四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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52話 天をも貫く稲妻

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 紫色の熱波が通り過ぎた後は、見たくも無い光景が広がっていた。
 到達者と準到達者の4人全員が倒れ、後方に居た34人全てが地に伏して呻いていた。

 そして俺もモーディーンさんに抱えられる形で横になっていた。
 
 紫の閃光が視界を埋め尽くした瞬間のことは覚えている。
 前方にファイヤーボールを展開した直後、俺の前に剣を盾にしたザアラッドさんが立ちふさがり、モーディーンさんが俺を抱き抱えて閃光から身を挺して庇ってくれた。

 急ぎPTウィンドウで全PTのHPを確認すると、幸い死者は居ないものの、森に身を隠した仲間以外のHPバーが通常の緑ではなく、危険ラインの赤で表示されていた。

 ズン!

 絶望の足音が地面に響く。

「グヒヒっ」

 俺達を瀕死に追いやった張本人が、今度こそ勝ち誇った顔でにやけ笑いを口元に刻む。

 見ると化け物もかなり消耗しているようだが、それでも地虫の様にうごめく俺達を潰して回るのに問題は無いだろう。
 俺達の体にヒールの淡い光が灯っているが、リシアの全体回復を持ってしても、戦線を立て直す前には全員のミンチが完成している。

 しかしまだ希望はある。

 俺が奴を足止めできれば、時間を稼げさえすればなんとかなる。

 だが、奴はもう俺の攻撃力に脅威がない事を知っている。
 俺の様な羽虫を無視し、四人と後ろの皆を潰して回ればそれで終わる。
 回避専念だけで皆を守ることは不可能だ。

「ご主人様!」
「「「トシオ!」」」

 絶望を希望に変える作業に思考をフル回転させていると、森の方からククとトトにクサンテとユーベルトまでがやってきた。

 そして、ククを中心に、俺とズワローグとの間に立ち塞がった。

「なんで出てきた! さっさと逃げろ!」
「逃げろもなにも、あんたククテト達の主人なんだろ? 確か奴隷って、あんたが死んだらこの子達も死ぬんだから、逃げようがここで死のうが一緒じゃないのさ」

 クサンテの指摘に自分の頭の回らなさを思い知らされる。

「それにリシアさんに頼まれました。〝自分は傍に行けないからご主人様を頼みます〟って」

 純白の美獣が青い瞳に穏やかな光を浮かべ、微笑んで告げた。

「トシオが危ないのにあてだけ隠れてるなんてできないよー」

 灰色の愛獣がはにかんだ笑顔を見せてくれた。

「女三人が出て来ているのに、俺一人が森の中では格好がつかないだろ……」

 嫌々風を装いながらも出てきてくれたユーベルト。

「……そうだな。じゃぁ皆を守る為にも、もうひと頑張りするとしようか」

 ブレイブハートはとっくの昔に切れている。
 だが不思議と恐怖も思考の混乱も無かった。

 彼女達が傍に居る。
 リシアが自分を律して見守ってくれている。

 俺の命は彼女達の生死に直結している。
 だが彼女達の命に対する責任感という感覚が消えていた。
 その代わり、別の感情が生まれていることにも気が付く。

 彼女達との強い愛情と絆。 

 そして、まだ出会って1日しか経っていないが、命を預けてくれる仲間達への信頼だ。

 それが俺の心を支えてくれている。
 ならば前に踏み出す以外の道は無い。

「クク、そのまま正面を頼む。トト、この槍を使え。ユーベルト、そこに落ちている光る剣を拾って奴の後ろに回り込め。クサンテ、その辺に落ちている石でも何でも良いから奴の目に投げ続けろ。奴も手負いで疲弊しきっている。動きを良く見て対処すればなんとかなる」

 そう指示を出しながらステータスウィンドウを開いてステータスをリセット。
 全て魔力に割り振ってから残りを敏捷に振り込んだ。
 次にボーナススキルの〈敏捷ボーナス追加Lv10〉を外して〈魔力ボーナス追加Lv10〉を習得した。

 補助魔法はまだ生きている。

 その間に奴を全力で殺す!

