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59話 勇者って
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「ようお前ら!」
追加注文のフルーツをみんなで摘まみながら、次もこのメンバーで仕事をしようと相談をしていた俺達に、後ろから明るく声がかけられる。
声をかけてきたのは黄緑髪の活発そうな少女だった。
彼女は確か……初心者強化合宿で見たような気がするな。
後ろにも同じく見覚えのある美女と美幼女が立っていた。
が、美女の方は俺と視線が合うなり黄緑髪少女の後ろに隠れてしまった。
俺何もしてないんですけど……。
カーチェ
獣人 女 16歳
ファントムシーフLv1
「挨拶がまだの奴も居るな。あたしはカーチェ、ジョブはファントムシーフ、合宿じゃ一班の第2PTに居たんだ。よろしくな!」
黄色かかった緑色の髪にそれと同色の眼の少女が、声を張って挨拶した。
頭にピンと立てた犬耳と短いがふさふさの毛をした尻尾が左右に揺れ、起伏の少ない痩せ型の体型と明るい表情から、スポーツ美少女と言った見た目である。
セシル
エルフ 女 27歳
エンチャンターLv1
「セ、セシルと申します……。ジョブはエンチャンターです……。二班に居ました……」
優しいきらめきを放つ長い金髪に緑の瞳の大人しそうな美女が、カーチェの後ろに隠れたまま、オドオドとした態度とか細い声で頭を下げた。
ゆったりとしたやや厚みのあるローブを着ているので、これから夏本番なので大変なことになりそうだ。
そしてそのローブを以てしても、大きく膨らんだ胸を隠しきれはしなかった。
パッと見だけならリシア以上ローザ未満といったところか?
一度でいいから触ってみたい。
だが、ロレツが回らず言葉を噛み、それが原因で声が小さくなってしまうフィローラや、単純に声を張り上げるのを避けている節のあるミネルバと違い、気が小さく引っ込み思案な印象を受ける。
メリティエ
ドワーフ 女 16歳
モンクLv1
「名前はメリティエ、ジョブはモンクだ」
黒髪黒瞳のロングストレートの美幼女が、淡々とした言葉遣いで簡潔に述べ一礼した。
短くとがった耳が髪からチラチラ覗いていること以外、顔立ちが和風美幼女だ。
モンクはプリーストからの派生上級職で近接攻撃職だったかな。
3人が名乗りを終えると、カーチェが俺の右隣の椅子に座り「一つ頂戴ね」と果物の盛られた皿に手を伸ばした。
リシアとせっかく恋人繋ぎをしていた左手を即座に解除し、犬っ娘少女の顔面に力を抜いたアイアンクローをして差し上げた。
「えっ、えっ!、なにっ、食べちゃダメだった!?」
「それは別に良い。けど、その席が空いていると本気で思っているのか?」
確かにそこには誰も据わって居ないが、誰かに座られると直ぐ後ろに居るククの顔が正面の皆から隠れてしまうのだ。
俺は手を離してカーチェに後ろを見るように促すと、カーチェとククが眼を合わせた。
「あああ、ごめんなさい!? あたしこういうところ全然気が利かなくて!?」
「いえ、気にしてませんので」
慌てて席を横にずらして平謝りのカーチェに、笑顔で大人の対応をみせるクク。
赤面しながらひたすら頭を下げまくる様子をみると、ガサツではあるが悪い子ではなさそうだ。
でもファントムシーフって、シーフの上位職だよな?
そんなガサツさでシーフ職が務まるのか?
そしてククは言葉通りに全く気にしておらず、俺が注文した青りんごジュースをちびちびと堪能し、顔をほころばせている。
「俺も咄嗟にあんなことしてすまんな」
「あたしもごめんね、ははは……」
カーチェがククの前を開けて座り直し、他の二人も並んで座る。
俺はトングを使ってフルーツを小皿に分け、彼女達の前に置いてあげる。
「んで、君らはここで待ち合わせ?」
昨日の今日でもう仕事とは頑張るなぁ。
なんて思いながら周囲を見回すが、他の合宿メンバーはまだ顔を出していなさそうだ。
「いや~、あいつらとはどうも馴染めなくて、同じようにあぶれた二人を誘ってPTを組む事にしたんだ。それで上級職に転職も出来たし、早速Lv上げでもしようと思ってここに来てみたら、あんた達が居たんでつい声をかけちゃったってわけ」
俺のアイアンクローを全く気にしていないカーチェが、あっけらかんと話してくれた。
あぁ、合宿の初日でPT分けをした際にモーディーンさんが言ってた「PTに馴染めない人が~」的なアレか。
俺達第三班は個性的ではあったが、レスティーの協調性とクサンテの恐怖支は――もとい、指導力があったので上手くまとまった。
だけど他の班では、あの短時間で仲間意識が芽生えるということは無かったようだ。
そういう意味でも俺達は恵まれていたのだと実感する。
初心者合宿の期間が短すぎるのが問題か?
