の上下左右に人らしきものを描いた。
「下の人は落ちないのー?」
「えっと……大きすぎる物体は物を引き寄せる力があるそうで、大地が大きすぎるため、私達の下に居る人も空に落ちたりしないそうです……」
トトの疑問にセシルがそう説明する。
彼女は意外と博識なのかもしれない。
セシルの補足として、俺が「下ってここじゃなくて」とトトから見て円の外の手前を指で突き、次に「ここが下だからね」と円の真ん中を突く。
「んー?」
だがトトには理解できなかった様だ。
そしてカーチェと同じく魔道具袋からお菓子を取り出し、食後のデザートに取り掛かる。
アホの子可愛い。
「んで、太陽が昇るところの真下がここの人で、沈むところの真下がここの人ね」
「勇者ならこれくらいなんとかならんのか?」
仕方がないのでトトを放置して説明を続けと、ユーベルトが口を開く。
「なるかもしれないけど、今の俺達には不可能だ。レベルが上がれば解放されるスキルもあるから、今後どうなるかはまったくわからん」
「当面はレベル上げと言うことか」
「そう言うこと」
ユーベルトは理解力があるので助かる。
そしてユーベルト以上の理解力が欲しいアーヴィンは、俺達の会話を聞いてはいるがリュートで穏やかな旋律を奏でている。
彼なりに気を利かせてくれているのだと信じたい。
是非そうであって欲しい。
あとアレッシオ、朝食のおかわり3食目はやめておいた方がいいと思うぞ。
「正直今のままじゃ、何をするにしてもどうにもならん。その上勇者だ流れ人だからと戦争の道具にされるのは真っ平ごめんだ。魔族がライシーンに攻めて来るなら全力で迎え撃つけど、そうでないならわざわざリシア達を危険な目にあわせるようなことはしたくない」
「魔族を滅ぼす事で結果的にみんなの安全に繋がるとしてもかい?」
「それを異世界に送り込まれた村人その1である俺にやれと?」
クサンテに脊髄反射で返してしまったが、彼女の言ったことはそうなりえる可能性の提示だ。
実際に俺がどうするかであって強制ではない。
「ごめん、今のは俺が悪かった。ただ、俺としてはまだ脅威と判断していない物に対して、自分から藪を突くようなことはしたくない。……でもまぁ、何か手は打っておいた方がいいかもか……」
「妙案が御有りで?」
俺の何気ない呟きをユニスが拾う。
「いや、まだなにも。とりあえずは俺の目的は今伝えた通りだから、攻められない限りは魔族と率先して戦うってことにはならないと思う」
そもそも、よく考えたら俺は魔族がどういうものなのかをわかっていない。
ただ漠然と人族に敵対する魔物程度の想像だけで、実際は何も知らないのだ。
敵を知り己を知ればとは俺が先日セシルに言った言葉だ。
それをするためにも、まずは情報収集をすることが大事であろう。
「この話はこれで終わるとして、次は迷宮攻略の話をしよう。フィローラ、迷宮の地図作成を頼めるか?」
「わ、私はマップとか描くの苦手で……」
フィローラが渋ったため周りを見渡すも、敵と最初に接触する危険性が高い近接職と攻撃魔法の要であるレスティー、それに即射力が強みのユニスにこれを頼む訳にはいかず、回復役のリシアとアレッシオも避けたいところだ。
手そのものが無いミネルバや重装備のククとトトとクサンテは論外。
自然と残るはアーヴィンになるのだが……ダメだな。
正直俺も得意ではないけどやるしかないか……。
とっさの事になるとこの中の誰よりもポンコツだし、一つのことをすると他が見えなくなり片手間が片手間でなくなるため、極力別の作業はしたくないのだが。
「あの、私で良ければやらせてください……」
俺が渋い顔をしていると、セシルが申し出てくれた。
相変わらずオドオドとした態度では有るが、そのエメラルドグリーンの瞳には決意の様な物が感じられた。
「……頼める?」
「はい……!」
小さい声ながらも明確な意思。
もしかして、俺は彼女の性格だけで本質を見た気になっていたが、彼女の資質にまで目を向けていなかったのかもしれない。
そして彼女自身、何かを変えたいと強く願っていたのかもしれない。
もしそうなら、俺はそれを叶えてあげたいと望む。
「わかった、任せたよ」
「ありがとうございます……」
彼女の背中を押す気持ちで筆記用具を渡すと、セシルは小さな笑みを浮かべて受け取った。
それは彼女が初めて見せてくれた笑顔であった。
装備の点検後、メンバーを2PTに分けて編成し、俺はもう一度皆を見回し問題が無いかを確認する。
【鉄壁】ククテナ
セントーラクイーン 女 19歳
メインジョブ:ガーディアンLv5
セカンドジョブ:セントーラクイーンLv3
対物のアダマンタイトのタワーシールド(アダマンタイト)
サブウェポン:鋼鉄のエストック
アダマンタイトのヘルム
アダマンタイトのプレートアーマー
アダマンタイトのガントレット
アダマンタイトのグリーブ
【穿つ者】トトテナ
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メインジョブ:ウォーリアーLv5
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鋭利なトクルライトのハルバード
アダマンタイトのラウンドシールド
アダマンタイトのヘルム
対物のアダマンタイトのプレートアーマー
アダマンタイトのガントレット
俊敏なアダマンタイトのグリーブ
【小英雄】トシオ
人 男 24歳
ベースLv72
メインジョブ:ウィザードLv6
セカンドジョブ:エンチャンターLv4
アダマンタイトのパルチザン
革のアーマー
アダマンタイトの手甲
鋼鉄グリーヴ
魔道の竜石のネックレス
竜石のブローチ
【慈愛】リシア
獣人 女 17歳
メインジョブ:ビショップLv5
セカンドジョブ:エレメンタラーLv46
ミスリルのロッド
対物のミルトライトのシールド
