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58話 拗らせた思春期
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ファイヤーアローショーの後は休息日とし、皆に自由行動を言い渡した。
ルーナに至っては朝食が終わった時点で既に居なくなってるし。
朝食と言えば、モリーさんの視線がすごく痛かった……。
これも気のせいとして片付けようそうしよう。
ズワローグ討伐報酬を半分にしてこの場に居る6人で分け、残り半分をレスティー達とフィローラに渡しにいくことにしたのだが、何故かローザとミネルバ以外の全員がついてきた。
まずはフィローラの宿泊しているという宿へ行くと、一階の酒場兼食堂で食事を終えたばかりの彼女と再会できたためお金を渡す。
「これからレスティーのところにも行くからこれで失礼するよ」
「あの、私も着いて行ってもよろしいでしゅか?」
「別に構わないよ」
そこで別れるつもりだったのだが、こうしてフィローラまでついてくる事に。
女性ばかりをぞろぞろと連れているせいか、周囲の視線が刺さりまくり、心の中のHPがギュンギュン減っていくのを感じる。
もうやめて、とっくにトシオのライフはゼロよ!
どこかで聞いたようなフレーズを思い出しながら、レスティー達の居る宿に到着した。
この人数で入るのは流石にはばかられるので、一人で宿に入ると近くに見える階段へと向かった。
確か二階の1&2号室だったな。
階段を上がって真正面の部屋の番号を確認すると、聞いていた部屋の扉を勢い良く開き強襲した!
「オラァ、借金返しやがれ!」
「借金なんてしてねぇよ!?」
鍵のかかっていない部屋に突撃しての第一声に素早く反論してくるユーベルト。
中々の良い反応である。
部屋の中ではまだ布団の中で眠っているアレッシオも居た。
「ってトシオか……」
「ほら、あのクソワニを倒した時の追加ボーナスを持って来たぞ」
昨日の報酬の入った袋を取り出し、アーヴィンとレスティーのも含んだ4人分を渡してやる
「金渡しに来て借金の取立てとか、訳のわからんことをするな」
「要り用とあれば、毎日ニコニコ安心と信頼のトシオ金融が〈といち〉で貸して差し上げますぞっと」
「トイチ?」
「十日に一割の利息だ」
「高すぎだろ!?」
「ちぃっ、気付いたか」
こっちの人だから割り算掛け算くらいの暗算はできないと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
舐めてましたごめんなさい。
くだらない事を言いながらレスティー達にも渡しておくように頼むと、ユーベルトが隣の部屋に入る。
中から話声が聞こえてくると、直ぐに割れた顎に薄っすらひげを生やしたレスティーと共に、身なりをきっちりと整えているアーヴィンを連れてきた。
「おはよっトシオちゃぁ~ん」
「おはよう――って、俺の用はもう済んだんだけどなんで呼んで来た?」
「あぁん、トシオちゃんが来たら呼ぶようにって、私が皆に頼んでおいたのよん。ほらぁ、今後の事も話し合っておきたいじゃなぁい? 二人の愛の巣造りと・か・ね♪」
「愛の巣に関してはユーベルトとアーヴィンで話し合ってくれ」
だが、今後の活動を話し合うのは確かに良いかも知れないか。
「あぁ~ん、つれないんだからぁ」
「まぁこの後はクサンテのところに行く予定だし丁度良いか」
「じゃっ、今から支度するからちょっと待っててねん、うふん♪」
「化粧するなら置いていくからなー」
時間がかかりそうな気がしたので先手を打って釘を刺すと、ユーベルトとアーヴィンと寝ぼけ眼のアレッシオを連れて宿を出た。
「なんだ、ユニスやフィローラも居るのか」
「その、なんて言えば良いか……、今日からトシオ殿のところで世話になる事になって……」
「ふーん、そうなのか」
ユーベルトにしどろもどろな返事をするユニスだが、ユーベルトはそれがどういうことなのか全く気にしていない様子でそっけなく返した。
ユニス、理解されていないぞ。
「おまたせ~」
化粧こそしていないが、綺麗にヒゲを剃り落としたレスティーが降りてきた。
「あら、みんなも来てたのね、おはよ~」
「「「「おはようございます」」」」
「おはよー」
「じゃぁ行こうか」
俺の周りに居たリシア達と挨拶を交わすレスティーを促し、クサンテの宿へ向う。
到着すると、体温を上げるためなのか、宿の壁にもたれて日の光を浴びるリザードマン女性を発見した。
完全に日光浴してますやん……。