でもカーチェ達もなんだかんだで3人PTを組むことになった訳だし性交とも言えるのか。
「でも女子3人って大変よねぇ~」
「そうなんだよ、やっぱり女3人ってのは不安なんだよな~。最近ライシーンも物騒になったし、人攫いとかも増ええてるって聞くしねっ」
レスティーの言葉に腕を組んで頷くカーチェ。
あー、ザァラッドさんと出会ったのもそんな状況だったなぁ。
……に”ゃあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!
忘却の彼方に捨て去りたい、あの黒歴史!!
思い出しただけでも身悶えしそうになり、心の中で叫びながらおじさんとの出会いを振り返っていると、レスティーが俺とカーチェを交互に見つつ、その割れた顎で指示を出してくる。
皆には先程、俺の冒険者ランクが4になり、8つのPTを1つのPTとして纏められる〈大規模PT作成〉が使えることを伝えておいた。
あの視線と顎は、彼女達をPTに勧誘しろと言うレスティーの合図である。
「もし良かったら俺達と組まない?」
「え、でもあんたら12人で丁度2PTでしょ?そこにあたし達が入っても旨味なんてないんじゃない?」
冒険者ランク3のスキルは2つのPTを1つに纏められる〈小規模PT作成〉で、カーチェは俺達の中にランク3が居ると踏んで言っているのであろう。
ちなみにランク2で上級職への転職許可がもらえるようだけど。
「いや、実は俺の冒険者ランクが4になってね、合宿の時の様に〈大規模PT作成〉が使えるんだよ」
そう言いながら冒険者カードを取り出しカーチェに見せた。
「すっご!? って、あんた称号持ちなんだ!?」
「称号のことは大きな声で言わない」
「あ、ごめん……」
「なので、もし3人が良ければ俺達は歓迎だ」
あわよくばこの中の誰かがユーベルトとくっついてくれれば、俺の心の平穏に一役買ってくれるであろう。
猫耳猫尻尾と、限りなくノーマルに近い美人過ぎる奥さんと言うのも、なかなかに厄介なモノである。
でもめちゃくちゃ愛してる。
「そうだねー、あたしは構わないけど二人はどう?」
「私は構わん」
「私は……」
左手をこっそりとまた恋人繋ぎに戻してから彼女達の反応を見ると、乗り気のカーチェとメリティエにどうしたらいいのか分らず困惑といった面持ちのセシル。
「ご覧の通り他のPTと比べても女子率が高いので悪い話じゃないと思うよ?」
カーチェの援護射撃にとセシルに言葉を投げかけてみる。
今居るだけでも6人中4人が俺の嫁なのは別に言う必要はないであろう。
「そぉれにぃ~、あなた達の様な美しいお嬢さんに無礼を働く輩が居ればはぁ~~、この私が成敗して見せますよ~おぉ~っ♪」
優雅な食事(無駄に長時間だった的な意味で)をしていたアーヴィンが、リュートを奏でながら相変わらずの美声で高らかに宣言して見せる。
しゃべるのは出っ歯の上に乗ってるさっき食べていた野菜を拭いてからにしたほうが良いと思うぞ。
それと冒険者ギルドの中なので歌うのもやめてくだしあおながいします。
あとユーベルト、かわいい女の子が増えたからって急にそわそわしない。
「カーチェさん達がそう言うのでしたら……」
オドオドしながらもセシルが了承したので話は纏まり、こうして俺達に新たな仲間が加わった。
「さっきカーチェが言ってたけど、レベル上げはしておきたいな」
「そうですね、上級職のスキルも早く習得しておきたいですし」
ユニスも俺の意見に賛同すると、周りを見回しても皆同様の様子だった。
「この辺りで手ごろな狩場と言えば迷宮だね」
「そうなるわよねぇ」
「なんたって5つもあるからねっ」
クサンテに頷くレスティーとカーチェ。
「そんなにあるのですか?」
「は、はい、ですが現在ライシーン第一迷宮が攻略拠点の村が壊滅しているので利用不可能となっていましゅ!」
ククの問いにフィローラが第一迷宮の選択肢がない事を教えてくれるも、最後噛んでしまい俯いてしまった。
だがそれが余計に可愛く隣のリシアが彼女の頭を撫でている。
「ならそれ以外の4つか」
「第2~4迷宮はかなり攻略が進んでおり、第5は最近見つかり攻略は進んでいませんが、ゴブリンが大量に湧いているそうです」
迷宮など攻略すればなんでも良いと思うのだが、俺に向けてのユニスの状況説明に何か違和感があった。
普通逆じゃないのか?
攻略が進んでないのにゴブリンが湧いてるから余計に面倒って言い方ならまだわかる。
だが、なぜ攻略が進んでいないことが良いみたいな認識なんだ?