アダマンタイトのヘルム
ミルトライトのブレスプレート
アダマンタイトのガントレット
アダマンタイトのグリーブ
業火の竜石のブローチ
【疾風】ミネルバ
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メインジョブ:ハーピークイーンLv5
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【探求者】フィローラ
マルモル 女 15歳
メインジョブ:ドルイドLv5
セカンドジョブ:マジックキャスタスターLv10
ミスリルのロッド
ミスリル糸のローブ
ミスリル糸の手袋
革のブーツ
【探求者】セシル
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メインジョブ:エンチャンターLv5
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ミスリルのロッド
ミスリル糸のローブ
ミスリル糸のグローブ
革のブーツ
リング
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カーチェ
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鋼鉄のレイピア
革のシールド
革のヘルム
革のアーマー
革のグローブ
革のブーツ
【穿つ者】ユーベルト
獣人 男 16歳
メインジョブ:ナイトLv5
セカンドジョブ:アサシンLv3
鋭利なミルトライトのバスタードソード
ミルトライトのシールド
ベリルライトのヘルム
ベリルライトのブレスプレート
ベリルライトのガントレッド
ベリルライトのグリーブ
【吟遊詩人】アーヴィン
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メインジョブ:ウィザードLv5
セカンドジョブ:エンチャンターLv3
リュート
革ベスト
革ブーツ
【魔道士】ゴンザレス(レスティー)
人 男 23歳
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ミスリルのロッド
革のジャケット
革のグローブ
革のブーツ
【食いしん坊】アレッシオ
ドワーフ 男 19歳
メインジョブ:ビショップLv5
セカンドジョブ:ガーディアンLv3
鉄のモーニングスター
鉄のシールド
睡眠混乱無効の鋼鉄のヘルム
革のプレートアーマー
革グローブ
毒麻痺無効の鋼鉄のグリーヴ
【指導者」クサンテ
リザードマン 女 19歳
メインジョブ:ナイトLv5
セカンドジョブ:リザードマンLv34
ミルトライトのパルチザン
ミルトライトのシールド
鋼鉄のヘルム
鋼鉄のプレートアーマー
鋼鉄のグローブ
鋼鉄のグリーブ
称号に一部おかしな物が混じっているが、出来る限りのことはしておいたのでこれで良いだろう。
装備の方は、新たに新調したアダマンタイト製の防具にはライトウェイトが付与されているので、ククが鋼鉄製の装備と比べて軽すぎることに困惑し、トトは素直に喜んでいた。
モリーが一晩でやってくれました。
鍛冶師と言っても金属の加工はMPを消費して行うため、ビショップのMP回復魔法〈マナチャージ〉と併用することで、おかしなほど作業効率が向上するのだ。
それと、ククとトトの名前の最後の一文字が変わっているのに今更ながら気が付く。
「集落の慣わしで、契りを交わしたメスは名前の最後が変わりますので……」
「わ、私の家一族も、婚姻を結んだ女は最後から3つ目の〝デ〟が〝ラ〟に変わるので、6日前に変わっているはずです……」
喜んでいるのか恥ずかしがっているのか、あるいはその両方なのか、ククがそう言って大盾で顔を隠すと、ユニスも耳まで真っ赤に染めて告げてきた。
恥じらう女性も可愛いが、ユニスに至っては名前が長すぎて全く気付きませんでしたごめんなさい。
「なにっ、ユニスは結婚したのか!?」
「いや、この前言いましたやん」
「俺は聞いてないぞ!」
ユーベルトが寝耳に水とばかりに驚き否定する。
ズワローグの討伐報酬を渡しに行った時のユニスの言葉を、やはり分かっていなかったようだ。
俺が言うのもなんだが、お前はなんで色恋に関してだけはそんなに鈍感なんだ?
これから迷宮に挑むというのに、なんとも緊張感の無いPTであった。
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八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
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月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
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アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
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最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
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突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
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