鬼教官殿はまんま爬虫類でありますな。
そのクサンテを回収後、この大人数で話し合いが出来る場所とレスティー達の食事を済ませるために、一同冒険者ギルドへと向かった。
「あのウェイトレス、俺に気でもあるのか?」
食事を終えたユーベルトがそう言ってきたので、ウェイトレスさんに目を向けると、この前俺がチップを渡した猫耳の巨乳美少女だった。
リシアの前で同じ轍を踏みたくないので、恋人繋ぎしているリシアの右手の甲をテーブルの下で優しくなでながら「そうなの?」と気の無い返事を返しておく。
背後では床に布を敷いて座っているトトが、俺の腰に抱きつき甘えている。
少し暑いが、「トシオ~、トシオ~」と甘えてくれること自体は素直に嬉しいので我慢する。
そのトトの右隣では寄り添うように座っているククが、胸部から上が正面から見えるよう座っている。
トトを挿んだ反対側にはユニスが同じように地面に座り、正面から見たらリシアの隣に座るフィローラの頭からユニスの首が生えた美少女トーテムポール状態になっている。
「さっきから俺を見ている様なのだが……」
「今度デートにでも誘ってみたら?」
俺は自己保身のためにユーベルトをけし掛ける。
そのウェイトレスの子なのだが、先程からこちらのテーブルをチラチラと目を向けているのは、これだけの大人数なので、次のオーダーがかかるのを待っているだけであろう。
しかも俺達の他に団体客居ないもん。
「い、いや、男から女に声をかけるのは流石に軽率すぎやしないか?」
ナンパするのが恥ずかしいのか、躊躇いがちにそう述べるユーベルト。
若干挙動不審である。
彼女くらい可愛くてこんな人の出入りの多い場所なら、男などいくらでも言い寄ってくるだろうことは容易に想像がつく。
にも拘らず、自分からは何のアピールもしないで、本気で向こうから寄って来てくれると思っているのか?
そもそも女性から男に声をかける方が軽薄だと思うんじゃないの?
「俺が言ってきてやってもいいけど、それくらい自分で言わないと男としてダメだと思われるぞ」
「そういうものなのか?」
「多分な。あと、一応言っておくけど、彼女がこっちを見ているのは確かだが、お前だけを見ている訳じゃないと思う。ちゃんと相手の意思を確認してからいろいろと行動すべきだぞ」
「私もそう思うわねぇ」
俺の何となくそうじゃないかな程度の意見に、レスティーが同意し、リシアやユニス、フィローラまで頷く。
この世界に来るまでDTだった俺でも分かる。
こいつもDTだと。
「こういう時はどうすればいい?!」
「そうだなぁ……お姉さーん!」
ユーベルトが食い気味に聞いてきたので、肌を脱ぐためウェイトレスに手を上げる。
「はい、ご注文ですか?」
「これを5つ、いや、6つ。あとこのフルーツの盛り合わせ(大)を2つ。みんなは追加注文ある?」
レスティー達に尋ねるも、皆食事を終えたばかりなので首を横に振った。
アーヴィンだけがフォークとナイフを使ってサラダを口に運び、ゆっくりしっかり咀嚼している。
「じゃぁ以上で」
「承りましたー」
「あ、そうそう、ところで君、こいつの事どう思う? 彼氏にしたいとかそういう意味で」
「なっ、トシオ!?」
ユーベルトが唐突な俺の講堂に口を挟もうと批難の声を上げてくるが、そんなのお構いなしで言葉を続ける。
「お世辞とか言わなくて大丈夫と言うか、そんなことを言うと勘違いするから正直に言ってくれると助かる」
「え……」
追加注文の後にそう尋ねた俺の質問に、言葉に詰まらせ困った表情を見せるウェイトレスさん。
それに対して最後まれ言われてしまったユーベルトが、恥ずかしさからか下にうつむくも、ちょいちょい視線を猫耳ウェイトレスさんに向けている。
「あの、ウチではそういうのやってないんで」
猫耳ウェイトレスが一瞬だけ面倒な客に絡まれたと言わんばかりの表情を出したが、直ぐに影響スマイルで上塗りし、言葉を濁す以前に質問そのものをバッサリと拒否した。
「ははっ、変な事聞いちゃってごめんね。これ代金、お釣りは全部君の懐で良いよ」
「まぁ、ありがとうございますお客様♪」
猫耳さんが少し多めのチップを前払いで受け取ると、途端に上機嫌な声でお辞儀をしてカウンターの方へと行ってしまった。
しかもお辞儀とともに態々胸元を強調する辺り、心得ていると言わざるを得ない。
と、ここで急にリシアと繋いでいた手に圧力が加わる。
女の子とは思えないほどのその握力に、思わずリシアの顔を覗き込む。相変わらずの美しい笑顔を湛えてはいるが、雰囲気がなんだか強張っている気がする。
なんぞ?