この世界の迷宮と言う物を理解していないので問い返してみた。
「すまん、迷宮について何もしらないから教えて欲しいんだが、攻略が進んでいる状態と進んでいない状態ではどういった差があるんだ?」
「私も知りたいです」
俺に倣ってリシアも手を上げてみせた。
普段こういう場面であまり発言をしない彼女にしては珍しい。
もしかして俺一人が知らないせいで恥をかかせないよう気を使ってくれたのかもしれない。
やだ超優しい結婚して!
ってもう既に結婚してたわ!?
「トシオちゃんには迷宮そのものがどういうものかを一から説明した方がいいかしら?」
「頼むよ」
レスティーにお願いして説明してもらった。
1.迷宮は最低でも五十階層以上ある。
2.迷宮には各階層毎に〈階層ボス〉と呼ばれる魔物が居る。
3.そのボスを倒すと迷宮の階層を攻略したことになる。
4.次の階層が攻略されないとその内ボスが復活する。
5.階層ボスはレアアイテムや経験値の入手量が豊富で階層が低いほど弱い為、低レベルでも倒しやすいボスがいる未攻略なダンジョンの方が良い。
6.迷宮では階層と同じレベルのモンスターが出てくることが多い(1階層ではLv1の魔物が出る)
ただし、人があまり踏み入っていない迷宮では、必ずしもそうとは限らない。
7.魔物を倒し尽くしても翌日には復活する。
復活した魔物は決まって階層と同じレベルで出現する。
8.階層ボスが倒されるとモンスターの補充が激減する。
とのこと。
なるほど、彼らはダンジョンの完全攻略を目的にしていないからそういう思考になるのか。
むしろ無意識にただ攻略したらいいと思っている俺の感覚の方がおかしいのだ。
この辺りはゲーム感覚で疑問にすら思ってなかった所なので気付いてから少し怖くなった。
他にもこういうところがあるかもだが、無自覚なことなんてその時になってからじゃないと気付かない物なのでどうしようもない。
「ん~、じゃぁゴブリン討伐のついでに行ってみるか?」
軽く言ってはいるけどゴブリンだからと舐めている訳ではない。
前衛が居てくれたら苦もなく俺の無詠唱ファイヤーボール辺りで瞬殺出来るという自信と、新たに出現したボーナススキルの〈サーチエネミー〉による危機感知力の向上で、不意打ちされる危険がかなり薄いと踏んだからだ。
「良んじゃなぁい?」
「あたしも賛成だね」
「あても行きたい!」
「私もだ」
「私もです」
「あたしもあたしもー!」
「わ、私も賛しぇいでふ! ぁぅ~……」
「僕もいいよ~」
「ふっ、どうやら更に磨きのかかった私の魔法の演奏をお披露目する時が来たようですね~♪」
各々がやる気を見せる中、セシルは不安気な表情で俯いていた。
彼女はただ内気なだけなのか、消極的なのか判断できない。
ククみたいな例もあるし、今は様子を見るしかないか。
「行くにしても準備が必要だな」
この前買った周辺地図を収納袋様から取り出しテーブルの上に開くと、第五迷宮の場所を探す。
確か森の中だったような……。
「あった、そうそう、結構遠いんだよな」
「此処からよりも首都からの方が近いくらいですので」
俺の独り言にユニスが頷く。
合宿で行ったデクシ村の倍はある第一迷宮近くのタンザス村の更に倍位か。
タンザスまで徒歩で丸々2日だから8日はかかるのか。
「あ、あの、迷宮までの案内人と竜車を借りるのが良いと思います!」
噛まずにフィローラが提案してくれた。
この子は積極性がある上にちゃんとした進言をしてくれるので非常にありがたい。
「そうだな。どこで案内人と竜車の手配をやればいいかわかる?」
「案内人も竜車も冒険者ギルドのカウンターで手配れれきま……手配れきまま……」
「冒険者ギルドで頼めるのね。ありがとう。フィローラが色々と教えてくれるから助かるよ」
笑顔で礼を言うとフィローラが照れ笑いを浮かべた。
その笑顔も可愛いなぁと思っていたら、リシアが彼女の癖のある金髪を撫で始めた。
俺も撫でたい!
「じゃぁレスティー、案内人と竜車の手配を頼む」
「お姉さんに任せなさい♪」
「では私が皆の食料の調達をしてきましょう」
俺の指示にレスティーがウインクで返し、ユニスも率先して協力を申し出る。
「わかった、任せるよ。あと必要なのって何?」
「テントなんかのキャンプ用品と外套とたいまつとかだね。キャンプ用品とたいまつはあたしが用意しよう」
「じゃぁそれはクサンテに頼む。出発はどれくらいが良い?」
「明日でも良いんじゃない?」
俺の問いにカーチェがそう言うと、その場にいた殆どの者達が頷いた。
「竜車の都合が空いてるかちょっと確認してくる」
そう言って席を立ったレスティーが、カウンターからOKのサインを送って来たので親指を立てて合図を送り返す俺と鼻息を荒くしているメリティエ。
この子はやる気満々だな
一度解散してから準備が整い次第俺の家の納屋に集合となった。
外套は冒険者ギルドで売っているとの事なので、俺とリシア達の分を購入し、冒険者ギルドの委託掲示板を確認。
良さそうなアイテムを物色する。
対物理効果ゴーレムカードが三万三千カパーより安いのが見当たらないか。
値上がりさせたくないけど必要なんだよなぁ…。
3枚出ていたので2枚購入決定。
対魔法効果のミスリルゴーレムカードが2枚も補充されているが7万を下回らない。
これは1枚だけ購入。
攻撃力強化のブレードマンティスカードが4枚も出ていたので2枚購入。
2枚重ね系の2枚目の代わりが務まるマジックミラーカードがまた個人で纏まった枚数が出ているが、これはどういうことなんだ?