「レスティー! アーヴィン! 作戦は継続だ! リシア! アレッシオ! 回復を頼む! リシア、クク、トト!愛してる!」

 大声で森の中に居る4人に指示を出すと、最後の言葉にその場に居たククとトトが照れを含んだ苦笑い、クサンテが大笑いしてそれぞれの持ち場についた。

 その和やかな空気で馬鹿にされたと思ったのか、奴の歩みが速くなり、俺達の目の前で足を止めた。

 流石に威圧感は変わらないのでククの様子を見ると、体に緊張はあるも怯えている様子はない。
 ブレイブハート無しで真っ向から対峙する。
 
「いやー、やっぱ怖ぇーなぁ」

 笑い飛ばすように冗談口調で言ってのけると、それを挑発と受け取ったズワローグが、大きく金棒を振り上げた。
 そこにクサンテの投石がワニの顔に当たり、目を閉じて動きを一瞬止めてから、渾身の一撃が振り下ろされた。
 その振り下ろしに入る直前、ドラゴンフライ戦でもやってのけた俺の〈初動潰し〉の無詠唱サンダーボールを奴の腕の軌道上に生み出し、雷球に触れた腕による攻撃速度が見た目にも減速。
 それをククが大盾で受け止め、動きが完全に止まったところをトトとユーベルト走り込む。

「んなー!」
「バッシュ!」

 ズワローグの右腕をトトの繰り出した槍が突き刺さり、赤黒い血が溢れる。
 ユーベルトの一撃は太くて短い尻尾を貫き苦痛を与える。

 サンダーストーム!

 俺が左腕を天にかざし本日二度目となる雷乱の三重奏に、ズワローグの体が大きくのけぞり煙が上がる。

〈魔力ボーナス追加Lv10〉の恩恵は伊達じゃないな。
 
 ダメージを受けた腕での再攻撃を嫌ったか、今度は左腕を振り上げ、ククを叩き潰そうとした化け物の顔にまたもクサンテの石つぶてが命中。
 目を閉じて僅かに動きを止めたところに連続発動した俺のサンダーボールが奴の左腕と頭部と腹部に着弾。
 そこに烈風が生まれると、赤黒い爬虫類の体が切り刻まれた。

「ちー!」

 俺達の上空では、人頭の猛禽が旋廻していた。
 ワニの口腔から湯だった血が噴出するも、それでも気力を振り絞って攻撃を敢行してきた。

「シールドバッシュ!」

 緩慢に振り下ろされる左腕にククの大盾が直撃し、バランスを崩したところにトトとユーベルトが魔法の輝きを放つ武器で刺し貫く。
 それでも諦めない巨獣の、背中に生えた枝状の翼が動きを見せるも、ファイヤーボールとサンダーボールを複数展開して先読みで潰してやる。

 巨体が前倒れになりかけるも踏みとどまると、次の瞬間大きく後ろへ飛び退き距離をとった。

「ゴオオオオオオオオオオオオ!!!」

 腹に響くほどの轟音の咆哮。

 またあの攻撃か!?

 だがしかし、俺の警戒は予想を違え、魔方陣は俺達の方にではなく奴のすぐ右隣に出現した。
 バチバチと音を発し、大きな次元の門が口を開くのを確認する。

 ……あいつ、もしかして逃げる気じゃないだろうな!?

 だがここまで来てそれは許さない!
 
 開いた空間の入り口にサンダーアローを連続発動して壁を作りながら、ククの脇を抜けユーベルトを通り過ぎ、奴の元へと走る。

 ふざけんなよテメェ!

「レア置いてけよ、ズワローグ!!」

 塞がれた入り口を金棒で粉砕し、そのまま顔を上げて空間に入ろうとした奴の巨体に、森の中と後方の第一第二班からの攻撃魔法が殺到する。
 俺は援護射撃で動きを止めたズワローグの足元に到着すると、丸見えの顎下に狙いを絞った。

 サンダァァァァアロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!!