「ありゃ完全に脈無しだね」
「あらん、見事に逃げられちゃったわねん。でもお姉さんが慰めてあげるから落ち込まないでいいのよん?」
「お~友よ~、世の中の半分は女性さ~~。きっといつか君にも素晴らしい伴侶にめぐりあえるさ~~♪」
「うるさい黙れ!」
クサンテもバッサリとそう評し、レスティーとアーヴィンが慰めの言葉を贈るも、ユーベルトは二人に怒鳴りテーブルに突っ伏しふさぎ込んだ。
そんな思春期拗らせたユーベルトに、俺は〝強く生きろ〟と心の中でのみ励ます。
「あれはむしろ、トシオ殿の方が脈ありですね」
「は?」
ユニスの言葉に思わずまぬけな声が漏れる。
「あんなのリップサービスみたいなもんだろ、何をどう見たらそうなるんだ?」
「普通は多めのチップ程度であんなに胸元とか強調して見せたりなどしませぬ」
「そうよね~、それこそ勘違いしたお客とのトラブルの元よねん」
ユニスとレスティーが口々にそう言うと、ユーベルトが恨みがましい視線をこちらに向けて来た。
そしてリシアからの圧の理由にも気が付いたので、手の甲をなで続けて宥めにかかる。
俺悪くありませんやん。
結局自分の行動で喜んだのは、懐が潤った赤の他人だけという状況に、思わずため息が零れるのだった。
ルーナに至っては朝食が終わった時点で既に居なくなってるし。
朝食と言えば、モリーさんの視線がすごく痛かった……。
これも気のせいとして片付けようそうしよう。
ズワローグ討伐報酬を半分にしてこの場に居る6人で分け、残り半分をレスティー達とフィローラに渡しにいくことにしたのだが、何故かローザとミネルバ以外の全員がついてきた。
まずはフィローラの宿泊しているという宿へ行くと、一階の酒場兼食堂で食事を終えたばかりの彼女と再会できたためお金を渡す。
「これからレスティーのところにも行くからこれで失礼するよ」
「あの、私も着いて行ってもよろしいでしゅか?」
「別に構わないよ」
そこで別れるつもりだったのだが、こうしてフィローラまでついてくる事に。
女性ばかりをぞろぞろと連れているせいか、周囲の視線が刺さりまくり、心の中のHPがギュンギュン減っていくのを感じる。
もうやめて、とっくにトシオのライフはゼロよ!
どこかで聞いたようなフレーズを思い出しながら、レスティー達の居る宿に到着した。
この人数で入るのは流石にはばかられるので、一人で宿に入ると近くに見える階段へと向かった。
確か二階の1&2号室だったな。
階段を上がって真正面の部屋の番号を確認すると、聞いていた部屋の扉を勢い良く開き強襲した!