しかも値段が変わっていないので大量に湧いてる場所がどこかにあるのだろうか?
「マジックミラーカードってそんなに簡単に手に入るものなのか?」
隣に居たレスティーに聞いてみると、驚くことにこれはこの国の首都にある魔術師ギルドで製造している人工のモンスターカードなのだと教えてくれた。
すげーな魔術師ギルド……。
「ト、トシオさんはカードをいっぱい買われるみたいですけど、失敗したらその、あの――」
「あぁ、大丈夫、失敗したら消えるのはわかってるから」
フィローラにそう答えると、彼女は周りにリシア達とレスティー以外の人が居ない事を確認してから小声で質問してきた。
「あの、もしかしてトシオさんって、勇者様なのでしゅか……?」
「ん? 違うよ?」
うん、事実違うので普通にそう応える。
たぶん【勇者】なんて称号をつけてコソコソやってたら驚いて反応に困ったかもだが、そんなことにはならなかったので自然体でそう応えることができた。
てかこの世界には勇者も居るのか。
「あら違ったのん? 私もてっきりそうだと思ってたのに~」
フィローラに続き、レスティーまでそう当たりを付けていた。
「え、なに、俺と勇者ってそんなに共通点があるの?」
「その、あの……」
「かなりありますよ?」
フィローラが良い淀んでいると、リシアが自信満々に頷いた。
え、そんなに似てますのん?
「まず黒髪黒眼でしょ? 物を知らないことが多いでしょ? 女の子をいっぱいはべらせているでしょ? 近接職なのに魔法が使えるでしょ? しかも無詠唱で魔法を使ってるでしょ? カードを迷いなく買ってるでしょ?」
共通点らしき箇所を指を折りながら上げていくレスティー。
それはもう限りなく黒ですやん……。
「もし良ければ御歳を聞いてもいいでふか?」
「24だけど?」
「まさかとは思ってたけど、私より年上じゃないの……」
「私より少し上くらいだと思ってました……」
二人の中で確信に変わった瞬間を見てしまった。
15歳のフィローラの少し上って、他の人達からは幾つに見られてたんだよ。
あとそれらの外見的特徴から、勇者って異世界人って事になるな。
「私一生トシオちゃんについて行くわん♪」
「あの、私もがんばりましゅでしゅ……!」
「フィローラはもうこのまま嫁に来て欲しいくらいだけど、レスティーは勘弁しろ。わりとマジで」
「え、あ、え、えぇぇぇ…!?」
「あぁん、いけず~! でもそういうところもス・テ・キ♪」
抱きついてこようとしたレスティーに、本日二度目のアイアンクローを手加減抜きでぶちかました。
しかし、もともとそれほど強くも無い握力では、レスティーを止めるのが精いっぱいだった。
「トシオ様。女性は兎も角男性に走るのだけは絶対に許しませんのでお忘れなく」
それを見ていたリシアが、すごいプレッシャーを放ちながらにこやかにそう宣言する。
「これが喜んで受け入れてるように見えるのか?」
「いやーん、この締め付けもたまらな痛いわー! すごく痛いっ!」
心の中でノービスバッシュを唱えたとたん、レスティーから本気の悲鳴が上がったので離す。
「レスティー、ホントそういうのはやめてくれ。リシアに見捨てられたら俺の心が死ぬ」
「いやねぇ、冗談じゃないのよん」
俺の指の跡を顔につけてもまだ余裕でウィンクしてくるレスティーの、なぞの強さに苦笑いしか出てこない。
こいつには誰かをあてがわないと、俺の身が危険で危ないので光の速さで何とかしたい。
しかしアレだな、知識のある人間に見抜かれるくらいには共通点が多いことから、勇者って俺達以外にもこの世界にとっての異世界人は過去に何度か呼ばれているのかもしれない。
その辺りもあとで聞いてみるか。
カードを購入後、家への帰路の途中でフィローラ達に聞いてみたところ、数十年から百年の周期で呼び出されているらしく、そのつど魔族との大規模な戦争に発展しているとか。
異世界人を戦争の道具として呼んでる節があるのは気のせいか?