 左腕を突き出しMPが尽きるまでサンダーアローを多連展開と同時に射出。
 次から次へ突き刺さる雷撃の矢が大きな顎下に集弾すると、天をも貫く程の稲妻の柱となってズワローグの頭部を吹き飛ばした!

 頭部を失ったその巨体がゆっくりと傾き、上半身だけがゲートの中に倒れる形で大きな音を立て地面に沈んだ。
 
「ふふっふー、ざまぁ、ざまあっ……」

 MP切れによる目眩と嘔吐感から盛大に地面に倒れ伏せると、視界の墨で巨体が粒子散乱を開始した。
 左端のシステムメッセージが、バグッたようにレベルアップのポップを大量に吐き出す。

 そして、粒子散乱中の上半身から煌く一振りの槍と、下半身からは肉の塊が出現した。

 来た!
 本当にレアっぽいものが出た!

 謎の補助魔法のお陰でMP酔いからすぐに回復し、喜び勇んでその槍を拾おうとゲートに脚を向けると、ズワローグの粒子散乱が終わったと同時に、ゲートの入り口も粒子となって弾けて消えてしまった。

「…………」

 俺の目の前にはズワローグが振るっていた一振りの巨大な金棒と、奴のドロップ品である肉の塊だけが残された。
 そこに舞い降りてきたミネルバが、巨大な肉に着陸すると、またも美しい幼女の顔で荒々しく肉を貪り始めた。

 えっと……。

 そんなシュールな光景を目の当たりにし、やるせない気持ちと共にチャットルームをオープン。

 ぴろん♪

《トシオがチャットルームに入室しました》

『ねこさん無事だったか!?』

 入室と同時にレンさんが心配そうに声をかけてきた。

『ちゃうねん……』
『……ん?』
『敵は倒してん。レアも出てん』
『お、おう、おめでとう……?』
『レア出てんけどなー? 敵が開いた異次元ゲートっぽいやつの中にレアが出てなー? 敵が死んだ瞬間にゲートが閉じてなー? ゲートごとレアが消えてもうてん……』
『……ぶっははははははははは!!』
『笑うなし! クソがっクソがあああっあはははははは!!』

 もう本当にショックすぎて、心の安定のためにもおいしいネタとして活用させていただきました。

『ははは……はぁ、まだやることがあるから落ちるね……』
『あぁ、また後でな。くくくっ』

《トシオがチャットルームを退席しました》

 レンさんに無事の報告をしたところで、近くに居たクク達が俺の傍に寄ってきた。

「トシオー!」
「ご主人様!」

 トトとククが抱きついてきたので、二人を抱きしめ交互に唇を合わせる。
 顔に当たる彼女達のふわもこの毛が気持ち良い。

「二人共ありがとね」
「トシオ! 今のなに? すごくかっこいい!」
「ご主人様が無事で良かったです」

 興奮気味で目を輝かすトトの頭を撫で、サファイア色の綺麗な瞳を涙で腫らしたククの頭を強く抱きしめ宥めてあげる。

「トシオ様!」

 森から駆け寄ってきたリシアが俺の正面に突撃してきたので、ククとトトを両サイドに逃して受け止めた。
 その目には大粒の涙が浮かんでいる。

「リシア、良くやってくれた。リシアが居なかったら二回は確実に死んでたよ」
「はい、これで私もトシオ様の命の恩人と言うことになりますので、私の言うことを聞いてもらいます!」
「うん、なにを聞けばいいのかな?」」
「これからもずっと、これまで以上にいっぱい愛してください!」

 そうおねだりして彼女は自分から顔を寄せ、くちづけをしてくれた。

 そんなのお安い御用である。

 甘く蕩ける長いキス。

 人目をはばかることなく、俺とリシアは唇を重ね続けた。
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