「オラァ、借金返しやがれ!」
「借金なんてしてねぇよ!?」
鍵のかかっていない部屋に突撃しての第一声に素早く反論してくるユーベルト。
中々の良い反応である。
部屋の中ではまだ布団の中で眠っているアレッシオも居た。
「ってトシオか……」
「ほら、あのクソワニを倒した時の追加ボーナスを持って来たぞ」
昨日の報酬の入った袋を取り出し、アーヴィンとレスティーのも含んだ4人分を渡してやる
「金渡しに来て借金の取立てとか、訳のわからんことをするな」
「要り用とあれば、毎日ニコニコ安心と信頼のトシオ金融が〈といち〉で貸して差し上げますぞっと」
「トイチ?」
「十日に一割の利息だ」
「高すぎだろ!?」
「ちぃっ、気付いたか」
こっちの人だから割り算掛け算くらいの暗算はできないと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
舐めてましたごめんなさい。
くだらない事を言いながらレスティー達にも渡しておくように頼むと、ユーベルトが隣の部屋に入る。
中から話声が聞こえてくると、直ぐに割れた顎に薄っすらひげを生やしたレスティーと共に、身なりをきっちりと整えているアーヴィンを連れてきた。
「おはよっトシオちゃぁ~ん」
「おはよう――って、俺の用はもう済んだんだけどなんで呼んで来た?」
「あぁん、トシオちゃんが来たら呼ぶようにって、私が皆に頼んでおいたのよん。ほらぁ、今後の事も話し合っておきたいじゃなぁい? 二人の愛の巣造りと・か・ね♪」
「愛の巣に関してはユーベルトとアーヴィンで話し合ってくれ」
だが、今後の活動を話し合うのは確かに良いかも知れないか。
「あぁ~ん、つれないんだからぁ」
「まぁこの後はクサンテのところに行く予定だし丁度良いか」
「じゃっ、今から支度するからちょっと待っててねん、うふん♪」
「化粧するなら置いていくからなー」
時間がかかりそうな気がしたので先手を打って釘を刺すと、ユーベルトとアーヴィンと寝ぼけ眼のアレッシオを連れて宿を出た。
「なんだ、ユニスやフィローラも居るのか」
「その、なんて言えば良いか……、今日からトシオ殿のところで世話になる事になって……」
「ふーん、そうなのか」
ユーベルトにしどろもどろな返事をするユニスだが、ユーベルトはそれがどういうことなのか全く気にしていない様子でそっけなく返した。
ユニス、理解されていないぞ。
「おまたせ~」
化粧こそしていないが、綺麗にヒゲを剃り落としたレスティーが降りてきた。
「あら、みんなも来てたのね、おはよ~」
「「「「おはようございます」」」」
「おはよー」
「じゃぁ行こうか」
俺の周りに居たリシア達と挨拶を交わすレスティーを促し、クサンテの宿へ向う。
到着すると、体温を上げるためなのか、宿の壁にもたれて日の光を浴びるリザードマン女性を発見した。
完全に日光浴してますやん……。
鬼教官殿はまんま爬虫類でありますな。
そのクサンテを回収後、この大人数で話し合いが出来る場所とレスティー達の食事を済ませるために、一同冒険者ギルドへと向かった。
「あのウェイトレス、俺に気でもあるのか?」
食事を終えたユーベルトがそう言ってきたので、ウェイトレスさんに目を向けると、この前俺がチップを渡した猫耳の巨乳美少女だった。
リシアの前で同じ轍を踏みたくないので、恋人繋ぎしているリシアの右手の甲をテーブルの下で優しくなでながら「そうなの?」と気の無い返事を返しておく。
背後では床に布を敷いて座っているトトが、俺の腰に抱きつき甘えている。
少し暑いが、「トシオ~、トシオ~」と甘えてくれること自体は素直に嬉しいので我慢する。
そのトトの右隣では寄り添うように座っているククが、胸部から上が正面から見えるよう座っている。
トトを挿んだ反対側にはユニスが同じように地面に座り、正面から見たらリシアの隣に座るフィローラの頭からユニスの首が生えた美少女トーテムポール状態になっている。
「さっきから俺を見ている様なのだが……」
「今度デートにでも誘ってみたら?」
俺は自己保身のためにユーベルトをけし掛ける。
そのウェイトレスの子なのだが、先程からこちらのテーブルをチラチラと目を向けているのは、これだけの大人数なので、次のオーダーがかかるのを待っているだけであろう。
しかも俺達の他に団体客居ないもん。
「い、いや、男から女に声をかけるのは流石に軽率すぎやしないか?」
ナンパするのが恥ずかしいのか、躊躇いがちにそう述べるユーベルト。
若干挙動不審である。
彼女くらい可愛くてこんな人の出入りの多い場所なら、男などいくらでも言い寄ってくるだろうことは容易に想像がつく。
にも拘らず、自分からは何のアピールもしないで、本気で向こうから寄って来てくれると思っているのか?
そもそも女性から男に声をかける方が軽薄だと思うんじゃないの?