これからは隠蔽工作も視野に入れなければならないな。
ラノベやアニメの異世界モノで、主人公がコソコソと活躍する話を思い出すと、あながち間違ってはいないと思えてきた。
追加注文のフルーツをみんなで摘まみながら、次もこのメンバーで仕事をしようと相談をしていた俺達に、後ろから明るく声がかけられる。
声をかけてきたのは黄緑髪の活発そうな少女だった。
彼女は確か……初心者強化合宿で見たような気がするな。
後ろにも同じく見覚えのある美女と美幼女が立っていた。
が、美女の方は俺と視線が合うなり黄緑髪少女の後ろに隠れてしまった。
俺何もしてないんですけど……。
カーチェ
獣人 女 16歳
ファントムシーフLv1
「挨拶がまだの奴も居るな。あたしはカーチェ、ジョブはファントムシーフ、合宿じゃ一班の第2PTに居たんだ。よろしくな!」
黄色かかった緑色の髪にそれと同色の眼の少女が、声を張って挨拶した。
頭にピンと立てた犬耳と短いがふさふさの毛をした尻尾が左右に揺れ、起伏の少ない痩せ型の体型と明るい表情から、スポーツ美少女と言った見た目である。
セシル
エルフ 女 27歳
エンチャンターLv1
「セ、セシルと申します……。ジョブはエンチャンターです……。二班に居ました……」
優しいきらめきを放つ長い金髪に緑の瞳の大人しそうな美女が、カーチェの後ろに隠れたまま、オドオドとした態度とか細い声で頭を下げた。
ゆったりとしたやや厚みのあるローブを着ているので、これから夏本番なので大変なことになりそうだ。
そしてそのローブを以てしても、大きく膨らんだ胸を隠しきれはしなかった。
パッと見だけならリシア以上ローザ未満といったところか?
一度でいいから触ってみたい。
だが、ロレツが回らず言葉を噛み、それが原因で声が小さくなってしまうフィローラや、単純に声を張り上げるのを避けている節のあるミネルバと違い、気が小さく引っ込み思案な印象を受ける。
メリティエ
ドワーフ 女 16歳
モンクLv1
「名前はメリティエ、ジョブはモンクだ」
黒髪黒瞳のロングストレートの美幼女が、淡々とした言葉遣いで簡潔に述べ一礼した。
短くとがった耳が髪からチラチラ覗いていること以外、顔立ちが和風美幼女だ。
モンクはプリーストからの派生上級職で近接攻撃職だったかな。
3人が名乗りを終えると、カーチェが俺の右隣の椅子に座り「一つ頂戴ね」と果物の盛られた皿に手を伸ばした。
リシアとせっかく恋人繋ぎをしていた左手を即座に解除し、犬っ娘少女の顔面に力を抜いたアイアンクローをして差し上げた。
「えっ、えっ!、なにっ、食べちゃダメだった!?」
「それは別に良い。けど、その席が空いていると本気で思っているのか?」
確かにそこには誰も据わって居ないが、誰かに座られると直ぐ後ろに居るククの顔が正面の皆から隠れてしまうのだ。
俺は手を離してカーチェに後ろを見るように促すと、カーチェとククが眼を合わせた。
「あああ、ごめんなさい!? あたしこういうところ全然気が利かなくて!?」
「いえ、気にしてませんので」
慌てて席を横にずらして平謝りのカーチェに、笑顔で大人の対応をみせるクク。
赤面しながらひたすら頭を下げまくる様子をみると、ガサツではあるが悪い子ではなさそうだ。
でもファントムシーフって、シーフの上位職だよな?
そんなガサツさでシーフ職が務まるのか?
そしてククは言葉通りに全く気にしておらず、俺が注文した青りんごジュースをちびちびと堪能し、顔をほころばせている。
「俺も咄嗟にあんなことしてすまんな」
「あたしもごめんね、ははは……」
カーチェがククの前を開けて座り直し、他の二人も並んで座る。
俺はトングを使ってフルーツを小皿に分け、彼女達の前に置いてあげる。
「んで、君らはここで待ち合わせ?」
昨日の今日でもう仕事とは頑張るなぁ。
なんて思いながら周囲を見回すが、他の合宿メンバーはまだ顔を出していなさそうだ。
「いや~、あいつらとはどうも馴染めなくて、同じようにあぶれた二人を誘ってPTを組む事にしたんだ。それで上級職に転職も出来たし、早速Lv上げでもしようと思ってここに来てみたら、あんた達が居たんでつい声をかけちゃったってわけ」
俺のアイアンクローを全く気にしていないカーチェが、あっけらかんと話してくれた。
あぁ、合宿の初日でPT分けをした際にモーディーンさんが言ってた「PTに馴染めない人が~」的なアレか。
俺達第三班は個性的ではあったが、レスティーの協調性とクサンテの恐怖支は――もとい、指導力があったので上手くまとまった。
だけど他の班では、あの短時間で仲間意識が芽生えるということは無かったようだ。
そういう意味でも俺達は恵まれていたのだと実感する。
初心者合宿の期間が短すぎるのが問題か?