「俺が言ってきてやってもいいけど、それくらい自分で言わないと男としてダメだと思われるぞ」
「そういうものなのか?」
「多分な。あと、一応言っておくけど、彼女がこっちを見ているのは確かだが、お前だけを見ている訳じゃないと思う。ちゃんと相手の意思を確認してからいろいろと行動すべきだぞ」
「私もそう思うわねぇ」
俺の何となくそうじゃないかな程度の意見に、レスティーが同意し、リシアやユニス、フィローラまで頷く。
この世界に来るまでDTだった俺でも分かる。
こいつもDTだと。
「こういう時はどうすればいい?!」
「そうだなぁ……お姉さーん!」
ユーベルトが食い気味に聞いてきたので、肌を脱ぐためウェイトレスに手を上げる。
「はい、ご注文ですか?」
「これを5つ、いや、6つ。あとこのフルーツの盛り合わせ(大)を2つ。みんなは追加注文ある?」
レスティー達に尋ねるも、皆食事を終えたばかりなので首を横に振った。
アーヴィンだけがフォークとナイフを使ってサラダを口に運び、ゆっくりしっかり咀嚼している。
「じゃぁ以上で」
「承りましたー」
「あ、そうそう、ところで君、こいつの事どう思う? 彼氏にしたいとかそういう意味で」
「なっ、トシオ!?」
ユーベルトが唐突な俺の講堂に口を挟もうと批難の声を上げてくるが、そんなのお構いなしで言葉を続ける。
「お世辞とか言わなくて大丈夫と言うか、そんなことを言うと勘違いするから正直に言ってくれると助かる」
「え……」
追加注文の後にそう尋ねた俺の質問に、言葉に詰まらせ困った表情を見せるウェイトレスさん。
それに対して最後まれ言われてしまったユーベルトが、恥ずかしさからか下にうつむくも、ちょいちょい視線を猫耳ウェイトレスさんに向けている。
「あの、ウチではそういうのやってないんで」
猫耳ウェイトレスが一瞬だけ面倒な客に絡まれたと言わんばかりの表情を出したが、直ぐに影響スマイルで上塗りし、言葉を濁す以前に質問そのものをバッサリと拒否した。
「ははっ、変な事聞いちゃってごめんね。これ代金、お釣りは全部君の懐で良いよ」
「まぁ、ありがとうございますお客様♪」
猫耳さんが少し多めのチップを前払いで受け取ると、途端に上機嫌な声でお辞儀をしてカウンターの方へと行ってしまった。
しかもお辞儀とともに態々胸元を強調する辺り、心得ていると言わざるを得ない。
と、ここで急にリシアと繋いでいた手に圧力が加わる。
女の子とは思えないほどのその握力に、思わずリシアの顔を覗き込む。相変わらずの美しい笑顔を湛えてはいるが、雰囲気がなんだか強張っている気がする。
なんぞ?
「ありゃ完全に脈無しだね」
「あらん、見事に逃げられちゃったわねん。でもお姉さんが慰めてあげるから落ち込まないでいいのよん?」
「お~友よ~、世の中の半分は女性さ~~。きっといつか君にも素晴らしい伴侶にめぐりあえるさ~~♪」
「うるさい黙れ!」
クサンテもバッサリとそう評し、レスティーとアーヴィンが慰めの言葉を贈るも、ユーベルトは二人に怒鳴りテーブルに突っ伏しふさぎ込んだ。
そんな思春期拗らせたユーベルトに、俺は〝強く生きろ〟と心の中でのみ励ます。
「あれはむしろ、トシオ殿の方が脈ありですね」
「は?」
ユニスの言葉に思わずまぬけな声が漏れる。
「あんなのリップサービスみたいなもんだろ、何をどう見たらそうなるんだ?」
「普通は多めのチップ程度であんなに胸元とか強調して見せたりなどしませぬ」
「そうよね~、それこそ勘違いしたお客とのトラブルの元よねん」
ユニスとレスティーが口々にそう言うと、ユーベルトが恨みがましい視線をこちらに向けて来た。
そしてリシアからの圧の理由にも気が付いたので、手の甲をなで続けて宥めにかかる。
俺悪くありませんやん。
結局自分の行動で喜んだのは、懐が潤った赤の他人だけという状況に、思わずため息が零れるのだった。
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