でもカーチェ達もなんだかんだで3人PTを組むことになった訳だし性交とも言えるのか。
「でも女子3人って大変よねぇ~」
「そうなんだよ、やっぱり女3人ってのは不安なんだよな~。最近ライシーンも物騒になったし、人攫いとかも増ええてるって聞くしねっ」
レスティーの言葉に腕を組んで頷くカーチェ。
あー、ザァラッドさんと出会ったのもそんな状況だったなぁ。
……に”ゃあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!
忘却の彼方に捨て去りたい、あの黒歴史!!
思い出しただけでも身悶えしそうになり、心の中で叫びながらおじさんとの出会いを振り返っていると、レスティーが俺とカーチェを交互に見つつ、その割れた顎で指示を出してくる。
皆には先程、俺の冒険者ランクが4になり、8つのPTを1つのPTとして纏められる〈大規模PT作成〉が使えることを伝えておいた。
あの視線と顎は、彼女達をPTに勧誘しろと言うレスティーの合図である。
「もし良かったら俺達と組まない?」
「え、でもあんたら12人で丁度2PTでしょ?そこにあたし達が入っても旨味なんてないんじゃない?」
冒険者ランク3のスキルは2つのPTを1つに纏められる〈小規模PT作成〉で、カーチェは俺達の中にランク3が居ると踏んで言っているのであろう。
ちなみにランク2で上級職への転職許可がもらえるようだけど。
「いや、実は俺の冒険者ランクが4になってね、合宿の時の様に〈大規模PT作成〉が使えるんだよ」
そう言いながら冒険者カードを取り出しカーチェに見せた。
「すっご!? って、あんた称号持ちなんだ!?」
「称号のことは大きな声で言わない」
「あ、ごめん……」
「なので、もし3人が良ければ俺達は歓迎だ」
あわよくばこの中の誰かがユーベルトとくっついてくれれば、俺の心の平穏に一役買ってくれるであろう。
猫耳猫尻尾と、限りなくノーマルに近い美人過ぎる奥さんと言うのも、なかなかに厄介なモノである。
でもめちゃくちゃ愛してる。
「そうだねー、あたしは構わないけど二人はどう?」
「私は構わん」
「私は……」
左手をこっそりとまた恋人繋ぎに戻してから彼女達の反応を見ると、乗り気のカーチェとメリティエにどうしたらいいのか分らず困惑といった面持ちのセシル。
「ご覧の通り他のPTと比べても女子率が高いので悪い話じゃないと思うよ?」
カーチェの援護射撃にとセシルに言葉を投げかけてみる。
今居るだけでも6人中4人が俺の嫁なのは別に言う必要はないであろう。
「そぉれにぃ~、あなた達の様な美しいお嬢さんに無礼を働く輩が居ればはぁ~~、この私が成敗して見せますよ~おぉ~っ♪」
優雅な食事(無駄に長時間だった的な意味で)をしていたアーヴィンが、リュートを奏でながら相変わらずの美声で高らかに宣言して見せる。
しゃべるのは出っ歯の上に乗ってるさっき食べていた野菜を拭いてからにしたほうが良いと思うぞ。
それと冒険者ギルドの中なので歌うのもやめてくだしあおながいします。
あとユーベルト、かわいい女の子が増えたからって急にそわそわしない。
「カーチェさん達がそう言うのでしたら……」
オドオドしながらもセシルが了承したので話は纏まり、こうして俺達に新たな仲間が加わった。
「さっきカーチェが言ってたけど、レベル上げはしておきたいな」
「そうですね、上級職のスキルも早く習得しておきたいですし」
ユニスも俺の意見に賛同すると、周りを見回しても皆同様の様子だった。
「この辺りで手ごろな狩場と言えば迷宮だね」
「そうなるわよねぇ」
「なんたって5つもあるからねっ」
クサンテに頷くレスティーとカーチェ。
「そんなにあるのですか?」
「は、はい、ですが現在ライシーン第一迷宮が攻略拠点の村が壊滅しているので利用不可能となっていましゅ!」
ククの問いにフィローラが第一迷宮の選択肢がない事を教えてくれるも、最後噛んでしまい俯いてしまった。
だがそれが余計に可愛く隣のリシアが彼女の頭を撫でている。
「ならそれ以外の4つか」
「第2~4迷宮はかなり攻略が進んでおり、第5は最近見つかり攻略は進んでいませんが、ゴブリンが大量に湧いているそうです」
迷宮など攻略すればなんでも良いと思うのだが、俺に向けてのユニスの状況説明に何か違和感があった。
普通逆じゃないのか?
攻略が進んでないのにゴブリンが湧いてるから余計に面倒って言い方ならまだわかる。
だが、なぜ攻略が進んでいないことが良いみたいな認識なんだ?
この世界の迷宮と言う物を理解していないので問い返してみた。
「すまん、迷宮について何もしらないから教えて欲しいんだが、攻略が進んでいる状態と進んでいない状態ではどういった差があるんだ?」
「私も知りたいです」
俺に倣ってリシアも手を上げてみせた。
普段こういう場面であまり発言をしない彼女にしては珍しい。
もしかして俺一人が知らないせいで恥をかかせないよう気を使ってくれたのかもしれない。
やだ超優しい結婚して!
ってもう既に結婚してたわ!?
「トシオちゃんには迷宮そのものがどういうものかを一から説明した方がいいかしら?」
「頼むよ」
レスティーにお願いして説明してもらった。
1.迷宮は最低でも五十階層以上ある。
2.迷宮には各階層毎に〈階層ボス〉と呼ばれる魔物が居る。
3.そのボスを倒すと迷宮の階層を攻略したことになる。
4.次の階層が攻略されないとその内ボスが復活する。
5.階層ボスはレアアイテムや経験値の入手量が豊富で階層が低いほど弱い為、低レベルでも倒しやすいボスがいる未攻略なダンジョンの方が良い。
6.迷宮では階層と同じレベルのモンスターが出てくることが多い(1階層ではLv1の魔物が出る)
ただし、人があまり踏み入っていない迷宮では、必ずしもそうとは限らない。
7.魔物を倒し尽くしても翌日には復活する。
復活した魔物は決まって階層と同じレベルで出現する。
8.階層ボスが倒されるとモンスターの補充が激減する。
とのこと。
なるほど、彼らはダンジョンの完全攻略を目的にしていないからそういう思考になるのか。
むしろ無意識にただ攻略したらいいと思っている俺の感覚の方がおかしいのだ。
この辺りはゲーム感覚で疑問にすら思ってなかった所なので気付いてから少し怖くなった。
他にもこういうところがあるかもだが、無自覚なことなんてその時になってからじゃないと気付かない物なのでどうしようもない。
「ん~、じゃぁゴブリン討伐のついでに行ってみるか?」
軽く言ってはいるけどゴブリンだからと舐めている訳ではない。
前衛が居てくれたら苦もなく俺の無詠唱ファイヤーボール辺りで瞬殺出来るという自信と、新たに出現したボーナススキルの〈サーチエネミー〉による危機感知力の向上で、不意打ちされる危険がかなり薄いと踏んだからだ。
「良んじゃなぁい?」
「あたしも賛成だね」
「あても行きたい!」
「私もだ」
「私もです」
「あたしもあたしもー!」
「わ、私も賛しぇいでふ! ぁぅ~……」
「僕もいいよ~」
「ふっ、どうやら更に磨きのかかった私の魔法の演奏をお披露目する時が来たようですね~♪」
各々がやる気を見せる中、セシルは不安気な表情で俯いていた。
彼女はただ内気なだけなのか、消極的なのか判断できない。
ククみたいな例もあるし、今は様子を見るしかないか。
「行くにしても準備が必要だな」
この前買った周辺地図を収納袋様から取り出しテーブルの上に開くと、第五迷宮の場所を探す。
確か森の中だったような……。
「あった、そうそう、結構遠いんだよな」
「此処からよりも首都からの方が近いくらいですので」
俺の独り言にユニスが頷く。
合宿で行ったデクシ村の倍はある第一迷宮近くのタンザス村の更に倍位か。
タンザスまで徒歩で丸々2日だから8日はかかるのか。
「あ、あの、迷宮までの案内人と竜車を借りるのが良いと思います!」
噛まずにフィローラが提案してくれた。
この子は積極性がある上にちゃんとした進言をしてくれるので非常にありがたい。
「そうだな。どこで案内人と竜車の手配をやればいいかわかる?」
「案内人も竜車も冒険者ギルドのカウンターで手配れれきま……手配れきまま……」
「冒険者ギルドで頼めるのね。ありがとう。フィローラが色々と教えてくれるから助かるよ」
笑顔で礼を言うとフィローラが照れ笑いを浮かべた。
その笑顔も可愛いなぁと思っていたら、リシアが彼女の癖のある金髪を撫で始めた。
俺も撫でたい!
「じゃぁレスティー、案内人と竜車の手配を頼む」
「お姉さんに任せなさい♪」
「では私が皆の食料の調達をしてきましょう」
俺の指示にレスティーがウインクで返し、ユニスも率先して協力を申し出る。
「わかった、任せるよ。あと必要なのって何?」
「テントなんかのキャンプ用品と外套とたいまつとかだね。キャンプ用品とたいまつはあたしが用意しよう」
「じゃぁそれはクサンテに頼む。出発はどれくらいが良い?」
「明日でも良いんじゃない?」
俺の問いにカーチェがそう言うと、その場にいた殆どの者達が頷いた。
「竜車の都合が空いてるかちょっと確認してくる」
そう言って席を立ったレスティーが、カウンターからOKのサインを送って来たので親指を立てて合図を送り返す俺と鼻息を荒くしているメリティエ。
この子はやる気満々だな
一度解散してから準備が整い次第俺の家の納屋に集合となった。
外套は冒険者ギルドで売っているとの事なので、俺とリシア達の分を購入し、冒険者ギルドの委託掲示板を確認。
良さそうなアイテムを物色する。
対物理効果ゴーレムカードが三万三千カパーより安いのが見当たらないか。
値上がりさせたくないけど必要なんだよなぁ…。
3枚出ていたので2枚購入決定。
対魔法効果のミスリルゴーレムカードが2枚も補充されているが7万を下回らない。
これは1枚だけ購入。
攻撃力強化のブレードマンティスカードが4枚も出ていたので2枚購入。
2枚重ね系の2枚目の代わりが務まるマジックミラーカードがまた個人で纏まった枚数が出ているが、これはどういうことなんだ?
しかも値段が変わっていないので大量に湧いてる場所がどこかにあるのだろうか?
「マジックミラーカードってそんなに簡単に手に入るものなのか?」
隣に居たレスティーに聞いてみると、驚くことにこれはこの国の首都にある魔術師ギルドで製造している人工のモンスターカードなのだと教えてくれた。
すげーな魔術師ギルド……。
「ト、トシオさんはカードをいっぱい買われるみたいですけど、失敗したらその、あの――」
「あぁ、大丈夫、失敗したら消えるのはわかってるから」
フィローラにそう答えると、彼女は周りにリシア達とレスティー以外の人が居ない事を確認してから小声で質問してきた。
「あの、もしかしてトシオさんって、勇者様なのでしゅか……?」
「ん? 違うよ?」
うん、事実違うので普通にそう応える。
たぶん【勇者】なんて称号をつけてコソコソやってたら驚いて反応に困ったかもだが、そんなことにはならなかったので自然体でそう応えることができた。
てかこの世界には勇者も居るのか。
「あら違ったのん? 私もてっきりそうだと思ってたのに~」
フィローラに続き、レスティーまでそう当たりを付けていた。
「え、なに、俺と勇者ってそんなに共通点があるの?」
「その、あの……」
「かなりありますよ?」
フィローラが良い淀んでいると、リシアが自信満々に頷いた。
え、そんなに似てますのん?
「まず黒髪黒眼でしょ? 物を知らないことが多いでしょ? 女の子をいっぱいはべらせているでしょ? 近接職なのに魔法が使えるでしょ? しかも無詠唱で魔法を使ってるでしょ? カードを迷いなく買ってるでしょ?」
共通点らしき箇所を指を折りながら上げていくレスティー。
それはもう限りなく黒ですやん……。
「もし良ければ御歳を聞いてもいいでふか?」
「24だけど?」
「まさかとは思ってたけど、私より年上じゃないの……」
「私より少し上くらいだと思ってました……」
二人の中で確信に変わった瞬間を見てしまった。
15歳のフィローラの少し上って、他の人達からは幾つに見られてたんだよ。
あとそれらの外見的特徴から、勇者って異世界人って事になるな。
「私一生トシオちゃんについて行くわん♪」
「あの、私もがんばりましゅでしゅ……!」
「フィローラはもうこのまま嫁に来て欲しいくらいだけど、レスティーは勘弁しろ。わりとマジで」
「え、あ、え、えぇぇぇ…!?」
「あぁん、いけず~! でもそういうところもス・テ・キ♪」
抱きついてこようとしたレスティーに、本日二度目のアイアンクローを手加減抜きでぶちかました。
しかし、もともとそれほど強くも無い握力では、レスティーを止めるのが精いっぱいだった。
「トシオ様。女性は兎も角男性に走るのだけは絶対に許しませんのでお忘れなく」
それを見ていたリシアが、すごいプレッシャーを放ちながらにこやかにそう宣言する。
「これが喜んで受け入れてるように見えるのか?」
「いやーん、この締め付けもたまらな痛いわー! すごく痛いっ!」
心の中でノービスバッシュを唱えたとたん、レスティーから本気の悲鳴が上がったので離す。
「レスティー、ホントそういうのはやめてくれ。リシアに見捨てられたら俺の心が死ぬ」
「いやねぇ、冗談じゃないのよん」
俺の指の跡を顔につけてもまだ余裕でウィンクしてくるレスティーの、なぞの強さに苦笑いしか出てこない。
こいつには誰かをあてがわないと、俺の身が危険で危ないので光の速さで何とかしたい。
しかしアレだな、知識のある人間に見抜かれるくらいには共通点が多いことから、勇者って俺達以外にもこの世界にとっての異世界人は過去に何度か呼ばれているのかもしれない。
その辺りもあとで聞いてみるか。
カードを購入後、家への帰路の途中でフィローラ達に聞いてみたところ、数十年から百年の周期で呼び出されているらしく、そのつど魔族との大規模な戦争に発展しているとか。
異世界人を戦争の道具として呼んでる節があるのは気のせいか?
これからは隠蔽工作も視野に入れなければならないな。
ラノベやアニメの異世界モノで、主人公がコソコソと活躍する話を思い出すと、あながち間違ってはいないと思えてきた。
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